2018年、ニュースペーパー
2018年02月01日
ニュースペーパー2018年2月
- みんなが支えあって社会を作っていく基盤を赤石千枝子さんに聞く
- 山城議長らの無罪を勝ちとるたたかい
- 軍事への従属を深める技術開発
- 健康食品による被害に公的救済制度を!
- 東海第二原発の運転期間延長申請を考える
- 核廃絶を求めて―世界に広がる高校生平和大使
- 日米原子力協定と反核運動
- 原発事故避難者に住居明け渡しを求める提訴
- 加盟団体の活動から:全国ユニオン/本の紹介
- 核のキーワード図鑑
アフリカ支援米 今年も3万キロを送る
「マリのみなさん、みんなでつくったお米です。たべてください」─こんなメッセージが書かれた米袋が東京・大田区平和島の倉庫に積み上がっています。平和フォーラムが中心となり「食料不足に苦しむ人々を支援しよう」と、生産調整田や休耕地に市民や子どもたちが米を作付けして、アジア・アフリカの食料不足国に送る運動が30年以上も続いています。中には、小学校の授業の一環として子ども達が参加している所もあります。
昨年も38都道県で取り組まれ、12月から2月にかけ、約3万kgがアフリカ・マリ共和国に送られることになりました。マリは国土の3分の2がサハラ砂漠で、乳児の死亡率が高い「最貧国」の一つ。提携しているNGO団体の「マザーランド・アカデミー」の村上章子代表(写真右)は「支援米は緊急支援、自立支援、テロや戦争防止の役割があります。配布先では食料の生産にも取り組み、できたものを分け合うことで村落の再生にもつながっています」と活動の意義を強調し、支援の継続を求めています。お米は東京港から2ヵ月程かけて届けられます。(下写真は倉庫に集められた支援米(2017年12月・東京平和島)、上はマリの子ども達と米の作付け活動)
インタビュー・シリーズ:129
みんなが支えあって社会を作っていく基盤を
NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ 理事長 赤石 千枝子さんに聞く
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あかいし ちえこさん プロフィール
シングルマザー当事者として、シングルマザーと子どもたちの応援をしている。社会保障審議会児童部会ひとり親家庭の支援施策の在り方専門委員会参加人。社会福祉士。著書に『ひとり親家庭』(岩波新書)、編著に『母子家庭にカンパイ!』『シングルマザーのあなたへ暮らしを乗り切る53の方法』『シングルマザー365日サポートブック』など。
─2014年、千葉県銚子市で県営住宅の強制退去当日に追い詰められた母親が娘を絞め殺すという事件がありました。また、電気もガスも止められ、水は公園にくみに行くという母子家庭の話も新聞記事になりました。母子家庭の置かれた現実は大変厳しいものだと思われます。どのような支援をされていますか。
シングルマザー世帯の就労による平均収入は200万円、手当や年金を合わせて243万円です。もちろん個人の状況や地域によって違いはありますが、最低賃金すれすれで働いている方が多いというのは事実ですね。特に12月はクリスマスやお正月の準備があるので、お子さんに何かしてあげたいとなると、母子家庭にとっては大きな支出となり、その分食費を削るんです。そこで、年末の食料品パッケージを約180世帯に送るとりくみをしました。支えられていると実感してくださり、喜んでいただけます。
─日本はひとり親家庭、特に母子家庭の貧困率が先進国で一番高いのですが、その理由はどこにあるのでしょうか。
それは女性の賃金が低いこと、子育て・家族に対する施策が少ないこと、子どもの教育費の私的負担が大きいことの3つではないでしょうか。日本の女性のジェンダーギャップ指数(各国の社会進出における男女格差を示す指標。世界経済フォーラムが毎年公表)が114位というのはかなり深刻だと思います。これを容認してきたのは、正社員男性の稼ぎ主システムであり、「母ちゃん食わせる賃金を」と言ってきた労働組合の問題でもあると思っています。そこから脱却する発想がなかったので、結果的にはここまでひどくなってしまいました。
日本のひとり親家庭の相対的貧困率は、先進国のOECD諸国の中で最悪です。ジェンダーギャップのうち、特に経済と政治における格差が日本は大きいのです。女性の賃金が低いということですね。当初所得にすごく格差があるだけでなく、さらに子育て支援・教育支援・家族支援が薄い。保育園にも入れなかったり、住宅手当もほとんどない。家賃だけでシングルマザーの収入の半分を占めるまでになってしまいます。
─戦後の政策の基本には家庭と企業があり、福祉政策はほとんどなかったかのように思われます。
福祉政策において介護・医療・年金はそれなりにありますが、子育て世帯に対する支援は予算規模も小さいままです。家族頼み・企業頼みの政策の中で生活ができていた時代はよかったけれども、90年代にそれが崩れたにもかかわらず、その他のセーフティネットを増やせないまま高齢化社会に突入してしまいました。それに90年代に配偶者控除を廃止して男女平等の施策を実現していれば、女性の賃金はもっと伸びたと思います。これには野党も責任があるように思います。専業主婦世帯の人が主流の組合を基盤にしていたため強く要求してこなかった。政策を転換できなかったそのしわ寄せが結果的にシングルマザーに集中して貧困を招いていると思います。
シングルマザーはなんでこんなに収入が低いのかというと、配偶者控除を受けている人たちの働き方と賃金に引っ張られているからです。夫の税負担を少なくするよう、103万円以下で働くパート主婦がたくさんいる職場で、シングルの人は似たような働き方をするために賃金が上がらないのです。
2017年9月親子のBBQ。子どもたちは大喜びだった |
─今の若い女性の中にも「いつか結婚して家庭に入るべきだ」という考え方が存在しているような気がします。保守的な家族観の影響はないでしょうか。
ロマンチックラブ・イデオロギーとか、「幸せな結婚像」が浸透しているのでしょうか。男性に依存すればリスクが大きくなると思うのですが、男性に依存するのではなく自分で切り開いてくしかないというようなメッセージも世の中には少ない。それに「自立して働くんだ」「共働きで行こう」と思っていても、夫の転勤だとか、自分が妊娠して切迫流産になって働けなかったなど、いろいろな事情で涙を呑んで仕事を辞める女性がたくさんいます。いまでも結果的に50%の人が継続就労できずに第一子の出産のときに仕事を辞めていますね。
3歳まで母親が直接育てたほうが子どもにとっていいという「3歳児神話」があります。これは大規模な追跡調査によって根拠のないものであることが証明されているし、90年代には厚生省も母親が働いていても、子どもに悪影響を及ぼすことはないと国民生活白書で発表したんですよ。それにも関わらず、いまだに多くの若いママたちが信じているんですね。周りの年上の女性から「子どもを預けて働くのはかわいそうだ」と言われると、ぐらぐらしちゃうんですよ。そういうことと、性別役割分業意識や「家」制度の残存物のようなものが混じっていますね。
