憲法審査会 | 平和フォーラム - パート 3

2023年12月08日

憲法審査会レポート No.29

今週は参議院・衆議院ともに憲法審査会が開催されました。今臨時国会は12月13日閉会予定ですので、今国会での憲法審査会はこれをもって終了の見込みです。

【参考】

首相 緊急事態条項など4項目の憲法改正案踏まえ 絞り込み指示
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231205/k10014278941000.html
“憲法改正に向けた自民党の会合で岸田総理大臣は、党としてまとめている「緊急事態条項」など4項目の改正案を踏まえ、党派を超えて連携できる項目を絞り込むよう指示しました。”

憲法改正「項目取りまとめを」 岸田首相、実現本部に出席
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023120500918&g=pol
“内閣支持率が低迷する中、改憲に本気で取り組む姿勢を保守層にアピールする狙いがある。古屋圭司本部長は「(会議への出席は)党総裁としての思いを象徴している」と記者団に語った。”

憲法審査会が給料ドロボーと呼ばれないように
https://www.sankei.com/article/20231202-M7VE32UPQVLI7BYDZTTMWUGPWU/
“「実現できなければ、岸田文雄政権は終わり。はっきり言って、完全に終わりだ」。自民党の憲法改正推進議員連盟の衛藤征士郎会長は11月30日、断言した。首相が来年9月までの党総裁任期中の実現を目指す憲法改正について、である。強烈な言葉だが、「やるやる詐欺」にうんざりしている国民感情を代弁している。”

改憲実現に課題山積の自民 高村正彦元副総裁が公明と調整へ
https://www.sankei.com/article/20231207-YYHGW5MVZNKYZB6PPAXI7ECD7A/
“ただ、臨時国会は改憲案作りが具体化しないまま終了する見通しで、改憲を期待する他党や保守陣営では自民に対し、不信感が芽生えつつある。維新や国民民主などは自民の本気度が見えない場合、改憲の可否を問う国民投票に向けたスケジュール設定や定例日以外の憲法審の開催、閉会中審査などを求める書面を突き付ける構えだ。”

2023年12月6日(水)第212回国会(臨時会)
第2回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7679

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

参院 憲法審査会 憲法9条改正などめぐり各党が主張展開
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231206/k10014280031000.html
“参議院の憲法審査会で自由討議が行われ、大規模災害など緊急事態での国会の機能を憲法に規定するかや憲法9条を改正して自衛隊を明記するかなどをめぐり各党が主張を展開しました。”

自民、条文案へ作業部会提案 参院憲法審、立民反発
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023120600928&g=pol
“自民党の衛藤晟一氏は、緊急事態条項の創設や自衛隊の明記を挙げて、作業部会の設置を主張。「憲法改正原案を具体的に詰める」と強調した。”
“これに対し、立民の辻元清美氏は自民党派閥の裏金疑惑に触れ、「政治の信頼なくして憲法論議は成り立たない」と反発。”

参院憲法審 改憲に積極的な4党、緊急事態条項議論で温度差
https://mainichi.jp/articles/20231206/k00/00m/010/167000c
“自民、日本維新の会、国民民主の3党は、選挙の実施が困難な時に特例的に衆院議員の任期を延長する緊急事態条項創設に向けた早期の条文案作成を主張。一方、公明党は、衆院議員不在時の国会機能を代行する憲法54条2項の「参院の緊急集会」の権限も含めた議論の継続を求めた。衆院では条文案作成の方向で共同歩調をとった4党だが、参院では歩みに乱れが生じた。”

【傍聴者の感想】

12月6日の参議院憲法審査会では、各会派による憲法に対する考え方の表明から始まり、その後各委員から個別案件について意見表明が行われました。

与党会派は、自衛隊明記、緊急事態条項について憲法改正が必要であることが強く訴えました。また、憲法改正原案を作る作業チームを作り、具体的に進めていくべきと主張しました。

野党会派からは、パーティー券による裏金問題が起きていることを挙げ、そもそも憲法改正議論をする以前に「政治に対する信頼」という土台が成り立っていないと意見が出ました。

各委員からの発言が次々に行われましたが、やや感情的な発言が続きました。中曽根弘文会長(自民)が、委員からの発言や提案のうちの一部については「幹事会で取り扱う」としたうえでこの日の審査会は閉会しました。

