2018年、ニュースペーパー
2018年08月01日
ニュースペーパー2018年8月
軍国少女だった教員が見る、今の日本の教育元小・中学校教員北村小夜さんに聞く- 歴史的な米朝首脳会談朝鮮半島の平和体制構築
- 基地の脅威にさらされる沖縄の子どもたち
- 水道法「改正」をめぐる動きと今後の課題
- 岐路に立つむつ市のリサイクル貯蔵施設
- 日米原子力協定延長とプルトニウム削減計画
- 復興庁パンフ「放射線のホント」のウソ
- 加盟団体の活動から:全印刷
- 映画の紹介
- 核のキーワード図鑑
- 短信
原発ゼロの日本をつくりだそう!
6月14日、東京電力ホールディングスは、福島第2原発1~4号機を廃炉にする方針を表明しました。すでに全6基の廃炉が決まった第1原発に続き、第2原発全てが廃炉となれば、福島県内の全原発廃炉が実現します。
6月28日、「原発ゼロ基本法の制定をめざす市民のつどい」が、中野ZEROホールで開催され約750名が参加しました。「原発ゼロ基本法案」は、3月に野党4党により共同提出されました。すべての原子力発電所を速やかに停止、廃止することを基本理念とし、(1)5年後の廃炉、(2)再生エネルギーを2030年までに40%に、(3)廃炉作業に国が必要な支援を行うこと、などが明記されています。集会には、法案を提出した政党を代表して、立憲民主党の山崎誠衆議院議員と日本共産党の藤野泰史衆議院議員が出席し、(1)福島原発事故がいかに大事故であり、今後どこかで事故が起きたら日本が消滅しかねないこと、(2)太陽光や風力など再生可能エネルギーが世界的に拡大していること、(3)市民と野党の共闘で原発ゼロの日本をつくりだすことを参加者全員で確認しました。いっしょに、原発ゼロの日本をつくりましょう!!(写真は「さようなら原発全国集会」東京・代々木公園で2017年9月18日)
インタビュー・シリーズ:135
軍国少女だった教員が見る、今の日本の教育
元小・中学校教員 北村小夜さんに聞く
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きたむら さよさん プロフィール
1925年福岡県生まれ。50年から86年まで東京都内の小・中学校で教員。65年から退職までは中学校の特殊学級(現特別支援学級)担任。戦時中の体験から平和や教育の重要性を訴えて地域・職場で長年活動。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」世話人も務める。
─軍国少女であった少女時代のことをお聞かせください。
この「軍国少女」という言い方ですが、私が知る限りでは当時、「軍国少女」じゃない少女はいませんでした。誰もがみんな軍国少女でした。そうでないと戦争は成り立ちません。そのことはみなさんにちゃんと認識してもらわなくてはいけないと思います。
歌は兵器として重要な役割を担っていました。宣伝力としては非常に有効です。その意味で、いま私は共通教材を問題にしています。共通教材とは、教科書会社に関わらず、共通で載せることが文科省によって決められている歌のことです。1学年に4曲、小学校6年間で24曲になります。教科書は地域によって変わりますが、共通教材はどの教科書にも載っているので、日本中すべての学校、すべての子どもが教わることになります。1958年の告示以来、ほとんど同じ曲が使われています。
大半がいわゆる文部省唱歌で、一見すると悪くはありません。「われは海の子」は、いまは音楽の専門家の間でも、これが戦争のために作られた歌だということは知られていますが、77年から教科書に載らなくなって、89年に復活します。この89年というのは教科書、特に社会科の近現代史観が大きく変わった年です。天皇を中心にして国民が一体となって日清・日露戦争を戦って、今日の繁栄の基礎を築いたというのが社会科の方針になります。そのときにこの歌が復活しました。私たちは載せるなら7番まで載せろという運動に取り組みました。そうしたらこの歌の正体がわかるじゃないかと。3番までだと、日本は海に囲まれた国だから、日本の子どもは身体を鍛えておこうというだけです。6番、7番に北の守りと南の開拓という内容が書かれていて、ここで初めてこれを言うために作られた歌だということがわかります。
それから「ほたるの光」ですが、これは「君が代」が入ってから教科書に載るようになりました。いまは1番と2番しか載っていませんが、半分使っているだけだから良いとは言えません。問題は3番、4番です。3番は国の守りの歌です。「ひとつに尽くせ国のため」とあります。4番には「千島の奥も沖縄も」とあります。この歌詞は1879年の琉球処分(明治政府のもとで琉球が強制的に近代日本国家に組み込まれた)の翌々年の81年に書かれています。「千島の奥も沖縄も八島のうちの守りなり」と、日本の国に入れてやるぞと言わんばかりです。
私の時代は音楽という教科ではありませんでした。唱歌です。唱える歌ですね。どれほど歌詞が大事なのか、教科名が唱え歌であったということが重要だと思います。そして歌によって国民を淘汰していくことがよくわかります。唱歌は意図的に戦意を高揚するように作られています。「お山の杉の子」は遺児を励ます歌です。お父さんが戦死した子を励ます歌として作られています。ほんとうにひどい歌詞です。「勇士の遺児ならなお強い」とか。働き手のお父さんが出征して、戦死して、家族が困っているのに、もっとがんばって兵隊さんになりなさいという歌詞です。「汽車ぽっぽ」は兵隊さんの汽車の歌です。「兵隊さんバンザイ」だったものが、戦後「シュッポシッュポ」に変えられました。当時は唱歌の本に載っている歌が、修身の教科書にも載っていました。子どもたちに教え込もうとするとき、修身だけではなく、歌で歌うとちゃんと身につくからです。
式典では必ず校長先生が教育勅語を読みました。その間はお行儀よく聞かなければいけない。それが苦痛で、苦痛で。「御名御璽」が出てきたら終わりなので、子どもたちはひたすらその言葉を待ったものです。それから明治節、紀元節、天長節、それぞれにふさわしい話を校長先生がします。式典というのはだいたいそういうものでした。勅語奉答歌というものがありますが、学校によっては教育勅語のあとで子どもたちが歌ったそうです。「勅語をありがとうございます、勅語を守ります」というような内容です。
─教員時代はいかがでしたか。
教員になったのは1950年です。当時の学校はなんにもないから、いろいろなことを工夫して、それはとても楽しかったですね。58年に学習指導要領が告示されて、能力適性に応じた教育が始まり、そのころからいわゆる特殊教育というのが盛んになってきました。61年に初めて東京学芸大学に特殊教育の教員養成課程ができましたが、障がい児やできない子どもに理解させる上手な教え方を学べるのかと考え、受講することにしました。
