平和軍縮時評

2013年05月30日

平和軍縮時評5月号 政府「武器輸出三原則」をさらに緩和―ロッキード社のビジネスモデルに追従 輸出先にはイスラエルも  田巻一彦

 

武器貿易条約(ATT)、国連総会で採択
4月2日、国連総会では「武器貿易条約(ATT:Arms Trade Treaty、原文)が採択された。第1条(目標及び目的)は次のように言う。
http://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/att/negotiating-conference-ii/documents/L3.pdf

「この条約は、通常兵器の国際貿易の規制、あるいは規制の改善のための可能な限り最高の国際規準を確立し、武器の不正貿易と転用を防止、根絶することによって次の目的に資することを目指す;
… 国際の平和、安全保障及び安定に貢献すること。
… 人的被害を減少させること。
… 通常兵器の国際貿易における国連加盟国の協力、透明性及び責任ある行動を促進し、以て加盟国間の信頼を醸成すること。」

大は軍艦や航空機、小は拳銃や小銃に至るまで、ありとあらゆる種類の通常兵器が市場取引の対象となり、あるいは不正取引されて世界中を駆け廻っている。その結果、国際・国内紛争において毎日のように人々が命を失っている。ちなみに武器輸出国ランキングの上位を占めるのは、アメリカ、ロシア、フランス、中国、ドイツと言った国々だ。ドイツを除けば国連安保理の常任理事国、言いかえれば核拡散防止条約(NPT)で核兵器保有が認められた国。ここでも彼らは「やりたい放題」なのである。
http://10rank.blog.fc2.com/blog-entry-96.html
この現実を何とかしようと、世界の有志国とNGOがATTの成立・発効を目指して熱心に活動してきた。しかし、武器輸入国・輸出国の両方からの抵抗にあい、ATT交渉は難航を強いられてきた。4月2日の総会での採択は、その一つの到達点であった。いくつもの「抜け穴」を残しながらも、国際社会が武器貿易を各国の裁量に任せられていた「無法状態」から「規制」の方向に動いている。
ところが、ATT成立に向けて熱心であり、今後も「この分野での国際的取組に引き続き主導的役割を果たしていく」(4月3日「外務大臣談話」)はずの日本政府が、国連総会の約1か月前に行った決定はこの国際潮流と真逆を行くものであった。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/page6_000033.html

F35の導入-機体、部品の輸出に「歯止め」なし
政府は3月1日、菅義偉官房長官による談話を発表、次期戦闘機F35の「部品等又は国内企業が提供する役務」を「武器輸出三原則」の例外とすることを明らかにした。
http://www.kantei.go.jp/jp/tyokan/96_abe/20130301danwa.html
2011年12月、政府は米ロッキード・マーチン(LM)社製のF35を、「対外有償軍事援助(FMS)プログラム」(米政府がメーカーから買い上げ、ユーザー国に売却する政府間取引。)の下で、2016年から計42機導入することを決定した。米国からライセンスを受け、国内企業が部品を製造することも計画されている。
F35は、LM社によって「自律的グローバル兵站持続(ALGS)」と名付けられた後方支援システムとパッケージで開発・販売されている。これはLM 社が運営する情報システムを介し、「F35を使用するすべての国のために管理される共通の部品プールから、各国が必要な時に速やかに部品の提供を受ける。」という仕組みである。つまり、ALGS に参画すれば、日本が製造・保管しているF35の部品が、LM社の判断でいかなるユーザーにも提供されることになる。ユーザーには同じくF35を導入予定のイスラエルが含まれる。近い過去にパレスチナ・ガザ地区、シリア、スーダンを空爆し、イランへの空爆計画があることも指摘されているイスラエルへの輸出は、後述のとおり国際紛争当事国への輸出を禁じた「武器輸出三原則」に違反する。
日本政府もこれを気にかけ、部品製造に参加した機体を第3国に譲渡する場合は事前に日本の同意を得るよう米政府に要請したが、部品の管理権限は米国にあるという理由から拒絶されたと報じられている(2013年2月16日「産経」)。

本来、F35の導入自体が不可能
1967年4月、当時の佐藤栄作首相が明らかにした「武器輸出三原則」は、1.共産圏諸国、2.国連決議により武器等の輸出が禁止されている国、3.国際紛争の当事国またはそのおそれのある国への武器輸出を禁止した。「三原則」は1976年2月に三木内閣で一定強化されたこともあったが、1980年代以降、政府によって次のような例外が導入され後退させられてきた。

※米軍向けの武器技術供与を許容(1983年1月4日「内閣官房長官談話」。(後藤田正晴長官、中曽根内閣)。
※米国との弾道ミサイル防衛システムの共同開発・生産は「三原則」の対象外とする。(2004年12月10日「内閣官房長官談話」。(細田博之長官、小泉内閣)。

