平和フォーラム・原水禁の韓国訪問報告
「反戦・反核・平和・東アジア国際会議」に参加し、韓国民衆運動と交流
East Asian Peace Conference Against War,Nuclear
Proliferation/MAY26〜27/Report
1.はじめに
平和フォーラムと原水禁は5月25日から27日の日程で韓国に訪問団を派遣し、「反戦・反核・平和・東アジア国際会議」に参加しました。また会議前後の日程を利用して、民衆運動・市民運動団体との交流を行ってきました。
今回の国際会議は、平和活動家のキム・スンゴクさん、社会進歩連帯、民主労働党ソウル支部などが中心となって呼びかけたものです。呼びかけ文によれば会議は、@東アジアの核拡散・軍事同盟強化・軍事基地拡大に反対し、反戦・反核運動の可能性を模索する、A反戦・反核・平和を基本理念とする社会運動の団結と連帯を訴える、B東アジア地域での国際連帯を推進する――の3つを目的にしています。
また社会進歩連帯は独立系インターネットメディアで、会議の意義を、「東北アジアで拡大している軍事競争のドミノを止めて、平和体制を構築する唯一の道は、東北アジア反戦平和運動の連帯の確立と、平和を念願する民衆の相互信頼の世界化によって支配階級が先導する憎悪と恐怖を終熄させること、新自由主義が引き起こす暴力に対抗して民衆間の連帯と交流を広げること」と述べています。
平和フォーラムと原水禁は、会議の趣旨に賛同し、訪問団を派遣しました。以下はその報告です。
(1)平和フォーラム・原水禁の参加者
●団長 藤本康成・平和フォーラム/原水禁副事務局長
○団員 住友 肇・北海道平和運動フォーラム代表(全国基地問題ネットワーク共同代表)
加藤 泉・神奈川平和運動センター事務局長
関 久 ・東京平和運動センター事務局長
前海満広・平和人権環境福岡県フォーラム事務局長
○事務局 井上年弘・原水禁事務局次長 八木隆次・平和フォーラム事務局員
(2)日程
●5月25日(金)
○出国
○社会進歩連帯の事務所訪問・交流と議論
●5月26日(土)
○「反戦・反核・平和・東アジア国際会議」(ソウル大学)
・開会総会
・第1会議 「東アジア核危機と反核平和運動」
・第2会議 「東アジアの軍国主義と反戦平和運動」
・歓迎レセプション
●5月27日(日)
・分科討論会(全体で7分科会が実施されました)
・閉会総会
○「平澤米軍基地拡張阻止と在韓米軍糾弾大会」(ソウル龍山米軍基地前)
●5月28日(土)
○民衆運動団体・市民運動団体訪問
・全教組 ・民衆労総 ・環境運動連合
○帰国
(3)国際会議の主な参加団体
●日本側
・原水禁 ・平和フォーラム
・AWC日本委員会 ・原水協 ・平和委員会
●韓国側
・民主労働党ソウル支部 ・民主労総環境委員会 ・民主化のための教授協議会
・社会進歩連帯 ・ソウル大学総学生会 ・エスペラント平和連帯
・平等社会に進む活動家連帯 ・平和統一市民連帯 ・韓国社会党
・非暴力平和の波 ・環境運動連合 ・AWC韓国委員会 ほか
●米国
・フレンドシップ奉仕団(ニューハンプシャー・ピースアクション)
2.「反戦・反核・平和 東アジア国際会議」
(1)開会総会 歓迎あいさつ
★全体会場となったソウル大学マルチメディア館
●キム・セジョンさん(民主化のための教授協議会)
アジアの平和構築は、アジア人民の共通の願いです。しかしそれは、苦しく険しい道です。各国の参加者が平和体制について語り合う会議は、韓国では初めての試みであり、第1歩です。最初から十分ではありませんが、自らが東アジア全体にどのような平和体制を作れるのか、そのための課題は何かを、一緒に考える機会にしましょう。ともに闘う道が開かれることを願います。
●チョ・ヘガンさん(平等社会に進む活動家連帯)
人類を破滅に追い込むのは戦争であり、その中心が核兵器です。この2つに対抗するために、東アジアの同志が一同に会したことは、非常にうれしいです。戦争は何ももたらしません。例え勝っても、重税が待っています。家族の生命も無くなります。戦争に反対しなければなりません。東アジア地域での反戦・平和の連帯は、他の地域よりも重要です。
東アジアを、「地域の火薬庫」から「私たちの場所」に変えていきましょう。そのために反核運動を進めましょう。
全ての核兵器を全世界から撤去するのは、非常に難しい道です。その実現のために、反核・反戦を越え、資本主義を越える社会を作りましょう。
●ハン・ソンニルさん(ソウル大学総学生会長)
東アジアは、核の危機に瀕しています。その危機を乗り越える手がかりを、今回の会議で発見したいです。日本の原爆の経験から、「核は全ての生命を無くす」ことがわかります。核戦争を阻止するのは、東アジアの民衆の連帯です。ソウル大学総学生も、反戦・反核運動の先頭にたってがんばります。
(2)第1会議 「東アジア核危機と反核平和運動」
第1会議では、社会進歩連帯のイム・ピルスさん、原水協の代表、米国の代表が発表を行い、その後に環境運動連合のイ・サンファンさん、非暴力平和の波のパク・ソンヨンさん、原水禁の井上が補強討論を行いました。また会場の参加者から約10人が各自の取り組み課題を紹介。原水禁・平和フォーラム側からは、加藤さんが原子力空母の横須賀母港化問題を、前海さんが反核平和行進と日韓連帯を報告しました。以下に、韓国の発言者の内容を要約して記載します。
●イム・ピルスさん(社会進歩連帯)
韓国の核開発を止めているものは、56年の韓米原子力協定、75年のNPT加盟、98年の非核化宣言です。これらがなくなれば、韓国も日本のようにウラン濃縮を行うことが可能になります。保守陣営は、核開発を原発開発の名目で隠そうとしています。韓国の保守陣営の中には現在の日本を、「韓国の核の未来の姿」という人達もいます。
「核戦争の危機は去った」という論評がありますが、根拠はあるのでしょうか。世界の周辺地域では紛争が多発し、中心地域では核兵器への依存が高まっています。NPT体制は、大国が核兵器を独占するための道具になっています。中国の核開発と、それを上回る米国の核開発が行われています。私たちは、核軍拡の競争に反対します。
80年代以降、韓国の民衆運動は米国の核戦争政策を批判してきました。しかし北朝鮮の核保有に関しては、最小限の抑止力だとして擁護しています。この論拠にも一理あります。北朝鮮と日米の国力の差は、非常に大きい。しかし核兵器には、「正義」と「不正義」の差はありません。核保有が戦争を防ぐことはないのです。いまこそ、反戦・反核運動を推進しなければなりません。
