2017年、ニュースペーパー
2017年12月02日
ニュースペーパー2017年12月
- 労働問題の現場からいまこそ社会的運動を!弁護士・日本労働弁護団幹事長棗一郎さんに聞く
- 衆議院総選挙の結果を受けて
- 憲法理念の実現をめざす第54回大会を開催
- TPP11交渉の「大筋合意」が発表
- もんじゅ廃炉!核燃サイクルを止める全国集会
- 広島と長崎で被爆二世が集団訴訟を開始
- 原子力委員会の滑稽な論議─プルトニウム利用
- 共謀罪法反対運動の今後の課題
- 各地の脱原発の動き:島根/本の紹介
- 核のキーワード図鑑・WeInsist!
- 安倍改憲NO!全国署名にご協力を
日本国憲法が公布されてから71年目を迎えた11月3日、安倍政権の9条改憲を阻止するために新しく発足した「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」は、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」と共催し、国会周辺で「11・3国会包囲大行動」を開催。約4万人が国会を包囲、「改憲反対、9条守れ!」「安倍政権打倒!」を訴えました。
主催団体を代表して、全国市民アクション運営委員の高田健さんが「選挙の結果、改憲勢力が3分の2を確保したが、これまで作り上げてきた野党と市民の結束の力をさらに一層発展させて、安倍9条改憲の流れを打ち砕いていかなければならない。国会での改憲発議を阻止するたたかいを強めよう!」と訴えました(写真)。また、韓国で朴大統領を倒した市民の闘いを担ったキム・ヨンホさんは「日本の憲法9条はアジアの宝だ。改憲は戦前のファシズムへの復帰と新しい軍国主義への出発になり、周辺国の軍拡を招く」と警告しました。
政党からは、枝野幸男・立憲民主党代表、志位和夫・共産党委員長、江崎孝・民進党参議院議員、福島瑞穂・社民党副党首が登壇。「国会の中の闘いと市民の闘いを両輪として、立憲主義を取り戻そう」などと決意を述べました。また、多数の文化人や著名人がスピーチを行い、参加者のコールが響き渡りました。
インタビュー・シリーズ:127
労働問題の現場から いまこそ社会的運動を!
弁護士・日本労働弁護団幹事長 棗 一郎さんに聞く
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なつめ いちろうさん プロフィール
1961年東京生まれ。中央大学法学部卒。在学中、学生自治会の再建運動を通して、民主主義を支える基盤として労働組合運動が大切であると考え、それにかかわる仕事をしようと決意。塾の講師をしながら弁護士をめざした。
─多くの労働事件を担当されていますが、最近の事件の特徴をお聞かせください。
まず正社員のリストラの仕方が巧妙になったことです。以前は、部門閉鎖で一気に首切りという手法でしたが、リーマンショック後の不況の際、企業は派遣切りをして世間から批判を浴びました。そこでドラステックな首切りを避け、正社員に対しては、1990年代の平成不況の時に問題となった「リストラ部屋」というのを復活させてきました。企業では、社内カンパニー制度が導入され、各部門を独立採算性にして、採算が取れない部門は切っていくという合理化が始まっていました。そこでどのような人員削減がされたかというと、リストラ対象者は「自分の仕事、自分の配属部署は自分で見つけろ、社内で見つからなかったら社外で見つけろ」と言われたわけです。3ヵ月くらいの間に見つからなかったら、多少の退職金の上積みで、たいていの人は辞めていきました。
またこうした人員削減をビジネスにするリストラビジネスも流行ってきました。政府の「雇用移動支援助成金」を利用したものです。リストラする企業に対してコンサルティング会社が「制度を使って労働者を移動させれば助成金がもらえますよ」とリストラで金儲けを始めたわけです。正社員のリストラがリストラビジネスに結びついたのです。
もう一つの大きな特徴は、何といっても長時間労働です。長時間労働による過労自殺や精神疾患などの病気が増え、ここ10年、労働事件の3~4割が未払い残業代請求を含んだ事件となっています。
次に特徴的なのが職場のいじめです。厚生労働省が設置している総合労働相談窓口の相談内容のトップが、最近5年間はパワーハラスメント(パワハラ)が占めています。パワハラは職場における労働者に対する人格権侵害です。精神的・肉体的を含め、労働者に対する嫌がらせ・いじめは以前からありましたが、それが一気に噴き出してきたというのがこの5年でした。
もう一つ労働事件で警戒しなくてはいけない傾向は「雇用によらない働き方」という問題です。安倍政権の後押しもあって、静かに広がっています。一言でいうと「仕事があるときだけ、低廉な労働力を使う経済、事業の在り方」ということです。恒常的に労働者を雇って会社に来てもらうという労働力の使い方はもう古いのだと。仕事があるときだけ請負あるいは業務委託して、その時だけ働いてもらう。インターネットがこれだけ発達していますから、会社に来ずに自宅にいても、パソコン、スマホで何でもできる。政府でいうところの「テレワーク」ですね。
「働き方改革実行計画」のなかにもテレワークの項目があり、「雇用型テレワーク」と「非雇用型テレワーク」と分けて整理されていますが、「非雇用型テレワーク」が大問題なのです。「雇用によらない」ということは、請負とか業務委託であり、労働法が全く適用されないのです。
アメリカにウーバー社という、日本でいうところの「白タク」をやっている企業があります。ニューヨークのタクシー業界を駆逐して急成長した会社です。どのような事をしているかというと、乗用車を持っている人を「運転手」として会社のアプリに登録させます。そして、「お客」から要望があれば、この「お客」の近くにいる登録された「運転手」に運ぶように連絡します。つまり流しのタクシーのような仕事をさせるわけです。ウーバー社は「年収何千ドル稼げる」と宣伝して登録者を増やしていきました。ニューヨークでは既存のタクシー運転手も、どんどんこの企業に登録した。最初はよかったのですが、規制がないから無数に登録させていくわけです。そうなると全然稼げなくなってきます。さらなる問題は、事故が起きてお客さんが怪我をしても、ウーバー社はただ仲介しているだけですから、責任をとることもなく、損害賠償請求にも応じません。もちろん「運転手」に対しても雇用責任はありません。問題はすべて労働者に押しつけるのです。こういう働き方が世界中に広まってしまっています。
日本は道路運送法で白タク行為を禁止していますが、安倍政権は2020年のオリンピックまでには導入する意向です。来年の通常国会で必ず出てきますよ。ウーバー社のような働き方を日本では「シェアリング・エコノミー」と呼んでいますね。「生活の空き時間や使われていない資産を有効に活用しましょう」という意味ですけど、これは物事の本質をごまかしています。
