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朝鮮半島への視点 第1回 米国の真剣な対応がカギ

2009年6月 8日

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事務局長通信第1号
朝鮮半島への視点 第1回 米国の真剣な対応がカギ
                       連絡会事務局長 石坂浩一
〈はじめに〉
 昨年、日朝国交正常化連絡会を立ち上げて以降、全国から多くの皆さんのご支援があり、困難な中でここまで来れたことをあらためてお礼申し上げます。 昨年、韓国では李明博(イミョンバク)政権が発足、南北関係が思わしくなくなりました。今年、オバマ政権が誕生するのを機会に朝鮮半島情勢は好転するのではないかと多くの人びとが期待しましたが、今までのところ、これも反対の方向に動いている気配です。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)からは、最高指導者である金正日(キムジョンイル)国防委員長の健康不安が伝えられています。
 朝鮮半島情勢は、平和を望む勢力の期待とはうらはらに、わかりにくく、困難な状況に立ち至っています。5月の連絡会の議論で、毎月情勢についての整理をして皆様にお伝えし、理解の一助としていただこうということになりました。ところが、その矢先に韓国の盧武鉉(ノムヒョン)前大統領が亡くなり、北朝鮮は2度目の核実験を行なうという大変な事態になりました。月初めに出すはずのものが少し遅れてしまいましたが、今後継続的に「朝鮮半島への視点」をお届けする予定です。なお、本稿は情勢分析という性格上、私個人の文責とさせていただきます。

〈米国の無視政策が事態悪化を招く〉
 4月13日に北朝鮮のロケット発射に対する国連安保理議長声明が出されると、北朝鮮外務省は14日に声明を発表し、平和的打ち上げを問題にしたこと自体が犯罪行為である、六者協議はもはや意味がなくなったので「二度と絶対に」参加しないし拘束も受けない、「自衛的核抑止力をあらゆる面から強化していく」などと議長声明を強く批判し、対抗的姿勢を表明しました。続いて、25日には北朝鮮外務省報道官が使用済み核燃料の再処理作業を開始したと述べ、29日には再び外務省声明で、北朝鮮関連企業3社に対する制裁に抗議し国連安保理の謝罪を要求するとともに、核実験と大陸間弾道ミサイル発射実験を含む追加的自衛措置をとると述べました。二度目の核実験はこの声明から1ヵ月もたたない5月25日に実施されたのでした。
 私たち平和運動に尽力する市民は、北朝鮮の核実験を許すことができませんし、早く非核化の道へと立ち返ってくれることを望むのですが、この間の経過については米国も責任を負うべき理由があると思われます。
 オバマ政権は発足以前の段階で、支援したシンクタンクや機関から朝鮮半島政策について就任100日以内の大統領特使派遣など積極的提案を受けてきました。もちろん、それは大統領の公約ではありませんから、6月の時点で実行されていないとしても、すぐさま責任が生じるわけではありません。その上、国内経済問題、中東情勢など、オバマ政権には次々と難題が降りかかりました。とはいえ、北朝鮮の立場からは、朝鮮半島問題を軽視していると見てしまう余地を持っています。
 オバマ政権は朝鮮半島問題を担当する特使として、元駐韓大使で朝鮮半島エネルギー開発機構の事務局長を務めたこともあるボスワース氏を北朝鮮政策特別代表に任命しましたが、彼は大学の総長の役職との兼任であり、もっと高い政治家レベルの交渉相手を期待した北朝鮮にとっては失望するものであったでしょう。また、ロケット発射に対しても米国の姿勢は柔軟ではありませんでした。韓国のムン・ジョンイン延世大学教授は、米国がロケット発射について代表団を派遣し参観するなどの姿勢をとっていれば、今日のように問題がこじれはしなかっただろうと指摘しました(『時事イン』5月9日号)。ボスワース氏は二度のアジア巡訪の過程で訪朝を打診したと伝えられていますが、その目的を1回目はロケット発射阻止、2回目は六者協議復帰説得としていたので、北朝鮮がいかにも受け入れにくいものでした(『時事イン』6月6日号)。
 韓国ではこの間のオバマ政権の対北朝鮮政策を「無視政策」と規定する見方が少なくありません。確かにブッシュ政権1期目のように攻撃的ではありませんが、2期目の前半のように具体的政策を打ち出せないまま、北朝鮮の動きを傍観しているように見えます。
 これにはクリントン国務長官の姿勢を関連しているでしょう。クリントン長官は次期大統領を狙う人物ですから、米国内の保守層に安易に妥協したといわれたくないということで、具体的対応を北朝鮮に見せずにいる可能性があります。しかし、これは今までのところまったく成功していないのです。
 北朝鮮の政府は、米国が対応しなければさらに強い姿勢に出るという手法でブッシュ政権との交渉をここまで導いてきました。今日、オバマ政権が煮え切らないので、北朝鮮は次々と強く出て、そのために米国はいっそう悪い印象を持つという悪循環が形成されています。金大中・盧武鉉政権で統一部長官をつとめた丁世鉉(チョンセヒョン)氏はインターネット新聞〈プレシアン〉とのインタビューの中で、米朝が双方の意図を誤って理解し事態を複雑化させている面があると分析しました。そして、それを解決していく要因が米国の中からは見出しがたく、韓国政府もまたかつてのように米朝の架け橋、解説者の役割を果たせそうにないので、ここは中国に期待せざるをえないと述べています(5月4日付)。
 核実験をめぐる国連安保理決議を中国が引き伸ばしているのを見ると、中国はやはり発射に関する議長声明が失敗であったと受け止めているのでしょう。米国は拘束されているふたりのアジア系記者の問題で、当初予想されていたゴア元副大統領ではなく、ニューメキシコ州知事をつとめたリチャードソン氏を特使として派遣するということも検討しているようです(『韓国日報』6月6日付)。オバマ氏を支持したいろいろなグループの中で、リチャードソン氏はクリントン系とはちがった人物ですので、むしろリセットには適切かもしれません。いずれにしろ、国際的な平和要求の声を高め、米朝対話の糸口が早く目に見えるものになるよう市民運動の努力も求められているでしょう。

