2018年、ニュースペーパー

2018年11月01日

ニュースペーパー2018年11月



オスプレイを飛ばすな!どこにもいらない!
 東京の横田基地に10月1日、米空軍CV22オスプレイが正式配備された。
 2012年沖縄・普天間基地に、24機の米海兵隊MV22が配備されて以降、「本土」で初めてのこととなる。今回配備された5機に続き、2024年ごろまでに計10機配備される予定だ。
 台風のせいとかで、1日は米軍の式典はなかった。それもそうだろう。すでに4月4日に横須賀ノースドックに陸揚げされ、横田基地に「一時的な立ち寄り」として飛来してから、再三横田基地を出入りしたうえに、訓練飛行まで繰り広げている。いまさら10月1日が「配備記念日」などという認識が米軍にあろうはずもない。
 東京のベッドタウンが拡がる基地周辺の市街地上空で、急旋回の飛行訓練まで行っている。米軍からの通告にはなかった低空飛行訓練も基地内で行っている。10m程の高度で基地内を飛んでいるのだが、これがとてつもなくうるさい。米空軍特殊部隊の輸送を任務とする横田基地のオスプレイの危険性は明白だ。特殊部隊が作戦任務を完遂するためには、厳しい、危険な訓練が不可欠であるからだ。今後このオスプレイは、三沢(青森)、ホテルエリア(北関東、信越)、東富士(静岡)、沖縄で様々な訓練を行うとしている。
 危険なオスプレイを飛ばしてはならない。再び重大事故が起こる前に、配備撤回を何としても実現させなければ。
(写真:9月15日横田基地日米友好祭で展示されたオスプレイ第9次横田基地公害訴訟原告団提供)

インタビュー・シリーズ:138
沖縄のたたかいの姿は 県民の財産
映画監督 三上智恵さんに聞く

みかみ ちえさん プロフィール
 民俗学に関心があり、大学在学中から日本のほか韓国、インドネシアなどで民俗学のフィールドワークを行っていた。関西の毎日放送のアナウンサーを経て、琉球朝日放送のキャスターに。沖縄の自然や民俗、基地問題など様々なテーマでドキュメンタリーも手がける。沖縄県北部の東村・高江の集落を囲むように米軍ヘリパッド基地を建設する問題を扱ったドキュメンタリー『標的の村』(2012年9月、30分番組で放送、12月には1時間の番組に拡大して放送)は、ネット上でも大きな関心が寄せられた。その後同局を退職し、映画監督に。『標的の村』(2013年公開)、『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』(2015年公開)、『標的の島風(かじ)かたか』(2017年公開)、現在最新作『沖縄スパイ戦史』が全国で公開されている。

─放送局のアナウンサー、キャスターを経て、映画監督になられたきっかけについてお話しいただけますか。
 映画は好きで、年間250本くらい見ていた時期もありましたし、関西にある毎日放送でも映画の番組もやっていたんですよ。「シネマチップス」という三人の女性でトークをしながら、様々な映画について自由に批評するものでした。批評と言っても堅苦しいものではなく、どんなに個人的にピンと来ない映画でも、「つまらない」ということは言わないで、いろいろな切り口からトークしていたんですね。担当のプロデューサーは、この番組企画は、「放送局に映画ジャーナリズムを持ち込みたい」という意図があったと言っていました。
 もともと放送業界と映画業界では、映画業界の方が力が強く、テレビ放送で映画のことを自由に語ることはできなかったのです。試写会でも、新聞の文化・芸術担当記者とテレビ放送の記者では、御重がつくかつかないかという歴然とした差があって、放送媒体は、宣伝になることを言ってくれるなら見せるけど、もしケチをつけるようなことを言ったら試写状も来ないという対応でした。ところがこの番組が人気を得て、表面的に褒めちぎるより、トークが盛り上がればその映画に関西で人が入るようになった。それで徐々に配給宣伝の方々にも応援してもらえる番組になったんです。それがある有名作家が作った映画の作品についての発言が問題となって「つぶせ!」という圧力がかけられたんです。「シネマチップス事件」っていわれていますけれど、映画ファンが抗議の署名をしてくれたこともあって、結局潰されることもなく、復活しました。
 そして琉球朝日放送に来て2年目くらいから、ドキュメンタリーを撮り始めたんです。20数本作りましたね。大好きな沖縄ですから、ネタの宝庫です。サンゴやジュゴンなどの自然環境から、独特の祭りも民俗学的に関心がありました。沖縄戦、基地問題、特に1995年の少女暴行事件の時は、毎日夢中で放送しました。
 テレビというのは、社会的な問題を手っ取り早くお茶の間に届けられる最も適当なものと、当時は思っていたんですよ。そりゃあ、お金を出して映画館に来てもらうよりも簡単に情報が手に入ります。ただ地方局で番組を作ってもなかなか全国ネットにはならない。よく、東京サイドから「反対だけではなく、賛成の立場の人も出せ」と注文が付けられます。沖縄発の1~2分のニュースで、反対、賛成の両論を出せということは、県内の容認している人を出せということで、沖縄の中にいる人が基地を作りたいと言うふうに見せる形になります。問題のすり替えも甚だしいと思いましたね。基地を作りたいのは沖縄の外にいる人たちですよね?反対していないからといって基地に賛成してるわけではない。長い歴史の中で作られてきた社会の構図、そして弱さにつけ込んでくるお金の力など、このようなことは時間をかけないと表現として成立しません。
 私たち沖縄のメディアは、調査報道を積み重ねてきましたから、オスプレイが来ることも、辺野古の新基地が代替施設などではないことも以前から見抜いていたんですよ。普天間基地は出撃基地としては使いづらい、弾薬庫もないし船が接岸することもできない、滑走路も短い。そして1960年代に米軍内部で、辺野古に基地を作ることが計画されていたことも明らかにされていきます。辺野古は代替施設ではない「新基地」建設だという言葉を使い始めたのは、琉球朝日放送が最初なんです。こうして調査報道を積み重ねていっても、東京の局は後追い報道をしてくれない。「沖縄はだまされていて、この基地は必要ない」という話は受けない、米国によって日本が守られているということを固く信じている日本国民が多数派であり、辺野古や基地の話題では視聴率は上がらないということなんでしょうね。
 『標的の村』も全国ネットにはならなかったのですが、YouTubeなどに勝手にアップされて、3万を超えるアクセスがあったんです。全国からものすごい量のメールやFAXが寄せられたんですが、そのほとんどが「なんでこんな大事なことを全国に放送しないのだ」という怒りの訴えだったのです。ならば、放送した番組をDVDに焼いて全国自主上映でもしようかなと思ったんですけれども、テレビ番組を自主上映するのは、映っている人の肖像権の問題などで放送法上できないんですよ。
 そこで、このドキュメンタリーを全国に広げたいということであれば、放送法の呪縛から解き放たなくてはならないし、せっかく価値ある映像も全国ネットにのらないわけだから、放送以外の手段を考えようというところに行き着いたんです。

