2024年、平和軍縮時評

2024年11月30日

原子力空母「ジョージ・ワシントン」の横須賀再配備と日米韓共同訓練

木元茂夫

 11月22日、原子力空母「ジョージ・ワシントン」は、米海軍横須賀基地に再び配備された。2008年から2015年まで、はじめての原子力空母として横須賀に配備され、同型艦の「ロナルド・レーガン」と交替した。同じ空母が2回横須賀に配備されるのは、はじめてのことである。しかし、その性能は前回と同じではない。燃料棒の交換だけではなく、艦載機も一部が更新され、ステルス戦闘機F-35CとオスプレイCMV-22が新たに搭載された。1973年にはじまる米空母の母港配備は、とうとう51年になった。

 ジョージ・ワシントンは、日米韓共同訓練「フリーダム・エッジ」に参加したあと、横須賀に入港してきた。横須賀を中心に急速に進んだ日米韓の軍事協力について考察する。

 また、空母配備の2日前、空母の艦載機が配備されていた厚木基地の第5次爆音訴訟の判決が横浜地裁であった。4次訴訟では東京高裁までが認めていた自衛隊機の飛行差し止めが否定され、騒音地域は縮小され、多くの原告を賠償対象から排除する不当判決だった。合わせてこの判決の概要を紹介したい。

■日米韓共同演習と韓国艦隊の横須賀寄港

 11月に入って、日米韓の軍事行動が相次いだ。昨年8月のキャンプデービット声明以来の既定路線ではあるが、急速に具体化した。7月28日の日米韓防衛相会談共同プレス声明(注1)には、「北朝鮮による最近の核運搬システムの多様化、複数の弾道ミサイルの試験及び発射並びにその他の関連する活動を非難した。閣僚は、朝鮮半島の緊張をエスカレートさせ得る北朝鮮によるその他の挑発的な行動に対する懸念を表明し、北朝鮮に対してそのような行動を直ちに停止するよう強く求めた。さらに閣僚は、南シナ海を含むインド太平洋地域における最近の海空の軍事的活動について評価を共有した」とある。

 また、同声明には、「日米韓3か国安全保障協力枠組みに関する協力覚書に署名し、これが有効となったことを宣言した。当該枠組みは、朝鮮半島、インド太平洋及びそれを超えた地域における平和と安定に寄与するため、高級レベルでの政策協議、情報共有、3か国訓練及び防衛交流協力を含む、防衛当局間の3か国の安全保障協力を制度化するものである」とある。9月10日には日米韓防衛実務者協議(防衛政策局長、米国防副次官代行、国防部政策室長)が開催され、「制度化」の詳細が詰められたようである。

 この合意は11月に相次いで実行された。3日には「九州北西の空域」で、空の日米韓3か国共同演習が実施された。米空軍の爆撃機B-1と日米韓の戦闘機部隊、合計12機が飛行訓練をした(統合幕僚監部11月3日発表、NHKNEWSWEBは、「韓国南部・チェジュ島(済州島)の東側の上空」と報道)。航空自衛隊は福岡県の築城基地配備の戦闘機F-2を出動させた。5日、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は、この共同演習を非難する談話を発表した。

 7日には、韓国海軍最大の艦艇であるドック型揚陸艦「マラド」等3隻が、海自練習艦「はたかぜ」との「親善訓練」を紀伊半島の沖合で行って横須賀に入港した。訓練内容は「戦術運動と通信訓練」と発表された(海上幕僚監部11月7日)。

 中谷防衛相が視察に訪れ、艦長らと交流した。中谷は「海上自衛隊の練習艦の「はたかぜ」、これが、韓国海軍の揚陸艦の「マラド」、また揚陸艦の「チョンジャボン」、そして補給艦の「デチョン」とともに、戦術運動を実施いたしました。海上自衛隊の戦術技量の向上と、韓国海軍との友好親善及び相互理解の増進を図りました。こうした部隊レベルの訓練からですね、様々なレベルの分野において、戦略的な利益を共有する韓国との連携を強化」と発言。韓国艦艇の単独での入港は6年ぶりである(22年に海自主催の国際観艦式に補給艦「昭陽」が来航している。しかし、各国の乗組員が参加した同年11月3日の音楽パレードには参加せず、観艦式のみに参加して帰国した)。

 13日から15日まで、2回目となる「フリーダム・エッジ」日米韓共同演習が行われた。1回目は今年の6月27日~29日。統合幕僚監部も、米インド太平洋軍司令部も、訓練海空域の発表をしない(統合幕僚監部 11月13日発表)。日本と朝鮮半島の間の、微妙な海空域で訓練しているから明らかにしないということだろうか。

