2022年、憲法審査会レポート

2022年12月09日

憲法審査会レポートNo.5

2022年12月7日(水)第210回国会(臨時会)第3回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7165

【会議録】

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121014183X00320221207

【マスコミ報道から】

参院憲法審査会・発言の要旨(2022年12月7日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/218566
※このかん、東京新聞(ウェブ版)は憲法審査会の発言要旨を翌日に掲載しています。

参院選 選挙区の「合区」めぐり各党が意見 参院憲法審査会
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221207/k10013916131000.html
“1票の格差を是正するため参議院選挙で導入されている選挙区の「合区」をめぐり、…自民党は憲法改正により解消するよう求めたのに対し、立憲民主党は法改正で対応できると主張しました。”

自民、一票の格差是正は「憲法改正で」立民は「不要」
https://www.sankei.com/article/20221207-TDYJVM33VZJMLC4N2SSOPPKP2M/
“立民の小西洋之氏は、参院が衆院とは異なる独自の機能を発揮するために、選挙制度改革や新たな委員会などを設置すれば違憲判決は出ないとの有識者の意見を紹介したうえで。「必要な論点を議論していくべきだ」と訴えた。”

自民、改憲で参院合区解消 憲法審 立民は不要と主張
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD07ANG0X01C22A2000000/
“衆院憲法審査会では、緊急事態条項を巡り参院の緊急集会の位置付けが議論されている。立民の吉田忠智氏は「参院の意見も聞かずに勝手に決めつけていることに怒りを覚える」と批判。公明の矢倉氏は参院憲法審での論議を求めた。”

【傍聴者の感想】

第3回参議院憲法審査会は合区問題の集中討議で、まず参院法制局長などから一票の格差をめぐる司法判断の概要や合区後の投票実態について説明があり、議論が開始されました。

最初の発言者である自民党の山谷委員は、安全保障や自衛隊など合区問題とは全く関係のない意見を頑なに述べ続け議場は騒然。野党席からは「これじゃ審査会ができない」「そういうやり方をするならやる意味なし」と怒号が飛び、与野党筆頭理事が暫時協議。与党理事が「不適切であった」と陳謝し審議再開となりましたが、このやり取りは何だったのでしょうか。

その後は18人の議員が意見を述べました。自民党の主張は「地方は大切→だから都道府県ごとに議員選出すべき→だから合区解消のために改憲」という稚拙な理屈の繰り返しですが、こういう理屈が有権者にとって「わかりやすい」となるなら問題です。
改憲必要なしということを、だれもがすぐに納得できる言葉でどう表現していくか、私たちの大きな課題と感じました。(T)

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

11月17日、衆議院憲法審査会で北側一雄議員は「今日も、緊急事態における任期延長につきまして、多くの会派の委員の方々が、その必要性について方向性がかなり共有されているなということを実感いたしております。先の通常国会そしてこの臨時国会で、この緊急事態条項については相当議論もなされ、具体的な論点についてもほぼ出尽くしている」と発言しました。

しかし、12月7日の参議院憲法審査会での議論を聞けば、「相当議論もなされ、具体的な論点についてもほぼ出尽くしている」とは到底、言えないことが明らかになりました。

参議院法制局長の川崎政司氏は、「衆議院の解散等の事情により国会を召集できない場合」には、「参議院に議会の権能を代行させることがよいとして参議院の緊急集会制度の提案がなされ、これが採用された」と説明しました。

小西洋之議員、吉田忠智議員、福島みずほ議員、打越さくら議員が適切に指摘するように、緊急時の国会議員の任期延長のための憲法改正は必要ありません。衆議院憲法審査会の改憲4政党の国会議員はこの点でも勉強不足です。そのため議論も不十分極まりなく、国会議員の仕事を果たしているとは到底、言えません。

【国会議員から】古賀千景さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

今回の憲法審査会のテーマは「参議院の在り方、選挙制度について」ですが、まず初めの与党議員の発言に驚きました。開会を与党が要求し、幹事懇で事前に与野党がテーマを合意したにもかかわらず、議題とは全く関係ない自衛隊の話を持ち出しました。それこそ憲法審査会を軽視していると感じました。

