2017年、平和軍縮時評
2017年02月28日
平和軍縮時評2017年2月号 オスプレイ、今後も事故が続くおそれ―オスプレイは、どこにもいらない 湯浅一郎
オスプレイの普天間基地配備から4年強が経つ2016年12月13日、沖縄を初め多くの市民がくり返し警告し懸念してきた大事故が沖縄県名護市東岸の浅瀬で発生した。12月7日には岩国基地のFA18ホーネットが高知県沖で墜落したばかりであった。事故の原因究明も不十分のまま飛行は再開されているが、多くの重大な疑問点を整理し、事故の背景に揚力不足というオスプレイの構造的問題があることにつき改めて考える。
事故は夜間空中給油訓練の固定翼モードで起きた
12月13日、夜9時30分頃、名護市安部(あぶ)沖の浅瀬でオスプレイが着水し※1大破した。乗員5名の内2名が負傷したが死者はなかった。事故機は、沿岸部から約40海里(約74km)離れた沖縄北東の海上で他のオスプレイ1機(同機は事故機の空中監視の後、着陸装置の故障により普天間基地で胴体着陸していた)とともにMC-130(嘉手納)から空中給油を受ける夜間訓練を実施していた。防衛省によると※2「給油が終了し、オスプレイのプローブ(補給口)とMC-130の給油ホースを分離させた後、21時5分頃、乱気流等により、給油ホースとオスプレイのプロペラのブレード(羽)が接触し、ブレードが損傷した。」「ブレードの損傷は回転するうちに大きくなり、飛行が不安定な状態となった。」訓練地点に近いキャンプ・シュワブを目的地に飛行したが、途中辿り着けなくなり浅瀬に着水したとされる。
米軍は、事故は、空中給油に伴い発生したもので、搭載システム、機械系統あるいは機体構造を原因とするものではないとし、全機体につき安全上の調査、確認を以って、19日、空中給油以外の飛行を、17年1月6日には空中給油訓練も再開した。日本政府は、「原因究明、十分な情報提供、安全が確認されるまでの飛行停止」を求めていたが、いとも簡単に飛行再開を受け入れた。
真相究明には程遠い飛行再開
17年2月6日、近藤昭一議員(民進党)提出の質問主意書に対する答弁書(17年2月14日)※3(以下「答弁書」)の内容も含め、原因究明に必要と考えられる疑問点を列挙してみる。
- プロペラの羽根が損傷した事象について
- 事故に関連してわかっているのは発見地点だけで、事故発生時の高度、飛行速度、気象条件(気温、風速)等は不明である。
「答弁書」は、「引き続き米側に置いて調査しているところであり、「高度」及び「飛行速度」についてお答えすることは困難である。」と述べる。 - 羽が損傷する要因となった「大気の乱気流等」の「等」とは何かが不明である。後述するがフロリダでのオスプレイ事故で問題となった前方航空機による後方乱気流がこれに該当すると考えられるが、明らかではない。
質問主意書での「乱気流等によって具体的に何が起きたのか」との問いには、全く答えがない。乱気流等によって機体が上下や左右に揺さぶられMC130との距離が変化し、給油ホースがプロペラに接触したのか。いずれにせよオスプレイは揚力不足のため、大気の乱れに弱いことが要因の一つであろう。 - 機体の大きさに比しプロペラが異様に大きく、給油の際、給油ホースを出し入れするスペースが狭く、夜間に暗視ゴーグルを装着しての作業は極めて難しいことが想定される。
- 事故に関連してわかっているのは発見地点だけで、事故発生時の高度、飛行速度、気象条件(気温、風速)等は不明である。
- プロペラが損傷した後の約25分間の飛行の軌跡や飛行状況が明かされていない。
- 質問主意書の「プロペラが損傷した後の飛行状況」、「飛行ルート」、「その間、安定飛行が可能であったのか」との問いには、ここでも「米側が引き続き調査しているところであり」とするだけで全く答えがない。
- 今回の事故の特徴は、滑空ができ、比較的安全とされる固定翼モードにおいて起きたことである。オスプレイの業務に従事していたアーサー・R・リボ―ロ氏の証言※4においても、「V22の推進者たちは、同機は全エンジンが停止しても、固定翼モードに変換することによって安全な着陸が可能であると主張している」とある。
