2022年、声明・申し入れ
2022年12月16日
「安保3文書」の閣議決定に抗議し、憲法理念の実現をめざす平和フォーラム声明
平和フォーラムは岸田政権による「安保3文書」の閣議決定の強行に対し、以下の声明を発表しました。
「安保3文書」の閣議決定に抗議し、憲法理念の実現をめざす平和フォーラム声明
日本の安全保障政策を大きく変容させる、いわゆる「安保3文書」の改定が12月16日、閣議で決定された。国会での審議、採決もなく日本の安全保障・防衛政策の根幹を、内閣の裁量で一方的に決めたことに、まず抗議する。
日本は、自ら引き起こしたアジア・太平洋戦争において、朝鮮や中国をはじめとしたアジア・太平洋の人びとに甚大な被害を与え、自らもまた様々な戦火によって多大な被害を受けた。戦争全体の死者数は2000万人を超える。この戦争の反省を踏まえ、戦後の日本は、憲法9条にある「戦争放棄」と「戦力の不保持」を誓って再出発をした。しかし、朝鮮戦争を契機に警察予備隊・保安隊と再軍備が進められ、1954年に自衛隊が発足した。侵略戦争を経験してきた日本の市民社会は、防衛力増強に反対し、憲法9条の理念に拘泥してきた。この市民社会の基本的姿勢が、集団的自衛権行使を認めず、自衛隊を自衛のために必要最小限の武力を保持する「専守防衛」のための組織として、日本の防衛政策の基本に定着させた。
日本は経済成長と世界市場への進出の過程を歩み、それに伴って防衛力という名の軍事力を拡大してきたが、この「専守防衛」の基本政策を大きく踏み外すには至らなかった。戦後レジームからの脱却を標榜して成立した安倍晋三首相は、2014年、「集団的自衛権行使」容認の閣議決定を行い、日米同盟の深化と軍事一体化をもくろみ、2015年9月に自衛隊法をはじめとする安全保障法制を大幅に改悪した。自衛のための戦力と言う概念は瓦解し、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国に対する武力攻撃を阻止する戦力を認めるに至り、「専守防衛」という日本の安全保障の基本政策は危機的状況に陥った。
閣議決定による「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「中期防衛力整備計画」の「安保3文書」改定は、スタンドオフミサイルなどの攻撃型兵器を保有し、防衛費をGDP比2%に倍増し、今後は5年で総額43兆円もの防衛費をつぎ込むとしている。ことに「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有は、「専守防衛」を大きく逸脱し、これまでの政府方針の大転換であり決して許されない。攻撃型兵器の配備は、周辺諸国の脅威として東アジアの軍事的緊張を高めることに繋がる。「専守防衛」は相手国への「安全の供与」だが、「敵基地攻撃能力保有」は「脅威の供与」である。憲法9条の平和主義が何をめざし、何をもたらしてきたかを、今まさに考えなくてはならない。
米中対立を背景にし「台湾有事は日本の有事」などとして、防衛力増強を行うことは「安全保障のジレンマ」に陥り、更なる軍拡競争を呼ぶ。防衛力増強が日本の安全保障に繋がるとは言えない。作曲家の坂本龍一さんは、「戦争は外交の失敗」として「攻められないようにするのが日々の外交の力。それを怠っておいて軍備増強するのは本末転倒」と自身のブログで述べている。戦争は愚かな行為であり悲惨な結末を生む。であれば戦争をどう回避するかを考えなくてはならないが、岸田首相からはそのような議論はまったく聞こえてこない。そのことこそ日本の安全保障の脅威だと言える。
また「安保3文書」は、防衛産業の強化と官民一体となった武器輸出、技術および研究開発の軍事活用、公共インフラの軍事利用にも言及している。すでに、特定秘密保護法、共謀罪法、重要土地調査規制法、経済安全保障推進法など、「安保3文書」がめざすものを支える法律が整備されている。今後、私たちのくらしや経済及び産業、学問の場も軍事的に利用されかねない。このような日本社会の根幹を揺るがすような方針が、拙速に決定されることは許しがたい。
自民党は、今年4月に自ら「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」を内閣に提出し、防衛力増強と防衛費増額を要求していた。しかし、ここに来て財源問題で党内は混乱している。このような無責任な議論と数の力を背景に日本の重要課題が進んでいくことは、安倍政権以来の政治の危機を象徴している。
日本の市民社会は、相対的貧困率の高さに象徴される貧困と格差の問題、コロナ禍での失業や物価高騰に苦しんでいる。そのような市民生活の困窮に目を向けず、莫大な予算を防衛費に投入し、国の安全保障が国民の責任かのような発言を行い、所得税増、あろうことか東日本大震災の復興特別所得税にまで手をつけようとしている。これによって国民生活が圧迫されるのは火を見るより明らかだ。東アジアに軍事的緊張を高める「安保3文書」の改定を見送り、増税を方針を撤回することを、平和フォーラムは強く要求する。
「戦争をする国」へと軍拡に走り日本の安全保障政策を変容させるのではなく、粘り強い対話と交流に力を入れ、東アジア諸国との関係改善を図ることが先決だ。そして武力及び軍事同盟に依存しない姿勢を内外に示すことだ。憲法前文と第9条を実現していくことが、なによりも日本の最大の抑止力になることを、あらためて主張する
2022年12月16日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 勝島 一博
藤本 泰成