免許を取って65年に大田区志茂田中学校の特殊学級の担任になりました。教室に行って子どもたちに挨拶を済ませたら、ひとりの男の子がトコトコと前に出てきて、「先生も普通学級を落第してきたの?」と言いました。できない子のために特別な教室と特別な教材を用意して、特別な先生を養成して用意する。それが悪かろうはずはないと思っていましたので、彼の言葉の意味が私にはわかりませんでした。そしたらその子がまた言うんです。「先生なら大丈夫だよ、もう一回試験を受けて普通に戻りな」って。65年というのは全国一斉学力テストをしているときです。教員は自分の学級の成績を上げることが課せられていましたので、できない子を排除するということがありました。クラスの平均点を1点あげるのには大変な苦労をしますが、零点の子を排除したら、平均点がぐんと上がります。その男の子には自分がその対象であるということがわかったんですね。だから私に「先生も落第してきたの?」と訊くし、「戻りな」って励ましてくれる。自分はもとのクラスに戻れないと思っていたんです。普通学級から出されたことで、彼がどれほどしんどかったか。とてもつらいことだと思います。
私はその日のうちに、無理に特殊学級に入れるのはやめよう、戻れる子はもとのクラスに戻そうと決めました。それから22年間ずっと特殊教育に携わってきましたが、なるべく入れない、なるべく戻す、なるべく一緒にやるという方針を貫いてきました。いまは制度的にはいろいろ整いましたが、その分、分けられる率は高くなっています。障がいがあっても普通の学校でみんなと一緒に学ぶ、どうせ世の中に出たら一緒に暮らすのだから、と考える人は非常に少ないです。「能率主義」はますます盛んになっています。
─今年4月から小学校で教科として道徳の授業が始まっていますし、中学校でも来年4月から始まります。この教科の道徳と修身についてお考えをお聞かせください。
今回の道徳は、教育勅語の復活だと思っています。教科書を見る限りではあまり露骨じゃなくて、生ぬるいですよね。それがくせものだと思います。安倍政権の第一の目的は教科化でした。出版社と教育委員会の関係、そして教科書検定採択は、まったく安倍の意のままになっていると言っていいと思います。これで子どもがきちんと学ぶことができるのか。犯罪的だと思います。いまは控えめですが、この次の教科書にははっきりと安倍の保守の本音がでてくると思います。
昔、修身の時間に、ともだちと仲良くしましょうとか、二宮金次郎のような内容のときは担任の先生が教えていましたが、「国体」今の言い方だと政治状況でしょうか、その国体を教えるときには、私の学校では校長か教頭が来ていました。現在でもしっかり教え込もうと思ったら、このようになるのではないでしょうか。道徳が教科になって最も悪いのは、心の問題に関わるからです。国家の価値観、時の政権の価値観を押し付けるということです。今回の場合はあきらかに愛国心です。愛国心という価値観を押し付けるという意味で、大変大きな問題です。
─安倍晋三首相がめざす「戦争をする国づくり」についてどう思われますか。
いつでも戦争はできるでしょうね。安倍さんは無理だと思われていた法案を全部通してしまいました。できないはずのことを全部やってしまったのです。安倍が狙っているのは戦争をする国であり、世界一になることです。個人より公益を大切にし、国に尽くす人間をつくるために道徳教育にも熱心なのです。バカな子は放っておいて頭のいい子をもっと伸ばせ、けれど、発達障がいの子どもは別だと言いました。あの中には知恵遅れじゃなくて天才もいるに違いないから、それはなにかの役に立つと言っています。それで障がい児の扱いかたが変わりました。「日本よい国」という安倍さんの好きな歌があります。「日本よい国、強い国、世界にひとつの神の国」。安倍さんにとって日本は神の国なのです。
─では、私たちはどうしたらいいでしょうか。
知っていること、本当のことをずっと言い続ければいいと思います。真実を言い続けるのは大変です。特に子どもに対しては真実を伝え、疑問に答えなければいけません。私の少女時代は、おとなから真実を聞くことができませんでした。「肉弾三勇士」(上海事変下の軍事美談)を称えるちょうちん行列への参加を、母はやんわり断りました。「鬼畜米英殲滅」を描いたポスターを、美術の教師は黙って私に返しました。もし私が少女のころ、大人たちが「おかしいよ」とひとこと言ってくれたら、その後の私の生き方は変わったかもしれません。黙っていたら、安倍首相が「いい人」になって、いつか修身の本に載るようなことになるかもしれません。真実を言い続ける、些細なことと思われるかもしれませんが、決して些細ではありません。
インタビューを終えて
今年93歳になられる小夜さん。部屋いっぱいの棚に整理・保管されているたくさんの資料から、次々と的確な文献を取り出し、しっかりとした口調で、初対面の私の質問に、包み隠すことなく、本当のこと・思っていること・疑問に思うことを話してくださいました。「見た目はわからないが、道徳の教科書に『教育勅語』の精神は残っている。その復活だと思う」と言われた小夜さん。私も決して些細ではない「真実を言い続けること」をおこなっていきます。これからもお元気で、私たちにたくさんのことを教えてください。
(北村智之)
歴史的な米朝首脳会談
朝鮮半島の平和体制構築への共同の努力
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成
想像を超える南北融和への動き
「ろうそく革命」で失脚した大韓民国(以下韓国)の朴槿恵(パク・クネ)前大統領の後任として、2017年5月10日に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、翌年に迫る平昌冬季五輪へ朝鮮民主主義人民共和国(以下朝鮮)に、国連の場などを通じて参加を呼びかけてきました。これに応じて、朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は、今年の「新年の辞」において「平昌冬季五輪に北朝鮮代表団を派遣する用意がある」との声明を出しました。
その後、南北閣僚級会談が行われ、国際オリンピック委員会(IOC)は2018年1月20日、朝鮮を冬季五輪に参加させることを承認しました。朝鮮は、スキー、スケート、アイスホッケーの3競技5種目に22人の選手を派遣し、特にアイスホッケー女子は、五輪では初めて合同チームで臨むことや、開会式では2006年のトリノ五輪以来となる「統一旗」で合同入場行進することなども認められました。南北両国の対話の再開を求めるムン大統領の意欲と、米国に対抗する核実験やミサイル発射実験などで制裁措置を受けるキム委員長の国際社会との関係改善への意欲が、平和の祭典で統一旗がはためく結果を生み出しました。