─沖縄で粘り強い新基地建設反対の運動がある一方で、全国的には若い人たちの労働組合離れ、平和運動への関心の低さなどが指摘されていますが、どのようにお考えですか。
 琉球朝日放送を開局するというので、その立ち上がりと同時に関西の局から移ってきたのですが、このとき報道部の半分以上が正社員じゃなかった。それで、私も初代書記長なんですけれど、非正規雇用者で組合を立ち上げ一緒になって闘ってきたんですよ。全員正社員にしました。それでも、落ち着いてきて1,2年もすると若い人たちから「賃上げならわかるけど、なんで普天間包囲に行かなくちゃいけないの。自分のことだけで精一杯なのに」みたいな意見も出てくるんですよね。でもそれは大多数の普通の若い人たちの考え方ですよね。それをどうするかというのは、私も一番苦労してきたことで、名案などないです。
 沖縄の平和運動も同様で、若い子たちは「いくら政府にたてついても」と冷めていますよ。でもね、東京など都会と違うところは、彼らはおじー、おばーがやっていることを見てるんですよ。冷めていて、自民党を支持していたとしても、守りたいものを守らなくちゃいけない場面に遭遇したときにどんな抵抗ができるのか、見ているからわかっているんですよ。若い子たちの視界の中に、がんばって抵抗した人たちがいるということが、財産になっている。
 おじー、おばーもね「勝ったか負けたか結果じゃない、闘ったか闘っていないかが子や孫に残せる唯一の財産だ」って言うんですよね。
 最初は、政府には勝てないからそう思うしかないということくらいに解釈していたんですが、違います。闘いの姿から、すばらしい財産を若い人たちはもらっているんですね。この財産は権力も絶対に奪うことはできない。
 急逝した翁長雄志県知事も、140万県民のなかには彼の手法に否定的な人もいただろうけれど、命をかけて闘った翁長さんは、もうすでに県民の財産なんですよ。

─憲法9条が改正されようとしており、また南西諸島でのミサイル基地建設や敵基地攻撃能力の検討など、自衛隊の軍事拡大が問題になっています。一方で、こうした自衛隊への批判がたいへん難しい状況にもあります。
 平和運動の側も9条に変にこだわりすぎている。9条を守ればすべてが守れるというある種の思考停止に陥っているのでは。「9条があるから73年間戦争をしてこなかった」とよく言われますが、本当にそうであるのか、沖縄にいたらよくわかります。アメリカの戦争を、税金で支え、土地を提供して支え、ベトナム戦争でも、イラク戦争のファルージャ虐殺でも、沖縄から飛び立った米軍が起こしたことです。この日本という国は米軍に加担する側にいて、なのに9条があるから戦争に関わってないといえるのでしょうか。
 自衛隊についても、違憲か合憲かという争いはあっても中身に関する論議がない。「軍隊はだめって、9条に書いてあるでしょ」と言い続けているだけで、今の自衛隊のミッションが10年前とどう違うか、答えられない。自衛隊がすでに存在しているにもかかわらず、「違憲」の一言で黙殺してしまったり、自衛隊への立場を変えないと政権が取れないとか、そんなことばかりエネルギーを使って、自国の軍隊が見えないことに慣れてしまっています。アメリカの世界戦略の中で自衛隊の位置づけも変化しているけれど、知らなければシビリアンコントロールも不可能です。
 「安保」というのも、私たちの世代ですら、安保闘争から引きずっている敗北感のイメージであったり、党派間の対立の問題であったり、膠着したイメージしかありません。「安保粉砕」と頭から言われれば、それだけでアレルギーを示されるのではないでしょうか。たとえば「国防の問題を考えましょう」とかね、まずは具体的な例をいくつも出しながら、イデオロギーの問題ではなく、みんなにかかわる問題だとわかってもらうことが、アレルギーや思考停止に逃げ込ませないポイントなのではないでしょうか。
 若い人たちに対して、あるいは自衛隊に対する考えなども、映画を通してというのが、とっつきやすいかもしれないと思ってがんばっています。山形の映画祭などでは難解なドキュメンタリーや芸術性の高いものもありますが、私は予告編を見てもらった10人のうち8人は本編を見たくなるようなわかりやすさや魅力、そして面白さが大事だと思っています。テレビ出身ですから、一人でも多くの大衆に見てもらえるように。その貪欲さは忘れないでいたいと思います。

インタビューを終えて
 このインタビューに先立ち、8月11日、急逝された翁長知事の遺志を引き継ぎ、辺野古新基地の断念を求めるオール沖縄会議主催の県民集会に参加した後、沖縄にある桜坂劇場で「沖縄スパイ戦史」を観ることができました。映画監督の三上さんとはこれまで全く面識もなく、映画を観た後一度お会いしたいと思っていた矢先のインタビューで、三上さんの経験を交えた沖縄問題や平和に関する熱い想いを伺うあっという間の2時間30分でした。ぜひ、各地の平和運動センターでも三上さんを交えての映画上映会を企画してください。
(勝島一博)

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すでに敵基地攻撃ができる!
専守防衛のもとに拡大した自衛隊の変質を許さない取り組みを

 「発射管を変えれば、巡航ミサイルも発射できます」この驚愕すべき発言があったのは、山口、秋田両県の代表団と共に平和フォーラムが、イージス・アショアの配備問題で防衛省と交渉をしていた時でした。この日(2018年3月7日)の前日には、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の金正恩朝鮮労働党委員長が、核・弾道ミサイル実験凍結と米朝対話への意思を表明し、緊張状態にあった朝鮮半島情勢の雪解けが垣間見えたころです。

