2017年、平和軍縮時評
2017年01月30日
平和軍縮時評2017年1月号 17年度の軍事予算―「対前年度<0.8%>増」の影で雪ダルマ式に増えてゆく<ローン返済> 田巻一彦
国会では2017年度(平成29年度)の予算審議が始まっている。
政府予算案によれば、防衛費は、5兆1261億円(対16年度比0.8%増)、第2次安倍内閣発足以来4年連続の増額である。この5兆千億円余の中には「防衛費」とは別財源の沖縄SACO関係経費、米軍再編経費の地元負担軽減分及び政府専用機経費の計2255億円が含まれている。また本稿では「防衛費」ではなく、使い道をハッキリするために「軍事費」という呼称を使わせていただく。
(なお、防衛省は「17年度予算」とは別に16年度補正予算として、1706億円を要求している。内訳は、弾道ミサイル攻撃への対処、PKOを含む自衛隊の運用体制の強化などである。)
予算編成の基本方針
防衛省の「わが国の防衛と予算(案)-平成28年度予算の概要」(http://www.mod.go.jp/j/yosan/yosan.html)は、17年度予算編成の基本的な考え方を次のように述べる。(強調は原文)
- 「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成25年12月17日閣議決定)及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」(平成25年12月17日閣議決定)に基づく防衛力整備の4年度目として、統合機動防衛力の構築に向け、引き続き防衛力整備を着実に実施。(筆者注:本項は16年度と同じ)
- 各種事態における実効的な抑止及び対処並びにアジア太平洋地域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力の役割にシームレスかつ機動的に対応し得るよう、統合機能の更なる充実に留意しつつ、特に、警戒監視能力、情報機能、輸送能力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間における対応、大規模災害等への対応並びに国際平和協力活動等への対応を重視するとともに、」技術優越の確保、防衛生産・技術基盤の維持等を踏まえ、防衛力を整備。(筆者注:本項も16年度と基本的に同じだが、下線部は17年度に新たに追加された項目である。)
- 格段に厳しさを増す財政事情を勘案し、我が国の他の諸施策との調和を図りつつ、長期契約による取組等を通じて、一層の効率化・合理化を徹底。(筆者注:16年度と同じ)
つまり、安保法制の制定によって広げきった風呂敷はそのままにして、「技術優越の確保、防衛生産・技術基盤の維持」という新しい要素を加えた形だ。このことについては後に詳しく述べる。
「固定費」が8割を占める中での「新たなお買い物」
ところで、軍事費は、次の三分類で構成される。
- 人件・糧食費(2兆1662億円、全体の44%):職金、営内での食費など。
- 物件費(歳出化経費)(1兆7364億円、35%):16年度以前の契約に基づき17年度に支払わねばならない経費。
- 一般物件費(活動経費)(9970億円、21%):17年度の契約に基づき、17年度に支払われる経費。
「三分類」のうち、1.と2.はいわゆる「固定費」、言いかえれば17年度に「払わなければならない」ことがすでに決まっている経費で基本的政府の裁量は及ばない。人件・糧食費を削減しようと思えば、自衛隊員の数を削減するか給料を下げる(そんなことは無理だが)以外にない。筆者は、自衛隊員を他の非軍事的任務(災害救助専門組織)に異動したりすることで人件・糧食費の削減は可能だと思うのだが、そのためには国民的議論と選挙をとおした政策転換(政権交代)必要なので、無念ながら当座は「固定費」としておかねばなるまい。そして「歳出化経費」、これが後で詳しく述べる「今年度負担」=一般家庭でいえば「ローン返済」経費である。
つまり、日本の17年度軍事費4億8996億円のうち、実に79%が1)+2)の「固定費」で占められている。家計で言えば、食費と住宅ローンで収入の80%が消えてゆく硬直財政なのである。残りの20%だけが「今年買って、今年支払う」経費ということになるのだが、その中にはローンの頭金が含まれるという「ローン地獄」を思わせる予算、それが日本の軍事費の実態だ。
しかしその中でさえ、政府は次のような新しい装備(武器)導入などをするという。17年度予算で「お買い物リスト」に加えられた主要な兵器・武器や物品には以下が含まれる(目的別分類):
<周辺海空域における安全確保>
- 早期警戒管制機(E767)の能力向上:垂直離着陸輸送機V22オスプレイ4機(447億円)、機動戦闘車36両(252億円)。鹿児島・奄美大島と沖縄・宮古島に部隊を配備(195億円)。
