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和田春樹東大名誉教授「北朝鮮政策の問題点と新政権の課題」

2010年2月16日

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北朝鮮政策の問題点と新政権の課題

連絡会顧問 和田春樹

  1.  安倍政権が拉致問題を「わが国の最重要課題」とし、誤った基本原則を掲げて実践した結果、小泉首相の努力は完全に水泡に帰し、日朝関係は史上最悪の状態にいたった。拉致問題の解決への進展も完全にストップしている。現在日朝間は国交がないばかりか、貿易も船の往来もなく、国家間にはいかなる接触もない。そして日本は核兵器を開発したというこの隣国とまざれもなく軍事的な対立関係にあるのである。
  2.  本年2010年は韓国併合100年にあたり、朝鮮半島の人々との関係にとってきわめて重要な年である。鳩山首相は併合100年にあたり総理談話を出すことがふさわしい。この談話は併合と併合条約についての認識を村山談話の内容に付け加えるものでよい。このような談話が出れば、日韓関係の進展に決定的によい影響を与え、あらたな日韓共同宣言が可能になるが、日朝関係の打開にとっても、大きな役割を演ずることになるだろう。
  3.  最悪の日朝関係は改善され、緊張緩和がはかられなければならない。そのための基本は日朝国交を正常化し、外交交渉がたえずできるような関係にすることである。核問題が重要であればあるだけ、そのような関係がのぞましく、拉致問題があればあるだけ、そのような関係が必要である。その意味で、「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし」という安倍内閣の打ち出した原則は小泉首相がつくり出した日朝平壌宣言の前提を破壊するものであった。これを転換し、「日朝国交正常化の過程で拉致問題解決の前進をはかる」という日朝平壌宣言の原則に立ち返ることが必要である。
  4.  従来全閣僚から構成されていた拉致問題対策本部が、新政権において、首相、外相、官房長官の三人で構成されることに代わったのはひとまず評価しうる。しかし、事務局のスタッフが三人の民間人(特定失踪者問題調査会や北朝鮮難民救援基金などの関係者)の採用などによって補強され、前年度予算(6億1800万円)が新年度予算では12億4000万円に倍増されたのは、理解に苦しむことである。従来の事務局の活動、予算の執行状況は仕訳けの対象とされ、過去3年間の費用効果が精査さるべきものである。それをせず予算を増額するのは、いかなる判断によるものか、説明責任が問われている。
  5.  北朝鮮と交渉を再開するなら、福田内閣がこころみて中断したところからやり直すほかない。福田内閣時代にはまず制裁の部分解除(人の往来、チャーター便の派遣、人道目的のための北船舶の入港許可)と拉致問題再調査を同時実施することで合意した。ここにもどり、実施に入ることが必要である。だが単なるくりかえしでなく再調査の意義をたかめるためには、横田夫妻の訪朝、調査が実施されなければならない。横田めぐみさんについては、実の娘、元の夫が北朝鮮にいることが明らかであり、このことは安否を確認調査する重要な手がかりである。他の被害者の場合にはいかなる手がかりの存在も知られていない以上、横田夫妻の訪朝は事態進展の唯一の道である。
  6.  再開される日朝交渉の主題になりうるのが日朝基本条約である。北朝鮮側は経済協力の規模の交渉についての交渉をのぞむが、核問題での6者協議の再開、進展がないところで、大型経済援助について話を進めることは適切ではない。だから、基本条約交渉から入るのが正しい態度である。併合100年に関する鳩山談話が出れば、日朝基本条約は日韓基本条約、日韓共同宣言、日朝平壌宣言と鳩山談話を基礎として構想することができる。
  7.  日朝基本条約については、前文と併合条約の無効宣言、経済協力協定の締結とその実施、拉致問題解決の努力などの規定が重要である。前文には、日韓共同宣言、日朝平壌宣言と鳩山談話にもとづいて、併合と植民地支配についての歴史認識、反省と謝罪をもりこむことができる。併合条約の無効の宣言は、日韓条約第二条をここでもくりかえす必要があるが、解釈の変化をふまえて、字句を修正する必要がある。already null and void という表現からalreadyを削除することが適切である。経済協力協定締結とその実施について、日朝平壌宣言の文言を日朝基本条約にもりこむことが必要である。あわせて、拉致問題について継続的に努力することも、表現を考えて、新たに記載することが望ましい。
  8.  前文に併合と植民地支配に対する反省謝罪を明確に表現した日朝基本条約が締結されるものならば、締結にふさわしいときは、韓国併合100年の本年であることは間違いない。しかし、それが不可能でも、そのための努力がこの年に開始されることが望ましい。
  9.  基本条約が調印されれば、国交が樹立され、大使館が開設され、外交代表が常駐することになる。日本独自の制裁はそのさいは解除されるのが当然であろう。貿易の再開と船舶の寄港の再開がなされなければならない。国連安保理決議にもとづく制裁は維持されることになる。拉致被害者等で、そのときまでに生存が明らかになった人は国交樹立のさいに帰国させられなければならない。北朝鮮が同意すれば、国交樹立のさい、あるいはその直後に、植民地被害をうけた個人に対する償い措置を被爆者、慰安婦について実施することが適切である。大使館が開かれれば、被爆者に対する原爆手帳の交付が可能になる。
  10.  国交が樹立されれば、北朝鮮との緊張緩和、核問題解決についての外交交渉が可能になる。経済協力協定の交渉は核問題の進展にリンクさせて進めることができる。核問題については、二国間の話し合いを進めつつ、6者協議を再開させて、解決に向かわなければならない。北朝鮮の核問題が解決すれば、東北アジアの平和と安保の脱力機構づくりに進むことができる。東北アジア安保共同体はアメリカがくわわるものであり、ASEANがめざす東南アジア共同体と並んで、東アジア共同体の土台となるだろう。

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