教科用図書検定調査審議会報告に対する事務局長見解
フォーラム平和・人権・環境事務局長 福山真劫
教科用図書検定調査審議会は、12月25日「教科書の改善について~教科書の質・量両面での充実と教科書検定手続きの透明化~」(報告)を発表しました。
平和フォーラムは、文科省が、07年3月に出した沖縄戦における「集団死」への日本軍の関与を否定した高校教科書検定意見の撤回を求める取り組みの中で、教科書検定制度の透明化を主張してきました。裁判(大江・岩波沖縄戦裁判地裁・高裁判決)においても否定されるような、非科学的な史実にもとづかない検定意見が、教科書調査官の恣意的とも言える主張によって審議会を通過したことを問題視し、検定制度の是非も含めて教科書が国民に開かれたものであることを求めてきました。沖縄と連帯した全国的な取り組みの中で、国民に開かれたものとして、教科書検定制度の改善の方向が示されていました。
しかしながら、今回の審議会報告は、a.検定における審査過程の公開は事後とされる、b.教科書調査官の作成する調査意見書は公開とされたものの、審議会の議論については概略しか発表されないなど、その透明度は極めて低く、 私たちの要求からほど遠いものとなっています。
これまでの議論の中では、この改訂審議の発端となった、「教科書調査官の史実をゆがめる意見がなぜ検定意見として審議会を通過したか」の問題性については全く触れられませんでした。また、教科書検定制度、特に高校教科書における検定制度の必要性についても、国際的な動向も含めて議論すべきであったものを、「検定制度ありき」が前提として議論がなされ、結局は中途半端な改正に終わっています。
検定手続きには、「外部からの影響を受けない、静ひつな環境の下で、各々の委員の識見に基づく率直で活発な議論がなされ、公正・中立で専門的学術的な審議が確保されることが重要」として、その内容については事後の公開とし、個々の意見のやりとりと発言者の氏名の公表などを行わないとしています。しかし、それぞれの審議官の信念に基づく責任ある意見が公表され批判されたとして、なぜ「識見に基づく素直で活発な議論」が阻害されることになるのかは理解できません。ヤジや怒号が必要ないのは当然ですが、「静ひつな環境の下で」ということが、審議への批判を許さないということであってはならないと考えます。
報告が言う「教科書検定に対する国民の信頼をいっそう高める」ためには、主権者たる国民が、自らの権利に基づいて「教科書」の内容に関する議論に参加できる状況をつくるべきであり、「騒然たる議論」というものが本当に国民に信頼される教科書を作ることにつながると考えます。そのことが、混乱を招くというのであれば、まず高校教科書の検定制度を廃止し、多くの教科書の中から保護者が自ら教科書を選ぶ制度に変更すべきではないでしょうか。
今回の教科書用図書検定調査審議会の報告の内容は、極めて不十分と考えざるを得ません。平和フォーラムは、この問題については、さらに深化した議論が必要であると考え、さらに取り組みを強化していくものとします。
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