初めての憲法審査会傍聴でした。参議院では比較的落ち着いた議論であると聞いていましたが、一度の発言に言葉を詰め込み、意見をぶつけ合う姿勢には驚きました。

とくに印象的だったのは、片山さつき議員(自民)が国防について「9条の通りにはなっていません」と言い切り、場内がざわつく場面でした。

ほかにも衛藤晟一議員(自民)の「崇高な仕事である」という理由から自衛隊を憲法に明記する必要があるとし、「集団的自衛権を全面的に認めるべき」だという主張。

松川るい議員(自民)の「憲法改正に意欲的な政党が多い」ことを理由として9条改憲を急ぐべきだという主張。

さらに古床玄知議員(自民)からは裁判所が積極的な憲法判断をするようになれば「自衛隊が憲法違反となる可能性があるため早く改憲すべき」という本末転倒な主張がありました。

改憲ありきの思惑ばかりが先走り、乱暴な改憲根拠を並べ立てる様子は、あきれるばかりでした。

高木真理議員(立憲)が「教育の無償化にかこつけた改憲議論は許されない」と指摘していましたが、誰も異論をはさめない課題で改憲につなげるようなやり方は、改憲がなし崩し的に行われていってしまうのではと心配になります。本当に憲法改正が必要なのか、法改正で対応可能なのか、腰を据えた議論こそ必要なのだと思います。

自分にとって都合のいい意見だけに耳を傾けるような政治では、決してよい未来は拓けません。改憲こそ日本全体の総意だと言わんばかりの主張がされている憲法審査会の現状は、広く共有されるべきだと思いました。

【国会議員から】小沢雅仁さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

議員任期延長改憲論について意見を申し上げます。

任期延長改憲の論拠となっている緊急集会70日間限定説は、憲法審で改憲を主張する会派の説明では、54条1項の40日プラス30日という文理解釈によってのみ、緊急集会を次の新しい国会が70日以内に召集されることを前提とした平時の制度と断定するものです。

しかし、こうした憲法解釈は、54条2項の国に緊急の必要があるときという文理や、緊急集会がナショナルエマージェンシーという大震災等の深刻な国家緊急事態にも対処する有事の制度として制定された立法事実に明確に反する上、民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するなどの戦前の反省に立った非常時の権力濫用の排除です。

また、54条1項の40日プラス30日という規定の趣旨は、解散・総選挙の際の内閣の居座りを排除するものであり、権力の濫用を排除するために設けられた緊急集会の根本趣旨そのものにも全く反します。

すなわち、緊急集会は、1日も早い総選挙の実施を必須としつつ、その間に緊急性を要する立法等を行う必要がある場合に限り、70日を超えても開催できると当然に解すべきものです。にもかかわらず、こうした緊急集会の立法事実や根本趣旨に一言の言及もないまま、70日間限定説を繰り返すのは、緊急集会を恣意的に曲解するもので、濫用排除の制度を破壊して濫用可能な憲法改正を行おうとするものと断ぜざるを得ません。

憲法99条の憲法尊重擁護の義務と立憲主義に反する暴論は国民と参議院を愚弄するもので、我が会派は絶対に容認できず、議員任期延長改憲には明確に反対します。

緊急時における衆院の任期延長は、憲法制定時の経緯や国民主権、基本的人権の尊重、国会中心主義のいずれの観点においても重大な問題をはらむものと言わざるを得ません。

改めて議員任期延長改憲には断固反対を申し上げて私の意見とします。

(憲法審査会の発言から)

2023年12月7日(木) 第212回国会(臨時会)
第5回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54808

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【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

国会議員の任期延長 自民 憲法改正条文案の起草機関を提案
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231207/k10014281041000.html
“衆議院憲法審査会が開かれ、大規模災害など緊急事態での国会議員の任期延長をめぐり、自民党が憲法改正の条文案の起草作業を行う機関を設置するよう提案したのに対し、立憲民主党は現時点で憲法に明記する必要はないと主張しました。”

自民、改憲へ作業機関の設置提案 緊急事態巡り条文案作成
https://www.47news.jp/10231446.html
“与党筆頭幹事を務める自民党の中谷元氏は、緊急事態時の国会議員任期延長や衆院解散禁止などの改憲条文案を作成するため、来年の通常国会で作業機関を設置することを提案した。日本維新の会と国民民主党も賛同した。”

自民、条文起草へ機関設置提案 衆院憲法審、緊急事態条項を想定
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023120700951&g=pol
“審査会後、自民・中谷氏は記者団に、起草機関について、立民の関心が高い「デジタル時代における人権保障」も取り扱う可能性に言及し、立民の理解を求めた。臨時国会での実質的な討議は、今回が最後の見通しだ。”