─安倍政権が消費税を増やし幼児教育の無償化に使おうといっていることについてはどう思われますか。
子どもたちにもっとお金を使おうというのはよいと思うのです。困っている人にだけ保障を与えろということだけを主張し続けると、余計に分断が進んでしまいます。できれば幼児教育の無償化というところでかなり広い層が受益者になる必要があると思います。税金を払うことが自分たちに返ってくるという経験をしていくということは大切だと思うんです。でも実際は所得制限などをつけたら、意味が違ってしまいます。
もちろん税がどう使われるか、透明性が確保されていないと信用できないという思いもあるのは分かります。ただ、高齢化社会に向かっているときに、負担を増やさないで社会保障を充実させようなんて無理です。
─この間、法人税も下がり続けてきましたが、一方で企業の内部留保は増え続けています。
私は3年前に「公正な税を求める市民連絡会」に参加して勉強してきました。そうした中で研究開発費などに適用される法人税特別措置というものがあるということなど、知らないことが多かったですね。税というものがもっと身近にならなきゃいけないということで、「税金カフェ」というのをやっています。改憲問題が話題になった時、みんな議論を重ねながら、9条だけでなく、24条とかにも詳しくなりましたよね。税についてもみんなで話し合うことが必要ではないでしょうか。
税を逃れるではなく、みんなが負担をしながら支えあわなければいけないと思います。日本のみんなが意識的にならないと、日本は高齢化社会を乗り切れるわけがない。応分の負担をしながら支えあうほうがいいと思うんです。
─平和の問題に関心を持てない、声が届かない人たちが存在します。そうした人たちにアプローチするために、平和フォーラムは何をしなければならないと思われますか。特に分断をのりこえるためには何が必要でしょうか。
米国のトランプ政権誕生が象徴的なように、先進国で起きているのは分断です。それはみんなが支えあって社会を作っていくという基盤があまりにも薄くなっているからではないかと思います。平和運動に関わる人たちが限られたメンバーシップの中で平和を論じていたらいけないと思います。
シングルマザーと子どもたちを応援するNPOを運営する私たちが、こうした分断の解決策について話すのは荷が重いです。ただ、私たちも、シングルマザーと子どもたちのための寄付を集めており、そういった共感の輪は広がっており、それに支えられて事業を行っています。貧困家庭や孤食の子どもに食事を提供する「子ども食堂」なども地域の中でそういう輪を広げていると思います。
それだけでなく、シングルマザーに対する政策も改善する働きかけを行っており、2年前に児童扶養手当の第二子・第三子の加算額をほぼ2倍にすることに成功しました。与党にも話をしてくれるようなグループと一緒にがんばったので実現したのだと思います。これで結局80億円ものお金が動いたわけじゃないですか。ロビー活動のやり方も少しずつ変わってきて、インターネットの中で記事を書くことで市民や国会議員のみなさんにも読んでもらえると思います。バッシングの勢いもありますが、一方できちんと伝えていこうという動きもあります。最近は生活保護のことについても書いたのですが、心ある人は読んでいると思うので、こうしたことを積み重ねて、政治を動かしていくのも大事だと思います。
インタビューを終えて
「世界経済フォーラム」が発表した男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」の報告書(2017年版)では、日本は世界144カ国中114位となり、過去最低だった前年の111位からさらに後退した。女性が「自立して生きていく」ことを、日本社会が阻んでいる。その社会に風穴を開けるには、どうしたらよいのか。でなければ、シングルマザーの生きづらさは変わることはない。女性の社会進出を、すべての人々が支えていかなくては、日本社会の発展はないだろう。
(藤本泰成)
山城議長らの無罪を勝ちとるたたかい
問われるべきは民意無視、人権侵害、沖縄差別の新基地建設強行
沖縄平和運動センター事務局次長 岸本 喬
公判前集会でアピールする山城議長 (那覇市・城岳公園 2017年12月20日) |
沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設や東村高江の米軍北部訓練場ヘリコプター発着場建設に対する抗議活動をめぐり、威力業務妨害や公務執行妨害・傷害などの罪に問われた沖縄平和運動センターの山城博治議長ら3人に対し、昨年12月4日、那覇地裁の18回目の公判(論告求刑)において、検察側は「主義主張を違法な手段で実現しようとした。正当化できない」「憲法上の自由が保障された表現行為と言えない」「指揮、主導するなどした首謀者で一番重い非難が妥当」などと主張して、山城議長に2年6月を求刑しました。同時に「共謀」したとして稲葉博さんに1年、添田充啓さんに2年を求刑しました。
同月20日には、19回目の公判(最終弁論)があり、弁護側は沖縄戦、戦後の米軍占領など沖縄の歴史的背景、沖縄差別や基地負担の現実など、裁判の本質を問い「憲法を踏みにじる日米両政府の姿を直視し憲法の理念に基づく判決を願う」と求め結審しました。判決は今年3月14日に言い渡されます。
国家権力総動員の機動隊の暴力
少なくともこの問題は1996年4月12日のSACO合意から始まります。本来は日米地位協定に遡りますが、紙面の関係上、以下の経過に触れておきます。
辺野古新基地建設を米国のために強行を決意した安倍政権は、2014年6月20日にまず日米合同委員会を開き、同年7月1日に閣議決定をして、「工事完了の日まで」とする臨時制限区域を設定しました。同時に同日よりキャンプ・シュワブ内の既存施設の撤去作業に着手しました。沖縄平和運動センターは、ヘリ基地反対協議会や基地の県内移設に反対する県民会議と協議し、同月10日から工事車両専用ゲートで、「逮捕者を出さない、怪我人を出さない」とする非暴力直接行動として座り込みを開始しました。それから今年1月12日で1286日におよぶゲート前座り込みとなりました。
機動隊が配置され連日排除されても、1秒でも1時間でも搬入を遅らせようと、真夏日は40度を超えるアスファルトの上でも座り込みを続けてきました。ところが安倍政権は、沖縄県警では手ぬるいと考え、2015年11月に警視庁の機動隊を送り込んできました。ここからまさに警察権力むき出しの強制排除が行われていきます。それでも水・木・土曜日を集中行動日として、参加者が結集し機動隊も手を出せない状況をつくりだしていきました。それでもどうしても参加者が少ない曜日に、すぐに撤去可能な1個15㎏前後のブロックを積み上げていきました。これも機動隊は15分もかからず撤去し、工事車両の搬入を行わせていました。
