2021年、声明・申し入れ
2021年06月16日
第204回通常国会の閉会にあたって(平和フォーラム見解)
2021年6月16日
フォーラム平和・人権・環境
事務局長 竹内 広人
2021年1月18日から、150日間わたって開催された第204回通常国会が、6月16日、閉会された。野党から3か月の会期延長を要求されたにもかかわらず、与党はこれを拒否、内閣不信任案を提出され、それを否決した上での閉会となった。今国会では、コロナ禍の克服が最大の課題となる中で、基本的人権をないがしろにする、問題の多い法案が成立しており、今後に課題を残している。
第一には、「国民投票法改正案」である。本法案については、立憲野党は8国会にわたって、改憲発議が可能な衆議院の3分の2をこえる自公政権のもとで、法案審議を継続させてきた。しかし、5月6日の衆議院憲法審査会において、立憲民主党の修正案をすべて了承し、法案を修正したうえで、可決されることとなった。修正の内容は、CM・ネット規制の問題や、政党への外資規制の問題、また、運動資金の透明化など、この法案のもつ明らかな欠陥について、「施行から3年を目途」に必要な改正を行う、としたものである。
しかし、この「改正案」は、そもそも「投票しやすい環境を整える」ことが目的だったはずだ。にもかかわらず、「期日前投票の弾力的運用」や「繰延投票の告示期間の短縮」はかえって「投票環境」を悪くしかねないものである。また、「最低投票率」あるいは「最低得票率」の問題も未解決のままだ。そのうえ、CM・ネット規制の問題や、新型コロナウイルス等による自宅療養者の投票権の問題も残されている。
参議院の憲法審査会では、これらのことが改めて議論されたが、明らかになったのは、本改正案の欠陥ばかりであった。6月2日に行われた参議院憲法審査会での参考人招致でも、与党推薦の参考人までが、議論が不足していることを指摘しており、本来であれば、廃案とすべきであった。しかし、本法案は6月9日の憲法審査会で可決、6月11日の参議院の本会議で、可決・成立した。審議不十分のまま、立法府としての責任を全く果たすことなく採決が行われたことに対して、強く抗議する。
今後、菅自公政権は、改憲4項目、すなわち、「自衛隊明記」「緊急事態条項の導入」「教育の充実」「合区解消」などの自民党の改憲4項目の議論にはいることを目論んでいる。さらにその先には、改憲発議を視野に入れている。しかし、今後、法案本文である「附則」において、この法案が「欠陥法案」であることが明記されている以上、この法案の成立をもって、自民党などが主張するように「憲法改正の是非を問う国民投票の実施に向けた環境が整った」わけではない。引き続き国民投票のあり方についての議論を継続すべきである。立憲民主党も6月11日の「談話」において、「ルールの公正性に関しての結論が出ない以上、憲法改正の発議をさせないことを改めて確認」すると表明しており、このことを基本に、今後の憲法改正論議を注視していかねばならない。
さらに、最も重要なことは、改憲勢力が3分の2以上を占める衆議院の状況を、来る総選挙で、逆転していくことである。そもそも、今、コロナ禍の克服と、それによる格差・貧困の問題の解決が最優先である今、憲法改正は焦眉の課題ではない。憲法に「緊急事態条項」に対する規定がないから、政府は適切な対応を打てないとする論があるが、これは詭弁であり、すでにある法律を使い切れていない政府の責任転嫁である。このような詭弁を打ち消していくためにも、総選挙における立憲野党の勝利によって、自民党が改憲発議を行うことができない状況をつくり出すことこそが、当面の最大の課題である。
第二には「重要土地調査規制法案」である。本法案は、基地や原発などの周辺1kmについて、国が「注視区域」や「特別注視区域」に指定して、利用を規制できるとしたもので、「特別注視区域」では土地や建物の売買の際に事前に氏名や国籍の届け出などが義務づけられる。また、国は区域を指定した上で土地・建物の所有者を対象に氏名や国籍、利用状況などの個人情報を調査できるとされている。
本法案は、3月26日に閣議決定されているにもかかわらず、ひと月以上も経った5月11日になってやっと衆議院で審議入り、わずか12時間の議論しか行われないまま、5月28日、与党が衆議院内閣委員会での採決を強行し、6月1日には衆議院本会議で可決された。
