2013年、ニュースペーパー
2013年10月01日
ニュースペーパー2013年10月号
- インタビュー:レオナ・モルガンさんに聞く
- 実質的な改憲─国家安全保障基本法
- TPP交渉年内妥結に反対しよう
- 泊原発の「再稼働」STOP
- 東京電力福島第一原発事故から2年6ヶ月 福島県平和フォーラムから
- 六ヶ所再処理工場は核兵器問題
- 福島食品放射能測定室からの報告
- 高知県平和運動センターの取り組み
- 本の紹介『天皇を戴く国家』
- 核のキーワード図鑑
原発ゼロ前日の9月14日、「再稼働反対!さようなら原発大集会」に9000人が集まる
大江健三郎さんは主催者あいさつで、東京オリンピック招致での安倍晋三首相の発言について、「首相 は現実を見ていない。我々はそうした首相を選んでいる。それが選挙の結果」と私たち自身の問題に触れ た上で、今日の集会に参加している人々は、将来の子どもたちに残すべき未来をつくる志をもった人々で あり、「私もそれを行動で示したい」とアピール。原発が立地する各地からの報告では、活断層の問題、 漁業等へのダメージなど、それぞれに原発の危険性を訴えました。 参加者は集会後、亀戸中央公園(東京・江東区)から浅草・押上方面と、錦糸町方面への二手に分かれ てパレード行進をしました。(写真はパレードに参加する大江健三郎さんら)
【インタビュー・シリーズ その82】
差別の歴史のなかにあるウラン採掘
ウラン採掘反対東部ナバホ(ディネ) レオナ・モルガンさんに聞く
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【プロフィール】
レオナさんは居留地のニューメキシコ州チャーチロック近郊で生まれ育ち、ウラン採掘現場のただ中で生活してきた。2000年代の初頭から運動に関わるようになり、ナバホの若い人たちに、ウラン採掘や核施設、周辺の汚染について基本的な情報を伝えていく運動を進めている。今年の原水爆禁止世界大会に参加して、現状を訴えた。ナバホ先住民の居留地は、アメリカ合衆国のユタ州、アリゾナ州、ニュ-メキシコ州にまたがる地域にある。この地域は同時に世界有数のウラン埋蔵量を誇り、1980年代後半まで盛んに採掘が行われていた。現在、ウラン鉱山跡はナバホエリアだけで1000以上もあり、また大量の放射性廃棄物も残されたままとなっている。
―どのようなきっかけで運動に関わるようになったのでしょうか。
ウラン鉱山のそばで生まれ育ちましたが、鉱山があることは知っていたのですが、それが何であるかはわかりませんでした。ただ物心がついたときから、それが何であるかを知らせないような強い力が働いているということは感じていました。運動に関わるきっかけになった出来事は、2002年に祖母が肺がんで亡くなり、叔母も乳がんと首に腫瘍ができる病気になったことです。誰もが病気の原因を話してくれなかったのですが、近くにある核施設の放射線とがんが結びついているのではないかと思い至るようになったのです。ただナバホの人々は死について語らない伝統があり、この伝統により死の原因を追及することが困難で、運動を進めていく上で悩むこともあります。
―ウラン採掘によってどのような被害がおきていますか?
1979年に放射性廃棄物が漏れ出す事故が起こりました。スリーマイル原発事故の3ヶ月後にです。でもほとんどの人はこの事故を知らなかったのです。現在でもスリーマイルやチェルノブイリについてはみんなよく知っているけれども、当時も今もこの事故の多くは知らされていません。どのような事故だったかというと、ウランを採掘するためにはたくさんの水が必要で、その汚染された水を貯めておいたダムが決壊し、コロラド川支流のプエルコ川に流れ込んだのです。過去の新聞記事を検索すると、チャーチロックから下流のホルブロックまで核廃棄物で汚染されたことがわかりました。この事故を知ったことも、運動に関わるきっかけとなりました。そしてこの問題をコミュニティーの人々に伝えなければと思ったのです。
―アメリカは先住民の土地や文化を奪ってきた歴史があり、その先住民への差別ということとウラン採掘による 汚染との関連はありますか。
今話した放射性廃棄物の流出の問題ですが、大きな都市に影響を及ぼさないうちはマスコミは報道すらしなかったのです。川の水を生活の水としているナバホの人々は、全く知らされていない中で、被ばくしていったのです。これは差別以外のなにものでもないでしょう。
それから私たちの土地というのは、もともと部族で共有されているものなのです。1886年に土地を分割して私有地にしてもよいという法律ができて、一部の人々が個人所有地を持つようになりました。鉱山開発会社はそうした人々をターゲットにして、金の力で土地を借り受けるようにしていきました。私たちナバホネイションの法律に「天然資源保護法」というのがあるのですが、鉱山開発会社は、土地の個人所有者には「天然資源保護法」が適用されないという訴えを起こさせたのです。この裁判は結局最高裁まで行って、個人所有者の主張が勝訴しました。会社はこの勝訴をバネにして、さらにナバホの土地に切り込みをかけていきます。
こうした会社の動きはある意味植民地主義的であるし差別主義的です。1868年にナバホネイションと合衆国は平和協定を結び、ナバホの土地の自治は確立しているし、土地とナバホの文化は切り離せないものなのです。確かに個人所有は大切な権利ですが、そうした個人所有者を切り崩していって、ナバホの大地を結果的に会社の論理に都合のいいように使われていること自体が植民地主義であるし、ナバホに住んでいる人に対する差別でしょう。私たちの部族は広い範囲にまたがって生活しており、行政区画は違っていても一つのコミュニティーを形成しています。先住民への差別は歴史的にもくり返されてきています。古くは石炭採掘のためにあえて部族のコミュニティーを分断し、新たに行政区画を作るようなこともしてきました。こうした差別主義、植民地主義は連綿と続いています。あるいは健康調査についても、公的機関もやってはいるのですが、私たち先住民に意図的に受けさせないような不親切な体制になっています。健康調査の案内は先ず英語となっていて、高齢者の中には自分たちの言葉しか知らない人たちがたくさんいます。これらの人々は案内を見ても行こうとはしません。
―「天然資源保護法」とはどのようなものでしょうか?
