憲法審査会レポート、2023年
2023年12月08日
憲法審査会レポート No.29
今週は参議院・衆議院ともに憲法審査会が開催されました。今臨時国会は12月13日閉会予定ですので、今国会での憲法審査会はこれをもって終了の見込みです。
【参考】
首相 緊急事態条項など4項目の憲法改正案踏まえ 絞り込み指示
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231205/k10014278941000.html
“憲法改正に向けた自民党の会合で岸田総理大臣は、党としてまとめている「緊急事態条項」など4項目の改正案を踏まえ、党派を超えて連携できる項目を絞り込むよう指示しました。”
憲法改正「項目取りまとめを」 岸田首相、実現本部に出席
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023120500918&g=pol
“内閣支持率が低迷する中、改憲に本気で取り組む姿勢を保守層にアピールする狙いがある。古屋圭司本部長は「(会議への出席は)党総裁としての思いを象徴している」と記者団に語った。”
憲法審査会が給料ドロボーと呼ばれないように
https://www.sankei.com/article/20231202-M7VE32UPQVLI7BYDZTTMWUGPWU/
“「実現できなければ、岸田文雄政権は終わり。はっきり言って、完全に終わりだ」。自民党の憲法改正推進議員連盟の衛藤征士郎会長は11月30日、断言した。首相が来年9月までの党総裁任期中の実現を目指す憲法改正について、である。強烈な言葉だが、「やるやる詐欺」にうんざりしている国民感情を代弁している。”
改憲実現に課題山積の自民 高村正彦元副総裁が公明と調整へ
https://www.sankei.com/article/20231207-YYHGW5MVZNKYZB6PPAXI7ECD7A/
“ただ、臨時国会は改憲案作りが具体化しないまま終了する見通しで、改憲を期待する他党や保守陣営では自民に対し、不信感が芽生えつつある。維新や国民民主などは自民の本気度が見えない場合、改憲の可否を問う国民投票に向けたスケジュール設定や定例日以外の憲法審の開催、閉会中審査などを求める書面を突き付ける構えだ。”
2023年12月6日(水)第212回国会(臨時会)
第2回 参議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7679
【会議録】
※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)
【マスコミ報道から】
参院 憲法審査会 憲法9条改正などめぐり各党が主張展開
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231206/k10014280031000.html
“参議院の憲法審査会で自由討議が行われ、大規模災害など緊急事態での国会の機能を憲法に規定するかや憲法9条を改正して自衛隊を明記するかなどをめぐり各党が主張を展開しました。”
自民、条文案へ作業部会提案 参院憲法審、立民反発
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023120600928&g=pol
“自民党の衛藤晟一氏は、緊急事態条項の創設や自衛隊の明記を挙げて、作業部会の設置を主張。「憲法改正原案を具体的に詰める」と強調した。”
“これに対し、立民の辻元清美氏は自民党派閥の裏金疑惑に触れ、「政治の信頼なくして憲法論議は成り立たない」と反発。”
参院憲法審 改憲に積極的な4党、緊急事態条項議論で温度差
https://mainichi.jp/articles/20231206/k00/00m/010/167000c
“自民、日本維新の会、国民民主の3党は、選挙の実施が困難な時に特例的に衆院議員の任期を延長する緊急事態条項創設に向けた早期の条文案作成を主張。一方、公明党は、衆院議員不在時の国会機能を代行する憲法54条2項の「参院の緊急集会」の権限も含めた議論の継続を求めた。衆院では条文案作成の方向で共同歩調をとった4党だが、参院では歩みに乱れが生じた。”
【傍聴者の感想】
12月6日の参議院憲法審査会では、各会派による憲法に対する考え方の表明から始まり、その後各委員から個別案件について意見表明が行われました。
与党会派は、自衛隊明記、緊急事態条項について憲法改正が必要であることが強く訴えました。また、憲法改正原案を作る作業チームを作り、具体的に進めていくべきと主張しました。
野党会派からは、パーティー券による裏金問題が起きていることを挙げ、そもそも憲法改正議論をする以前に「政治に対する信頼」という土台が成り立っていないと意見が出ました。
各委員からの発言が次々に行われましたが、やや感情的な発言が続きました。中曽根弘文会長(自民)が、委員からの発言や提案のうちの一部については「幹事会で取り扱う」としたうえでこの日の審査会は閉会しました。
初めての憲法審査会傍聴でした。参議院では比較的落ち着いた議論であると聞いていましたが、一度の発言に言葉を詰め込み、意見をぶつけ合う姿勢には驚きました。