この時、朝鮮半島情勢は大きく動きだしたと言っていいでしょう。平和フォーラムは、東アジア市民連帯として米国大使館に対し「米韓軍事演習の平昌五輪開催時の中止」「米朝の対話の開始」を求めて申しれを行い、平昌五輪が朝鮮半島情勢の変化の契機になることを期待しましたが、南北融和への動きは想像を超えるものとなりました。
韓国国内では、朝鮮の五輪参加に対して批判の声もあがりましたが、ムン大統領は、南北対話と融和への交渉を進め、4月27日の南北首脳による「板門店宣言」を結実させました。宣言では、南北の協力と交流の強化、軍事的緊張の緩和に向けた具体策を記載するとともに、朝鮮半島の恒久平和のために、朝鮮戦争の終戦を宣言し停戦協定を平和協定に転換する。そのために南北米の三者および中国を加えた四者の会談を積極的に推進する。核のない朝鮮半島の実現を共通の目標として確認するとしています。
安倍政権は「蚊帳の外」
このような動きを評価するトランプ米大統領とキム委員長は、6月12日にシンガポールで歴史的会談を行い共同声明に署名しました。声明では、トランプ大統領の朝鮮の安全保障の確約と、キム委員長の朝鮮半島の完全な非核化への責務を再確認し、(1)両国民の平和と繁栄を希求する意思に基づく新たな米朝関係の構築の約束、(2)朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築への共同の努力、(3)板門店宣言を再確認し、朝鮮による朝鮮半島の完全な非核化にむけた努力、(4)戦争捕虜や行方不明兵の遺骨回収への努力を確認しています。
非核化への具体的手順が不明確とされていますが、7月7日訪朝したポンペオ米国務長官は「朝鮮は、完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)にコミットすると再度約束した」「かなり詳細に次のステップについて話し合った」と評価し、ミサイルエンジンの試験施設の破壊や朝鮮戦争の戦争捕虜・行方不明兵の遺骨返還に向けての協議を7月中旬に開催するとしました。トランプ大統領は「米韓合同軍事演習は挑発的だ」として米韓軍事演習の中止や規模の縮小も表明しました。
一言で非核化といっても、簡単ではありません。製造施設やウラン濃縮装置、資材など、非核化で廃棄すべき対象範囲は広く、核不拡散条約(NPT)を脱退し国際原子力委員会(IAEA)の査察を受けてこなかった朝鮮の核施設の規模や数は全く不明です。完全で検証可能、不可逆的な非核化には、膨大な時間がかかるということを基本に、周辺の課題(朝鮮戦争の終結・平和協定締結、経済制裁の解除、国交正常化、経済交流の開始、軍事演習の永続的中止、在韓・在日米軍の縮小・撤退など)の整理・解決を漸進的にすすめていくことに力を尽くさなくてはなりません。
この間、安倍政権は「蚊帳の外」に置かれてきました。米国の朝鮮政策に追随し、侵略戦争と植民地支配を肯定するアジア蔑視の歴史観を基本に、軍事的圧力と経済制裁の強化を頑なに主張し、韓国や朝鮮の送る秋波を捉えきれず、蚊帳の外に置かれたのです。安倍晋三首相は、トランプ政権との親密感を演出しながら「拉致問題を取り上げたトランプ大統領の強力な支援をいただきながら、朝鮮と向き合い(拉致問題を)解決していく」と語りました。さらに、6月18日の参院決算委員会で、日本人拉致問題について「最後は私自身がキム委員長と首脳会談を行わなければならない。行う以上は解決に資する会談にしなければならない」と述べました。
しかし、安倍首相は、2002年の日朝平壌宣言以来、拉致問題を(1)最重要課題と位置づけ、(2)その解決を国交正常化の前提とし、(3)被害者全員の生還を求めるとしてきましたが、結局この姿勢では全く解決に至りませんでした。拉致問題で正鵠を射る発言を繰り返してきた蓮池透さん(拉致被害者家族連絡会元副代表)は、安倍首相の「私が拉致問題の司令塔として」との発言に、ツイッターで「司令塔?この期に及んで。どうやって?」と書き込んでいます。安倍首相は、この間、拉致問題を政争の具として解決を遅らせ、政治の不作為ともいえる状況を作り出してきました。安倍政権の掲げる拉致三原則では解決はありません。
「拉致」問題の解決のためにも対話を
日本政府が朝鮮半島問題において何らかの役割を果たし、拉致問題の解決を本気で考えるなら、次に掲げる方向で努力を重ねなくてはなりません。
まず、朝鮮との国交正常化への対話をすみやかに開始し、その過程で拉致問題の現実的解決をめざすことが重要です。アジア太平洋センター・ジャパン・フォーカスの編集コーディネーターでバンクーバー在住の乗松聡子さんは、米国ネットメディアに寄稿し、「日朝会談が実現した場合、取り組むとされる『過去の清算』とは、植民地支配に対する真摯な謝罪と補償に他ならないのであり、『拉致』もその大きな取り組みの中で扱えればこそ、解決に導くことができるはずだ」と主張しています。
安倍首相は「北朝鮮と信頼を醸成し、拉致問題を解決した先に待っている未来像を描きつつ、前提となる諸問題の解決に向けて尽力したい」と主張していますが、米朝首脳会談直前の北朝鮮の国営ラジオ「平壌放送」は、拉致問題について「既に解決された」と言及しています。拉致問題の解決が先という姿勢では何も変わりません。
この間、平和フォーラムは「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」を組織して、朝鮮高校への授業料無償化措置の適用を求めて、市民の方々とともにとりくんで来ました。国連人権委員会などからも明確に差別であるとされた問題に対して、日本政府は「国民の納得が得られない」との主張で、真摯に対応してきませんでした。また、6月28日には、朝鮮本国の修学旅行から帰国した朝鮮高校生から「お土産」を税関において没収するとの事件まで起こしています。
これまでの日本政府による朝鮮敵視・蔑視の政策は、何の罪もない在日韓国・朝鮮人社会に深刻な影響を与えています。小泉純一郎元首相の下で日朝交渉に当たった飯島勲元政務担当秘書官は、この事件に対して「人間としてどうなの?むしろ朝鮮総連幹部の北朝鮮渡航制限緩和くらい打ち出すのが拉致問題解決の第一歩さ。免税範囲のお土産は見て見ぬふりをするのが政治判断ってもんじゃない?」と発言しています。
強制連行や様々な原因で日本で生活せざるを得なかった在日韓国・朝鮮人の戦後の歴史は、欧米への憧憬とアジア蔑視の国民感情の中で、差別との闘いの歴史でした。朝鮮学校は民族学校としての権利も与えられず、通学定期取得から大学入学資格まで、闘い取らざるを得ない状況に置かれてきたのです。朝鮮半島の平和と繁栄、様々な課題の解決に向けて両国が対等に話し合おうとするとき、一方的な差別や偏見の中に放置しておいては、真摯な話し合いが開かれる状況を作るには至りません。「人間としてどうなの?」の問いに、私たち自身もしっかりと答えなくてはならないと考えます。