この問題に対して、私鉄総連や全自交など交通関係の労組が集まり、労働弁護団も一緒になって阻止運動をやっていますが、なかなか広がらない。でもこのウーバー社は世界中で大問題になっていて、イギリスのロンドンでは締め出しに成功したのです。あまりにも事故が多く、レイプ事件も頻発したことで大問題となり、当局も規制強化に乗り出しということです。こうした事件を日本のメディアは報道しません。「新しいビジネスモデルだ」と推奨しているとしか思えないです。ここは労働組合がちゃんと言わないといけないところです。
連合の金銭解雇反対厚労省前集会(2017年4月4日) |
─安倍政権がめざす「働き方改革」について、問題点あるいは評価すべき部分があれば指摘してください。
一番の問題は、8つの法律案を一緒にした一括法案である点です。安保関連法案の時と同じですね。良いものも悪いものも一括で審議するなんてありえない。それぞれの法律案は大変重要な課題ですから、本来は一つひとつ審議して議決していかなくてはいけないのに、そういうことをやろうとしない。不良品の抱き合わせ販売です。野党は、国会審議においてまずは一括法案をばらけさせることです。
個々の法案の中で、労働時間の上限規制を罰則付きで労働基準法に組み込むことは、労基法改正の歴史上初めてのことで、評価できると思います。しかし問題は中身で、特例で1ヵ月に100時間未満、2ヵ月から6ヵ月で月平均80時間は認めてしまっている。これは過労死の労災認定基準ですよ。労使が36協定で特例を結べば過労死基準の働き方が可能ということです。労働組合に求められるのは、仮にこうした法律が通ったとしても、過労死ラインの協定は結ばない、絶対拒否することです。そうしないと労使共に責任を問われ、遺族から組合にも責任追及がきます。そこは重々肝に銘じて、そんな協約は結ばないことが求められます。
長時間労働の温床となるホワイトカラーエグゼンプション、裁量労働制の対象業務拡大も大問題です。2015年に提出されても国会で審議入りができなくて、棚ざらしになっていましたが、これが通ってしまったら過労死となる労働者がさらに増えます。労働基準法の時間規制を全部適用除外する恐ろしい法律です。1日に15時間、20時間働いても8時間とみなされる。残業代ゼロで働かせ放題。自由な働き方ができるとか、労働者に裁量があるなんてことは全くあり得ません。連合の方針にも出ているように、これは絶対反対です。
期待できるのは、同一労働同一賃金です。現行の有期契約の不合理な労働契約や格差の禁止、正規労働者と非正規労働者の格差の是正の方向性はいいと思います。ただ、法律を作ったからと言って、劇的に格差が解消されるということはありえません。この法律を使って変えさせることができるのは、最終的には裁判です。裁判をやらなくてはいけないのです。これまでも労働契約法第20条にかかわる裁判の判決が多数出ていますが、いずれも裁判所は非正規労働者、有期雇用労働者に冷たい。格差是正を簡単には認めないのです。もっと格差を是正する法制度にしていかないといけません。
その一つの方法として最低賃金は1500円くらいにするなど、正社員と同じような働き方をしている非正規の処遇に、もっと実効性のある制度を作っていかなくてはいけない。大企業は内部留保がたくさんありますから、これを出させる。体力のない企業や中小企業は、ちゃんと吟味したうえで、税制の優遇的措置など何らかの助成を行うことも必要になるでしょう。
─命を削る労働のあり方は絶対あってはならないと思います。次の通常国会で上程される可能性が大ですが、どのような取り組みが求められるでしょうか。
あまりニュースにならないので多くの市民が知らないですね。「働き方改革」と言うと、何かいいことやっているくらいの理解で中身を知らない。ですから法案の中身を知ってもらうことが大事です。そのためにはまず労働組合が職場に浸透させないと。地道な組織的な学習活動が必要です。あわせて団体交渉とか権利闘争を強化しないと、いくら勉強をやって知識が増えても、闘って交渉で勝ち取っていく構えを見せなければなりません。
それと非正規労働者の組織化です。それを正社員組合がどれだけ取り組めるかではないでしょうか。政府も格差是正だと言っているわけですから。労働組合がちゃんと実のあるものにしていくべきです。こうした努力はいままでもやってきました。各産別・単組で一生懸命交渉して、有期契約社員へのボーナスや交通費を勝ち取ったとか、福利厚生を実現させたということは多数あるわけです。有期雇用を無期雇用に転換させた実例もある。こうした実例をもっと社会に訴えて宣伝し、情勢を作っていかなくてはいけない。裁判所も雇用社会がそうなってきていると分かれば変わってくる可能性もあります。
これは社会的労働運動です。かつてやっていたことを取り戻してやっていかないと、労働組合は地域からも雇用社会からも見捨てられてしまいます。
(文責編集部)
衆議院総選挙の結果を受けて
安倍改憲NO! 全国市民アクションの取り組みを広げよう
フォーラム平和・人権・環境 事務局長 勝島 一博
衆院総選挙での市民連合の街頭宣伝(新宿駅前) |
「市民連合」による野党共闘の推進と立憲民主党の躍進
10月22日に投開票が行われた第48回衆議院総選挙に対し、私たちは、2012年12月からスタートした第二次安倍自公政権の5年間を厳しく批判し、安倍一強政治に終止符を打つことを求めてきました。森友・加計学園問題での批判や、東京都議会議員選挙での大敗に続き、この選挙期間中の世論調査でも安倍内閣の不支持が支持を大きく上回り、拮抗する傾向が続いたにもかかわらず、自公両党が3分の2以上の313議席を確保する結果となりました。
これは、小選挙区における自民党候補の得票率が約48%にもかかわらず、小選挙区の議席占有率が約74%という選挙制度自体の特性もありますが、これまでの野党共闘が、民進党の希望の党への合流によって暗礁に乗り上げ、野党間の選挙区での競合・つぶし合いが大きな原因であることは明らかです。
この間、私たちは「市民連合」と連携し、憲法違反の戦争法(安全保障関連法)の廃止、集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回をはじめとした立憲主義の回復、そして、個人の尊厳を擁護する政治の実現にため、「野党共闘」を積極的に進めてきました。「市民連合」は、2016年には、衆議院北海道5区の補欠選挙や都知事、新潟県知事選挙の中で大きな役割を果たし、特に16年の参議院選挙では、32の1人区すべてで「候補者を一本化」し闘うことによって、大きな成果と希望を作りだしました。