6者協議の合意では、誰も将来の安全を保障してはいません。米ロの国家政策に任せておくわけにはいきません。民衆の力で、東アジアの平和の道を開くのです。そのためには、在韓米軍基地の拡張や、ミサイル防衛を容認するノ・ムヒョン政権の軍事政策に反対しなければなりません。在韓米軍基地の撤去こそが、韓半島の平和への道なのです。また、北朝鮮の核兵器は統一韓半島の核兵器であり東アジアにおける発言権の強化につながる、という見解を容認することはできません。核兵器は、絶対的な破壊をもたらすのです。
●イ・サンファンさん(環境運動連合)
六ヶ所の再処理施設による核の軍事転用と商業利用に反対して、日本の皆さんと連帯しています。日本は北朝鮮の核兵器に「脅威」を感じています。しかし韓国では、日本のプルトニウム政策に「脅威」を感じているのです。韓国には「核主権」という言葉があります。70年代には、核兵器開発や核実験も行っていました。北朝鮮の核兵器と、日本のプルトニウムは、韓国での核兵器保有の声につながるのです。北朝鮮の核保有→日本のプルトニウム→韓国の核保有・・・。東北アジアの核のドミノをとめなければなりません。韓半島・東北アジアの非核化を実現するためには、相互の努力が必要です。東北アジアの非核化と、その前提となる日本の非核3原則の維持を実現しましょう。
●パク・ソンヨンさん(非暴力平和の波)
昨日、韓国海軍はイージス艦の配備を実現しました。これには1兆ウォンかかっています。また国防計画2020を実行するためにも、1兆ウォン必要です。北朝鮮は東海にミサイルを発射しました。在韓米軍基地からは、汚染物質が垂れ流されています。米韓は合同軍事演習チーム・スピリットや作戦計画5027など、先制核攻撃を準備しています。こうした中で、東北アジアの核問題に対して、誰が責任を負うべきなのでしょうか。
2つのことが指摘できます。1つは、市民社会の役割です。東北アジアの平和体制の確立は、市民社会の義務です。主体を明らかにし、連帯を通して、非暴力・平和運動、平和の力を強めなければなりません。2つめに、政治的・軍事的立場からだけではなく、日常生活の場から実行可能な平和のプログラムを、私たちが作ることです。
●韓国参加者から
日本と韓国は、近くて遠い国、遠くて近い国です。核兵器に反対するためには、自分たちが地球村の村民になって考えなければなりません。
現在の日本の問題は、保守・右翼の覇権主義です。過去の歴史も忘れています。そのために韓国では、反日感情が高まっています。韓国は、分断国家です。その責任は日本にもあります。日米の覇権主義が、いまでも韓国を分断しているのです。東北アジアの平和のためには、日韓が協力しなくてはいけません。
北朝鮮はなぜ、核兵器を保有したのでしょうか。それは米国の覇権主義が原因です。経済封鎖がなければ、核保有は無かったかもしれません。韓半島の平和と、戦争をおこさせないために、ともにがんばりましょう。
●韓国参加者(被爆者)から
韓国では、米国による日本への原爆投下は「正当なこと」と考えられています。原爆によって戦争は終わり、韓国は独立したのです。韓国では被爆者に対する同情はありません。「犠牲は甘受されるべき」と、考えられています。韓国の被爆者と日本の被爆者も、意識が異なります。また韓国の市民運動は総論のみ、日本の市民運動は各論のみです。韓国人は心の中で、原爆投下があったから独立できたと考えています。胸を開いて話し合わなければ、日韓の市民連帯もうまくいきません。
(3)第2会議 「東アジアの軍国主義と反戦平和運動」
第2会議では、ピースメーカーのキム・スンゴクさん、原水禁の藤本が発表を行い、キリスト教社会問題研究院のゴ・サンギュさん、平等社会に進む活動家連帯のホン・ソンジュさん、韓国社会党のグム・ミンさん、原水協代表が補強発言を行いました。参加者からの発言では、住友さんが日本の政治情勢について、八木が米軍再編の問題点について解説しました。以下に、韓国の発言者の内容を要約して記載します。
●キム・スンゴクさん(ピースメーカー)
なぜ、東北アジアには共同体が構築されないのでしょうか。日本の責任もあります。米国軍産複合体の圧力もあります。日米同盟・韓米同盟の問題もあります。冷戦中は日米と中ソが対立し、韓半島も南北で対立していました。各国の民族主義と軍事主義が、入り混じっていたのです。そのため、欧州のような共同体を作ることができませんでした。
いま北朝鮮は、米国同様の核武装民族主義にあります。これは悪性の民族主義であり、より悪質な国家主義です。東アジア各国の国家主義による支配、それを断ち切るために平和運動が必要なのです。戦争のネットワークを断ち切る運動が必要なのです。
米国は新自由主義を進めています。新自由主義は、金融だけの問題ではありません。その背景には米国の軍事主義があります。韓国で、また東アジア各地で米軍再編が行われます。東南アジアではASEANがARFを進めています。米国が世界中で進める軍事主義に反対しなければなりません。
●ゴ・サンギュさん(キリスト教社会問題研究院)
北朝鮮の崩壊は、誰の手によって行われるのでしょうか。それは、平和に結びつくのでしょうか。かつて社会主義国が無くなったように、歓迎するべきことなのでしょうか。南北間では、ケサン工業団地の発展協力が進んでいます。これは、北朝鮮が韓国の自由主義経済に編入されることです。経済交流の推進は、平和の象徴ではありません。
●参加者から
北朝鮮の核問題を、日本は利用し戦争へ向かおうとしている。侵略戦争について中国や韓国に謝罪しないのに、北朝鮮の核問題や拉致問題を取り上げることは、国際的には理解されないだろう。
いま6者協議は良い方向に進展しているが、日本では憲法9条改悪に利用されている。米国が北朝鮮を抑圧した結果、北朝鮮は核を保有した。米国が安全を保障すれば、核は廃棄すると宣言しています。北朝鮮の核保有は容認できませんが、米国の側に原因があることも重要です。
●参加者から
韓国社会の中で、多くの市民が反戦運動に参加する場を切り開いてきました。市民の反戦運動への参加は、03年のイラク戦争反対、平澤(ピョンテク)の米軍基地拡張反対以降も進んでいます。いま政府は、韓国社会と民衆と平和を破壊しようとしています。平澤では多くの市民が逮捕され、罰金を抱えています。しかし平澤の闘いは続いています。ここ数年の運動が、こうした地平を切り開いたのです。これからの運動は、日韓の歴史を踏まえること、若者の不満を取り込むこと、北朝鮮を孤立化させないことが必要です。北朝鮮の側から、平和の問題を考えることも必要でしょう。
●参加者から
韓国はベトナム戦争に参戦しました。イラク戦争にも参戦しました。韓国軍は、米国の傭兵です。私はキリスト教徒です。キリスト教は平和を求めます。今、平和は武力で作られよとしています。しかし米国はベトナムで負けました。イラクでも負けています。戦争は人類によって悲惨です。日米同盟は、日本の覇権主義を拡大するものであり、日本の平和運動は、政治家への圧力を強めるべきです。