2016年1月には、国が知事を訴えた代執行訴訟において、裁判所が和解勧告を提示し、同年3月から事実上、工事が中断しました。しかしほっとしたのもつかの間、米国追随の安倍政権は、7月22日から東村高江に北部訓練場のオスプレイが訓練可能なヘリパッド建設を強行しました。しかも警視庁をはじめ、大阪府警、千葉・神奈川・愛知・福岡の各県警から約500人の機動隊を動員して、権力の横暴を超えた恐怖政治さながらの蛮行に踏み切りました。沖縄県民の基本的人権よりも日米安保体制が優先されるのが私たちの国なのです。
不当逮捕、不当勾留、そして不当裁判
安倍政権が、辺野古新基地建設と高江オスプレイパッドの建設を強行する中、2016年10月16日に山城議長が高江の森の中で「器物損壊」で不当逮捕され、それから「公務執行妨害・傷害」「威力業務妨害」で再々逮捕されました。その後、2017年3月18日の釈放まで、家族すら面会も許されない5ヶ月に及ぶ不当な長期勾留が行われ、先述のとおり20回に及ぶ公判を経て、来る3月14日の判決となります。
国家権力による弾圧を跳ね返し、新基地建設を阻止しよう
この裁判闘争を支えていただいている琉球大学の森川恭剛教授は「山城さんたちが無罪である理由、それは新基地建設が許されない理由そのものです」とコメントしました。国は米国に追随して、何が何でも新基地をつくるためあらゆる国家権力を動員し沖縄に襲いかかっています。それは表現の自由、人権を力ずくで押しつぶしながら進められているのです。
山城議長は12月20日の最終弁論において「問うべきは差別的沖縄施策だ」と訴えました。住民視点から見れば、違法は明らかに国です。山城議長らの無罪を勝ちとると同時に新基地建設を何としても阻止しなければなりません。全国の仲間の支援連帯が大きな力となっています。無罪を求める署名行動も提起させていただいています。変わらぬご支援をお願いいたします。
(きしもとたかし)
軍事への従属を深める技術開発
「誰のための技術か」の問いかけを
武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表杉原浩司
2006年に国会議事堂に隣接する憲政記念館で、日米の軍需企業幹部や国防族議員らが集まって「日米安保戦略会議」が開かれた。憲法50年記念ホールには「ミサイル防衛」用の迎撃ミサイルなどの実物大模型が展示され、シンポジウムで大古和雄・防衛庁防衛政策課長(当時)がこう言い放った。「日米の得意技術を結集することで(新SM3ミサイルの)早期開発が可能になる。そのためには日米で自国のはらわたまでお互いに見せ合うことが必要だ。NATOでもそこまで至っていない」。
あれから12年。大古がグロテスクな表現さえ用いてその意義を強調した「SM3ブロック2A」を、日本は2021年度にも調達し、「イージス・アショア」への搭載も見込んでいる。日本の得意技術を臆面もなく武器の共同開発に投入する流れは、2014年4月の安倍政権による武器輸出三原則の撤廃によって、歯止めなく進展していく。ただし、その前段で大きな一歩を記したのが、野田民主党政権による武器の国際共同開発を丸ごと武器輸出三原則の例外とする決定だったことは強調しておかなければいけない。
武器輸出反対ネットワークが発行した 抗議ビラの表紙から |
税金投入し大学での軍事研究
この流れの最先端は、戦闘機に搭載する空対空ミサイル「ミーティア」後継型の日英共同技術研究である。三菱電機の「シーカー」と呼ばれる高性能レーダーが組み込まれ、2018年度に試作品の製作に進むとされている。
完成した暁には、世界で約3000機もの調達が見込まれるF35戦闘機などへの搭載が想定されている。F35は既にイスラエルが購入し、ガザ空爆で使用している。新型ミサイルの搭載も十分に予想される。日本の優れた技術が露骨な殺傷用兵器に組み込まれ、戦争犯罪をもたらしかねない。
技術研究と武器開発の急接近を示すもう一つの光景は、防衛省による「安全保障技術研究推進制度」であろう。「基礎研究」の名のもとに、税金を投入して大学や研究機関などを軍事研究へと誘導するこの仕組みは、2015年度3億円、2016年度6億円から、2017年度には一気に110億円に激増した。
研究費不足にあえぐ大学への攻撃に対して、日本学術会議が2017年3月に新声明を採択。過去の軍事研究禁止声明を「継承」し、防衛省の制度への応募を強く抑止する内容となった。これによって、防衛省の制度に応募しないと表明する大学も相次ぎ、2017年度の大学の応募は横ばいに留まった。最近になって、岡山大、東海大、東京工科大、東京農工大が「分担研究」として採用されたことが判明した。「確信犯」とも言うべきこうした大学に辞退を求める取り組みが、軍学共同反対連絡会などによって準備されつつある。
一方で、JAXAなどの公的研究機関や軍需企業がこの制度に食い込み、採用を拡大させている。「軍産連携」を先行させる形で日本版「軍産学複合体」の形成をめざす方向にシフトしつつあることに十分な警戒が必要だ。
新たな武器開発に向けた軍拡予算
次に、通常国会で大きな議論となるべき軍拡予算案を見ておきたい。イージス・アショアの導入費や敵基地攻撃兵器の購入費に加えて、新たな武器開発に向けた予算が目立つ。「高速滑空弾」「新対艦誘導弾」の研究費は「日本版トマホーク」とも言うべき敵基地攻撃兵器を目指すものだ。無人機などを撃墜するための「高出力レーザーシステム」研究費や、相手のセンサーや情報システムを無力化する「電磁パルス弾」の研究費も計上された。
こうした新たな武器開発への志向の背景にあるのが、防衛装備庁が2016年8月に公表した「防衛技術戦略」などの文書である。そこに書かれた「無人化、スマート化(注:AI)、ネットワーク化、高出力エネルギー技術」などの文言は、科学技術政策の「司令塔」とされる「総合科学技術・イノベーション会議」がまとめた「総合戦略2017」にまで盛り込まれた。米国の「第三の相殺戦略」(民間技術の取り込みによる武器の革新で軍事的優位を確保する)に追随する形で、科学技術全体の上からの軍事化が図られている。
こうした時代に抵抗の足がかりとなるのは「技術は誰のためにあるのか」という根源的な問いかけではないか。目先の利益に引きずられて、戦争犯罪に加担するような研究開発に手を染めていいのか。私が大好きなNHKドラマ「ハゲタカ」の中で、軍需ファンドへの光学レンズ部門の売却を従業員による独立(EBO)という起死回生の手段で阻止したベテラン特級技能士が、仲間にこう問いかける。「われわれ技術者も、技術が何のために使われているのか、責任を持って感じ続けなきゃいけないと思う」。大学や研究機関、企業の中にいる一人ひとりの研究者、技術者に届く言葉と届かせる努力が求められている。
(すぎはらこうじ)
健康食品による被害に公的救済制度を!
