2024年、平和軍縮時評

2024年03月31日

イージス艦「ラファエル・ペラルタ」、石垣港利用の背景

木元茂夫

陸自石垣駐屯地の開設と米軍艦艇の入港

 何一つ軍事施設のなかった石垣島に、陸上自衛隊の駐屯地(約47ヘクタール)が開設されたのは2023年3月16日。台湾の台北からわずかに273kmしか離れていないこの島に、地対艦ミサイルと地対空ミサイルが配備された。1年が経過したが、駐屯地は2つ目の車両整備場、木工所、小銃射撃場などの施設が、いまだ完成しておらず工事が続いている。

 駐屯地が開設されるや、米海軍は立て続けに軍艦の入港を強行してきた。石垣港には2018年に新港地区と呼ばれる人工島が完成し、その一部が岸壁となり大規模な港になった。島には燃料タンクが立ち並ぶ。米軍から見ると、地対艦ミサイルで艦船が守られている補給拠点と映るのであろうか。

 開設から3ケ月後の2023年6月には佐世保基地配備の掃海艦「チーフ」を石垣港に入港させると米海軍が石垣市に連絡してきた。これは台風の接近で中止になった。これに対し沖縄県が「緊急時以外、米軍の民間港湾の使用は自粛すべきであると考えている」と外務省、在日米海軍、在沖米国総領事館に要請したにもかかわらず、9月7日には掃海艦「パイオニア」(満載排水量1401トン、全長68m、乗員84名)が石垣港に入港した。地元の「八重山毎日新聞」は、「今回も当初は「親善」を入港目的としていたが、8月14日付連絡で「通常入港」に変更しており、有事を想定した事前調査の色合いを濃くしている」(23年9月5日付)と指摘した。掃海艦とは対立がエスカレートした時に、相手国が敷設した機雷を除去して、空母やイージス艦や輸送艦等の航行を保障する軍艦である。

 そして、イージス駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」の石垣港入港計画が明らかになったのは2024年2月7日。どのような軍艦なのか。米海軍横須賀基地を母港とする。同基地には原子力空母「ロナルド・レーガン」(23年中に近代化改修を終えたジョージ・ワシントンに交替予定)、第7艦隊司令部が艦上におかれている揚陸指揮艦ブルーリッジ、そして11隻のイージス艦、計13隻が配備されている。その中で、もっとも新しいイージス艦が2017年に就役した「ラファエル・ペラルタ」(RAFAEL PERALTA DDG 115 艦名はイラク戦争のファルージャの戦闘で2004年に戦死した米海兵隊の三等軍曹の名前から)である。全長155m、満載排水量9880トンで、乗組員329名。ミサイル垂直発射装置(VLS)は96セルで、射程距離1600kmのトマホーク巡航ミサイル、対艦ミサイル、対潜ミサイルを搭載する。トマホークはこれまでもっぱら相手国の地上施設を破壊するために使用されてきた。まさに、「動くミサイル基地」である。

 2月7日頃、米側は石垣海上保安部を通じて石垣市港湾課に連絡してきた。しかし、港湾課は「技術上の基準を満たしておらず航行の安全を確保できないため、入港は不可と判断」した。「技術上の基準」とは岸壁の水深のことで、同艦の喫水は9.8m、10%の余裕を見て10.8m必要であるが、入港を申請してきたクルーズ船岸壁は10.5mしかない。石垣市の判断は妥当なものだ。しかし、米軍は引き下がらなかった。入港-接岸はあきらめて、沖合に停泊し小型船で乗組員を上陸させることに方針を転換した。

 2月17日、全日本港湾組合は、「なぜ、わざわざ入港させるのか。全港湾としては港を守る必要がある」「労働者の安全が確保できない」としてストライキを決行する方針を決めた(「八重山日報」2月18日)。