イージス・アショアなど米国から高額なお買い物
 イージス・アショアについては、2017年3月に自民党の国防部会が、「北朝鮮からの弾道ミサイルに対処」するとしてTHAAD(終末高高度ミサイル防衛システム)などの導入を政府に提言し、5月には稲田朋美元防衛大臣が、地上型イージスシステムの導入検討を示していました。より具体的になったのは同年11月、訪日した米国のドナルド・トランプ大統領が「日本が膨大な兵器を追加で買うことだ」と売り込みをはかり、安倍晋三首相が「米国からさらに購入していく」とこれに応じてしまったところからです。12月29日に「イージス・アショアを二基購入する」と閣議決定までして、米国からの高価な兵器の購入を易々と受け入れてしまった経過があります。
 米国からの買い物は他にも、966件もの技術的問題点を米国監査院から指摘された「欠陥機」F35Aや墜落事故が多発しているオスプレイ、水陸機動団に導入される水陸両用強襲揚陸輸送艇(AAV7)などがあります。AAV7は尖閣諸島を念頭に離島奪還作戦で投入されるとしていますが、半世紀前に開発されたポンコツ兵器で、砂浜でなければ上陸できない代物。岩場の多い尖閣諸島でどうやって上陸「奪還」するのでしょうか?朝鮮や中国の脅威が煽られ、「安全保障環境の悪化のため」と言葉を繰り返すだけで、役立たずの兵器を米国から買わされている現実。結局は米国の兵器産業を支えるために、我々の血税が大判振る舞いされているのです。

自衛隊発足時から敵基地攻撃の議論が
 そして問題なのは敵基地攻撃にかかわる冒頭の防衛省の発言です。歴代の自民党政権は、自衛隊を自国防衛=専守防衛のための実力組織としてきました。しかし、そもそもこの「敵基地攻撃」についての議論は、1954年7月の自衛隊発足当時から起きていました。
 1955年6月16日、衆議院の内閣委員会で、「外国から攻められた場合、相手の基地を爆撃することは自衛とされるのか」との質問に対して、当時の鳩山一郎首相が「自衛のためということは、国土を守る以外のことはできない」と答弁し、「敵基地攻撃」をきっぱりと否定していました。しかしその後も議論は続き大臣の不穏当な発言もあり、結果として56年2月29日の衆議院内閣委員会で、当時の船田中防衛庁長官が鳩山首相の答弁を代読する形で、見解をまとめるに至ります。
 「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃がなされた場合、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」
 この見解が現在でも生きていますが、事情がだいぶ変わってきていることもまた事実です。
 56年当時はまだ、「武力攻撃のおそれのある場合」に敵基地をたたくような、先制攻撃の可能性については否定し、「現実に侵略が起こって、そしてこれを防ぐために、他に手段がない場合」と答弁していました。
 しかし、2014年7月の「集団的自衛権の行使容認」の閣議決定がなされ、今や他国への武力攻撃に対しても武力行使できるようになっています。武力行使の新3要件にそって、敵基地攻撃を行う敷居が下がってきています。アメリカと某国の戦争で、日本が某国の基地を直接たたくことも可能とされてもおかしくはありません。

「島嶼防衛」の名でミサイル基地建設も
 ヘリ空母ともいわれるヘリコプター搭載型護衛艦(これも甲板を改修して、オスプレイや垂直離発着型の戦闘機を搭載しようとしている)があり、F35ステルス戦闘機の配備も着々と進めています。航空自衛隊はすでに、空中給油機、早期警戒管制機(AWACS)を導入し、F15DJ戦闘機を改修して電子戦機が完成しています。航空機のこの布陣は、「国土防衛」のための制空権確保のためではなく、相手国の領域に踏み込むことが可能であることを示しています。島嶼防衛を名目として、高速滑空弾や巡航ミサイルの研究開発費が2019年度概算要求で上がり、政府内で敵基地攻撃能力の議論が進められている現実がありますが、それ以前に「専守防衛」を歴代自民党政権が旨としていたなかで、実質的な攻撃型装備を充実させてきたことは明らかです。
 島嶼防衛の目的で離島の奪還訓練が、米海兵隊と陸上自衛隊の水陸機動団の共同演習として種子島で行われ、南西諸島に自衛隊のミサイル基地が建設されつつあります。中国の海洋進出の抑止との位置づけですが、長距離ミサイルで中国本土をたたくことも可能であるわけです。
 「島嶼防衛」を「敵基地攻撃」に読み替えることはたやすくできる状況です。着々と進む自衛隊の変質を許さない取り組みを拡大していくことが求められます。
(近藤賢)

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2018年度版
防衛白書を読む 言葉足らずの「白書」で政府は本当に「国民の理解」を得るつもりなのか?

 2018年度版防衛白書が8月28日、閣議で報告されました。2017年7月から2018年6月末までの国際軍事情勢や防衛省・自衛隊の施策をまとめたものです。2018年4月27日の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の金正恩国務委員長と韓国の文在寅大統領との南北会談を経て、ドナルド・トランプ米国大統領と歴史的な直接対話が実現し、朝鮮戦争の終戦と非核化にむけた動きが始まっている今日、今年度版の防衛白書(以下「白書」)はどうなっているのか見てみましょう。

朝鮮半島の平和への動きに冷淡な白書
 「北朝鮮」の動向について白書では、「わが国の安全に対するこれまでにない重大かつ差し迫った脅威」と、それこそ「これまでにない」強い調子で記述されています。一触即発状態であった昨年とは大違いの緊張緩和ムードの朝鮮半島の現状について、諸外国の防衛政策で朝鮮の現状を詳細に説明しているところでは、この間の事実経過が示され「意義がある」と簡潔に評価しています。そしてまた、巻頭言で、「今年に入ってから対話の動きを見せてはいますが」と小野寺五典防衛大臣が、控えめに今日の情勢に言及してはいます。この認識が多少はありながら、どうして昨年度版の表現をより強めた朝鮮の脅威を強調するのか、理解に苦しみます。
 果たして「これまでにない」と加えられた白書の意図はなんであるのでしょうか。白書冒頭の図や写真を多用した巻頭特集でも、「北朝鮮」を意識したページを割き、弾道ミサイル防衛について説明しています。昨年度版が「輝き活躍する女性隊員」、「平和を仕事にする」など、人に重点を置いた特集企画だったものと比べて様変わりです。
 せっかく平和と非核化に向けた動きがすすみつつある朝鮮半島の情勢に冷淡であるのは、イージス・アショアなる高価な買い物を米国からしてしまい、その必要性を演出するためにとしか思えません。
 朝鮮半島にかかわる外交で日本は蚊帳の外におかれ、米国からはいいようにあしらわれていますが、きわめて象徴的な写真が巻頭言に飾られています。マティス米国防長官と小野寺防衛大臣が右手で握手をし、マティスさんの左手には「天下泰平」と記された軍配が握られ、小野寺さんが軍配の組みひもを左手で握っているものです。今の日米関係を明瞭に示すものであり、日本政府のメッセージが伝わってきます。