この法律は、既存のウラン鉱山で問題となっていることが解決しない限り、新規に鉱山開発をさせないという、ナバホ部族内の法律となっています。ただ天然資源保護法は一般的すぎて、そこが問題になっています。法律によってウラン鉱山の新規開発は止めていますが、規制の対象とはなっていない廃棄物は残っているのです。ナバホネイションとしてきっちりと調査したり実態をはっきりさせないといけない問題です。さらに問題なのはコミュニティーの一部に、ウラン開発を規制する法律で十分なのではないかという意見もあるのです。ウランの潜在価値は莫大でその2%でもロイヤリティーが入れば地域経済を潤すが、おまえたちはそれだけの価値を生み出せるのかと主張するのです。ロイヤリティーがどれだけかとか、汚染防止対策のコストなど不明確で、果たして採算がとれるのかわからないのに、目先の金しか見ることができない状況もあります。
―福島原発の事故がアメリカの活動家やレオナさんに与えた影響は?
2011年7月に集会を行い、そこでナバホの地域的な問題と一緒に福島の原発事故についても話してもらったことがありました。30人くらいが集まったのですが、あまり関心はなかった。核燃料サイクルについても言及してもらったのだけれど、「ここには原発はないから」と、ピンとこなかったようです。一般的にも原発の問題を自分たちの問題としてとらえるのは難しいし、実際にそれを見たり聞いたりしても、とても遠いところの話であり、自分たちとは関係ないと思ってしまい、やはり反応は良くないようです。そもそもナバホのなかでも、ウラン鉱山の話をしても、「ウランってなんだい」という答えが返ってくることすらあるのです。これは活動家の課題でもありますが、オフィスワークで多くの時間をとられてしまい、外部の人々と接していく機会が少ない。高齢者や子どもたちに語りかけていく術が必要だと思います。
ただ原発事故のインパクトは、アメリカでも西海岸や東海岸の市民運動には大きな影響を与えたと聞いています。私自身がどう感じたかというと、非常に悲しい出来事でした(絶句涙)。フクシマの話を聞いたときは、日本の政府がフクシマにしていることと、合衆国がナバホにしていることと全く同じです。たとえば、日本とのつながりで話しますと、ニューメキシコ州アルバカーキの近郊にロスアラモスがあり、核兵器を製造しています。流れる川もやはり汚染されているのですが、それについて市民は知らされていないのです。この土地に住んでいる先住民でプエブロという人々がいるのですが、この人たちに日本との戦争をしているときに「戦争に勝つために土地を提供してほしい、愛国者として土地を提供する義務がある」と合衆国政府に言われ、戦争が終わったら返すという約束だったのですが、まったく反故にされ、さらに周辺に拡大していったということです。マンハッタン計画として原爆が作られ、さらにその後の核兵器開発のために使われ続けているのです。
―原水禁世界大会の印象は?
ディネ(ナバホ)の聖なる山に対する住友商事のウラン鉱開発計画に 反対する横断幕を持って行進(原水禁世界大会・長崎) |
これだけの人が参加して長い歴史があることはうらやましいです。ナバホで運動しているときは原水禁の名前は知りませんでした。原水禁はこれだけの運動をしているのになぜでしょう。もしかしたらそういう情報をも政府が操作しているのかもしれないわね(笑)。確かに私が学校で学んできたことで、原爆投下のことはほとんど教えられていません。アメリカの都合の悪いことは教えられないのです。
先住民の歴史は全て口承で伝えられてきました。原水禁も語り継いでいく運動にも力を入れると良いのではないでしょうか。
〈インタビューを終えて〉
土地は個人のものでなく、部族の所有というナバホの人達。言葉と文化と土地を奪い、「居留地」という限定された土地に押し込めた米国政府。ニューメキシコ州アラモゴードの核実験で始まった核時代、さらに原発の開発でウラン採掘が盛んになり、放射能という抑圧にさらされる。レオナさんは近親者のガン発症で運動に関わりはじめたと話された。運動と歴史というものがどの様に引き継がれるのか理解できたように感じた。
(道田哲朗)
国家安全保障基本法こそ実質的な改憲
集団的自衛権と秘密保全法を阻もう
フォーラム平和・人権・環境 副事務局長 道田哲朗
沖縄・普天間基地に配備されているオスプレイ |
安倍晋三内閣は、どうやら改憲の前に集団的自衛権に踏み込むつもりらしい。憲法条文改憲に抗するとりくみに先立ち、安倍政権が進める国家安全保障基本法とのたたかいが今期最大のテーマとなりました。憲法条文の改憲をせずとも、国家安全保障基本法が可決されれば9条の根本は蚕食され、「現状と憲法の乖離(かいり)」は更に広げられ、そのことによって、のちの改憲の「呼び水」になってしまいます。これが安倍政権のねらいであることが明らかになってきました。
国家安全保障基本法という法律が可決されれば、憲法の字句を変えずに集団的自衛権を行使できる国となってしまいます。この問題に私たちは全力を投入して立ち向かわねばなりません。
集団的自衛権は攻守同盟
原子力空母に反対するデモ行進 (2008年7月22日・横須賀) |
集団的自衛権は個別的自衛権に対比する言葉ですが、結局のところ軍事同盟のことです。他国との軍事同盟を結ぶ権利が集団的自衛権です。国会ではより詳しくこのように定義しています。「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と。うしろに自衛権と付いていますが、「自国の領土への攻撃」ではなく、「自国が直接攻撃されていないにもかかわらず」交戦する権利のことです。軍事同盟を結んだ国が攻撃された時、自国から離れてその戦争に参加し、その反対に自国が第三国に攻撃された時は、軍事同盟を結んだ国に参戦してもらう権利が集団的自衛権であり、単なる自衛権と集団的自衛権はまったく別物です。