「市民連合」は、今総選挙でも立憲4党と市民の協力態勢を作るべく、9月26日には7項目の基本政策について4野党と合意してきましたが、その直後、民進党の希望の党への合流が決定し、市民と立憲野党の協力の枠組みが大きく崩れることになりました。希望の党からの立候補にあたっては、「寛容な保守政党をめざすこと」や、憲法違反の「安全保障法制の容認」、「憲法改正を支持すること」、「外国人の地方参政権付与に反対すること」など8項目の条件が付与され、かつ民進党の一部議員を排除したため大きな政治的混乱を生じ、新たに立憲民主党が生まれることとなりました。
10月3日、「市民連合」は立憲民主党との基本政策に合意することにより、社会民主党、日本共産党と合わせた選挙協力が実現しましたが、立憲民主党の選挙戦の準備不足もあり「与野党逆転をめざす野党共闘」は困難な事態となりました。総選挙の結果、立憲民主党は野党第一党として55議席を、また社会民主党は現有2議席を獲得しました。立憲民主党には、安倍政権との闘いで野党の中心的役割を担うことはもちろん、今後、市民と立憲野党の協力体制の中心的役割も強く期待するものです。
3000万署名運動を成功させ大きな世論を作り上げる
今回の総選挙では改憲問題が大きな争点でした。自民党は「自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消など4項目を中心に議論を踏まえ初めての憲法改正をめざす」として、初めて国政選挙での重点項目に「憲法改正」を位置づけました。また、日本維新の会が「現実的な憲法改正」として9条「改正」を公約に盛り込むとともに、希望の党も選挙公約で、「憲法9条を含め憲法改正議論をすすめる」としてきました。その後、安倍晋三首相は、11月1日の閣議で、自衛隊の明記を念頭に党の改革案を国会に示し、野党も含めた幅広い合意へ努力するとしていますが、改憲を掲げる政党が80パーセント以上を占める中、今後、かつてない改憲に向けた動きが加速することは明らかです。
しかし、あきらめるわけにはいきません。安倍首相が掲げる「改憲」には自民党内でも異論があります。また、与党の公明党との間でも温度差があり、日本維新の会や希望の党とも内容は異なっています。また、選挙後に行われた朝日新聞の世論調査でも9条に自衛隊を明記することに反対が45%と36%の賛成を上回っています。
そして、憲法を守る闘いは国会の力関係だけで決するものではありません。私たちは安保法制や共謀罪の廃止、森友・加計学園の真相究明、沖縄基地反対などを通し、労働者に加え、多くの市民がこうした闘いに参加し、安倍政権を揺さぶり続けてきたことを知っています。安倍改憲を阻止する闘いは、この市民の力をさらに大きく結集することであることも学んできました。
これまでの「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の枠組みを超えて、「安倍改憲NO!全国市民アクション」がスタートしました。改憲発議、国民投票を実施させないことを視野に、3000万署名運動を成功させ、大きな世論を作り上げていかなければなりません。私たちの闘い方次第で、9条改悪阻止・安倍政権の退陣は可能です。厳しい選挙結果をしっかり受け止め、「改憲」を目論むあらゆる勢力にたじろぐことなく、平和と民主主義を求めて、立憲野党やより広範の市民とともに取り組みを進めていきましょう。
(かつしまかずひろ)
憲法理念の実現をめざす第54回大会を開催
東アジアの平和のために、今こそ!
総選挙と安倍改憲の動きの中で
今回の「憲法理念の実現をめざす大会(護憲大会)」をとりまく情勢は、以下の3点に特徴的でした。
まず、安倍首相が臨時国会冒頭での解散を行い、衆議院総選挙が行われました(10月22日投開票)。民進党の「希望の党」合流により、「二大改憲政党政治」へのなだれ込みが起きるかとも思われましたが、結果として与党勢力3分の2を崩せなかったものの、「立憲民主党」の発足や「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)の奮闘のなかで、立憲主義にたつ野党の共闘を維持することができました。
つぎに、北朝鮮によるミサイル発射や核実験が行われる一方、日米韓の合同軍事演習実施や制裁・圧力の強化がすすめられてきました。東アジアの軍事的緊張が高まるなか、安倍政権は外交努力を尽くすのではなく、むしろ戦争の危機を煽動することで、内政的破綻を覆い隠し、政治的求心力を維持しようとしてきました。
そして、今年5月3日に公然と掲げられた安倍首相の「2020年改憲」をめぐる動きは、重大な局面に立ち至っています。自民党が公表した衆院選公約のなかには、憲法9条、教育の無償化、緊急事態への対応、参院選挙区の合区解消を重点項目として示しながら憲法改「正」をめざすことが盛り込まれました。
これらの動きを踏まえ、私たちは東アジアの平和のために、いま求められているのは何なのか。なおいっそう強まる安倍政権による改憲策動を突破し、私たちの未来を私たち自身で切り拓くため、何をするべきなのか。そのことを見つめなおす大会として位置づけました。
シンポジウム「東北アジアの平和と日本」 (10月28日・日本教育会館) |
対話を基軸に平和に向けた努力を
開会総会のメイン企画は、石坂浩一さん(立教大学准教授)をコーディネーターに、和田春樹さん(東京大学名誉教授)、前田哲男さん(軍事評論家)、伊波洋一さん(参議院議員、沖縄選出)をパネリストに「東北アジアの平和と日本」をテーマとして開催されました。
シンポジウムでは、2015年に強行された「戦争法」によって、自衛隊が米軍と一体となって戦争に参加できる体制づくりが推し進められていること、戦争に突入すれば、米軍基地を多く抱えている日本が戦場となる危機に直面していることが指摘されました。そのうえで、日本が果たすべき役割は、アメリカに追従し、制裁・圧力強化や戦争を煽り立てることではなく、「日朝ピョンヤン宣言」に立ち返り、アメリカと北朝鮮との対立緩和に向けて、対話を基軸とした最大限の努力をするべきだと提起されました。
このことは、憲法理念の実現を訴えてきた私たちの運動の今後に係る内容であることを、しっかり確認する必要があります。
また、本大会では、「非核・平和・安全保障」「地球環境―脱原発に向けて」「歴史認識と戦後補償」「教育と子どもの権利」「人権確立」「地方の自立・市民政治」「憲法」の7つの分科会とフィールドワークが行われました。分科会の各テーマは、はからずもこの安倍政権の下で攻撃が強められているものばかりです。問題提起を受け止めながら、各地域でのとりくみをどのように強化し、憲法破壊と対抗していくのかが問われています。
さらに、「男女共同参画のひろば」「基地問題交流会」「第五福竜丸展示館と関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑の見学」も行われました。これら多様なとりくみを支えていただいた多くの皆さんに感謝を申し上げます。
