憲法審査会レポート、2023年

2023年06月16日

憲法審査会レポート No.22

今週は参議院憲法審査会不開催のため、衆議院憲法審査会のみのレポートです。

【参考】

「政情不安定」で開催見送り 参院憲法審 実質審議は打ち止めの公算
https://www.sankei.com/article/20230614-ADAHMB3TFNIRNP7HD6WNJBNR6U/
“与野党は14日の参院憲法審査会の幹事懇談会で、今国会で各党派が表明した見解をどのような形式でまとめるかについて議論したが、結論は出なかった。次回の憲法審定例日の21日は閉会手続きにとどまる見通しで、参院憲法審の実質審議は前回の7日が最後となる公算が大きい。”

2023年6月15日(木) 第211回国会(常会)
第15回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54675
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会 緊急事態時の任期延長の必要性 各党が見解
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230615/k10014100001000.html
“大規模災害や戦争など緊急事態の際の国会議員の任期延長の必要性について、衆議院憲法審査会で、自民党が議論の取りまとめに入るよう求めたのに対し、立憲民主党は参議院の緊急集会で対応できるとして慎重な姿勢を示しました。”

自公維国ら「任期延長で改憲を」 立民は不要、共産は反対
https://nordot.app/1042004474742472902
“衆院憲法審査会が15日開かれ、緊急事態条項を巡る各党派の見解をまとめた論点整理が衆院法制局から示された。論点整理は自民党など5党派が、任期延長規定が憲法に必要との認識で一致したと説明。立憲民主党は不要との立場で、改めて違いが鮮明になった。”

緊急集会「平時の制度」 衆院憲法審が論点整理―与党など5会派
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023061500129&g=pol
“自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会は、憲法54条が定める参院の「緊急集会」を「平時の制度」と位置付け、「緊急事態に対応できない。議員任期延長が必要だ」と改憲を主張。立憲民主党と共産党は「議員任期延長は内閣の独裁を生む恐れがある。緊急集会で対応すべきだ」などと指摘した。”

衆院憲法審査会・発言要旨(2023年6月15日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/256922

改憲、自民にも衆参で溝 衆院では緊急事態論点整理
https://www.sankei.com/article/20230615-4VOQWSBO25MZXCCG3GYJKMVJNQ/
“自民党や公明党、日本維新の会、国民民主党などは必要性を共有しており、改憲案づくりへの環境が整ったとの見方もある。ただ、この条項をめぐる自民や公明の認識は参院側と距離があり、与党が秋の臨時国会に向けて足並みをそろえられるかが焦点となる。”

【傍聴者の感想】

私が衆議院憲法審査会を傍聴したのは4月6日以来ですが、各会派が各々のテーマで主張していた当時と異なり緊急事態条項のテーマに集約され議論の応酬という感じはありました。

立憲民主党の階猛議員より、選挙困難状態下での議員任期延長・復活は内閣の独裁化を招く恐れがあり、参議院の緊急集会で暫定的に国会機能を果たすべきであると会派の主張が示されました。同時に緊急事態下での選挙人名簿のバックアップ、避難所やネットでの投票を可能にするための整備の必要性など岩手での震災の経験からの具体的な提起について、議場の各派議員もうなずく姿が多く見られました。

対して公明党の北側議員からは緊急事態下で対応が必要な条項は憲法に明記すべきという見解が述べられましたが、立場の違いこそあれ、緊急事態下での民主的な社会のありかたを追求するための議論の展開に感じられました。そのいっぽうで、維新の会は改憲のためのスケジュール策定に終始する発言に終始し、議論の内容への関心の薄さを感じました。

上述の階猛議員の発言は、緊急事態に関わる昨年来の各会派の意見の矛盾点を細かに的確に指摘しており、この憲法審査会レポート冒頭記載のリンクから、動画でもぜひ見ていただきたい内容です。

【国会議員から】階猛さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

本日は、参議院の緊急集会と議員任期延長の問題を中心に意見を述べますが、その前に前回の当審査会における国重委員からの二つの質問にお答えしたいと思います。

一つ目は、政党について国民投票の放送CMを全面禁止する立憲民主党の案は、選挙の場面で政党による政治活動CMが禁止されていないことと比べて、規制の厳しさが逆転しているのではないか、という質問でした。

