平和軍縮時評
2017年04月30日
平和軍縮時評17年4月号 岩国で進む世界規模でも突出した基地強化―岩国を戦争に最も近い基地にさせるなー 湯浅一郎
在日米軍再編の中で最も突出した中身を持つ岩国基地強化が今年、色々な形で山場を迎えている。厚木基地の空母艦載機部隊61機移駐が今年後半に計画されており、実現すれば岩国基地の米軍機は倍増し、嘉手納基地(沖縄県)をしのぐ極東最大の軍事空港となる。そこで岩国で進行しつつある在日米軍再編が、世界規模で見た時にどういう位置にあるかを、ここ十数年間の経過の中で見直し、アジア最大の軍事空港になろうとしている岩国の意味を考える。
1.米軍の世界再編
まず米軍の世界再編について振り返る。米軍の世界再編は2003年11月、当時のブッシュ大統領の宣言によって始まった。米ソ冷戦終結で経済のグローバル化が進み、地球上いたるところにある米国の権益を守るには、世界のあらゆる地域での脅威にいつでも対応できる軍事基地の展開が必要である。そういう軍転換の必要性を大統領が宣言した。在日米軍の再編もここから始まる。ブッシュ政権は五つの原則を打ち出したが、まず米ソ冷戦時代と異なり、いつどこで何があるか分からない不確実な時代に対処するため柔軟性と機動力を持った基地の展開が必要だとし、迅速展開能力の発展を原則の一つとした。二つ目に、冷戦時代には北東アジア及びドイツ中心のヨーロッパに大きな基地を置いて対応するという戦略だったが、特定地域に焦点を当てる対応ではなく、地球規模の部隊運用をしていく。そのために、米国から見て同盟国と目している国の役割を強める。とりわけ日本には海外任務も本来の仕事と位置づけるよう強く要請する。その流れの中で日米ガイドラインを見直し、安保法制をつくってきた経過がある。
そこでの基本的な考え方が蓮の葉戦略である。地球表面を大きな池に例えると、水面に蓮の葉が大中小浮かんでいる。これらを軍事基地になぞらえ、例えばカエルがそれぞれの大きさの葉っぱの上をはねるように、大中小の基地を配置することで柔軟に機動的に対処できる基地ネットワークをつくろうとした。
まず、大に当たる基地は常駐部隊がいてインフラがそろった主要作戦基地と位置づける。日本と韓国にあった米軍基地は冷戦時代に対ソ包囲網の一環として置かれたが、そのまま主要作戦基地に流用された。韓国の米軍基地は陸軍と空軍が主で、それらは元々朝鮮半島有事のための基地だったが、中東で何かがあっても、韓国の米軍基地からいつでも派遣できるよう思想と態勢が変わった。二つ目は、前進作戦地ということで中くらいの葉に当たる。常駐部隊がいるわけではないが、いつでも使える滑走路が1本あり、そこにローテーションで部隊が移動する。豪州、東欧、中央アジアあたりにそういう前進作戦地的な、中くらいの葉に当たるものを作る。三つ目は、港を自由に使える程度の安保協力地点。最初はフィリピンから始まり、インドネシア、ベトナム、シンガポール、インド等に米軍艦船がいつでも出入りできるよう、安保協力協議を進める。世界にこうした大中小の基地を配置していくという思想が進行している。 在日米軍は、その中で最重要のものと位置づけられていった。
日米安保条約には第6条として極東条項(注1)がある。日本に米軍基地を置く条件として、日本の平和を守る、あるいは極東の平和と安全を守るというものであるが、米軍の世界再編構想では、そうした条件は全く考慮されていない。在日米軍基地が、世界規模の米軍基地ネットワークの一部として明確に位置付けられている。そういう思想のもとでこの十数年間、米軍再編は行われてきた。どう見ても安保条約違反である。
2009年にオバマ政権が登場し8年間政策を担った。核兵器のない世界を目指そうとした側面はあるが、米軍再編については基本的にブッシュ路線がずっと続いた。西のNATO、東の日米安保、米韓安保を軸にしながら米軍再編が進行した。きちんとしたオバマの軍事戦略が出てきたのは政権2期目に入ってからである。2012年に政権初の国防戦略指針が出て、米軍の世界再編の思想が継続する中で、アジア・太平洋と中東が戦略的に重要な地域だと位置づけられ軍備配置のリバランスが唱えられた。アジア・太平洋に全兵力の6割、大西洋側に4割を配置する。6対4でアジア・太平洋を重視していく戦略に変わった。ブッシュ政権は2正面作戦を言い続けて軍事費を増やしたが、オバマ政権ではリーマンショックもあって2正面作戦などできる時代ではないということで、少し変化があった。日本と韓国は別にして、駐留ではなくローテーションで移動し、多国間演習をすることで米軍のプレゼンスを維持する。これはオーストラリアで典型的に進行した。