事実を隠ぺいする体質はあい変わらず
 南スーダンPKOの状況が実際は戦闘状況だったのにそれを隠すために日報を破棄した、いわゆる日報問題は、シビリアンコントロールにかかわる重大事件です。小野寺防衛大臣は今年5月の外交防衛委員会で野党の追及を受け、「シビリアンコントロールに反する問題はなかった」と述べながらも、「シビリアンコントロールにも関わりかねない重大問題」とも発言していました。しかし、白書では何も書かれていないのです。南スーダンの「戦闘状況」に関する記述はもちろん、陸上自衛隊が隠蔽した事実経過すらありません。シビリアンコントロールについての白書の解説では、日本では「厳格な文民統制の制度を採用」している、「実をあげるために、国民が防衛に対する深い関心」を持て、とお説教まで垂れているにもかかわらずに、自らは全くコントロールできていないのです。
 この隠ぺい体質は、当然に安倍政権の姿勢に由来しているのでしょう。平和安全法制(戦争法)の審議の際、あれほど「丁寧に説明」するとしていながら、米艦防護など防護任務を公表することはありませんでした。しかし朝鮮半島の情勢が緊迫すると一転して、米空軍のB1戦略爆撃機と米空母を防護していたことを、2018年1月22日の施政方針演説で表明しました。白書では、「平成29年の警護の実績」という項目に、わずか100字程度で書き流してあるだけです。
 ほかでもない「国土防衛」のための装備ではなく、敵国を攻撃するための艦艇や航空機を防護することが、何を意味するのでしょうか。「専守防衛」からの逸脱にもかかわらず、「丁寧な説明」がないことはありえないことです。蛇足ですが、新聞報道によれば、B1戦略爆撃機との共同訓練は、2017年3月から12月にかけて15回実施されているようです。白書では1回防護を行ったとしていますが、共同訓練との関係は明らかではありません。
 またオスプレイに関する記述も、普天間基地所属のオスプレイが豪州沖で墜落した事故の言及がなく、機体の安全性と有用性を強調する書きぶりに終始するなど、どうしても都合の悪いことは隠したがるようです。
 「防衛省・自衛隊への信頼を確固たるもの」にしたいのであれば、まずは情報・事実を隠ぺいすることなく、情勢も冷静に見極めた白書にすべきでしょう。
(近藤賢)



航空自衛隊のパンフレットに掲載された日米共同訓練

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国交がないことで、在朝被爆者が援護の枠外におかれてもよいのか
朝鮮被爆者協会の報告から
在朝被爆者支援連絡会議 会長 福山真劫

 去る2018年7月、原水爆禁止日本国民会議と在朝被爆者支援全国連絡会の代表が、朝鮮民主主義人民共和国を訪問し、朝鮮被爆者協会と意見交流を行ってきました。その際、朝鮮被爆者協会から報告された「在朝被爆者の現状」について、Ⅰ「在朝被爆者の現状」として、報告します。また9月にも訪朝し、取り組みの方向について意見交換も行ってきました。2回にわたる訪朝を踏まえて、見えてきた課題と取り組みの方向について、Ⅱ「今後の取り組みについて」で報告します。(以下のⅠは、朝鮮被爆者協会の報告を原水爆禁止日本国民会議、在朝被爆者支援連絡会議が翻訳、編集したものです)


※地方別の確認状況 単位:人

Ⅰ、在朝被爆者の現状(朝鮮被爆者協会からの報告)
1.朝鮮被爆者協会が最近行った実態調査の状況について
 最近行った調査活動の目的は、朝鮮民主主義人民共和国(以下共和国と表記)在住の被爆者の生死と共に、その家族に表れている遺伝的影響の有無を再確認しようということでした。
 現在までの調査状況を一言で言えば、共和国の被爆者の実態が大変深刻だということです。
 被爆者の中では、原爆被害の後遺症と高齢による死亡率が著しく増加し生存者がかなり減少しています。また被爆者のみならずその子孫においても遺伝的影響があるため、被爆者の精神的肉体的苦痛は大変ひどくなっています。
 今回、今年(2018年)1月から、2008年調査時に生存が確認された382人を対象に調査を行いました。調査の方法は、生存者名簿に基づき、地域人民委員会に文書で依頼し、同委員会を通じて行いました。
 中間報告ですが、5月までに調査が完了したのは、111人であり、そのうち生存者は60人で、死亡者は51人であることが確認されました。
 地方別で生存者の割合にある程度差異がありますが、平均でみると調査対象の54.05%が生存しており、45.95%が死亡したということが分かります。
 これまで何度かにわたり強調したように、被爆者の中で日本の厚生労働省が発給する「原爆被爆者健康手帳」(以下「健康手帳」と表記)を申請する際、その手続きに必要な証人や入市、または居住記録を提示できる人たちは、実際にほとんどいない状況です。
 それは解放前、日本の広島と長崎に連行された大部分の朝鮮人が、あらゆる民族的差別と虐待を受けながら強制労働を強要され、居住登録はおろか、ろくな仕事にもつけず行商や日雇い労働などで転々としながら、食べていくのもやっとで命をつないでいる状態のもと原爆の被害にあった事情と関連します。
 敗戦を目前にした日本の混乱状況と差別政策によって、彼らが原爆被害を受けたという事実を立証できる居住、または入市記録を提示したり、肉親以外の証人を探したりすることは決して容易なことではありません。
 被爆者にとって、自分たちの被爆事実を証明できる最も有力な証拠は、自分自身と後代の体に内在している原爆による放射能被害であり、それにより持続的に表れる各種の疾病です。
 今回の調査の過程で、私たち被爆者とその子どもたちが口々に語った日本に対する激高した怒りの感情がどれほどだったかについては、あえてここで触れなくてもご理解されると思います。
 今後、他のすべての被爆者に対する調査も進める計画ですが、彼らの生存率はより低くなることはあっても、高くなることはないと思います。
 したがって私たちは、日本当局が現時点において、被爆者に認定を受けられないような複雑な「健康手帳」の発給申請のみを要請するのではなく、私たち全ての被爆生存者とその子どもたちに実質的な人道主義的医療措置を早急に講じることが必要だと思います。


平壌市内施設を訪問する訪朝団
(2018年9月12日)