その後、二院制の意義、参議院の在り方、そして選挙制度については、一票の格差にかかわる合区の課題等の意見交換がありました。「国民の声がきちんと国政へ届く」そのことが一番大切なのであって、そのための選挙制度であるべきです。国民の視点ではなく「自分たちの票を減らさないため、政党に都合のいい選挙制度」という思惑は阻止しなければなりません。

憲法審査会のメンバーとして、公平公正な選挙制度、健全な民主主義、そして何よりも憲法を守るためにしっかり任にあたって参ります。

 

2022年12月10日(木) 第210回国会(臨時会)第6回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54240
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021020221208006.htm

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会 改憲の国民投票運動とネット広告規制など巡り討議<発言要旨あり>
https://www.tokyo-np.co.jp/article/218819
※このかん、東京新聞(ウェブ版)は憲法審査会の発言要旨を翌日に掲載しています。

国民投票にネット広告規制を 立民・階氏、衆院憲法審
https://nordot.app/973424524934119424
“…憲法改正の是非を問う国民投票時のインターネット広告規制や、ネット社会と憲法の関わりを巡り参考人から意見聴取。立憲民主党の階猛氏は、改憲手続きを定めた国民投票法を改正する際、「ネットによる国民投票運動やネット広告への規制を盛り込む必要がある」と主張した。”

憲法改正の国民投票 ネット広告扱いは 衆院憲法審で参考人質疑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221208/k10013917011000.html
“…憲法改正の国民投票が行われる際に、インターネット広告をどう扱うかをめぐって参考人質疑が行われました。”
“…日本インタラクティブ広告協会の橋本浩典専務理事は、「広告量のコントロールを求める意見があるが、CMとインターネット広告だけを規制することで効果があるのか。インターネットを利用した選挙運動ではガイドラインが策定されており、国民投票でも基準があればしっかり対応したい」と述べました。”

憲法改正へじわり進展? 臨時国会で静かな論議
https://www.yomiuri.co.jp/choken/kijironko/ckpolitics/20221205-OYT8T50183/
“…憲法改正による議員任期延長については、憲法学界からも否定的な声が少なくないことだ。いわゆる「護憲派」の学者に限らず、京大系など、比較的現実路線とされてきた専門家からも聞かれることである。これは、日本国憲法はドイツ基本法のように緊急事態について事細かに規定する作りとなっておらず、いざという時は、柔軟に解釈することをそもそも認めているのではないか、という憲法観に基づく。憲法改正を進めようとする立場からは、かなり不都合な意見だろう。”

【傍聴者の感想】

「インターネット広告市場の概要と業界におけるガイドライン等の取り組み」にについて、日本インタラクティブ広告協会の橋本浩典・事務理事から説明があり、今後の国民投票などにおいての課題について問題提起がありました。日本インタラクティブ広告協会そのものは、インターネット広告ビジネスに関わる電通や新聞社、テレビ局など309社が加盟する業界団体。現在、日本の広告費は2021年、インターネット広告費がマスコミ四媒体(新聞、テレビ、ラジオ、雑誌)合計の広告費を初めて上回った状況にある。今後もこの傾向は続く可能性がある。

インターネット上をはじめ、メディアからの情報経路は様々あるため、自由かつ公平・公正な投票運動を確保するためには様々な課題が残されている。業界加盟団体以外でも様々な団体・個人がインターネットをはじめとするメディアに無料広告を載せたりすることができ、有料広告を主体とする広告を規制することで効果があるのか、難しい問題がある。個別の取引に対して特定の既成に従うように強制する権限もないし、難しい。

慶応義塾大学の山本竜彦さんからは「ネット社会と憲法」として、デジタル社会が憲法改正に際して、それを選択する国民の行動にどのような影響を与えるのかの問題点が指摘された。特に、AIやビックデータによる情報の操作や偏りなど、個人の投票行動に大きな影響を与えること、フェイクニュースなどへの対応など様々な問題が指摘された。現時点で、そのような課題に対して、有効な手段が持てていない現状が明らかになったと思う。(I)