【傍聴者の感想】

今国会では初めて傍聴しました。

自民党からは緊急事態時の国会議員任期延長や衆院解散禁止などを中心に条文案作成の作業を行う機関設置を提案し、これに公明・維新・国民が賛意を表明するなど、改憲発議に向けた具体的なステップを進めようという方向性が顕著にあらわれていました。

ただ、それぞれの発言内容をみると、改憲それ自体が目的となっているのかどうかという点においては、改憲派のなかでも傾向が分かれている雰囲気を感じました。

改憲のためにスケジュール優先で手続きを事務的に進めるのか、一定議論を積み重ねたうえで進めるのか、という違いもあるように感じます。

時代とともに従来の制度だけでは解決できない問題も多々出てきていると思いますが、改憲それ自体を目的とせず、時代と社会環境の変化をしっかり見据えたうえで、その改善に向けた議論を行うべきだと思います。

一部改憲派野党の議員の私語は、議事進行のみならず、傍聴にも差し障りが出るもので、憲法審査会に対する向き合い方が問われているように感じました。

【国会議員から】中川正春さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

今日は、今国会最後の発言の機会をいただきましたので、憲法審査会の在り方と議論の進め方について、先日の北側幹事の問いかけに答える意味も含め、基本的な認識を共有していきたいと思います。

憲法をテーマにして、各党の政治的な立場を主張することは、もちろん否定されることではありません。その上で、私たちの憲法審査会では、何を行ってきたのか。もう一度、ここで確認してみたいと思います。

これまでの審議過程の中では、少なくとも我々与野党の筆頭幹事の間では、一つの共通した認識がありました。それは、憲法議論では、国民の分断を引き起こすようなことがあってはならないということです。だから、各党が策定した具体的な憲法改正案を、この審査会に正式な形で提出して、多数決でもって決していくことは、しないという暗黙のルールが尊重されてきました。憲法改正の議論は、出来得る限り幅の広い合意を形成することを目指すこと。その合意のもとに、幹事会なり、特別の小委員会なりを作って、それぞれ話し合いのもとに、憲法改正素案を練っていくことが前提になっていると理解しています。

時に、審査会の自由討議に対して、それぞれが言いっぱなしで何も出てこないではないかと批判する人がいます。しかし、これまでの、私達筆頭幹事間での理解は、違います。それぞれ、議員個人として、または党としての場合もありますが、自由討議で表明されたのは、審査会の委員による様々な立法事実とその解決策の提起だったと思っています。現在の憲法に照らして、憲法違反と判断される現実が指摘されたこともある。あるいは、時代の変遷の中で、これまで憲法によって捉えられなかった新しい課題が生じ、憲法改正の必要性が主張されたこともあります。私達の課題は、これらの議論を、どのように発展させていくかということだと思います。

以上のような前提に立って、これからの憲法審査会の進め方として、主に二つの作業を進めることを提案します。

まず一つは、それぞれ提起される課題について、その課題ごとに、どこまで広い合意が可能となるのか、積極的に見極めていくプロセスは必要だと思います。

9条関連、解散権、憲法裁判所、人権委員会、情報分野の人権保障、環境権、一票の格差と地方分権、教育の無償化、同性婚など、それぞれの課題にどこで大方の合意を見出すことができるのか。さらに、幹事会の合意を前提として、次のステップに移って行けるのか。もう少し焦点を絞って、深掘りのできる議論をしていく必要があります。

そのためには、自由討議において、具体的な課題を絞って議論を集約することで、それぞれの方向性を確認していく作業が必要だと思います。ただし、特に、前回の審査会において北側幹事からも指摘のあった、緊急事態条項については、現時点では、私達は憲法に明記する必要はないと考えていることを、これまで何回も申しあげてきました。この課題については、合意が見えていないと判断しています。

今の時点で意見集約できそうだと思われる課題は、国民投票法に関連した見直し作業です。この課題については、特に、ネット社会の進展などによって、当初の国民投票法のあり方では公平、公正な国民投票の実施が出来ない、新しい要素を入れた見直しが必要だという方向性は、確認できていると思います。その原案作成のための作業部会などの設置も含め、前に進めることが出来るのではないでしょうか。

第二に考えていかなければならない事は、国民との対話です。多くの皆さんに指摘されているように、憲法議論に対する国民の関心は、まったく低いものだと思います。この現状を踏まえれば、憲法改正ありきを前提に、それを政治キャンペーン化して利用することは、厳に慎まなければならないと思うのです。

