2016年、ニュースペーパー
2016年04月01日
ニュースペーパー2016年4月
- チェルノブイリ子ども基金・向井雪子さん、佐々木真理さんに聞く
- 世界の中の日本の軍事費と「専守防衛」
- 食の安全を脅かすTPP
- 重大事故を招く伊方原発の危険性
- 日本の再処理政策にいらだつ米国
- 差別がいつまでも続くのはなぜ?
- 新潟の1000人委員会の取り組み
- 本の紹介:「ナチス前夜における『抵抗』の歴史」
- 核のキーワード図鑑
原発のない福島を!県民大集会
福島原発事故から5年が経過した2016年3月12日、福島県郡山市の開成山陸上競技場で「2016原発のない福島を!県民大集会」が開かれ、全国から6,000人が集まりました。同日、午前中にはシンポジウム「原発災害から5年福島の歩み、そして未来」も行われ、「記憶の風化」が進んでいるといわれる福島原発事故が、今なお県内で暮らす人々にとって日々の現実であることが議論されました。
「様々な理由で福島に戻れない人たちがいる、その原因が原発事故である」という開会のあいさつから始まった県民大集会。集会前日、福井県の高浜原発再稼働に対し大津地裁が「再稼働差し止め」判決を出したこともあり、原発の廃炉と再稼働反対を強く訴えていくとの発言に、会場の参加者も気持ちを新たにしました。
特別ゲストの鎌田慧さん(さようなら原発1000万署名呼びかけ人)は足尾銅山鉱毒農民を例に挙げ、集会後に郡山を起点に3月26日の「原発のない未来へ!全国大集会」へ合流するキャラバン行動にエールを送りました。「謝れ、償え、補償せよ」を掲げて行動するハイロアクション福島の武藤類子さん、二度と被害を起さないために活動する津島被害者原告団(浪江町)の今野秀則さん、大熊町で生まれ育ち避難生活について語った愛場学さん、福島に住んでいるからこそ伝えられることがあるという高校生平和大使の鈴木愛望さん、ストップ川内原発!鹿児島県実行委員会の向原祥隆さんらが、福島の地で脱原発への思いを訴えました。
(写真は集会後にデモ行進をする参加者)
インタビュー・シリーズ:111
日本政府はチェルノブイリの経験を無視するな
チェルノブイリ子ども基金 向井雪子さん、佐々木真理さんに聞く
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むかい ゆきこ さん
「チェルノブイリ子ども基金」代表。1991年春「チェルノブイリと核の大地広河隆一写真展事務局」を埼玉県内の母親たちと共に立ち上げ、全国の市民・団体に写真を貸し出す事業に携わる。2011年6月には「未来の福島こども基金」を立ち上げ、福島県内に食品の放射能測定器を送るための募金活動を始める。その後、福島の子どもの保養プロジェクト支援を中心に募金集めを続けている。「未来の福島こども基金」世話人、NPO法人「沖縄・球美の里」理事長も務める。
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ささき まり さん
「チェルノブイリ子ども基金」事務局長。1998年より「チェルノブイリ子ども基金」のボランティアとして、ウクライナとベラルーシの保養所で甲状腺手術後の子どもたちに日本文化教室を開催。会社を退職後、派遣社員をしながらボランティアを続け、毎年夏にウクライナとベラルーシの保養所へ通った。2005年より「チェルノブイリ子ども基金」スタッフとして勤務。2008年より事務局長。
―お二人の「チェルノブイリ子ども基金」との出会いについて教えてください。
向井 「チェルノブイリ子ども基金」は広河隆一さん(フォトジャーナリスト)が設立しました。彼は現地に取材に行った時に世界から集まった救援品や救援金が必要な所に届いていないということを知ってしまったのです。それで自らの手で医薬品なりお金を渡したいという事ではじめたのが「チェルノブイリ子ども基金」です。それと同時期に、広河さんの写真を日本全国で展示しチェルノブイリの現状と募金を訴えるために「広河隆一写真展事務局」が作られ、私もそこに関わりました。当初、基金の方は広河さんが個人でやっている程度だったんですが、募金が集まるようになると忙しくなり、事務局にも人が必要ということで、私も関わるようになりました。
佐々木 私が関わりだしたのは98年頃からです。当時、私は会社員だったのですが、趣味で習っていたロシア語を活かして人助けをしたいと思っていた時、新聞に「子どもたちのために日本文化の教室を開ける人募集」という記事が出ていたんです。私は少林寺拳法もやっていましたので、応募したら選ばれました。実際にベラルーシに行ってみると、子どもたちは笑顔で私たちを迎えてくれて、むしろ私たちの方が元気をもらったくらいです。それから「もっと喜ばせることをしたい」と毎年行くようになったのですが、それにはもう会社員はやっていられないと思い、辞めて派遣社員になりました。そうこうしているうちに「チェルノブイリ子ども基金」の仕事も頼まれるようになって、いつの間にかここのスタッフになっていたんです。
―基金はどのような支援に使われているのでしょうか?
向井 まず「里親支援」というのがあります。里親になった人が病気の子どもに対して最低2年間1ヶ月50ドルの支援金を送るという1対1の支援制度で、いまはこれが中心です。例え募金が減ったとしても個人対個人の交流が続くので、なかなかいい制度だと思います。
また子どもたちを夏の24日間、保養施設に送る「特別保養費」も「チェルノブイリ子ども基金」から全て出しています。2004年頃までは甲状腺がん手術を受けた後の子どもだけが対象だったのですが、その後は他の色々な病気の子ども達も支援しています。その他にも、医薬品を送ったり、保養施設に運営費用の一部を支援したりしています。
―現在の募金状況はどうでしょう?
