憲法審査会レポート、2023年

2023年11月17日

憲法審査会レポート No.26

2023年11月15日(水)第212回国会(臨時会)
第1回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7637

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会 “一票の格差”最高裁判決受け 与野党意見交換
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231115/k10014259021000.html
“15日の参議院憲法審査会では、去年の参議院選挙のいわゆる一票の格差について最高裁判所大法廷が10月に、憲法に違反しないという判決を言い渡したことを受け、参議院法制局が判決内容などを説明しました。”

参院「合区」、自民は「解消のための改憲」を主張 野党は基本的人権の配慮やブロック制を主張 憲法審査会
https://www.tokyo-np.co.jp/article/290219
“自民党は合区解消に向けた改憲を主張。同党の松下新平氏は「抜本的な合区解消のための憲法改正を実現すべく、今後一層取り組みを活発にしていきたい」と述べた。”
“立憲民主党の石川大我氏は、改憲による合区解消に対し「投票価値の平等を『地方の声を国政に反映させる』という主張で押しつぶすことは、基本的人権の尊重との関係で問題がある」と指摘。日本維新の会の片山大介氏は「ブロック制の選挙区制度への移行を議論すべきだ」と訴えた。”

参院選「合区」の解消手法、見えぬ各党の一致点 参院憲法審始まる
https://www.asahi.com/articles/ASRCH6K52RCHUTFK00F.html
“…参院選で導入している「徳島・高知」「鳥取・島根」の「合区」の解消について与野党が意見を交わした。合区解消の方向性は各党が一致するものの、憲法改正で対応するかどうかなど、その手法をめぐっては主張の違いが目立った。”

漂う停滞感、払拭見通せず 参院憲法審 立民「ブレーキ役」要職に
https://www.sankei.com/article/20231115-5R34TXVBNZPDVHUFY2EQSTEAFI/
“先の通常国会で衆院憲法審が実質討議を15回積み重ねたのに対し、参院側は7回にとどまった。改憲派の力が比較的弱いことに加え、弾劾裁判の開催日は憲法審を開かないという慣例にも阻まれた。実際、次回の憲法審開催は弾劾裁判を横目に決まっていない。”

【傍聴者の感想】

今臨時国会はじめての参議院憲法審査会は、幹事の選任を行ったのち、参議院の合区制度をテーマに議論が行われました。

参議院法制局からこの間の「一票の格差」に関する最高裁判決の動向について説明があり、続いて各党の委員がそれぞれ法制局長に質問したり、自らの見解を述べました。

聞いていると、こと合区制度に対する立場は、改憲派のなかでも相当に相違があるようで、このまますすんでも一致ができるようには到底思えません。

自民は改憲による合区解消を主張しますが、公明・維新は選挙区制度をブロック制にすることを主張するような具合ですし、自らの選挙に直接関わることでもあるので、衆議院憲法審査会での「議論」とはまた違った雰囲気も感じます。

今回選任された辻元清美・野党筆頭幹事が岸田首相の所信表明演説に触れ、具体的条文案作成を促すのは越権行為だと厳しく非難しました。本当にその通りで、憲法遵守義務を負う首相が改憲の旗振り役をしてきたこの十数年の異常さをあらためて思いました。

【国会議員から】打越さく良さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

立憲民主党の打越さく良です。第60回護憲大会では全国から私の地元である新潟にご参集いただき、誠にありがとうございます。
シンポジウムでも述べましたが、憲法はホコリをかぶった古臭いものではなく、私たちの命と暮らしを支えてくれる、そして権利を求めてたたかうための重要な手がかりであることを皆さまと共有していきたいと存じます。

11月15日の参議院憲法審査会では、参議院の合区問題が議題となり、以下の通り発言しました。

参議院の選挙制度は、1947年以来、選挙区と全国区の並立制で始まりました。都道府県を単位とした選挙区は、2015年の改正で合同選挙区が導入され、初めて四十五の選挙区となりました。このときの改正公職選挙法の附則には、2019年の参院選に向け、一票の較差の是正を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るとされています。

これを受けて、伊達議長の下、参議院改革協議会で議論が開始され、選挙制度に関する専門委員において17回にわたって各会派による検討、協議が行われました。

この検討の過程において、自民党は、終始一貫して合区解消を目的とする憲法改正を主張してきましたが、突如として定数六増と比例区に特定枠を設ける選挙制度改革を提案しました。この案は、一年間の専門委員会で一度も提案されておらず、これまで積み上げてきた議論を全く無視するものでした。

ところが、伊達議長は、参議院各派代表者懇談会において、自民党案に賛同する会派がなかったにもかかわらず、野党の求める議長あっせんにも応じず、各会派に対案を出すよう求め、強引に協議を打ち切ったのであります。しかも、定数増を含む自民党案の提案は、我が国の人口が減少傾向にある中で、衆議院では2016年改正で定数が十減となった後に参議院だけ定数増を行ったものであり、国民から多くの批判の声が上がりました。