とくに印象的だったのは、片山さつき議員(自民)が国防について「9条の通りにはなっていません」と言い切り、場内がざわつく場面でした。
ほかにも衛藤晟一議員(自民)の「崇高な仕事である」という理由から自衛隊を憲法に明記する必要があるとし、「集団的自衛権を全面的に認めるべき」だという主張。
松川るい議員(自民)の「憲法改正に意欲的な政党が多い」ことを理由として9条改憲を急ぐべきだという主張。
さらに古床玄知議員(自民)からは裁判所が積極的な憲法判断をするようになれば「自衛隊が憲法違反となる可能性があるため早く改憲すべき」という本末転倒な主張がありました。
改憲ありきの思惑ばかりが先走り、乱暴な改憲根拠を並べ立てる様子は、あきれるばかりでした。
高木真理議員(立憲)が「教育の無償化にかこつけた改憲議論は許されない」と指摘していましたが、誰も異論をはさめない課題で改憲につなげるようなやり方は、改憲がなし崩し的に行われていってしまうのではと心配になります。本当に憲法改正が必要なのか、法改正で対応可能なのか、腰を据えた議論こそ必要なのだと思います。
自分にとって都合のいい意見だけに耳を傾けるような政治では、決してよい未来は拓けません。改憲こそ日本全体の総意だと言わんばかりの主張がされている憲法審査会の現状は、広く共有されるべきだと思いました。
【国会議員から】小沢雅仁さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)
任期延長改憲の論拠となっている緊急集会70日間限定説は、憲法審で改憲を主張する会派の説明では、54条1項の40日プラス30日という文理解釈によってのみ、緊急集会を次の新しい国会が70日以内に召集されることを前提とした平時の制度と断定するものです。
しかし、こうした憲法解釈は、54条2項の国に緊急の必要があるときという文理や、緊急集会がナショナルエマージェンシーという大震災等の深刻な国家緊急事態にも対処する有事の制度として制定された立法事実に明確に反する上、民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するなどの戦前の反省に立った非常時の権力濫用の排除です。
また、54条1項の40日プラス30日という規定の趣旨は、解散・総選挙の際の内閣の居座りを排除するものであり、権力の濫用を排除するために設けられた緊急集会の根本趣旨そのものにも全く反します。
すなわち、緊急集会は、1日も早い総選挙の実施を必須としつつ、その間に緊急性を要する立法等を行う必要がある場合に限り、70日を超えても開催できると当然に解すべきものです。にもかかわらず、こうした緊急集会の立法事実や根本趣旨に一言の言及もないまま、70日間限定説を繰り返すのは、緊急集会を恣意的に曲解するもので、濫用排除の制度を破壊して濫用可能な憲法改正を行おうとするものと断ぜざるを得ません。
憲法99条の憲法尊重擁護の義務と立憲主義に反する暴論は国民と参議院を愚弄するもので、我が会派は絶対に容認できず、議員任期延長改憲には明確に反対します。
緊急時における衆院の任期延長は、憲法制定時の経緯や国民主権、基本的人権の尊重、国会中心主義のいずれの観点においても重大な問題をはらむものと言わざるを得ません。
改めて議員任期延長改憲には断固反対を申し上げて私の意見とします。
(憲法審査会の発言から)
2023年12月7日(木) 第212回国会(臨時会)
第5回 衆議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54808
※「はじめから再生」をクリックしてください
【会議録】
※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)
【マスコミ報道から】
国会議員の任期延長 自民 憲法改正条文案の起草機関を提案
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231207/k10014281041000.html
“衆議院憲法審査会が開かれ、大規模災害など緊急事態での国会議員の任期延長をめぐり、自民党が憲法改正の条文案の起草作業を行う機関を設置するよう提案したのに対し、立憲民主党は現時点で憲法に明記する必要はないと主張しました。”
自民、改憲へ作業機関の設置提案 緊急事態巡り条文案作成
https://www.47news.jp/10231446.html
“与党筆頭幹事を務める自民党の中谷元氏は、緊急事態時の国会議員任期延長や衆院解散禁止などの改憲条文案を作成するため、来年の通常国会で作業機関を設置することを提案した。日本維新の会と国民民主党も賛同した。”
自民、条文起草へ機関設置提案 衆院憲法審、緊急事態条項を想定
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023120700951&g=pol
“審査会後、自民・中谷氏は記者団に、起草機関について、立民の関心が高い「デジタル時代における人権保障」も取り扱う可能性に言及し、立民の理解を求めた。臨時国会での実質的な討議は、今回が最後の見通しだ。”
【傍聴者の感想】
今国会では初めて傍聴しました。
自民党からは緊急事態時の国会議員任期延長や衆院解散禁止などを中心に条文案作成の作業を行う機関設置を提案し、これに公明・維新・国民が賛意を表明するなど、改憲発議に向けた具体的なステップを進めようという方向性が顕著にあらわれていました。
