声明・申し入れ、2017年

2017年08月09日

被爆72周年原水爆禁止世界大会・長崎大会まとめ(藤本事務局長)

 被爆72周年原水爆禁止世界大会・長崎大会まとめ

被爆72周年原水爆禁止世界大会実行委員会
原水爆禁止日本国民会議
事務局長   藤本泰成
 被爆72周年原水爆禁止世界大会は、福島大会から始まって、広島大会へ、」そして今日の長崎大会の閉会集会で、幕を閉じます。本大会の運営に携わっていただいた、実行委員会の皆さま、そして遠いところを海外から来ていただいたゲストの皆さま、各分科会でご発言いただきました講師の皆さま、そして全国からご参加いただきました皆さんに、心から感謝を申し上げます。
大会中、様々な議論がありました。全てに言及はできませんが、若干の時間をいただき、私なりにまとめたいと思います。
 福島第一原発の過酷事故から、6年が経ちました。今、原水禁大会では、多くの方から事故原発の現状に触れていただきました。指摘されていたのは、東電の経営陣は遅くとも2008年には津波によるメルトダウンを予想していたが対策を取らなかったと言うことです。
 2016年2月には、勝俣恒久元会長他3人の経営陣が、業務上過失致死傷罪で強制起訴されていますが、第1回の公判が2017年6月30日に開かれました。先立つ3月17日には、前橋地裁において、「東電は巨大津波を予見しており、事故は防ぐことができた」「国は安全規制を怠った」として、東電・国に賠償を命じる判決を下しています。
 事故の責任を明確にしていくことは、日本の将来に重大な意味を持つでしょう。福島では、支援の打ち切りが相次いでいますが、目に見えない放射性物質が復興を妨害し、遅々として進まない現状が報告されています。国の責任による明確な支援を要請したいと思います。
 第1原発の廃炉・事故の処理には、膨大な時間と今後の技術開発が必要なことが、これも様々な方から発言がありました。原子力資料情報室の伴英幸さんからは、地下水や汚染水対策も計画通りにはいかず、貯蔵される汚染水は100万トン、行き場のない放射性廃棄物も含めて、今後の見通しが立たない状況が報告されています。
 2017年3月31日をもって、帰還困難区域を除く地域の避難指示が解除されています。解除の根拠は、年間被ばく量が20mSv 以下と言うことですが、この数値は暫定基準で有り、過酷事故の実態に合わせて基準を緩和したものに過ぎません。現在でも、福島事故で避難指示が出された地域以外の一般公衆の年間被ばく量が1mSvであることを考えると、その意味が分かります。
 伴さんは、福島県の実施している健康調査によると、子どもの甲状腺ガンの確定者が145人に達していることを報告しながら、その他の疾病に関しても統計学的な調査も実施すべきとしました。一般公衆被ばく基準の20倍の放射線量が、身体に影響が無いと言うことを、信用するわけにはいきません。

原子力市民委員会委員で元原子炉格納容器設計技師の後藤政志さんからは、原子力産業の行方と原発の安全性に関して報告がありました。
米国のスキャナ電力は、7月31日にV.C.サマー原発2・3号機の建設断念を発表しました。東芝傘下のウェスティングハウス社が受注していたものですが、後藤さんは、米国の安全規制の強化が工期の延長とコストの上昇を生み、いまや原子力発電所がコスト競争に勝利することはないだろうと発言しています。

 東芝が建設した、改良沸騰水型の台湾龍門原発1・2号機は、建設されるも、一度も運転をすることなく廃炉になりました。背景には地震と安全性の問題があります。脱原発を決めた台湾からシュウ・グァンロン台湾大学教授に来ていただきました。韓国脱核情報研究所所長のキム・ポンニョさんからも、脱原発を志向するムン・ジェイン大統領の下、脱原発への議論が進んでいることが報告されました。世界が脱原発に向かっていることは確実です。
 後藤政志さんは、「不確かな対策をいくら多層防護にしても安全ではない。多重防護は、事故に至る確率を下げていくだけである」「だから、規制委員会の田中委員長は、決して安全とは言わない」と述べています。原発の安全性には100%はあり得ない。であれば、そのリスクを許容できるのか、できないのか、できないならば結論は明らかなのです。後藤さんは、再生可能エネルギーが急速に普及している海外の状況と、原子力産業の崩壊を見れば、もはや原発は核兵器と共に凍結されるべきものであり、実際それが十分に可能であると結んでいます。
 本大会開催の約一月前に、国連では「核兵器禁止条約」が締結されました。何度もその評価には言及されているのでここでは控えます。日本政府は、しかし、条約に反対し批准する姿勢を示していません。ピースデポ代表の田巻一彦さんは、2016年の国連総会に日本が提出した「核軍縮決議」にある、「関係する加盟国が、核兵器の役割や重要性の一層の低減のために、軍事・安全保障上の概念、ドクトリン、政策を継続的に見直していくことを求める」の一文をあげて、日本自らが「政策を継続的に見直して」ゆかねばならないが、しかし、その様子は見られないと指摘しています。
 核兵器の非人道性を普遍的な見地として、禁止条約の前文では「核兵器の使用による被害者ならびに核兵器の実験によって影響を受けた人々に引き起こされる受け入れがたい苦痛と危害に留意」との文言が書き入れられました。日本が今、行うべきは、米国の傘の下から脱却し、戦争被爆国としての明確な外交姿勢を確立することではないでしょうか。市民社会が反対する原発の再稼働をすすめ、再処理によって得るプルトニウムを利用する核燃料サイクル政策に、あたかも核兵器保有政策の担保のようにしがみつく姿勢は、被爆者の思いを踏みにじるものです。今こそ、日本政府が核政策の見直しに着手することを強く要求するものです。
 前田哲男さんの報告に、「このままでは『日本は本当に戦争をする国』になってしまう」という、今の日本社会、日本の政治に対する警報とも言える主張があります。自衛隊に対する世論調査の分析から、民意のありかは「はたらく自衛隊」のイメージ、9条改憲を望んではいないとの分析です。安倍首相のめざす「憲法改悪」に対抗するには、民意に沿った対抗構想の提示こそ、私たちに求められていると、まとめられています。
安倍政権は、特定秘密保護法、戦争法、共謀罪、矢継ぎ早に、憲法違反と言える法整備を、数の力を持って強引に進めてきました。彼の言う、戦後レジームからの脱却は、憲法の規定する、主権在民、平和主義、基本的人権の保障という、戦後社会の根幹に関わる理念への挑戦というものです。前田さんは「『秘密保護法』と『共謀罪』の結合がもたらす、物言えぬ社会が到来する」と指摘しています。私たちは、決して負けるわけには行きません。原水禁運動は、60年以上にわたって「核兵器廃絶」「脱原発」を、運動の両輪としてとりくんできました。そこには、被爆の実相がありました。一人ひとりの命への強いこだわりがありました。私たちは、権力の圧力に、臆してはなりません。
 今年いただいた年賀状に、非暴力を貫き、米国での黒人の公民権運動を指導したキング牧師の言葉がありました。
 「この変革の時代において、最も悲劇的であったのは、悪人たちの辛辣な言葉や暴力ではなく、 善人たちの恐ろしいまでの沈黙と無関心であった」
 私たちは、沈黙の仲間であってはなりません。私たちは、声を上げ続けなくてはなりません。そして、私たちは、原水禁運動の、大きな、大きな輪を、広げていこうではありませんか。大きな、大きな声に、していこうではありませんか。
 I have a dream !
私たちには、夢があります。核も戦争もない平和な21世紀を作りましょう。

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