具体的な憲法課題を抜きにして、単に、憲法改正に賛成か、それとも反対かの2極化した世論形成は、国民の中の憲法議論を空洞化します。私達が、審査会の議論で抽出した憲法課題を、国民に投げかけて、幅の広い議論を喚起することを考える必要があります。憲法学者だけでなく、それぞれの分野での有識者を交える討論会や、地方での公開の公聴会の開催などと同時に、マスコミを通じた広報などを提案します。

国際的にも様々な課題に直面している時です。憲法を通じて、私たちの基本的な「生き様」を再検証し、次の時代の生き方を示していけるような審査会の議論にしていきたい。その思いをもって私の発言といたします。

(憲法審査会での発言から)

2023年12月01日

憲法審査会レポート No.28

今週は参議院憲法審査会不開催のため、衆議院憲法審査会のみのレポートです。

【参考】

岸田首相、憲法審の経験なし 辻元氏「改憲姿勢は右派向け」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023112700714&g=pol
“岸田文雄首相は27日の参院予算委員会で、衆院憲法審査会など国会の憲法審議組織に所属したことがないと明らかにした。立憲民主党の辻元清美参院議員は、首相が改憲に前のめりだと指摘し、「自民党総裁再選のために右派をつなぎ留めたい(からだ)」と批判した。”

自民議連、改憲論議加速へ意欲 衛藤氏「年内に条文案」
https://www.47news.jp/10200408.html
“来年9月までの自民党総裁任期中の改憲実現に意欲を示す岸田文雄首相に関し、衛藤氏は総会後、記者団に「実現できなければ岸田政権は終わりだ」とも言及した。”

2023年11月30日(木) 第212回国会(臨時会)
第4回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54793
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

「広報協議会」で討議 役割巡り賛否交錯―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023113000150&g=pol
“衆院憲法審査会は30日午前、憲法改正発議に伴い設置する「国民投票広報協議会」の規定について討議した。新聞・放送広告の掲載手続きなど、国民投票に際して同協議会が担う事務について各党が意見を表明した。”

維・国、改憲論議の継続要求 条文案の早期作成で―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023113001185&g=pol
“維新の青柳仁士氏は「審査会開催をできる限り増やして討議を加速させるべきだ」と主張した。国民の玉木雄一郎代表も緊急事態条項の創設に絞った作業部会の設置を要求。自民党の中谷元氏は「憲法改正できるよう最大限努力していくことは当然の責務だ」と同調した。”
“これに対し、立憲民主党の階猛氏は期限を区切って改憲を目指す首相の姿勢に触れ、「改正の内容を示さずに、期限だけを指定するのは百害あって一利なしだ」などと反発した。”

賛成会派だけで改憲条文検討も 公明、立民に早期結論を要求
https://www.47news.jp/10200017.html
“国民の玉木雄一郎氏は、岸田文雄首相が来年9月までの総裁任期中の改憲に意欲を示していることを踏まえ「任期延長など緊急事態条項について条文案を取りまとめることが現実的ではないか」と主張した。”

衆院憲法審査会 国民投票の広報などめぐり 各党が主張展開
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231130/k10014273331000.html
“衆議院憲法審査会が開かれ、憲法改正の発議後に行う国民投票の広報のあり方や、今後の議論の進め方などをめぐり、各党が主張を展開しました。”

【傍聴者の感想】

11月30日、10時から衆議院憲法審査会が開催され、各党・会派からの意見表明と質疑が行われました。

所信表明演説で岸田首相が、来年9月の任期までに憲法改正を図りたいと発言したことについて、与党と首相の間で真意を確認し、調整がしたかどうかが問われました。自民党の中谷元・与党筆頭幹事は個人的なこととして答弁を控えるとして答えませんでした。「個人的問題」としてすまされるような問題ではないし、責任ある政党としての態度でもありません。いっぽう議論の中で、改正に向けての「熱意が感じられない」(維新・国民)などとの発言が出るありさまでした。

しかし、今期も会期日数がわずかで、発議に向けた法案や関連する法案の内容も具体的に詰められていない中で、首相の言う9月までの改憲は幻でしかありません。
それに関連して改憲派の委員からは、閉会中の審議の継続や改正に向けたスケジュールを示せという声があがりました。

また今回の議論に上がった国民投票法や国民広報協議会の在り方、緊急事態と議員任期の延長問題を巡って与野党での議論はまだまだ隔たりがありました。

緊急事態について、公明党の北側一雄委員は、「議論が煮詰まっており、立憲民主党として「態度を明らかに」と迫り、与党単独で審議に入ると圧力をかけてきました。しかし緊急事態とはいったいどのような事態を具体的に想定しているのかも示さず、条件だけを羅列して具体的な想定もないまま、自民党の石橋茂議員が発言したように「本当に現実味を持って議論されるのか」という指摘に十分にこたえられていません。