北と南は同じ民族です。朝鮮戦争で分断されました。米国とは国交もありません。その南北を比較して、優劣をつけるのは、不公正・不公平です。
(4)分科討論会
会議2日目は、7つの分科会に分かれての議論を行いました。加藤さん・関さん・八木は、「東アジア反基地運動の現状と課題」に、井上は「東北アジアの非核化と六ヶ所村の脅威」に、前海さん・松隈さん・藤本は、「朝鮮半島平和体制と反戦平和運動の課題」に出席しました。
★六ヶ所と再処理に関する分科討論会では、原水禁の井上が講師に
(5)閉会総会
分科討論会終了後、参加者は大学の中庭に出て、閉会総会を行いました。閉会総会では、各分科討論会の内容を報告。その後、韓国・原水禁・原水協の代表が、集会宣言文を読み上げました。
★閉会総会
(6)2007年反戦反核平和東アジア国際会議 宣言
兵器と軍事的覇権から自由な東アジアを求めて、韓国、日本、アメリカの平和団体および活動家は、2007年5月26日から27日まで大韓民国ソウルで反戦平和東アジア国際会議を開催した。
会議は、東アジアで進行する核拡散と「抑止」の名による危険な核戦略の展開、軍事同盟強化の動きに関して、広範な意見交換と平和運動間の連帯、協力の探求の場となった。また、会議では、参加各国の草の根活動の経験が豊かに交流された。
参加者は、今回の国際会議を機に東アジアにおける平和と核兵器廃絶の流れをいっそう強化するために、以下の行動を発展させることを宣言する。
1.東アジアの反核平和団体の相互理解、協力と交流をいっそう発展させること、
2.世界的な核兵器廃絶、東アジアの非核化と平和を促進するために協力を拡大すること
核拡散の危険、核脅迫と核使用政策の展開、軍事同盟・軍事基地強化、その他の軍事的対応の危険性について世論喚起の活動を強め、反戦、反核平和運動間の連帯を強めること、
3.朝鮮半島非核化、日本の非核三原則と憲法九条を守る運動など、東アジアの平和と非核化のための運動を支援すること、
4.イラクからの全外国軍の撤退とイラクの主権尊重を要求すること、
5.日本政府に対し、六ヶ所村の使用済み核燃料再処理工場の稼動・プルトニウム抽出を停止するよう要求すること、
6.「人類と核兵器が共存できない」との被爆者の訴えを広め、日本政府に対する援護と補償の要求を支援すること、
7.以上の行動を発展させるため、今後も協議と連絡を継続・強化すること、
以上
3.「平澤米軍基地拡張阻止と在韓米軍糾弾大会」(ソウル龍山米軍基地前)
★ソウル市内の龍山米軍基地前の路上で集会
国際会議終了後、私たちはソウル市内の中央にある在韓米軍龍山基地前に移動し、「平澤(ピョンテク)米軍基地拡張阻止と在韓米軍糾弾大会」に参加しました。この集会は、平澤米軍基地の拡張中断と、韓国政府が在韓米軍に支払った軍事分担金を、韓国政府に返還することを求めて開かれたものです。龍山基地前には、日韓合わせて400人が集まりました。
最初に演説に立ったグリーン・コリアのチェ・スンゴク事務所長は、「韓国側に返還された米軍基地は、汚染されている。環境汚染は、原因を作った米国側で解決するのが常識だ。しかし米軍には常識が通じない」と発言。また米軍基地の環境破壊を黙過し、数兆ウォンかかる環境復旧費用を、韓国国民に押し付ける韓国政府を強く糾弾しました。
平澤汎国民対策委員長のパク・レグンさんは、「米軍の駐留を許したままでは、韓半島の平和体制を構築することは不可能だ」と強調。米軍が、韓国政府が支出した防衛費分担金のうち8000億ウォンを貯蓄にまわし、その利子1000億ウォンを米国のアメリカ国防予算に編入していた問題を糾弾しました。
平和フォーラム・原水禁と原水協も、海外ゲストとして紹介されました。平和フォーラムの藤本は、「日本では、安倍暴風という右傾化の風が吹いている。憲法9条を改悪して、アメリカと一緒に全世界に脅威を与えている」「韓国と日本の民衆が連帯して、アメリカの覇権主義を阻止し、在韓・在日米軍の米本土への撤退を実現しよう」と訴えました。
集会の最後に、平澤汎国民対策委員会のムン牧師が、在韓米軍司令官への抗議書簡を読み上げました。その後に参加者たちは、防衛分担金800億ウォンの返還を求め、米軍基地を差し押さえるステッカーを米軍基地のカベに貼るパフォーマンスを行おうとしました。しかし戦闘警察のバスが基地を取り囲んだため直接貼り付けることができず、戦闘警察のバスに貼り付けたり、紙飛行機にして基地の中に投げ込んだりしました。
4.諸団体との交流
(1)社会進歩連帯(PSSP)
今回の国際会議の、事実上の事務局である社会進歩連帯を訪問し、主に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核武装問題や、日本のプルトニウム問題について意見を交換しました。社会進歩連帯からは、執行委員長のリム・ピルスさん、原水禁との窓口になったリュウ・ミギョンさんをはじめ7人の方が出迎えてくれました。
リム・ピルスさんから韓国の民衆運動の状況に関して、以下のような説明がありました。
●リム・ピルスさん
社会進歩連帯は1998年の韓国がIMF管理を受け入れた時代に、新自由主義の世界化に対する問題意識や、労働者・市民の生活危機をはじめとして社会問題に広く対応するために組織を作りました。IMF・WTO・FTAに反対する闘い、労働法制改悪・労働者抑圧に反対する闘いは、いまでも継続しています。
また米軍装甲車による女子中学生れき殺事件を契機に、米国の対テロ戦争や韓国のイラク派兵など、在韓米軍や韓米同盟に反対する闘いも行っています。
94年・98年・03年、そして昨年の米朝間の核問題危機では、問題の平和的な解決のために活動しました。東アジアに駐留する10万人の米軍と、核兵器の脅威に対する、韓・日・米民衆の共同した対応が必要です。
社会進歩連帯は「すべての核兵器は平和の脅威」であるという認識です。北朝鮮の核開発にも反対しています。昨年の北朝鮮の核実験に対して、民族派(NL派・南北統一派の人々)は「核兵器には反対だが、北朝鮮は米国の脅威を受けている。核武装はやむを得ない」という立場をとりました。一方、私たち左派(PD派・労働運動派の人々)や環境派は明確に反対しました。民主労総は反対を表明しましたが、民主労働党は中央委員会の議論では明確な態度表明をできませんでした。
日本は核物質とミサイルの両方を保有しています。いつでも核武装できる危険性があります。日本では世論の7割が自国の核保有に反対ですが、韓国では7割が自国の核保有に賛成です。それは、日本の核武装に脅威を感じているからです。
●日本側からは、井上が「原水禁は全ての核に反対」「核と人類は共存できない」を出発点にしていること、六ヶ所村の再処理工場とプルトニウム問題の現状について説明しました。神奈川の加藤さんからは、原子力空母の横須賀母港化問題と、市民による反対運動の現状を説明しました。