- 「羽の損傷は、右の羽のどの辺りで起き、回転するうちに損傷はどう拡がったのか?損傷した方のエンジンは停止し、片方のプロペラだけで飛行したのか?あるいは、左右のバランスを取るため両エンジンともに停止し滑空の形を取ったのか?」。質問主意書のこの項目に対しても、「お答えすることは困難である」とするだけで、日本政府として、状況を把握できてないことが分かる。従って、この間、真っ直ぐに飛行できていたのかどうかも定かではない。
- 「飛行が不安定な状態になった」のは、羽の損傷が乱気流に伴い発生したことも併せ、機体重量に比べて揚力が不足がちなオスプレイ特有の現象ではないのか? オスプレイは、重い主翼とそれを胴体から支える構造により、自重が約17トンあり※5(ヘリコプターと比べ2倍はある)、そのため揚力不足になる。1つの航空機で固定翼モードと垂直離着陸モードの両方の機能を持たせるという高度な目標を追求したことによる、機体の構造的な問題による事故ということになる。
- 安定飛行が可能であったのかどうかが明らかにされていない。
- キャンプ・シュワブまで残りわずか約5kmでなぜ着水したのか? これは、制御が不能(例えば機体を水平に保持する操作ができなくなったなど)であったことを示しているのではないか。
- 「着水は水平に行うことができたのか?」についても説明はない。発見地点での写真によれば、左側の主翼はなくなり、左側に傾きながら着水したようにも見えるが、事実はどうか。水平飛行ができなくなっていたとすれば、これも制御不能を伺わせる。
米軍は、いち早く「不時着水」と報告し、政府は、それをそのまま発表した。報道のほとんどがそれに従ったが、沖縄など一部の機関は「墜落」とした。現時点では制御可能であったと判断できる材料はなく、少なくとも「不時着水」ではない。リボロ氏は「琉球新報」の取材に「航空機が制御できていた場合、機体の損傷を引き起こさずに水面に着陸できただろう。機体が激しい損傷を受けた事実はその航空機が制御不能であり、航空機を破壊するに十分な力で水面にぶつかったことを示唆している」※6としている。最も重要なことは、羽の損傷後の飛行状態を制御できていたのかどうかであるが、この点は全く触れられていない。
これらはボイスレコーダーの分析からわかるはずだが、それは公開されていない。過去に日本政府はボイスレコーダーの公開を求めたことはないとの観測もあるほどだ。要するにわからないことだらけであり、真相究明には遠く及ばない。少なくとも事故報告書が出て、両政府間で検証が終わるまで飛行再開はありえない。
飛行時間が増えても減らないオスプレイの事故率
「航空機の機種の安全記録を代表する指標として」米軍が使用する事故率という考え方がある。これは、「延べ10万飛行時間当たりのクラスA事故の発生件数」で定義される。クラスAとは、被害総額が200万ドル以上や死亡の発生などの大きな事故である。クラスA事故は数少ない事象で、年に1回でも起こると一気に事故率は高くなる。その後は運用時間が増えるにつれ徐々に減少し、また事故が起こると一気に増えるといったことをくり返している。ちなみに米海軍安全センターは、今回の事故をクラスAと評価し、被害額を95億ドルとしている※7。
12年9月、オスプレイの普天間配備に当たり、政府は、12年4月時点で、2003年からの延べ飛行時間が10万3519時間でオスプレイの事故率※8は1.93で、海兵隊所属航空機種の平均2.45と比べて低いとした。その上で、一般に航空機は飛行時間を重ねるごとに事故率は低下すると説明した。以後、政府は事故率データを示さなかったが、近藤昭一議員(民進党)の質問主意書※9への答弁書で最近4年間の事故率をようやく明らかにした。12年9月=1.65、13年9月=2.61、14年9月=2.1、15年9月=2.64である。更に「琉球新報」※10は、米海兵隊への取材に基き15年12月の事故率を3.69としている。オスプレイの事故率は飛行時間が増えても低下しておらず、これに関する明快な説明はない。これに応えるためには、少なくともこれまでの事故を全て検証する作業が不可欠であろう。