平和フォーラム、日朝国交正常化連絡会のパンフレット 「日朝基本条約締結を」の表紙から |
「東北アジア非核地帯」を現実のものに
私たちは長らく「東北アジア非核地帯」の構想を現実化していく取り組みを訴えてきました。その中で、日本における47トンものプルトニウム(原子爆弾に換算して約6000発分)は、世界の脅威であり政府に対してプルトニウム利用計画の放棄を訴えてきました。米中ロの核兵器保有国の狭間にあって、日本と朝鮮半島の両国が非核保有国として東北アジアを平和の中心に位置づけようとする非核地帯化構想は、東北アジアの将来を約束するでしょう。
まさに今、朝鮮が「完全な非核化」に進もうとするとき、日本の「潜在的核兵器保有」に関わる状況をそのままにしてよいものでしょうか。政府が、高速増殖炉実験炉もんじゅの廃炉決定や度重なる六ヶ所再処理工場の完工延期、3.11の福島原発事故以来の原発をめぐる状況などを真摯に捉え、プルトニウム利用政策を放棄してこそ、胸を張って朝鮮に「完全な非核化」を訴えることができるのです。
7月13日、ムン大統領はシンガポールで講演し、6月の米朝首脳会談で合意された北朝鮮の「完全な非核化」の取り組みを進めるように米朝両国に呼びかけ、加えて「日朝関係の正常化は朝鮮半島や北東アジアの平和に寄与する」と訴えました。ムン大統領は、日朝会談の開催に協力する考えも示したと伝えられています。
安倍首相は「決断できない政治」としてこれまでの日本政治のあり方を批判してきました。今、首相が決断すべきは、「働き方改革」でも、カジノを進める「IR法」でも、参議院の議員定数の問題でもありません。これまで述べた朝鮮との対話のための三つの課題こそ解決しなくてはならないのです。
(ふじもとやすなり)
基地の脅威にさらされる沖縄の子どもたち
安全基準の日米合意は守られていない
辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議 事務局長 山本 隆司
軍用機の部品落下の対策もなく訓練再開
宜野湾市の普天間米軍基地のフェンスギリギリまで民家が建ち並び、周囲に学校だけでも20校(幼稚園10・小学校10・中学校5・高校3・大学2)が隣接する。特に普天間第二小学校は運動場と基地とのフェンス1枚を共有している。体育や野外活動時、大型輸送機が接近すると運動場に陰が写る。授業中に軍用ヘリのお腹が見えたり、耳をつんざくばかりの爆音も日常化し、子どもたちはさほど驚かない。気にしていたら、とてもここでは生活できない悲しい現実がある。
昨年12月13日、普天間基地の軍用ヘリCH53Eの窓が運動場に落下した。その時間帯は2年生と4年生の体育授業中であり、児童一人が落下の際飛び散った小石で怪我を負った。1週間前の12月7日に、すぐ隣の「緑が丘保育園」で同型ヘリの部品落下事故が起きたばかりであった。
年末に連続したヘリ部品落下事故は、奇跡的にも命に関わる被害がなかったが、1959年6月30日の宮森小ジェット機墜落事故(死者18人、負傷者200余人)、2004年8月13日の沖縄国際大学ヘリ墜落事故が想起された。日常的に接近する軍用機の危険に長年慣らされ続けてきた子どもたちに、墜落や落下の恐怖が現実のものとなった。
子どもたちの恐怖やトラウマ等を考え、当面の間運動場での活動を禁止せざるを得なかったが、いつまでも使用禁止というわけにはいかない。米軍当局や沖縄防衛局に対して「学校上空飛行禁止」を当然強く求めたが、曖昧な回答に終始した。米軍は事故から1週間は同型機の飛行を差し控えたが、事故対策もなく1週間後の12月19日、軍事訓練を強行している。
宜野湾市では常時監視員を配置し、小学校の上空に軍用機が接近する度に避難することを条件に運動場の活動を再開させた。市教育委員会によると、運動場を再開した2月13日から6月8日までの5ヶ月間弱で、避難回数は何と527回、最高1日29回の避難を余儀なくされている。
5月17日午後2時40分頃に「逃げてください。逃げてください」と、運動場に配置された監視員が拡声器で呼び掛けると、体育の授業で縄跳びをしていた児童約20人が走って校舎に避難した。その直後、校舎の上空付近を飛行するMV22オスプレイのごう音が響き、授業は2分近く中断された。「空襲警報」が鳴って避難するという、戦時中のような事態が起きている。
米軍ヘリ墜落事故直後の沖縄国際大学の校舎。 炎上した機体が校舎を焼いた(2004年8月13日) |
航空法に違反する普天間・辺野古基地
市教委や沖縄防衛局はこれまでに、米軍機の飛行を確認できる監視カメラやTVモニターの設置、監視員の配置等を進めてきた。屋根付きの避難用工作物については、夏休みをめどに運動場とプール、飼育小屋付近の4カ所に設置する予定で、今後は幼稚園への設置も検討しているという。普通の学校では年間2回ぐらい「火災&地震」の避難訓練を学校行事として実施しているケースが多い。普天間基地や嘉手納基地周辺の学校では、米軍機墜落を想定した避難訓練が、普天間第二小も含めて5校で現在行われている。戦後73年、沖縄に日本国憲法が適用されて46年が経つ。日米両国の学校・子どもたちで、これほど平和的生存権・教育権・環境権等が、露骨に侵され続けている地域が他にあるだろうか。普天間基地は航空法上では、飛行機・ヘリ等は使用できない施設になる。航空法では滑走路の両脇に「クリアゾーン」と呼ばれる緩衝地帯を設けなければならない。このゾーンには建造物は勿論、立木1本もあってはならない。しかし、普天間基地の滑走路の「クリアゾーン」には、現在3600人の市民生活の場があり、普天間第二小もクリアゾーン内にある。
ここ20年来、普天間基地の危険性を除去するという名目で、辺野古への新基地建設が強行されている。辺野古新基地も日米地位協定で航空法の除外であるが、米国防総省の統一基準で、滑走路から2286mの範囲で45.72mの高さ制限が設定されている。この区域には国立高専(70m)、久辺中学校(63.57m)、久辺小学校(62.7m)と、多くの施設が高さ制限の安全基準に違反している。
沖縄防衛局は地形と一体になっている施設は、高さの安全基準を超えていても危険ではなく、米軍機の進入路は海であり、集落一帯は飛行しないとしている。普天間基地でも嘉手納基地でも73年間、安全基準の日米合意は守られていない現実が綿々と続いている。普天間基地は「世界一危険な飛行場」であり、住民の命・安全を考えれば即時封鎖・撤去しかない。辺野古新基地も同様に欠陥滑走路であり、同様に危険であることは間違いがない。沖縄の子どもたちが墜落や爆音の恐怖に怯えることなく、安心して普通の生活ができる日が一日も早く実現できることを強く願う。