全国統一署名を中心に、運動を大きく拡げよう
今回の大会では、3日間の日程のなかで、この間進められてきた「総がかり行動」運動がつくりだしてきた成果を踏まえつつ、あらたに立ち上がった「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が推進する全国的大衆行動、そして「安倍9条改憲NO!憲法を生かす全国統一署名」を基軸にして、あらゆる改憲策動を阻止する決意を固めあいました。
自民党の憲法改正推進本部による党内での改憲素案のとりまとめが難航するなど、当初の予定から大きくズレを生じさせながらも、早ければ来年の通常国会にも改憲発議を行おうとしています。野党の奮闘に期待しつつも、残念ながら国会内においては多数を握られています。そうしたなかで、現実に改憲を押しとどめていく力は、全国各地の市民の立ち上がりのなかに存在しています。
日本会議系諸勢力が政府・与党の動きと一体となって、改憲に向けたキャンペーンを活発化させています。私たちが大胆に運動を拡げ、多くの市民との交流と共同をつくりだしていくことをもってのみ、憲法理念を実現させることができるのだということを確認し、これからの地域・職場でのがんばりあいをすすめていきましょう。
(山本圭介)
TPP11交渉の「大筋合意」が発表
市民を無視する安倍政権の「秘密交渉」
11月11日、ベトナムのダナンにおいて、アメリカを除く環太平洋経済連携協定(TPP)署名11ヵ国(TPP11)は、新たな協定の大筋合意を発表しました。従来のTPPの合意内容のうち、医薬品のデータ保護期間や著作権保護期間など、アメリカの多国籍企業の利益が著しい20項目については、アメリカがTPPに復帰するまで凍結されることになりました。また、マレーシアなどが強く求めている国有企業の優遇措置の禁止など4項目の凍結については引き続き協議が行われており、早ければ年明けにも署名が行われる見通しとなっています。
署名後、各国は国内での承認手続きを進め、半数の6ヶ国が承認すればその60日後に発効します。日本政府は来年の通常国会で承認を求めることをめざしており、再びTPP協定をめぐる論議が行われようとしています。
強引なとりまとめを進める日本に反発も
しかし、11月10日に予定していた11ヶ国の首脳会合がカナダの反発で見送られるなど、不協和音も表面化しています。これは、アメリカが抜けて前提が崩れた協定を、原形に近い形で発効させようと、日本政府が強引に交渉をまとめようとしたことに無理があったのではないかと言われています。今後もアメリカ抜きの新協定案に対して、他の10ヶ国が日本と同様の態度を取るとは限りません。各国が旧協定の「高水準の自由化」を受け入れたのは、世界の国内総生産(GDP)の4分の1を占めるアメリカの市場に進出できる見返りがあったからです。ベトナムなどはアメリカ向けの繊維製品の輸出増加の期待が外れ、カナダやメキシコはアメリカとの北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉中であり、新協定を承認すれば、アメリカからさらに厳しい条件を突きつけられる恐れも出ています。このように、11ヶ国の足並みはそろっておらず、発効までに参加国がさらに減る可能性も否定できません。
一方、農業分野では、協定内容の修正を求める日本の農業者の要求を軽視しました。例えば、乳製品では日本が低い関税で輸入する量を7万トンとすることがTPP協定で決まりましたが、離脱したアメリカの分を差し引かずにこの水準を維持すれば、ニュージーランドやオーストラリアなどの輸出分でこの枠を満たしてしまい、これとは別にアメリカから2国間交渉で低関税輸入枠を迫られる可能性があります。しかし、日本政府は「アメリカが復帰することを前提にしており、最低限の変更にしぼりたい」として、なんらの要求もしないまま、合意を優先したのです。しかし、アメリカがTPPに復帰する見通しは立っておらず、トランプ大統領も強く否定をしています。合意にこだわった日本の拙速な交渉は大きな禍根を残しました。
TPP11、日欧EPAで政府と討論 (7月10日・衆院議員会館) |
見通しが立たない多くの通商交渉に疑念
TPP11だけでなく、日本は多くの通商交渉を並行して進めています。今年7月に「大筋合意」したと言われる、日本とヨーロッパ連合(EU)との間での経済連携協定(日欧EPA)は、いまだ最終的な協定がいつまとまるのか明らかになっていません。東南アジア諸国連合(ASEAN10ヶ国)と日中韓インドなど16ヶ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉も、当初めざしていた年内合意は断念され、今後の見通しは立っていません。さらに、11月5日からトランプ大統領が来日し、日米二国間の自由貿易交渉(FTA)に向けて圧力を加えたと見られています。
こうした多くの通商交渉は、TPPを基準として進められています(TPPプラス交渉)。平和フォーラムも事務局団体のひとつとなっている「TPPプラスを許さない!全国共同行動」では、7月以降、これらの交渉の問題点を検討しながら、外務省、農水省、内閣官房の担当者から説明を受け、質疑討論を行う院内集会を数度に渡り開催してきました。しかし政府側は、経過や内容は「交渉中である」ことを理由に、情報公開しない姿勢を取り続けています。2000年代前半までの世界貿易機関(WTO)の交渉では、政府は交渉に臨む方針や、経過について市民にも説明をしてきました。安倍政権が「丁寧な説明」などといいながら、市民を軽視する姿勢が表れたものと言えます。
集会の中では、こうした政府の態度に参加者の批判が集中し「合意してから内容を明らかにしても意見が言えないではないか」(山田正彦・元農相))などと追求しました。全国共同行動では12月11日にも院内集会を開き、TPP11の合意内容などでさらに政府との話し合いを行うことにしています。
さまざまな疑念や不安を置き去りにしたまま「合意」や「妥結」が発表されるという国民不在の交渉に異議あり!の声を広げていく必要があります。
(市村忠文)
「もんじゅ廃炉!核燃サイクルを止める全国集会」
行き詰まりがはっきりしてきた原子力政策
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成
「もんじゅ廃炉!核燃サイクルを止める全国集会」が、11月5日に福井市で開催されました。昨年12月21日に、政府が高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉を正式に決定したことを受けて、集会ではこれまでの闘いを振り返り、「もんじゅ廃炉勝利宣言」が行われました。廃炉が確実になったことを、これまで闘いをともにしてきた多くの仲間と素直に喜びたいと思います。
