声明・申し入れ

2007年04月19日

「改憲手続き法」(いわゆる国民投票法)についての参議院議員への要請

 

貴職の日ごろからのご活躍に心から敬意を表します。

さて、4月13日、衆議院本会議は、与党自公両党が提出した「日本国憲法の改正手続に関する法律案」(改憲手続き法案)の併合修正案について、前日の衆議院憲法調査特別委員会につづいて、野党の反対や審議はつくされていないという多くの市民の声をまったく無視して、採決を強行しました。

4月16日には参議院本会議で主旨説明され、参議院憲法調査特別委員会での審議も開始しました。
憲法改正のための手続きについての法律の制定は、国のあり方の基本法である日本国憲法をどうするかに関わるきわめて重要な法案です。したがって、どの法にもまして、憲法の理念や原則に沿うとともに、議論も慎重かつ徹底的に行うことが必要なことは当然です。にもかかわらず、与党の併合修正案は審議も指摘された問題も山積みしたままに衆議院を通過させたものです。

私たちは、これまで何度も表明してきたとおり、憲法の前文や第9条の変更、基本的人権の侵害するものなどの憲法改悪に絶対反対しています。また、はじめに「憲法改正ありき」「憲法改正のためのハードルを下げる」という意図による手続き法の制定に反対しています。すでに、自民党は結党50年時に、憲法9条を変えて「自衛軍」を保持し、「集団的自衛権」をも行使できるようにし、いくつもの「国民の責務」を押しつける「憲法改正」草案を明らかにしています。そして、小泉内閣の時代から、日本は米国のイラクなどへの戦争政策に加担して憲法違反が常態化していました。これを受けた安倍首相は、集団的自衛権の行使の合憲化をめざすとともに、5年以内の改憲を打ち出し、本年年頭から5月3日の憲法記念日までに手続き法の成立を唱えてきました。まさに、はじめに「憲法改正ありき」の姿勢を示してきました。

国会に上程された与党の原案にも多くの問題がありましたが、併合修正案も同様に、基本的人権の尊重や主権在民という憲法理念に反する多くの問題点を持っています。また、選挙法として準拠されやすい公職選挙法は、世界でもまれな厳しい規制が盛り込まれ、表現の自由の保障などの人権を軽視した法律であることも制定に当たって見落としてはなりません。現行の公職選挙法は人の選挙について定めたものであり、政策選択の投票法に持ち込むことは不適当です。私たちは、「国民投票」の制度をはじめ、憲法改正に関わる手続きの法律の制定ならびに審議にあたって、以下の点を明確にすることを求めます。

1.「基本的人権の尊重」の立場から、国民投票に関わる報道や運動について表現の自由を保障するとともに、投票者への情報提供や議論の場を最大限に保障すること。

公務員や教育者の運動を制限することは、人を選ぶ公職選挙とは異なるものであり、憲法論議の場を制約することなりり反対です。「国家公務員法などにある公務員の政治活動禁止規定については国民投票運動には適用しない」という自・公・民3党の合意をも覆したものです。また、国民投票に際して広報を担当する「広報協議会」の委員は、政党の国会議席数による配分とされており、3分の2以上が改正賛成であり、当初から意見が平等に取り扱われる保障がないという問題があります。また、無料の放送・新聞意見広告も政党に限定されています。有料のものは料金規制はないので、投票の2週間前までなら大企業などはいくらでも広告できるという問題があります。

2.投票権を最大限、保障すること。

国の基本法という憲法の性格からいっても、公民権停止者や18歳以上の未成年者、場合によってはそれ以下の年齢や定住外国人にも拡げられるようにするかどうかが重要です。たとえば、市町村合併に伴い、全国各地に広がった住民投票条例では、在日外国人や15歳以上の投票権が認められ実施されました。併合修正案ではわずかに「18歳以上」と記されたものの、実施は公選法や民法などの法令について「検討を加え、必要な措置を講ずる」としており、それまでは現行有権者年齢の「20歳」というものです。

3.憲法改正の発議から投票までの期間を1年程度とするなど十分にとること。

法案では、国民投票の周知期間は「60~180日」という短さであり、議論を広め深めるためには、1年程度からそれ以上の長さが必要です。

4.国民投票の方式について国政の重要問題に関する国民投票制度とすること。

憲法改正以外の国政の重要問題に関する「一般的な国民投票」も含めた制度として確立していくかどうか。主権在民の立場から重要です。併合修正案は、附則で「検討を加え、必要な措置を講ずる」としただけで、国民投票の対象は憲法改正に限定されたものです。

5.投票の方式について個別改正条項ごとの投票制とすること。

憲法の複数の条項について改正案が発議された場合に、個別の条項ごとに賛否の意思を表示できる投票方法とするのかどうか重要な問題です。一括にせず個別改正条項ごとの投票制とすることが必要です。併合修正案では、憲法改正案の発議は「内容において関連する事項ごと」としています。これでは、国民に受け入れやすい条項と抱き合わせで受け入れにくい条項を組み込むことができるという問題があります。

6.憲法改正の成立要件を厳格にすること。

憲法改正の成立には少なくとも投票総数の過半数以上の賛成が必要とすべきです。しかし、併合修正案では、無効票を外した有効投票数(賛成+反対)の過半数で承認としています。

また、無効票を少なくし有効票を増やす点からも、投票書式については、「可」とするものに「○」を付す方式とし、白票は反対票とするなど厳格な規準にすることが必要です。しかし、併合修正案では、賛成・反対のいずれかに同意するものを「○」で囲むか、「×」もしくは取消線を記したものは逆の意思ととするあいまいで緩いものです。これでは憲法改正条項に反対のつもりで「×」を記すなどの間違いを引き起こしかねません。

さらに、併合修正案は、最低投票率制度を設けていません。少なくとも投票権者の3分の2以上とするなど国民投票が有効に成立する投票率に関する規定を設ける厳格化が必要です。

以上の点からも、併合修正案は、実質は有権者のわずか2割程度、全住民の1割強程度の賛成で成立する危険性があります。

7.「国民による発案権」を保障し、憲法改正そのものの是非を問う国民投票を行うこと。

国会による発案・発議は当然ですが、その前提は国民主権です。国民による発案権を保障するために、憲法改正そのものの必要性について趣旨を明らかにし項目ごとに是非を問う国民投票を行い、その結果に基づいて、改正作業を行い、議会での議決、最終的な国民投票を行なうシステムにすることなどが必要です。

8.憲法改正案の修正動議要件を緩和すること。

憲法改正案の国会内での発議(提案)要件を、衆議院100人以上、参議院50人以上の賛成を要するとするのは妥当としても、修正動議の要件も同じにしているのは少数意見の軽視につながるので、大幅に緩和すべきです。

9.憲法審査会の設置は手続き法の枠を越えていること。

併合修正案は、この法の施行について公布の日から与党原案の2年後を3年後に改め、その間は、改憲案の提出はできないことにしましたが、これまでの憲法調査会を憲法審査会に改組し、公布後ただちに調査を越えて3年後の改憲発議に向けた憲法審査会の活動を開始できるようになりました。これは、単に手続き法という枠を越えています。

10.「憲法改正手続き法案」の是非をめぐる国民的議論を保障すること。

憲法改正手続きというきわめて重要な法律であるにもかかわらず、その制定の是非や時期も、内容もほとんど市民のなかで議論されていません。衆議院では2回の中央公聴会、1日2ヵ所の地方公聴会を開いただけで、採決を強行しました。国民一人ひとりに直接関わるものであるだけに、公聴会などを「やらせ」のない公平なものとして、全国各地で十分に行うことが必要です。

 

 

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