 石垣市議会も動いた。3月4日、以下のような「寄港反対決議」が提案された。

 「日本政府は、「安保3文書」に基づく防衛力強化の一環として、軍事利用を目的に空港や港湾など公共インフラの改修・整備を始めようとしています。新石垣空港や石垣港が「特定重要拠点空港・港湾」の候補に上がっています。それを先取りするかのように、米軍が利用することを自治体として認めることはできません。日米地位協定により、米軍が国内の空港・港湾等の施設を使うことができるようになっているといえど、民間港としての利用を誇示すべきです。憲法 92 条で地方自治が保障されています。空港や港は過去の侵略戦争の反省の上に地方自治体が管理を任されています。また、ジュネーブ条約で、民間の空港・港湾 は攻撃することは認められていません。しかし、軍事利用されていると攻撃対象になります。 石垣市の「平和港湾宣言」にも「平和と繁栄をもたらす利用の促進が図られるよう」とうたわれているように、武器や弾薬を積んだ軍艦の入港は極めて危険で、 多くの観光客が利用する離島航路や物流に悪影響をおよぼします。市民の安心安全を守るため、米海軍のミサイル駆逐艦「ラファエル・ぺラルタ」の寄港に反対いたします」と訴えていた。残念ながら、この決議は賛成8人(野党)、反対11人(与党・中立系)で否決された。(注1)

石垣港利用の背景-3月の日米共同訓練

 石垣島でさまざまに政治的な動きがある中、米海軍、米海兵隊、そして自衛隊は何をしていたか、概観しておく。3月4日、「ラファエル・ペラルタ」は南シナ海で作戦行動、洋上給油を受けている(注2)。3月5日には、横須賀基地配備のイージス艦「ジョンフィン」が、台湾海峡を通過した(注3)。7日から16日までは「九州西方及び東シナ海から沖縄周辺」海域で日米共同訓練が実施され、海自の大型揚陸艦「くにさき」(揚陸部隊330名搭載可能)と掃海艦「えたじま」、米海軍は佐世保から強襲揚陸艦「アメリカ」(同1687名)、ドック型輸送揚陸艦「グリーンベイ」(同699名)、 掃海艦「ウォーリア」が参加した。日米の揚陸艦部隊と掃海艦の共同訓練である。つまり、周辺海域に機雷が敷設された島に、これを除去して、艦艇を接近させる訓練である。

 この訓練に参加した艦艇の大半は、2月25日から3月17日まで鹿児島県の沖永良部島や沖縄のキャンプハンセンで行われていた「第3海兵機動展開部隊との共同訓練」にも参加している。防衛省が鹿児島県に提示した説明資料(注4)では、3月10日、11日に沖永良部島の大山総合グランドに揚陸艦から大型ヘリで発艦した部隊を降着させ、大山野営場で陸上戦闘訓練を実施した。部隊の規模は陸自水陸機動団100名、米海兵隊250名である。上空からは上陸部隊を掩護のためにステルス戦闘機F-35Bを4機出動させている。

 「ラファエル・ペラルタ」の石垣港利用は、こうした一連の軍事行動と関連付けて見る必要がある。そして、ここに提示したのは、あくまで公開されている情報であって、この他にも非公開の作戦行動があることは確実である。「ラファエル・ペラルタ」が3月5日から10日まで、どこで何をしていたのかは残念ながらわからない。

 米海兵隊が2021年に作成した「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル」(注5)は次のように指摘する。「遠征前進作戦(EABO)を実行する海軍部隊は、作戦上および戦略上の距離を迅速に機動し、最小限の受入れ、段階化、前方移動、一体化で戦術的集合地域や作戦地域に直接移動できなければならない」「沿岸作戦地域に確立された海軍部隊は、(1)群島内の島嶼間移動、(2)地上・水上・航空モードによる島嶼内移動、(3)他の沿岸作戦地域への移動のため、沿岸域で必要な機動をとらなければならない。この機動により、海軍は海上の緊要地形を統制することで優位に立ち、敵対者のターゲッティングに遭遇しても残存性を確保し、欺瞞作戦を実行または貢献することが出来る」「沿岸部隊の補給地点は、兵器交戦ゾーン内で前進し続けるために、復元性と残存性を備え、多くの場合移動可能でなければならない」

 これは「暫定マニュアル」のごく一部である。「ラファエル・ペラルタ」が南シナ海から石垣島に移動して来たのは、「戦略上の距離を迅速に機動」ということになるのだろうか。先に紹介した日米共同訓練は、これに沿って企画されているという印象を受ける。

乗組員の上陸と石垣港の今後

 米海軍は3月7日、小型船接岸のための岸壁使用許可を、代理店を通じて石垣市に提出。市は「必要な書類が整っていない」として「保留」の扱いにした。沖縄県知事公室長は3月8日、在日米海軍司令官、在沖米国総領事館、外務省日米地位協定室に「米軍艦艇による民間港湾の使用は、緊急時以外は自粛すべきだ」、「ホワイト・ビーチ地区などの提供施設を利用すべきだ」と口頭で申し入れた(「琉球新報」3月9日)。