そして、2011年12月には、次の二つのケースについて「包括的例外措置」を講じることが決定されたことは記憶に新しい(12月27日「内閣官房長官談話」。藤村修長官、野田政権)
http://www.peace-forum.com/seimei/111228.html

 

  1. 平和貢献・国際協力に伴う相手国への武器移転:目的外使用、第3国移転は厳格に防止措置を講じることを条件とする。
  2. 武器共同開発・生産:安全保障で協力関係にある相手国であり、我が国の安全保障に資する場合。ただし、目的外使用や第3国移転について政府による事前同意を義務付ける。

 

2011年12月27日の「談話」には次のような項目が含まれていた。「(3)もとより、武器輸出三原則等については、国際紛争等を助長することを回避するという平和国家としての基本理念に基づくものであり、上記以外の輸出については、引き続きこれに基づき慎重に対処する。」留意するべきなのは、これに従えば、1967年4月の「武器出三原則」の項目3.(国際紛争の当事国又はそのおそれのある国への武器輸出の禁止)は、度重なる「例外措置」を経た引き続き生きていいたということだ。米国から「事前同意の要件化」を拒否された日本は、ALGSへの参画が条件となるF35導入自体を見直すべきであった。それにも拘わらず、政府が選んだのは、この基本原則を棚上げするという道であった。
しかも、2011年12月の「官房長官談話」にかろうじて残されていた「平和国家としての基本的理念」という表現は削除され、2013年3月1日の談話では「国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念」に差し替えられた。国連憲章さえ守っていれば「憲法平和理念」はどうでもよい、といわんばかりに。
日本にとっての「平和国家の基本的理念」は、憲法を離れて語りえないはずである。

日米防衛産業界が要求
過去の「例外措置」と同じように、今回も産業界からの圧力が強く働いていた。2012年7月17日の「日米防衛産業協力に関する共同声明」(経団連防衛生産委員会、在日米国商工会議所航空宇宙防衛産業委員会)は、2011年12月の「例外措置」を「画期的なもの」と評価しつつ、次の4つのモデルによる共同生産は「両国の防衛生産・技術基盤の強化、コストの分担を通じて防衛産業の競争力強化に貢献する」ものであると推奨した。
http://www.keidanren.or.jp/policy/2012/059.html

(モデルA)
日米のBMD/SM-3共同開発プログラムのような、両政府間による正式な防衛装備品の共同開発・生産のプログラム。(略)
(モデルB)
将来の防衛技術に関する予備的な先行研究のための日米産業界の協力。(略)
(モデルC)
いずれか一方の国の政府のプログラムを支援するための防衛産業協力。(略)
(モデルD)
ライセンサー国からの要請に応じて、ライセンスを受けた国が防衛装備品を提供するケース。(略)

F35導入に伴うALGSへの参画は、上記のうち(モデルC)に該当する。もっともこの共同声明においても、「第3国移転の際の日本の事前同意取得のスキーム」の必要性が強調されていた。
ここでいう「事前同意取得のスキーム」が、米国から拒否されたのは前記のとおりである。今回の日本政府の判断は、元来決して大きいとはいえない国内市場に依存し、その結果コスト高と利幅の縮小に直面している日本の産業界にとっては好ましいことかもしれない。だがその立場から考えても、米国企業に支配されたALGSへの参画が国内産業の活性化につながるとの保証はどこにもない。それと引き換えに、国民は共通の公共財である平和国家の理念に基づく原則をまた手放したのである。

自分で決めた三原則だから捨ててもよい?
日本政府は、「通常兵器の輸入、輸出及び移譲に際しては、自発的に厳しい基準を適用してきた」はずである。この「自発的に高い基準」こそが「武器輸出三原則」であった。それとも政府や財界は「自発的に適用してきた基準だから、自発的に撤廃してもよい」というのであろうか。これは、非核三原則「見直し」論や憲法96条改正策動とも通じる詭弁である。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/att/kenkai.html
国連総会の歴史的決定の1か月前になされた日本の「基準」緩和-いや「三原則」全体の撤廃に等しい-を、イスラエルによる非人道的な空爆の恐怖に晒されつづけているガザの住民は、どのように聞くであろうか。ATTの禁止事項には、「国際人道法への違反行為等に使用される恐れがあることを(当事国が)認識している場合の武器移転(第6条3)」が含まれる。ガザにおけるイスラエルの行為は「国際人道法への違反ではない」というのが米国の立場であることを想起しよう。日本の対米追従路線がここでも明らかである。

   このような決定をして恬として恥じない人々には、私たちと世界の「安全保障」を左右する地位から退場してもらう以外にないと、つくづく思うのである。

 

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