確かにCMという側面でみれば、本来自由であるべき国民投票運動の方が、選挙運動に比べて規制が厳しいように思われるかもしれません。しかしながら、選挙の場面と異なり、国民投票の場面では、国民投票広報協議会を通じ、政党による国民への情報提供の機会が公正かつ公平に与えられます。

これに加え、我が党の案では、国民投票広報協議会がプラットフォームとなり、各党が参加してのオンライン等による国民向け説明会を開催したり、各党が動画や図表などを用いて意見表明するためのウェブサイトを設けたりすることなども可能となります。

したがって、政党の表現の自由や国民の知る権利には十分配慮しており、放送CMを発信できないことだけをもって、規制の厳しさが逆転しているとは言えないと考えます。

二つ目は、政党について国民投票のネットCMを規制し、その他の主体は自由にネットCMを発信できるとすると、かえって言論空間が歪められるのではないか、という質問でした。

まず政党以外についても、ネットCMを自由に認めるわけではありません。我が党の案では、国民投票広報協議会のガイドライン策定や名称等の表示義務、資金規制などにより、間接的にネットCMを規制することとしています。さらに、5月25日の当審査会で申し上げたとおり、日弁連の最近の意見書や諸外国の規制状況も参考にしつつ、今後ネットCM規制のあり方についてさらに検討していきます。

加えて、先ほど申し上げたとおり、我が党の案では、国民投票広報協議会がプラットフォームとなり、ネット上の政党の発信が量的にも質的にも充実するようにします。以上により、言論空間が歪められるといった事態は避けられると考えております。

次に、本日の本題である「緊急事態(特に、参議院の緊急集会・議員任期延長)」について我が党の見解を述べます。最初に結論を申し上げれば、衆議院の解散や任期満了に伴う総選挙が実施できない状況が相当期間継続すると見られる事態、すなわち「選挙困難事態」においても、議員任期の復活や延長は必要なく、参議院の緊急集会が暫定的に国会の機能を果たすべきだ、というのが我々の考え方です。

ただし、立憲主義の観点から、時の権力者が恣意的に「選挙困難事態」を認定し、緊急集会が濫用されないような方策を可能な限り講じるべきです。すなわち、「選挙困難事態」を予防ないし早期に解消するための方策として、選挙人名簿のバックアップシステムの構築、避難先やネットで投票できる仕組みの導入などを行うべきです。

また、「選挙困難事態」の恣意的な認定を避けるための方策として、当該事態の認定基準、認定を行う主体や手続き、認定された場合にその効果が生じる期間や地域、といった点については、当審査会での議論を進め、必要な法制上の手当てを講じるべきです。

以上のとおり、「選挙困難事態」に備え、権力を縛るという立憲主義的な観点から、あらかじめ対応方法を決めておこうという点については、我が党の考え方も、おおかたの会派と一致します。東日本大震災に際し、私の地元の岩手県では統一地方選挙について「選挙困難事態」を経験しましたので、私自身は、なおさらその思いを強く持っています。

ただし、「選挙困難事態」への対応としては、議員任期の延長ではなく、参議院の緊急集会で行うべきです。今からその理由を述べます。お手元の資料を適宜ご参照ください。

第一に、議員任期の延長は、国会議員を固定化し、内閣の独裁を生むおそれがあることです。議院内閣制の下では、解散や任期切れによりその地位を失うはずであった国会議員が議席に居座ることにより、それらの議員の信任を受けて成立している内閣もその地位に居座ることになります。しかしながら、本来であれば選挙によって民意の審判を仰ぐべき国会議員は民主的正統性を欠いており、それに依拠する内閣もまた民主的正統性を欠くものと言わざるを得ません。

この点、参議院の緊急集会で対応する場合であっても、国民の代表者から成る衆議院を欠いている以上、民主的正統性を欠くという点では変わりないとの反論もあろうかと思います。しかしながら、議院任期延長では形式的に二院制が保たれ、国会がフルスペックの権限を確定的に行使できます。それゆえに、その状態が続くことは時の政権として極めて都合のよいことであり、選挙困難事態を口実に時の政権がいつまでも権力をほしいままにする、内閣の恒久化、独裁化が進むおそれ、すなわち民主的正統性を欠く状態が恒久化するおそれが生じるのです。

一方、参議院の緊急集会で対応するのであれば、そのおそれはありません。なぜなら、憲法54条3項により、緊急集会で採られた措置は臨時のものであって、選挙が実施された直後の国会で10日以内に衆議院の同意がなければ、その効力を失うものとされています。