 一方、石垣市は9日の時点でクルーズ岸壁からの上陸を認めた。中山市長は「上陸方法の安全性が確認され、海保への入港手続きも完了しており、拒否する理由はないので許可した」と取材に答えている。

 クルーズ岸壁には、「この施設内は「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」に基づき、制限区域に指定されていますので関係者以外の立ち入りを禁止します」との表示があった。

 「ラファエル・ペラルタ」の「乗員の上陸に先立ち、米軍関係者が委託業者に対し、クルーズバースの駐車場にバリケード設営を指示」と報道されている(「八重山日報」3月10日)。10日夕刻に同岸壁に停泊していた客船アザマラジャーニー(総トン数30,277、全長180m)が出港したあと、高さ2mのフェンスが設置された。10日には自由に出入りできた駐車場も、11日にはゲートも作られて2名のガードマンが入場を厳しく制限していた。

 「ラファエル・ペラルタ」は、3月11日午前7時半頃、石垣港の沖合に姿を現した。微速で前進し、8時30分頃、防波堤手前の「検疫錨地」で錨を降ろした。

 10時50分頃、最初の上陸者である海軍中尉が一人だけ制服姿で上陸した。
全港湾労働組合は乗組員の上陸を確認した上で、13時からストライキに突入した。乗組員が私服で次々に降りて来たのは14時過ぎから。観光バスに乗り込んで次々に市内に向かった。

 艦長のスティーブン・ザクタ中佐は報道陣の取材に対して、「西太平洋地域でパトロールをする中で、必要な補給をするために寄港した。私たちがパトロールする上で石垣島が一番近かった。補給地点には適している。スケジュールや位置的に石垣島に白羽の矢が立った」と取材に答えた。まさに石垣を補給拠点として使用したいという意図がありありである。

 翌12日、石垣市議会には、「全面ストライキ即時解除を求める要請決議」が提案され与党議員の賛成で可決された。その一部を紹介しておく。

 「全面ストライキの実施による結果として、物流がとまり、離島への食料品、日用品、医療物資の供給が中断され、住民の命やくらしに深刻な影響を及ぼしている。また、地元産品の出荷を行うことができないため、大きな 経済的損失が生じている。 今回の貴組合のストライキは労働基本権に定められた「団体行動権」によるストライキではなく、政治目的のストライキと言わざるを得ず、それにより生命線である物流を止める行為は、離島住民の命やくらしの安全を危険に晒す行為で看過することができない。政治的主張を展開することは自由であるが、ストライキの手法をもちいることで、それによって生じる影響には十分に検討し、住民の命とくらしの安全を最優先に考えていただくことが必要である。よって、当市議会は貴組合に対し、政治的ストライキの一刻も早い全面解除を強く求め、離島住民の命とくらしを守るために、より慎重かつ責任ある行動を期待する。以上、決議する」(注6)

 ラファエル・ペラルタは13日8時過ぎに出港、全港湾はストライキを解除した。9日後の22日には横須賀基地に帰港している。今回の石垣島での上陸、「補給と休養」の必然性は乏しく、とにかく実績を作りたかったという米軍の思惑を感じる。石垣港は3月28日、「特定利用港湾」の候補に指定された。自衛隊と海上保安庁が利用するとしているが、米軍が利用することは当然検討されよう。浚渫工事を実施して、岸壁の水深を下げ、大型の軍艦も入港可能な港にしていく可能性は十分にある。

注1 石垣市HP 意見書・決議書 令和6年(2024年)/石垣市
https://www.city.ishigaki.okinawa.jp/soshiki/gikai/ikennketugisyo/9315.html
注2 アメリカ海軍HP NAVY.MIL 2024年3月4日
注3 アメリカ海軍HP NAVY.MIL 2024年3月5日
注4 鹿児島県HP (縛りなし)地元説明資料
https://www.pref.kagoshima.jp/aj01/bosai/kikikanri/torikumi/kikikannri/documents/111227_20240202160639-1.pdf
注5 米海兵隊の「遠征前進基地作戦(EABO)に関する暫定マニュアル」付録A(抜粋) – Milterm軍事情報ウォッチ
https://milterm.com/archives/2986
注6 石垣市HP意見書・決議書 令和6年(2024年)/石垣市
https://www.city.ishigaki.okinawa.jp/soshiki/gikai/ikennketugisyo/9315.html

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