アジア・太平洋地域では大きな葉にあたるのが日本と韓国の米軍基地で、フィリピン、オーストラリアは中くらいの葉に、ベトナムからインドネシア、インドは小規模な葉である。全部並べてみると、北朝鮮よりも中国包囲網を作ろうとしていることがわかる。その中心に在日米軍基地があるのである。
2. 在日米軍の再編
こうした世界再編の中で最も重要な一環として在日米軍の再編が進行してきた。2005年10月に「未来のための変革と再編」という中間報告が出て、この中に米軍再編の中身がほぼ含まれていた。岩国への空母艦載機の移駐、あるいは空中給油機の普天間からの移駐も含まれていて、2006年5月に最終合意が出て、その中でロードマップ(注2)が作られた。再編は2006年から始まり2014年には終わる予定だった。辺野古の新基地建設も岩国への空母艦載機移駐も完了する計画だったが、進んだものと進まないもの、新たに加わったものの三つに分類できる。
在日米軍再編のロードマップがどうなったか、簡単に振り返る。司令部機能の統合はほぼ実現した。横田基地に在日米軍司令部があり、そこに航空自衛隊の航空総隊がある。つまり、航空自衛隊司令部はいま横田基地内にあり、日米の空軍司令部機能は同居している。加えて3年ほど遅れることになったとはいえ空軍仕様オスプレイ10機の横田配備計画がある。 陸軍では陸上自衛隊の中央即応集団司令部が神奈川県座間の米陸軍司令部の中に移転し、これも統合がほぼ終わっている。海軍は、横須賀に米第7艦隊司令部があるが、もともと横須賀には海上自衛隊司令部があった。実は横田、座間、横須賀の三基地は国道16号線という、東京をぐるっと回る環状道路に沿ってある。その中に日本の政治の中枢である霞が関、永田町があり、首都に陸海空の日米の司令部機能が統合されているのである。
岩国基地の場合、普天間からの空中給油機移駐は14年8月、既に終わり、厚木からの空母艦載機移駐が17年後半に始まろうとしている。ただ艦載機の離着陸訓練用施設は候補地すら特定できていない。岩国に移駐してきた空中給油機の鹿児島県鹿屋やグアムへのローテーション展開、嘉手納、三沢、岩国にいる米軍機の航空自衛隊基地を使っての訓練は進んでいる。宮崎県の新田原、福岡県の築城、石川県の小松、茨城県の百里、青森県の三沢、北海道の千歳など航空自衛隊の基地を使って米軍機が訓練することが日常化している。米軍再編の話が出る前には、米軍基地と自衛隊基地には一定の区切りがあったが、それを取っ払ってしまうということが始まっている。
膠着している、なかなか進まないものとして、普天間基地の全面返還は95年に決まってから20年以上たつが何も前に進んでいなかった。沖縄県知事を先頭にした住民の声と政府が対峙する状況が続いている。辺野古新基地建設の埋立は残念ながら着工されたが、14年完了という当初計画からすれば何も進んでいないといっていい。
追加された米軍再編の中に入るかどうか分からないが、2006年時点で入っていなかったオスプレイの配備が進行している。海兵隊仕様の24機は2012年から2年かけて普天間に配備された。もう一つ、ミサイル防衛の強化が進行している。米軍のXバンドレーダーは青森県の車力にあるが、それを二つにするということで京都府に初めて米軍基地が作られた。連動して、BMD能力(弾道ミサイル防衛)の能力を持つイージス艦の横須賀配備が進行している。現在の5隻を2年で8隻に増やす計画である。
3.海軍と海兵隊が共存する極東最大の軍事空港になる
岩国はこれまで米海兵隊の航空基地であった。米海兵隊は七つの航空基地を持ち、そのうち二つが海外展開している。それが普天間と岩国である。つまり海兵隊の航空基地は海外では日本だけにしかない。岩国に空母艦載機部隊が移駐すれば単なる海兵隊基地ではなくなる。空母艦載機部隊は海軍部隊であるから、岩国は海軍基地としての性格も持つようになる。
むしろ海軍基地の性格の方が強くなるといってもいい。原子力空母は動く軍事空港である。空母1隻の艦載機部隊は中規模国の軍事空港を上回る能力がある。これを10隻、米国は有しており、世界中どこの海にも行ける。どこかで戦端を開く必要があれば空母が行って艦載機が爆撃をする。イラク戦争が典型だが、1、2カ月の戦闘で政権を覆すぐらいの力を1個の空母打撃団は持つ。全長333㍍強、喫水が12・5㍍弱で排水量10万㌧。後方の甲板の下に二つの原子炉を横にして持ち、熱出力で60万㌔㍗。電気を作る原子炉でないので直接比較はできないが、島根原発1号機を少し小さくしたぐらいの熱出力を持っている。そばには高性能爆弾の弾薬庫があり、戦闘機が何十機も乗っていて、乗員が5600人もいる。