向井 この基金も活動がもう長いので、そろそろ規模を小さくしようかと思っていたところに福島の原発事故が起きました。それからみなさんがチェルノブイリのことを思い出されたみたいで、2011年から募金が増えました。その後、やはり少しずつ減ってはいるんですけれど極端には減らない。おかげさまでと言うべきなのかよくわかりませんが、チェルノブイリへの支援がまだ必要であるということは事実なので、活動もそれなりに続けている状態ですね。
「未来の福島子ども基金」も広河さんの呼びかけで、福島第一原発事故後の2011年6月に作りました。最初は放射線測定器を送る運動から始め、その次に沖縄の久米島に保養施設「球美の里」をつくりました。そして今度は保養とか甲状腺検診とかに使うためのお金を集めることをはじめました。
─チェルノブイリや福島の事故を風化させないことが脱原発社会に繋がっていきますね。
佐々木 チェルノブイリの被害は30年経った今でも全く終わっていません。福島の事故の後、日本からも色々な人達がチェルノブイリの経験や実態を知りたいということで現地に行きました。しかし、日本の公の機関がベラルーシやウクライナに行くと、やはり現地の公の機関が受け入れ先になります。すると「病気の子はそんなにいない」「復興は進んでいる」「だから日本も大丈夫だ」という報告しか出てこないので、私たちからすると悔しくてたまりません。ですから私たちはチャリティーイベントや小さい報告会を開いたり、ニュースレターなどを通じて発信したりしています。例え一部の人の目にしか止まらなくても、その人たちがまたちょっとずつ周りの人に広めてくれると思います。
―チェルノブイリの当事者は福島をどうみているのでしょうか?
佐々木被曝線量に関しては確かにチェルノブイリの方が日本よりも厳格な基準があります。チェルノブイリだったら避難しなくてはいけないようなレベルの所に、日本はもう人を帰そうとしているのです。チェルノブイリの30年後を全く無視しています。
現在は一児の父親となっているアレクサンドルという青年(31歳)は、子どもの頃甲状腺がんの手術を受けました。その頃はまだベラルーシ国内で手術ができなかったので、彼はドイツで手術を受けその後も治療を続けたんです。そんな彼は「自分は、日本やドイツなど外国の支援のおかげでこれまで生きてこられたことに大変感謝している。特に日本の文化や人々の優しさに尊敬の気持ちを抱いてきた。しかし福島事故後の日本政府の対応には驚いている。広島・長崎を経験し、チェルノブイリ被害児を助けてくれた日本が、なぜ自分の国の子どもたちを助けないのか」と言っています。なんで日本政府は自分の国の子どもに対してちゃんと支援をしないのかと言われた時、こっちも恥ずかしい気持ちになりますよね。
―現在ベラルーシやウクライナの子どもたちにはどのような症状が出ているのでしょうか。
佐々木 小児甲状腺ガンのピークはもう過ぎています。しかし甲状腺ガンはその当時すぐに発症した人もいれば、最近になってから発症している人もいます。また、いまは甲状腺以外の病気の人もいっぱいいます。実にさまざまです。また、当時胎内にいたわけでもない2世代目にも症状が出ています。汚染された地域に住んでいるというだけで、大きい病気ではなくても免疫力が低くて風邪をひきやすいとか治りにくいとか、そういう子どもが多いんです。
―汚染地を一時的に離れて過ごす「保養」が子どもの健康に与える効果について教えてください。
佐々木 すごく効果があります。体はもちろん心の問題も結構大きい。病気の子どもは長い入院生活や治療を受ける中で心が閉ざされてしまうことが多いんです。でも保養施設で色んな病気を抱える仲間と出会えると「自分だけじゃなかった。一人ぼっちじゃないんだ」と思えるようになるんです。また保養施設の先生やお医者さんに出会えることが心の支えになります。顔つきが見違えるほど変わっていくんです。心が元気になると体にも影響してくるのだと思います。特に最初は自分の子どもを保養施設に送り出すことに不安だったお母さんが「別人みたいに元気になって帰って来た」といって泣きながら感謝してくれる、そんなこともあります。
向井 私たちの作った保養施設も沖縄の久米島にありますけれども、施設の中身やそこで働いている専門家などは全然レベルが違うんです。ベラルーシの汚染地区の子ども専用施設の中で「ナデジダ(希望)」はドイツ・ベラルーシ共同会社で、保養費は政府予算ですが、それ以外の運営費は海外のNGOなどが援助してきました。他の国立保養施設は100%政府がお金を出しています。一方、日本の場合は国が保養に乗り出すということはないのです。
―最後にみなさんに伝えたいことをどうぞ。
向井 チェルノブイリでは事故当時生まれていなかった次世代の子どもたちにも、脳や目の腫瘍、腎臓・肝臓がん、血液や呼吸器官の病気、骨の異常など、さまざまな健康被害が続いています。しかし近年、ウクライナやベラルーシでは、事故による被害は終ったものとして、保養や病気の子どもたちへの補償など被災者への支援が削減や打ち切りの方向にあります。特にウクライナでは戦争による経済状況の悪化により、弱者が顧みられなくなっているといいます。
チェルノブイリ被災地では、国際社会の支援が今も必要とされています。いま特に急を要しているのは、ウクライナの青年ウラディスラフへの支援です。彼は腎臓移植手術を必要としており、ドナーもやっと見つかったのですが、「チェルノブイリ子ども基金」以外には支援者が見つかっていないということです。彼への支援をぜひともお願いしたいです。
(詳細http://homepage2.nifty.com/chernobyl_children/No.102.pdf)
また、4月23日(土)には練馬文化センターで小出裕章さんの講演会&チャリティコンサートを開催します。フルートとピアノの演奏もありますので、ぜひお越しいただければと思います。
(詳細http://homepage2.nifty.com/chernobyl_children/saishin.html)
5兆円を超えた日本の軍事費をどうするのか
世界の中の日本の軍事費と「専守防衛」
ピースデポ 代表 田巻 一彦
「戦争のない世界を」の軍事マップ
「戦争を超えた世界を」(WorldBeyondWar=WBW。http://worldbeyondwar.org/)という国際キャンペーンがある。注目したいのが、「戦争を超えられないでいる世界」(筆者)の実態を様々な切り口から視覚化して示した”MappingMilitaryMadness”(直訳:軍事の愚行を地図にする)というウェブ・サイトである。「戦争」「兵器(武器輸出)」「兵器Ⅱ(武器移転協定)」「米国兵器の輸入」「軍事費」を含む11項目にわたる統計データを、世界地図上にイラスト化した「インタラクティブ」(双方向型)ページだ。