国民広報協議会のありかたも、デジタル化、IT、フェイク情報など様々な課題があり、近年その状況が著しく反化する中にあって、どのようにしていくかは議論が煮詰まっておらず、広報の規制の問題も自民党は「政治的表現の自由にかんがみ、できるだけ自由に規制を少なく」という立場で、立憲民主党は公平・公正の立場から規制を設けることと対立する主張をしていました。

国民投票法の中でネット広報をどこまで規制できるか、さらにフェイク情報にどのように対応していくかも十分議論されてはいませんでした。

今回の会議でも自公の他に維新や国民は改正に向けて議論を加速させる発言が目立ちました。しかし最後に発言した石破議員の共同通信の世論調査で憲法改正について国民の関心がたった7%としかなかったことに委員会は危機感をもつべきだという指摘は、改正を急ぐ委員に対して向けられてものでもあったようにも思えました。「本当に現実味を持った議論がなければ」国民は関心を示さないということだと思います。

国民世論との隔たりをかかえたままの改憲論議は危ういものでしかありません。

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

「公明が立民に最後通告? 改憲会派だけで改憲案づくり示唆」―2023年11月30日衆議院憲法審査会

戦争をさせない1000人委員会ウェブサイト「壊憲・改憲ウォッチ(36)」より転載
http://www.anti-war.info/watch/2312011/

タイトルは『産経新聞』2023年12月1日付〔電子版〕の見出しです。

憲法審査会についての『産経新聞』の記事の内容には賛同できないことが多いですが、11月30日の衆議院憲法審査会の上記の見出しについてはその通りでした。

公明党の北側一雄議員は議員任期延長の改憲論について「議論が相当に詰まっているのは間違いない」と発言した上で、立憲民主党が賛成しない場合、「賛成会派だけで条項案についてもやはり検討していくようなステージに入ってきていかざるを得ないんじゃないかな、その時期が近づいてきているように思う」などと発言しました。

公明党は立憲民主党を抜きにして、改憲5会派だけで改憲条文案づくりをすすめることを示唆しました。

日本維新の会の青柳仁士議員は、広報協議会の関係規定の議論について、立憲民主党・社民党と共産党を念頭に置き、改憲阻止のために「無為に遅らせる議論」を「工作」とした上で、「全会一致」でなく、「機が熟すれば多数決という民主的な手続でなされるべきです」と発言しました。

国民民主党の玉木雄一郎議員も「少なくとも4党1会派ではおおむね意見の集約が図れていると思います」と発言した上で、「議員任期の特例延長規定を創設するための憲法改正の条文案を作る作業部会の設置についてぜひお願いしたい」と発言しました。

2023年11月、新潟県で護憲大会が開かれました。

パネリストとして参加していた新垣邦男議員は、「国政に出る前は北中城村長を長くやっていたんですが、国会というところは格式高い、すごく高邁な議論をしているんだろうなと思っていたんです」と述べていました。

新垣議員が批判するように、衆議院憲法審査会ではレベルの低い主張がされています。

日本維新の会や国民民主党は「自民党の熱意と本気度がなかなか感じられない」(玉木雄一郎議員)などと自民党を批判しました。

公明党も強行的な憲法審査会の運営を示唆しました。

11月30日の憲法審査会の最期に発言したのが石破茂議員でした。

彼は、たとえば以下の主張をしました。

「なぜ〔参議院の〕緊急集会ではだめなのかという議論が私は十分だと思っていません」。

日米地位協定について、石破氏が防衛庁長官であった2004年に沖縄国際大学にCH53が墜落したときに日本の警察が全く入れなかったことなどを例に挙げ、「本当にそれが独立国家のあるべき姿か」と批判し、「地位協定の改定も含めて早急に議論しなければ、独立主権国家日本たり得ない」と発言しました。

私は折に触れ、「日本維新の会や国民民主党の主張を聞くと、自民党がまともに見える」と発言してきました。

たとえば日米地位協定や憲法に関する主張や結論、石破議員と私は根本的に違いますが、それでもきちんと現実を踏まえて丁寧な議論をしようとする姿勢はそれなりに感じられます。

一方、圧倒的多くの国民が求めてもいないのに憲法改正国民投票を「国民の権利」などと発言し、まだ十分な議論も尽くされていないのに公明党、日本維新の会、国民民主党は強行的な手続・手段を主張します。

こうした状況で改憲の条文案が作成され、改憲が進むことが本当に国民のためなのでしょうか?

