憲法審査会レポート、2024年

2024年04月26日

憲法審査会レポート No.36

4月25日、衆議院憲法審査会が開催され、今国会3回目となる自由討議が行われました。
いっぽう、参議院憲法審査会幹事懇談会は24日に開催され、5月8日に自由討議を行うことで合意しました。

【参考:参議院憲法審査会をめぐって】

参院憲法審、5月8日の実質審議開催で合意 参院の緊急集会は合意至らず
https://www.sankei.com/article/20240424-WUS2ZTCD2RNQHGK5BHT5H6QNLQ/
“参院憲法審査会の幹事懇談会が24日開かれ、今国会初の実質的な審議を5月8日に開催することで合意した。「憲法に対する考え方」をテーマに自由討議を実施する。自民党は衆院解散後の緊急時に参院が国会機能を暫定的に代行する第54条「緊急集会」に関して5月15日にも自由討議を行うべきだと提案したが、合意には至らなかった。”

参院憲法審査会、来月8日に初の実質討議 テーマ決めは難航の見込み
https://www.asahi.com/articles/ASS4S2RKJS4SUTFK01SM.html
“…緊急時に国会議員の任期を延長するための改憲原案づくりは、衆院憲法審で焦点となっているが、参院の緊急集会の存在意義にかかわる。そのため、公明の参院側は議論には応じるものの、任期延長のための改憲は不要との立場をとっている。”

2024年4月25日(木) 第213回国会(常会)
第4回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55188
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

自民「広報協議会の議論加速を」 衆院憲法審が自由討議
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024042500468&g=pol
“衆院憲法審査会は25日、今国会3回目となる自由討議を行った。憲法改正の発議があった際に国会に設置する「国民投票広報協議会」に関し、自民党の寺田稔氏は「規定の条文化作業など、権限や役割についての議論を加速させるべきだ」と述べた。”

自民求める改憲原案起草委、設置メド立たず 本気度に疑問の声も
https://www.sankei.com/article/20240425-BU6M3Z4AXNJF5D3OFKMKA3OTSI/
“起草委を巡っては与党筆頭幹事の中谷元氏(自民)が重ねて設置を訴えているが、実現の目途は立っていない。憲法審終了後、中谷氏は記者団に「(立民から)全く答えがないという状況だ」と述べるにとどめた。”

衆院憲法審査会で自由討議 緊急事態での議員の任期延長など
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240425/k10014432901000.html
“立憲民主党の逢坂代表代行は「大規模災害時などに議員の任期を延長すべきだという議論が出ているが非常に安易だ。『何でもいいから憲法を変えればいい』という議論に思われ、まずは災害時などの緊急時に選挙ができるような工夫を最大限行うべきだ」と述べました。”

【傍聴者の感想】

若葉が芽吹く季節、この日も国会見学の子どもたちが大勢いました。国会は国権の最高機関であって国の唯一の立法機関であること、法律の制定や予算の審議・議決、憲法改正の発議などが大きな役割であると学んだことを思い出しながら、今の政治が本当に子どもたちに胸を張れる議論が出来ているのだろうかと、疑問を抱きつつ子どもたちの背中を見送りました。

直近の衆院憲法審査会の議論は、緊急時の対応として緊急事態条項を憲法に創設し、議員任期延長を可能とすることを憲法に明記すべき、議論は出尽くしたとする主張が改憲推進5会派から続いています。この日も日本維新の会の小野委員からは、「お互いの意見が出尽くしたのであれば、採決するのが民主主義ではないか、このままだらだらと進めるのか、自民党の決断を求める」と、改憲を党是とする自民党を煽る発言がされています。

有志の会の北神委員からは「緊急事態が起きてから「想定外でした」ではだめ。国会機能の維持に絞って発議に向けて条文案作りを進めるべき」と意見が出され、自民党の山田委員は「緊急事態について「なぜ?」の段階は過ぎた」といった主張が繰り返されました。

こうした与党や一部野党の主張に対し、立憲民主党の逢坂野党筆頭幹事は、自身の自治体職員時の経験を踏まえながら、「1993年の北海道・奥尻地震の際も、苦労はしたが選挙は実施した。本当に災害時に選挙はできないのか、災害にも強い選挙方法はないのか、そういう議論こそ必要ではないのか」と、改憲推進派の主張に反論しました。

日本における参政権は、憲法第15条において「国民固有の権利である」と定められています。参政権とは国民の権利の一つであり、過去の判例においても「参政権は国民主権に由来し認められる」と判断されています。主権とは「国を統治する権力」のことです。災害時などの緊急時を例に挙げ、憲法の基本的理念の一つである「国民主権」を制限し、国会の権限を強化することは本末転倒の主張で許されるものではありません。さらに逢坂野党筆頭幹事は、度重なる岸田首相の改憲に前のめりの発言は、落ち着いた議論の阻害要因であると批判しました。

この日の議論の特徴として、憲法改正の発議があった際に国会に設置し、国民への広報に関する事務を担う「国民投票広報協議会」に関して意見が出されました。自民党の寺田委員は「既定の条文化作業など、権限や役割についての議論を加速させるべきだ」と主張。公明党の北側幹事も「国民投票は往々にして政権に対する信任投票になりがちで、改憲の内容を国民に支持してもらうためには、発議までに国民に理解してもらう努力が必要で、広報協議会の役割は重要である」と同調しました。