軍事費のトップ15を見る:日本は7位
次ページに掲載した図は、「軍事費」のウェブ・ページをピースデポが「核兵器・核実験モニター」(489号)用に加工したイラストだ。軍事費が断然トップなのは、当然のことながら約58兆ドルの米国(金額は2014年。以下同)。それに次いで多いのが最近「超警戒銘柄」とされている中国(13兆ドル)だが、米国との差は45兆ドル以上(5分の1強)と非常に大きい。3位につけるのがサウジアラビアである。かつての上位の常連はロシア(ソ連)であった。
ここに中東の大国が登場するのが、冷戦終結後四半世紀を経た世界というものなのかもしれない。ロシア(旧ソ連)は、7兆ドルと米国の8分の1以下で4位(今でも軍事大国であることには変わりはないが)。さらに大きな差がついて、ランキングは英国、フランス、日本、インド・・・と下ってゆく。日本はフランスとインドに挟まれた第7位である。「え?日本はもっと上位なんじゃない?」とご指摘の向きもあるかもしれない。一頃、日本は米ロ中につづいて4位という議論もあった。日本が軍人恩給とか海上保安庁の予算を「防衛費」に入れないために、世界ランキングを下げているという議論だ。WBWがどこまで緻密に金額の積み上げ方を均一化しているのかはわからないし、全体にいえることだが、3位あたりから以下の細かい順位は、余り気にしても意味がない。勘定の仕方で変わりうるからだ。
人口一人あたりでは、イスラエルがトップ
軍事費は、その国が置かれた国情や地勢、国際的な状況、そして何よりも政府の方針によって大きく影響を受ける。それと、その国の経済活動によっても大きな影響を受ける。例えば、米国の場合は、伝統的に「世界の警察官」を自認してきたし、7000発以上の核兵器も持っている。そして巨大な軍産複合体が政治中枢と強いパイプをもって存在している。そのような国にとって、軍事費は「これまでの経過から、そうせざるを得ない」という側面があることを否定できない。
したがって軍事費を国際的に比較して議論するのは難しい。筆者も以前から軍事費の「国際比較」にあたっては、何をもって標準化するべきかをいろいろ考えてきた。WBWの地図が使うのは「人口一人当たり」で標準化するという方法だ。すると、そこに見えるのは、単純ランキングとは違う世界の傾向だ。まず、トップはイスラエル、2位にサウジアラビアがつける。中東を代表する2つの軍事大国が、「守るべき国民の数」に比して米国よりも多額の軍事費を投入していることがわかる。そして、3位以降に米国、英国・・・と続いて日本は12位の337ドル。赤ちゃんから老人まで一人あたり4万円余りを軍隊のために拠出していると考えると我々の日常感覚にひきつけて考えやすいだろう。
中国は意外(?)にも日本の3分の1以下の94ドル。そしてその下にインドがつづく。何しろ中国の人口は14億人、インドは12.7億人だから「割り勘」の結果、国民一人当たりの負担は日本よりずっと少ない。だからといってこれらの国が地域と世界にもたらしている「脅威」を過小評価してはならない。「人口一人当たり」の標準化も万能の物差しとはいえない。
日本の軍事費を減らしてゆく「戦略」を考える
以上、直観的な見方に偏っているが「世界の中の日本の軍事費」が少しは見えてきたのではないか。日本の軍事費が過大なのか、適切なのか、少なすぎるのか。筆者の結論を最初に言えば、「過大」であるし、どうやって減らしてゆくのかを平和運動の立場から戦略的に考えようというのが、平和フォーラムの「ニュースペーパー」の誌面をお借りして今号から始める「不定期連載」の目的だ。
日本の軍事費を「数値として」国際比較して議論する代わりに、筆者は一つの基軸から日本の軍事費を批判的に評価していきたい。「一つの基軸」とは、いうまでもなく「日本国憲法」とりわけ「9条」である。ただし、9条を字義通り厳密に解釈すれば軍事費は「ゼロ」以外の選択肢はなくなってしまう。そこで私は9条に深く関わる具体的政策を物差しとして、日本の軍事費を評価していきたい。
- 専守防衛政策にかなった兵器や態勢、活動なのか。
- 海外での戦争遂行に有用な兵器や態勢、活動なのか。
- 唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」の実現に資する兵器や態勢、活動なのか。
- 国際協調主義や人間の安全保障の実現に有用な兵器や態勢なのか。
データ出典:「戦争を超えた世界を」ウェブサイト。
http://worldbeyondwar.org/mapping-military-madness-2015-update/
専守防衛政策を考えるために
ここで、第一の物差しである「専守防衛政策」を使うにあたって、重要な視点をあらかじめ明らかにしておきたい。
「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」(2016年度版「防衛白書」)。
一方、1993年の国連報告書「防衛的安全保障の概念と政策に関する研究」は次のように指摘している。「防衛的安全保障」を「専守防衛」と読みかえよう。
※攻撃的兵器システムと防衛的兵器システムを区別することは、不可能といわないまでも、困難。
※兵器が攻撃的性格であるか、防衛的性格であるかは、その兵器の本来の性質と同じくらいに、用いられる文脈全体にかかわる。
※「防衛的安全保障」は、構造的に非攻撃的な軍の態勢、ドクトリン、外交防衛政策全体のことをいう。
※「防衛的安全保障」のためには、各国家が外部の軍事的脅威から安全であると感じることができるように国家間関係を転換する必要がある。
筆者は、兵器の本来の性質よりは「用いられる文脈全体」から、兵器の「専守防衛」性を評価していくというアプローチをとりたい。「専守防衛」のはずの自衛隊と、先制攻撃を含む「打撃力」を有する米軍。これらを「切れ目なく一体的に運用」していくという今後の日米軍事協力を考えた時、私のアプローチは、そもそも日本に「専守防衛の兵器」など存在しうるのかという問題に行きつくかもしれないが、それを恐れずに書き進めようと思う。
注記:本稿に示されるのは筆者個人の見解であって、ピースデポの見解を代表するものではない。
(たまきかずひこ)
食の安全を脅かすTPP
消費者の選択権、食料主権を奪う
TPPに反対する人々の運動 共同代表 山浦 康明