科学ジャーナリスト、食の安全・監視市民委員会運営委員 植田 武智
頻発している健康食品による肝障害
2017年8月3日に、独立行政法人国民生活センターは「健康食品の摂取により薬物性肝障害を発症することがあります」という注意喚起を発表しました。ドクターメール箱という、医師がセンターへ直接通報する制度で9件の「健康食品の摂取による薬物性肝障害」が報告されています。消費者へのアドバイスとして「健康食品の摂取により、まれに薬物性肝障害を発症することがあります。『倦怠感』『食欲不振』『発熱』『黄疸』『発疹』「吐き気・嘔吐」『かゆみ』などの症状が見られ、症状が持続する場合は、摂取を止めて速やかに医療機関を受診しましょう」と呼びかけています。
薬物性肝障害とは、文字通り薬物が原因で肝臓の機能が障害を受けることです。肝機能障害の原因としては従来、肝炎ウイルスやアルコールが指摘されてきましたが、最近の全国調査では薬物性肝障害が急性肝不全の約15%を占めていると指摘されています。医薬品が原因で発症するケースは多いのですが、97年~2006年の10年間の調査では、健康食品が原因の薬物性肝障害が全体の10%を占めるようになっています(図参照)。
特に、健康食品が原因となる薬物性肝障害の場合、発見が遅れがちになります。処方薬が原因の場合は、医師がこまめに血液検査をするため発見されやすいわけですが、健康食品の場合、よほどの症状が出てからでないと病院に行かないので、定期健診か他の病気での検査で偶然見つかるしかありません。
通常は原因となった薬や健康食品を止めれば回復しますが、劇症肝炎や急性肝不全などは重症化し、最悪の場合は死に至るケースもあります。また急性症状が出ないため、発見が遅れ、健康食品を漫然と摂り続けた結果、慢性肝炎から肝硬変となって見つかる例もあります。
薬物性肝障害の10%は健康食品が原因 堀池典生他「薬物性肝障害の実態全国調査」 (恩地森一監修、中外医学社)を基に筆者作成 |
トクホや機能性表示食品でも被害が
健康食品には大きく分けて、国が認めたものと認めていないものの2種類があります。国が認めたものとは「特定保健用食品(トクホ)」「栄養機能食品」「機能性表示食品」の3種類です。それ以外のサプリメントや健康食品は、行政用語で「いわゆる健康食品」と言われ、そもそも健康への特別な効果は表示してはいけないものなのです。しかし、実際には、サプリメントなど錠剤やカプセル状の商品を、何らかの効能効果を期待して摂取をしているわけですから、本来は違法な食品群なのです。それら「いわゆる健康食品」は速やかに販売禁止にするべきです。
ところが現実には、健康食品事業者の多くは、一部の商品でトクホや機能性表示食品として販売しながら、残りの多くの商品を違法な「いわゆる健康食品」として販売し続けています。この異常な状態を抜本的に改善しない限り、健康食品による健康被害はなくなりません。
一方、今回の国民生活センターの注意喚起の中には、トクホの粉末青汁での肝機能障害の事例も報告されています。また目のピント調節をうたう機能性表示食品を摂取して肝機能障害が起きた事例も重大事故として消費者庁が発表した事例があります。つまり国が認めた健康食品でも健康被害は起きているということになります。
医薬品のような副作用救済制度を
医薬品の副作用で健康被害を起こした場合、公的な「医薬品副作用被害救済制度」があります。救済制度では、医薬品を適正に使用したにもかかわらず、発生した副作用による一定の健康被害(入院以上)が生じた場合に、医療費などの給付が行われます。この時、薬と健康被害の因果関係の証明は個別に行う必要はなく、医薬品の添付文書に副作用の記載があれば認められます。救済に必要な費用は医薬品製造販売業者から納付される拠出金が原資となっています。
一方、健康食品による健康被害ではそうした公的な救済制度はないため、現状では、被害者が事業者と交渉するか、訴訟で解決するしかありません。トクホなど国が認めた健康食品以外については取り締まりを強化し、国が制度化した健康食品が原因で起きた健康被害については、医薬品のような副作用救済制度の創設が必要です。
「食の安全・監視市民委員会」では、このような健康食品による被害問題についての啓発のためのブックレット「健康食品で被害に会わないために~肝臓が危ない~」を2月に発行します。過去に肝障害の原因と疑われた健康食品成分表一覧や、被害にあわないための商品選び、被害を受けたらどうするか、などをまとめました。ぜひブックレットを購読して下さい。問合せは「食の安全・監視市民委員会」事務局まで(電話03-5155-4765日本消費者連盟内)
(うえだたけのり)
東海第二原発の運転期間延長申請を考える
原子力行政全体の監視を強めよう
原子力資料情報室 共同代表 西尾 漠
日本原子力発電(日本原電)が茨城県東海村に所有する東海第二原発は、2018年11月28日で、原子炉等規制法が「運転の期間」として定めた営業運転開始から起算して40年を迎える。それまでに運転を終了しなくてはならない期限だが、原子力規制委員会の認可を受けて1回に限り20年を超えない期間で延長することができる例外規定がある。
東海第二原発は再稼働に向けた新規制基準適合性の審査中である。この審査に合格して必要な許認可を得ても、安全対策工事が終わるのは早くても2021年3月とされていて、40年の運転期間を超えてしまう。そのため日本原電は2017年11月24日、運転期間の20年延長認可を原子力規制委員会に申請した。新規制基準に合格していれば、運転期間延長のハードルはかなり低い。
運転期間の延長は例外規定である、と福島原発事故後の原子炉等規制法改正案の国会審議では強調されていたが、すでに関西電力の美浜原発3号機、高浜原発1、2号機で認可されており、もはや「例外」ではなくなっている。
