憲法審査会レポート、2023年
2023年08月18日
憲法審査会レポート No.23
平和フォーラムは、国会における改憲発議をめぐる動きを把握・共有することを目的として、昨年秋の第210臨時国会および今年上半期の第211通常国会の開催期間を中心に「憲法審査会レポート」を発行してきました。
この間、衆議院憲法審査会の定例的開催が継続するなか、参議院憲法審査会においても熾烈な攻防が進行していること。政権与党の自民・公明のみならず、維新・国民・有志による改憲発議に向けた後押しが強まっていること。「緊急事態条項」をめぐる「議論」をテコにしながら改憲発議の具体的なステップを重ねようとしていること。これらを踏まえ今秋以降、相当強い危機感をもって改憲阻止のとりくみを行う必要があると判断しています。
今回、飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)から衆参憲法審査会の現状を分析する論考をご寄稿いただきました。現状把握と今後に向けた議論の土台として、それぞれの職場・地域などで、活用していただくことを呼びかけます。
憲法改正と憲法審査会の状況
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
【1】「憲法審査会」に対する正確な状況認識の必要性
岸田首相は折に触れて「憲法改正」を実現すると発言してきた。憲法改正には、改正案に衆議院と参議院の各議院の総議員の3分の2以上が賛成⇒国民投票という手続を経る(憲法96条)。さらに細かく手続を紹介すると、衆議院と参議院の憲法審査会で憲法改正原案が作成・採決されたのちに各議院の本会議で総議員の3分の2以上の賛成が必要になる。
憲法改正に関わるに際しては、改憲議論等がどの段階で、どのような状況にあるかを正確に認識する必要がある。そこで本稿は主に憲法審査会の状況を紹介する。
【2】憲法審査会での改憲本体の議論状況
自民党や日本維新の会が目指す憲法改正の中心は9条である。ただ、今は憲法9条改憲の原案が作成・合意されたというにはほど遠い状況にある。自民党は「自衛隊明記」の改憲論を主張してきたが、憲法審査会で公明党は9条ではなく、72条、73条への自衛隊明記を主張している。国民民主党の玉木雄一郎代表は9条2項の削除論を主張した(公明党や国民民主党の9条改憲論の問題点は1000人委員会HP内にある「壊憲・改憲ウオッチ」参照)。
岸田自公政権下で進められている「戦争できる国づくり」のためには憲法9条だけでなく「緊急事態条項」の導入の憲法改正も必要になる。ただ、「緊急事態条項」の導入には衆議院憲法審査会で公明党が反対している。とはいうものの、衆議院憲法審査会で公明党は「議員任期の延長の憲法改正」には賛成している。
2023年6月15日、衆議院憲法審査会で公明党北側一雄委員も「緊急事態における議員任期延長の必要性についてはおおむね一致しています。議員任期延長の要件と効果について、現時点で若干の相違点はあるものの、あとで述べますように、5会派間での具体的な合意形成は十分に可能と考えられます」と述べている。衆議院憲法審査会では「議員任期延長の改憲」のための条文案作成にむけて動き出す可能性がある。
【3】改憲手続法(憲法改正国民投票法)をめぐる憲法審査会の状況
2022年4月14日、衆議院憲法審査会で日本維新の会の足立康史議員は「私たちは、あとやるべきは、公選法の積み残しの3項目 、これをしっかりと、直ちに公選法並びの国民投票法 改正をすれば、まさにいつでも十分な憲法改正の国民投票ができるという立場であります」と発言している。
「公選法の積み残しの3項目」、いわゆる「公選法並び3項目」とは、①悪天候で離島から投票箱を運べなかった経験を踏まえた開票立会人の選任に係る整備、②投票立会人の選任要件の緩和、③FM放送設備による憲法改正案の広報放送の追加である。この3項目を公職選挙法に合わせた改憲手続法改正が必要というのが自民党、公明党、日本維新の会の立場である。憲法改正国民投票が実施される前には、「公選法並び3項目」の改憲手続法の改正が行われることになる。
【4】衆議院憲法審査会の構成
たとえば2023年5月12日の衆議院憲法審査会での発言者を紹介する。いわゆる「護憲」の立場で発言したのは奥野総一郎議員(立憲民主党)、赤嶺政賢議員(共産党)、城井崇議員(立憲民主党)、そして新垣邦男議員(社民党)の4人である。
一方、改憲賛成派は新藤義孝議員(自民党)、岩谷良平議員(日本維新の会)、濵地雅一議員(公明党)、玉木雄一郎議員(国民民主党)、北神圭朗議員(有志の会)、柴山昌彦議員(自民党)、小野泰輔議員(日本維新の会)、北側一雄議員(公明党)、山下貴司議員(自民党)の9人である。
護憲派議員が発言したのは4回に対して、改憲5会派の議員は9回も発言している。憲法審査会での勢力に違いがありすぎるので、立憲民主党や社民党、共産党が奮闘しても「数」で圧倒される状況にある。
【5】改憲阻止にむけたとりくみ
「論点は既に出尽くしていると思われます」(2023年6月15日、衆議院憲法審査会での北側一雄公明党委員発言)とのように、衆議院憲法審査会では「議員任期延長の改憲論」の条文案の作成等に進む可能性がある。紙幅の関係でここで詳しく述べられないが、「議員任期延長の改憲論」は行政と国会の歴史的背景や憲法の意義をあまりにも軽視しており、極めて危険な事態をもたらす可能性がある。そこで「議員任期延長の改憲論」の問題点と危険性を社会に広めるとりくみが必要となる。
改憲手続法に関しては、「公選法並び3項目」の改正が必要だが、CM規制、外国資本規制、ネット規制等は不要というのが自民党、日本維新、公明党の立場である。憲法改正国民投票の前には改憲手続法の改正が行われる。その際に「最低投票率」・「最低得票率」や公務員や教師の地位利用規定などの問題を再び提起するとりくみが重要となる。
根本的な問題として、憲法審査会の構成を変えるとりくみ、端的に言えば「【4】衆議院憲法審査会の構成」で紹介したような状況を変えるため、「選挙」でも憲法改正を視野に入れたとりくみが必要となる。