(やまもとたかし)
水道法「改正」をめぐる動きと今後の課題
民営化で「市民の財産が奪われる」
全日本水道労働組合 書記次長 辻谷 貴文
第196通常国会は安倍内閣によって、この国の近い将来を危惧させる法案が、強行的にいくつも可決・成立された。その中で、国民の知らないところで十分な審議時間も取らず進められたものに「水道法」改正案が挙げられる。幸いにも、参議院で成立が見送られ、継続審議になったものの、地域を崩壊に追い込むかもしれないこの法案の問題を改めて追及したい。
事業運営権を民間に売却するPFI法は成立
第二次安倍内閣の政策は、市民の財産ともいうべき「公共」を市場に投出、民間企業に担わせることによって、資本流動としての好景気を演出するものであり、水道にとっては害悪でしかない。この間、私たちは水道事業の将来に対する不安から、事業の基盤強化に向けた要求や提言などを行ってきた。人材育成や人員増、地域で水道事業体が連携する広域化の推進などである。厚生労働省の有識者会議や検討会においても、水道事業基盤強化の必要性が提起された。しかし、その法改正に至る経過においては、こうした声をあざ笑うかのように「水道民営化」に向けてアクセルが踏まれたのである。
2013年に、アメリカの戦略国際問題研修所(CSIS)での講演において麻生太郎副総理が「日本の水道を全部民営化します」と発言を行ったことは周知の事実である。第二次安倍内閣発足時より、公共サービスの民営化は既定されたもので、竹中平蔵(東洋大教授・人材派遣会社パソナ会長)をはじめとする新自由主義思考の人々が、その影響力を発揮してきた。
今通常国会では、上下水道事業など公共サービスの事業運営権を民間に売却し、経営を委託する方式を導入するPFI法(民間資金活用による公共施設整備促進法)改正案が成立した。これにより、公共施設等運営権者方式(コンセッション)によるPFI導入の促進が図られようとしている。水道民営化路線も「突如降って湧いてきた」というものではなく、PFI法改正とともに安倍政権によって用意周到に仕組まれたものである。
安倍政権の民営化路線で「市民の財産が奪われる」と同時に、儲かるのは外資を含む大企業という構造がいよいよ顕在化してきた。PFI法改正案は強行的に可決されたが、私たちは「PFI手法ありき」ではないことや、特定の民間事業者への誘導、地方への介入がないよう運用すること、さらには上下水道に対する補償金免除繰上償還についても、これ以上は慎むことなどの付帯決議を行い、いのちの水を守れるよう努力をしてきた。
熊本地震による水道管復旧工事。 公営の重要性が再認識された(2016年4月・熊本市) |
水はいのち 世界の潮流は公営化
PFIの仕組みは、イギリスがサッチャリズムとして30年前より押し進めてきたが、いまや「失敗だった」と周知の事実となっている手法であるが、そうした不都合な事実はひた隠しにされてきた。政府は水道の運営権について、当初は「イギリスのように完全民営化でもうまくいっている」と強弁していたが、英会計検査院の報告などで失敗であったことが暴露されるや、「今回の水道法改正案にある運営権の設定は、英国のような完全民営化ではなく、給水の責任はこれまで通り地方公共団体に残るから問題ない」と論を変えた。
また、内閣府の民間資金等活用推進事業室は、フランスの水道事業を調査して報告を提出してきたが、2011年に再公営化したパリ市の調査については記載をされず、あくまでも民間運営の正当性を主張している。
通常国会の会期延長によって審議入りした水道法改正案は、法改正の趣旨を「水道事業の基盤強化」としつつも、運営権の設定を創設するなど、外資を含む民間事業者に「儲けさせる」法案として提出された。政府の不誠実な説明にも関わらず、数の論理で、衆議院では7月5日に可決を許す結果となった。
今回は最終的には成立を阻止することができたが、すでに法改正をにらんで水道事業の運営権を売却しようと準備している県や市がすでに存在している。そこでは、市民との十分な対話などよりも、金銭的な価値でしか水道を計っていないというのが共通した特徴である。
水道事業とは、地下水や表流水などをろ過・薬品注入して、家庭や事業所に送り料金を徴収するものである。この作業は、人間の生命維持のために不変であり、それは官でも民でも同じことである。公営と民営の違いは、徴収した収益を100パーセント事業に再投資するか、役員報酬や株主配当に回すかということである。民間企業が倒産などすれば、地方公共団体に水を送る作業は自動的に引き継がれるが、それには莫大な労力とコストがかかる。効率化は重要だが、運営権を売り飛ばして将来にわたって持続可能な地域の水道事業などあり得ない。それはイギリスをはじめとする世界が示している。「市民とともに公営水道の強化を考える」ことがいっそう重要になっている。
(つじたにたかふみ)
岐路に立つむつ市のリサイクル貯蔵施設
核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団 事務局長 山田 清彦
破たんした高速増殖炉計画と使用済核燃料の処理
ウラン資源を持たない日本は、原子力発電所から出る使用済核燃料を再処理して高速増殖炉で使うべしとされた。そのために全量再処理を追求し、高速増殖炉の実用化を求めると、原子力委員会が1956年9月6日に原子力開発利用長期計画で内定した。
核燃サイクル路線が継続されていく中で、原発の操業で出る使用済核燃料の発生量に比べて再処理が遅れているので、一定程度の中間貯蔵を認めようという流れが生まれてきた。2011年3月11日以前、約4千万kwの原発が運転しており、年間の使用済核燃料の発生量が約1000トンで、六ヶ所村の再処理工場の再処理量が約800トンなので、残る200トンを中間貯蔵施設に回して、別の再処理工場で再処理しようとした。
その流れの中で、まず、東京電力と日本原電が出資して、むつ市にリサイクル貯蔵施設(乾式貯蔵で5000トン貯蔵)が計画された。
その後、六ヶ所村の再処理工場へ搬出するまでの一時的貯蔵として、中部電力は浜岡原発で約400トンを建屋なしで貯蔵する計画を示し、四国電力も伊方原発で同様の計画を示し、関西電力も検討を始めるとしている。
他の電力会社はまだ使用済核燃料プールに余裕があるらしく、乾式貯蔵施設の進行状況を見ながら今後の対応を考えるとしているが、10年を待たずに各地で乾式貯蔵施設の建設ラッシュが起こる可能性が出てきた。
日本は全量再処理路線維持にこだわってきたが、既に高速増殖炉原型炉「もんじゅ」が止まり、次なる高速増殖炉の実用化が50年以上先送りされている。頼みの綱のフランスの高速炉アストリッド計画も、日本以外は乗り気でなく、十分な資金調達が不可能となり、フランスそのものも急いで計画に取り組む必要を感じなくなっていると伝えられている。実際には高速炉の研究での核のゴミの減容化さえも実現不可能と見るべきである。