原子力発電のパイオニアの役割も薄れ
運転期間延長の前提となる再稼働の許認可を見てみよう。新規制基準適合性についてはほぼ合格の見込みだという。技術面とは別の問題として、2017年11月14日に開かれた審査会合で原子力規制委員会側は日本原電に対し、1740億円と見積もられている安全対策工事費を銀行から借り入れる際の債務保証の枠組みを示すよう求めた。原子炉設置許可・変更許可の基準の一つに「経理的基礎があること」と定められているからである。
東海第二の発電電力量の8割を受電してきた東京電力は「『東海第二が本当に動くかどうか分からない』(東電関係者)中での支援には及び腰」であり、また「『事実上崩壊している会社が、崩壊しそうな会社の手助けをできるのか』と世論を気にする意見もある」(2017年12月24日付け朝日新聞)。といって2割しか受電していない東北電力が単独で引き受けられるかといえば、それも難しそうだ。果たして原子炉設置変更許可は出せるのだろうか。
大きな問題は、安全対策工事より、日本原電の「経理的基礎」だろう。日本原電は北海道から九州までの9電力会社+国営だった電源開発という、いわば「電力事業者全体」の子会社として、日本初の商業用原発である東海原発の建設のために設立された。その後、日本初の沸騰水型炉である敦賀原発や、初の大型原発である東海第二原発を他社に先駆けて建設してきた。しかし、そうした「原子力発電のパイオニア」としての役割も薄れ「電力事業者全体」にとってはお荷物となっている。
2017年11月17日付け朝日新聞には「原発の廃炉費、大幅不足/原発建設に流用」という記事が載った。社内に積み立てられている廃炉費用(解体引当金)を敦賀原発3、4号機の建設費用として使ってしまったという。引当金の計上と資金の運用は別であって「流用」ではないのかもしれないが、問題は廃炉費用が必要な時に資金調達の見込みがない状態に陥ってしまっていることだ。運転期間を延長して再稼働なんてできるわけもない。
原発維持政策のための運転延長・再稼働か
ところで、日本原電はどこまで本気なのだろう。運転期間延長について、2017年11月27日付け電気新聞の「解説」にいわく「原子力プラントのいわゆる『40年運転制限』では、その時点での稼働の意思にかかわらず、対応しなければ『廃炉』に追い込まれる複数のタイムリミットがある」。
わざわざ「稼働の意思にかかわらず」というのが意味深である。『エネルギーフォーラム』2018年1月号の「覆面ホンネ座談会」で、匿名のエネルギージャーナリストいわく「経産省次官の嶋田隆さんが『原電は、東海2号は再稼働しない方が良い』と言っている」。
関西電力は3基の60年運転認可を得る一方、2017年12月22日に38年運転した大飯原発1、2号機の廃止を決定した。12月25日付け電気新聞の「解説」から、某大手電力幹部の言葉を引用する。「ボランティアで事業はできない。収益性は重要な判断要素になる」。関西電力が3基の運転延長認可を得たのは、東京電力没落後の電力業界のリーダーとして政治的決断を迫られたから。とはいえ、いつまでも収益性を無視した対応はできないということだ。
「原子力発電のパイオニア」を自らのアイデンティティとする日本原電としては、その最後の仕事が東海第二原発の運転期間延長をともかくも申請することだったのだろう。そうだからといって、東海第二原発は運転期間延長・再稼働されないと考えているわけではない。政府が策定中の新しい「エネルギー基本計画」でも再確認しようとしている原発維持政策を実現するには、運転期間延長・再稼働が避けられない。「原子力の事業環境整備」の名のもとに、強力な原発優遇の仕組みがつくられれば逃げ出すわけにはいかなくなる。規制行政にとどまらない原子力行政全体の監視を強める必要がある。
(にしおばく)
核兵器の廃絶を求めて―世界に広がる高校生平和大使
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成
私が神奈川高教組の書記長をしていた2004年に、長崎の平野伸人さん(平和大使活動の世話人)の訪問を受けました。これまで長崎の生徒だけだった高校生平和大使を全国に広げたい、神奈川高教組で派遣できないだろうかというお話でした。高校生が主体的に核兵器廃絶のための1万人署名活動を行い、国連欧州本部での軍縮会議に「核兵器廃絶」の声を届けることに否はない、そう考えて引き受けました。その後、苦労することも多いですが、平和大使の活動は大きく広がり、その時の判断は間違っていなかったと思っています。
社会と向き合い続ける平和大使たち
それまで毎年2~3人の派遣でしかなかったものが、2005年の第8代平和大使は、長崎の2人に神奈川と広島、そして英国留学中の1人を加えて5人の派遣となりました。この年を境に、第10回が8人、14回が12人、15回は18人、そして17回からは20人を超える平和大使が、ジュネーブの国連欧州本部で開催される国連軍縮会議に対し、署名を持って「核廃絶」の思いを伝えています。
神奈川では、第8代平和大使のフェリス女学院の小檜山なつ子さんから2017年の第20代平和大使まで16人を数えますが、男子は第12代の山本大記さんしかいません。選考に当たっては、複数の目でとらえ、様々な視点から検討していますが、この傾向は変わりません。平和大使全体でも男子生徒はごく少数にとどまっています。「世界経済フォーラム」が昨年11月2日に出した男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」において、日本は過去最低だった2016年の111位からなお後退して144ヶ国中114位となっています。高校生平和大使の圧倒的な女性優位から考えると、日本がその社会構造の中でいかに女性の力をないがしろにし、その芽を摘んでしまっているかがわかります。