★社会進歩連帯の事務所で意見交換
(2)全教組
民主労総の中心組合であり、教育労働者によって組織されている全教組では、副委員長のジョン・ジンホさんが対応してくれました。
●ジョン・ジンホさん
全教組と日教組は、活発に協力しています。特に教科書問題での協力は、今後も強く推進したいと考えています。教科書問題での連帯を通して、持続的な交流が考え方の一体化につながることを学びました。教育基本法や平和憲法を守る闘いについても、交流を深めていきましょう。平和や人権に関する考え方は一緒であり、地域段階も含めて交流の拡大は可能です。みなさんが、平和憲法を守ってくださることを、願っています。
●日本側からは藤本が、教育基本法の改悪や改憲手続法などの状況について説明しました。また翌週には、日韓被爆2世会議のために、日教組の被爆2世が訪韓することを伝えました。
(3)民主労総
民主労総本部では、対外協力室局長・統一委員会委員長のキム・ヨンチェさんが対応してくれました。キムさんは主に、北朝鮮の核保有に対する民主労総の立場を説明してくれました。
●キム・ヨンチェさん
ソウル大学での国際会議には参加できませんでしたが、準備会を通して中身は共有しています。また昨日の米軍基地前の集会でお会いできましたね。日本の皆さんとの基本的な認識は同じです。交流の強化・大衆化で、米国軍事主義を粉砕し、労働者の人権を確立しなければなりません。
また挺身隊などの歴史認識問題や、在日韓国人への支援について、心から感謝いたします。
反基地問題や憲法問題では、協力と連帯が進んでいます。今後も協力と連帯と活動を深めていきたいと考えています。そのためには認識の共有が必要です。そのための提案をさせてください。
■東北アジアの平和のためには韓半島の統一が必要である。
民主労総のなかでは、平和運動は統一委員会が担当しています。他国の平和運動と、韓国の平和運動は異なります。それは、韓半島が南北に分断され、帝国主義からの脅威を受けているからです。この問題が解決しなければ、東北アジアに平和と安定が訪れることはないでしょう。
民主労総内では平和運動は重要な課題であり、統一問題は核心的な要素です。平和フォーラムが昨年開催した反基地国際会議には、民主労総からも参加しましたが、こうしたことも統一委員会で決定します。労働運動を通して平和運動の力量を高めることは、大衆運動全体の力量を高めることにつながります。
また私たちは、反帝国主義と平和運動の連携のために連合・全労連とも交流しています。日本の労働組合が分裂している状況は承知しています。会うことも難しいそうですね。しかし韓半島の統一のためには、日本国内でも連帯を広めてもらいたいと考えています。
■東北アジアの平和運動中で重要な問題。
東北アジア各国では、北朝鮮に対する認識が異なります。日本帝国主義・米国帝国主義の時代を通して、北朝鮮は攻撃を受けてきました。冷戦下では、北朝鮮に対する歪曲された認識が広まりました。また冷戦崩壊・東欧社会主義諸国の崩壊後は、北朝鮮が唯一の反帝国主義勢力ともいえます。そのため現在は北朝鮮に対する孤立化政策が、非常に厳しくなっています。そうした圧力によって北朝鮮の内部にも、批判的な勢力が生まれ、脱北者などもおきています。対立と戦争が終わっていない中で、北朝鮮のなかには間違いもおこっているでしょう。
そうしたなかで、反帝国主義・統一主義の運動が、差を越えて総団結することが重要です。日朝ピョンヤン宣言は、平和への道でした。しかし日本の平和勢力は、右翼勢力によるピョンヤン宣言の破壊を阻止することができませんでした。日朝ピョンヤン宣言が破壊された中で、連帯の実践が必要なのです。
右翼がはびこる状況を変えなければ、平和勢力は少数派になってしまいます。右翼の攻勢に、全面的に対決する必要があります。平和勢力が右翼に押されている現状を見るのは、もどかしいです。9条護憲にも、悪影響を及ぼすでしょう。
■米軍と自衛隊の一体化
日本は集団的自衛権の行使を行おうとしています。そこには先制攻撃も含まれます。核攻撃も含まれます。日本の民衆は、原爆の犠牲者となりました。9.11以降、核攻撃の可能性は増大しています。米国は、小規模核兵器の開発を進めています。イラクなどでは、小規模核の使用の可能性もあるのではないでしょうか。米国はイラクに対しては核を使用しませんでしたが、北朝鮮に対しては核を使用する可能性があります。世界の反戦勢力は、イラク戦争を止めることができませんでした。これは全世界の反戦・平和勢力の大きな問題です。
北朝鮮の核実験・核武装は、核廃絶の一環として行われたものです。核兵器で核攻撃から国を守ることはできません。核戦争で勝者になることもできません。しかし米帝国主義との対抗には、核兵器が必要なのです。
米国のイラク攻撃を、平和勢力が止めることができませんでした。そこで北朝鮮は核実験を実施しました。その結果、6者協議の前進につながりました。
北朝鮮は、攻撃を受ける立場にあるのです。攻撃を受ける当事者と周辺の国々では、立場が異なることを理解していただきたい。北朝鮮は、核廃絶を約束しています。しかし米国が武力攻撃を断行しようとしているのです。
私たちは東北アジアの安定と、核廃絶を求める姿勢を見せなければなりません。帝国主義勢力や右翼勢力は、北朝鮮の約束を信用しないでしょう。平和勢力は6者協議の遵守を求めます。右翼勢力と、明確な対決が必要なのです。
南北の労働者は交流を続けています。これまで述べた考え方は、交流と議論の中から出てきた意見です。北朝鮮の核武装は、特殊な状況下でのものです。南北の労働者は、2.13合意の実現に向けて交流と前進を進めていきます。
●藤本
北朝鮮についての状況認識については、合意します。北朝鮮と米国の戦争が終結していないこと、世界的に孤立していることを理解します。
日本国内でも、日朝ピョンヤン宣言後は、拉致問題などを利用して、政権の右傾化が進んでいます。朝鮮学校への差別もあります。こうした右傾化状況を、参議院選挙で止めたいと考えています。
しかし、北朝鮮の状況を十分に理解し、米国の核廃絶も求めていきますが、被爆国としての日本の立場、思いを、あなた方にも理解してもらいたい。これからも意見を交換し、協力を進めましょう。
●キム・ヨンチェさん
私たちは北朝鮮指導者との会議などを通じて、NPT脱退などの核問題を提起しています。核廃絶に向けた、私たちの努力も理解してもらいたい。私たちの立場は「反戦・反核・ヤンキーゴーホーム」です。
私たちは、米国による北朝鮮侵攻の可能性を、強く感じています。戦争に対する恐怖は、日本の人々とは異なるでしょう。戦争になれば、韓国軍も北朝鮮と戦うことになります。全土が戦場になるのです。
(4)環境運動連合
環境運動連合とは、時間の関係から昼食をとりながらの交流になりました。
5.まとめと感想