それに加えて、最近では、アメリカの専門家から、日本の余剰プルトニウム約47トンを消費することがなければ再処理するなとの声が伝えられるようになった。その上で、岡芳明原子力委員長がプルサーマルの利用を促進し「余剰プルトニウムを持たないために、六ヶ所再処理工場の運転に制限を加える必要がある」と公然と発言している。
六ヶ所再処理工場は、年間800トンを再処理して40年間運転するとしてきた。しかも、30年前の日米原子力協力協定の改定では、六ヶ所再処理工場の運転を見込んで包括的合意を取り付けたはずである。ところが、ここにきて、再処理量に制限が加えられると、今ある約18000トンの使用済核燃料を何年かけて再処理するかが不透明となってきた。
仮に2021年から再処理が無事故で順調に操業が行われた場合は、40年間でプルトニウムが320トン生じるが、六ヶ所再処理工場ではMOX燃料(重量比1:1)として抽出するのでその合計は640トンとなる。これを薄めてプルサーマル燃料とすることになるが、果たして日本の原発で使い切れるのかが疑問となる。
アメリカの意向を汲んで運転制限した場合は、年間処理量を少なくし40年間運転していくと、各地の原発貯蔵量に影響する。浜岡原発も伊方原発も六ヶ所再処理工場に搬出するとしているが、それができない場合は、原発現地に置き去りにされるかもしれない。
このような事態が生じた場合は、各原発立地点に乾式貯蔵施設を急いで建設する必要が生まれるし、更には使用済み燃料の直接処分が模索されるのも時間の問題だろう。それならば、再処理工場の運転をせず、使用済核燃料の直接処分に舵を切るべきではないだろうか。
電力会社は原発廃炉の決断を
むつのリサイクル貯蔵施設は、既に3000トンの貯蔵施設が完成しているが、六ヶ所再処理工場の運転開始に合わせて、操業時期を延ばしてきた。勿論、新規制基準の審査が完了していないので、すぐには操業が出来るわけではなかった。それでも、事業者としては、貯蔵事業を開始して以降でないと収入が見込めないので、2021年までの再処理工場完工延期が表明された後に、今年7月以降の事業開始をしたいと表明するようになった。
その後、1月に入って、新聞報道で関西電力分を受け入れる計画があると書かれて、むつ市長が「そのような事実があれば、自分の相談がないのがおかしい」と発表した。また、3.11以降、運転資金に余裕がなくなっている東京電力と日本原電に対して、関西電力が出資して、同電力の使用済核燃料を受け入れてもらう計画があると新聞が書き、「そのような事実がないことを確認した」とむつ市長が怒って見せる場面もあった。
ただし、6月下旬になって、新規制基準の審査終了目途の遅れから、事業開始時期が見込めないので、6回目の搬入延期となった。
今から50年~60年後に、使用済核燃料を搬出する計画で進められようとしている各地の中間貯蔵だが、果たして原子力発電がその頃までに居座るのは無理だろう。その無理を押してでも始めないことには、使用済核燃料がプールに溢れ、原発を停止せざるを得ないということに電力会社が気付き始めた。そうならば、即座に原発の廃炉を表明すべきであるし、再処理の中止も表明すべきだが、そこまでの勇気が各社の社長にないのかもしれない。最近になって、火山噴火や北海道を震源とする巨大地震と津波の影響など、これまでと違う状況が生じてきた。それらの審査が厳しく行われれば、操業開始はあり得ない。時間をかけて審査して、原発停止という判断を、原子力推進に傾きつつある原子力規制庁にも期待したい。
(やまだきよひこ)
日米原子力協定延長とプルトニウム削減計画
7月16日、日米原子力協力協定が30年の満期を迎え、自動延長されました。これに関連して日本のプルトニウム保有量の大きさが国際的な懸念を呼んでいます。英国保管22トン(年内にも閉鎖予定の再処理工場で日本に割り当て予定の1トンを含む)、フランス保管16トン、国内10トン、合計48トン(核兵器6000発分)。政府は削減する所存との説明をして、再処理計画を続ける意向です。以下、関連情報を簡単にまとめました。
●日本は唯一再処理を認められている?
2006年版「わかりやすいエネルギー白書の解説」にある次のような表現が再処理推進派によって繰り返されている。「我が国は、IAEA(国際原子力機関)による厳格な保障措置の実施等の努力を積み重ねてきたことにより、非核兵器国の中で唯一、商業規模で濃縮・再処理までの核燃料サイクル施設を保有する国として認められています」。国際社会が認めているかのような書きぶりだが、「認めている」のは米国。その米国はユーラトム(欧州原子力共同体)にも「認めている」。
●核不拡散条約(NPT)が他国の再処理を認めていない?
「★3条:各非核兵器国は、原子力が平和的利用から核兵器その他の核爆発装置に転用されることを防止するため……国際原子力機関との間で……保障措置を受諾する★4条:この条約のいかなる規定も……平和的目的のための原子力の研究、生産及び利用を発展させることについてのすべての締約国の奪い得ない権利に影響を及ぼすものと解してはならない」。つまり、保障措置下にある限り、加盟国は全て再処理・ウラン濃縮が「認められている」。
●日米原子力協力協定が再処理政策を押し付け?
米国の1954年原子力法第123条が協力協定締結を定めている。2017年1月20日現在、米国はユーラトム(28カ国)及び他の20カ国(合計48カ国)、それにIAEA、台湾と協定を結んでいる。永田町界隈では、米国がこの協定によって再処理を日本に押し付けているとの都市伝説が存在する(主に野党?)。実際はこの伝説の間違いの確認を国会(2016年5月26日)で求めた逢坂誠二議員(民進党)に対する外務省の答えの通り。協定は「移転された核物質等について、いかなる軍事的目的にも使用しないこと、適切な防護措置をとること、保障措置を適用すること、再処理や第三国への移転等について、両国政府の事前の同意を要すること」を定め、協定の終了後も、「核物質などが実際に存在している限り軍事転用を防ぐ」ためにこれら規定は効力を持続する仕組み。
●米国が他国の再処理制限策を強化した理由は?
1974年のインドの核実験で「平和利用」目的の再処理で取出したプルトニウムが使われたため。78年核不拡散法には、他国との原子力協力協定の再交渉を行い、米国起源の使用済み燃料、あるいは米国の輸出規制の対象となっている部品または設計情報を有する原子炉で照射された使用済み燃料(派生物)は、米国政府の事前同意なしには再処理できないようにしなければならないとある。
●88年日米協定で再処理制限は逆に弱体化?
