声明・申し入れ、2006年
2006年08月28日
共同アピール/加藤紘一氏宅放火事件、私たちは「言論封じ」のあらゆる政治テロを許さない
61回目の終戦記念日となった8月15日夕刻、元自民党幹事長加藤紘一氏の山形県鶴岡市にある実家と事務所が全焼した。敷地内で腹部を切って倒れている男が発見され、男は東京都内の右翼団体幹部であることが判明した。簡易鑑定では、火の気がなかったとされる実家一階奥の寝室で金属製の缶二個が見つかり、周辺からは油類が検出された。状況はこの男の放火であることを示している。
確保された男は一命をとりとめたが取り調べに応じられない状態で、真相はなお多くの点で捜査の解明をまたなければならない。
15日早朝、小泉首相はA級戦犯が合祀される靖国神社に参拝した。中国、韓国などアジア諸国からの非難、国内では賛否両論のなかでの強行だった。加藤氏は自民党内で首相の靖国参拝に疑問を呈し、メディアでも「参拝するべきではない」と批判を繰り返していた。男の所属する右翼団体は、過去にも天皇訪中に関連し宮沢首相(当時)の私邸前で割腹自殺未遂事件を起こしている。
この放火は加藤氏の言動を敵視する者による、まぎれもない「言論封じ」の政治テロである。
近年、右翼は靖国問題をめぐる活動を活発化させている。
昨年は小林陽太郎富士ゼロックス会長宅に銃弾が郵送され、今年1月には自宅玄関前に火炎瓶が置かれた。今年7月には日経新聞東京本社に火炎瓶様のものが投げ込まれた。
小林会長は「新日中友好21世紀委員会」座長として、昨年から小泉首相の靖国参拝を批判していた。日経新聞は靖国参拝の是非をめぐる論議を呼んだ「昭和天皇発言」の富田メモを入手、スクープしていた。
事件とこれらの関連性は、実行犯が真意を明らかにすることをしないため、推測の域を出ない。
だから卑劣なのだ。実行犯は語らなくとも、目的は達せられている。事件は自由な発言への恐喝、脅しであり、言論の自由への封じ込めに結果することだけが明白だからだ。
自由な発言が守られなくて民主主義はない。民主主義にとって、政治テロはけっして許されてはならない敵である。
私たちは、こうした「言論封じ」を目的とした卑劣な政治テロを断じて許さない。
戦後だけでも、わが国で右翼によるテロはこれまで絶えることがなかった。1960年、浅沼社会党委員長刺殺事件。1961年、嶋中中央公論社社長宅殺人事件。放火事件では1963年の河野建設相宅放火事件があった…。
今一度思い起こそう。戦前、政治家が次々とテロに倒れ、気づいた時すでに政党政治は形骸化し、戦争へと真っ直ぐに進む道だけが残されていたことを。
加藤氏は「政治家である以上、どんな状況でも今後も発言していく」とテロに屈しない決意を語っている。しかし、政治テロとの闘いをひとり被害当事者だけに委ねてはならない。民主主義が脅威にさらされている。
勇気の結束を示すため、私たち一人ひとりが声をあげよう。
私たちは「言論封じ」のどのような政治テロも許さない!
呼びかけ人
石坂啓(漫画家)、上原公子(国立市長)、内田雅敏(平和の灯を!ヤスクニの闇へキャンドル行動実行委員会事務局長・弁護士)、小倉利丸(ピープルズ・プラン研究所共同代表)、鎌田慧(ルポライター)、きくちゆみ(グローバルピースキャンペーン発起人)、木村庸五(弁護士)、斎藤貴男(ジャーナリスト)、佐高信(評論家)、三瓶愼一(大学教員)、高田健(許すな!憲法改悪・市民連絡会)、富山洋子(日本消費者連盟代表)、外山雄三(音楽家)、西川重則(平和遺族会全国連絡会代表)、福山真劫(平和フォーラム事務局長)、横田耕一(憲法学者・九州大学名誉教授)(50音順)