2.最近、私たち被爆者の問題と関連した日本当局の態度と立場について
 ご存じのように日本の厚生労働省と広島県当局は、2016年6月から今年の1月まで3回にわたり、長崎で原爆被害を受けて既に「健康手帳」を発給された朝鮮被爆者協会の副会長パク・ムンスクに、「より簡便で易しい」方法で医療費を支払うという通知と共にその申請書類を送ってきました。
 しかし、この医療費支払い措置は、被爆者が置かれている立場と要求を完全に無視しているばかりでなく、むしろ被爆者の激憤を増大させる日本当局の差別的で不公平な態度の発現だと言わざるを得ませせん。
 以前から口先だけでは「共和国の被爆者から’健康手帳’の発給申請があれば正確に受け付け、審査で他の問題がない限り認定し’健康手帳’を発給できる」(広島市役所)と言いつつ、「但し、郵便による申請書は受け付けられない」として、被爆者が実質的に「健康手帳」の発給申請が行えないようにしてきました。
 さらに「’制裁’があるので、医療支援は行えない」(厚生労働省)という一言で片づけています。
 もしも被爆者が「健康手帳」発給申請をするために日本に訪問しようとしても、朝日間の人的交流遮断を重要項目の一つにした日本当局の「制裁」措置により、物理的に不可能であり、たとえ行けたとしても殆どの被害者が病弱で高齢であるため、長距離の旅程は難しいのが実情です。
 そのうえ、日本当局は郵便による申請は受け付けないという制度的障壁までも設けています。
 在朝被爆者調査代表団をはじめ、日本当局の関係者、医療関係者、民間の調査団がわが国を訪問した報告書と朝鮮被爆者協会が発表した朝鮮人被爆者に対する総合的な実態調査報告書、パク・ムンスク副会長の何度にもわたる手紙などにより、被爆者の実態については、ある程度把握している日本当局が、今なお自分たちは全く動きもせずに、「『健康手帳』の発給申請されたものはない」とか、「個別申請による医療費支援以外の人道的医療支援は出来ない」などとかいうのは、本当に見え透いた嘘で人を欺くようなものです。
 これは明白に、共和国の被爆者に対する非人間的な差別行為であり、被爆者の胸にもう一つの刃を立てる二重三重の犯罪行為です。また「より簡便で易しい方法」という新たな医療費支払い措置は、現在わが国でパク・ムンスク被爆者が該当するのみで、他のすべての被爆者には全く適用されないものであり、むしろ被爆者の中により強い怒りを呼び起こしています。
 わが国の被爆者に対する日本当局の謝罪と賠償問題は、日本の過去清算問題の一環として朝日政府間で必ず解決されるべき問題ではありますが、今日、生存被爆者とその子孫に対する医療支援は一刻を争う焦眉の問題です。
 私たちは、日本当局が現在制定施行している「援護法」を在朝被爆者にも十分適用できるよう改正するとともに、日本の行政当局と医療関係者が被爆者を訪ねて来て、誠意をもって謝罪し、該当する医療支援措置をとることを強く要求するものであります。(報告:朝鮮被爆者協会、訳:原水爆禁止日本国民会議、在朝被爆者支援連絡会議)

Ⅱ、今後の取り組みについて
 戦前、日本の「朝鮮植民地支配」の結果、多くの方々が渡日を余儀なくされたばかりでなく、強制連行による渡日もあり、結果として、1945年、広島、長崎で約7万人の方々が被爆し、うち約2000人の方々が共和国に帰国されたと推計されています。また1959年から始まった帰国事業で帰国した被爆者もおられます。
 被爆者や被爆者団体の取り組みの結果、日本政府はすべての被爆者に対して、制度として不十分な点があったとしても、被爆者援護法(略称)により、援護が実施されてきました。またこれまで「402号通達」により、在外被爆者に対する援護の実施が阻まれていましたが、近年改善され、大韓民国、中華人民共和国などの在外被爆者に対しては援護が実施されてきました。
 しかし、「朝鮮民主主義人民共和国の在住被爆者」(以降在朝被爆者と表記)には、国交正常化が実現していないなどを主要な理由にして、何らの援護法適用による援護も補償も実現していないのが実態です。前述の報告にあるように在朝被爆者の皆さんも被爆後73年を経過する中で、多くの方々が亡くなり、また現在生存されている方も高齢化とともに健康や生活において深刻な問題に直面し、苦闘しています。また2世、3世の課題も見えてきています。そうした状況を考慮し、被爆者援護法の理念を考えれば、共和国の被爆者に対して、日本政府・厚生労働省が責任をもって援護措置を実現する義務があります。そしてそれは喫緊の課題です。
 2001年厚生労働省は、外務省とともに、共和国を訪問し、被爆者の実態調査を実施しました。しかし実態調査を行ったにもかかわらず、情勢の変化があったとは言え、何ら具体的措置は実施されていません。
 私たちはこの間、1995年発足した「反核平和のための朝鮮被爆者協会」(現在は朝鮮被爆者協会と名称変更)と交流してきました。「朝鮮被爆者協会」は3度にわたる実態調査を実施し、その実態を明らかにしています。在朝鮮被爆者の現状を認識すれば被爆者援護法に基づく援護措置、支援は日本政府・厚生労働省として直ちに実現されなければならないと考えます。
 私たちとして、日本政府に対して、次の項目を強く要請します。

  1. 在朝被爆者について、基本的な方策を明らかにすること。
  2. 現状を早急に把握し、被爆者援護法に保障されている権利を実現するための方策を確立すること。
  3. 在朝被爆者が被爆者健康手帳を取得することが困難な状況にあることを認識し、放射線等による被害と高齢化のため、健康状態が深刻化している現状に鑑み、人道上の立場から、緊急の対策を講じること。被爆2世、3世への対策も講じること。
  4. 以上のような対策を実現するため、共和国と公式、非公式の協議を直ちに開始すること。


 今後私たち「在朝被爆者支援連絡会」は「在外被爆者に援護法を適用させる議員懇談会(会長斎藤鉄夫、副会長辻元清美、事務局長谷合正明)」、「日朝国交正常化推進議員連(会長江藤征四郎)」の皆さんとも連携しながら、課題実現のため、全力で取り組みます。
(ふくやましんごう)

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日米二国間で事実上のFTA交渉へ
トランプ大統領 TPPを超える自由化を要求