前協定(1968年)では米国側はすでに、日本から英仏の再処理工場への使用済み燃料の輸送に関し毎回検討し、日本における再処理について両国による共同決定をする権利を有していた。レーガン政権の再交渉で結ばれた現協定(88年)では、保障措置、物理的防護、派生物などの要件に追加があったが、付属書で再処理・プルトニウム取り扱い施設を記載して発効時に再処理をまとめて事前に認める「包括的事前同意」形式となった。
●米国が再処理を認めている非核国は日本だけ?
ユーラトムとの間の1958年協定には、欧州側における再処理に関して米国側の事前同意が必要との規定はなかった。クリントン政権が現協定(96年)を交渉したころまでには、欧州非核国は経済性などの理由から再処理計画を放棄しており、包括的事前同意用リストに載せられた再処理工場は英仏のものだけとなった。英仏への再処理委託継続もほとんどの国が放棄。日本は非経済性にもかかわらず再処理に固執する唯一の非核国。
●もんじゅ廃止決定でも再処理が必要な理由は?
原子力開発の当初、ウラン資源は希少、原子力発電は世界で急速に増大と想定。それで、燃えないウラン238を活用して、使った以上のプルトニウムを産み出す高速増殖炉が構想された。その初期装荷燃料提供のために再処理が必要とされた。ウランは予測以上に豊富で、高速増殖炉開発は難航。各国が撤退。日本では今は、原発の使用済み燃料プールが満杯だから再処理工場に燃料を送らないと原発が止まるとの主張により再処理推進。
●使用済み燃料はどうする?
原子力規制員会の田中(前)・更田(現)両委員長が、数年間プールで冷やした燃料は空気冷却の乾式貯蔵に移した方が安全と説明。規制委では輸送・貯蔵兼用金属キャスクによる敷地内貯蔵を促す規制方式を準備中(キャスクの型式認定、収容建物の不要化など)。これで中間貯蔵した燃料を、再処理で出てくる高レベル廃棄物と同じく最終処分場へ送るのが直接処分の道。電力会社や原発周辺自治体でも敷地内貯蔵についての関心が高まっている。
●ウランと混ぜたMOX燃料を原発で燃やして削減?
溜まったプルトニウムを原発で消費するとの1997年の計画では2010年までに合計16~18基でMOX使用導入。現在稼働中でMOX利用許可のあるのは4基。うち伊方3号は高裁仮処分で停止中。審査終了で再稼働を待つ5基にはMOX許可炉はない。年間0.5トン/基程度しか燃やせない。削減を目指すなら英仏保管の38トンの処分終了まで六ヶ所再処理工場は運転しないと宣言すべき。英国のMOX工場は10年間稼働率1%で運転して福島事故後閉鎖。金を払えばゴミとして処分してもいいとの英国提案の交渉が先決。六ヶ所で建設中のMOX工場が動く保証もない。今後両工場に約12兆円が投入予定。追加のウラン燃料製造費と中間貯蔵費を差し引いても計画放棄で9兆円以上の節約。
(「核情報」主宰田窪雅文)
《投稿コーナー》
「放射線のホント」のウソ
復興庁がパンフ作成 撤回求めて交渉
原子力資料情報室 片岡 遼平
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「風評被害の払拭」を名目に”安全キャンペーン”
政府の復興庁は、「風評被害の払拭」の名のもとに、パンフレット「放射線のホント」(A5判・30ページ)を作成し、今年3月から公表・配布している。昨年12月に策定された「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」の一環で、予算総額約730万円、復興庁のホームページからダウンロードもできるほか、関係省庁等に2000部が印刷・配布された。
その内容は、放射線被ばくに関していっそうの混乱を与えるものであり、7月5日、関西を中心とする市民グループ「ヒバク反対キャンペーン」は、復興庁に対する政府交渉をおこなった。福島からの8名を含む38名が参加し、政府を厳しく追及した。
パンフレットでは、ウソもいとわない”安全キャンペーン”が繰り広げられている。例えば、「放射線はゼロにはできません」、「(放射線の影響は)遺伝しません」、「100~200ミリシーベルトの被ばくでの発がんリスクの増加は、野菜不足や塩分の取りすぎと同じくらいです」、「(福島第一原発事故で)健康に影響が出たとは証明されていません」、「放射線による多数の甲状腺がんの発生を福島県では考える必要はない、と評価されています」、「(食品・水について)福島県では現在、基準を超えているものはほとんどありません」、「福島県の主要都市の放射線量は低下」し、「ふるさとに帰った人たちにも日常の暮らしが戻りつつあります」と、断定的で、不正確で間違の多い内容となっている。
「少量の放射線被ばくは問題ない」
当日の交渉の主な質問と回答は以下の通り。
【質問】誰のためのパンフレットなのか
【回答】福島以外の地域の人は、福島の健康被害が大きいと思っている。そうした「いわれのない偏見や差別」という誤解を解くための、一般の人向けのパンフレットだ。
【質問】原発事故による放射線被ばくは不当な被ばくだ。自然放射線や医療放射線をとりあげて「放射線はゼロにはできない」とするのはすり替えだ。不当な被ばくという視点は、「放射線のホント」のどこにも書いていない。
【回答】科学のメインストリームに則って、放射線の基本的な事項について記載をしている。被ばくする必要のなかった余分な被ばくをしたことは、我々も認識している。人体に対する影響については、自然放射線と人工放射線で違いはない。
【質問】「100ミリシーベルト以上の被ばく」だけを問題にしているが、事故前にはなかった低線量の放射線被ばくが問題になっている。「少量なら被ばくしても問題ない」という趣旨なのか。放射線防護の立場をとるのか、それとも放棄するのか。
【回答】放射線防護の必要性は否定しないが、放射線防護は厚労省で、復興庁はその立場ではない。パンフレットでは、放射線の「量の問題」が重要であり、少量の放射線被ばくは問題ないという立場だ。
【質問】「(放射線の影響は)遺伝しません」と断言している。しかし、環境省の「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成28年度版)第3章」では、「国際放射線防護委員会(ICRP)では、1グレイ当たりの遺伝性影響のリスクは0.2%と見積もっています」と書かれている。「遺伝しません」と断定するのは間違いだ。
【回答】ICRPの勧告や原爆での事例を含めた調査等において、放射線被ばくに起因するヒトへの遺伝性影響の発生は証明されていないと承知している。三菱総研のアンケート調査によると、放射線被ばくによる健康影響の可能性があると回答した方が半分以上にも及ぶ。こういう現状を勘案した結果、遺伝的影響についての誤解を解消したいと簡潔で明確な表現にした。