【国会議員から】階猛さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

前回の衆院憲法審査会で自民党の中谷筆頭は、憲法改正や国民投票は、国民に理解していただくためにはプロセスや内容が非常に大事だと発言しました。その後、岸田首相は、来年9月までの自民党総裁任期中の憲法改正を目指す旨を答弁しました。

そもそも岸田首相は、憲法改正の期限にはこだわるものの、改正の内容についてはこだわりが見えません。22日の予算委員会でも、三木委員から緊急事態の際の議員の任期延長について憲法改正議論を進めることについて見解を問われ、答弁を避けました。

憲法改正の期限については自民党総裁の立場を持ち出して積極的に答弁しつつ、憲法改正の内容については内閣総理大臣の立場を持ち出して答弁を避ける、極めて御都合主義の姿勢です。

今に始まったことではありませんが、岸田首相は、ぶれずに一貫した言動を取るべきです。仮に内閣総理大臣の立場にこだわるのであれば、行政府のトップとして憲法尊重擁護義務を負う以上、憲法改正の期限に言及すべきではありません。他方、自民党総裁の立場にこだわるのであれば、憲法改正の内容を示さずに改正の期限だけを指定するのは、建築工事の発注において、設計図を示さずに完成時期を指定するようなものです。立ち位置が定まらない岸田氏の発言は百害あって一利なしだと指摘します。

さて、憲法に関し国会が何を優先して議論すべきか。今年5月の朝日新聞の世論調査が参考になります。 それによると、7項目の中からの複数回答で、1位が憲法改正のための国民投票の在り方で46%、2位がデジタル時代における人権保障の在り方で44%、3位が敵基地攻撃能力の保有で43%です。緊急事態時の国会議員の任期延長は18%にすぎず、下から2番目です。

わが党は、国民が最も関心を持っている上位2つのテーマにつき、通常国会終了後にワーキングチームをつくり、私が座長となって検討を進めてきました。

デジタル時代における人権保障のあり方については、生成AIの急激な発達、普及や戦闘地域でのフェイク情報の拡散により、先ほどの世論調査の時点よりも更に国民の関心は高まっていると思います。

私たちは、インターネットとSNSの普及に加え、昨今のAIやデジタル技術の急速な進展が国民に多くの恩恵をもたらしていることを否定するものではありません。他方で、利用者の関心を引きつけることを重視するアテンションエコノミー、対象者の特性や個人情報を分析し、嗜好や行動パターンを推測して情報提供するマイクロターゲティングの悪影響は看過できません。そして、こうした手法などにより、個々人が自分の趣味、嗜好に合う情報だけに取り込まれてしまうフィルターバブルや、同じような意見を持つ者同士で議論を重ねて極端な考えに至るエコーチェンバーという現象が見られるようになっています。

また、誤情報、偽情報といった有害無益な情報や他者を傷つける情報が拡散し、周知されやすくなる一方、本来拡散、周知されるべき公共の利害に関わる重要な情報については、公権力による廃棄、隠蔽、改ざんや報道機関への圧力によって拡散、周知されにくくなっている状況が生じていることは極めて問題です。

これらの結果、社会の分断が進み、民主主義の前提たる建設的な議論が困難になるほか、個人の意思形成過程がゆがめられ、内心の自由が侵される憲法十九条の問題、本人に無断でその人物像が形成、利用され、個人の人格的自律が脅かされ憲法十三条の問題、匿名による無責任な誹謗中傷や個人情報の発信、拡散により名誉権やプライバシー権が侵害される同じく憲法13条の問題、国民が本来入手すべき情報を入手できないことにより言論の自由や取材、報道の自由が空洞化する憲法21条の問題などなど、数々の憲法問題が現に生じたり、将来生じたりする危険が高まっています。

以上の問題を解決する方法として、現状の憲法規範には手を加えず、法令で必要な措置を講じるべきか、それとも、憲法規範そのものを必要な範囲で見直すとともに、これを具現化する法令を制定していくべきか、両論あり得ると思いますが、議論に際しては、憲法が志向する国家観が大きく変容してきたことを念頭に置くべきと考えます。

すなわち、19世紀以前の憲法は夜警国家を志向し、国家の役割は極力限定して、国家からの自由を保障することが中心でした。しかしながら、産業資本主義と都市化、工業化の進展により、二十世紀の憲法は福祉国家を志向し、国家による自由を保障するようになりました。そして21世紀の今、金融資本主義とグローバル化、デジタル化の進展により、憲法は情報国家、つまり、国民の自己実現と自己統治にとって不可欠な思想、言論の自由市場を機能させるために国家が積極的な役割を果たす国家、これを志向する必要があるのではないでしょうか。