歴代の平和大使の多くは、自らの人生を主体的に歩んでいます。NHKや新聞社の記者であったり、NGOで働いていたり、神奈川出身の第14代平和大使の高松奈々さんのように、社会問題を語れるお笑い芸人を目標にしながら、東京大学大学院で学んでいる人もいます。また、JALのボーイング777の機長もいますし、父親の植村隆さんとともにいわれない差別・中傷と闘い続けた植村知世さんもいます。高校生平和大使の運動が、一人ひとりの高い見識を育て、社会正義にそれぞれの立場からとりくんでいく広がりを生んでいるのではないでしょうか。
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高校生の思いを支えていくことの大切さ
この20年間に、フィリピンや韓国・メキシコなども含めて、平和大使として海外を訪れた生徒は延べ238人となります。他に、署名活動にとりくんでいる高校生を含めると膨大な人数になります。
これまでの核兵器廃絶の運動は、被爆者と労働組合がその中心を担って来ました。戦後70年を超えて、被爆者の高齢化と被爆体験の継承が課題とされる中にあって、平和大使の運動はその課題への答えとなり得る可能性があります。高校生の主体性を確保しつつ、運動への支援を強めていかなくてはなりません。
平和大使や全国の高校生が街頭で集めた署名は100万筆を超えました。署名は国連欧州本部に展示され永久保存されています。2012年には平和大使のとりくみに対して外務大臣から感謝状が授与され、2013年に外務省ユース非核平和特使に任命され、2014年から3年間、民間人としては初めて本会議場でスピーチを行いました。
2017年は、様々な要因で残念ながら本会議場でのスピーチはかないませんでしたが、各国外交団等との意見交換会に臨んでいます。フランス・ロシアの核保有国を含めて、20ヶ国以上の国々と国連軍縮局、赤十字国際委員会が参加しました。高校生は少人数のグループに分かれ、各国代表団に思いを伝えました。
2017年12月20日には河野太郎外務大臣と面会し、欧州本部での活動を報告しました(写真)。昨年7月7日に「核兵器禁止条約」が、国連加盟国193ヶ国中122ヶ国の賛成を持って採択されました。しかし、残念ながら日本政府は反対に回りました。唯一の戦争被爆国として、核兵器廃絶に後ろ向きの姿勢は許されるものではありません。政府がどのような姿勢をとろうとしても、平和大使の「核廃絶」への思いを封じ込めることはできませんし、その活動を無視することはできません。「ビリョクだけどムリョクじゃない」純真な若い声が日本の安全保障政策を変える日が来るに違いありません。
2018年1月20日、平和大使は様々な国会議員の後押しによって、ノーベル平和賞の候補に推薦されることとなりました。ノーベル賞受賞が運動の目的ではありませんが、その大きな広がりと社会的認知には大きな力となることでしょう。原水禁は「高校生平和大使を支援する会」を通じて、今後もとりくみを支えていきます。
(ふじもとやすなり)
日米原子力協定と反核運動
日本に再処理を認めた日米原子力協力協定が、今年7月16日に30年の効力期限を迎えます。両国とも通告をしないまま6か月前の1月16日が過ぎた時点で期限を定めない自動延長が確定しましたが、米国は、日本のプルトニウム使用計画については説明を求めるとのことです。今後も一方の国が6か月前までに文書で通告すれば協定を終了させたり、期限を定めた新協定の交渉を要求したりすることができます。
再処理の包括的事前同意
1974年にインドが平和利用という名目で使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムを使った核実験をしたのを受けて米国は高速増殖炉・再処理奨励策を変更しました。カーター政権時代に制定された1978年核不拡散法は、各国と原子力協力協定の再交渉を行い、米国起源の使用済み燃料、あるいは米国の輸出規制の対象となっている部品または設計情報を有する原子炉で照射された使用済み燃料は、米国政府の事前同意なしには再処理できなくするよう定めています。
ところが、1987年にレーガン政権が再交渉の結果署名した日米協定は、皮肉な結果となっています。1968年の元の日米協定の場合、米国起源の使用済み燃料の日本国内での再処理と外国への輸送は個別に米国が同意することが必要とされていたのに、新協定では、プルトニウムの物理的防護に関する要件などの追加と引き換えに、日本による再処理に包括的事前同意を与えてしまったのです。
一方、1958年の米・ユーラトム(EURATOM=欧州原子力共同体)協定は、西ヨーロッパにおけるヨーロッパ側の使用済み燃料の再処理に関して米国側の事前同意を必要としていませんでした。ヨーロッパ諸国が協定の再交渉を拒否したため、カーター大統領を皮切りに歴代の米国大統領は同協定を大統領令で延長するという形で核不拡散法違反問題に対処しました。最終的にクリントン政権で1995年に新協定が結ばれたころには、パイロット再処理プラントを建設していたドイツ、ベルギー、イタリアは、主として経済的理由のため再処理放棄を決定していました。このため、新協定には核兵器国である英仏の再処理工場だけが運転を承認されたものとして記載されるという状態となりました。日本は経済性の悪さにも関わらず再処理を放棄するに至っていない唯一の非核兵器国なのです。
核兵器物質蔓延の中で核兵器廃絶?