自動車関税圧力に屈する安倍政権
 安倍晋三首相は9月27日、ニューヨークでのトランプ米大統領との首脳会談において、日米の全ての物品を対象にした日米物品貿易協定(TAG)の交渉開始で合意しました。共同声明では、日本産の自動車の追加関税は交渉が続く期間は留保するものの、牛肉など米国産農産物の関税引き下げに関する要求が押し付けられようとしています。またTAGの議論完了後には、他の貿易、投資についても交渉することとなっており、事実上の日米自由貿易協定(FTA)の交渉入りと言えます。
 これは、安倍首相がこれまで言明していた「日米FTA交渉はしない」との発言にも反し、日本農業や食の安全を脅かすばかりでなく、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の際にアメリカが日本に求めてきた、公的医療保険制度や貿易・投資、規制改革などでも、より有利な貿易協定を求めてくることが想定されます。
 米国は対日貿易赤字削減を重視し、日米間の貿易協議では赤字の8割を占める自動車分野が焦点になっています。米国は自動車や同部品に対する追加関税を発動する構えを見せてきました。これを回避するために、農産物の関税協議を差し出したということです。
 東京大学の谷口信和名誉教授は「狙いはTAG(日本語)という名のFTA(英語)でTPP以上を実現すること」と批判し、「トランプ大統領のこうした作戦を安倍首相はごはん論法で擁護し、お友達に中間選挙勝利のための差し入れ=FTA締結の手付金を約束したのが、今回の合意の本質である」としています。
 安倍首相は首脳会談後の記者会見で「合意したのは物品関税だけのTAGであって、包括的なFTAではない」と強調しました。しかし、谷口名誉教授の分析では、日米共同声明について、外務省訳と在日米国大使館・領事館の仮翻訳に違いがあり、「TAG」という言葉がアメリカ側に見受けられないことからも「安倍首相は、物品及びサービスを含む他の重要分野に関する貿易協定=FTAに関して交渉を始めると合意したにもかかわらず、包括的なFTAではなくTAGの交渉に合意したと強弁しているわけである。あいも変わらぬ『ごはん論法』が健在である」と批判しています。


TAGでTPP以上の打撃
(2016年10月・芝公園での集会)

日本農業を崖から突き落とす最悪の協定
 また、安倍首相は「日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であるという日本政府の立場をアメリカ政府が尊重するとした」ことを、今後の合意の上限がTPP水準であることの根拠にしています。しかし、TPPはアメリカにとって不利益だといって離脱したのは他ならぬトランプ大統領です。その大統領が要求してきた交渉ですから、TPPレベルの関税引き下げ・撤廃は出発点に過ぎず、より有利な貿易協定を締結して初めて成果となります。さらに、日本とヨーロッパ連合との間で署名された経済連携協定(日欧EPA)では、豚肉や乳製品でTPPを超える水準の自由化を受け入れており、「TPP11→日欧EPA→日米FTAという自由化ドミノを承認し、日本農業を崖から突き落とすことになる」(谷口名誉教授)。
 日米交渉の問題は農産物や自動車だけに留まりません。九州大学の磯田宏教授は「今後の交渉で当然標的に含まれそうなのが、既にTPP交渉の際に日米で交換文書化した12通の対米約束類である」として、そこに示された、(1)公的医療保険協議制度で将来の保健医療制度のあり方を含む協議の実施、(2)貿易・投資に影響を与える審議会等に米国企業の傍聴・出席・意見書提出を保証、(3)対日投資規制にかかわる米国投資家の意見を規制改革推進会議に付託してその提言に従った措置をとる、(4)収穫後の防かび剤使用について農薬とは別の食品添加物としての審査承認を見直す、(5)国際汎用添加物の1年以内の全面指定解禁、などをあげています。
 これらは市民の健康や命を脅かすものであり、「ハゲタカファンド」と言われる多国籍企業や投資家の活動をより自由にするものでしかありません。
 また、自動車は当面問題がないかと言うと、そうではありません。北海道大学農学研究院の東山寛准教授は「ふたつの『隠し玉』がある。数量制限と為替条項である。先例はメキシコである。メキシコは北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉で、アメリカへの自動車輸出台数を年間240万台とする数量制限をのんだ。また、為替条項は相手国の通貨政策に踏み込む強制力をもっており、農業分野でTPP以上の譲歩を迫る十分な『脅し』になるだろう」と指摘しています。
 交渉は来年早々から始まる見込みです。平和フォーラムも事務局となっている「TPPプラスを許さない!全国共同行動」では、臨時国会等で政府を追及する取り組みを進めます。「TAG交渉を縛る何らかの『歯止め』が必要だ。そうでなければ史上最悪の協定になる」(東山准教授)との懸念が広がっています。
(市村忠文)

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未臨界実験、トランプ政権の意志の表れ?

 時事通信が、10月9日、「米国が昨年12月、西部ネバダ州で核爆発を伴わない臨界前核実験を行っていたことが9日、米エネルギー省国家核安全保障局(NNSA)の報告書で明らかになった」と報じ、各社が同様の内容で続きました。核の役割を拡大する政策を出したトランプ政権の姿勢と実験を結びつける報道がほとんどでしたが、実際はオバマ政権時代から計画されていたものでした。実験の情報源はNNSAが年4回発行している『ストックパイル・ステュワードシップ(核兵器維持管理)クオータリー』というニュースレターの2018年3月号。この号は10ページ仕立てで、関係者の集合写真も含めて2ページ弱の記事が実験について説明しています。背景を概観したうえで、今回の実験について見てみましょう。(下の図は同誌6ページより引用)

包括的核実験禁止条約との関係
 ネバダ核実験場の地下で行われたこの実験は、プルトニウムを使ったサブクリティカル・エクスペリメント(SCE)と呼ばれるものです。核分裂の連鎖反応が続く臨界(クリティカル)状態にはならないようにして行う実験で、ここでは未臨界実験と訳しておきます。1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)締結を推進したクリントン政権は、条約署名の前年に、条約発効後も未臨界実験は行うことを発表しています。プルトニウムの老朽化問題を含め、核兵器についての科学的な理解を深め、核兵器の安全性・信頼性を将来に渡って維持するために各種研究施設や未臨界実験が必要だとの立場です。安全性・信頼性が維持できない場合には条約脱退の権利を行使するとし、核実験再開準備態勢維持の方針を明確にしました。
 これには、大きな政治的力を持つ核兵器開発研究所(ロスアラモス、ローレンスリバモア、サンディアの国立研究所)との取り引きの意味がありました。膨大な資金を各種新施設の建設に注ぎ込み、雇用も確保するからCTBTに反対しないようにというものです。三つの研究所は研究に基づき毎年、核実験の再開が必要でないと大統領に告げる仕組みになっていて、条約の生殺与奪の権を研究所が握っている格好です。
 現在の水爆の引き金となる原爆部分では、中空のプルトニウムの塊(ピット=芯)がこれを取り囲む化学爆薬の爆発によって圧縮(爆縮)されて臨界状態に達したところに中性子が投入され、核分裂爆発が起きます。未臨界実験は、この「爆縮」の際に高温・高圧下でプルトニウムがどのように振る舞うかを調べるものです。中性子の投入もなく、また、「自発的核分裂」で自然に発生する中性子による核分裂の連鎖反応「臨界」も起きないように、使用するプルトニウムの量を制限します。