 米インド太平洋軍司令部は共同訓練の目的を、「第5世代戦闘機を洗練されたマルチドメイン防衛インフラストラクチャに統合することで、最先端の防空能力を実証しています。弾道ミサイル防衛、防空、対潜水艦戦、対水上戦、海上阻止、防衛サイバー訓練の複雑な分野に組み込まれることで、両国の軍事力と自衛隊は、あらゆる脅威に対して最高レベルで協力して活動することができるようになった」としている。ドメインとは軍隊の種類のことで、マルチドメインとは自衛隊用語では「複数領域」となり、「陸海空、サイバー、宇宙、電磁波」の部隊を指す。サイバーと電子・電磁波部隊、そして海上のイージス艦に防護された第5世代戦闘機が、防空戦闘を実行するという意味だろうか。

 統合幕僚監部の発表も、ほぼ同様である。

 「フリーダム・ エッジ24-2は、日米韓国防相が7月に署名した日米韓3か国安全保障協力枠組みに関する協力覚書に沿ったものであり」「この演習は、第5世代戦闘機を複数領域における高度な防衛基盤に組み込み、最先端の防空能力を実証するものです」

 参加した艦艇と航空機は下記の通りである(注2)

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●日本:護衛艦「はぐろ」(DDG180)、哨戒機P-3、戦闘機F-15、戦闘攻撃機F-2、早期警戒管制機E-767
●韓国:駆逐艦「ソエ・ユ・ソンニョン」(DDG993、漢字表記は、西厓・柳成龍)、「チュンムゴン・イ・スンシン」(DDH975、忠武公・李舜臣)、哨戒機P-3、ステルス戦闘機F-35、戦闘機F-15
●米国:原子力空母「ジョージ・ワシントン」(CVN73)
イージス駆逐艦「ヒギンズ」(DDG76)、「マッキャンベル」(同85)、「デューイ」(同105)、いずれも横須賀配備。
哨戒機P-8、ステルス戦闘機F-35、戦闘攻撃機FA-18、空中給油機KC-135
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 「第5世代戦闘機」とはF-35などのステルス戦闘機を指すが、航空自衛隊のF-35Aが参加しなかった理由は何なのか、統幕は何も説明しない。その代わりか早期警戒管制機(AWACS、機種はE-767)を参加させている。高精度なレーダーと解析装置で、相手航空機の位置情報を正確に把握し、日米韓の戦闘機と海上の艦艇にデータリンク等を使用して情報提供する役割を担ったのかも知れない。

 「複合的な弾道ミサイル対処訓練、防空戦闘訓練、対潜戦訓練、対水上戦訓練、海賊対処訓練及びサイバー攻撃対処訓練」とあるが、詳細な説明はない。確かに、米3隻、日1隻、韓1隻の計5隻のイージス艦の弾道ミサイル迎撃能力は相当なものだろう。一方で、米軍イージス艦に搭載された長距離巡航ミサイル・トマホークによる地上攻撃能力は、ステルス戦闘機F-35Cを中核とする空母艦載機の空爆能力とともに、北朝鮮は重大な脅威と受け止めただろう。

 11月23日、北朝鮮の国防省公報室長が談話を発表した(注3)

 「原子力空母ジョージ・ワシントン打撃集団を朝鮮半島周辺の水域に展開した米国は、13日から15日まで日本、韓国と火薬のにおいの濃い多領域合同軍事演習である「フリーダム・エッジ」を繰り広げた。また、18日にはロサンゼルス級攻撃型原潜コロンビアを釜山作戦基地に寄港させて核対決の雰囲気を鼓吹し、21日には戦略偵察機RC135Sを朝鮮東海の上空に飛行させて朝鮮民主主義人民共和国の戦略的縦深に対する露骨な空中偵察行為を働いた。
交戦双方の膨大な武力が高度の警戒態勢にあり、常時、軍事的衝突の可能性が徘徊する朝鮮半島地域で強行されている米国の軍事的挑発行為は、地域情勢を取り返しのつかない破局状況に追い込みかねない発端となる」

 この談話を見てもわかるように、軍事演習の応酬では何も解決しない。それなのに、演習・訓練を「制度化」する道を進んでいる。11月21日には空自航空幕僚長、米空軍参謀総長、韓国空軍参謀総長が初めてのテレビ会談を行い、同日ラオスでは、日米豪比韓5か国防衛相会談が開催された。このはじめての会談について防衛省は、「安全保障環境が大変厳しい中において、日米豪、日米豪比、日米比、日米韓の協力を含む同盟国・同志国の連携は地域の平和と安定にとって不可欠です」と発表した。これでは、北朝鮮は態度を硬化させるだけであろう。