政府は、12年に発生したモロッコ、フロリダでの事故報告書の評価をもってオスプレイの安全性は確認されているとしている。モロッコ事故では、ヘリモードで上昇した後、ホバリング状態で170度旋回した直後に追い風を受け、エンジン・ナセル※11の角度を前方に傾けすぎたことで前のめりとなり墜落した。CV22のフロリダ事故では、前方機の後方に早く侵入した結果、前方機による後方乱気流に入り墜落した。いずれの場合も、機体に機械的な不具合はなく、操縦ミスとされた。
更に両方の事故報告書とも、事故発生時点におけるコンピューター制御とパイロットの操作との関連性に関する記述が無い。オスプレイは飛行に関する多くの部分をコンピューター制御によっているが、事故発生状況においてはある種のパニックが生じており、パイロットが、自動制御で行くかマニュアルにするかの判断に迷う場面があるはずなのであるが、その場面の記述が事故報告書には全くない。防衛省も「言及がないこと」は認めるが、両者の関連性について答えはない。このように、事故はパイロットが判断しにくい環境下で起きており、揚力不足を背景に操縦の複雑さや大気側の変化に弱いなど、人為的ミスだけで評価できない要素が大きいことは無視されている。
その後、ペルシャ湾、ハワイなどでクラスAの大事故が起きたが、政府は事故報告書の入手すらせず、それらの評価を怠ってきた。例えば15年5月17日、海兵隊員が2人死亡したオアフ島(ハワイ)での事故では、垂直離着陸モードで着陸しようとした際、「塵や砂を吸い込んだ結果、左エンジンの揚力を失い、着陸に失敗した」とされる。この事故原因は機械的、構造的な欠陥そのものである。いずれにせよ、運用時間が増加しても事故が減らない本質的な理由を探ることが必要である。
懸念される辺野古新基地周辺及び日本列島各地の危険性
これだけの大事故が起きたにもかかわらず、今後さらにオスプレイの新たな配備計画が目白押しであり、事故は日本列島全域で起こりうることも想定せねばならない。
- 17年から陸上自衛隊木更津駐屯地(千葉県)のオスプレイ整備場運用開始。
- 17年からCV22オスプレイ10機を横田基地(東京都)配備。三沢、ホテルエリア(群馬県など)、キャンプ富士、沖縄訓練場(伊江島、高江)を訓練空域とし低空飛行訓練ルートでの低空飛行が想定される。
- 19年度以降に陸上自衛隊が17機の購入を決め、佐賀空港(佐賀県)が配備候補地。
- 2021年以降、海軍仕様の空母搭載オスプレイ2機の岩国基地配備(推定)。
これらが予定通り進めば日本列島には計53機のオスプレイが配備され、木更津整備場とも相まって、現在の数倍規模で全国各地での飛来が日常化する。事故は日本列島全域で起こりうる。
今回の事故は、固定翼モードでのプロペラ損傷により起きたが、背景には揚力不足という構造的問題がある。これは、垂直離着陸モードで両エンジンが停止した場合のオートローテーション機能の有無に関する議論にも波及する。一度の飛来で必ず2回はその状態にせねばならない転換モード時における揚力不足は更に深刻な問題である。辺野古新基地が動き出せば、基地周辺では24機のオスプレイが転換モードや垂直離着陸モードで日常的に飛行することになることを想定すると空恐ろしい。事故を契機に、オスプレイそのものの構造的な問題点を明らかにさせるとともに、オスプレイは日本列島のどこにもいらないという声を自治体をも巻き込みながら作っていくことが求められる。
注(※)
- 米軍は「不時着水」とするが、「滑空しながら水平姿勢を保ち、制御された状態で徐々に降下していた」ことなどを証拠づける事実は示されていない。ここでは、ただ水面に降下したという意味で「着水」という表現を使用しておく。
- 防衛省「不時着水したMV-22オスプレイについて」、16年12月19日。
- 近藤昭一議員の質問主意書への答弁書(内閣衆質103第47号)(17年2月14日)。
- 米下院監視・政府改革委員会(2009年6月23日)におけるアーサー・R・リボロ氏の証言。
- 防衛省「MV-22オスプレイ」、12年6月。
- 「琉球新報」2016年12月16日。
- http://www.public.navy.mil/NAVSAFECEN/Documents/statistics/ADS.pdf
- 防衛省「オスプレイの事故率について」、12年9月19日。
- 近藤昭一議員の質問主意書への答弁書(16年5月17日)。
- 「琉球新報」16年1月6日。
- エンジンを収容する両翼端の円筒部分。