米国内でこのような海軍と海兵隊が同居する基地があるかは分からないが、少なくとも海外では唯一である。海外で原子力空母が配備されているのは横須賀だけである。つまり、米国以外では日本にしかない空母の打撃団の中心が岩国に来る。単に海軍基地になるという以上に、その意味は大きい。
更に埋め立て地の一番南側には大型岸壁があり、佐世保配備の強襲揚陸艦が接岸できる。つまり海陸両用の軍事空港である。今回は艦載機だけの移駐であるが、艦載機が常駐する基地に空母も行けるようにしたいという話が出てこないとも限らない。岸壁をあと2、3㍍浚渫すれば原子力空母の接岸も可能になる。瀬戸内海を原子力空母が移動して岩国に来る時代が来るかもしれない。キャンプシュワブを作り替えて普天間の代替施設をという名目で新基地を作ろうとしているのも、この岩国の形を流用して海空両用の軍事空港を作るということである。そこに米日政府のこだわりがある。これを引き寄せたのは、埋め立てによって基地の敷地を37%広げたことと米軍再編構想を練るタイミングがぴたりと合ったためである。
岩国基地の配備機数がどのくらいになるか、実は明確にされてないが、極東最大になることは間違いない。現在、海兵隊機は岩国市によればほぼ60機である。そのうちのハリアーとホーネットの一部の最新鋭ステルス戦闘機F35Bへの更新が17年1月から始まっている。それとは別に14年、普天間から空中給油機KC135が15機、既に岩国へ移駐しており、両者を足すと75機になる。ごく最近発表された厚木からの空母艦載機移駐61機を含めると合計136機になる。中国新聞などは120機以上と表現しており、そこに空中給油機が入っているのかどうかは分からないが、いずれにしても130機前後の米軍機が岩国基地に集中する。これまで極東最大といわれた沖縄県の嘉手納は全部合わせても100機以内である。岩国はこれに海上自衛隊機が36機ぐらい加わるから、足せば約170機が岩国基地に集中する。現在一本の滑走路を使う形だが、場合によっては旧滑走路も使わざるを得なくなるかもしれない。さらに海軍仕様のオスプレイ2機が、4年後ぐらいに機種変更として配備される。艦載機部隊は4千人弱いるとみられ、家族や軍属も増える。一方で最初の米軍再編の時点では海上自衛隊の17機は厚木に移る計画だったが、現状維持に変わったので、配備機数は増える一方である。
岩国基地の再編の背景には、米軍の基地ネットワークづくりの中心の一つとして岩国が組み込まれていることがある。その中で在日米軍再編は、蓮の葉戦略でいえば最も重要な主要作戦基地の再編になる。さらに本稿でみたように岩国で進む再編強化は、在日米軍再編の中でも最も突出している。両者を重ねて考えれば、岩国での基地強化は世界規模の基地ネットワーク再編の中でも最も突出している姿が浮かび上がるのである。
湾岸戦争以来ここ四半世紀、米ソ冷戦終結の前後から、米軍の戦争の中心は空母打撃団である。空母艦載機による空爆と、随伴する巡洋艦、駆逐艦のトマホーク攻撃で戦端を開く。2003年3月、米国が起こした戦争で直近のイラク戦争では五つの空母打撃団が展開した。三つはペルシャ湾、二つは地中海に行って空母打撃団が空爆を繰り返し、1カ月でフセイン政権を倒した。全部で1万回以上の空爆をしたといわれ、その中で当時横須賀を母港にした空母「キティホーク」の艦載機が行った空爆が5375回といわれる。空母5隻の空爆のうち、半分以上は「キティホーク」が担った。イラクに一番近い横須賀にいた「キティホーク」が真っ先に行き、空爆を半分以上担った。随伴した巡洋艦「カウペンス」が真っ先にトマホークを発射した。米国はベトナム戦争の経験から、自軍の被害をできるだけ少なくするため、まず空からたたく。トランプ政権になってもこの戦略は基本的に変わらない。しかし、日米安保条約第6条からいえばあってはならないことだ。それを日本政府は容認し半ば称賛している。
戦争の戦端を開き、戦争の中心を担う艦載機部隊が岩国に来るということは、岩国が戦争の中心を担い、戦争に最も近い基地となることを意味する。空母が海外に配備されているのも、海兵隊の航空基地が海外に配備されているのも日本だけであることを重ねると、米軍の世界規模での海外展開の中で岩国基地の位置づけが飛躍的に高まることは間違いない。これは、単に岩国現地の地域的問題というよりも、全国的な課題として深刻にとらえるべき事態であろう。
注;
1 日米安保条約第6条 日本国の安全に寄与し、ならびに極東における国際の平和および安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍および海軍が日本国において基地を使用することを許される。
2 ピースデポ刊「核軍縮平和イアブック2014」。