闘いの歴史を振り返ると、1967年の動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の設立から、83年の設置許可、85年の本体工事着工と続く中で、82年2月の第2次公開ヒアリングは、約2000人の機動隊が1万人の反対を叫ぶ市民を威圧する形で行われました。もんじゅは、水と爆発的に反応する金属ナトリウムを冷却剤に使い、きわめて毒性の高い放射性物質プルトニウムを燃料とする危険なもので、計画の段階から反対運動が続きました。85年には、原子炉設置許可処分の無効確認を求める行政訴訟が起こされました。同年12月8日に、原告側証人として法廷にも立った故高木仁三郎・原子力資料情報室代表が「可能性として発生の恐れを指摘してきた私でも信じられない」と言わしめたナトリウム漏洩火災事故を起こし、運転中止に追い込まれました。
2003年1月27日に、後に最高裁で敗訴するものの、名古屋高裁金沢支部がもんじゅの設置許可は無効との住民勝訴の判決を出ました。原発裁判史上初の勝利判決でした。集会で映し出された映像には、磯部甚三弁護団長や海渡雄一弁護士、訴訟団の小木曽美和子事務局長、高木仁三郎さんなど多くの顔がありました。もんじゅの闘いが本当に多くの人に支えられてきたということを再認識させられました。
もんじゅ廃炉!全国集会(11月5日・福井市) |
再処理の延命とプルトニウムの利用計画
しかし、喜ぶのはここまでです。第2部は「核燃料サイクルをどう止めるか」をテーマに、もんじゅ訴訟と新もんじゅ訴訟の弁護団の海渡雄一弁護士、ストップ・ザ・もんじゅの池島芙紀子代表、核燃阻止1万人訴訟原告団の山田清彦事務局長を迎えてシンポジウムが開催されました。核燃料サイクルの中核のもんじゅの計画が破綻した今、計画はどうなるのか、どうするのか、脱原発にとって重要な課題です。
現在、日本は再処理した47トンものプルトニウムを保有しています。その利用計画を明確にするのは国際的な約束です。プルサーマル計画では不十分です。もんじゅ廃炉後にフランスの高速炉アストリッド計画に参加するのは、再処理の延命と将来的な利用計画の策定に不可欠だからといえます。その意味で、フランスを訪問した池島さんの報告にあった、80年代にフランスの環境・エネルギー庁の要職を歴任した物理学者ベルナール・ラポンシュさんの、「高速炉は最も危険で、複雑で、コストがかかる」「日本がこんな無価値な計画に資金を出すのが理解できない」との発言は印象に残りました。
青森から参加した山田さんは、六カ所の再処理工場がいかに危険かを、様々な角度から検証し、試運転で出た220立方メートルもの高レベル放射性廃液は、大地震の際には51時間程度で沸騰爆発を起こす可能性があり、その時には北日本全体に深刻な汚染が広がると重要な指摘をしました。過去に六ヶ所村の再処理工場を訪れた、フランク・フォン・ヒッペルさん(プリンストン大学教授)が、廃液は直ちに固化すべきで、プールに貯蔵されている使用済燃料は乾式貯蔵へと指摘していたことと符合します。
海渡さんは、もんじゅの廃炉計画が未だ示されないこと、その廃炉措置が軽水炉と違いきわめて困難であることを指摘するとともに、核燃サイクルをどのように止めるか、六ヶ所再処理工場の耐震性の欠如と陸上へもつながる海底活断層の問題がきわめて重要になるとしました。
なぜ政府は危険な計画にしがみつくのか
シンポジウムのコーディネートをする中で、日本政府は、なぜこの危険きわまりない核燃料サイクル計画にしがみつくのかということを考えました。自民党内部に潜在化してきた「核保有政策」への担保が一つの理由か、そして今更やめるわけにいかないほど資金をつぎ込んできた再処理工場の計画中断は、すぐさま大きな負債となることが二つ目の理由か、最後は地元青森との合意の問題で、再処理工場の計画中断はすぐさま使用済み核燃料の中間貯蔵の停止を意味するからか。
どれにしても馬鹿げた理由でしかありません。もんじゅには1兆円を超す税金が注ぎ込まれましたが、誰も責任をとっていません。核燃サイクルの延命のために、フランスの高速炉計画アストリッドには日本から3000億円が注ぎ込まれるという。福島原発事故の責任もとっておらず、次の過酷事故は誰が責任をとるというのか。原子力政策はいよいよ行き詰まりがはっきりしてきました。
(ふじもとやすなり)
広島と長崎で被爆二世が集団訴訟を開始
原発を含む核廃絶への大きな力に
全国被爆二世団体連絡協議会 副会長 寺中 正樹
米軍による原爆投下から72年が経った。被爆者の平均年齢が80歳を越えて死去したり、高齢のため被爆体験を伝えることができなくなっている。全国被爆二世団体連絡協議会(全国被爆二世協)は、1988年の結成以来、被爆体験の継承、被爆二世・三世への援護法の適用、在外被爆者・二世との連帯などを掲げて闘い続けてきた。また、全国各地で戦争や核の被害を許さないために、核被害の実相を社会に訴えている。
恐怖と闘いながらどう生きてきたかを知って欲しい
被爆二世は全国に約50万人存在すると言われている。しかし、国は一度も実態調査をしたことが無いので、正確な人数はわかっていない。国が被爆二世に行っているのは、単年度措置の健康診断のみでガン検診も無い。
私たちは、日本の被爆者や在外被爆者が、裁判を通じて生きる権利を勝ち取ってきた歴史に学び、本年2月に被爆二世の集団訴訟に立ち上がった。全国被爆二世協は、歴史的な一歩を踏み出したのだ。2月17日、広島地裁に22人が、2月20日、長崎地裁に25人が「原爆被爆二世の援護を求める集団訴訟(被爆二世集団訴訟)」を提訴した。原爆放射線の次世代への影響を問い、国の立法による援護対策を求める初めての訴訟だ。
この訴訟は、被爆二世の問題にとどまらず、世界の核被害者の次の世代の問題解決につながる。核兵器の非人道性の最たるものの一つが、放射線の次世代への影響であることを訴え、このことが世界の共通認識となれば、核(原発も含む)を廃絶する大きな力になるはずだ。
被爆者や被爆二世の現実を知らない人達に、被爆者や被爆二世がどのように原爆被害の恐怖と闘いながら、自らの人生に誇りを持って生きてきたかを知って欲しい。
裁判所に向けて行進する訴訟団(8月22日・広島) |
意見陳述と弁護団の奮闘で違法性が明らかに
第1回口頭弁論は広島地裁で5月9日、長崎地裁で6月5日に行われた。広島地裁では、中学校教諭の占部正弘さんは、黒いシミや声のかすれが父親の被爆後の症状と似ており、原爆の影響ではないかと心配していることや、直接生死には関係なくても健康不安を持っている被爆二世がいることを知って欲しいと話された。
平野克博・全国被爆二世協事務局長は、放射線影響研究所の調査結果を根拠に、放射線の影響を過小評価して、被爆二世の健康被害の現実に向き合おうとしない国の姿勢を徹底的に批判した。