第一次世界大戦と第二次世界大戦の二つが「大戦」となったゆえんも、各国の集団的自衛権(軍事同盟)が複雑に重なりあっていたことによります。そして、日本も日独伊三国同盟という集団的自衛権を行使し第二次大戦を誘引しました。攻守同盟の義務によって局地戦であった戦争がヨーロッパ規模、アジア規模の戦争になったのです。軍事同盟と軍事同盟の戦争、戦争の連動という問題が、集団的自衛権の最大の問題です。
政府見解であった集団的自衛権の不保持
この集団的自衛権を、日本は憲法上持ってはならないという原則を打ち立ててきました。実に皮肉なことに、日米安保条約の締結、あるいは安保条約改定と刺し違えて、歴代日本政府は、この原則を「確認」してきたと言えます。最も長いあいだ政権にあった自民党の歴代政権が「自衛権の一つとしての集団的自衛権は主権国の普遍的権利としてあるが、日本は憲法上これを行使できない」とする見解を述べてきました。この見解は、内閣法制局の解釈とともに、政府自身の見解でした。少し長いですが幾つか引用します。
◆「集団的自衛権、これは換言すれば、共同防衛又は相互安全保障条約、あるいは同盟条約ということであって、つまり、自分の国が攻撃されてもいないのに、他の締結国が攻撃された場合に、あたかも自分の国が攻撃されたと同様にみなして、自衛の名において行動するということ、そういう特別な権利を生み出すための条約を日本の現憲法下で締結されるかどうかというと、できない。日本自身に対する直接の攻撃あるいは急迫した攻撃の危険がない以上は、自衛権の名において発動し得ない」(1954年5月、第19回国会衆議院外務委員会・下田武三外務省条約局長発言)
◆「集団的自衛権というものの本体として考えられている締結国や特別に密接な関係にある国が武力攻撃をされた場合に、その国まで出かけて行ってその国を防衛するという意味における集団的自衛権は、日本の憲法上は持っていないと考えている」(1960年3月第34回国会参議院予算委員会・岸信介首相答弁)
◆「国際法上、国家は集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているものとされている。我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている」(1981年5月第94回国会衆議院・稲葉誠一議員提出の質問主意書に対する政府(鈴木善幸内閣)答弁書)
違憲判決の示唆
横須賀を母港とする米原子力空母ジョージ・ワシントン |
「自衛権の一つとしての集団的自衛権は主権国の普遍的権利としてあるが、日本は憲法上これを行使できない」とする見解によって、安保条約という軍事同盟を憲法のもとで容認させてきたと言ってよいと思います。ここで安保条約は、集団的自衛権を体現した同盟なのか否かという点が問題となります。日米安保条約第5条は、この条約の中心をなす規定ですが、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対し、「共通の危険に対処するよう行動する」と定義していて、日本の施政の下にある領域内で米軍に対する攻撃を含め、両国への武力攻撃が発生した場合、両国は共同して行動するとしています。
アメリカの施政下もしくは日本の施政の外での日本とアメリカへの攻撃に両国の共同行動は発揮されません。つまり日本施政下の「防衛の同盟」という論理です。条約を結んだ両国の「攻守同盟」ではなく「防衛同盟」だということです。
米軍は日本の防衛の行動をとる、その代わり、日本は米軍のための基地を提供するというバーターが日米安保条約です。限定された同盟、防衛の同盟ということだから憲法9条にも抵触しないというのが政府見解でした。
しかし、私たちは、日米安保条約が憲法9条の範囲内であるという政府見解を受け入れることはできません。1959年3月、砂川闘争の刑事裁判で東京地裁の伊達秋雄裁判長は、「米軍が日本に駐留するのは、わが国の要請と基地の提供、費用の分担などの協力があるもので、これは憲法第9条が禁止する陸海空軍その他の戦力に該当するものであり、憲法上その存在を許すべからざるものである」と判決を下しました。有名な伊達判決です。双務同盟でなくても安保条約は憲法違反であると断じた判決です。現行の安保条約が違憲か否かという議論はここで一端終えます。
問題は、集団的自衛権をこれから持とうとする安倍政権の意図が、「防衛という限定された同盟」に替えて、日本の領土領海領空を超えた「同盟」に変えようとする点にあります。とりあえず今回は憲法に手をつけないで、内閣法制局解釈と政府見解をくつがえしてそれを行おうとしているのです。「防衛という限定された同盟」を超える意図がなければ、今の安保条約のままでよいはずです。
法律が憲法を侵すことを承知の上での法案
10月召集の臨時国会で、安倍内閣は、日本版NSC(国家安全保障会議)の設置法案、秘密保護法案などを矢継ぎ早に可決させ、来年の通常国会に提出予定の国家安全保障基本法成立のための地ならしをすることは必至です。安保法制懇を再開し、集団的自衛権に関する従来解釈の変更を提言させ、その演出のもとに政府見解の変更を閣議決定で進めようとしています。