この法案の最大の問題点は、法律に書かれていることがあまりに抽象的で、具体的内容の多くが、政令や告示で個別指定されることとなっている点にある。同法では、基地や原発などの施設機能を「阻害する行為」を「機能阻害行為」として規制対象とし、命令違反には懲役もしくは罰金刑の対象とされている。しかし、「機能阻害行為」とはなにか、ということについては、まったく明確な定義がなされていない。このため、時の権力の解釈次第で基地に対する反対運動や監視活動などの市民運動までが「機能阻害行為」に含まれる危険性があり、運動の弾圧に利用される恐れもある。
また、内閣総理大臣が、調査のために必要がある場合、対象区域の利用者らの情報提供を求めることができるとされているが、これも、提供の対象となる情報や調査項目が、政令や告示で個別指定されることとなっており、調査内容が歯止めなく拡大する懸念がある。結果として、国家権力による違法な情報収集に法的裏付けを与えてしまう危険性がある。
以上のように、本法案は日本国憲法第29条で保障された財産権を侵害しかねない内容となっているばかりでなく、個人情報の過度な調査によって、プライバシーの権利(憲法第13条)などの基本的人権そのものを侵害しかねないものであり、違憲の疑いが極めて濃い。参議院では「重要土地調査規制法案」の審議について、衆議院では行われなかった参考人招致が実現、あわせて4回の審議が行われた。しかし、「機能阻害行為」など、法案で具体的に何が規制対象とされるのか全く分からないまま、与党は審議を打ち切ろうとしたため、立憲民主党をはじめとした立憲野党はこれに反対、内閣委員長の解任決議を提出したが、否決、6月15日の参議院内閣委員会で、採決が強行された。こののちも、立憲野党は議事運営委員長の解任決議などで抗議したが、翌16日3時近く、参議院本会議で採決がされ、可決、成立となった。
今後、この違憲の疑いの極めて濃い法律による市民監視、私権制限が現実のものとなる恐れがある。当面は、今後この法律に基づいて出される政令や告示のチェックを怠らない必要がある。また、ほぼ法律の体をなしていないこの法律そのものを廃止させるために、引き続き、取り組みを進めていかなければならない。
このほかにも、今国会では、「デジタル改革関連法案」が、個人情報保護の仕組みが担保されないまま成立している。また、「入管法」の改悪案は廃案に追い込むことができたが、入管の収容施設内で死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんのビデオの開示と真相の究明と遺族への謝罪はまだ果たされていない。
今国会最大の課題であったコロナ禍の克服についても、菅自公政権は、「変異株」の流入を防ぐ水際対策の不備や、一向に進まないPCR検査の拡充、後手に回ったワクチンの確保と接種体制の不備、病床数もなかなか拡大しない現状など、いっこうに有効な対策を講じることができていない。一方で、この間の新型コロナウイルス感染症の影響で仕事を失った人は、厚生労働省の調査で、製造業、小売業、飲食業、宿泊業を中心に10万人を超えている。実態はこの数字にとどまらないものと考えられ、この1年で、貧困と格差が急激に拡大している。この現状は、もはや人災であり、菅政権下での政治が機能していないことは明らかである。
このようななか、政治と金をめぐる不祥事や菅総理の長男が関連した総務省に対する違法接待、日本学術会議会員の任命拒否問題など権力の私物化が進められている。さらに、菅総理は7月23日の開会式が予定されている東京オリンピック、そしてパラリンピックの開催を強行しようとしている。医療体制がひっ迫するなかでの医療従事者派遣要請や、選手へのワクチン優先接種に対して、否定的な意見が多くあがっており、市民の命を最優先するために、今夏のオリンピック、そしてパラリンピックの開催は行うべきではない。
しかし、それでも菅総理が東京オリンピックを強行しようとしているのは、自らの政権の浮揚のためでしかない。今回の国会運営を見ても、「国民投票法改正案」や「重要土地調査規制法案」の成立にあくまでもこだわったのは、自民党内右派を意識した選挙対策であるともいわれている。国会審議の中でも、与党はまず成立ありきで、国民のために、立法府としての責任を果たそうとする意識は一切見られなかった。
このような、菅自公政権には、今すぐ退陣してもらわなければならない。
今後、7月の都議選、そして衆議院の解散総選挙が予定されている。今後の秋までが「暮らしといのち」を守る政治の確立、立憲主義の回復などに向けた、大きなチャンスとなる。総選挙における立憲野党の勝利にむけて、平和フォーラムは、この機会を最大限に生かしながら、とりくみを進めていく。
以 上