2023年、平和軍縮時評

2023年08月31日

朝鮮戦争停戦70年、一刻も早い終戦を

湯浅一郎

 北東アジアでは、ここ数年、にわかに台湾有事なるものが意識的に喧伝され、それへの対処を名目として南西諸島への自衛隊ミサイル配備が続いている。この背景には、米バイデン政権の中国との「戦略的競争」に勝つための中長期的な対中政策があり、日本は、ロシアのウクライナ侵略も利用しつつ、まんまとそれに乗った形で軍拡を正当化している。しかし、北東アジアで一刻も早く取り組むべき外交課題は、未だに終わらない戦争のもとで、同じ民族がにらみあっている朝鮮半島の分断をいかにして終わらせるかであることを忘れてはならない。第2次世界大戦前まで植民地としてきた日本に責任の一端があることを含めて、最優先に取り組まねばならない。

 ピースデポの情報・交流誌「脱軍備・平和レポート22号」に、韓国参与連帯・平和軍縮センター長のファン・スヨンさんが「朝鮮戦争停戦70年、平和は可能だ。私たちが一緒に歩むなら…。」なる論文を寄稿してくれた。その冒頭で、彼女は次のように訴えている。

 「ここに、70年もの間終わらない戦争がある。70年間会えず、お互い懐かしさに思い焦がれる家族がいる。戦争が残した苦しみ、分断と敵対の傷を引きずりながら70年間生きてきた人々がいる。今年2023年は朝鮮戦争の停戦協定締結70年になる年だ。朝鮮戦争が終わった後、どれほど多くのことが変わったのか考えてみると、この70年という遥かな歳月が胸に迫ってくる。
 朝鮮戦争は「しばし銃声が止んだ」だけの状態なのであり、戦争が終わったわけではない。朝鮮半島では世界的に類例のない長い休戦状態が続いている。ときに私たちは無感覚になりがちだが、朝鮮半島にいるほとんど多くの人々は、その生涯を戦争の脅威と隣り合わせに生きていかねばならない。」

 やや長い引用になったが、現在、朝鮮半島で暮らす70歳以下の市民は、すべて準戦時状態の中で暮らしてきているのだという事実は、あまりにも重い。

 2023年7月27日、朝鮮戦争休戦協定の締結から丸70年が経過した。このメモリアルな年に、冷戦構造が続く朝鮮半島の対立構図はより深刻化している。これを打開するには、一刻も早い朝鮮戦争の終戦と平和協定の締結を求める国境を越えた世論の形成が必須である。

矛盾を激化させるだけの日米韓3か国の軍事連携強化

 今、朝鮮半島はいつ武力衝突が発生するかもわからないという深刻な状況が続いている。南北の対話が一切閉ざされた状態で、双方が頻繁に大規模な軍事演習を積み重ねている。そうした中、一方の当事者である韓国、米国、日本は、そのような課題はないかのごとくに、軍事同盟の強化へ向かっている。それを象徴するのが、2023年8月18日、米ワシントン郊外のキャンプデービットにおいて開催された日米韓3か国首脳会談である。この会議で3か国は、「キャンプデービット原則」、及び「日米韓首脳共同声明」を挙げ、「日米韓パートナーシップの新時代」を宣言し、「日米同盟及び米韓同盟の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる」ことで一致したとしている。これからの動き次第ではあるが、確かに大きな画期となる危険性を秘めている。

 まず「キャンプデービット原則」で「日米韓三か国は、インド太平洋国家として、国際法の尊重、共有された規範及び共通の価値に基づく自由で開かれたインド太平洋を引き続き推し進める。我々は、力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」とする。