ただ、それぞれの発言内容をみると、改憲それ自体が目的となっているのかどうかという点においては、改憲派のなかでも傾向が分かれている雰囲気を感じました。
改憲のためにスケジュール優先で手続きを事務的に進めるのか、一定議論を積み重ねたうえで進めるのか、という違いもあるように感じます。
時代とともに従来の制度だけでは解決できない問題も多々出てきていると思いますが、改憲それ自体を目的とせず、時代と社会環境の変化をしっかり見据えたうえで、その改善に向けた議論を行うべきだと思います。
一部改憲派野党の議員の私語は、議事進行のみならず、傍聴にも差し障りが出るもので、憲法審査会に対する向き合い方が問われているように感じました。
【国会議員から】中川正春さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)
今日は、今国会最後の発言の機会をいただきましたので、憲法審査会の在り方と議論の進め方について、先日の北側幹事の問いかけに答える意味も含め、基本的な認識を共有していきたいと思います。
憲法をテーマにして、各党の政治的な立場を主張することは、もちろん否定されることではありません。その上で、私たちの憲法審査会では、何を行ってきたのか。もう一度、ここで確認してみたいと思います。
これまでの審議過程の中では、少なくとも我々与野党の筆頭幹事の間では、一つの共通した認識がありました。それは、憲法議論では、国民の分断を引き起こすようなことがあってはならないということです。だから、各党が策定した具体的な憲法改正案を、この審査会に正式な形で提出して、多数決でもって決していくことは、しないという暗黙のルールが尊重されてきました。憲法改正の議論は、出来得る限り幅の広い合意を形成することを目指すこと。その合意のもとに、幹事会なり、特別の小委員会なりを作って、それぞれ話し合いのもとに、憲法改正素案を練っていくことが前提になっていると理解しています。
時に、審査会の自由討議に対して、それぞれが言いっぱなしで何も出てこないではないかと批判する人がいます。しかし、これまでの、私達筆頭幹事間での理解は、違います。それぞれ、議員個人として、または党としての場合もありますが、自由討議で表明されたのは、審査会の委員による様々な立法事実とその解決策の提起だったと思っています。現在の憲法に照らして、憲法違反と判断される現実が指摘されたこともある。あるいは、時代の変遷の中で、これまで憲法によって捉えられなかった新しい課題が生じ、憲法改正の必要性が主張されたこともあります。私達の課題は、これらの議論を、どのように発展させていくかということだと思います。
以上のような前提に立って、これからの憲法審査会の進め方として、主に二つの作業を進めることを提案します。
まず一つは、それぞれ提起される課題について、その課題ごとに、どこまで広い合意が可能となるのか、積極的に見極めていくプロセスは必要だと思います。
9条関連、解散権、憲法裁判所、人権委員会、情報分野の人権保障、環境権、一票の格差と地方分権、教育の無償化、同性婚など、それぞれの課題にどこで大方の合意を見出すことができるのか。さらに、幹事会の合意を前提として、次のステップに移って行けるのか。もう少し焦点を絞って、深掘りのできる議論をしていく必要があります。
そのためには、自由討議において、具体的な課題を絞って議論を集約することで、それぞれの方向性を確認していく作業が必要だと思います。ただし、特に、前回の審査会において北側幹事からも指摘のあった、緊急事態条項については、現時点では、私達は憲法に明記する必要はないと考えていることを、これまで何回も申しあげてきました。この課題については、合意が見えていないと判断しています。
今の時点で意見集約できそうだと思われる課題は、国民投票法に関連した見直し作業です。この課題については、特に、ネット社会の進展などによって、当初の国民投票法のあり方では公平、公正な国民投票の実施が出来ない、新しい要素を入れた見直しが必要だという方向性は、確認できていると思います。その原案作成のための作業部会などの設置も含め、前に進めることが出来るのではないでしょうか。
第二に考えていかなければならない事は、国民との対話です。多くの皆さんに指摘されているように、憲法議論に対する国民の関心は、まったく低いものだと思います。この現状を踏まえれば、憲法改正ありきを前提に、それを政治キャンペーン化して利用することは、厳に慎まなければならないと思うのです。
具体的な憲法課題を抜きにして、単に、憲法改正に賛成か、それとも反対かの2極化した世論形成は、国民の中の憲法議論を空洞化します。私達が、審査会の議論で抽出した憲法課題を、国民に投げかけて、幅の広い議論を喚起することを考える必要があります。憲法学者だけでなく、それぞれの分野での有識者を交える討論会や、地方での公開の公聴会の開催などと同時に、マスコミを通じた広報などを提案します。
国際的にも様々な課題に直面している時です。憲法を通じて、私たちの基本的な「生き様」を再検証し、次の時代の生き方を示していけるような審査会の議論にしていきたい。その思いをもって私の発言といたします。
(憲法審査会での発言から)