在間秀和弁護士は、国が核兵器の放射線による被害を戦後70年以上にわたっていかに隠ぺいしてきたかを、原爆二法の成立過程から1995年に成立した被爆者援護法の制定に至るまでの歴史、そして原爆症認定集団訴訟や在外被爆者訴訟の歴史を紐解く中で、本来被爆者として援護の対象にされるべき被爆二世が、その埒外に置かれてきたことが違法であると訴えた。
第2回口頭弁論と追加提訴第1回口頭弁論は、広島で8月22日、長崎では9月26日に行われた。現在追加提訴者を合わせて、広島、長崎ともに原告は26名となった。広島地裁では、山口県在住の森田修さんが、提訴の報道を偶然テレビで見て、自分も二世として何かをしなければいけないと思い、原告に加わる決断をしたことや、幼少の頃から病弱で、5歳年下の弟もほぼ同じ時期に前立腺がんと狭心症を発症したことで、被爆の影響ではないかと不安になったことなどを述べた。
提訴や裁判のニュースが報道されると、全国被爆二世協には相談のメールや電話が来た。二世自身の病気だけではなく、子ども(三世)についての不安もせつせつと訴えてくる。これまで誰にも言えなかった健康不安を訴える場所ができた。この裁判は被爆二世の拠り所にもなっている。
請求の棄却を求める国の主張を許すな!
私たち被爆二世の訴えに対して、被告の国は9月26日に長崎地裁で、10月26日に広島地裁において原告の請求の棄却を求める答弁書を陳述。その中で(1)被爆二世を被爆者援護法の適用対象としない立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける余地はない。(2)親が原爆の放射能に被曝したことによって被爆二世が発がんリスク増加など遺伝的影響を受けることは科学的に証明されておらず、被爆二世が親の放射線被曝による遺伝的影響を受けることを前提として被爆者援護法が憲法違反であるとする原告らの訴えは、前提を欠き失当である、と主張した。
私たちは、この国の主張を認めることはできない。徹底して反論し、私たち被爆二世の現実を社会に知らせていく。次回の裁判日程は広島地裁は2018年2月13日、長崎地裁2月6日となっている。訴訟への皆さんのご支援、ご協力を!
(てらなかまさき)
原子力委員会の滑稽な論議 ─プルトニウム利用について
原子力委員会が『日本のプルトニウム利用について【解説】』(案)について議論した10月3日の定例会議の録音は英国BBCの風刺ドラマのようで、「一聴」に値します。映像がないのが残念ですが。まず、『解説』の結論部分に関する阿部信泰委員長代理と事務局のやり取りから。
『解説』「以上のことから、プルトニウムが溜まり続けることはなく、六ケ所再処理工場等の操業・加工に伴うある程度の増減はあるものの、一定のバランスの下で管理することが可能であると考えられ、長期的に、日本のプルトニウム保有量の削減という目標が達成されるであろうと認識している」。阿部委員長代理「ここは非常に重要な文章で、原子力委員会としては減っていくと、こういう認識であると、こういうことですね。川渕さん、この長期的にって、どのぐらいの期間を考えられておられるんですか?」。川渕英雄企画官「えーっと、まあ非常に難しいところでありますけれども(笑い)、あの、えー、まあ、あの、そこまではまだ検討はしていないということ」。林孝浩参事官(?)「軽水炉の再稼働がどれぐらいのスパンで動き出すかというところがかかわってくる話だとは思いますけども、やはり10、20[年]、そういう単位だと思っております。」
質問は、使用済み燃料の再処理で取り出したプルトニウムをウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)」燃料にして普通の原子炉(軽水炉)で燃やす計画に関するものです。1997年に電気事業連合会が発表した計画では2010年までに16~18基でプルサーマル(MOX利用)導入ということになっていましたが、下の表にあるように福島事故時にMOX利用の許可を受けていた炉が10基。装荷して運転を開始していたのはわずか4基。現在MOX利用許可炉で再稼働となっているのは3基です。年間8トンを分離する能力を持つ六ヶ所再処理工場を運転せず、再稼働がどんどん進んだとしても、英仏保管分を燃やすだけで10年はかかってしまいます。
事務局は、世界に向けてこのような解説を出すのは、1997年にIAEAに提出した『日本のプルトニウム利用計画』以来のことだと説明しています。同文書で「計画遂行に必要な量以上のプルトニウム、すなわち、余剰プルトニウムを持たないとの原則」に従うとの方針を国際的に宣言した際の日本のプルトニウム保有量は約24トンでした。現在ではその約2倍の47トンに達しています。2018年末までに英国で日本に割り当てられる予定の約1トンを入れると48トン。核兵器約6000発分です。
阿部委員長代理は、「日本はエネルギー資源に乏しく、ウランの埋蔵量も限られていると考えられていたことから、使用済燃料を再処理してプルトニウムを利用する核燃料サイクル政策」に昔決めたという説明はいいが、ウランは豊富に存在することが判明し、MOX利用が高くついているというような現在の状況についてなぜ語らないのかと何度も批判を展開しましたが、『解説』はほぼ「案」のまま発表されることとなりました。
委員長代理は、参事官がエネルギー基本計画にもある通り政府の政策がプルトニウム利用を決めているのだからというような現状追認の発言を繰り返すのに業を煮やして次のような趣旨の反論でチクリと一刺し。参事官は内閣府の人だから政府の政策を守ろうとしてどんな議論をしても守るというのだろうが常識的にはなかなか受け入れられないだろう、と。委員会の事務局を務めるのは内閣府原子力政策担当室です。一方、岡芳明委員長は、阿部先生は××だけしか知らないからそういうのだろうが、とか応戦。是非、音声記録でお聴きください。
http://wwwc.cao.go.jp/lib_007/video/teirei_2017_34.html
(このテーマの部分は、0:46⇒2:28。冒頭のやり取りは01:44:50⇒01:45:54辺り。)会議の議事録が出ているのは2017年2月7日のものが最後です。
『解説』には事実関係の間違いもあります。「日本の商業用原子力発電炉は60基あったが…現在は45基の軽水炉が存在する」と述べていますが、実際に存在するのは下の表にある通り、42基です。建設中の3基(島根3号、大間、東電東通1号)を足した数字が45基。東京電力東通原発1号機は2011年1月25日認可を得て着工。福島事故のため同年4月に予定されていた本格工事は見合わせたままです。私は原子力の専門家だからと繰り返す岡委員長と内閣府は、これを「存在する」と世界に向けて主張しています。委員会ドラマから目が離せません。次回放送、乞うご期待!