 朝鮮半島問題については「関連する国連安保理決議に従った、北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントの下で団結している。(略)。我々は、自由で平和な統一された朝鮮半島を支持する」としている。昨年5月まで、米韓首脳声明等では、「朝鮮半島の完全な非核化」という文言が使われていたものが、初めて「北朝鮮の完全な非核化」となり、北朝鮮だけを敵視する姿勢が強調されている。米国は、「朝鮮半島の完全な非核化」を主張しているが、韓国の尹政権と日本政府の意向が反映された形になっている。また「キャンプデービット原則」には、終わっていない朝鮮戦争と南北に分断された朝鮮半島についての現状認識やそれに対する取り組みの方向性が全く示されていない。

日米韓3か国共同訓練の定例化を明記

 「共同声明」では「日米韓三か国は本日、組織化された能力及び協力を強化するため、毎年、名称を付した、複数領域に及ぶ三か国共同訓練を定期的に実施する意図を有することを発表する」として、3か国の軍事連携を定期化するとしている。これは過去にない初めてのことである。日米韓3か国共同訓練は、2016年の安保法制の施行以降、2017年に初めて登場し、2022年9月以降には断続的にミサイル防衛、及び対潜水艦訓練などが行われてきていた。今回、それを首脳共同声明の中で明記した意味は極めて大きい。

① 2017年4月3日~5日、済州島沖で展開している北朝鮮の潜水艦を探知、追跡することを想定した対潜水艦訓練として初めて実施。
 その後、韓国の政権が文政権に代わり、2018年の南北、米朝首脳会談を経て、朝鮮半島の完全な非核化を目指す取り組みが進んだ期間、日韓間の関係が途絶えたため3か国合同訓練は実施されなかった。しかし、2022年5月、韓国に尹政権が登場したことで状況が大きく変化し、その後は堰を切ったように3か国合同訓練が続いている。

② 2022年9月30日、日本海において3か国による対潜戦訓練。護衛艦「あさひ」、原子力空母「ロナルド・レーガン」、ミサイル巡洋艦「チャンセラーズビル」、ミサイル駆逐艦「バリー」、及び原子力潜水艦「アナポリス」、そして韓国から駆逐艦「ムンム・デワン」が参加した。訓練は、潜水艦「アナポリス」を北朝鮮の潜水艦と想定し、これを3か国の艦船が探知・追跡することで相互運用性を確かめる形で行われた。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)能力の高度化を進める北朝鮮潜水艦に対応するために実施されたとされる。

③ 2022年10月6日、護衛艦「ちょうかい」、「あしがら」が、米巡洋艦「チャンセラーズビル」、駆逐艦「ベンフォールド」及び韓国海軍駆逐艦「セジョン・デワン」とともに、日本海において弾道ミサイル対処を含む戦術技量の向上及び米・韓海軍との連携強化を図るとする日米韓3か国でのミサイル防衛共同訓練を実施した。この訓練は、地域の安全保障上の課題に対応するためのさらなる3か国協力を推進し、共通の安全保障と繁栄を保護するとともに、ルールに基づく国際秩序を強化していくという日米韓3か国のコミットメントを示すものとされる。

④ 2023年2月22日、護衛艦「あたご」、米海軍駆逐艦「バリー」及び韓国海軍駆逐艦「世宗大王」と共に、日本海において日米韓共同訓練を実施し、弾道ミサイル等の対処に係る戦術技量及び日米韓による共同対処能力の向上を図った。本訓練は、北朝鮮がICBM級弾道ミサイルを発射し、我が国の排他的経済水域(EEZ)内に着弾させる等、我が国を取り巻く安全保障環境がより一層厳しさを増す中、地域の安全保障上の課題に対応するための3か国協力を推進するものであり、共通の安全保障と繁栄を保護するとともに、ルールに基づく国際秩序を強化していくという日米韓3か国のコミットメントを示すものである。

⑤ 2023年4月3日~4日、東シナ海において日米韓共同訓練を実施した。本訓練には、護衛艦「うみぎり」、米海軍空母「ニミッツ」、駆逐艦「ディケーター」、「ウェイン・E・マイヤー」、韓国海軍駆逐艦「チェ・ヨン」、同「テ・ジョヨン」、同「ユルゴク・イ・イ」及び補給艦「ソヤン」が参加。