政府は防衛省をはじめ新「防衛計画の大綱」策定に係わる準備をしてきましたが、政府主導で数々の閣議決定をし、新「防衛計画大綱」も集団的自衛権を投影したものに変えられ、国家安全保障基本法成立ののちには自衛隊法も改定しようとするでしょう。国家安全保障基本法の骨格は、(1)集団的自衛権行使、(2)個別的自衛権に陸、海、空の「戦力」の定義、(3)国民の責務、(4)秘密保全義務、(5)海外派遣出動と武器使用の再定義、(6)武器輸出緩和などです。
秘密保全法案(特別秘密保護法案)は、国家安全基本法にさきがけて、④の秘密保全義務を先行させ、特定秘密に「公共の安全および秩序の維持」の概念を差し込み、「知る権利」に制限を加えながら民主主義の価値を国家に従属させるのです。秘密保全法案と国家安全保障基本法は精神と方向において一体をなしており、秘密保全法案を決して成立させてはなりません。
国家安全保障基本法案が成立すれば、憲法に抵触しようがすまいが、集団的自衛権を持った国に移行します。憲法をこれほど侵害しおとしめる法律はありません。また、集団的自衛権を容認するためのさらに注意せねばならない論理があります。集団的自衛権が「行使することを許される必要最小限度の自衛力」に入るという主張(安保法制懇・北岡伸一座長代理)と、集団的自衛権を「行使することを許される必要最小限度の自衛力」にとどめ、「防衛という限定された同盟」と「攻守同盟」の間の集団的自衛権に落ち着かせようとする論理です。中庸の論理というべきかも知れませんが、現実の政治はその中庸を踏み台にして進むものではないでしょうか。
TPP交渉はどうなっているのか
国民の合意ない年内妥結に反対しよう
環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉は、いま大詰めを迎えています。8月下旬にブルネイで全体的な交渉会合が行われたのに続いて、関税問題を扱う市場アクセス(参入)分野などの中間会合が9月に開かれます。交渉はアメリカの主導のもとで進められ、10月にインドネシアのバリ島で開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)会合の際に、交渉参加国の閣僚会議を開き大筋での合意をおこない、年内には妥結をめざすとしています。これまで交渉の中でどのような論議が行われているのでしょうか。
「守秘義務」を楯にした秘密交渉
「交渉の内容は『守秘義務』があるので明らかに出来ない」─日本政府は、TPP交渉の情報公開を迫る市民団体などに対して、内容を明らかにできないとしています。日本政府は守秘義務の範囲について「条文案や交渉で話されたこと、自国が言ったことも含め、対外的に公表してはいけない。違反した場合は交渉から退場になるのではないか」との見方を示しています。しかも、交渉がまとまって協定ができたとしても、交渉経過については4年間も秘密にしなければならないとされています。これまでの世界貿易機関(WTO)の交渉や日本と他国との自由貿易協定(FTA)でも、交渉の途中では情報開示に制限がありました。しかし、TPPのように、自国の主張さえ明らかにせず、交渉後も秘密にするというのは異常なことです。「内容を明らかに出来ないというのは、知られては都合の悪いことが話されているからではないか。自国の提案すら分からなければ、議論のしようがない」(TPPを阻止する国民会議副代表の山田正彦元農相)と批判されています。
平和フォーラムも参加する「市民と政府のTPP意見交換会全国実行委員会」は、民主党内閣時に東京、大阪、名古屋で意見交換会を開き、政府関係者と市民が率直に議論をしてきました。しかし、自民・公明党政権になってからは、政府が指定する業界関係者などへの説明会を非公開で2回行っているだけです。今後、各国の市民団体とも連携しながら、交渉の内容を明らかにさせ、拙速な合意をさせない運動が重要になっています。
各国の利害が複雑にからむ
TPP交渉参加に反対する農業者や市民の集会 (2013年3月12日・日比谷) |
守秘義務の壁にも関わらず、交渉内容は各国の関係者から少しずつ明らかにされています。日本が最も問題視している関税交渉は、基本的には2国間で相手国に要求してそれに応えるという「リクエスト・オファー方式」がとられています。日本政府が守るとしている農産物についても、相手国の要求によっては交渉に応じることが求められます。そうした交渉に対する方針も明らかにされていません。
また、8月のブルネイでの交渉では、特に知的財産分野の交渉が難航していることが明らかになりました。マレーシアなどからは、アメリカの製薬会社が要求する薬の特許制限を厳しくする動きに対し、エイズなどのジェネリック薬が普及できなくなるなどの問題が指摘されています。また、タバコに「健康に害がある」という表示をめぐり、アメリカのタバコ会社から撤廃が要求されました。これについては、マレーシアの市民団体が「健康に関わるものを交渉で扱うな」と運動を行い、交渉からの除外がほぼ決まりました。
さらには、ベトナムなどでは国有企業が多いことから、アメリカからは民間企業と公平に競争できるようにすべきとの要求が出されています。社会主義政権における市場競争をどう認めるかも今後の重要な課題になります。また、「原産地規制」のルールでは、TPP参加国以外から輸入された繊維を加工して製品を輸出した場合に、関税撤廃の対象になるかでも議論がされています。これは主に中国からの繊維を狙い撃ちにしたもので、アメリカと中国との経済覇権の争いが、TPP交渉にも反映されています。