日本政府は、環太平洋経済連携協定(TPP)における食の安全に係わる協定文第7章の衛生植物検疫措置(SPS)について「日本の制度変更が必要となる規定は設けられておらず、日本の食品の安全が脅かされるようなことはない」と述べます。また第8章の貿易の技術的障害にかかる措置(TBT)についても「遺伝子組換え食品表示を含め、食品の表示要件に関する日本の制度の変更が必要となる規定は設けられていない」と説明しています。
しかし、今後、ほとんどの農畜産物の関税がゼロとなり、輸入食料が大量に輸入され、内外価格差から国内農業が衰退して食料自給率下がることから、食料主権がないがしろにされ、国際紛争による食料輸入の途絶など、多くのリスクが襲ってくることが考えられます。こうした中で、海外の農業生産において使われる農薬・化学肥料、食品生産において用いられる食品添加物の安全基準は輸出国の基準を尊重せざるをえなくなります。
また日米間の二国間協議の結果、TPP協定の日米合意文書によって日本における規制緩和が約束されました。すでに、TPP交渉に先んじて日本政府が自主的に規制緩和したものもあります。TPPによって食の安全性は危機に直面し、消費者の選択権は確保できなくなるのです。
食の安全基準は今後どのように策定されるのか
TPP協定では参加国によるSPS委員会が新たに設置されます。そこでは「貿易に対して不当な障害にならないようにする」ことを最大の狙いに、「透明性を確保する」として、検疫措置を執る際には利害関係者の意見を積極的に聞くことや、食の安全基準を各国が策定する場合にグローバル企業を参加させた上で検討が行われることになります。そこでは国際基準以上の基準を執る際には客観的で科学的な証拠を挙げなければならず、科学者の間でも安全性がグレーゾーンとされる遺伝子組み換え作物などの食品の規制が行えなくなる可能性が高く、予防原則は排除されてしまうのは明白です。
また、安全基準をめぐっては、コーデックス委員会や国際獣疫事務局(OIE)などの国際基準を重視することになりますが、日本政府は国内の安全基準が厳しいものは国際基準に従って緩め、日本より厳しい国際基準は軽視する二重基準を用いてきました。例えば、ポストハーベスト農薬の承認の過程が米国の要請を受けて効率化されたり、牛海綿状脳症(BSE)に関してはOIEの基準に従う形で、日本政府は牛の全頭検査を止めたり、これまで特定危険部位として禁止していた、牛由来のゼラチン、コラーゲンの輸入制限を緩和しました。また、国際的に認められているからとして、日本政府は国際汎用食品添加物を積極的に承認するようになりました。
他方、厳しい国際基準を軽視する例として、コーデックス基準を無視して、ベーキングパウダーとしてアルミニウムを含む食品添加物を認める方向性が打ち出されています。また、遺伝子組み換え技術を使った食品添加物が安全性の確認もなく市場化されたり、遺伝子組み換え微生物を用いた食品添加物も輸入されていたことが分かると、政府はすぐにそれを安全だとしています。物品の引き取りでも「48時間以内」とのルールを設けて、輸入検査が拙速に行われてしまう恐れがあります。
全国消費者大会でTPPと食の安全問題を議論(3月11日) |
食品表示もグローバル企業に有利に決められる
食品表示ルールを策定する際にもグローバル企業が関与できる制度ができてしまいます。TBTの章では「透明性の確保」との表現で、各国の食品表示基準の策定に海外の利害関係者が関与できる仕組みが導入されます。「相互承認」の詳しい規定も置かれ、米国など貿易相手国のルールを認めやすくなります。さらにTPP加盟国間で新たにTBT小委員会と作業グループを設置することが打ち出され、国内のルールを設ける際に利害関係者が関与できるようになります。
さらに、TPP協定第2章「内国民待遇及び市場アクセス」ではことさらに「モダンバイオテクノロジーによる生産物の貿易」を掲げ、遺伝子組み換え農産物の輸出国(米国など)の義務をあいまいにし、輸入国の権利を弱める制度が盛り込まれています。輸入時に遺伝子組み換え農産物の微量混入があった場合、輸出入国との間で協議の場を持つこと、遺伝子組み換え問題作業部会を設けて協議すること、はては遺伝子組み換え食品の未承認国に承認を促し違法とならないようにすると解釈できる条文などが作られました。このように日本の食品安全行政はTPP、日米二国間協議、産業界などの影響により、消費者の権利を奪う流れを加速させているのです。
(やまうらやすあき)
重大事故を招く伊方原発の危険性
命と人権を脅かし、人間社会を壊す再稼働を許さない
愛媛県平和運動センター 事務局長 大原 英記
基準地震動は過小評価 制御棒挿入に重大な時間差
原発の耐震安全性は、基準地震動の適切な策定にかかっています。基準地震動の想定を誤れば、原発の耐震安全性は確保できません。愛媛県にある伊方原発の基準地震動650ガルは明らかに過小評価です。過小に評価されてきた背景には、過去に発生した地震・地震動の平均像によって地震動想定を行なってきたことがあります。2008年の岩手・宮城内陸地震は4022ガル。1995年の阪神淡路大震災は、活断層として考えられていなかった場所での地震でした。原子力規制委員会は「震源を想定しない地震動」について、2000年の鳥取県西部地震や、2004年の北海道留萌市庁南部地震を考察していますが、この2つの地震を超える地震はいくつも発生しています。
また、クリフエッジ(それを超える地震動がくれば原発全体の安全機能が喪失するレベル)は855ガルであり、重大事故を防ぐことができないことになります。原発は、毎秒約7KmのP波で地震を検知し、同約3KmのS波の到達で制御棒の挿入が始まります。高知大学の岡村眞教授によれば、P波の秒速が約7Km、S波の秒速が約3Kmであり、中央構造線から伊方原発までの距離が5Kmの場合、P波の到達時間は0.71秒、S波の到達時間は1.67秒となり、P波到達後にS波が到達するまでの時間は0.96秒となります。
8Kmの距離としても、P波到達は1.14秒、S波の到達時間は2.67秒で、P波到達後、S波が到達するまでの時間は1.53秒となります。S波が原子炉に到達し、制御棒の挿入が始まる(スクラム信号により制御棒を支持しているラッチが開くまでの時間0.3秒)+設計挿入時間2.2秒=2.5秒となり、制御棒の挿入が完了しないことになります。
STOP伊方原発再稼働!全国集会に4000人が参加 (2015年11月1日・松山市) |
水素爆発防止対策の不備 住民避難は不可能に
重大事故が発生しジルコニウムの反応量と水素濃度最大値の関係は、原子炉圧力容器が破損するまで全炉心内ジルコニウム量の75%の場合、水素濃度は川内原発1、2号機で9.7、伊方原発3号機で11.3、100%の場合に川内原発は12.6、伊方原発は数値を提示していません。不確かさを考慮した水素発生量は、川内原発の審査のように全炉心内ジルコニウム量を100%反応で評価すべきです。伊方原発の場合、水素濃度最大値は約14.5%になり、水素爆轟防止基準の13%を超えます。