北朝鮮が昨年10月に核実験を実施して以降、韓国の民衆運動・市民運動内部には、北朝鮮の核保有を巡って論争があり、明確な反対意思の表示ができない状況が続いていました。そうした中で今回、東北アジアの非核化を議論する国際会議が開催されたことには、大きな意義があります。しかし残念なことに、全体会議の参加者は実数で250人程度、そのうち100人は日本からの参加者でした。
韓国側の参加者が少なかった要因は、呼びかけ団体が主に韓国民衆運動内部の少数派であり、多数派の参加を得られなかったことにあると考えられます。また日本側は最初の招待が原水協に届いたこと、原水禁・平和フォーラムへの招待が会議直前であったこと、従来から日韓連帯を進めてきた日本の主要な市民運動への告知が十分でなかったこと−−などがあります。米国の参加も1名にとどまり、他の東アジア地域や国際組織からの参加はありませんでした。この会議の継続を図るのであれば、主催者側によるより多くの事前議論と準備が必要だと思われます。
今回の会議では、北朝鮮の核保有に批判的な民衆運動内少数派も、核保有に至った主な原因が米国の北朝鮮封鎖にあること、日米同盟の強化によって軍事的な覇権主義を強めようとする日本にも責任があることを強く指摘しました。9条改悪・自衛隊の巨大化・集団的自衛権の行使容認に対して、日本の平和勢力が非力すぎることへの批判も続出しました。
ここ数年、日韓の民衆運動連帯は飛躍的に前進していますが、課題間交流が中心でした。そのために、北の核保有・米国の対韓半島政策・在日米軍再編などに関する情勢や、韓国から見た日本のプルトニウム政策・右翼化政策への懸念などについて、日韓双方の運動団体の多数が認識を共有する段階には至っていません。韓半島での核を含む戦争の可能性についても、日韓の認識に大きな差があることが明らかになりました。これらの問題に関して韓国側は、認識を共有する会議レベルだけの連帯ではなく、行動レベルの連帯を求めています。こうした要求にどう対応するのか、私たちには判断が求められています。
6.国際会議での日本側発言要旨
(1)第2会議「東アジアの軍国主義と反戦平和運動」での報告
平和フォーラム・原水禁副事務局長 藤本泰成
1)日本社会と政治の右傾化
日本では2006年9月、衆議院の総選挙が行われ、国会で廃案になった郵政民営化の是非を問うとした小泉首相の自民党・公明党連立与党は、歴史的勝利を飾り衆議院において3分の2を超える議席を確得しました。
結果として、日本の「新自由主義」に基づく経済改革や「新保守主義」の動きがますます加速していくこととなっています
小泉政権を継承する安倍晋三内閣は「美しい国、日本」「戦後体制からの脱却」を掲げて、さらに右傾化の傾向を強め、平和と人権を脅かす諸法案の成立に躍起となっています。
そのような状況の下で、安倍首相は「教育課題が最優先」として、世論調査においても、7割を超える国民が「性急すぎる」「もっと議論すべき」としたにもかかわらず、2006年の12月に「教育基本法」を改悪しました。改悪の方向は、新自由主義に基づく「能力主義」「競争主義」の重視と「新保守主義」を基本とした「個人」いわゆる人権重視から「公」いわゆる国家重視への教育の転換です。戦前の日本の教育の基本であった、教育勅語の「一旦緩急あれば義勇公に奉仕、以て天壌無窮の幸運を扶翼すべし」との文句が、このことによって多くの若者が戦場へかり出されたことが想起されます。
次いで大きな問題は、これも多数をもって強行採決された「改憲手続き法」いわゆる国民投票法です。この法律は、憲法を改悪するためのに作られた法律と言っていいもので、内容は、きわめて曖昧で全く議論が尽くされていないものです。国民投票の範囲と対象事項、最低投票率をどうするのか、公務員・教職者の活動制限をどうするのか、国会における採決では、未曾有の18もの付帯決議がついた事が、不十分な議論を象徴します。
その他数えればきりがないくらいに、自民・公明の連立による安倍内閣は、全く国民合意なしに不十分な議論で、強引に諸法案を成立させています。14歳以下からも適用する事となった少年法の改正、防衛庁の省昇格、教育基本法改悪に沿って教育目標に愛国心を規定し、教員を免許によって管理統制する教育三法、米軍の再編に予算を措置する在日米軍再編特措法、自衛隊のイラク派兵を延長するイラク特措法など、これらは、すべて国民の命と権利を、平和を脅かすことが明らかです。
安倍内閣の標榜する戦後体制からの脱却は、憲法9条を改悪することで完成する。そのことは、首相自身が5年以内の憲法改悪を目標としていることからも明らかです。
「戦争をしない国」から「できる国」へ、そして最後は「戦争をする国」へ移行させようとしていることは明らかです。
安倍首相は、5月、A級戦犯の合祀問題でアジア諸国から批判されている靖国神社へ真榊料を奉納したことが明らかになっています。戦争をするために、靖国の機能は重要です。歴代の首相がこだわるのは、戦死したものを英霊として祀る靖国の機能であり、そのことが「戦争をする国」に欠かせないものだからなのです。日本は、戦後62年平和の中に暮らしてきました。「平和ぼけ」と批判もされます。自衛隊は、「専守防衛」を基本にして、誰にも銃口を向けることなく、一人として殺すことなく平和を守り続けてきました。金は出しても血は流さないとの批判もあります。しかし、血を流して平和が生まれたことはありません。私たちはそのような批判も受け入れてなお、憲法9条を護って行きたいと考えています。世論調査においても、国民意識に憲法9条が根付いていることは明らかです。
しかし、若者を中心にして政府与党の右傾化を支持する層が一定存在することは明らかです。日本はバブル経済が崩壊して10年、新自由主義に基づく規制緩和や労働法制の改悪によって、日本の労働者はきわめて厳しい環境におかれています。所得格差の拡大と非正規雇用の増大は、特に若者の生活を苦しめています。ワーキングプアと呼ばれる若者層は、既成社会への不満を顕在化させ、そのことが例えば外国人への差別発言を繰り返す石原東京都知事への270万票もの投票数になっているのではないかと思います。
私たちは、その若者の不満を、私たちの運動に向けていくことが必要と思います。
2)米軍再編と自衛隊
米軍は、世界規模での再編成をすすめています。日本においては、米陸軍第一軍団のキャンプ座間(神奈川県)移転、横須賀港への原子力空母配置、沖縄普天間基地の辺野古移転、沖縄海兵隊のグアム移駐など、すべてが再編成の一環ではないものの大きな動きが起こっています。また、沖縄に集中する米軍基地の状況を緩和するとして、F15戦闘機の訓練基地や実弾射撃訓練などの全国展開が行われつつあります。