安倍晋三首相は9月にサンクトペテルブルクで開かれたG20サミットの場でのオバマ米大統領との会談で「TPP交渉の年内妥結を支持する」としました。本来なら、遅れて交渉に参加した日本は、少しでも有利に交渉を進めるためには、十分な交渉時間を求めるべきです。来年の中間選挙を前に少しでも成果を勝ち取るために妥結を急ぐ米国と、それに追随する日本という構図が見えています。
平和フォーラムは、交渉内容を明らかにせず、国民の合意もないままのTPPの拙速な妥結に反対して運動を進めていきます。
~北海道における脱原発運動の課題~
泊原発の「再稼働」STOP
北海道平和運動フォーラム事務局長 長田秀樹
北海道電力は、7月8日、泊原発1~3号機の「再稼 働」に向けた「安全審査」を原子力規制委員会に提出し た。その主な内容は、(1)泊原発3号機の審査を優先する。 そのため、3号機の緊急時対策所の代替施設を1号機原 子炉補助建屋内に設置する、(2)最大津波の想定を従来の 「海抜9.8メートル」から「7.3メートル」に引き下げる、(3)防潮堤(高 さ16.5メートル)の完成は2014年12月とする、(4)設計上の 想定地震動はこれまでの550ガルで変更の必要はない、 (5)敷地内や周辺海域などに活断層はない、などとした。
しかし、第2回の審査会合(7/23)において、規制 委は、泊原発1,2号機における炉心溶融などの過酷事故 対策で、1,2号機は炉内の蒸気発生器が2つある構造なのに、3つある3号機の解析結果を流用して評価したこ とを指摘し、田中俊一委員長からは「替え玉受験のよう だ」とまで非難された。また、想定される地震や津波の 大きさについても、「3.11前と変わらない」と、北電の 姿勢を厳しく非難した。このように、早くもずさんな申 請内容が明らかになった。
現在、規制委では泊原発3号機の審査が進められて いる。北電は、泊原発敷地下の地層が海側に傾いている 要因や、原発沖の巨大な海底活断層の存在を否定する理 由について、データを拡充して説明するよう求められて いるが、まだ回答していない。また、「7.3メートル」に引き下 げた最大津波の想定の甘さも指摘されている(下記参 照)。
北電は、電力の最大需要期になる冬に向けての「再稼 働」をめざし、「安全対策」に約900億円をつぎ込んで いるが、ずさんな申請による「再稼働」は断じて許され るものではない。
原子力規制委員会の指摘 | 北電の対応 |
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(1)地層などの地下構造が海側に傾いており、地震を引き起こす恐れがある。⇒渡辺東洋大教授「敷地内の隆起は、泊原発周辺の70㌔の海底活断層とそこから枝分かれした別の海底活断層が起こした」 (2)泊原発から最短15キロの沖合にある、全長70~80キロの海底活断層について、影響評価を示していない。 (3)3号機が建つ固い地盤の下に軟らかい地盤がある。地震波を伝える速度が違うため、揺れを増幅させる可能性がある。 (4)泊原発から30キロ圏内にあり、北電が最大の揺れ(地震動)を算定する根拠となっている尻別川断層(16キロ)が沖合に伸びている可能性があり、その場合、地震動も引き上げられる可能性がある。 |
敷地内や周辺海域の活断層の疑いがあるが、「問題なし」との見解。(地層の傾斜は)かなり古い時代の積丹半島の運動に起因していると考えている。新しい地層のデータを含めて整理し、再度、説明していく。 |
(5)秋田県が想定した(M8.7)日本海沿岸部の断層による津波評価(青森県西方沖から新潟県北部沖までの日本海にある3つの想定震源域が連動して地震を起こす)を反映させる。北電の想定は「3.11前と変わらない」と非難。 | 想定される地震は、奥尻島を襲った1993年の南西沖地震を想定し、最大津波を算出。「北海道西方沖」「北海道南西沖」「青森県西方沖」の断層は、いずれも連動しない。 |
(6)泊原発の南東約55キロの「洞爺カルデラ」の火山活動を監視対 象に加える。約11万年前の巨大噴火の際に火砕流が原発の敷地 内に到達した可能性がある。 | 泊村の隣の共和町で火砕流堆積物を確認したが、敷地内では堆積 物が認められなかったことから、火砕流は到達しておらず、監視 対象としない。今後、評価内容を説明したい。 |
(7)原子炉冷却用の海水をくむ接続口は1ヵ所のみ(規制基準で は2ヶ所)のため、新基準に適合せず、補正申請をすべきである。 | 複数必要と解釈していなかった。敷地内に別の接続口を設けるよ う計画を変更し提出。 |
(8)緊急時対策所の広さや居住性が妥当かどうか説明する。 | 3号機用の対策所を1号機建屋内に仮設置(10月・400㎡、90人) |
泊原子力発電所1,2,3号機 |
北海道には、このほかに、高レベル放射性廃棄物の地層処分を研究している「幌延深地層研究センター」の問題と、青森県で建設しているフルMOXの大間原発の問題がある。
北海道平和運動フォーラムは、脚本家の倉本聰さんらを呼びかけ人に、「さようなら原発1000万人アクション北海道」を結成し、昨年10月には、札幌市大通公園に約12,000人が結集する「さようなら原発北海道1万人集会」を開催した。現在は、「原発のない北海道の実現を求める『全道100万人』署名」を展開し、10月5日(日)に岩内町で「STOP泊原発の再稼働!さようなら原発北海道集会inいわない」、10月19日(土)には大間町で「やめるべ、大間原発!さようなら原発青森・北海道合同集会」、11月23日(土)には幌延町で「北海道への核持ち込みは許さない!11.23幌延デー北海道集会」を開催する。
原発の「再稼働」を許さず、核も原発のない社会の実現に向けて、全国連帯で運動をすすめよう!