 11月26日に防衛省と意見交換を行った。25年度予算で「地上電波測定装置の換装」に137億円が計上されているが、これは宮古島分屯基地のものかと質問したところ、「背振山分屯基地」のものと回答があった。「宮古島(沖縄県)は中国軍の電波情報の収集、背振山(佐賀県)は朝鮮半島の電波情報の収集と承知しているが、それで間違いないか」と訊ねたが、防衛省の担当者には「知見がありませんのでお答えできません」とかわされてしまった。予算の面でも、朝鮮半島の軍事情報の収集に力が入っているのは確かだ。

 27日には原子力空母エイブラハム・リンカーンが、マレーシアのクアラルンプールを出港した。アジアで作戦行動する空母は、ジョージ・ワシントンだけではない(11月27日NAVY.MIL)。しかし、米国が大規模な軍事力を集結させればさせるほど、緊張は激化するだけだ。

 何よりも重視されるべきは、しっかりとした対話の枠組みを北朝鮮との間で作り上げていくことである。相互の信頼回復、定期的な対話、それなくして何も始まらない。

■第5次厚木基地爆音訴訟に横浜地裁が判決

 1973年に空母が横須賀に配備されて以来、厚木基地は艦載機の拠点となった。これと対抗する最初の爆音訴訟は1976年に提訴された。第5次訴訟は2017年8月4日に、原告6063人で第1次の提訴がなされた。その後、2回の追加提訴が行われ、18年5月1日には原告8879人となった。一方、爆音の元凶であった空母艦載機のうち固定翼機約60機は、18年3月に山口県の岩国基地に移転した。厚木基地には空母とイージス艦に搭載されるヘリコプター部隊約20機あまりが残った。自衛隊は独特の「金属音」を出す哨戒機P-1を増加させ、ヘリコプター、輸送機C-130Rなどを運航している。海自の「航空集団司令部」が厚木基地に置かれているので外来機の飛来も多い。

 国・防衛省は訴訟中に騒音調査を行って、「2020年度分布図」を作成し、横浜地裁に提出してきた。5次訴訟の争点は、①岩国移駐後の騒音をどう評価するのか、②4次訴訟で東京高裁が認め、16年12月に最高裁が認めなかった、夜間・早朝の自衛隊機の飛行差し止めについて、どういう判断が示されるかであった。

 飛行差し止めの判決文を見ていこう。

 「厚木基地周辺における騒音問題は、遅くとも昭和35年頃(1960年)から、主として米海軍の戦闘機によって社会問題化していったものであるところ、自衛隊機の運航は、昭和46年7月頃(1971年)から継続してきたものであり、その被害は、軽視できるものではない

 これに対し、厚木基地における自衛隊機の運航は、我が国の平和と安全、国民の生命、身体、財産等の保護の観点から極めて重要な役割を果たしており、高度の公共性、公益性があるものと認められる

 また、周辺住民に生ずる被害を軽減するため、自衛隊機の運航に係る自主規制や周辺対策事業の実施などの対策措置が講じられている。これらには結果としては実効性の観点から疑問があるものの、自衛隊機の運航の必要性の程度は時々刻々と変化するものである以上、訓練以外の飛行等の多くが自主規制の対象とならず、自主規制においても例外が広く許容される余地があったり、その他の軽減措置が自衛隊機の運航に関わらない防音工事や移転措置等に留まるとしてもやむを得ない側面もある」

 妙な判決文である。「対策措置」に「実効性の観点から疑問がある」なら、何をすべきかを裁判所は指摘すべきであろう。それなのに「やむを得ない側面もある」と国・防衛省を擁護するのみである。

 判決文は続く。

 「また、自衛隊機の運航とは直接の関連はないが、原告らの被害の発生に大きく寄与していると考えられる米海軍の空母艦載機の岩国飛行場への移駐が完了しており、これは、騒音を相当程度軽減するものと評価することができる。

 これらの事情を総合考慮すれば、原告らの上記被害の程度を踏まえても、夜間の自衛隊機の運航、訓練のための自衛隊機の運航及び一定の騒音量を超えることになる自衛隊機の運航が将来にわたって行われることが、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとはいえない

 「一定の騒音量を超える」とは何と曖昧な言葉であろうか。どんな騒音を出しても飛行差し止めは出さない、そう言わんばかりの判決である。

 原告・弁護団は控訴を決定した。空母と艦載機の爆音、軍用機の騒音との闘いは、まだ続く。

注:
1 https://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/2024/0728d_usa_kor-j.html
2 統合幕僚監部報道発表資料(2024年11月13日付)
https://www.mod.go.jp/js/pdf/2024/p20241113_01.pdf
3 「朝鮮中央通信」(日本語版)(2024年11月23日付)
http://www.kcna.kp/jp/article/q/43ecc23bc109b102a72cf0b30f08b62d.kcmsf

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