伊方原発は、東西50キロに延びる佐田岬半島の付け根にあり、原発から西には40の集落に約5000人が住んでいます。伊方町には急傾斜地崩壊危険箇所が206ヶ所、地滑り危険箇所が64もあり、佐田岬半島は日本三大地滑り地質といわれる三波川変成帯です。また、原発から半径30キロ圏内には約13万人が住み、入院患者も約1800人います。原発震災がおきた場合に、地盤崩壊後に道路が寸断し、放射能の降り注ぐなか、人々は避難できないことは明白です。
免震重要棟の不備 ずさんな使用済み核燃料保管
福島原発事故では、事故の8ヵ月前に完成した「免震重要棟」なしに事故処理は考えられなかったとされています。当時、吉田昌郎所長ほか、最大で500人~600人が昼夜を問わず免震重要棟で作業を行っています。
伊方原発では、免震重要棟の耐震性が不足したまま放置され、新たな緊急時対策所は建屋内面積がわずか160平方メートル(約50坪)ほどの手狭なものであり、重大事故発生時に多くの作業員を受け入れる施設とはなっていません。福島原発事故の教訓である、十分な広さで機能を備えた免震重要棟が必要であり、これなしの再稼働はあり得ません。
また、原子力規制委員会は、使用済み核燃料を審査の対象にすべきです。しかし、伊方原発では、使用済み核燃料の保管、今後の安全管理の見直しが立っていません。行き場のない使用済みMOX燃料が、厳重な保管もされず原子炉のような堅固な施設で保管されるわけでもなく、伊方町に残されたままになることも大きな問題です。
伊方原発3号機の再稼働は、移住できない住民を「不安のとりこ」にするものです。人間が生命を脅かされ、生存権を侵害されることは許されません。1979年のスリーマイルの事故、86年のチェルノブイリ事故、2011年の福島原発事故など、人類に対する警告を無視し、十分な検証もせずに、原発再稼働は許されるべきではありません。
私たちは、知事や四国電力への申し入れ、署名、4月23日の再稼働反対の全国集会(13時~、松山市・城山公園)開催など、あらゆる取り組みを積極的に進め、民意を高め、全力で再稼働阻止・廃炉に向けた運動に取り組んでいきます。
(おおはらひでき)
核セキュリティー・サミットを前に
日本の再処理政策にいらだつ米国
「核情報」 主宰 田窪 雅文
3月17日の上院外交委員会の公聴会でトーマス・カントリーマン米国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)が日本の原子力発電所の使用済み燃料再処理計画について、経済性も合理性もなく、核拡散防止の観点から「全ての国が再処理事業から撤退すれば非常に喜ばしい」と述べたことを読売・朝日両紙が報じました。朝日新聞は、この発言について、菅義偉官房長官は18日の会見で、米政府から日本政府に懸念を伝えられたことは「全くない」と述べたと報じています。また、外務省幹部は「日本以上に厳格で透明性をもって管理をしている国はない」と反発したとのことです。
公聴会は、3月31日~4月1日にワシントンDCで開かれる核セキュリティー・サミットとの関連で開かれたものです。核セキュリティー・サミットの発端は、2009年4月5日にオバマ米大統領がプラハで行った演説にあります。大統領は世界の核物資の量の最小化と保安措置強化を重要課題と宣言し、「核セキュリティー(核物質保安)に関する国際サミットを1年以内に開催」すると約束しました。2010年から1年おきにワシントン、ソウル、ハーグとオバマ大統領の肝いりで開かれてきたサミットは、今回で最後となります。
無視される米国の声
米政府関係者によると、これ以上日本のプルトニウムを増やして欲しくないとの米側の考えを日本側に伝えてあるが、それがどれほど理解されているかについて米側には不安があるとのことです。米側からの懸念を伝えられたことはないとの菅官房長官の発言は、この米側の不安が的中していることを示しています。いくつか公になっている懸念表明の例を見てみましょう。
カントリーマンは、例えば、2013年4月にも日本側に日本のプルトニウムの蓄積についての懸念を伝えていました。(鈴木達治朗原子力委員会委員長代理の4月22日同委員会会合での報告)
「核燃料サイクルをめぐって現在日本で行われている議論について、核不拡散や原子力技術の観点から、非常に高い関心を持っている。特に、MOX燃料を使用する原発が存在せず、その見通しもない中で、六カ所再処理施設を稼働することは、米国にとって大きな懸念となりうる。特にイランの核問題や米韓原子力協力の問題に影響を及ぼすことで、米国にとっても困難な事情につながる可能性がある。日本が、経済面・環境面での理由がないままに再処理活動を行うとすれば、これまで日本が不拡散分野で果たしてきた役割、国際社会の評価に大きな傷が付く可能性もあり、状況を注視している」。
今回の公聴会ではエドワード・マーキー上院議員の質問に次のように答えました。
「東アジアの主要国の間には競争があって、それは私の考えでは非合理的レベルにまで至っている。連中が[再処理]技術を持っているんだから、我々も持たなきゃいけないという感じだ──この技術が経済的にまったく意味をなさなくて、世界における地位の向上にも役立たないなんてことはお構いなく」。
(マーキー上院議員:日米原子力協力協定は数年後に更新が必要だ。現行の1982年協定では日本が再処理のためにヨーロッパに使用済み燃料を送ることなどについて事前同意を与えている。次の協定を検討するに当たって、次期政権は、日本の再処理依存を減らし、使用済み燃料処分の別の手段を採用するようよう奨励するのにどのような措置を講じるべきか。中国と日本の再処理の危険の一つは、韓国にその再処理計画を追求するようにとの圧力をもたらし、それにより、朝鮮半島を非核化して北朝鮮の核の野望が更なる拡散の圧力をもたらすのを防ごうとの我が国の取り組みを台無しにするということだ。この点について日本との話し合いはどうなっているか。日本は核拡散問題を、そして、その方向に向かえば危険が増すことを理解しているか。)
「……本質的な経済性という問題があり、米国とアジアのパートナー諸国が問題になっている経済面および核不拡散面の問題について共通の理解を持つことが重要だ──日本との原子力協力協定の更新について決定をする前に」。
懸念表明はカントリーマンだけではない
