憲法審査会レポート、2023年

2023年04月07日

憲法審査会レポート No.13

2023年4月5日(水)第211回国会(常会)
第1回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7342

【会議録】

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121114183X00120230405

【マスコミ報道から】

参院の「緊急集会」めぐり討議 立憲と共産は緊急事態条項の新設に反対鮮明
参院憲法審【詳報あり】
https://www.tokyo-np.co.jp/article/242345

「緊急集会と緊急事態条項」 参院憲法審で議論 今国会で初開催
https://mainichi.jp/articles/20230405/k00/00m/010/264000c
“現憲法が定める参院の緊急集会について自由討議を行った。自民党や日本維新の会がロシアによるウクライナ侵攻などを例に挙げ、緊急事態条項を設ける憲法改正の必要性を訴えたのに対し、立憲民主、共産両党は改憲は「不要だ」などと反発した。”

れいわ山本代表「サルに失礼、サルに謝罪を」…立憲・小西議員”サル発言”に参院憲法審会長が苦言「委員に極めて失礼」
https://www.fnn.jp/articles/-/509721
“中曽根憲法審査会長は…「衆議院憲法審査会の委員に対し、極めて失礼である。各院の審議の独立性を侵しかねない、重大な発言であると思っております。当審査会におきましても看過できない発言である」と苦言を呈した”

“緊急事態時の国会機能 維持は” 参院憲法審査会で議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230405/k10014029961000.html
“審査会のあと、新たに野党側の筆頭幹事を務めることになった立憲民主党の杉尾秀哉 参議院議員は、記者団に対し「衆議院が審査会を毎週開いているから参議院も毎週開かなければいけないというものではない。憲法の問題は非常に重たいので、真摯(しんし)に静かな環境でじっくりと議論できるよう努めていきたい」と述べました。”

【傍聴者の感想】

今通常国会における参院憲法審査会は、立憲民主・社民の筆頭幹事である小西議員の舌禍により、審査会直前で筆頭幹事が杉尾議員に代わるという混乱の中でのスタートとなりました。

この日の審査会は、自民党の改正草案第9章で定める緊急事態条項の創設のための憲法改正の是非について、各幹事から意見が表明されました。

自民党が提起する緊急事態条項は、戦争や内乱、大規模自然災害その他の緊急事態に対処するため、内閣に法律と同一の効力を有する政令制定権、内閣総理大臣に財政上処分権および地方自治体の長に対する指示権を与え、何人にも国その他公の機関の指示に従うべき義務を定め、衆議院の解散権を制限し、両議院の任期および選挙期日に特例を設けることを認めるものです。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を機に、こうした事態に対応するために憲法の改正により緊急事態条項を創設することや衆議院議員の任期延長を検討すべきとの意見が保守層を中心に強まっていますが、感染症については、検疫法やその他の現行法によって対処することは十分に可能で、憲法における緊急事態条項創設の必要性はまったくありません。憲法を変えずとも緊急事態になれば必要な指示が発出されるのは当然のことです。

緊急事態条項は、権力分立を停止し、政府に立法権や予算議決権を認めるものであることから、極度の権力集中による政府の権力濫用の危険性が高まります。さらに、人権保障を停止することから、営業の自由や財産権のみならず、表現の自由や報道の自由等、民主主義の根幹をなす人権が大幅に制限される危険性も生じます。現在の日本国憲法は、過去の緊急事態条項の濫用の歴史も踏まえて、あえてこれを設けることをせず、個別法を制定して対処するという立場をとっています。

この日の憲法審査会では、立憲民主・社民会派の各幹事からこうした問題点が指摘され、緊急事態条項の創設を意図した憲法改正の必要性はないことが明確に主張されました。

現行憲法は、最高法規である憲法により国家権力を制限し、人権保障をはかるという立憲主義を基本理念としています。こうした立憲主義の基本理念を大きく逸脱する緊急事態条項の創設は必要ありません。また、そのこと意図した憲法改正の必要性もまったく認められません。

引き続き憲法審査会の議論内容の発信と運動強化の必要性を認識しました。

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

「緊急時の制度」である「参議院の緊急集会」

「緊急集会は、選挙ができる状態を前提とする平時の制度」(3月16日北神圭朗議員発言」との発言がまかり通っています。
しかし、「参議院の緊急集会」は、明治憲法下での「緊急勅令」や「緊急財政処分」を認めず、「国会中心主義」の立場から緊急時にも国会が対応しようとする「緊急時」の制度です。

橋本公亘『現代法律学全集2 憲法』(青林書店、1973年)457ページには以下のように書かれています。

「明治憲法には、緊急勅令(8条)および緊急財政処分(70条)という規定があった。前者は、帝国議会閉会中緊急の必要により発する法律に代わるべき勅令を認めたものであり、後者は、緊急の需用ある場合において帝国議会を召集することができないとき勅令により財政上必要な処分をなすことを認めたものであった。日本国憲法は、国会中心主義を確立するため、このような権限を行政府に一切認めないこととした。ただ、衆議院が解散された場合緊急の必要が生ずることは考えられるから、このような必要に対処するため、参議院の緊急集会という制度を設けたのである」(太字は筆者による強調)。

