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朝鮮半島への視点 第3回 転機が来ようとしている

2009年8月13日

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朝鮮半島への視点 第3回 転機が来ようとしている
                    連絡会事務局長 石坂浩一

 クリントン元大統領が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪問し、拘束されていた米国籍の記者2名を連れて帰ってきました。今、この原稿を書いている時点では結論が出ていませんが、 拘束されていた開城工業団地の韓国人職員も現代グループのヒョン・ジョンウン会長と一緒に戻ってくる可能性が高まっています。結局、日本政府は今まで拉致問題の解決といいながら何をしてきたのでしょうか。総選挙を前にして、深く考えさせられる状況になってきました。

〈ツー・トラックの真意〉
 米朝間で局面転換がありそうな雰囲気が先月から感じられていましたが、現実に状況が動き始めたようです。
 北朝鮮を訪問したジョージア大学のパク・ハンシク教授が7月11日、日本のメディアに対して、拘束された米国人記者が異例の待遇を受けていると述べたあたりから、変化は目に見えるものになりました。米国籍記者たちは刑務所には送られず刑執行が保留されて招待所にいる、北朝鮮側は対話の準備ができているようだ、というのがパク・ハンシク教授の伝えたことでした。
 18日から20日まで訪韓したカート・キャンベル国務次官補は、韓国政府の六者協議関係者などと会談し、対話と圧力・制裁の二つの選択肢を持ちつつ北朝鮮政策を進めることを説明しました。同時に、北朝鮮が魅力を感じられる包括的提案ができるとして、米朝関係正常化や平和体制移行を含めた提案を準備していることを示唆しました。これらの考え方は「ツー・トラック」と「包括的パッケージ」と呼ばれることになります。クリントン国務長官も22日に訪問先のブ-ケットで完全な非核化と引き換えの包括的パッケージ提案を確認しました。
 ですが、当初から「ツー・トラック」にはアリバイ的な感じがしました。というのは、オバマ政権が本来構想した対話の方向へ転換するとはいえ、あまり急激な転換をすると保守派の反発を招くので、二つの中で選択をするのだと説明しているのではないかということです。米国政府関係者が制裁を実行する、強化するなどと語っていたのも、本心というよりアリバイのように感じられました。当然、米朝の駆け引きがあったでしょう。米朝の水面下での調整は進んでいるように思われましたが、クリントン長官がブーケット会見に先立つ20日放送のインタビューで、「北朝鮮は関心を引きたがる子どもだ」といった発言をし、北朝鮮側からも反発の悪口が出たことには、やや心配をさせられました。
 しかし、27日に北朝鮮外務省の報道官が談話を発表し6者協議ではなく米朝対話を求めていることを鮮明にし、その上で27日から28日にかけて行われた米中戦略・経済対話で、制裁や圧力では朝鮮半島問題は解決しないということを中国から確認させられて、オバマ政権の方向性がはっきりしたように思われます。日韓が主張していた5者協議というものも、この時点でありえないものとなりました。

〈クリントン訪朝の意味〉
 クリントン元大統領の訪朝と2記者の釈放は、もちろんその結果です。米朝間でどのようなやり取りがあったのかはまだわかりませんが、ゴア元副大統領やリチャードソン元ニューメキシコ州知事では、北朝鮮側から見て力不足だということだったのでしょう。2000年にオルブライト国務長官の訪朝に続いて、自らの訪朝も考えていたクリントン氏の訪朝は、米国が北朝鮮を攻撃しないとしたクリントン時代の合意を確認する意味を持つはずです。そして、オバマ大統領のメッセージを伝達したと報じられたことについても、ホワイトハウスは否定したものの、口頭メッセージは存在したと見られています。
 クリントン―キム・ジョンイル会談は3時間半に及んだと伝えられています。共同の関心事について幅広く意見交換を行なった、というのが米国の公式的説明です。そして、クリントン氏の渡航費用もすべて米国の篤志家が出したことになっており、政府が公式に関与したことを極力否定しようとする姿勢が見られます。しかし、随行した国務省のストラウプ元韓国課長は「会談内容はすぐにはいえない」と語ったのですから、何かあったのではないかと疑わないほうがおかしいといえるでしょう。ホワイトハウスのジェイムス・ジョーンズ補佐官(安全保障担当)は8月6日、米国政府は釈放を歓迎しており、クリントン訪朝はよい結果を生むだろうと定例ブリーフィングでコメントしました。
 米国のマスコミはもっぱら、クリントン氏が核問題を含む重要課題を議論したと見ています。6日付の『ウォールストリート・ジャーナル』は、日韓の拉致被害者を送還すれば日韓から経済的・外交的見返りを受けられるようにしてあげようという話までしたとの見方を伝えました。北朝鮮側はオバマ政権の出方を注視しているところです。
 もうひとつ、クリントン氏との会談でキム・ジョンイル国防委員長が登場し、健在振りを誇示した点も見逃せません。7月にはキム・ジョンイル委員長のすい臓がん説など、確認できない情報が流され、不安があおられていました。けれども、少なくとも重要事案についてはキム・ジョンイル委員長が決定している様子が確認されたのですから、米国も当面は現指導部と交渉すべきだという判断をすることでしょう。
 韓国のMBCは7月19日のニュース番組で、2月に会寧でキム・ジョンイル委員長の姿を見たという北朝鮮住民の話を中国で取材し、報じました。キム・ジョンイル委員長は2月15日から20日ごろのある日、実母である金正淑氏の生地である会寧を訪問、杖をつきながら視察をし、異例なことに金正淑氏の銅像の前で一人だけで写真撮影を行なったそうです。それを見た人民は、指導者が最後の会寧訪問になるかもしれないと覚悟しているのだろうと思い、涙を流して見守ったといいます。この話はあまり作意がないように感じられます。事実とすればキム・ジョンイル氏は、指導者の万一の事態について人民に心の準備を求めているのだといえるでしょう。ちなみに、MBCの取材チームがこの情報を得てまもなく、北朝鮮では指導者の会寧訪問が報道されましたが、杖をついている映像は一切出なかったといいます。
 この報道の際、MBCはもうひとつ面白いエピソードを伝えました。平壌では中国からの食料品、化粧品などの輸入取引のための必需品として、人びとが先を争ってパソコンを購入しようとしているというのです。ありそうな話です。格差も生じているでしょうが、人びとの率直な欲望が表出される社会がいっそう形成されつつあるのでしょう。

〈新局面を日朝国交正常化のチャンスに〉
 米朝対話のきざしの中で、日本の総選挙を通じた政権交代となれば、日朝国交正常化へのチャンスです。日朝国交正常化連絡会は去る7月24日に創立1周年総会を開催しました。その内容についてはすでに報告も書きましたので繰り返しませんが、私たちはこのチャンスをぜひとも生かしていきたいものです。2010年末までに日朝基本条約が締結され、諸懸案も正常化の過程で解決されるように日本社会で議論を巻き起こしていこうという私たちの方向性は、まさに時代に見合うものだといえるのではないでしょうか。日朝国交正常化を今の日本社会で訴えていくことは簡単ではありませんが、着実に合意を広げていきましょう。                  

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