2021年、声明・申し入れ

2021年05月14日

今夏の五輪開催の断念と新型コロナウイルス対策の強化を求める声明

2021年5月14日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 藤本泰成
勝島一博

新型コロナウイルス感染症の勢いが止まらない。緊急事態宣言下において、5月11日には全国で6240人、12日には7057人の新規感染者が報告されている。1日の全国の死者も100人を超えることとなった。医療機関は逼迫し、治療を受けられず死亡した者が全国で3月は29人、4月は47人が報告されている。現在、東京都、大阪府など6都府県に緊急事態宣言が、8県に蔓延防止等重点措置が適用され、対象地域の拡大も検討されている(5月13日現在)。

昨年4月7日、政府は最初の緊急事態宣言を発出し、5月25日には全面解除したが、その間、全国の新規感染者が1000人を超えたことはなかった。7000人を超える現状を見れば、より一層深刻な事態に突入していることは明らかだ。このような事態は、PCR検査の拡充を行わず無症状の感染者を放置してきたこと、水際対策の不備から変異株の国内侵入を許してしまったこと、ワクチン接種の準備が遅れたこと、何よりも世界の感染状況を軽視し、最初の緊急事態宣言直後「Go To トラベル」キャンペーンや「Go To イート」キャンペーンなど経済政策を優先したことに原因がある。

市民は感染拡大防止のために様々な自粛を強いられてきたが、政府の対策の不備から大きな効果を上げるに至らなかった。休業要請や営業時間短縮措置などこれまでの政府の対策は一貫性がなく、市民の理解を得るには説得力に欠ける。一度きり一律の給付金は、困窮者を真に救済することにはつながらず、営業補償もその給付が滞っている。医療従事者を優先するとしたワクチン接種も、医療従事者の接種が3割にも満たないまま、高齢者の接種が始まっている。英国や米国では、2回目のワクチン接種完了者が3割を超えているが、日本は1回目の接種でさえ対象者の2%となっている。対策の遅れは火を見るより明らかだ。

このように市民社会が命の危険にさらされている中にあって、政府は7月23日の開会式が予定されている東京オリンピック、そしてパラリンピック(以下総称して五輪)の開催を強行しようとしている。菅首相は、五輪開催中止を求める野党の質問に対して「感染対策を講じて、安心して参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく」と繰り返し答弁し、その具体策を示すことなく五輪開催を強行しようとしている。しかし、3月20日に発表された公益財団法人「新聞通信調査会」の海外5カ国での世論調査では、「中止すべきだ」「延期すべきだ」との回答の合計が全ての国で70%を超えている。英ガーディアン、米ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなど主要な海外メディアも、開催に否定的な意見を掲載している。世界の感染状況からいっても、五輪が開催できる状況にはないだろう。国内で始められた五輪開催中止を求めるネット署名への賛同は、わずかな期間で35万人以上に達している。五輪への医療従事者派遣の要請に、当事者から大きな反発が起き、選手へのワクチン優先接種も否定的な意見があがっている。ホストタウンを引き受ける自治体にも不安は広がり、受け入れ中止を表明する自治体も現れている。

世界中が命の危険にさらされている中にあって、五輪開催にどのような意味があるのか。政府、JOCそして組織委員会は、その意味を示し得ていない。オリンピズムの根本原則には「オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学である」と記載されている。それならば、「いのち」を優先することが求められるのではないか。現下の状況でオリンピックを開催すべきではない。世界の、そして日本の市民社会は、決して開催を喜びはしない。

「いのちに寄り添う政治と社会」を求めて活動してきた平和フォーラムは、今夏の五輪開催を断念し、新型コロナウイルス対策を強化し市民の命を最優先することを、日本政府に対し強く求める。

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