2022年、声明・申し入れ
2022年07月20日
「安倍元首相の国葬」に関する平和フォーラム事務局長見解
2022年7月20日
「安倍元首相の国葬」に関する平和フォーラム事務局長見解
フォーラム平和・人権・環境
事務局長 田中直樹
岸田文雄首相は、銃撃によって亡くなった安倍晋三元首相を、今秋に国葬とすることを発表した。岸田首相は「民主主義の重要性を改めて国民とともに確認する」ことを、国葬の理由の一つに挙げたが、国葬が民主主義と相容れないことは明らかだ。
敗戦後の1946年、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指示によって、「公葬、宗教的儀式及び行事の禁止」が各地方公共団体などに伝えられた。また、1947年5月3日の日本国憲法の施行と同時に「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」が施行され、旧憲法下で帝国議会の審議を経ずして制定された命令のうち現に効力を有するものは、再度法律として制定しなければ1947年12月31日をもって失効するとされ、その後「国葬令」は議論されることなく失効した。「国家に偉功ある者」に対し、天皇の特旨により国葬を賜うことができるとされた「国葬令」第3条は、多くの場合国家権力や戦時体制の強化と国民統合に利用されてきた。国民に対して弔意の表明を強要しその人物の批判を許さない「国葬」は、国民主権の日本国憲法の精神に反し、思想信条の自由など基本的人権をも犯すことは明確だ。そのことは戦後の失効後、「国葬」に関する議論が行われなかったことに象徴される。戦後まもなく、閣議決定として実施された吉田茂首相の国葬には、市民社会は賛意を示さなかった。以降、様々な首相経験者の葬儀が行われたが「国葬」は行われなかった。これまでの慣習を破ってまで「国葬」とする意味はない。
岸田首相は、国葬とする理由に、最長の首相在任期間、内政・外交での成果、国際社会の幅広い弔意などを挙げている。戦前、首相在任期間が最長であった桂太郎は、国葬とはされていない。安倍元首相の、内政・外交の評価も賛否両論がある。歴代首相と何が違うのか。そもそも優劣をつけることの意味は無い。長期にわたる安倍政権の下、数の力で国会の議論を軽視し、森友・加計、桜を観る会など、政治の私物化とも言える事件が頻発した。尊い命も犠牲になったにもかかわらず、安倍元首相は、国民が納得できる説明をしていない。岸田首相が「民主主義の重要性を改めて国民とともに確認する」と主張するのであれば、これら事件の全容を国民に明らかにすることから始めなくてはならない。
「国葬令」が失効した現在、岸田首相は国の儀式を所管する内閣設置法に基づいて国葬を実施するとしているが、第4条第3項第33号にある「国の儀式」に国葬が予定されているとはいえず、国葬実施の法的根拠とはなりえない。安倍政権下では、集団的自衛権行使容認、特定秘密保護法、共謀罪法など、憲法が規定する平和主義や基本的人権に反する法制度が、多くの反対を押し切って成立した。これらは、法治主義に反し民主主義を崩壊させる何物でもなかった。法的根拠のない国葬の実施を閣議決定で行うことは、同じく民主主義の手続きに反する。岸田首相も、安倍政権と同じ途を歩むつもりなのか。
平和フォーラムは、民主主義を揺るがす安倍晋三元首相の国葬に反対する。