小林直樹『憲法講義 下』(東京大学出版会、1970年)593・4ページでも、「行政部の独断的処置の代わりに、あくまで国会中心主義を貫こうとする趣旨が、緊急時における国会機能の一時的代行」として「参議院の緊急集会」が紹介されています。

さらに引用します。

「衆議院が解散されると、新国会の召集まで(最長70日間)、国会の活動は停止し、国家意志の有効な決定はできなくなる。その間に国会の議決を要する緊急の事件や問題が生じた場合、それに対処するために、明治憲法時代の緊急勅令や緊急財政処分の制度に代えて、憲法は独特な参議院の緊急集会制度を置いた。いいかえれば、緊急集会は、本来ならば国会の臨時総会を召集すべき場合、衆議院の不存在のために、やむをえず参議院だけで国会の権能を代行する制度である。議会の閉会中や議会の召集のできない場合に、明治憲法時代は緊急勅令や緊急財政処分の制度によって、政府が臨機独断の措置をとりえたのに対し、現行憲法では,そのような緊急時においても、議会的コントロールなしに、立法や予算などの重要決定をなさしめないように考慮されているのである」(太字は筆者による強調)。

自民党や国民民主党などは憲法を改正して、「緊急政令」や「緊急財政処分」を明記すべきと主張しています。

一方、いまの憲法は上記の学説で説明されているように、「緊急政令」や「緊急財政処分」を認めていません。

明治憲法への回帰にもつながる、「緊急政令」や「緊急財政処分」を明記する憲法改正を認めるべきでしょうか?

【国会議員から】杉尾秀哉さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会筆頭幹事)

この度、思いがけなく憲法審査会の筆頭幹事を拝命することになりました。

発端は吉田忠智前参議院議員の、参院大分補選立候補に伴う議員辞職です。筆頭幹事だった小西洋之参議院議員から、「吉田さんが担当していた憲法審査会の次席幹事をやってもらえないか」と依頼され、「大事な同僚である小西さんの頼みなら」と引き受けたのが運のツキでした。

その小西さんが、衆院憲法審を巡る発言で突然、筆頭幹事の職を解かれることになり、私に筆頭幹事のお鉢が突然回ってきたのです。
まさに「青天の霹靂」です。しかし、ここで逃げるわけには行きません。

衆院憲法審のほぼ毎週の開催が定例化し、緊急事態を巡る論点整理が進みつつある中で、「憲法改正ありき」ではない、参議院らしい憲法審の進め方が問われている重大な局面にあるからです。

そうして迎えた今国会初の参院憲法審査会が、衆院解散時に憲法54条で規定されている参院の「緊急集会」をテーマに、4月5日開かれました。

この中で、私は会派を代表して①衆院の任期満了時の可否 ②緊急集会を開く期間 ③発議できる議案の範囲 ④緊急集会の機能という、主要な4つの論点を提示。その上で、「国に緊急の必要がある時」という憲法54条2項但書の解釈と、緊急集会制度の根本的な趣旨を踏まえて、「憲法54条1項の70日間を超えて緊急集会の開催は可能であり、議員任期延長のための改憲には反対である」旨の意見を述べました。
私が所属する立憲民主党は「論憲」の立場を取っています。私も時代に合わせて憲法を大いに論じ、もしどうしても改憲が必要とあれば、変えることに吝かではありません。

ただ、今、衆院で行われている「緊急事態」。とりわけ、国会議員の任期延長を巡る議論は、「まず国民の理解を得やすいところから手を付けよう」という、いわゆる「お試し改憲」に他ならないと考えます。

今国会も折り返し地点を過ぎました。

私は、現行憲法の三大原則の順守と、最大限の実現。そして、「政治権力の専制化や政治の恣意的支配を制限する」立憲主義の立場に立って、筆頭幹事の職責を全うする決意を、今新たにしています。

【国会議員から】打越さく良さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

参議院憲法審査会が4月5日に行われました。この日は参議院の緊急集会についての討論が行われましたが、私からは以下の発言を行ったところです。

参議院の緊急集会について

「緊急集会制度により衆議院の総選挙中における緊急の事態に対処することができる」ことは、本院の存在理由の一つとされているものであり、憲法学者の清宮四郎は「外国にもほとんど類例をみない」制度であると指摘しています。

この「外国にもほとんど類例をみない」制度こそ、本院の存在を光り輝くものとしているのであり、緊急集会制を否定あるいは毀損しようとする議論は本院の権威を貶めるものに他なりません。その運用の細部について学説を検討することは大いに結構なことですが、その際には本院の権威を一層高める方向で議論すべきであることは同僚議員の誰もが同意されるものでしょう。