使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理は、元々、プルトニウムを燃やしながら使った以上のプルトニウムを生み出す夢の「高速増殖炉」に初期装荷燃料を提供するために構想されました。しかし、心配されたウラン枯渇も起きず、しかも2016年12月のもんじゅ高速増殖原型炉の放棄決定に見られるように、増殖炉の技術は予想以上に難しく、いつまで経っても夢は実現しない。そのため、たまったプルトニウムをウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)燃料」にして軽水炉で燃やすことを計画したが、これも上手く行かない。その結果、日本は核兵器6000発分ものプルトニウムを抱えるに至っています。それにもかかわらず年間1000発分のプルトニウムを取り出す能力を持つ六ヶ所再処理工場を運転しようという日本の再処理政策についての懸念が米国で高まっています。韓国が日本と同じ再処理の権利を与えよと米国に要求していること、中国が民生用再処理政策の導入に向けて動いていることが背景にあります。
2008年の大統領選挙で登場したオバマ大統領は、翌2009年4月のプラハ演説において「核兵器のない世界」の夢を語った中で、核物質の量の最小化とセキュリティ(保安体制)強化を最優先課題の一つと捉え、「国際核セキュリティ・サミットを1年以内に開催」すると約束しました。オバマ大統領は、第2回核セキュリティ・サミットのため2012年3月に韓国を訪れた際にこう述べています。「分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」。
また、2016年3月17日、上院外交委員会で証言したトーマス・カントリーマン米国務次官補は再処理には経済性も合理性もなく、核拡散防止の観点から「すべての国が再処理の事業から撤退してくれれば、非常に嬉しい」と述べました。さらに、日中韓の現状に触れ、「我々は、本質的な経済性という問題があると考えており、米国とアジアのパートナー諸国が、経済面および核不拡散面の重要な問題について共通の理解を持つことが重要だ。例えば[2018年に迫った]日米原子力協力協定の更新について決定をする前に」と結んでいます。岸田文雄外相(当時)は国会で、次官補発言は一般論としての米国の見解だと主張しましたが、日本についての具体的な話です。ジョン・ウルフソル国家安全保障会議(NSC)上級部長も、米国は日本と「明確な使用・処分の道もない」大量のプルトニウムを保有する日本の決定が再処理とウラン濃縮を制限しようとする世界的な取り組みにとって持つ意味合いについて議論してきたと述べています。もし、日本がプルトニウムのリサイクルを続けるなら「他の国がまったく同じことを考えるのをどうして止められるか」(共同通信、2016年5月21日)。
ロバート・ガルーチ元国務次官補・北朝鮮核問題担当大使は、再処理をどうするかは日本にとっては「エネルギーの問題だが、それが米国や北東アジアの[日本の]近隣諸国の安全保障に影響を与えるのだ。これは、国際安全保障の問題だ」と指摘しています(2016年4月21日ワシントンDC会合)。幸い、六ヶ所再処理工場の運転開始予定は昨年暮れに2018年から2021年に延期されました。協定問題を含めた国際的議論を喚起し再処理の完全中止に追いやることができるかどうか。日本の反核運動の正念場です。
(「核情報」主宰田窪雅文)
《投稿コーナー》
原発事故避難者に住居明け渡しを求める提訴─支援打ち切りと強制的帰還を許すな!
原発事故避難者を支援する会/山形県平和センター 事務局長 髙橋 朗
第2回口頭弁論を前にした行進(1月12日・山形地裁前) |
2011年の東京電力福島第1原発事故により、福島県内の避難指示区域外から山形県南部の米沢市の雇用促進住宅に自主避難している8家族に対し、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」(支援機構)は、住居明け渡しと家賃の支払いを求め、昨年9月に提訴した。被告にされた8家族は、「自主」避難は自らが望んでふるさとを離れ避難生活を選んだわけではなく、原発事故の被害者であり、昨年3月末の住宅無償提供の打切りは違法であり、住居費は事故の責任がある東京電力と国に請求するよう「支援機構」に求め、支払いを拒んできた。
これに対して「支援機構」は「8家族は居住する法的根拠がない」「家賃を支払っている契約者との公平・公正性の観点から継続入居は容認できない」と訴訟を起こした。第1回口頭弁論が昨年の11月21日に山形地裁(松下貴彦裁判長)で行われ、1月12日に第2回口頭弁論、次回期日は3月20日の予定となっている。
「自主」避難者に対し住宅無償提供の打切り
東日本大震災による福島第1原発事故以来、被災者に対する住宅無償提供は、災害救助法に基づき1年毎に期限が延長されてきたが、2015年6月に、原発事故により国から避難指示を受けずに避難した「自主」避難者について、福島県は避難先の住宅無償提供を2016年度で終える決定をした。2016年8月に、「支援機構」の管理会社である「一般財団法人SK総合住宅サービス協会」(「SK協会」」は、住宅無償提供期間終了と継続入居の意向調査を避難家族に送付、2017年1月には意向調査の伸長を求めた8家族に対して再送した。これに対し8家族は、雇用促進住宅に継続入居の希望と継続使用許可の申請書を提出、4月以降の家賃の支払いは東電に求めることを書面で通知したが、「SK協会」と「支援機構」は受け取りを拒否した。
2月、「SK協会」は8家族に対し、契約なき入居継続又は退去なき場合は住戸の不法占有となり、損害金の支払いと明け渡し請求の手続きを行う旨の文書を送付、3月17日には最後通知書を、4月には明け渡し要請書を送付した。5月に「支援機構」は8家族に対し同様の主旨の「雇用促進住宅明渡し等催告書」を送付してきた。
「原発事故避難者を支援する会」の立ち上げ
2016年度で住宅無償提供が打切られたが、2017年4月現在、福島県から山形県への避難者は2159人(767世帯)で、うち8割は自主避難者で、3月と比べ民間賃貸や公営住宅等で生活していた428人が山形を去った。事故から約6年が経過したこの時期、避難指示解除、損害賠償・住宅支援の打切りなど、原発事故による避難者・被災者を消滅させようとする強制的帰還政策が一挙に進められた。
6月3日、脱原発で活動する市民団体とともに、12年に成立した「子ども・被災者支援法」の具体的支援策の追求と避難者を支えていくことを目的に、「原発事故避難者を支援する会(代表:小口裕之山形県平和センター議長)」を立ち上げ。生活支援と予想される裁判闘争の支援カンパを募った。
国と福島県に住宅支援の再開を求める