民主的正統性を欠く間は、国会の権限を限定的、暫定的にしか行使できないことにして、時の政権の暴走を防ぐ趣旨でしょうが、同時に、時の政権にとって、国会を正常に機能させるために選挙困難事態を早期に解消しようというインセンティブが働くわけです。

北神先生がお得意の「逆説的な言い方」をすれば、選挙困難事態において参議院の緊急集会で対応することは、民主的正統性を欠くがゆえに民主的正統性を早期に取り戻せるやり方だと言えるでしょう。民主的正統性を恒久化するおそれがある議員任期の延長に比べて、はるかに優れていることは明らかです。

第二に、選挙困難事態において参議院の緊急集会で対応する場合、場面、期間、権限や案件、暫定性など様々な限定ないし制約があり、国政に支障をきたすとの指摘がありますが、この批判は当たらないということです。

まず、場面の限定については、憲法54条1項の文言を根拠に「任期満了時に緊急集会は開催できない」という説もありますが、当審査会にお招きした大石、長谷部両参考人が述べた通り、任期満了時にも緊急集会は開催できるという解釈が今や多数説であり、あえて憲法を改正する必要はないと考えます。

また、期間の限定については、解散から40日以内に総選挙を実施し、総選挙後30日以内に特別国会を召集すべしという憲法の定め、いわゆる70日ルールに縛られる必要がないとの長谷部参考人の見解に対し、立憲主義に反するなどとして、これを批判する意見が、議員任期延長を主張する会派の委員から、参考人質疑が終わった後も欠席裁判のように続いています。

しかしながら、そうした会派に所属する参議院議員の中には、参議院の憲法審査会で長谷部先生と同様、70日ルールに縛られないとする見解を披歴する方がいらっしゃるようです。ぜひ会派の見解を統一して頂きたいと思います。そして、立憲主義は憲法によって権力を縛り、恣意的な権力行使を防ぐことにその本質があり、ルールを形式的に解釈して恣意的な権力行使の余地が広がるように憲法を運用したり解釈したりすることは、むしろ立憲主義に反すると言うべきです。

「政権の居座りを阻止するための70日間ルールを逆手にとって、従前の衆議院議員の任期を延長し、従前の政権の居座りを認めるのは本末転倒の議論」であるとの長谷部教授のご発言は、まさにそのことを指摘したものであり、強く支持します。

玉木委員は、参議院の緊急集会の開催期間を70日以内とすべき根拠として、立憲主義の見地から憲法が定める統治機構のルールは順守されなくてはならないと主張されていますが、それを貫くのであれば、永田町の常識とされる「衆議院の解散は総理の専権事項」という考え方こそ、憲法の統治機構のルールに明らかに反しており、問題ではないでしょうか。

もし同意頂けるのであれば、この問題の解決策についてともに議論していきましょう。なお、緊急集会について権限や案件の限定があること、暫定性があることは、先ほど述べた民主的正統性の早期回復を促す大きな利点があり、これを緊急集会の欠点ないし弱点とみなすことはできません。ただし、緊急集会の権限につき参議院と合同で協議を行い、足らざる部分がないかを検証し、必要な法制上の手当てを講じることについては、異存がありません。

また、本日の主要テーマから外れますが、緊急事態条項の中に緊急政令や緊急財政処分を設けることは、既存の法制度を勘案した場合にその必要性が乏しく、民主主義や自由主義の観点からも問題であることから明確に反対します。

そして、緊急事態条項の名のもとに、例えば議員任期の延長に関する憲法改正案と緊急政令や緊急財政処分を一括して国民投票に付すことは、主権者の国民投票の機会を不当に制限し、判断を誤らせる危険があるため許されないということも述べておきます。

最後になりますが、本日のテーマに限らず、国民投票法の改正案は論点を整理できる段階に来ていると思いますので、ぜひ次回はそれを行って頂くよう会長にお願いいたします。

併せて、デジタル化の進展に伴う新たな人権保障の問題、先ほども申し上げた衆議院解散や臨時国会の召集、予備費を含めた財政民主主義、地方自治や選挙制度、婚姻のあり方など、我が党が提案しているテーマについても次期国会以降、順次当審査会の議題として頂くことを会長にお願い申し上げ、私の発言を終わります。

(憲法審査会での発言から)

 

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