東京電力福島第一原発事故から2年6ヶ月
福島県平和フォーラム事務局次長 五十嵐 敬
1年2ヶ月経ってようやく…
2013年8月30日、復興庁は、東京電力福島第一原発事故の被災者支援を進める「原発事故子ども・被災者支援法」に基づく「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的方針(案)」を、1年2ヶ月を経てようやく発表した。同法は、超党派の議員立法により昨年6月に成立したが、具体化はこれまで先送りされてきた。今年の7月には県内の被災者が早期策定を求めて提訴する事態にもなっていた。まさしくこの1年2ヶ月間は、避難生活者をはじめとして被災者が放置されてきた。そして、放射能汚染水の海への流出についての発表は、7月の参議院選挙翌日に明らかにする等、政治的な思わくが色濃く出ている。2020年オリンピックの東京への誘致にあたり、「フクシマ」の問題が「安全」「コントロール下にある」とし、また、汚染水問題では、「福島第一原発港湾内で完全にブロックしている」と言い、そして、「これまでも、今後も政府が先頭に立って解決にあたる」と、全世界に向けて公約した。しかし、現実は法案を1年2ヶ月も放置しており、対策は全て後手後手である。
基本方針案は、県内の避難指示区域を除く浜通りと中通りの33市町村を支援対象地域に指定し、会津地方や県外については、施策毎に準支援対象とし、その他の広範囲に拡がったホットスポット等は除外されている。また、子どもや妊婦の医療費減免や18歳以下の医療費無料化への継続的な財政措置なども明記されていない。これまで立法に携わった議員からも政府に対し「意見公募だけでは済まない」と、被災者の声を直接聴く場を求める意見が出されていたが、復興庁はその機会を設けず、意見公募の期限を9月23日とした。政府主催の説明会は9月11日に福島市で開催したが、不満・批判が噴出した。9月13日に東京での説明会が開かれた以外はどこで何回やるかも決まっていない。
また、復興庁は基本方針をまとめるまでに、関係省庁と協議した会議の議事録を作っていなかったことも判明した。被災者の声を全く無視したこの様な決定は極めて問題が多いと言わざる得ないし、このままでは被災者への支援に繋がらないことは明確である。何よりも被災者の生活の保障と健康管理への実質的補償と支援を充実させるのが先決だ。
深刻な甲状腺ガン検査結果
被災者の多くが不安を抱いているのは「低線量被曝の健康への影響」である。事故当時18歳以下だった約36万人を対象に行っている甲状腺検査では、甲状腺ガンの子どもは8月20日現在18人、ガンの疑いは25人になっている。調査主体の福島県立医大は「大きさなどから2~3年以内にできたものではない」と事故との関連を否定している。これら専門家といわれる方々の発言は、「科学的に見ても原発事故の影響によるものでないと考えられる」「心配する必要ない」と言い切っており極めて政治的である。
人間が立ち入りを規制されるほどの大量の放射能拡散は歴然とした事実であり、はじめに結論ありきの「原発起因の放射能の影響はない」とする偏った「科学的知見」に基づく発表に対して、二次検査対象となった子どもの母親などからは大きな不安の声が上がっている。
廃炉阻む高放射線と汚染水問題
水素爆発などでガレキに覆われた各原子炉は、外見上は処理が進んでいる様に見えるが、今もって高放射線のために近づくこともできず、まして溶け落ちた核燃料の実態を把握することは困難な状況だ。「燃料デブリ」と呼ばれ熱と放射線を出し続けるため、冷やさなければ事故の拡大の恐れがある「得体の知れない核物質」とまで言われている。真水による冷却が続くが、山側では毎日800~1千トンの地下水が流れ、この内300~400トンが建屋内に入り汚染水と化している。そして、300トンの高濃度汚染水が地上タンクから漏れ出し県民や漁業関係者を不安と失望のどん底に追いやった。事故当時の質より量の地上タンクの建設が今となって大きな問題となった。全てにいまだ見通しが立っていない状況が続いている。
来年も、「原発のない福島を!県民大集会」開催
「原発のない福島を!県民大集会」(2013年3月23日・福島市) |
今年3月23日に行われた「原発のない福島を!県民大集会」は、県内外から7,000人の参加があり、「安心して暮らせる福島を取り戻そう」と脱原発への誓いを新たにした。来年3月に、震災・原発事故から3年目を迎えるにあたり、福島県民の現状や課題、願いや要望を全国に訴え、国や東京電力の一層の取り組み強化を求める必要がある。そのための県民大集会の開催に向け第1回呼びかけ人会議が8月21日に開催された。2014年3月8日の開催を確認し、それに向けた取り組みへの協力をお願いしたい。
六ヶ所再処理工場は核兵器問題
海外の平和・反核団体、プルトニウム生産中止要請
世界各地の平和・反核兵器団体が広島・長崎被爆68周年行動の一環として、六ヶ所再処理工場を運転しないように求める書簡を日本大使館に送りました。7月12日の原水禁の呼びかけに応えたもので、長崎原爆の材料であるプルトニウムを使用済み燃料から取り出す六ヶ所再処理工場は核兵器問題だとの認識を示しています。原水禁では、9月12日までに少なくとも13ヶ国で送られた25通を確認しました(この他、オーストラリアの複数の団体が共同で同国外務大臣に宛てて送った書簡では、日豪原子力協力協定の下での規定を使い、日本に働きかけるよう求めています)。
同日、藤本泰成事務局長が、内閣府を訪れ、上記26通の書簡のコピーと、その粗訳を原水禁自身の中止要請書とともに、政府代表に手渡しました。書簡のコピーの大半は、8月9日、原水禁が被爆地長崎から日本政府に郵送したものですが、欧州議会緑グループ代表や韓国の団体の書簡を合わせて提出し、要請内容を説明しました。