(「核情報」主宰田窪雅文)
《投稿コーナー》
共謀罪捜査からプライバシー・表現の自由を護る─共謀罪法反対運動の今後の課題
弁護士・獨協大学特任教授 三宅 弘
通信傍受の拡大など監視社会を招く不安
いわゆる共謀罪法案の採決強行後の状況において、監視社会化を憂い、人々のプライバシーや表現の自由をいかに護るかについて考えたいと思います。
十分な審議もないままに、「共謀罪法案」が採決強行されたことにより、「組織的犯罪集団」「計画」「実行準備行為」の要件が無限定であるために一般市民が捜査の対象になるのではないか。277におよぶ計画段階の犯罪の成否を見極めるために、メールやLINE等を対象として共謀の疑いの捜査が必要となり、秘密保護法の適用と合わせ、通信傍受の拡大など監視社会を招集しかねないのではないか。そのような不安が広がっています。これらの法律が恣意的に運用されることがないよう、法の廃止に向けた取り組みを続ける必要があります。
加えて、行政機関における個人情報保護の強化が必要とされます。2016年の通信傍受法の改正により、窃盗、傷害、強盗、詐欺、恐喝をあわせると、一般刑法犯認知件数の80%を超えるとも指摘されています。GPS捜査のみならず、私人のコンピューターに侵入してその中の情報を入手するオンライン捜索、ラスター捜査と呼ばれる網羅的な電子的個人データ照合の権限、さらに情報技術システムを用いて住居や通信の監視等を行う権限などが任意捜査として行われる可能性が高まっています。
13年6月、元NSA(米国国家安全保障局)局員のエドワード・スノーデン氏は、米国政府がインターネット関連企業の協力を得て、全世界のインターネット上の、1ヵ月で970億件にも及ぶデータを収集し、エックスキースコアを使って検索・分析して監視できる情報環境を作り、秘密裏に活用していた実態を内部告発し、世界を震撼させました。17年4月に公表されたNSAの秘密文書(いわゆるスノーデン・ファイル)の中から、エックスキースコアがDFS(防衛省情報本部電波部)に提供されたことが明らかになりました。スノーデン氏は共同通信のインタビューにおいて、この提供の事実を認めています。
ドイツを参考に第三者機関による防止措置法制化を
これに対し、私たち市民は、どのようにプライバシーを護り、十分な政府情報への知る権利を行使し、委縮することなく表現の自由を行使することができるのでしょうか。この点、とりわけ、ドイツにおけるテロ対策法捜査・情報収集に対する連邦憲法裁判所と連邦・州データコミッショナーによる規制などを参考に、人々のプライバシーと表現の自由を護る方策を制度化すべきです。
ドイツにおいては、ナチスドイツの反省をふまえて、連邦憲法裁判所がIT基本権(ITシステムの秘密性と完全性の保証に対する基本権)の保障を宣言し、また、住居内の録音録画やオンライン捜索については、通信の秘密や住居不可侵という基本権を侵害するため、法律上の要件を厳しくしなければならないと判示しています。これを受けて連邦刑事庁法や連邦憲法擁護庁法の改正などがなされ、さらに連邦と州のデータコミッショナーが警察や情報機関によるテロ対策法捜査・情報収集に対して、プライバシーや表現の自由に対する侵害行為がないか等を調査し、収集データの削除要求をするという運用がなされています。6月のドイツ調査では、ベルリン州データ保護コミッショナーが、政府の情報機関において、右翼過激派でないにもかかわらず、その対象とされていた市民のデータを指摘し、数千のデータを削除した例のあることを聴取しました。
ドイツのテロ対策法のように、オンライン捜索やラスター捜査を法制化して、テロ対策を充実させるという方向について、賛成するものではありませんが、警察法2条に基づく任意捜査として、「共謀罪」として277に及ぶ計画段階の犯罪の成否を見極めるためにメールやLINE等を対象とする捜査が無制限になされることは阻止しなければなりません。
行政機関個人情報保護法の改正を
日本においても、3月に最高裁判所は車両に使用者らの承諾なく秘かに取り付けて位置情報を把握したGPS捜査について、憲法35条には「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利を認め、令状がなければ行うことができない処分と解し、立法的な措置が講じられることが望ましいと判示しました。ドイツの法規制、特にデータ保護コミッショナーによる監督と連邦憲法裁判所の判決を参考にしつつ、この最高裁判決を具体化し、第三者機関による監視社会化の防止措置を法制化してプライバシー・表現の自由をどのように擁護するか。
1つの提案は、行政機関個人情報保護法を改正し、自己情報の開示・訂正権の範囲を、防衛・外交・刑事訴訟手続等にまで拡大し、独立機関である個人情報保護委員会において、15年の個人情報保護法改正により対象とされた民間部門のみならず、本来の役割である公的機関の監督権限を与えることです。これによって、ドイツのデータ保護コミッショナーが個人情報保護と公的情報公開についての独立機関として機能していることと同レベルの権限を保有することとなるだけです。03年の行政機関個人情報保護法制定時からの積み残しの課題なのです。
(みやけひろし)
各地の脱原発の動きから(最終回)
島根原発再稼働は、これだけ問題がある
平和フォーラムしまね副代表 阪本 清
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中国電力の島根原発から30キロ圏内には、島根県・鳥取県の約47万人が住んでいる。防災拠点となるオフサイトセンター、島根県庁、松江市役所、県警本部のいずれもが原発から10キロ圏内にある特異な立地である。
