ニュースペーパー
2020年09月01日
新型コロナウイルスが露わにした移民政策の歪み 問われる人権意識
中小労組政策ネットワーク事務局長 鳥井一平
新型コロナウイルス感染拡大は、移民、移民労働者(外国人労働者)の雇用や生活にもまた大きな影響をもたらしました。例えば移動の制限は、たちまち「帰国できない、入国できない」となり、雇用と生活の逼迫に直結しています。私たち中小労組政策ネットワークや連携する移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)の関係団体には、日々多くの相談が寄せられています。
例えば、技能実習生であれば、3年間の契約期間が終わっても帰国できない、仕事もない。寮も出ていけと言われる。あるいは借金をしてまで準備をしていたのに日本に入国できない。在留資格「技術・人文・国際」などの労働者の場合であっても、2月頃の初期の段階では、「内定取消」として空港で追い返される。外食で多く働く留学生は、バイトもなくなり、学費に困る、でも国に帰ることもできない。永住者など中長期滞在者の場合には、再入国制限があり、飛行機も飛んでおらず(便があっても超高額)、実家(祖国)に帰ることができない。
ヘイト、差別の拡散 取り残される外国籍住民
新型コロナウイルス感染拡大は、感染者への差別という私たちの人権意識が問われることにもなっていますが、とりわけ「中国人の入店禁止」などと公然と表示するなど外国籍者への差別、ヘイトを煽る動きも出ています。新型コロナウイルス感染拡大にともない、行政も確かに救済策を行いはしています。しかし、300万人近い(2019年12月末現在)外国籍住民の存在を意識したものとは言えません。特別定額給付金も申請書は日本語のみで読むことも書くこともできません。日本で生まれ、育った、ある日系ブラジル人2世の青年は、「70枚の申請書を書いた」と訴えていました。医療や救済制度において、「当然」のように、外国人だからあるいは在留資格によって「柵」をつくり排除しています。学生への支援策に文科省は、留学生の対象者にだけ「成績上位3人」という基準を示しました。また、特別定額給付金を申請できない人々を私たちは「取り残して」しまっています。感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の基本理念にも反しています。
注)「その他」は介護分野における「EPA介護福祉士候補者ルート」及び自動車整備分野における「技能検定ルート」
特定技能の現実と「受入れ」制度の歪みが見えてきた
ところで、感染拡大が言われ始めるとともに、スーパーなどで野菜が高騰していることに気づいた人は少なくないと思います。その当時に野菜が不作だという話は聞きませんでした。メデイアでも取りあげられましたが、労働者がいないというのです。つまり収穫し、出荷することができない。畑でそのままだめにしてしまう。そのようなことが全国各地で起きています。農業だけではありません。新型コロナウイルス感染拡大は、バブル崩壊やリーマンショックとは少し異なり、人手不足によって経済活動が逼迫する事態ももたらしています。
3年ローテンションの技能実習生が入国できない、帰れなくなった技能実習生は、制度上、他の職種の仕事をしてはいけない。そして、鳴り物入りでスタートした特定技能制度は、新規入国者が当初の予想を大きく下回っています。(グラフ参照)
帰国できずに働くこともできず、困窮する技能実習生を「放置」しているのは外国人技能実習制度が偽装であることを、より一層明らかにしました。一日も早く外国人技能実習制度を廃止し、この社会に見合った、次の社会のための労使対等原則が担保された外国人労働者受入れ制度を創設するべきです。まっとうな移民政策が求められます。
最後に、移住連をはじめ多くの市民団体が、政府の外国籍者を置き去りにした政策を批判するとともに自前の支援活動に奮闘していることに触れたいと思います。非正規滞在者へのマスクや除菌剤の送付、配布やシェルター活動、留学生や技能実習生らへの食料品の配布などです。移住連は、特別定額給付金から排除された生活困窮者への「現金給付」を行う「移民・難民緊急支援基金」活動を行い、8月10日現在で、寄付累計29,587,022円の寄付が集まり、1,237人に給付されています。
新型コロナ「移民・難民緊急支援基金」ご協力ください!
(とりい いっぺい)
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