原水禁が世界各地の団体に共同行動の呼びかけメールを出したのは、7月12日です。北半球では夏休みの始まる時期でしたが、8月9日までに、「国際平和ビューロー(IPB)」、米国「憂慮する科学者同盟(UCS)」が組織した専門家グループ、「米国軍備管理協会(ACA)」、全米組織ピース・アクション、仏・独・豪などの団体・政党、「核戦争防止国際医師会(IPPNW)」や「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」などの関係組織、印パの全国組織など数々の組織・個人から日本大使館に書簡が送られました。それぞれの言葉で、核兵器問題としての六ヶ所再処理工場について語っています。
2005年に世界で上がった試運転中止要請の声
2005年には、「核不拡散条約(NPT)」再検討会議に合わせ、六ヶ所再処理工場の試運転開始中止を求める声が世界各地の反核・平和運動から上がりました。5月5日には、4人のノーベル賞受賞者やウイリアム・ペリー元国防長官を含む米国の専門家ら27人が署名した「六ヶ所使用済み燃料再処理工場の運転を無期限に延期することによってNPTを強化するようにとの日本への要請」が発表されました(発表後、故マクナマラ元国防長官が加わり、署名者数は28人に)。文書を用意したのは、ミサイル防衛批判などで知られる「憂慮する科学者同盟(UCS)」でした。
また、同24日には、ノーベル平和賞を受賞した故ロートブラット・パグウォッシュ名誉会長ら世界各国の平和団体の代表者・専門家など18カ国の約180人が署名した「核不拡散体制強化のための日本のリーダーシップを求める要請──六ヶ所再処理工場運転の無期限延期の呼びかけ」が発表されました。日本は、このような声を無視し、2006年3月31日に試運転を始めてしまいました。425トンの使用済み燃料を再処理し、3.6トンのプルトニウムを取り出し、来年には商業運転を開始しようとしています。
本格運転計画の中止を求めるさまざまな声
このような状況を前に、「国際平和ビューロー(IPB)」は「300の加盟団体及び支持者を代表して」日本大使館に書簡を送り、次のように述べました。「すでに核兵器5000発分以上の分離済みプルトニウムを抱えていながら、さらに年間1000発分のプルトニウムを分離するというのは、ゆゆしきことです。これが他の国々にとって危険な先例となることは明らかでしょう。このことが持つ潜在的なセキュリティー上及び核拡散上のリスクは、受け入れがたいと私たちは考えます」。
また2005年にノーベル賞受賞者らの文書を発表したUCSは、ピーター・ブラッドフォード元米国原子力委員会委員ら8人の専門家が署名した文書を8月6日に日本大使館に送り、次のように述べて運転開始計画の中止を訴えました。日本の計画は「韓国を始めとする他の国々が再処理するのを防ごうとする取り組みにとって、大きな痛手となります。・・・大量の余剰プルトニウムを抱えた状況での六ヶ所の運転は、東アジアで、そして、世界中で、日本の核不拡散及び核テロ防止へのコミットメントについて重大な疑念を起こします。」
世界各地の反核平和団体が原水禁の要請に応え、行動を起こしました。今度は日本の運動が、核廃絶へのコミットメントを疑われないような行動を起こす番です。
(田窪雅文:ウェブサイト核情報主宰)
福島県平和フォーラム
食品放射能測定室からの報告
食品放射能測定室長 竹中 柳一
全国の皆さんから福島に対する支援として、ベラルーシ製の簡易食品放射能測定器2台を寄付していただき、昨年の7月から県平和フォーラム食品放射能測定室を立ち上げることができました。現在、10名のスタッフで依頼に応じて、測定を実施しています。その結果の一部と現状、今後の課題等について報告します。
今年の検査の状況─少なくなっているセシウム134
下表の検査時間を見てわかるように、余裕のある場合にはできる限り長時間の測定を実施して、より低レベルまでの測定を実施しています。福島県でも、放射線についての「安全」攻勢の前に、不安を覚える放射線量の「しきい値」は徐々に高くなっています。前年と比べ当測定室だけでなく、行政や市民による食品放射能測定所の測定依頼は大幅に減ってきています。
測定結果では半減期の違いでセシウム134は137と比べて少なくなっているのがわかります。来年あたりセシウム137だけが計測されるということが多くなると予想されます。また、同じものでも測定結果に大きな違いがあります。これは放射性物質に汚染されている状況が極めて複雑であるということからも類推できます。当然ですが、福島県のものは汚染されていて他の県のものは大丈夫だということでもありません。放射性物質の飛散については県境も国境もないという事実を再認識すべきです。昨年12月の測定結果で千葉県のある地区のドングリがセシウム合計で約70ベクレルになりました。
今後の課題─継続した支援を
○食品検査は長期間必要:汚染水問題で明らかになったように放射性物質の拡散は継続しています。セシウム137の半減期が30年であることを考慮すれば放射性物質によって汚染された地域(福島県に限らない)で生きていく以上、その土地で生産される食品の継続的な測定は長期間必要です。
○できる限り安全な食生活のために:一人でも多くの市民が、流通している食品や自家栽培の農産物、釣りの対象である魚、山菜などを測定することにより、より安全な食生活を送ることができるような体制を強化することが必要です。食品放射能測定器を使い、適切に測定することができる測定員を増やし、より多くの食品を測定することをめざします。
○測定員を増やすため、9月に測定学習会を実施しました。測定員の10名以上の増員をめざしています。
測定室の貸室料等が定期的にかかります。長期間の測定を実施するため、全国の仲間の皆さんの継続したご支援をお願いいたします。
測定記録の一部:検出数値はBq/kg
各地からのメッセージ
反戦・平和、反核、人権、環境運動の中心として
高知県平和運動センター事務局長 中野勇人