⑥ 2023年4月16日~17日、護衛艦「あたご」、米海軍駆逐艦「ベンフォールド」、韓国海軍駆逐艦「ユルゴク・イ・イ」とともに、日本海において日米韓共同訓練を実施。
 本訓練は、日米韓のイージス艦がネットワークを連接し、弾道ミサイル情報共有訓練を含む各種戦術訓練を演練したものであり、弾道ミサイル等の対処に係る戦術技量及び日米韓による共同対処能力の向上を図りました。

⑦ 2023年7月16日、護衛艦「まや」、米海軍駆逐艦「ジョン・フィン」、韓国海軍駆逐艦「ユルゴク・イ・イ」とともに、日本海において日米韓共同訓練を実施。

⑧ 2023年8月29日、護衛艦「はぐろ」、米海軍駆逐艦「ベンフォールド」及び韓国海軍駆逐艦「ユルゴク・イ・イ」とともに、東シナ海において日米韓共同訓練を実施。
 それにしても安保法制の何処にそのようなことを正当化できる要素があるのか説明を求めていかねばならない。

韓国発の朝鮮半島終戦平和キャンペーンの提案

 朝鮮戦争の開戦から70年となった2020年、この長い戦争を終わらせ休戦を平和に変えることをめざし、韓国の宗教界と市民社会は「朝鮮半島終戦平和キャンペーン(Korea Peace Appeal Campaign)」を立ち上げ、日本、米国をはじめとした世界中の市民に協働することを呼びかけた。

 そして今年は、「どんなことがあっても二度と朝鮮半島で戦争を起こしてはならない」という切なる思いから、さらに大きく「停戦70年朝鮮半島平和行動」を行なっている。これには韓国の7大宗教団体、700以上の韓国における宗教、NGO団体、及び約70か国の国際パートナー団体とネットワークが共に活動している。同キャンペーンは以下の取り組みを提起している。

 第1に、関係国、特に韓米は朝鮮半島の軍事的緊張を激化させるすべての軍事行動を直ちに中断すべきである。武力の示威行為は悪循環を加速させるだけで、決して解決にはならない。

 第2に、国連安保理決議に基づく対北制裁の目的と効果を再考すべきである。北朝鮮への制裁と軍事的圧力を強めることで北朝鮮に核を放棄させようとする政策は、これまで約20年以上にわたり失敗し続けてきた。逆に2018年の南北板門店宣言とシンガポール米朝共同声明の時のように、対話と交渉が進んでいる間、北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射実験は中断していたのである。

 第3に、安保理決議の緩和をするためにも、米国による北朝鮮に対する敵視政策を止めさせることが必要である。70年にもわたって続いてきた不安定な休戦体制を終わらせ、敵対関係を一般的な外交関係に転換し、相互信頼を構築して軍事的脅威を解消しなければならない。

 第4に、第3へ向けた努力の過程で、平和協定の締結、米朝・日朝関係を改善し国交正常化を果たし、朝鮮半島の非核化を包括的で実効性を伴う方向での平和交渉を始めなければならない。また、「朝鮮半島の非核化」は、北朝鮮の核放棄だけではすまない。韓国と日本が依存している米国の核の傘に依存する政策をなくすことが不可欠である。その答えは、朝鮮半島の南北2か国と日本が非核兵器地帯を構成する北東アジア非核兵器地帯構想を推進することが必要である。それにより、3か国は核兵器禁止条約加盟のための環境づくりを進めることができる。

 この韓国からの呼びかけに対し、日本の市民として国境を越えて連携した行動を起こしていくことが求められている。このまま休戦状態を続けさせるのか否かは北東アジアに暮らす私たち一人一人の意志にかかっている。

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