いよいよ裁判が始まり、初回口頭弁論では、被告側代理人(佐藤欣哉、海渡雄一、河合弘之、福田健治、井戸謙一弁護士ら)が、雇用促進住宅の所有権と住宅の使用貸借契約の法的関係を質すこととなった。というのも「支援機構」所有の雇用促進住宅を昨年6月に「東日本民間賃貸サービス合同会社」(「合同会社」)に一括売却(信託受益権売買)を行ったからである。住宅の貸し手は一体誰なのか、住宅の所有者は誰なのか、訴状では曖昧にされていたため、住宅所有者と貸借関係の釈明を求めた。
第2回口頭弁論で原告は、「合同会社」に対して信託受益権を譲渡し、その委託先として10月末日付で「ファースト信託株式会社」が所有権を取得、権利を継承したことを理由に、原告に加わることとなった。国民の財産である雇用促進住宅を売り飛ばした国の外郭団体である「支援機構」の責任追及は当然であるが、雇用促進住宅を借上げた福島県や国を覆い隠し、裁判を「民・民」の争いにすり替えようと企てている。被災者で被告となった武田徹さんは意見陳述で、「国と福島県に住宅支援の再開を求めます」「福島の土壌は放射性物質によって汚染されたままで、避難者は小さい子どもを抱えたお母さんが多く、支援打ち切りによって生活が大変になっている」と訴えた。
国策としての原子力政策の推進で重大事故を招いた原発、この責任を顧みることなく一方的な支援打ち切りと強制的な帰還政策は断じて許されるものではない。
(たかはしあきら)
加盟団体の活動から(第2回)
非正規労働者の安定した雇用をめざして
全国コミュニティ・ユニオン 事務局長 関口 達矢
街頭でアピールをする全国ユニオン(2015年5月1日) |
「同質は和だが異質は積となる」―全国ユニオンが連合に加盟する際、亡き笹森清連合会長(当時)は周囲にこう説明したそうです。
全国コミュニティ・ユニオン連合会(全国ユニオン)は2002年11月3日に結成、翌年6月に連合に加盟しました。昨年12月現在、11団体、オブザーバー加盟1団体、組合員数は約2500人です。加盟組織には、兵庫県伊丹市で生活困窮者自立支援事業に取り組んでいる「いたみワーカーズコープ」(2015年に正式加盟)もあります。
全国ユニオンに加盟する各ユニオンはいずれも基本的に個人加盟です。組合員は労働相談をきっかけにして加入してくるケースがほとんどで、雇用形態も正社員だけでなく契約社員、パート、派遣など様々。また、ユニオンみえには南米やフィリピンからの日系人なども多く加入しています。
各ユニオンには企業内労働組合のように、多数派を形成して安定した労使関係を実現している職場もありますが、日々、様々な相談を受け、団体交渉を行い、抗議行動などを展開しています。そうした活動をベースに、全国ユニオンが今春闘を通じて力をいれている取り組みは、2つの改正法のスタートに伴う有期契約労働者の雇用安定の実現です。
ひとつは有期契約労働者の無期転換権。これは労働契約法の改正に伴うもので、今年の4月以降に有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者本人の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されます。
もうひとつが、10月からの派遣労働者の雇用安定措置。労働者派遣法は2015年に改正され、有期契約の派遣労働者を同じ会社の同じ部署に継続して3年以上派遣することを禁止しました。このため、雇用を継続させるため派遣先への直接雇用の依頼や派遣元との雇用契約の無期化などを講ずることを求めています。
どちらも法改正の趣旨は雇用の安定のはずなのですが、抜け穴だらけ。結果として、改正法逃れの雇止めの相談が増えています。働き方改革関連法案が国会で審議される予定ですが、今年は労働法改悪阻止の運動とともに、非正規労働者が安定した雇用を獲得する正念場と考え、取り組みを進めています。
(せきぐちたつや)
〔本の紹介〕
労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱
ブレイディみかこ著/光文社新書
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イギリスで2016年6月に行われたEU残留か離脱を問う国民投票は国際的にも注目され、離脱派の勝利は大きな衝撃を与えた。イングランド北部など伝統的に労働党の地盤だが、近年「イギリス独立党」(UKIP)など右派政党が支持を伸ばした地域で、労働者階級が離脱を支持したことが帰趨を決めたとされている。
著者は在英20年の日本人で、イギリス人と結婚し保育士として働いている。夫がロンドン・イーストエンド出身の白人労働者階級であり、その同郷の友人もほとんど全員が「離脱支持」であった。現在進行中の政治を取り扱うのは難しいことだが、著者自身の身の回りの経験を参照しながら、日本ではほとんど知られることがないイギリス労働者階級に密着して書かれた本であり、労働者階級が排外主義的になっているから離脱を支持した、という見方を批判的に検討している。
本書は「なぜ英国の労働者階級の人々の多くがEU離脱を選んだのか、そしてその後のEU離脱の動きや、英国の政治状況を追ってみた」(第Ⅰ部)、「労働者階級出身の友人への聞き取り」を行い、「現在の米英の白人労働者階級について文献を参照しながら検討し、彼らの支持を得るために政治がすべきこと」を考えた(第Ⅱ部)、「100年前まで遡り、英国労働者階級の歴史を振り返った」(第Ⅲ部)の3部構成になっている。
労働者階級の多い地域における国民投票の結果と、コービン党首が率いる労働党が健闘を示した2017年6月の総選挙結果を検討し、エリート・高所得者層が利益を得るEU主導の耐乏政策など経済生活の問題が、投票行動に大きな影響を与えたのではないか、生活を悪化させている耐乏政策への反発が反EUを作り出したのではないか、と問いかけている。
「あとがき」にある「貧乏なのにやけに誇り高い階級」の支持を得ること…労働者と移民の共生、あるいは協力(連帯)をすすめ…100年前からそうであったように、我々はより良い生活を求めて共に闘って…為政者の思惑に踊らされて、互いを敵にしてはいけないのである」は、イギリスだけではないと思う。
(菊地敬嗣)
核のキーワード図鑑
平和の祭典を戦争の祭典にしないで |
憲法と「建国記念の日」を考える 2月10日集会
毎年、2月11日の「建国記念の日」に反対して開催する「憲法と『建国記念の日』を考える集会」。今年は「明治維新150年」と天皇の代替わり、そして改憲の関連性について考えます。
日時:2月10日(土)14時00分~16時00分
場所:千代田区神田駿河台「連合会館」2階大会議室(地下鉄「新御茶ノ水」「淡路町」「小川町」、JR「お茶の水」下車)
内容:講演「『明治150年』と天皇代替わり」原武史(明治学院大学名誉教授・放送大学教授)
報告「日本の歴史認識と韓国」カン・ヘジョン(アジア平和と歴史教育連帯国際協力部長)
参加費:500円(資料代含む)
主催:フォーラム平和・人権・環境