- 潜水艦建造(1隻・728億円):探知能力を向上した新型(3000トン)。
<島嶼部に対する攻撃への対応>
- 固定式警戒レーダーの能力向上(92億円):海栗島(長崎県)に整備するFPS-7レーダーの取得、沖永良部島(鹿児島県)、宮古島(沖縄県)のFPS-7レーダーへの弾道ミサイル防衛(BMD)機能の追加、など。
- 03式中距離地対空誘導弾の取得(1式:174億円)。
- 新艦対空誘導弾の開発(90億円):護衛艦に配備する長射程ミサイルの開発。
- ティルトローター機(V-22オスプレイ4機の取得:391億円):中期防衛力整備計画(~2018年)の整備数は計17機。
- 南西警備部隊に係る整備(707億円):島嶼防衛における初動対処態勢を整備するため、奄美大島及び宮古島の庁舎等の整備。
<弾道ミサイル攻撃への対応>
- BMD能力向上迎撃ミサイル(SM-3ブロックIIAの取得)(147億円)。
<宇宙空間における対応>
各種人工衛星を使った情報能力収集能力や指揮統制・情報通信能力の強化など。
- 衛星通信の利用(275億円):Xバンド防衛通信衛星3号機の整備の一部など。
- 商業画像衛星、気象衛星情報の利用など(109億)。
<日米同盟の強化及び基地対策費>
- 在沖海兵隊のグアム移転(265億円)★。
- 国内での再編関連措置(2149億円)★:普天間飛行場の移設、嘉手納飛行場以南の土地の返還、厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐等。
- SACO関連経費(35億円)★。
★注:冒頭で述べたように、これらはいわゆる「防衛費」の枠内にいれずに計上されている。 - 在日米軍従業員の給与及び光熱水料などの負担、提供施設の整備、基地従業員対策費など(1920億円)。
後年度負担:防衛費を少なく見せるカラクリ―その結果予算硬直が更新する
以上の「買い物リスト」を見て、多くの人が抱くのは、軍事費は「80%が固定費」なのに、なぜこんなに新しい買い物ができるだろうという疑問だろう。
憲法86条は「単年度予算主義」を定めている。「その年の予算はその年の予算として国会承認を受け、その年のうちに使い切る」という原則であるが。それに捉われては不都合なことがあるのは確かだ(たとえば何年もかかる建設事業など)。そこで、「財政法」には「5年までの分割はしてよい」という特例が設けられてきた。防衛省はこの特例を最大限に活用(あるいは濫用)してきた。100億円の航空機を買う場合、初年度は10億円だけ払い、以後最大5年をかけて全額を支払う・・・いわゆる「分割払い」というやり方だ。
しかし、昨今の兵器の値上がりや財政逼迫で「5年分割」でも済まされなくなってきた。そこで政府は、2015年の国会に新たな特別措置法案を提出、あっという間に通してしまったのである。「防衛調達長期契約法」と略称されるこの法律の結果、分割払い期間は10年まで許されることになった。安保法制と同時に、政府はここでも軍に都合に合わせて憲法に反する立法措置をとったのである。
その結果17年度予算でいえばこんなことが起こっている。装備の購入などに使える<一般物件費>は、9970億円である。しかし、政府の予算説明資料を注意深く読むと、これ以外に「新規<後年度負願>が1兆9700億円ある」と書かれている。これは2017年度に契約するが、代金は最長10年で払えばよい、というものだ。つまり、後年度負担まで含めれば、2017年度予算で新たに決めた「お買い物」に使う経費は<2兆9670億円>になる。ところがこれだけではない、ここに「16年度までに買ったが17年度に支払わねばならない経費<歳出化経費>を加えなければならない。それが<1兆7364億円>ある。
つまり、17年度予算には、見せかけよりもずっと多い、締めて<4兆7034億円>の軍備拡張の意志が反映されているのだ。この関係を示したのが下の図だ。この構造は、17年度予算案だけも眺めても見えてこない。図で言うX(1兆7364億円)については「もうこれだけは、決めてしまった分だから変えられてないからね」と政府は言っているのだ。
上記のあげた「お買い物リスト」の多くにこの方式が採用される。例えば、17年度は「オスプレイ4機で391億円」と計上されているが、このうちで「一般物件費」として17年に支払われるのは、たかだか10%(もっと少ないかもしれない)で、残りの90%は、18年以降に「ローン返済」しなければならないということだ。
この傾向は、今後もつづく。軍事費削減のためには、極端にいえば「新しいものは何も買わない」くらいに腹をくくって、図で言えばYとZを思い切って削減しなければ、ツケは後世にまわされるだけだ。
付記:17年度予算では、科学技術研究における「軍学共同」を拡大する「安全保障技術研究推進制度」の110億円が大きな問題である。この問題は別の機会に論じたい。