この法改正は2019年の参議院選挙から導入されましたが、様々な矛盾があります。まず、比例代表の特定枠が設けられ、政党が決めた順位に従って当選者が決まる拘束名簿式を一部に導入できるようになりましたが、これは合区によって候補者を出せなくなった県代表を特定枠で救済しようとする自民党の意向を反映したものです。

自民党は、鳥取、島根、徳島、高知が合区され、県代表を出せない県が二県出ることになり、地方の声が届きにくくなるから設けられたのだと説明し、実際にそのような候補者調整を行ってきました。自民党は、合区された選挙区において候補者の氏名、候補者を出せなかった県においては政党名を書かなければならないという運用を行っています。例えば、高知・徳島選挙区においては、高知県では候補者の氏名、徳島県では政党名を書かなければならないという非常に分かりにくい制度運用になっています。

このことから言えることは、合区を容認した上で、それを補完する意図で特定枠を設けたのであれば、将来的な合区が視野に入っているということであります。それゆえ、特定枠を導入したままで合区解消を主張することに論理的整合性はありません。現在の自民党の運用であれば、合区が進んでも、県代表を出せなくなった県の候補者を特定枠で救済すればよいからです。この考え方を推し進めれば、全都道府県の代表を特定枠に登載すればよいとの解釈も可能になります。

このような経緯からは、合区を解消しようとするのであれば、まずは特定枠の廃止が先決であるということになります。

この問題は、特定枠という拘束名簿式の問題では全くなく、政党における運用の問題です。しかしながら、拘束名簿式比例代表制と非拘束名簿式比例代表制が混在している現在の比例代表制は問題であり、どちらかに収れんさせるべきであると考えます。

ところで、合区解消を含む自民党の改憲四項目案は2018年3月25日に出されていますが、それまでの自民党は道州制の導入を主張していました。改憲四項目と整合性を取るためか、自民党道州制推進本部は2018年10月に廃止されました。廃止を決めた当時の政調会長は岸田文雄氏です。それまで道州制構想を推進しておきながら、参議院選挙制度で合区が現実的になると都道府県代表の必要性を振りかざすのは、御都合主義が過ぎるのではないでしょうか。

なお、学界においては、合区問題を憲法改正で解消することは困難であるとの言説が通説化していることを申し添えて、発言を終わります。

2023年11月16日(木) 第212回国会(臨時会)
第3回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54773
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会 自由討議 緊急事態条項などめぐり 各党が主張
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231116/k10014259971000.html
“衆議院憲法審査会は、今の国会では初めてとなる自由討議を行い、大規模災害など緊急事態での対応を憲法に規定するかどうかや、憲法9条を改正して自衛隊を明記するかどうかをめぐり各党が主張を展開しました。”

自民・中谷元氏「改憲待ったなし」 立民・中川正春氏「衆院解散を限定するため改憲も」 衆院憲法審査会
https://www.tokyo-np.co.jp/article/290453
“自民党は憲法9条への自衛隊明記や、緊急事態条項を新設する改憲を改めて主張。立憲民主党は自衛隊明記や緊急事態条項は不要とした上で、憲法7条に基づいた首相の恣意しい的な衆院解散を制約するために、改憲も選択肢になるとの考えを示した。”

維国、今国会中の改憲案主張 自民との違い強調―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023111601053&g=pol
“岸田文雄首相が所信表明演説で「条文案の具体化」を求めたことを踏まえ、憲法改正に前向きな日本維新の会と国民民主党が今国会中に改憲案を作成すべきだと主張。首相の掛け声と裏腹に論議加速に慎重な自民党との違いを強調し、保守層の取り込みを図る狙いとみられる。”

また自民総裁「任期」解釈巡り論争 意見集約見通し困難 衆院憲法審
https://mainichi.jp/articles/20231116/k00/00m/010/270000c
“…「任期中」の解釈を巡り、同じ改憲勢力である自民と、日本維新の会、国民民主両党との間で認識の違いが再び浮き彫りとなった。3党などは先の通常国会で、衆院議員の任期の特例的な延長を柱とする「緊急事態条項」を憲法に追加する方針で一致したが、改憲に向けたスケジュール感には依然として「溝」があり、意見集約の見通しは不透明な状況だ。”