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

12月8日の衆議院憲法審査会では、「ネットCMと国民投票運動」・「ネット社会と憲法の関わり」についての調査がされました。

この審査会では「ケンブリッジ・アナリティカ事件」にも言及されました。ウェブの閲覧記録等の個人データをAIが分析し、個人の趣味や嗜好、政治的信条や犯罪傾向などを自動的に予測・割り出す「プロファイリング」という手法があります。「ケンブリッジ・アナリティカ事件」では、ケンブリッジ・アナリティカ社はFacebookの個人情報を違法に用いて詳細なプロファイリングをおこない、ユーザーを「神経質で自意識過剰」「衝動的に怒りに流される」等の分類をした上で「政治広告」を出しました。こうした「政治的マイクロターゲティング」が2016年のEU離脱をめぐるイギリスの国民投票やアメリカ大統領選挙でも行われ、投票に影響を与えたと言われています。

この問題は2021年6月2日、参議院の憲法審査会に参考人として出席した際に私も指摘しましたが、外国の政府や団体が日本の憲法改正国民投票に影響を与える事態は「国民主権」(憲法前文、1条)からも正当化できません。

「公選法の積み残しの三項目、これをしっかりと、直ちに公選法並びの国民投票法改正をすれば、まさにいつでも十分な憲法改正の国民投票ができる」(2022年4月14日衆憲法審査会日本維新の会足立康史議員発言)などとしてネットCMの規制もせずに国民投票できるというのが自民党、公明党、日本維新の会の立場です。ただ、ネットのデマや「政治的マイクロターゲティング」への対応にも十分な議論・対策もせずに国民投票が可能とする自民党、公明党、日本維新の会の政治家たちは「国民主権」を軽視しています。

【国会議員から】吉田晴美さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

第210臨時国会としては最終回になる衆議院憲法審査会が開かれた。この日は、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件」が議題となり、参考人より意見聴取した。

参考人は、一般財団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の専務理事の橋本浩典氏、事務局長の柳田桂子氏、慶應義塾大学大学院法務研究科教授の山本龍彦氏であった。

今回明らかになったのは、インターネットを介した広告や報道は個人の思考や行動に大きく影響する時代になり、これは仮に憲法改正を問う国民投票が行われる場合にも、非常に問題になる、ということだ。

国民投票法が制定された当時、国民に情報を届け、世論に影響するメディアといえば、TV・新聞・ラジオであった。しかし、今回ヒアリングしたJIAAの橋本氏、柳田氏の指摘によれば、インターネットの有料広告はホームページ、SNS、動画サイト、ブラウザ、検索エンジン、ひいては個々人の数限りない発信元がありメディアは多種多様に変化している。

現在、こうした有料広告を掲載する際、その内容は自主規制に委ねられている。例えば、政治的見解を含む意見広告に関しては、掲載するか否か、どんな内容をOKとするのか、メディアによって判断が異なるそうだ。

有料広告はある程度自主規制、あるいは立法でも対応ができるが、個人の発信に関しては、表現の自由、そして匿名性の高いサイバー空間でどこまで可能なのか。それらを包括的に網羅し、事実に基づいた情報発信を実現し、誘導広告を規制することができるのか。GAFAと言われるITジャイアント企業は海外のプラットフォーマーであり、日本の法規制に縛られない逃げ道を確保している現状に、この問題の大きさをしみじみと感じ、頭を抱える。

山本教授の指摘の中で、特に印象に残った点を2つご報告したい。

まず、1点目は、AIやビッグデータが発達した今、趣味嗜好に合わせた広告を打つ、ターゲティングが進んでおり、広告元は効率的に広告に反応する人にリーチできる。つまり、政治的思考から、直感的なアプローチに反応する人を特定し、そして扇動することも可能なのだ。いわゆる「ウケる」投稿や動画がもてはやされる、人の注意を引き話題をつくるアテンションエコノミーの真っただ中に私たちはいるのだ。

私たちは、自分で情報を選択しているようで、実は大きな商業的意図で動かされているという可能性があり、私はこれは、憲法19条で保障されている内心の自由を制御しようとする民主主義への挑戦だと厳しく受け止めている。

2点目は、権力者の定義が変わりつつある、という山本教授の指摘だ。それはつまり、権力者をしばるのが憲法、その想定される権力者は政府や政治家であった。しかし、情報技術が目まぐるしく進化する現代において、こうしたサイバー空間を支配するプラットフォーマーと呼ばれる特定の事業者、経営者が、世界をも動かす権力の座に台頭してきている。

憲法議論を拙速に進める前に、まずこうした民主主義の根幹である、情報の正確性と内心の自由をどう守っていくのか、国会は真剣に考え、国民の皆様に保障しなくてはならない。

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