防衛庁は省に昇格し、その機能をさらに強化しようとしています。自衛隊中央即応集団司令部をキャンプ座間に移転、航空自衛隊司令部を横田基地に移転、PAC3の配備と日本海を想定するMD構想などの計画は、在日米軍との一体感をさらに強めるものです。米軍再編の第一の目的である「同盟国の役割強化」がすすめられています。
政府は、米軍再編特別措置法を成立させました。沖縄海兵隊のグアム移転費用の6割に当たるとされる60億ドルを負担したり、地元自治体への交付金を「あめとむち」として使えるようにし、普天間基地の辺野古移転を進めやすくしようとするものです。辺野古問題では、この5月18日、これまで反対する住民運動に押し返されていた移設工事を前提とした違法な環境調査を、海上自衛隊の掃海母艦を派遣して強行しています。これは、前例のないもので、日本では禁じられている「治安出動」そのもので、政府の傲慢な姿勢と米軍と一体となった政策を象徴しています。
安倍首相は、4月25日の訪米前に、私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を設置し、「現憲法下において、集団的自衛権が行使できるかを検討する」としました。集団的自衛権の行使は、これまで政府見解として違憲であるとしてきたものです。米国の危機に際して、日本の自衛権を発動することが、何を意味するのかという議論は全くありません。
3)北東アジアにおける平和へのとりくみ
北朝鮮が昨年核実験に成功したと報道されました。このことは、非常に残念なことですが、この報道に際して、中川自民党政調会長は、「日本も核武装の是非を議論すべき」との持論を展開しました。非核三原則を国是とし、核廃絶を訴えてきた唯一の被爆国として許されず、大きな批判を受けました。六カ国協議をめぐっても、この間日本は拉致問題に固執し、相互理解を進めようとしていません。拉致問題を基本に据え、対外不安をあおることで米軍との軍事一体化と「戦争をする国」への準備をすすめています。
私たち、原水禁と平和フォーラムは、国内においては全国の平和運動センターと一体となって、また、アジア太平洋反基地会議やエクアドル世界反基地会議を推進するなど世界と連帯した運動を展開してきました。米軍基地撤去を基本に平和へのとりくみを進めてきました。
沖縄では、第30回目の平和行進を県外からも2000人近くの参加を持って、3日間、3コースを60キロにわたって平和を訴えて歩きました。そして、海外ゲストを同じく米軍基地問題を抱えるフィリピン、グアム、韓国から迎えて、そのとりくみを交流し、最終日には、在日米軍嘉手納基地を1万5千人で包囲しました。このような運動は、岩国、横須賀での住民投票や住民投票条例の制定へのとりくみなど、それぞれの方法で全国各地で、そして世界で、この韓国で行われています。
私たちは、このねばり強いとりくみが、以下の点で重要だと考えています。
一つは日本において、平和・反基地運動が、自治体の態度に大きな影響を与えているという点です。今や日本において、米軍に対して喜んで迎える自治体や市民がいないという事実を形成していると言うことです。このことは、米軍に対する大きな圧力となっていることも事実であり、ラムズフェルド元米国防相は、「韓国ソウルの特等地にある米軍司令部は、国民の怒りを買っている」と議会に報告しています。
二つめは、世界中で行われている米軍再編が連動していると言うことです。一つの再編計画が不可能とされれば、全体に大きな影響を与える可能性があり、そのことで再編計画を断念させる可能性もあるということです。
私たちは、日本国憲法の理念に基づいて、各地におけるとりくみをつなぎ、今後もねばり強く運動を展開していく必要があります。
(2)第1会議 「北朝鮮の核実験と日本の反核運動の課題」での報告
原水禁事務局次長 井上年弘
1)はじめに−原水禁について
私の所属する原水爆禁止日本国民会議(原水禁と略)は、1965年に結成され、現在、47都道府県に原水禁組織と23の全国的な労働組合(例えば全日本自治体労働組合、日本教職員組合など)や民主団体、そして個人を含めて約200万人で構成される国内最大の反核平和のナショナルセンターです。
原水禁の運動の柱は、反核、脱原発、核被害者への援護・連帯(ヒロシマ・ナガサキのほか、原発や核実験などの被害者)を基本に運動を進めています。その中で、毎年8月にヒロシマ・ナガサキを中心に原水爆禁止世界大会を開き、国内外から1万人近い人々を集めています。核問題については、「核絶対否定」をかかげ、「いかなる国の、いかなる核実験や核兵器にも反対」を掲げています。
現在の運動の課題は、核兵器課題としては「東北アジアの非核地帯化」、脱原発課題としては、「六ヶ所再処理工場稼働阻止」と「プルトニウム利用政策の転換」、「原発の新増設阻止」などで、ヒバクシャ課題は、「在外被爆者への援護」、「被爆二世・三世課題」、「被爆者認定訴訟支援」などヒロシマ・ナガサキの被爆者問題と各地の核被害者の連携の強化を進めています。
日韓とは、原水禁世界大会での交流の他、東北アジアの非核化に向けた動き、六ヶ所再処理工場の問題、在外被爆者問題、被爆二世・三世問題等で、この間交流を深めさせていただいています。06年6月にも、韓国内の平和団体や環境団体、被爆二世団体等に訪問・交流をさせていただき、来月の6月2日〜3日にも釜山で被爆二世問題の日韓シンポジウムを行うことになっています。原水禁の国際連帯の中では、韓国は重要な位置にあり、今後も緊密な連帯関係を強化したいと考えています。
2)対話こそがいま必要
今回の北朝鮮の核実験に対しては、原水禁としては「いかなる国の核実験にも反対」の立場から強力に反対を訴えました。広島、長崎をはじめ各地での座り込み、街頭宣伝等を行い、北朝鮮政府には直接抗議文を全国各地から送りました。私たちは、どのような理由であれ「絶対悪」として核兵器や核実験を容認することはできません。核兵器の残虐性は、これまで被爆者が身を持って私たちに教えています。
また私たちはこの間、「力」による解決ではなくあくまで対話を基調とした平和的な問題解決がいまこそ求められていることを繰り返し訴えてきました。その後、六カ国協議が再開され、2007年2月13日には、六カ国協議で採択された共同文書は、米・ブッシュ政権がこれまでとってきた北朝鮮への敵視政策を根本的に変えるものでした。核施設の停止や金融制裁の解除など課題が残されており、今後の行方も不透明な部分がありますが、対話を中心とした合意形成は歓迎されるべきもので、今後の動向が注目されます。 しかし、今回の核実験を契機に、今の日本政府や日本の世論の動きを見ると非常に大きな危惧を感じています。
3)危険な日本の核武装論