2015年に日米科学技術協力協定関連会議出席のため来日したジョン・ホルドレン米大統領補佐官(科学技術担当)は、六ヶ所再処理工場の運転開始計画に関し、「日本にはすでに相当量のプルトニウムの備蓄があり、これ以上増えないことが望ましい」と述べました。そして、「分離済みプルトニウムは核兵器に使うことができ、我々の基本的考え方は世界における再処理は多いよりは少ない方が良いというものだ」との考えを強調しました(10月12日朝日新聞、英文は13日)。
2012年3月の核セキュリティー・サミットで韓国を訪れたオバマ大統領自身が、3月26日、韓国外国語大学校での演説で次のように述べています。
「[各種の措置により]国際社会は、テロリスト達が核物質を入手するのをますます難しくした。これは各国を安全にした。しかし、我々は幻想を抱いてはいない。我々は、核物質──何発もの核兵器に十分な量──が未だに適切な防護のないまま貯蔵されていることを知っている。我々は、テロリストや犯罪集団が、今も、核物質を、そして、ダーティーボム用に放射性物質を手に入れようとしていることを知っている。我々は、ごく少量のプルトニウム──リンゴほどの大きさ──が何十万人もを殺傷し、世界的危機をもたらしうることを知っている。核テロリズムの危険性は、世界の安全保障にとって最大の脅威の一つであり続けている。……新しい世代の科学者や技術者が直面する最大のチャレンジの一つは、燃料サイクルそのものである。我々は、みんな、問題を理解している。原子力エネルギーを我々に与えてくれるプロセスそのものが、各国やテロリストによる核兵器入手を可能にしうるということだ。しかし、分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」。
また、この演説について報じたワシントン・ポスト紙(2012年3月27日)は、核セキュリティーサミット米国サブシェルパ、ローラ・ホルゲイト米国国家安全保障会議WMDテロ・脅威削減担当上級部長のつぎのような発言を紹介しています。
「[ウラン資源の枯渇に備えて再処理によるウランの有効利用をするという]これら見方が意味をなしたのは3、40年前のことだ。当時は、世界にはあまりウランがないと我々は考えていた。だが、今では、我々は、ウラン不足という概念が時代遅れのものであることを知っている。また、我々は、分離済みプルトニウムがテロリストに狙われやすいということを知っている」。
カントリーマンの前任者らの考え
今年2月25日、13人の元エネルギー・国家安全保障関係米政府高官・専門家らが、米エネルギー省長官に対し、軍事用余剰プルトニウムを「プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)」燃料として処分する計画を中止するよう要請する書簡を送りました。彼らは昨年9月にも同様の書簡を出していました。今回の書簡は、オバマ大統領が2017年予算案でMOX燃料製造工場建設計画中止を発表した後、議会の計画擁護派が予算復活をめざして圧力を掛けているのを受けてのことです。六ヶ所再処理工場の運転開始計画や中国・韓国の再処理計画を止めるためには米国のMOX計画も止めるべきとの主張です。これには、カントリーマンの前任者ロバート・アインホーン元国務次官補(核不拡散担当)も署名しています。一部を抜粋してみましょう。
「さらに重要なのは、軍備管理・核不拡散・核セキュリティーなどの面から考えてこのプロジェクトを中止すべき重要な理由があるということです。前回の書簡で述べたとおり、経済的に不利であるにも拘わらず、日本及び中国ではプルトニウムの分離を続けることを、また、韓国では再処理について米国の同意を得ることを求める政治的圧力が強くなっています。これらの計画では発電用原子炉のためにプルトニウムを生産することになっていますが、同じプルトニウムは何千発もの核弾頭を製造するのにも使えます。……
一方、日本政府は大型の再処理工場の運転開始を望んでいますが、その結果生じる日本のプルトニウム量の大幅な増大に対する米国の反応について心配しています。日本政府関係者等は、米日原子力協力協定を米国が2018年に自動延長させることを望んでいます。日本のプルトニウム政策の核拡散面での意味合いについて米国政府と話し合う必要を避けるためです。日本は今日、非核兵器国で再処理をしている唯一の国です。
中国もまたプルトニウムのリサイクルに関心を持っています。中国は六ヶ所規模の再処理工場の購入についてフランスと交渉しています。中国はもちろん、核兵器国です。しかし、将来の増殖炉用として蓄積されるプルトニウムも、短期間で核兵器保有量の桁を上げることを可能にします。
これら三カ国の政府関係者の中には、高くつく上、危険であるプルトニウム・リサイクルに反対している人々もいます。しかし、もし私たちが自国のMOX計画を中止することに失敗すれば、東アジアにおけるこのような活動を抑制する取り組みに彼らを巻き込む上での私たちの信用が大きく損なわれることになります」。
日米同盟関係を重視する人々に伝わるか
菅官房長官を始めとする政権中枢の人々にこのような声が伝わっていないということでしょうか。カントリーマンの公聴会での発言を伝えたAP通信の記事はその意味を次のように評価しています。「米政権は、発電のためにプルトニウムを生み出す日中両国の計画について公の形での懸念表明のレベルを上げているようだ」。上述のアインホーンの署名をしたモニーツ長官宛て書簡には、対日政策に大きな影響力を持ち、駐日大使候補にもなったジョセフ・ナイ元国防次官補も署名しています。
2014年3月にハーグで開かれた核セキュリティー・サミットの際に出された日米共同声明は、茨城県東海村の「高速炉臨界装置(FCA)」に警備体制の不十分な形で置かれている331kgのプルトニウムと高濃縮ウランを厳重な保管と処分のために米国に送ることを発表しました。共同声明は、世界全体の高濃縮ウランと分離済みプルトニウムの量を減らすことは、核兵器の材料になる「核物質を権限のない者や犯罪者、テロリストらが入手することを防ぐために」重要であると述べ、「高濃縮ウランとプルトニウムの最小化のために何ができるかを各国に検討するよう奨励」しています。
このプルトニウムを積んだ船が3月22日午後、東海港を出港しました。オバマ大統領は、今回のサミットでこれを大きな成果として取り上げるのでしょう。日本は、国際原子力機関(IAEA)の計算方法で核兵器約6000発分に相当する48トンものプルトニウムを持ちながら年間8トンものプルトニウム分離能力を持つ六ヶ所再処理工場の運転開始政策に固執してオバマ大統領の顔に泥を塗るのでしょうか。
(たくぼまさふみ)
《投稿コーナー》
差別がいつまでも続くのはなぜ?