福島の人の尊厳を傷つける内容
復興庁は最後まで、原発事故による放射線被ばくは不当な被ばくとは認めず、パンフレットの撤回を拒否した。「科学的知識の不足が風評被害の原因」としながらも、科学的知識を否定する内容となっている。
これに対して参加者からは、「誤解を解くパンフレットだというのはおごりだ」、「差別や風評被害の原因を作ったのは誰だ。福島の人の尊厳を傷つける内容ではないか」などと厳しい批判が噴出した。
「放射線のホント」には、国や東電の責任、被災者の思いについては一切触れられていない。「問題のすり替え」、「事実ではない嘘」、「問題点の隠蔽」に満ちている。「”放射線のウソ”」というべき内容で、ただちに撤回すべきだ。
「ヒバク反対キャンペーン」では今後、撤回を求める署名および団体賛同を募り、再度の政府交渉をおこなう予定だ。
(かたおかりょうへい)
※「放射線のホント」(復興庁)の内容はこちらhttp://www.fukko-pr.reconstruction.go.jp/2017/senryaku/pdf/0313houshasen_no_honto.pdf
加盟団体の活動から(第8回)
自らの要求は自らの行動で勝ち取る
全印刷局労働組合 組織対策部長 宮本 博司
ユースネットワーク組合員の沖縄平和行進 |
全印刷は、戦後間もない1947年に結成され「生きるための、働けるだけの賃金を求める」生活防衛の闘いに始まり、反合理化、いのちと権利、反戦平和、そして行政改革に対する闘いを、組合員の「統一と団結」をもって「自らの要求は自らの行動で勝ち取る」ことで闘い抜いてきました。その結果、長期雇用安定協約の締結、事前協議制の確立、民間準拠による賃金決定システムの確立等を勝ち取り、その運動の成果は現在の運動に脈々と受け継がれています。
そして、現在は「組合員とともに歩む運動」に向け、「組合があって良かった」と実感できる組織をめざし、全組合員との対話活動、世話役活動に総力を挙げて取り組んでいます。
また、かつての愚かな戦争の反省に立ち「二度と戦争による犠牲者を出してはならない」と固く決意し、「戦争の悲惨さと平和の尊さ」を歴史に学びながら、平和憲法の理念・精神を次世代に継承していくことを運動の基本に据え、結成以来、一貫して日本国憲法の理念である「国民主権・基本的人権・恒久平和」を守り、自由・平等・公正で平和な社会の実現をめざし全力で取り組んできています。とくに現在、35歳以下の若年層組合員で構成する「ユースネットワーク」において、反戦平和・核廃絶の取り組みを運動の柱に据えて取り組みを進めています。
具体的には、平和フォーラムや連合の平和運動への参加を基本に、毎年5月の沖縄平和行進、8月の広島・長崎平和行動、11月の護憲大会、また、現政権が推し進める戦争ができる国づくり、民主主義をないがしろにする数々の暴挙に対峙する集会やデモ行進などに結集し、常に平和と民主主義を守る問題に関心を持ちながら、その活動を強めています。
(みやもとひろし)
〔映画の紹介〕
「NO」
ノー パブロ・ラライン監督/チリ/2012年
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「2020年改憲」の策動は、いまなお続いています。今国会では改憲議論は進みませんでしたが、あの安倍首相ですから、自らの求心力維持のために改憲発議を強行する可能性があります。
そうはさせない私たちのたたかいが何よりも重要なのは言うまでもありませんが、いざ「国民投票」となったときのことも十分に分析しなくてはなりません。いまの「国民投票」のしくみでは広告宣伝費や運動費の規制がなく、たとえば投票日の2週間前までのテレビCMは流し放題です。これらの規制要求は当然ですが、自民党などは後ろ向きです。
いずれにせよ、1億人の人びとに、どれだけ私たちの思いを伝え、対話し、理解を得ていくのかは、運動を拡げていくにあたり、検討すべき課題です。そのことを考えるうえで参考になりそうなのが、この映画です。
チリのピノチェト独裁下、大統領任期延長の是非を問う国民投票が行われます。しかし、反対派は四分五裂。賛成派・反対派それぞれにテレビ放送の枠が毎日15分与えられますが、反対派が当初準備したものはピノチェトの行った弾圧の告発に終始する内容でした。
投票日が迫るなか反対派の番組製作に、知人の頼みで渋々かかわることになったのが、広告プランナーである主人公、レネです。レネは広告の手法を導入し、明るいロゴマーク、テーマソングなどでイメージを一新させます。打ち出したスローガンは「チリ喜びはすぐそこに」。
紆余曲折は続きます。反対派内部からはキャンペーンの内容への異論が噴出します。一方で、権力による圧力が強まり、レネにも脅迫が繰り返されます。ついには一人息子を別れた妻の家に避難させなくてはならない状況に陥ります。しかし、明るい未来を描いたキャンペーンは次第に人びとの心をつかみ、ピノチェト退陣をかちとります。
政治や憲法に、距離を感じている人びとがたくさんいる現状があります。私たちがこの憲法でつくろうとしている未来のイメージを伝え、ひろく共有していくために、どうするべきでしょうか。
時間はそれほどありませんし、お金もありません。なかなか大変です。しかしそんな困難な状況だからこそ、ユーモアや希望、そして創意工夫を忘れないことが大切なのだと思います。
(山本圭介)
核のキーワード図鑑
地球の心配はつきない 温暖化に原発事故、核のゴミ |
パンフ「 2018核も戦争もない21世紀へ 核問題入門」
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被爆73周年原水爆禁止世界大会に向けたパンフレットを発行しました。学習会等でもご活用ください。
★核兵器廃絶にむけて
核兵器とは/いま核兵器が使われたらどうなるか/核実験の歴史/世界の核兵器/核不拡散条約(NPT)上の核兵器国の状況/NPT非加盟の核保有国の状況/日本の核政策/核軍縮交渉の現状/非核兵器地帯とは/東北アジア非核兵器地帯とは/広がる「核兵器の非人道性」への認識/核兵器禁止条約が成立/核兵器廃絶に向けた自治体の動き
★脱原発に向けて
なぜ脱原発か?/福島原発事故が教えるもの/「廃炉の時代」へ/破綻する核燃料サイクル/六ヶ所再処理工場を止めよう/放射性廃棄物のゆくえ/やっぱり脱原発
★ヒバクシャの現状と課題
ヒバクシャをつくらないために/被爆体験者とは/在外被爆者とは/被爆二世問題とは/ビキニ水爆実験の影響/大気圏内核実験による被害とは/原発、核兵器製造サイクルが生みだす核被害/原発事故による被害とは/ニュークリア・レイシズム
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