【傍聴者の感想】

臨時国会での第3回衆議院憲法審査会が11月16日、開催されました。

今回は、先回報告があった欧州海外視察に関連して、7人の委員から意見等の表明がありました。中谷元委員(自民)は、各国の憲法改正の状況、緊急事態条項及び国民投票について比較したうえで見解を述べ、中川正春委員(立民)は、立憲主義に基づいて憲法審査会の議論を進める立場から、国家権力のコントロール、新しい人権へ対応、平和主義の堅持の観点に立ち、緊急事態条項及び議員の任期延長、CM、インターネット規制の課題について意見を表明していました。北側一雄委員(公明)も、海外視察報告に基づき緊急事態および国民投票について持論を主張したほか、赤嶺政賢委員(共産)は、イスラエルによるガザ侵攻の状況と辺野古新基地問題に言及しながら、現憲法の意義を展開しました。

これら委員の意見表明と様相が違っていたのが、岩谷良平委員(維新)、玉木雄一郎委員(国民)、北神圭朗委員(有志)らです。この委員たちに共通するのが、維新、国民、有志の会の3会派で、緊急事態条項のうち、国会議員の任期延長に関する憲法改正条文案を発表したことです。

この3会派が主張するのは、スケジュール感、スピード感をもって対応せよ、各党合意の護送船団ではだめだ、決定できる政治が必要だと。憲法改正の具体的な議論に向けた前のめりの姿勢に終始しています。岸田首相が総裁任期中に改正したいと述べたことに関して、その任期はいつまでなのかと異常にこだわり、玉木委員に至っては、自民党と立憲民主党を「ネオ50年体制」と揶揄する発言までしていました。

かつて最も民主的な憲法と言われたワイマール憲法下で、民主的な手続きによりナチスが台頭し、そしてワイマール憲法で規定されていた緊急事態条項を濫用してナチスのヒトラー独裁が確立されていった歴史を私たちは学んでいます。ナチスの被害を受けた欧州各国も当然緊急事態条項の危険性を認識しているからこそ、権力のコントロール、規制を厳密に規定しているものでしょう。3会派のような底の浅い議論、そしてスピード感をもって議論をすべきものでは断じてありません。

【国会議員から】新垣邦男さん(社会民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

定例日の毎週開催が既成事実化している衆院憲法審査会。今国会でも本格的な審議が始まっております。

11月16日の審査会は、「海外調査報告を踏まえた自由討論」がテーマでしたが、蓋を開けてみれば想定通り、緊急事態条項の「議員任期延長」に焦点を絞り、結論を急ぐべきとの論陣が、自民党・公明党をはじめ、維新の会、国民民主党、会派「有志の会」が足並みをそろえる形で張られました。改憲発議に念頭を置き、多数派が少数派の唱える異論に耳を貸すことなく、議論誘導していることに強い危機感を覚えます。

とりわけ、維新の会と国民民主党が、来年9月までの岸田首相の自民党総裁任期から逆算した改憲スケジュールを提示し、「来年の通常国会終盤までの発議」のためには「この臨時国会で憲法改正原案の取りまとめ」を行わなければならないとして、自民党をせっつくような動きをしているのは看過できません。
スケジュールありきの審査会運営は、憲法を政局に絡めないことや少数政党の声を尊重することなどを柱とする与野党協調重視の議事運営、「中山方式」を形骸化するものです。断じて認められません。

議員任期の延長については、共に会派を組んでいる立憲民主党の中川野党筆頭幹事の主張に賛同します。中でも「大切なことは(困難事態にあっても)選挙をすること。(選挙が)できない言い訳の種を摘むこと」との意見には、心の中で拍手喝采いたしました。

また、中川野党筆頭幹事は、教育の無償化についても、教育の機会均等が憲法14条1項及び26条1項に既に記されているとした上で「現行憲法に基づいて教育基本法を改正し、責任を持って予算かしていくことで実現可能」と述べ、9条改憲についても自衛隊明記は不要とし、「現行憲法の解釈、個別的自衛権への限定、専守防衛と必要最小限の防衛力は日本の平和主義を貫く原則として堅持していくべき」と喝破されました。

そして、「憲法議論は党派を超えた合意形成、国民の広い理解がないままに強引に進めれば世論の分断を招く」と指摘した上で、今の憲法審査会が「国民的議論になっているかといえば、程遠い現実がある」とし、発言を結ばれました。私も、一連の中川野党筆頭幹事の発言と全く同じ思いです。

岸田総理が、10月の衆議院代表質問で「総裁任期中に憲法改正を実現したいという思いはいささかの変わりもない。党内議論を加速させるなど、責任を持って取り組む」と答弁しましたが、憲法尊重擁護義務を負う行政府の長として明らかに越権行為であること、それと軌を一にするように、11月9日の憲法審査会で森会長が「議員任期延長など速やかに議論を詰めなければならない」と呼びかけたことは、「中山方式」に徹すべき行司役として大いに問題あり! 最後に、そのことを強く指摘しておきたいと思います。

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