I女性会議 事務局次長 池田 万佐代
夫婦同姓は「男女差別の国・日本」の表札
民法750条が夫婦同姓を強要していることは憲法違反であり、女性差別撤廃条約に違反しているとした国家賠償訴訟に対し、昨年12月16日に最高裁大法廷は「合憲」との判断を初めて示した。1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓制度導入のための民法改正の答申を行い、間もなく実現かと思われてから実に20年。ようやく大法廷が出した結論がこれかと多くの人を失望させた。
判決は、規定自体は男女差別ではなく、名前を変える不利益は通称名使用で緩和されるという。加えて寺田逸郎裁判長は「国民的な論議に委ねる」と裁判所の違憲立法審査の役割を放棄し、国会にこの問題を投げ返した。しかし、これは世論や多数決で決めるものではない。実際に仕事でキャリアを積もうとする女性たちが姓変更のために大きな被害と不便を受けているからこその訴えに対し、憲法違反だと断ずるべきだった。しかも、女性差別撤廃委員会(国連人権理事会設置)からは夫婦同姓規定は条約違反だと再三勧告をうけていたにもかかわらず、この点には一切触れていない。「夫婦別姓」に反対する安倍政権の意向に沿った判決と指摘されても仕方がない。そして今も日本は世界でも類を見ない「夫婦同姓を強要する」国のままだ。
男女どちらの姓でもいいはずなのに、現行制度では97%が男性の姓に変わっているのはあまりにも不自然だ。私は「夫婦同姓」は男中心社会であるこの国の玄関にかけられた「表札」のようなものだと思っている。
そもそもこの国は家族制度の中心と継承を「男」にしか認めてこなかった。それゆえ女性の労働権も認めていないのだ。戦前の日本の軍国主義を支えたのは天皇を父とし国民を赤子とした家族国家観で、その最小単位は「家」。家長は絶対的権力を持ち、女性には人権はなく、長男が家を継承する。この家制度は1億人を戦争に向かわせる大きな役割を果たした。戦後の民主化政策で「家制度」は解体され、民法、戸籍法も変わった。しかし、実は民法、戸籍、住民基本台帳にはその残滓があり、さらには税制・社会保障・賃金制度にまで影を落とし、現在の女性たちを苦しめているのだ。
女性は労働権を奪われている―男性稼ぎ主型賃金を見直す時
しかし、ここでは法や制度ではなく差別の根源である女性の労働権が奪われている点について述べたい。賃金格差の解消、人間らしい働き方の確立、そして、女性が政治的発言力を高めれば、差別国家日本の「表札」をかけ替えることは容易だと考えるからだ。
男女平等で人間らしく働ける社会にするために、一緒に闘うはずの男性たちには知っておいて欲しいことがある。それは、「年功序列」と「男性稼ぎ主型賃金」の考えこそが男女差別賃金を生み、1995年に出た日経連(当時)の「新時代の日本的経営」を実現する手助けをしたということだ。その結果、女性は正規の労働から締め出され、非正規労働者になっていく。今では非正規労働は4割を占め、男女問わず増え続けている。
忘れもしない、学生時代に春闘交流会に参加して驚愕したのは「母ちゃんを働かせなくてもいい賃金を」という総評(日本労働組合総評議会)のスローガンだ。同時に、手帳付け運動で賃金要求の根拠を明確にしようというのはいいが、男性労働者の賃金には「妻子父母を養い、家を建て、ローンを払って、教育費を…」と乗せていく。女は家計補助、子どもを養わないし、家を建てるのは男だからと、要求時点で女の賃金は安くても仕方がないとなっていたのではないか。ローンを組んで生涯社畜になるのではなく、住宅政策の充実を求めるべきではなかったのか。すべての教育の無償化を政策要求すべきではなかったのか。扶養・教育・住宅ローンを除けば、年功で賃金が上がり続ける必要はなく、同一労働同一賃金への道はもっと早まったのではないか。男女同じように働き、子育てし、どちらかが病気や失業で働けなくなっても他方がフォローできる、保育・医療・教育・住宅・介護は公的に保障されている、そうなれば同一賃金こそ合理的だ。男女とも気持ちが楽で、暮らしが楽しいではないか。
結局、私たちを苦しめているのは、男が稼ぎ、女が育児・介護・家事を一手に引き受けるという「家族制度」の亡霊ではないだろうか。男性稼ぎ主型賃金の結果、会社や国家に縛られる男と、貧乏で、男に頼らなければ生活できない女が出来上がる。しかもその女は本来、国家が整えなければならない保育・介護・医療・教育制度の不備を無償労働で補ってくれる。日本が抱える多くの問題はここからきているのだ。
安倍政権は「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざすのだから、男女問わず「いつでも首を切れる従順な労働者像」こそが私たちに求められている。この政権を倒す以外に人間らしい働き方を実現することはできないのは確かだ。
そのためには、もう私たちは政権と大企業に都合がいいだけの、誰も幸せになれない男女関係・家制度を卒業し、20年前の経営戦略など壊していこう。男女がスクラムを組んで新しい賃金制度・社会システムを作る時が来ている。
(いけだまさよ)
各地の1000人委員会の活動から
総がかり行動が野党統一候補へつながる
新潟県平和運動センター 事務局長 有田純也
澤地久枝さんの呼びかけに呼応(7月18日・新潟市内) |
