声明・申し入れ、2010年、人権コーナー、東北アジア平和キャンペーン
2010年03月10日
<NGOと市民の共同要請>私たちは朝鮮学校を「高校無償化」制度の対象とすることを求めます
内閣総理大臣 鳩山由紀夫 様
文部科学大臣 川端 達夫 様
<NGOと市民の共同要請>私たちは朝鮮学校を「高校無償化」制度の対象とすることを求めます
私たちは、多民族・多文化社会の中ですべての子どもたちに学ぶ権利の保障を求めて活動するNGOであり市民です。
新政権のかかげる「高校無償化」制度においては、政権発足当初より各種学校である外国人学校についてもその範囲に含むことが念頭におかれ、昨秋、文部科学省が財務省に提出した概算要求でも朝鮮学校などの外国人学校を含めて試算されていました。
ところが今年2月、法案の国会審議を目前にしたこの時期、新聞各紙では「中井拉致問題担当相が、4月から実施予定の高校無償化に関し、在日朝鮮人の子女が学ぶ朝鮮学校を対象から外すよう川端達夫文部科学相に要請、川端氏ら文科省の政務三役が検討に入った」(2月21日)、「鳩山首相は25日、高校無償化で、中井洽拉致問題担当相が朝鮮学校を対象から外すよう求めていることについて『ひとつの案だ。そういう方向性になりそうだと聞いている』と述べ、除外する方向で最終調整していることを明らかにした」(2月26日)と報道されています。
しかし、日本人拉致問題という外交問題解決の手段として、この問題とはまったく無関係である日本に生まれ育った在日三世・四世の子どもたちの学習権を「人質」にすることは、まったく不合理であり、日本政府による在日コリアンの子どもたちへの差別、いじめです。このようなことは、とうてい許されることではありません。
朝鮮学校排除の理由として「教育内容を確認しがたい」との説明もなされていますが、これは、『産経新聞』2月23日付けの社説「朝鮮学校無償化排除へ知恵を絞れ」にも見られるように、朝鮮学校排除のために追加された名目にすぎません。
朝鮮学校は地方自治体からの各種学校認可や助成金手続きの際、すでにカリキュラムを提出していることからも、「確認しがたい」との説明はまったく事実に反します。また、日本 のほぼすべての大学が朝鮮高級学校卒業生の受験資格を認めており、実際に多くの生徒が国公立・私立大学に現役で進学している事実からも、朝鮮 高級学校が、学校教育法第1条が定める日本の高等学校(以下「1条校」という)と比べても遜色ない教育課程を有していることを証明しています。
そもそも、1998年2月と2008年3月の日本弁護士連合会の勧告書が指摘しているとおり、民族的マイノリティがその居住国で自らの文化を継承し言語を同じマイノリティの人びととともに使用する権利は、日本が批准している自由権規約(第27条)や子どもの権利条約(第30条)において保障されています。また、人種差別撤廃条約などの国際条約はもとより、日本国憲法第26条1項(教育を受ける権利)および第14条1項(平等権)の各規定から、朝鮮学校に通う子どもたちに学習権(普通教育を受ける権利、マイノリティが自らの言語と文化を学ぶ権利)が保障されており、朝鮮学校に対して、日本の私立学校あるいは他の外国人学校と比べて差別的な取扱いを行なうことは、そこに学ぶ子どもたちの学習権・平等権の侵害であると言わざるを得ません。
「高校無償化」制度の趣旨は、家庭の状況にかかわらず、すべての高校生が安心して勉学に打ち込める社会を築くこと、そのために家庭の教育費負担を軽減し、子どもの教育の機会均等を確保するところにあるはずです。
朝鮮学校は、戦後直後に、日本の植民地支配下で民族の言葉を奪われた在日コリアンが子どもたちにその言葉を伝えるべく、極貧の生活の中から自力で立ち上げたものです。いま朝鮮学校に通う子どもたちには朝鮮籍のみならず、韓国籍、日本国籍の子どもたちも含まれており、日本の学校では保障できていない、民族の言葉と文化を学ぶ機会を提供しています。
このような朝鮮学校に対して、1条校と区別するだけではなく、他の外国人学校とも区別して、「高校無償化」制度の対象から除外する取り扱いは、マイノリティとして民族の言葉・文化を学ぼうとする子どもたちから中等教育の場を奪うものであり、在日コリアンに対する民族差別に他なりません。
去る2月24日、ジュネーブで行なわれた国連の人種差別撤廃委員会の日本政府報告書審査では、委員たちから「朝鮮学校は、税制上の扱い、資金供与、その他、不利な状況におかれている」「すべての民族の子どもに教育を保障すべきであり、高校無償化問題で朝鮮学校をはずすなど差別的措置がなされないことを望む」「朝鮮学校だけ対象からはずすことは人権侵害」などの指摘が相次ぎ、朝鮮学校排除が国際社会の基準からすれば人権侵害であることはすでに明らかになっています。
外国籍の子も含めてすべての子どもたちに学習権を保障することは、民主党がめざす教育政策の基本であるはずです。私たちは、朝鮮学校に通う生徒を含めたすべての子どもたちの学習権を等しく保障するよう強く求めます。
2010年3月10日
<呼びかけ>外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク(代表:田中 宏)