こうした観点に立てば、衆議院議員の任期満了による総選挙の場合に緊急集会を開くことは、内閣の判断により「解散されたとき」だけではなく任期満了後の場合にも「議院の緊急集会」を求めうるものと解すべきである(高見勝利)。また、権力の抑制と均衡を確保することが、憲法の趣旨に適うのであるから、緊急集会に関する本条2項の規定を、衆議院が存在しない例として解散の場合を定めたものと解し、衆議院議員の任期満了による総選挙の場合にも、本条を類推適用して、国に緊急の必要あるときは、内閣は緊急集会を求めることができると解するのが適当である(土井真一)、と考えなければなりません。

さらに例外的な場合には、54条を類推適用することで、解散ではなく任期満了後であっても、内閣が参院の緊急集会を求めることはできる(只野雅人)といった解釈に立たなければなりません。それは衆議院が存在しない状況で緊急集会を認めなければ,内閣が、緊急事態の法理に依拠するなどして,単独で必要な措置を講じる事態を招きかねない(土井真一)からです。

これらに否定的な学説があるからといって起こりうる事態に対応できないという選択肢を本院がとるわけにはいきません。ましてこの件をもって憲法を改正しようとするのは「トイレに鍵が付いていないから家を建て替える」というような誠に本末転倒な議論です。

昨年4月の本審査会において赤坂幸一参考人は、帝国憲法下の緊急勅令は「議会ではなく執行部の手段ですので、私の観点から、それを緊急時においてこそ統制、更に別の観点から統制する議会的組織を確保するということの視点がやはり更に重要なのではないかと考えます」と述べている。こうしたことからも本院の緊急集会制はその趣旨に適ったものです。

かつての帝国議会における新憲法審議の担当大臣となった金森徳次郎は、GHQとの交渉で当時の松本烝治国務大臣があくまでも二院制を主張し、「万一衆議院の解散の場合に国務遂行の支障が起ることに備えるため憲法五十四条に参議院の緊急集会の制度を設けることに成功した」と当時を回想しています。

こうした原点に立ち返るならば、緊急事態において本院が国会機能を十二分に代行するため、常に自己研鑽を怠らず、国民の負託に応えうる議院とならなければならないことを強く訴えて私の討論を終わります。

2023年4月6日(木) 第211回国会(常会)
第6回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54499
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021120230406006.htm

【マスコミ報道から】

憲法審査会・発言の要旨(2023年4月6日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/242598

衆議院憲法審査会 自民の“9条改正”に立民が疑念を主張
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230406/k10014030691000.html
“…立憲民主党は「9条から導かれる専守防衛などの規範は大切にしていくべきだ。敵基地攻撃能力などは、これを超えるものではないかという疑念が持たれている。審査会で最優先で集中審議すべきは、1票の格差の問題と同性婚、さらに安全保障だ」と主張しました。”

立民「論憲」立場を強調 衆院憲法審、小西氏サル発言受け
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023040600789&g=pol
“立民の中川正春元文部科学相は、最優先で審議すべき項目として、1票の格差や同性婚、安全保障を列挙。「各会派には集中討議の場をつくることに踏み出してほしい」と呼び掛けた。”

立憲と維新、憲法裁判所の創設求める 自公は慎重な姿勢 衆院憲法審
https://mainichi.jp/articles/20230406/k00/00m/010/195000c
“緊急事態における国会議員の任期延長を巡り、立憲民主党や日本維新の会は憲法裁判所を創設するなどし、司法を関与させるべきだと訴えたが、自民、公明両党は憲法裁判所の創設に慎重な姿勢を示した。”

議員任期延長改憲案、維新など3党派がアピール 衆院憲法審
https://www.sankei.com/article/20230406-SLWAP7JYQVJMDFKKJZIF7V6XXQ/
“日本維新の会、国民民主党、衆院会派「有志の会」の3党派は6日の衆院憲法審査会で、3月に共同で取りまとめた緊急事態条項の憲法改正条文案をたたき台とし、緊急時に限って国会議員の任期延長を可能とさせる改憲論議を促進すべきだと訴えた。”

【傍聴者の感想】

改憲会派議員からは緊急事態条項、議員任期延長の議論を推し進めたい内容の発言が続きましたが、立憲民主党の城井崇議員からは審査会の運営方式ついて議論の一致できるものは何かを踏まえたうえで会派間での議論を段階的に深めるべき、本庄さとし議員からは緊急事態下に具体的に何ができるのかを議論することが先である、と先行する議論をけん制する発言があり与野党問わずうなずく場面が印象的でした。

また過去の発言への批判に終始する発言者も複数おり、議員、傍聴席からも多く嘲笑が出る場面がありましたが、憲法審査会でこのようなやりとりが繰り返されること自体、議員もわれわれ傍聴者にもこの会議への第三者感が潜んでいると感じました。

会派を問わず今進められている議論に対し慎重さがみえる発言もあり、また言葉の含みや表情、他議員の発言時の姿勢から、会派を超えてさらに深くお話を聞いてみたいという気持ちになりました。

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