声明・申し入れ、2007年

2007年01月24日

「憲法改正のための国民投票法」制定についての国会議員への要請

 フォーラム平和・人権・環境事務局長 福山真劫

 貴職の日ごろからのご活躍に心から敬意を表します。

 現在、「憲法改正国民投票法案」という憲法を変えるための手続き法案が、与党、民主党それぞれから国会に上程され、衆議院の憲法調査特別委員会で継続審議中です。
 
 憲法改正のための国民投票についての法律制定は、国のあり方の基本法である日本国憲法をどうするかに関わるきわめて重要な法案です。したがって、どの法にもまして、憲法の理念や原則に沿うとともに、議論も慎重かつ徹底的に行うことが必要です。
 
 しかし、自民党は結党50年時に、憲法9条を変えて「自衛軍」を保持し、「集団的自衛権」をも行使できるようにし、いくつもの「国民の責務」を押しつける「憲法改正」草案を明らかにしています。すでに、小泉首相時代から、日本は米国のイラクなどへの戦争政策に加担して憲法違反が常態化しています。さらに、昨年誕生した安倍首相は、集団的自衛権の行使を現憲法の下でも強行するとともに、5年以内の改憲を打ち出しています。
 
 私たちは、このような憲法の前文や第9条の変更、基本的人権の侵害などの憲法改悪に絶対反対です。また、この憲法改悪をするために、はじめに「憲法改正ありき」「憲法改正のためのハードルを下げる」という意図による「国民投票法」の制定に反対します。現在国会に上程されている与党案は、基本的人権の尊重や主権在民という憲法理念に反する抜本的な多くの問題点を持っています。また、選挙法として準拠されやすい現行の公職選挙法は、世界でもまれな厳しい規制が盛り込まれ、表現の自由の保障などの人権を軽視した法律であることも制定に当たって見落としてはなりません。公職選挙法は人の選挙について定めたものであり、政策選択のための投票法に持ち込むことは不適当です。
 
 与党と民主党との間での実務者協議が行われ、すでに両案の修正についての合意がすすんでいるとの報道もありますが、「国民投票法」の制定ならびにその審議にあたって、以下の点を明確にすることを求めるとともに、拙速に成立させないことを要請します。
 
1.「基本的人権の尊重」の立場から、国民投票に関わる報道や運動について表現の自由を保障するとともに、投票者への情報提供や議論の場を最大限に保障すること。
 公務員や教育者の運動を制限することは憲法論議の場を制約するものであり、反対です。外国人の国民投票運動の禁止も重大な問題であり、表現の自由を奪ってはなりません。メディア規制について、与党案にはマスコミなどの強い批判のなかで盛り込まれませんでしたが、投票日直前の放送規制などは問題があります。この他、与党案は「組織的に多数の投票人に対し、買収や利益誘導してはならない」としていますが、何が該当するのか不明であり、表現の自由を侵害する危険性があります。法案に盛り込まれている憲法改正案「広報協議会」は、協議会の構成員を憲法改正反対意見が平等に取り扱われる保障がないという問題があります。
2.投票権を最大限、保障すること。
 国の基本法という憲法の性格からいっても、公民権停止者や18歳以上の未成年者、場合によってはそれ以下の年齢や定住外国人にも拡げられるようにするかどうかが重要です。たとえば、市町村合併に伴い、全国各地に広がった住民投票条例では、在日外国人や15歳以上の投票権が認められ実施されました。少なくとも意見表明権の保障を明確にすべきです。
3.憲法改正の発議から投票までの期間を1年程度とするなど十分にとること。
 2004年与党合意は、国民投票の周知期間を「30~90日」ときわめて短期でしたが、法案では「60~180日」に延長されたものの、議論を広め深めるためには、1年程度からそれ以上の長さが必要です。
4.国民投票の方式について国政の重要問題に関する国民投票制度とすること。
 憲法改正以外の国政の重要問題に関する「一般的な国民投票」も含めた制度として確立していくかどうか。主権在民の立場から重要です。与党案は国民投票の対象は憲法改正に限定、民主党案は改憲以外の国政の重要問題に関する国民投票も可能としています。国政の重要問題に関する国民投票制度を確立することが必要です。
5.投票の方式について個別改正条項ごとの投票制とすること。
 憲法の複数の条項について改正案が発議された場合に、個別の条項ごとに賛否の意思を表示できる投票方法とするのかどうか重要な問題です。一括にせず個別改正条項ごとの投票制とすることが必要です。
6.憲法改正の成立要件を厳格にすること。
 憲法改正には少なくとも投票総数の過半数が必要とすべきです。投票書式については、「可」とするものに「○」を付す方式とし、白票は反対票とするなど厳格な規準にすべきです。民主党案はこれを採用していますが、与党法案は賛成「○」、反対「×」、白票は無効とする緩いものです。また、少なくとも投票権者の3分の2以上とするなど国民投票が有効に成立する投票率に関する規定を設けるなどの厳格化も必要です。
7.「国民による発案権」を保障し、憲法改正そのものの是非を問う国民投票を行うこと。
 国会による発案・発議は当然ですが、その前提は国民主権です。国民による発案権を保障するために、憲法改正そのものの必要性について趣旨を明らかにし項目ごとに是非を問う国民投票を行い、その結果に基づいて、改正作業を行い、議会での議決、最終的な国民投票を行なうシステムにすることなどが必要です。
8.憲法改正案の修正動議要件を緩和すること。
 憲法改正案の発議要件を、衆議院100人以上、参議院50人以上の賛成を要するとするのは妥当としても、修正動議の要件も同じにしているのは少数意見の軽視につながるので、大幅に緩和すべきです。
9.「憲法改正国民投票法案」の是非をめぐる国民的議論を保障すること。
 憲法改正手続きというきわめて重要な法律であるにもかかわらず、その制定の是非や時期も、内容もほとんど市民のなかで議論されていません。国民一人ひとりに直接関わるものであるだけに、公聴会などを「やらせ」のない公平なものとして、全国各地で十分に行うことが必要です。

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