今回の核実験で日本国内で最も恩恵を受けたのは、他でもない安倍新政権のタカ派です。この機に乗じて、北朝鮮バッシングにボルテージをあげました。中でも自民党中川政調会長は、「憲法でも核保有(核武装)は禁止されていない。核があることで攻められる可能性が低くなる。やればやり返すという論理はあり得る。当然、議論があってもいい」と発言し、麻生外務大臣も「隣の国が(核兵器を)持つことになった時に、(日本が核武装の是非を)検討するのもだめ、意見の交換もだめというのは一つの考え方とは思うが、議論しておくのも大事なことだ」と発言しました。
しかしこれらの発言は、政府・与党内でも批判が相次ぎ、官房副長官当時に「憲法上は小型原爆保有も問題ないと」発言した安倍首相でさえ、「非核三原則(核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず)を堅持する。政府としても議論しない」と発言せざるを得ないなど、この核保有(核武装)議論は、これまでの運動や国民世論、被爆国であり被爆者の存在があり、NPTやCTBTなどの核軍縮の国際的な流れにさからうことは、いまのタカ派でもでききれていないのは事実です。しかし、その後も自民党の中川昭一・政務調査会長などは、核保有議論に関する発言(例えば「憲法の政府解釈では、必要最小限の中には核も入っている」など)を繰り返し、それを安倍首相が「黙認」し、核をめぐる議論が大手を振ってできるかのような印象を与えています。
今回の北朝鮮の核実験に対して、アメリカと日本の主導で制裁が一気に進み、国際包囲網が拡大・強化されました。それにあわせ日本政府は、日本としての経済制裁を決定し、実施に踏み切り、海上封鎖や自衛隊による臨検などが行えるような「力」による動きが強化されました。野党の民主党の一部にも、「国連決議がまとまったことで、周辺事態と認定する環境は整った」(前原発言)など周辺事態法の強引な拡大解釈や特別措置法などでそれらを対処しようとする動きも生まれました。
「力」によって相手を追い込むことで、ますます関係を閉ざしていくだけで、「暴発」が懸念され解決にはつながりません。隣国でありながら直接対話の窓口すらもっていない日本が、経済制裁のみを声高に叫ぶだけで、具体的な解決の道筋を描ききれず、アメリカや中国、韓国に頼る主体性のない外交政策となっています。ましてそのトップにたつ麻生外務大臣の「核武装議論」発言は、周辺諸国に誤ったメッセージを送るものです。
4)日本の非核三原則の法制化
しかし、「核でやられたら核でやる」ということは子供じみた議論でしかありません。東北アジアの緊張緩和と核軍縮へむけたリーダーシップを具体的に発揮する外交努力が本来政治家には求められており、安易に武力に頼る議論は、政治家としての責任を放棄することです。
むしろ日本が1971年の国会で全会一致で決議した国是である非核三原則を法制化し、しっかり位置づけることが必要です。三原則の法制化は、対外的に平和主義の姿勢を一掃鮮明にするだけでなく、東北アジアにおける真の信頼醸成のための強力な宣言になるだけでなく、日本が軍事大国となることを防止し、及び世界の核軍縮に貢献する意義ある選択です。
5)東北アジア非核地帯の必要性
さらに東北アジアの信頼醸成と安全保障を確かなものにするために、朝鮮半島と日本を含む東北アジアの非核地帯化をつくりあげることが必要です。現在、世界の非核地帯には「ラテンアメリカ非核地帯」(トラテロルコ条約=68年発効)、「南太平洋非核地帯化」(ラロトンガ条約=86年発効)、「東南アジア非核地帯」(バンコク条約=97年発効)、「アフリカ非核化地帯」(ペリンダバ条約=96年署名)、また「モンゴル非核地帯化宣言」(92年)をおこなっています。国連は、非核地帯について、@地帯内での核兵器の製造、実験、配備などの禁止。A国際的な検証・規制制度=条約遵守機構設立。B核兵器国の5カ国が当該地域に対し、一定の義務を引き受ける=核兵器不存在の尊重、核攻撃や核威嚇を禁止――と規定しています。
原水禁でもこの東北アジア非核地帯構想を早い段階から構想し、重要な課題として提起し取り組んできました。2000年には、初めて韓国の地でこの構想についてシンポジウムを行い、06年10月にソウルにおいて「ノーニュークス・アジアフォーラム」の主催で日韓反核シンポジウムを行い、その議論を深めてきました。
東北アジアの非核地帯構想の具体例としてピースデポの梅林宏道さんが、条約を日本、韓国、北朝鮮で結び、それを中国、ロシア、米国が支えるというスリープラススリー(3+3)として提起しています。原水禁でもこの構想をベースに議論を進めています。
日本の非核三原則、91年の「朝鮮半島非核化宣言」など、議論のベースとなるものも存在し、今後も日韓で東北アジアの非核化を目指して、非核地帯化構想の議論と具体化を深める必要があります。
6)六ヶ所再処理工場の稼働阻止を
すでに日本は、原爆を広島・長崎に投下され、多くの被爆者を生みだした国であり、国是として非核三原則を持ちながらも、アメリカの「核の傘」に頼るとする矛盾した立場にあります。さらに、原子力の分野ではウラン濃縮技術をもち、プルトニウムも約44トンも保有し、その上、六ヶ所再処理工場の稼動を07年11月として進めています。このことは核拡散の観点からも見ても国際的にも問題です。さらに高い工業力とロケット技術は、いつでも核武装に転用できる技術力を保有している国として認識されていることはいまや国際的常識となっています。そのことにより周辺諸国をはじめ世界から常に核武装の懸念をもたれています。北朝鮮の核開発を非難するだけでなく、自らの足元もしっかり見つめることが必要です。だからこそ、六ヶ所再処理工場の建設中止を私たちは強く求めています。
なお六ヶ所再処理工場は、今年11月の稼働を目指してアクティブ試験(機能検査試験)を行っていますが、この間使用済み燃料プールに設置されている燃料取扱装置とチャンネルボックス切断装置で、耐震強度不足が明らかになりました。この強度不足により、強い地震が来れば破壊されることが懸念され、事業者は耐震補強を行おうとしています。これにより数ヶ月、操業が先送りされることが予想されています。操業開始が先送りされることとあわせて、再処理工場の危険性や不必要性などの訴えを強化していくことが日本の脱原発運動に求められています。
7)おわりに
核実験以降のタカ派の動きは、この機に乗じての日米軍事協力の範囲を拡大しようとしています。冷静な議論や分析もないまま「もし日本に攻めてきたら」と煽り、偏狭なナショナリズムが煽られています。これらの動きを巻き返す運動がいま私たちに求められています。
この間、六カ国協議が開かれ、対話による平和的な解決の糸口が拡がったことは、東北アジアの緊張緩和にとっても一歩前進で喜ばしいことですが、まだまだ困難が予想されています。今後も対話重視のなかで問題の解決がはかれるように、私たちは声をあげていく必要があります。さらに六ヶ所再処理工場の稼働など、東北アジアの緊張を高める日本の原子力政策の転換も私たちの重要な課題です。反核を言う場合に、日本の原子力政策に目を向けない運動は問題です。アジアの人々と連携を強化する際に必要な視点でもあります。