こうした歴史的視座に立った場合、情報国家にふさわしい憲法はどうあるべきかというテーマは極めて重要です。憲法改正という選択肢も視野に置きつつ、党派を超えて建設的な議論を行うべきです。

衆院憲法審査会では、これまで国会議員の任期を延長すべしという意見があちらからもこちらからも上がり、響き渡ってきました。これぞまさしくエコーチェンバーです。衆院憲法審査会が時代や民意から隔絶されたフィルターバブルに陥ることなく、国民が真に望む重要なテーマについて腰を落ち着けて虚心坦懐に議論する場となることを切に望みます。

(憲法審査会での発言から)

2023年11月03日

憲法審査会レポート No.24

今国会での憲法審査会をめぐる動きについて

10月20日から、第212回臨時国会が開催中です。23日の所信表明演説で、岸田首相は「国会の発議に向けた手続を進めるためにも、条文案の具体化など、これまで以上に積極的な議論が行われることを心から期待します」などと述べ、改憲へ執着する姿勢を示しています。

この間、とりわけ衆議院での憲法審査会の定例的開催が強行されてきました。また、維新の会や国民民主党による後押しなども続いてきました。今国会においてはさらに「論点整理」などを積み上げて、具体的な条文案作成へとステップを進めていくことが狙われている状況にあると言えます。

11月2日に開催された今国会1回目の衆議院憲法審査会は、幹事の選任という事務手続きのみの議事でしたが、終了後の取材に対して維新の馬場代表が改憲に慎重な立憲民主党は退場すべきなどと強い調子で語っているように、さらに改憲を呼号しながら立憲野党への攻撃を強めることも予想されます。

本レポートは、国会開催中は週1回ペースでの発行を続けていく予定です。引き続きのご注目をお願いするとともに、いま・まさに改憲をめぐる重大な局面にあるという危機感を、地域・職場で共有していただくことを強く呼びかけます。

なお、今週の参議院憲法審査会は不開催でした。

【マスコミ報道から】

今国会で初の衆院憲法審査会 憲法改正めぐり与野党議論へ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231102/k10014245461000.html
“衆議院憲法審査会は今の国会で初めて開かれ、幹事の選任を行いました。”
“これに先立って開かれた幹事会では、森会長らがフランスなどを訪れた海外視察の報告を来週9日の審査会で行うことを決めました。”

憲法改正「首相の本気度」問う声 衆院審査会、初日は1分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023110201126&g=pol
“自民内では、首相が改憲に前のめりな発言を続けるのは、総裁再選や衆院選をにらみ「保守派の支持をつなぎ留めるため」との見方もある。維新幹部は「首相は本気で改憲を進めなければ自分の首を絞める。保守派の支持離れが進む」とけん制した。”

2023年08月18日

憲法審査会レポート No.23

平和フォーラムは、国会における改憲発議をめぐる動きを把握・共有することを目的として、昨年秋の第210臨時国会および今年上半期の第211通常国会の開催期間を中心に「憲法審査会レポート」を発行してきました。

この間、衆議院憲法審査会の定例的開催が継続するなか、参議院憲法審査会においても熾烈な攻防が進行していること。政権与党の自民・公明のみならず、維新・国民・有志による改憲発議に向けた後押しが強まっていること。「緊急事態条項」をめぐる「議論」をテコにしながら改憲発議の具体的なステップを重ねようとしていること。これらを踏まえ今秋以降、相当強い危機感をもって改憲阻止のとりくみを行う必要があると判断しています。

今回、飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)から衆参憲法審査会の現状を分析する論考をご寄稿いただきました。現状把握と今後に向けた議論の土台として、それぞれの職場・地域などで、活用していただくことを呼びかけます。

憲法改正と憲法審査会の状況

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】「憲法審査会」に対する正確な状況認識の必要性

岸田首相は折に触れて「憲法改正」を実現すると発言してきた。憲法改正には、改正案に衆議院と参議院の各議院の総議員の3分の2以上が賛成⇒国民投票という手続を経る(憲法96条)。さらに細かく手続を紹介すると、衆議院と参議院の憲法審査会で憲法改正原案が作成・採決されたのちに各議院の本会議で総議員の3分の2以上の賛成が必要になる。

