ニュースペーパー

2020年05月01日

軍事化が進む南西諸島

これは離島<尖閣>防衛ではない!真のねらいはどこにあるのか?

前田 哲男(ジャーナリスト)

よみがえる過去

4月の沖縄は悲しい思い出をよみがえらせる。75年まえ、そこに吹いていたのは「うりずん=若夏」到来を告げるやさしい風でなく、住民が「鉄の暴風」とよんだ砲爆撃の嵐だった。6月末までつづく島、海、空をめぐるたたかいで15万人の県民がいのちを落とし、また、数おおくの特攻機が空に散り、「戦艦大和」も、ここ南西諸島の海に沈んだ。その「沖縄戦」の末に、日中全面戦争にはじまる「アジア太平洋戦争」は終幕したのである。鹿児島~奄美~沖縄にかけてのびる海と島が、無謀な戦争の最終目撃者、そして軍国日本最後の墓碑となった。

その南西諸島に、ふたたび軍靴の音がきこえる。防衛省により「南西地域の防衛力強化」として推進される、島々をつなぐ〈洋上防壁〉設置構想がそれだ。

2020年4月5日、南西諸島南部に位置する沖縄県宮古島でミサイル部隊の編制完結式がおこなわれた。6日付『琉球新報』の記事をみてみよう。

「陸上自衛隊第15旅団は5日、宮古島市上野野原で宮古島駐屯地の編制完結行事を開いた。新型コロナウイルスが全国で感染拡大する現状を受け、市や宮古島医師会が式典延期を要請する中で強行した。駐屯地正門前では市民が配備中止などを求め、抗議した。市民は『宮古島に戦争の危機を引き寄せる軍事要塞化に断固反対する』などとした抗議文書を隊員に手渡した」。

新型コロナの猛威も、自衛隊の基地新設計画にはなんら影響をもたらさなかったらしい。

新部隊について、自衛隊準機関紙『朝雲』(4月2日付)は、以下のようにつたえている。

「南西諸島の防衛強化のため昨年3月に新設された沖縄・宮古島駐屯地には、26日付で中距離地対空ミサイル(中SAM)部隊の7高射特科群の本部と346高射中隊などの隊員約180人が長崎県の竹松駐屯地から移駐した。また、地対艦ミサイル(SSM)を装備する5地対艦ミサイル連隊(健軍)の隷下部隊として302地対艦ミサイル中隊(約60人)が新編され、宮古島駐屯地に配置された」。

だが、宮古島基地は、南西諸島防衛構想のごく一部にすぎない。

ミサイル基地化される島々

「南西諸島」とはどこか? それは薩南諸島と琉球諸島を総称した名称だ。薩南諸島は、鹿児島県の種子島、屋久島、奄美諸島などからなり、琉球諸島には、沖縄諸島(沖縄本島など)、先島諸島(宮古島、下地島など)、八重山諸島(石垣島、与那国島など)がぞくする。鹿児島と那覇間は直線距離で682キロ、那覇と宮古島間300キロ、石垣島間は469キロ。さらに西側にある与那国島までいれると「南西諸島」全長は1200キロ以上、本州の長さに匹敵する。

その海を、対艦・対空ミサイルの連鎖によって閉ざそうとするのが「南西諸島防衛構想」なのである。掲載図を参照しつつ防衛省の意図を把握しておく。

2019年3月、奄美大島と宮古島に新部隊が発足した。『朝雲』3月28日付の記事。

「陸上自衛隊は南西諸島への新たな駐・分屯地の開設など、3月26日付で大規模な部隊新・改変を行った。『創隊以来の大改革』と位置付ける組織改革の一環で、島嶼防衛態勢を強化するため、鹿児島・奄美大島に奄美駐屯地と瀬戸内分屯地を、沖縄・宮古島に宮古島駐屯地をそれぞれ開庁、警備隊などを配置した」

記事はつづけて、「奄美警備隊」(奄美駐屯地と瀬戸内分屯地)が、地対艦ミサイル部隊と中距離地対空ミサイル部隊により編制、また「宮古島警備隊」は将来800人規模に増員、新型対艦ミサイルを装備するとつたえ、岩屋防衛大臣(当時)の「これで南西諸島の守りの空白地帯が埋まる」との談話を紹介している。「創隊以来の大改革」という形容に注目しよう。