〈北朝鮮の後継者問題〉
 北朝鮮の金正日国防委員長の後継者として、三男の金正雲(キムジョンウン)氏が内定したかのような報道が、特に6月初めごろから盛んに流されています。私たちには北朝鮮の内部事情はわかりませんし、憶測を積み重ねても仕方がないことですが、冷静に状況を見るための材料だけは提供したいと思います。
 まず、昨年秋に金正日委員長の健康悪化が伝えられ、年末ごろから金正雲後継説が韓国の通信社である連合ニュースを通じて流れるようになりました。間歇的に出てきた情報は明確な根拠を示さないものでしたが、ロケット発射や核実験のような急テンポの事態を受けて、後継者問題をあたかもこうした情勢と結びつけて考えるような傾向のものでした。
 核実験後の6月1日に、韓国の情報機関である国家情報院が、国会情報委員会所属議員に対して、電話を通じて情報提供を行ないました。この内容は、北朝鮮が在外公館に対して後継者が金正雲氏だとする電文を送ったことを確認した、というものでした。これが発端となって、3日には『朝日』朝刊が中国共産党筋、『読売』夕刊が米国政府筋から確認が取れたとする報道を行なうに至ったのでした。けれども、韓国の統一部は2日の定例ブリーフィングで金正雲後継説は確認していないと否定、米国も同日、国務省のウッド副報道官が金正雲後継は推測に過ぎないと述べ、ホワイトハウスのロバーロ・ギブス報道官も確認できないと述べています。
 もともとこの情報は、国家情報院のトップである元世勲(ウォンセフン)院長が、議員の先生方に一刻も早くお伝えしろと指令をして、議員個々人へ電話をするという異例な形で伝達されたといいます。なぜそのような伝え方を下のか、よくわかりません。これに続いて、核実験は金正雲氏が主導したとか、長男の金正男(キムジョンナム)氏が中国に亡命するとか、いっそう根拠があいまいな情報がどっと流れました。
 韓国では盧武鉉前大統領の逝去で現政権への批判が高まっていますが、そうした世論をそらすための情報操作ではないかという観測まで出ているようです。何より、金正雲氏がこれまで公開された国内的実績がなく、評価はともあれ長期間にわたって世事の実績を積んだ父金正日氏とはまったくちがうということを私たちは冷静に考えておくべきでしょう。そもそも、金正雲後継説は未確認情報としては米国も昨年末から把握していたということも報じられました。
 北朝鮮の国会に当たる最高人民会議で4月に決定されたいわゆる「金正日第3期体制」は、すでに報じられてきたように、国防委員会を強化しその指導の下に国家を運営していくものです。北朝鮮政治をシステムからみていく冷静な視点が求められているのではないでしょうか。少なくとも、韓国では保守的な新聞も含め、新聞が1面トップで後継者問題を報道するような姿勢はとっていません。
 
〈敵基地攻撃論を警戒する〉
 日本では二度目の核実験などを契機に、北朝鮮を念頭に置いた敵基地攻撃論を主張する政治家が出てきています。今年は総選挙を控えているために、攻撃的姿勢を示したほうが票になると思っている政治家もいるかもしれません。ですが、これは日本の外交の貧困を物語る以外の何者でもないのです。北朝鮮を万一攻撃したとすれば、相手方も反撃しますから、日本も莫大な被害を逃れません。ゲームをしているような安易な発想で戦争を考える政治家には、考えを転換してもらうよう働きかけていくときです。
 この間、日本ではとりわけ外交が機能しませんでした。米国を対決の泥沼に引き込むのではなく、外交の力を発揮し、東北アジアの平和を実現する対案を日本の各界各層から提起していきたいものです。
 連絡会では6月25日(木)に六時半から東京の総評会館で、日朝国交正常化に向けて基本条約や共同宣言などのアイデアを出し合い、韓国併合100周年の2010年に向けてそれを具体化していくための学習会を予定しています。その上で、7月には会の発足1周年集会を全国の仲間とともにもてればと考えています。皆さんのご意見を大いにお寄せください。
 

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