声明・申し入れ、2010年、東北アジア平和キャンペーン
2010年07月28日
強い「アジア関係」を築くための要請書―この夏、「村山談話」を一歩深めた「菅談話」を
内閣総理大臣 菅 直人 様
強い「アジア関係」を築くための要請書
―この夏、「村山談話」を一歩深めた「菅談話」を―
フォーラム平和・人権・環境
代表 福山 真劫
お二人の積極的な発言
今年8月は、戦後65年目であるとともに、韓国併合100年です。菅総理は総理就任直後に韓国の李明博大統領と電話会談をされ、今年は韓国併合100年であり、「歴史を直視するだけでなく、反省すべきことは反省する。未来を見通した協力関係を構築できるよう努力する」と積極的に述べられました(6/10)。
また仙谷由人官房長官も、日韓基本条約で韓国政府が植民地支配にともなう個人補償の請求権を放棄したことについて、「法律的に正当性があるといって、それだけで物事は済むのか」「1つずつ、あるいは全体的にも、改めてどこかで決着というか日本のポジションを明らかにすべきと思う」と発言されました。ただし、「この問題は原理的に正しすぎれば、かえって逆の政治バネが働く。もう少し成熟しなければいけない。大胆な提起ができる状況にはないと私は判断している」と慎重な姿勢も示され(7/7)、内閣として「総理談話の発表のいかんを検討している」(7/16)と公表されました。
強い「アジア関係」へ向け過去の克服を
お二人による積極的なご発言は、韓国をはじめアジア諸国に対する日本の戦後処理問題が、法的には別であれ、いまだ終わっていない側面をもつことを明確にされ、自民党中心の政権から民主党中心の政権へ転換した大きな意義を、国内外に知らしめました。
かつて野中官房長官も、二国間条約を超えて新たな立法措置をとることは違法ではなく、「条約等が規定(否定)している問題ではないと考えられる…また、そのような措置をとることが憲法上の問題を生じせしめることはないと考える」(1999/9/8)と明言されたことがあります。
しかし、今回のお二人の発言は、野中発言のように消極的なものでなく、新たな措置を積極的に検討しておられることにより、大きな期待を集めています。アジア近隣諸国との友好関係を日本が築き、経済的な発展と安全保障を視野に入れた東アジア共同体構想を目指し、菅総理が施政方針で述べられた「強い財政、強い経済、強い社会保障」に加え、「強い、アジアとの関係」をぜひ打ち出していただきたいと念願します。
そこで今年8月15日、日本を代表して菅総理に1995年の「村山談話」をより深めた謝罪と反省を表明していただきたいのです。具体的には以下二点をぜひ織り込んでいただきたく、要請いたします。
一、過去の歴史を直視するため、内閣に日本の侵略行為や植民地支配の歴史的事実を調査する機関を設置し、政府機関が保有する記録を全面開示する。
植民地支配と侵略による加害の詳細な認識については、教科書問題も絡み、日本国内に深刻な対立を残しており、仙谷官房長官が述べられたように、もし原理的な立場を貫こうとすれば、解決をむしろ先延ばしすることにつながりかねません。この対立解消には、まず被害の実態に関し、日本政府の責任において、法的制度を背景とし、公的な調査と認定を行う必要があると考えます。その一環として日本政府自らの所有する情報を進んで開示する必要があります。調査につき被害当事者と関係諸国に対しご理解とご協力を得る必要もあります。
先の通常国会において、敗戦直後、旧ソ連等に抑留された日本人に給付金を支給する特別措置法が成立しました。待ち望んでいた法律が制定されたことは大変喜ばしいことですが、この法律は国籍要件をもち、旧植民地出身の元抑留者を対象外としました。こうした差別をなくし、「内外すべての犠牲者」を同等に扱うことへ向け、同法律は政府に遺骨収集や抑留実態の調査を義務付けました。調査の開始は喫緊の課題となっています。
被害認定は、犠牲者による第一の要求であるとともに、この問題において国内対立を解消させ、解決へむけて前進させる、もっともの近道と考えます。
一、戦後処理に関する全情報を開示し、戦後処理の在り方を再検討し、残された戦後諸課題に立ち向かう。
菅総理が、硫黄島の遺骨収集を促進するため特命チームの設置と戦没者遺骨収集促進に向け立法化を検討されているように、戦後処理問題は国内にも多くの課題を残しています。その課題解決については、たとえば遺骨の中にかならず台湾や朝鮮半島出身の軍人軍属が含まれているように、旧植民地諸国の被害の問題と密接にからめて進められることが肝要と考えます。
対外関係については、サンフランシスコ平和条約や二国間条約などにより国と国との賠償問題は解決済みとしてきたわけですが、それを不十分とし、新たな措置を打ち出そうとするとき、戦後処理の経過に関する全情報を開示し、これまで何を行ってきたか、そこに新たに何を加えることが必要かつ可能か、厳しい財政状況を考慮し、慎重に検討する必要があります。
65年という歳月は、戦後処理問題を歴史の領域へと追いやりつつあります。しかし被害当事者は苦難のうちに数多く生存しておられ、たとえ亡くなられた場合でも、その感情は遺族へと受け継がれています。私たちは急ぎ、深刻な被害に対処することが迫られています。菅内閣が、歴代内閣の避けてきたこの歴史的課題の解決を果たされますことに、強く期待しています。
以上