くわえて、種子島そばの馬毛島には米軍艦載機の陸上発着訓練場設置に向けた交渉が進行中で、実現すると空自F-35も滑走路を使うことになる。また、石垣島にも地対艦・地対空ミサイル部隊の設置が予定される。さらに、台湾と指呼の間にある最西端の与那国島には2016年以降、「沿岸監視隊」が活動中だ。おなじ年、沖縄本島の空自F-15戦闘機部隊も「第9航空団」に増勢され、40機1500人体制になった。これが「南西諸島防衛構想」の全容だ。

南西諸島防衛構想
南西諸島防衛構想の配置図

狙いは中国艦隊封じこめ

こうみていくと、南西諸島ぞいに、奄美大島から沖縄本島~石垣島~宮古島~与那国島をむすぶ長大な自衛隊基地ネットワークが形成中、とわかる。ミサイル重点にしめされているように、目的が(中国海軍を想定した)「通峡阻止」――平時・監視、有事・阻止――にあることは明白だ。同時に、たんなる離島守備隊にとどまらず、縦深性をもつ攻勢的意図もうかがえる。背後にある米軍グアム基地防衛を目的とした〈前衛基地〉が任務のひとつに秘められているのだろう。

その象徴といえるのが長崎県佐世保市に2018年開隊した「水陸機動団」である。〈日本版海兵隊〉を自称するこの部隊は、沖縄米海兵隊と同一装備(水陸両用戦闘車、エアクッション型揚陸艇)をもち、輸送機オスプレイを〈足〉とする〈殴りこみ部隊〉だ。陸自オスプレイは、将来、佐賀空港(新設・佐賀駐屯地)に配備される計画なので、水陸機動団は、佐賀空港を足場に南西諸島まで一気に進出可能な〈長い足〉をもつこととなる。

したがって、南西諸島に新設された部隊は、たんなる「離島防衛」任務にとどまらず、西、南九州の自衛隊基地と連動、沖縄米軍とも策応する〈攻撃部隊〉としての役割をになえる。そこから判断しても、南西諸島への新部隊設置は、「中国の脅威」に正面から対峙する自衛隊の新配置といえ、かつて、「北―ソ連の脅威」に置かれていた戦略重心が「南―中国」へと転換したことを実態としてしめした布陣、とみなせる。「辺野古新基地」の運用構想もまた、こうした大きな流れと軌を一にした、自衛隊・米軍の共同作戦基盤として想定されているにちがいない。

これらの新部隊配置と攻撃的装備を、もはや「専守防衛」の枠内で理解することはできない。〈尖閣諸島防衛〉にしては大がかりに過ぎる。また、中国に対抗する軍事力展開であるのはたしかだとしても、真のねらいが〈離島=尖閣防衛〉を超えたところにあると判断せざるをえない。真の意図をとく鍵は、安倍政権がおこなった「集団的自衛権の行使容認」と、それを自衛隊の任務と行動に反映させた「戦争法=安保法制」にもとめるべきだろう。

「戦争法」の廃案こそ

「冷戦」の時期(それはソ連が日米共通の想定敵国であったころだが)、安保協力の方向は、日本列島が「三海峡」(対馬・津軽・宗谷)によってソ連極東部を扼する位置にあった地理的条件に立ち、ソ連太平洋艦隊の外洋進出を阻止、日本海に封じこめる「三海峡封鎖」作戦にあった。その1980年代〈海洋封鎖の試み〉の焼き直しが、いま、南西諸島において、こんどは中国海軍に向けて拡大再生産されようとしているのである。戦争法で「米艦防護」や「領域横断」作戦が容認されたことにより、自衛隊の攻勢的作戦に道がひらかれた。

南西諸島の西側には、東シナ海と南シナ海をへだてて、中国の港湾都市(同時に海軍拠点でもある)上海、青島、大連、寧波などが所在する。中国の海運と海軍(および航空機)は、南西諸島の公海水道を抜けずに太平洋に出ることはできない。それを〈ミサイルのバリケード〉によって管制しようとするのが「南西諸島防衛構想」のねらいなのである。

島々のあいだにひろがる海は、本来、国連海洋法条約により「国際海峡・水道」として開放されすべての船に通過・通航権がみとめられる自由な海だ。古くは「遣唐使・南路」でもあった。

であれば、復活しつつある〈海を鎖す〉――「インド太平洋戦略」に向かって突きだされる〈槍〉のくわだて――に対抗する東アジア平和構築の構想が、護憲の側からこそ提起されなければならない。
(まえだ てつお) 

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