新しい爆薬の影響に関する実験ベガ
 昨年12月13日に実施された28番目の未臨界実験は、ピットの縮尺版を使って実際の爆縮の際と似た状況を再現し、その様子を各種装置で観察・分析するものでした。左の図の右側のボックスにあるライラ(琴座)シリーズのVega(ベガ)です(一番下の四角)。これは、実は前回の未臨界実験(27番目:2012年12月実施)と対をなすものです。左下側ボックスにあるジェミニ(双子座)シリーズの最後の実験Pollux(ポルックス)です(ベガの左側)。こちらは従来型(コンベンショナル)の高性能爆薬(CHE)と特殊核物質(SNM)、つまりはプルトニウムを使った実験でした(プルトニウムの代わりの物質(Surrogate)を使った他の実験の後に未臨界実験という順序)。ベガでは同じ高性能爆薬(HE)でも、事故の衝撃などで爆発に至りにくい低感度(インセンシティブ)のもの(IHE)が使われました。二つの実験は全く同じ寸法の部品を使い、違うのはHEの種類だけにして、観測に変化があればそれはHEの差から来ることを確実に保証しようとするものでした。この流れからするとだいぶ前に実験が構想されたことが分かります。遅くとも冒頭で触れたニュースレターの2015年3月号がベガに言及しています。

未臨界実験の問題点と水爆部分の実験装置
 最後に未臨界実験の問題点をいくつか。核実験とは異なるが、地下で行われるため見分けがつきにくく、条約上の検証問題を発生させる。2015年3月号がベガは「ネバダ核実験場でのこれらの実験は、核実験の穏当なレベルの準備態勢の維持に貢献するものだ」述べている通り、未臨界実験は地下核実験場維持の機能を果たす。これらの実験で分かったつもりになって微修正を核弾頭に加えていくと、いつか過去の実証版と離れすぎて核実験で確認したくなるという危険が存在する。老朽化については科学諮問グループ「ジェイソン」がプルトニウム・ピットは100年は持つと報告しており、古くなった他の部品は元の設計通りに取り替えるといいとの指摘がある。なお、2018年3月号は水爆部分の実験装置についても触れています。その一つ、サンフランシスコの近くにある巨大なレーザー核融合装置(NIF)にメガネのHOYAの現地法人が主要部品を提供しています。
(「核情報」主宰田窪雅文)

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《投稿コーナー》
高校生平和大使が欧州国連本部で訴える

 全国15都道府県20名が第21代高校生平和大使として選出され、8月25日~9月1日までスイス・ジュネーブの国連欧州本部などを訪問し、核兵器廃絶に向けた活動を行いました。その中から、東京、神奈川で選出された2名の報告です。

核保有国を非核国に変える努力を
全国枠(東京)選出 石田ひなた

 スイスに到着した翌日、UNIグローバルユニオン、ICAN、YWCAを訪問し、最後に日本政府代表部を訪問しました。その後、日本政府代表部主催でレセプションが行われました。非核化を強く主張しているブラジルや核兵器保有国であるロシア、インドの大使の方々にお話しを伺いました。それぞれに「平和とはどういうものだと思うか」という共通の質問をすると、「人間としての心の状態が良いこと」、「みんなが幸せで、心地よい環境」という回答が返ってきました。また、インドの大使に核兵器を所持する理由を質問したところ、「抑止力であり、所持している国があるのに自国のみが持たないのは理不尽ではないか」という意見が返ってきました。同時に、「すべての国が核兵器を所持しなくなったら、インドも持たないだろう」とも話されました。そこで、私は核兵器廃絶に向け、時間をかけてでも、まずは一国から核保有国を非核保有国へと変えていくことが必要だと感じました。私たちとは異なる意見を持った国の方々と直接交流を行うことで、核兵器廃絶の難しさを実感すると同時に、新たに廃絶に向けて何をすることが必要かを理解することが出来ました。
 翌日の国連軍縮会議の傍聴では高校生平和大使のことを紹介して頂きました。署名を提出する際に、欧州本部のアニャ・カスパーセン軍縮部長に自らが考える平和への思いや問題をスピーチした後、私たちの多くの質問に回答して頂きました。その中でも世界には「生きる」という選択肢さえも持つことができない子どもが多くいるということを聞き、そういった現状を変える為にも平和を願う声をあげ続けていきたいと改めて思いました。カザフスタン政府が主催する映画鑑賞会では、一方的に行われた核兵器の実験により被害を受けた方々の声を通し、その脅威と非人道性を目の当たりにしました。
 私は今回のスイス派遣を通して、未来を創造していく若者への期待というものを強く感じました。同時に若者が行動する重要性を知ることが出来ました。そのため、私は今後、高校生平和大使としての活動を活かし、同世代の一人ひとりが、自ら平和な未来を創造していく一員であることを自覚できるような活動を行っていきたいと思います。そして、スローガンである「ビリョクだけど、ムリョクじゃない!」という言葉を胸にこれからも平和な世界の実現をめざし、声をあげ続けていこうと思います。

日本より関心が高いスイスの高校生
神奈川県選出 佐藤ハンナ

 今回、スイス訪問を通して神奈川の関心の薄さを突きつけられたような気がしました。首都ベルンでの署名活動、トローゲン州立高校を訪問した時、高校生たちと核兵器について意見交換をすることが出来ました。ベルンの署名活動では、約40分間で93筆という、神奈川で署名する時よりも多くの署名を集めることが出来ました。また署名できない方は、なぜ署名をすることが出来ないのか説明してくださいました。また、高校生グループに署名をお願いすると快く署名してくださり、他の方も署名をしてくださった後に「応援している」という言葉をかけてくれたり、カンパをしてくださったり、日本との違いを実感する機会となりました。
 トローゲン州立高校では核兵器についてどう思っているか、日本に投下された原子爆弾をなぜ知ったのかなど質問をしました。すると、核兵器はなくした方がいい、社会科の先生が原爆の授業で写真を用いて教えてくれた。悲惨だった。と言っていました。私たちは、原爆について学ぶのは歴史の授業か、修学旅行の事前研修のみだと思います。被爆地である広島、長崎から遠く離れたスイスでこれほどまで、核兵器について勉強し考えているとは、思いませんでした。
 私は、これらのことから、身の回りでもっと核兵器や平和について考える場が必要であると感じました。日本に帰って来た今、多くの人に核兵器や平和について考える場を設けてもらえるように働きかけています。これからは今よりも多くの人に核兵器の悲惨さと、考える場を設けてもらえるように訴えていきたいと思います。