国民民主党の玉木委員は「今国会の審査会も残り7回である。緊急事態条項に絞って発議に向けた議論を進めるべき。いついかなるときも国会機能を維持することが目的であって、緊急事態条項という名称は国会機能維持条項に変えるべき」と主張。自民党の中谷与党筆頭幹事は「名称変更は検討したい。幹事懇で条文案作成すべきとの意見もある。反対会派にも出席をいただいて熟議を重ねる必要がある」と応じました。

今国会では、次期戦闘機の第三国への輸出を可能とすることが、国会審議も経ずに閣議決定されました。その他にも衆院を通過した「経済安全保障推進法」は、個人のプライバシーといった人権侵害の懸念があります。「地方自治法の一部改正案」は、国と地方自治体の関係を対等とする地方分権に逆行しかねない法案です。数の力で押し切る民意を無視した与党の強行姿勢は容認できません。憲法も法案も腰を落ち着けた丁寧な議論こそ必要だと感じます。

未来を担う子どもたちが、希望に胸を膨らませることができる、そうした社会をつくることは大人たちの責任です。

【国会議員から】牧義夫さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

これまでの憲法審査会の議論が嚙み合っていないと感じています。

改憲を急ぐ皆さんのお話を伺っていると、内容はともかく改憲そのものが目的化しているようにしか聞こえません。改憲の必要性や立法事実に疑問をもつ者の一人として、その理由を述べさせていただきます。

緊急事態条項の創設について、2022年参院選の際のネット投票に関するアンケートで、各党が実現に賛成と回答しており、反対表明はありませんでした。2021年提出のネット投票法案には、国民民主党も日本維新の会も共同提出者になっています。与党が判断すれば、明日からでも実施に向けた具体的な検討に入ることができます。国会審議についても、リモート機能で対応できることはパンデミックの経験を通じて実証済みです。

次に、教育無償化についてです。現行憲法で義務教育無償化は保障されています。そのうえで、高等教育無償化についても国連人権規約(A規約)にある「斬新的無償化」の条項を、長年にわたってわが国は留保してきましたが、2012年、民主党政権によって留保が解除されています。

次に、9条についてです。岸田政権は2022年12月、専守防衛の原則に基づく従来の安保政策を大転換し、新たな防衛三文書を閣議決定しました。防衛費をGDP比2%に倍増し、「敵基地攻撃能力」つまり先制攻撃容認に踏み切りました。この時点で既に現行憲法を逸脱しています。自衛隊の明文化という意見もありますが、世界最大の軍事大国のアメリカにおける軍隊の位置づけを見ると、アメリカ合衆国憲法の第8条(連邦議会の立法権限)の12項に「陸軍の編成(歳出の承認は2年を超えない)」、13項に「海軍の創設と維持」、15項に「反乱鎮圧のための民兵団の召集」がありますが、海兵隊や宇宙軍、サイバー軍などは明記されていません。

防衛力の増強こそが抑止力の強化につながるとの意見もあります。私は現行憲法の9条1項、2項の存在こそが何よりも戦争抑止力になっていると思います。「自らは戦争しない」と謳っている国に対して武力攻撃を仕掛けることは、国際社会の中で相応の避難と制裁を覚悟しなければなりません。今回の敵基地攻撃能力保持で、その抑止力の一部が損なわれることを危惧します。

ロシアによるウクライナ侵攻は、大いに非難されるべきものではありますが、NATOの東側への拡大やウクライナのNATO加盟への意思、つまりロシアに対する挑発が無ければ、或いはロシアを侵攻に至らせなかったことも可能だったとの見方もあります。

以上、立法事実に関して述べさせていただきました。

次に、改憲推進5会派の思惑もそれぞれであることを、先週の審査会での維新委員の発言を聞いて感じました。「予算委員会のときは委員長職権で押し切られ悔しい思いをしたが、当審査会でこそ会長の職権で前に進めてほしい」という旨の意見でしたが、私は責任ある与党が軽々にそうした無責任な挑発には乗らないと信じています。

なぜならば、責任ある与党の皆さんは、現行憲法の成り立ちについて十分に理解し、現実を踏まえ、特に9条についても既に解釈改憲で事足りると考えているのではないかと思われ、岸田総理の発言も自民党支持層に向けての単なるリップサービスだと理解しています。
憲法について深い議論を重ねることは大いに歓迎しますが、かつての「首都機能移転」の時のように、最後に各論に入ったとたん、それぞれの思惑の違いから破たんすることが容易に想像されます。

先ほど「現行憲法の成り立ちについて」と申し上げました。昭和21年に成立した日本国憲法が、GHQから押し付けられたものかそうでないのかの議論をここでするつもりはありませんが、少なくとも占領下で制定された憲法であることは事実です。

本来であれば昭和26年サンフランシスコ平和条約で主権回復したことで、改めて新憲法を制定することもできたかではなくて、敢えて自らの意思で現行憲法を保持することを決めたと解すべきで、それならばポツダム宣言第12項の趣旨にも沿っています。

ここで忘れてならないのは、平和条約と同時にその陰で日米安保条約・行政協定(地位協定)が結ばれたということです。占領が解除されると同時に、アメリカが望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を約束したわけです。

日米安保条約(地位協定)を見直すといった真正面からの議論であれば、「お試し改憲」のような不毛な議論よりも、もっと意味のある議論になると思います。

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著者:吉田はるみ(立憲民主党・衆議院議員)
新垣邦男(社会民主党・衆議院議員)
打越さく良(立憲民主党・参議院議員)
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編集:フォーラム平和・人権・環境
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(憲法審査会での発言から)

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