新潟県平和運動センターは2014年、新潟国際情報大学で平和学を専攻する佐々木寛教授、弁護士の水内基成さん、福勝寺住職の黒田玲さん、CAP・にいがたの石附幸子さん等を共同代表に、約100人の呼びかけ人のもと「戦争をさせない1000人委員会にいがた」を設立しました。一昨年は12万8千筆、昨年は9万7千筆の署名を集め、今年は総がかり行動で県内30万筆の目標のうち15万筆をノルマに、署名運動に取り組んでいます。昨年は7月に戦争法案廃案!総がかり行動新潟実行委員会を結成し、憲法センターと共闘して取り組みをしました。「アベ政治を許さない」プラカード掲示のスタンディング(写真)、街宣等の取り組み、8月30日の全国一斉行動には全県で20ヵ所以上、新潟市では2500人が集まりました。この規模での集会は2003年のイラク戦争反対運動以来です。新潟市役所前では、のべ2週間の座り込み行動を行いました。戦争法案が可決した後も、総がかり行動を継続させ、毎月19日に街宣、街頭署名を行なっています。
新潟では安倍政権が発足した直後に憲法センターと共闘して、加茂市の小池清彦市長や映画監督の小林茂さん等を呼びかけ人に「立憲主義と憲法9条をまもる県民の会」を設立していたので、総がかり行動の共闘がスムーズにいきました。同県民の会は、年に2回県内各地で集会をしており、現地ごとに実行委員会を結成して取り組んできました。その下地があった地域は、総がかり行動の共闘が比較的うまくいきました。今年の4月10日には伊藤真弁護士を招き、1800人規模の集会を予定しています。
総がかり行動は、参院選にも波及しています。新潟は参院の定数が2人から1人に減らされ、自民党1、野党1で分けあっていた構図が変わります。これまでのように野党が乱立すれば自民党が利するだけです。そのような情勢のもと、総がかり行動の枠組みが、野党が一本化するために昨年12月に立ち上がった「市民連合@新潟」の設立に大きく寄与しました。2月21日、市民連合@新潟と総がかり行動の共催で県民集会を開催し、無所属の野党統一候補の気運を高め、いま野党統一候補が実現しようとしています。総がかりと市民連合の一体化した運動がこれから参院選まで取り組まれます。
(ありたじゅんや)
〔本の紹介〕
「ナチス前夜における『抵抗』の歴史」
星乃治彦著2007年ミネルヴァ書房
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参議院選挙を前に成立した「野党共闘」の5野党合意、今後への具体化が問われます。そこで、「統一戦線」に関する過去の歴史に目を向けると面白いです。よく出されるのが中国共産党と国民党との「国共合作」や、日本の幕末の「薩長同盟」の成功事例ですが、1930年代のドイツにおける社共統一ができずナチス政権の誕生を許した失敗事例は特に貴重です。そこで、ヒトラー政権誕生前夜におけるナチスへの抵抗運動を取り上げた書籍を紹介します。
ナチスより社会民主党こそ主要打撃相手とする「社会ファシズム論」を唱えたスターリンとその影響下にあったドイツ共産党。ヒトラーが過去の選挙で一度も単独過半数を得ることなく、大統領から指名される形で首相に就任したのが1933年1月。しかし、その約2か月前の国政選挙(1932年11月実施)でのナチスの得票数は、1173万票(得票率33.1%)でしたが、社会民主党と共産党の得票数を合わせると、ナチスを上回って1322万票(得票率37.3%)。つまり、当時、ナチスを上回る力を持っていた社共が共闘していれば、その後の歴史は大きく変容、ユダヤ人大量虐殺も、世界大戦による大惨禍もなかったかもしれないのです。
本書は、ナチスの暴力が激化する中での反ファシズム運動が、「自警団」や、「統一委員会」という名で形成され、労働者による統一戦線の1932年当時の実相を取り上げています。また、特筆すべきは本来一枚岩であったはずのドイツ共産党の党内対立の様相と混乱と動揺、遅すぎた社会ファシズム論からの転換、そして、各国の共産主義運動を指導する国際機関であるコミンテルンの介入干渉の実相も資料を基に論証しています。
ソビエト崩壊後、公開された様々な内部資料を丹念に調べた著者の努力の結果ですが、ナチスの猛威が襲う中、ナチスを過小評価し状況判断を誤った社共両党の指導部に抗して、自分で分析し自分で判断して自らの意思を貫いて、ファシズムと闘った人々が存在したことは忘れてならない貴重な教訓となることでしょう。
(富永誠治)
核のキーワード図鑑
裁かれる東電の責任 |
「戦争法の廃止を求める統一署名」にご協力を
4月末に集約します
4月末に集約します2015年9月19日に参議院で”強行採決”され”成立”した「平和安全保障関連法」(戦争法)は、憲法第9条が禁じる国際紛争解決のための武力行使を可能とするもので、憲法違反であることは明らかです。
安倍政権は、この法案を3月末にも施行しようとしています。戦争法が発動されれば、日本は海外で戦争する国になり、自衛隊は海外で殺し殺されることになり、日本自体が武力紛争の当事者となって、「平和安全」とはまったく逆の事態を招くことになります。そして、安倍晋三首相が公言する憲法9条の改「正」にもつながることになります。
そのため、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」を中心に、「戦争法の廃止を求める統一署名」が、2000万を目標に全国で展開されています。4月25日に第一次集約を行い、国会や内閣に提出します。はがき大の署名用紙を刷り込んだカラーチラシもあります。皆様のご協力をお願いします。
請願項目
・戦争法である「平和安全保障関連法」をすみやかに廃止してください。
・立憲主義の原則を堅持し、憲法9条を守り、いかしてください。
署名簿は次からダウンロードできます。http://sogakari.com/?p=1095
集約日
第1次集約4月25日
第2次集約6月27日
送付・問合せ
〒101-0063東京都千代田区神田淡路町1-15塚崎ビル
3階戦争をさせない1000人委員会(電話03-3526-2920)