朝鮮半島への視点 第5回 米国、連絡事務所設置に進むか
朝鮮半島への視点 第5回 米国、連絡事務所設置に進むか
連絡会事務局長 石坂浩一
皆様、このところ長い間、事務局長通信がとどこおり大変失礼しました。個人的な忙しさと、連絡会のほうでも新政権に対してどのようにアクションを起こしていくのか、話し合いにも時間をとられていました。現在、沖縄の基地問題が正念場を迎えており、全国の仲間も忙しく活動していたことと思います。連絡会は外務省への要請と国会議員への働きかけを行ないました。
米朝もボズワース訪朝で直接対話の第一歩を踏み出しました。まず手始めに米国が平壌に連絡事務所を設置することを検討しているとの報道が出ています。この間の動きも整理してみましょう。
〈外務省要請行動と国会議員への働きかけ〉
連絡会では12月1日、共同代表の福山さん、清水さん、事務局次長の五十川さんと私で外務省を訪問し、「日朝国交正常化に向けた提案と要請」という文書を手渡しました。政権交代を受けて外務省としても積極的に日朝交渉に取り組み、朝鮮の植民地化から100年という節目の年に日朝関係の前進をはかることが重要だという点を私たちは強調しました。同時に、日朝基本条約について交渉をし、2010年のうちにこれを実現するようめざすことを提案しました。
外務省からは担当者の人がふたり出席し、鳩山首相が表明したように、拉致・核・ミサイルを包括的に解決しつつ、不幸な過去の清算を模索するという日本政府のこれまでの基本方針に変わりはない、包括的解決の話し合いが進めば国交正常化へと向かうのだと説明しました。その他のあたしたちの要望書の事項については、核問題は六者協議での解決をめざしているので、六者協議の早期再開に尽力したい、人道支援を再開することはこれまでの情勢からすると、すぐというわけにはいかないだろう、また在日朝鮮人に対する法令の厳格適用というのはあくまで法に基づいているものであってハラスメントではない、といった、型どおりの説明でした。また、11月8日にNHKで放送された〈NHKスペシャル 秘録日朝交渉――知られざる「核」の攻防〉で極秘の外交文書が出ていることについて質問しましたが、外務省として確認できないとの返答でした。
こう報告すると、いかにも無愛想な面談だったように感じられると思いますが、実際は日朝について積極的な方針を維持しているのだという雰囲気をにじませるものでした。うまくいくかどうかわからないが、何もしていないわけではない――こう表現すればいいでしょうか。おそらく、『週刊朝日』11月27日号の「鳩山12月電撃訪朝計画」といった記事、それに続く保守系の『週刊新潮』『週刊文春』などの記事に神経を尖らせていたものと推測されます。
要請の後、社会民主党を訪問し、山内徳信国際委員長・参議院議員ら関係者と面題しました。基地問題が正念場を迎えお忙しい中で時間をさいてくださった山内議員は、村山談話を前進させる鳩山談話が朝鮮植民地化100年の年に出されて日朝関係を前進させるのに役立てればいい、社民党としてもがんばりたいと語ってくださいました。
そのあと、民主党の今野東議員、斉藤つよし議員と面談を行ないました。おふたりとも、本会議などの合間を縫って時間を割いてくださいました。今野議員はこれまでも私たちの集会などに駆けつけてくださった方ですが、今回の要望内容を見て、公式的な陳情としてより高いレベルに持っていけるようアドバイスをしてくださいました。最近の動向などについて意見交換し、今後の協力を約束してくださいました。斉藤議員の訪問には当会顧問の和田春樹さんが合流しました。斉藤議員は、鳩山政権は小沢訪中団などを通じてアジア外交を進めているが、政権党として今後日朝問題も議連へのかかわりなど積極的に取り組めるように努力したいとのお話でした。
〈ボズワース訪朝とその後〉
米国の北朝鮮問題特別代表であるボズワース氏が12月8日に北朝鮮を訪問することが、11月19日のオバマ大統領訪韓の際に明らかにされました。ここに至るまで、思いのほか長い時間がかかりました。9月11日に国務省のクローリー次官補が会見で、2、3週間のうちに米朝協議の日程が判明するという趣旨の発言をしていたのですから。
ボズワース特別代表は、2泊3日の北朝鮮訪問を行ないました。10日にソウルで行なった会見でボズワース代表は、六者協議の必要性と役割、および2005年9月19日の六者協議共同声明の重要性で「共通の理解」に達したと説明しました。実質的な前進があった、との評価でした。翌日、朝鮮中央通信は北朝鮮外務省の報道官の発言を報じました。報道官は、六者協議再開の必要性について相互理解を深め共通点も少なからず見出すことになった、残された見解の差を生めるため引き続き協力していくと、前向きかつ含みのある発言をしました。米朝双方の明らかにした表現が一致しており、思いのほか、一致点はあったのではないかとも見られています。
その後、国務省のケリー報道官は16日、ボズワース代表がオバマ大統領の金正日国防委員長宛親書を託されていたことを明らかにしました。韓国の連合ニュースは18日、オバマ大統領の親書には、北朝鮮が六者協議に復帰し非核化プロセスが動き出せば平壌に米国が連絡事務所を開設するとの内容が含まれていたと報道しました。これについて、韓国政府は事実ではないとコメントしたようですが、朝鮮中央通信も18日にはオバマ親書の存在を報道しましたので、条件つきでしょうが、親書に前向きな内容が含まれていたことが伺えます。
大統領選でオバマ陣営を支持した研究者のひとりでコロンビア大学東アジア財団のジョエル・ウィット首席研究員は、ハンギョレ新聞社のシンポジウムのため11月に訪韓した際に、北朝鮮が二度の核実験をしてしまった現在、米国のアプローチは慎重にならざるをえないとしつつ、連絡事務所解説などの段階的措置が適切にとられるべきだとの考え方を示しました。あまり急速な変化を期待しすぎずに、しかし着実な積みあげを図ろうということのようですが、今回のボズワース訪朝の結果はこうした見方と一致するかもしれません。
〈拉致問題でも積極的に〉
オバマ大統領の訪日で注目されたのは、演説の中で日本人拉致問題についての見解を示した点です。それは「拉致被害者の家族に全面的な説明を行なわない限り、近隣諸国との完全な正常化は実現しない」という部分です。いわば拉致問題解決の基準ないし内容を、それもこれまで自民党政権が明らかにしたものよりハードルを下げる形で、しかし現実的なものとして示したのです。不思議とオバマ演説のこの部分について保守側からの指摘はないようです。
冷静に見ればこれは重要な問題提起にほかなりません。日本の政治家も現実的な事態の前進のために努力してほしいと思います。拉致問題も日朝交渉の過程で解決すべきだという私たちの主張は、より現実的なものとなりつつあるのではないでしょうか。
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