声明・申し入れ、2009年
2009年07月26日
なくせ!差別と拘禁の医療観察法7・26全国集会決議文
医療観察法は誰にも予測できない「再犯のおそれ」を理由に無期限に人を拘束し自由を奪う予防拘禁法であるとして、厳しい批判を受けるなかで強行採決により成立し、この7月でこの法は施行から4年が経過した。すでに872名(2008年8月末時点)が法の対象として入院や地域処遇となっている。
この間にこの法による強制医療下で12名(入院中3名、通院中9名、一般の自殺率の40倍から50倍に相当する高い自殺率)が自殺に追い込まれた。しかし、法務・厚生労働省はこの自殺に関する実態調査もその情報開示も行っておらず、国は何ら憂慮も危機感もなく、自らの施策の問題点を検証する真撃な姿勢は見られない。国がいかにこの法を「医療法」などと言いくるめようとも、その本質が「精神障害者」差別の保安処分法であり、対象者に耐えがたい重圧と閉塞感を与える法であることは明らかである。
医療観察法はいま、今年5月段階でさえ国が「指定入院医療機関の整備が進まない」「地域社会における処遇が円滑に進んでいない」と言わざるを得ない実態にある。その窮状を打開せんとしたのが、昨年8月の省令改悪である。この改悪は、法では入院医療機関として指定できない民間病院を、「特定医療施設」として指定可能とした。これは「法の基本的枠組みの全否定」であり、この法律の唯一の謳い文句であった「手厚い医療」の水準を引き下げるとともに、立法権を侵害する省令による法律の改変である。このような破綻状況は法施行時2005年7月段階ですでに予見されたことだ。国は施行3か月後には早くも施設の設置条件を大幅に緩和する「異例の方針転換」の通達を出し、以降、省令「改正」や告示というウルトラな手法で法の破綻状況を繕いながら、法の維持、さらなる拡大・強化を狙ってきた。
実質的な法改悪を行ったうえで、国は今年度の厚生労働省予算で医療観察法のために220億円、そのなかに「地域共生の促進(周辺環境整備)」12億円を新たに計上した。その「地域共生施設」とは「道路、公園・緑地」「地域交流・集会」等の施設である。一方、7.2万人の「社会的入院」解消策として国が打ち出した「精神障害者」地域移行支援は17億円にすぎない。国は最初から「社会的入院」を解消するつもりなどないのだ。「車の両輪」とした一般精神科医療の改善はいまなおなされないままである。国の「精神障害者」閉じこめ政策は何ら変わっていない。国が掲げる「地域共生」とは、住民を巻き込んだ地域保安処分体制つくりであり、「精神障害者」差別・選別を煽り、イエスと言わない都道府県・地域住民を金によっで懐柔しようとしている。
このように国はいま、まずは保安処分の器をつくりあげてしまい、そのうえで器に入れる対象の拡大を狙う。実際、この法の推進者たちは適応拡大の対象に「難治性の統合失調症や中毒精神障害者」「治療可能性の高い人格障害者」「処遇に困難を来すような一群」等を挙げる。この法も「小さく作って大きく育てる」手法を採っている。すでに武蔵病院には対象外とされている人格障害者が拘禁され、既成事実はつくられている。
昨年7月、この法の対象にされた3名が日本弁護士連合会に人権救済申立を行った。施行後の実態は、この法が医療の継続性や患者と医療スタッフとの信頼関係を破壊するものであり、日本国憲法、近代刑法の原則、障害者権利条約などに抵触する法であることを明らかにしてきた。だが、この法で保安処分の突破口を切り開いた国は、なりふり構わぬ手法で法破綻を繕いながら、弱者切捨てと治安管理強化にむけて保安処分体制の全社会的な構築を狙う。
私たちは力及ばず医療観察法の施行を許した。しかし、これ以上の国の目論見を許すわけにはいかない。医療観察法は廃止しかない。私たちはこの法の来年の「見直し」・改悪を許さず、廃止へのたたかいをさらに全力でたたかっていくことをここに決意する。