平和フォーラムしまねは、党派を超えて、「さよなら島根原発ネットワーク」(共同代表・杉谷肇フォーラム代表)をはじめとする原発に反対する様々な市民団体と連携しながら、島根原発2号機(1989年2月営業運転開始・82万kw.)の再稼働反対、運転開始直前に福島原発事故発生で運転が中止された島根原発3号機(137万kw.)の運転停止を求めて、節目、節目で署名活動や集会、デモを行ってきた。
福島原発事故から6年半が経過したが、いまだに事故の収束はできず、松江市民をはじめ、多くの市民は、原発事故の危険性を問題視している。
現在、島根原発2号機は、原子力規制委員会による適合性審査を受けているが、最大の焦点は、原発敷地からわずか2キロ足らずの地点を通過する活断層=「宍道断層」の長さ問題である。原発運転当初は、活断層は存在しないとしてきた。しかし、広島大学や島根大学の研究者の調査の結果、活断層の存在がクローズアップされ、中国電力も仕方なしにその都度、距離を伸ばしてきたのである。それで「伸びる活断層」と揶揄される。当時の原子力安全保安院も追随してきた責任は重大だ。
中国電力は最近になって、最大の事故発生リスクである「宍道断層」の評価を39kmまで延長したものの、その先の鳥取沖断層への連動を否定して決着をつけようとしている。規制委員会も追随する姿勢を示している。これは、予見すべき危険性に再び目をつむる許しがたい姿勢である。30キロ圏内の住民が安全に避難できる満足な避難計画もなく、避難計画は机上の空論でもある。
さらに「核燃料サイクル」も行き詰まる中、1号機の廃炉に伴う使用済み核燃料の行く末さえ見通せない状況である。この上、止まった原発を再稼働させれば、核のゴミはさらに増大し続け、私たち住民の暮らしを脅かすことになる。
平和フォーラムしまねは、原発事故のリスクを断固として拒絶する。住民の暮らしを脅かすことなく、一刻も早く原子力発電の稼働を止めるよう強く中国電力に要求するとともに島根県をはじめ関係自治体が再稼働に同意しないように求めていく。
(さかもときよし)
〔本の紹介〕
「教養のドイツ現代史」
田野大輔・柳原伸洋編著/ミネルヴァ書房/2016年
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10月の総選挙の結果、改憲勢力が8割を占める結果となった。こんな現状を諸外国の人々は不可思議にみることだろう。原発の大事故が発生した日本で、なぜ原発推進政党が打撃をこうむらないのか?極右ともいえる安倍政権、日本の左派リベラル勢力は、なぜそんな政権を誕生させ、長期存続を許しているのか?なぜ、そんなに非力のか?こんな視点で日本の私たちも自らを問うてみると、様々な発見があるはずだ。そこで紹介したいのがこの著書である。
著者は「身近な対象のなかに問を見出し、その答えを求めて歴史をひもとく。こうした探求の積み重ねによって得られものこそ『教養』にほかならない」という。だから、著書名が「教養のドイツ現代史」なのである。
著書は、1871年成立のビスマルク・ドイツ帝国時代から現代までで構成。ワイマール共和国の誕生と崩壊、ナチス・ヒトラーの誕生と崩壊、戦後復興、68年の学生運動と新しい社会運動、東西ドイツの統一、そして社民党と緑の党との連立政権へと続く。
先の大戦で敗戦国となった日本とドイツ。戦後ともに見事な復興を遂げたが、政治史は大きく異なる。日本の社会民主党は衰退し、ドイツの社会民主党は何度も政権の座につき、今なお大きな力を保持している。日本の全共闘世代は自らの政治勢力を創出できず大半は企業戦士となったが、ドイツの全共闘世代(ドイツでは68年世代と言う)は社会民主党に参画したり、緑の党を結成、そして、98年からは社会民主党と緑の党の連立政権を誕生させる。緑の党は、現在も一定の社会勢力として健在だ。
ドイツの保守政党は、キリスト教民主同盟・社会同盟で、メルケル首相が党首だが、日本の自公政権と違い、2022年末までに原発全廃の法制化をし、最低賃金制は時給1000円を超える。政権は2013年から17年9月まで社民党との連立政権であった。
なぜ日本とこうも違うのか?また、日独の戦後の左派勢力の努力にどんな差異があったのか?この問いへの答えが見えてくる。なお、補完教材として映画・アニメ・小説・音楽が頻繁に登場。読者のより深い理解を得るものとして活用されている。
(富永誠治)
核のキーワード図鑑
平和を守るのは銃ではなく9条です |
『安倍9条改憲NO!憲法を生かす 全国統一署名』にご協力を
安倍首相をはじめとして改憲への動きが急速に強まっています。戦後70年以上にわたって、日本が海外で戦争をしてこなかった大きな力は憲法9条の存在と市民の粘り強い運動でした。いま、9条を変えたり、新たな文言を付け加えたりする必要は全くありません。私たちは、日本がふたたび海外で「戦争する国」になるのはゴメンです。
私たちは、安倍首相らによる憲法9条などの改悪に反対し、日本国憲法の民主主義、基本的人権の尊重、平和主義の諸原則が生かされる政治を求めます。
【請願事項】
1.憲法第9条を変えないでください。
2.憲法の平和・人権・民主主義が生かされる政治を実現してください。
現在、全国で3000万人を目標とする統一署名運動が行われています。ご協力をお願いします。
■署名用紙はこちらから ⇒ http://kaikenno.com/
呼びかけ団体:
安倍9条改憲NO!全国市民アクション/戦争をさせない1000人委員会/9条壊すな!実行委員会/憲法共同センター/九条の会
署名の送り先:
〒101-0064東京都千代田区猿楽町1-2-3錦華堂ビル4A「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」
●インターネット署名も開始 ⇒ http://chn.ge/2hb7FxY