左:佐藤さん、右:石田さん
署名提出の際のスピーチ

 原水爆禁止日本国民会議では、「高校生平和大使を支援する全国連絡会」を立ち上げ、高校生平和大使の活動をサポートしています。高校生の運動の展開を支えるためにも、皆さまのお力をお貸しください。よろしくお願いします。

賛同カンパ

・金額
個人…1口/1,000円
団体…1口/10,000円

・郵便振替
口座番号 00100-2-486011
加入者名 高校生平和大使を支援する全国連絡会

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加盟団体の活動から(第10回)
医療・介護・福祉は、全ての人びとのために!
ヘルスケア労協 会長 上間 正彦


原発のない福島を!県民大集会に参加
(2017年3月18日・郡山市)

 保健医療福祉労働組合協議会(ヘルスケア労協)は、日本赤十字労働組合・全済生会労働組合・北海道社会事業協会病院労働組合の三労組が総評解散・連合結成にともない共通の課題に対する運動構築をめざす「連絡調整を図るための協議機関」として結成された「全国医療」に、当初より積極的に参加していました。その活動の中で、運動課題での交流、情報交換、共同学習会を重ねた活動を経て、医療・介護・福祉労働者の運動に対する自らの責任をより明確かつ有効に展開していくために、2002年11月に結成されました。
 2002年は、いわゆる「聖域なき構造改革」の中、民営化が進み、また医療制度改革と称して、社会保障費の削減がなされ「医療崩壊」が進んだ年であり、発足時より厳しい試練の連続でありました。
 現在、結成時の三労組に加え、福島きらり健康生協労組と新潟・茨城・神奈川・岡山に地方組織があります。今後は地方組織を増やしていかなければならないと考えています。
 協議会であるため統一した要求を出すには至りませんが、連合内の唯一の医療産別として、連合加盟の各労組に対し、現在の医療・介護制度の問題提起と、公的責任を明確にした社会保障制度の充実を訴えています。これ以上の格差の拡がりを見過ごすことはできません。
 わたしたちは、いつでも、どこでも、だれでも、安心かつ安全な医療・介護を享受できる制度の充実を目指しています。また、その仕事を担う労働者が安心・安全に働くことができる労働条件と、労働環境の整備が必要であると考えます。「働く者が守られていなくて、患者・利用者は守ることは出来ない。」との考えで、長時間労働の是正や夜間勤務の軽減は喫緊の課題と考えています。
 わたしたちが、働き生活していくうえで、平和はかけがえのないものです。特に医療は、災害・事故などそれを必要とする人がいればすべての人の命を救う使命があります。しかし、武力紛争で医療を必要とする人が発生することを決して認めることは出来ません。
 わたしたち、医療・介護・福祉労働者は国の戦争政策に加担することなく、すべての人びとが「健康に生きる権利」の行使が出来る社会の実現に向け運動をしていきます。
(うえままさひこ)

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〔ビデオの紹介〕
『甘いバナナの苦い現実』
アジア太平洋資料センター(PARC)制作/本編78分/2018年

 「小さい頃、病気の時にバナナをもらったのに、弟に食べられて悔し泣きをしたわ」─連れ合いの笑い話に、自分もそうだったと思い出します。かつてはぜいたくな果物と言われていたバナナが、その後、値段が余り変わらず、相対的に安くなり、いまでは日本で最も食べられている果物になりました。しかし、その生産現場を私たちが目にすることはほとんどありません。
 「安くて甘いバナナも、ひと皮むけば、そこには多国籍企業の暗躍,農園労働者の貧苦、さらに明治以来の日本と東南アジアの歪んだ関係が鮮やかに浮かび上がる」と記された1982年に出版された『バナナと日本人』(鶴見良行著・岩波新書)を読んだ時の衝撃は、今でも忘れられません。それから約40年。いまその生産現場や流通はどうなっているのか。それを追いかけて作られたのがこのビデオです。
 日本のバナナの主要な輸入先であるフィリピンのミンダナオ島の生産現場では、農薬の空中散布にさらされて暮らす生産者や近隣住民の姿があります。大規模な単一栽培(モノカルチャー)は、病気に極端に脆弱なため、強力な殺虫剤・除草剤・殺菌剤を使わなければならないのです。人びとは皮膚や目の異常を訴え、飲み水の汚染にも苦しんでいます。
 企業と契約を結んだ人びとからは、不透明で不公正な契約に対する怒りの声も聞こえてきました。市場価格の変動を反映しない買い取り価格の固定、といった慣行が横行するなど対等と言いがたい状態です。
 そうした中で、株式会社オルター・トレード・ジャパン(ATJ)という、1989年に日本の生協、市民団体、産直団体などの出資によって作られた団体が、無農薬のバナナを輸入して生協等を通じて流通する「民衆交易」の取り組みを行っています。
 また、今年から「エシカルバナナ・キャンペーン」という、PARCやATJなどが呼びかけて開始されたキャンペーンもあります。持続可能な農法で作られ、生産から流通・小売りまでのすべての労働者の人権が守られる、そのようなエシカル(倫理的)なバナナの流通をめざしています。
 多国籍企業による世界の農業・フードチェーンの支配に対して、何ができるか。バナナを通して世界と日本を見つめ直す機会になるでしょう。
(市村忠文)

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核のキーワード図鑑


アベちゃんは改憲で子どもの未来を戦争に

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憲法理念の実現をめざす第55回大会
日時:11月17日(土)~19日(月)
場所:佐賀県佐賀市11月17日(土)
・開会総会13:30~14:30「佐賀市文化会館」
・メイン企画14:30~17:00「同会館」

11月18日(日)
・分科会9:30~12:30
「佐賀市文化会館」「アバンセ」
「佐賀県教育会館」「自治労会館」
・フィールドワーク9:00~17:00
・ひろば14:00~16:00「アバンセ」「佐賀県教育会館」
・特別分科会/運動交流15:30~17:30「佐賀県教育会館」

11月19日(月)
・閉会総会9:30~11:00「佐賀市文化会館」

第50回食とみどり、水を守る全国集会
日時:11月30日(金)~12月1日(土)
場所:群馬県高崎市

11月30日(金)
・全体集会14:00~14:50「エテルナ高崎」
・全体シンポジウム14:55~17:15「同会場」

12月1日(土)
・分科会9:00~12:00「メトロポリタン高崎」「ワシントンプラザホテル」「ホテルグランビュー高崎」
・フィールドワーク8:10~12:50

※問い合わせはどちらも平和フォーラムまで。

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