昨年10月のオスプレイの低空飛行に反対する集会 |
高知県平和運動センターは、平和運動センターの運動に加え、原水禁、部落解放共闘、県日朝促進会議の事務局を担い、護憲連合、食とみどり・水を守る県民会議の代表を務めるなど、高知県の様々な運動の中心的な役割を果たしています。
その中でも、最近では特に、伊方原発再稼働問題と、オスプレイの飛行訓練反対の取り組みが多くなっています。伊方原発再稼働反対の取り組みでは、昨年4月に、あらゆる団体、組織、市民運動の皆さんと要求の一致で共闘を追求し、「原発をなくし自然エネルギーを推進する高知県民連絡会」を結成して、一緒に運動を取り組んできました。これまで、昨年11月(400人)、本年3月(800人)に伊方原発再稼働反対の集会を開催し、昨年8月から毎週金曜日の夕方、加盟団体持ち回りで、伊方原発再稼動反対の四国40万人署名宣伝行動を続けています。加えて、高知県の全市町村で「伊方原発再稼働を認めないことを求める自治体決議」を取り組み、34市町村中、25市町村で決議を頂いています。
オスプレイ問題では、本年3月、沖縄県外で初めて、オレンジルートでの訓練が実施され、高知県にもオスプレイが飛来しました。さらに9月6日には、小野寺五典防衛相がオスプレイを使った日米共同訓練を滋賀、高知両県で10月に実施すると発表しました。高知県での訓練目的は、南海トラフ巨大地震を想定した日米合同防災訓練となっていますが、9月13日、高知新聞で、高知県選出の中谷元衆議院議員(元防衛庁長官)が、「日米のオスプレイを伴う訓練の第1弾。飛行訓練である」と言っているように、防災訓練に名を借りた日米合同軍事訓練であることは明らかです。四国四県に呼びかけ、防災訓練日に合わせた抗議集会を現地、香南市陸自第50普通科連隊駐屯地ゲート前で開催する予定です。
安倍首相は、集団自衛権を容認し、秋の臨時国会では、安全保障会議設置法改正案など関連法案を成立させ、秘密保全法案も提出する構えです。ますます、国家による統制と軍事国家の足音が大きくなってきています。平和運動センターに求められる課題は山積していますが、私たちが先頭に立って闘う以外に、今日の危うい状況を止めることはできません。今後も全国の皆さんと連携して奮闘していきます。
〔本の紹介〕
『天皇を戴く国家』
内田雅敏 著 スペース伽耶 2013年刊
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領土問題を巡って、中国、韓国との緊張関係が緩和しない中で、今年も8月15日がやってきました。平和フォーラムは、千鳥ヶ淵戦没者墓苑で「平和を誓う集会」を開催しました。一方、靖国神社へは閣僚3人と「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の国会議員約100人が参拝し、安倍総理は参拝せず、玉串料は私費で出したそうです。内田雅敏さんから7月中旬、一冊の本が送られてきました。内田さんは、敗戦の年に生まれ、その後、正しい歴史認識の確立、日本の加害責任の明確化、戦後補償の確立、靖国問題など積極的に発言すると同時に具体的に運動に全力で取り組んでこられた方です。贈られた本の題名は、「天皇を戴く国家」です。
これは、自民党の改憲草案の批判の一冊です。多くの人は、自民党の改憲草案など、いろんな意味で時代錯誤的であるがゆえに、その実現の可能性もなく、読む気もしないと思っています。しかしその雰囲気は危険です。そのような改憲草案を持っている政党が、衆議院、参議院選挙で大勝をしたのです。この事実の重みを我々は深く考えてみる必要があります。そして、改憲草案の内容は、「戦後の日本の平和と民主主義を最終的に解体するもの」であり、そのことが日程に上りだしているということに恐れを抱くべきです。知らないうちに私たち憲法擁護派が包囲されてしまいます。
この本は、自民党改憲草案の問題点を「天皇」の元首化をめざす問題点から始まり、「戦争の惨禍」の忘却、国防の義務の創設、平和的生存権の削除、人権の制限、96条改憲など7点の問題点を提起しています。そして今の憲法を擁護することが「東アジアの平和と日本の民主主義」を確立する上での生命線であると説いています。「改憲草案」では、現在の憲法前文を改正し、「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって」、続いて一条で「天皇は、日本国の元首であり」とし、3条で、「国旗は日章旗、国家は君が代」、「これを国民は尊重しなければならない」と規定しています。
沖縄にとっては屈辱の日である今年の4月28日は「主権回復の日」として、政府主催の記念式典で、天皇皇后両陛下の出席の中、「天皇陛下万歳」三唱が安倍首相を中心とする参加者で唱えられたそうです。天皇制については、多くの議論があると思われます。しかし天皇の政治利用の強化だけは何としても押しとめなければなりません。自民党の改憲草案とこの「天皇を戴く国家」をぜひ読んでほしい。憲法擁護への確信がさらに強まります。
(福山真劫)
核のキーワード図鑑
国民を監視して安全な国 |
お知らせ:10.13 No Nukes Day 原発ゼロ☆統一行動 福島を忘れるな・再稼働を許すな
●日比谷公会堂集会 日時:10月13日(日) 13:00~14:00
場所:日比谷公会堂(地下鉄「霞ヶ関駅、日比谷駅」3分)
※定員2000人・先着順
内容:主催者から~福島からの報告~発言:肥田舜太 郎さん(医師)、大江健三郎さん(作家)
閉会あいさつ:鎌田慧さん(ルポライター)
●デモ 14:20~
日比谷公園霞門~外務省前~経産省前~東京電力前~ 日比谷公園西幸門
主催:首都圏反原発連合
共催:さようなら原発1000万人アクション/原発をなくす全国連絡会
協力:脱原発世界会議/経産省前テントひろば/再稼 働阻止全国ネットワーク
●国会前大集会 主催:首都圏反原発連合