憲法改正に関わるに際しては、改憲議論等がどの段階で、どのような状況にあるかを正確に認識する必要がある。そこで本稿は主に憲法審査会の状況を紹介する。

【2】憲法審査会での改憲本体の議論状況

自民党や日本維新の会が目指す憲法改正の中心は9条である。ただ、今は憲法9条改憲の原案が作成・合意されたというにはほど遠い状況にある。自民党は「自衛隊明記」の改憲論を主張してきたが、憲法審査会で公明党は9条ではなく、72条、73条への自衛隊明記を主張している。国民民主党の玉木雄一郎代表は9条2項の削除論を主張した(公明党や国民民主党の9条改憲論の問題点は1000人委員会HP内にある「壊憲・改憲ウオッチ」参照)。

岸田自公政権下で進められている「戦争できる国づくり」のためには憲法9条だけでなく「緊急事態条項」の導入の憲法改正も必要になる。ただ、「緊急事態条項」の導入には衆議院憲法審査会で公明党が反対している。とはいうものの、衆議院憲法審査会で公明党は「議員任期の延長の憲法改正」には賛成している。

2023年6月15日、衆議院憲法審査会で公明党北側一雄委員も「緊急事態における議員任期延長の必要性についてはおおむね一致しています。議員任期延長の要件と効果について、現時点で若干の相違点はあるものの、あとで述べますように、5会派間での具体的な合意形成は十分に可能と考えられます」と述べている。衆議院憲法審査会では「議員任期延長の改憲」のための条文案作成にむけて動き出す可能性がある。

【3】改憲手続法(憲法改正国民投票法)をめぐる憲法審査会の状況

2022年4月14日、衆議院憲法審査会で日本維新の会の足立康史議員は「私たちは、あとやるべきは、公選法の積み残しの3項目 、これをしっかりと、直ちに公選法並びの国民投票法 改正をすれば、まさにいつでも十分な憲法改正の国民投票ができるという立場であります」と発言している。

「公選法の積み残しの3項目」、いわゆる「公選法並び3項目」とは、①悪天候で離島から投票箱を運べなかった経験を踏まえた開票立会人の選任に係る整備、②投票立会人の選任要件の緩和、③FM放送設備による憲法改正案の広報放送の追加である。この3項目を公職選挙法に合わせた改憲手続法改正が必要というのが自民党、公明党、日本維新の会の立場である。憲法改正国民投票が実施される前には、「公選法並び3項目」の改憲手続法の改正が行われることになる。

【4】衆議院憲法審査会の構成

たとえば2023年5月12日の衆議院憲法審査会での発言者を紹介する。いわゆる「護憲」の立場で発言したのは奥野総一郎議員(立憲民主党)、赤嶺政賢議員(共産党)、城井崇議員(立憲民主党)、そして新垣邦男議員(社民党)の4人である。

一方、改憲賛成派は新藤義孝議員(自民党)、岩谷良平議員(日本維新の会)、濵地雅一議員(公明党)、玉木雄一郎議員(国民民主党)、北神圭朗議員(有志の会)、柴山昌彦議員(自民党)、小野泰輔議員(日本維新の会)、北側一雄議員(公明党)、山下貴司議員(自民党)の9人である。

護憲派議員が発言したのは4回に対して、改憲5会派の議員は9回も発言している。憲法審査会での勢力に違いがありすぎるので、立憲民主党や社民党、共産党が奮闘しても「数」で圧倒される状況にある。

【5】改憲阻止にむけたとりくみ

「論点は既に出尽くしていると思われます」(2023年6月15日、衆議院憲法審査会での北側一雄公明党委員発言)とのように、衆議院憲法審査会では「議員任期延長の改憲論」の条文案の作成等に進む可能性がある。紙幅の関係でここで詳しく述べられないが、「議員任期延長の改憲論」は行政と国会の歴史的背景や憲法の意義をあまりにも軽視しており、極めて危険な事態をもたらす可能性がある。そこで「議員任期延長の改憲論」の問題点と危険性を社会に広めるとりくみが必要となる。

改憲手続法に関しては、「公選法並び3項目」の改正が必要だが、CM規制、外国資本規制、ネット規制等は不要というのが自民党、日本維新、公明党の立場である。憲法改正国民投票の前には改憲手続法の改正が行われる。その際に「最低投票率」・「最低得票率」や公務員や教師の地位利用規定などの問題を再び提起するとりくみが重要となる。

根本的な問題として、憲法審査会の構成を変えるとりくみ、端的に言えば「【4】衆議院憲法審査会の構成」で紹介したような状況を変えるため、「選挙」でも憲法改正を視野に入れたとりくみが必要となる。

 

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