原水禁としては、こうした経緯を踏まえながら、東北アジアの非核・平和の確立、日朝国交正常化を目指して、全力で取り組む決意です。特に、北朝鮮からすれば「核の傘」や米軍基地の「再編成」などは脅威でしかないはずです。東北アジアの安全保障にとっても、軍事的脅威の低減を目指すことがいま日韓の反戦・反核の運動に求められているはずです。
7.参考資料
コリアン情報ウイークリーNO159(06年10月16日)より ※平和フォーラムホームページで連載中
●韓国社会運動陣営,北核実験に対する微妙な視覚の差
北朝鮮が9日、電撃的に断行した核実験の余波で国内はもちろん全世界の耳目が朝鮮半島に集中されている。特に、北の核実験以後、韓国社会運動陣営の反応にも関心が集まっている。一般的、社会運動陣営も、北の核事件で衝撃を隠せなかったが、その原因と対応方式において、団体の間の微妙な視覚の差を見せている。
『民主労働党』は9日、緊急対策会の後、ブリーフィングを通じて「多くの国民の憂慮にもかかわらず北朝鮮が核実験を強行したことに対して強い衝撃と残念を表明する」、「民主労動党は核の自衛的手段を含めた核兵器政策に反対していることを明らかにする」と原則的な水準で「核実験」に残念の反応を表明した。
これに反して『希望社会党』は論評を通じて、北朝鮮の指導部まで取り上げながら、北の今度の核実験を強力に糾弾した。『希望社会党』は「北朝鮮の今回の核実験は朝鮮半島の平和体制定着、世界平和を念願する韓国と世界民衆の期待を裏切った重大な事件」と規定した。『希望社会党』は「核は去る1950年朝鮮戦争の時の戦争狂、マッカーサーもどうしても使うことができなかった極悪した戦争手段」と言いながら、「北朝鮮の核実験は農業に失敗し、食糧危機をもたらした政策、すなわち金正日総書記の先軍政治がもたらした必然的な事態と同時に、北朝鮮体制の悲劇」だと批判した。希望社会党はさらに「北朝鮮の核実験を契機に朝鮮半島で戦争を起こそうとするどんな行為にも反対する」と付け加えた。
『参与連帯平和軍縮センター』も声明(名前)を通じて「北の核実験は朝鮮半島住民たちを致命的な核脅威の人質にしているという点で朝鮮半島と周辺地域の平和と安定に正面から違反されるものであり、南北がお互いに合意した朝鮮半島非核化宣言と6.15共同宣言の精神を深刻に毀損している」、「朝鮮半島住民の安全を人質にして百害あって一利なしの核武装を実現して、これを交渉手段で利用しようとする北朝鮮政府の軍事的冒険主義に反対する」と糾弾して北朝鮮の核兵器の直ちに廃棄を促した。
一方、核実験のその背景に関しては、共通的にアメリカの対北圧迫政策を主要原因として指摘した。
『民主労働党』は「北の核実験強行はアメリカが実施してきた対北孤立圧迫政策」が主要な原因だと規定して、「朝鮮半島の平和を脅かす緊張と対決局面を造成した一次的責任はアメリカの敵対政策にある」と明らかにした。
『社会進歩連帯』も「去年9・19共同声明を作り上げたにも関わらず、アメリカは北朝鮮に対する金融制裁などによる孤立・圧迫戦略を捨てなかった」、「これは北朝鮮の力強い反発を招いたのが1次的原因」だと説明した。さらに、「北は核実験を瀬戸際戦術だと判断しているようだが、これはむしろ核を現実化することで、戻ることができない極限情勢を作ること」だと北の核実験敢行の問題点を指摘した。
『All Together』も「アメリカの対北圧迫が生んだ危ない結果」という点に意見が一致した。
また、『労働者の力』も北朝鮮が核実験をするようになった根本的な原因がアメリカの対北政策にあると指摘した。
しかし、今後の対応に対しても各団体の提案は微妙な違いを見せた。
『民主労働党』は「今の状況はアメリカの悪意的な対北無視政策と北朝鮮の極端的な選択がもたらした極めて心配な状況」と言いながら、「米朝間直接対話と同時行動が平和的に事態を解決する最善の方法」といい、米朝両者の間直接対話を促した。
『All Together』の運営委員は、まず危機感が高まっている北朝鮮に対するアメリカの軍事攻撃への憂慮とともに「現在アメリカ国内の反戦世論、アメリカの足を縛っているイラクの状況とイランの局面を考慮すると、直接的な対北攻撃は易しくない」と言いながら、「中国と韓国政府の場合も対北制裁には同意することができるが軍事攻撃に合意することは難しい」と見込んだ。また、「南韓の進歩勢力たちがアメリカの軍事対応だけではなくUNを通じる制裁が解決策ではないという点も明らかにして、UNを通じる対北制裁にも反対しなければならない」と強調した。彼は1991年から10年間行われたイラク経済制裁の例であげて「イラク民衆たちが経験した無惨な経済制裁の前例を考慮すると、UNによる対北制裁にも南韓政府が絶対同調してはいけない」と主張した。
『労働者の力』の政策局長は、「ブッシュ行政府とアメリカの対北政策の失敗が現われた」、「北朝鮮の核実験そのものに対する批判世論に注目するよりも、根本的な原因を提供し、またそれを主導したアメリカの意図、すなわち北朝鮮核問題の平和的解決より北朝鮮体制と政権に対する攻撃の可能性を放棄せず、6者会談が無力化されるしかない条件を作った米帝国主義の問題を指摘しなければならない」と強調した。
また、北朝鮮体制と係わった問題は今度の事態と分離して判断すべきだと主張した。さらに、ノ・ムヒョン政権が対北朝鮮関係で主導権を持つことができず、アメリカの対北制裁や圧迫を容認する態度は、北を窮地に追い込み、北東アジアの軍事的危険を増加させること」だと述べた。
『社会進歩連帯』の運営委員は、「韓国政府はアメリカに派兵という贈り物まで与えたが、結局韓国政府が選択することができる方法というのはアメリカが許容する限りでの太陽政策を推進することしかなかった」、「韓米同盟に対する根本的な問題を指摘しなければならない」と主張した。また、「一部では今度の事態がアメリカの対北圧迫政策のため起こった事だといいながら北の核保有を肯定している」、「これは保守勢力の恙動と大衆の反北朝鮮イデオロギーが強化されている状況で社会運動になにも役に立たない」と批判した。最後に、「現状況に対して警戒しながら北の核保有に対する批判を正確にして、これと同時にアメリカの軍事主義的戦略とここに荒されている韓国政府に対する批判が必要な時期」だと付け加えた。
★写真レポート1(Photograph report NO1)
★写真レポート2(Photograph report NO2)
★写真レポート3(Photograph report NO3)
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