その1
弾道ミサイルは「99%排除できる」か?
日本政府は2007年3月、航空自衛隊入間基地にPAC−3ミサイルを配備し、ミサイル防衛(MD)の運用を開始しました。2011年度までには、海上配備型迎撃ミサイルSM−3を搭載するイージス護衛艦4隻と、地上配備型迎撃ミサイルPAC−3を保有する高射隊16個隊を配備する計画です。そのミサイル防衛について、興味深い記事がインターネットに掲載されていました。以下は記事の一部抜粋です。
<久間防衛相>弾道ミサイル攻撃は「99%排除できる」 久間章生防衛相は24日、沖縄県宮古島市のホテルで講演し、北朝鮮などから弾道ミサイル攻撃を受けた場合の防衛態勢について「今のミサイル防衛(MD)システムで99%は排除できる」との認識を示した。日本のMDは、海上配備のSM3ミサイル、地上配備のPAC3ミサイルの2段階で迎撃する仕組み。久間氏は「今のSM3で9割以上迎撃でき、外れた1割をPAC3が撃つ確率は9割」と説明した。(以下略) ●毎日新聞のインターネット版6月24日 |
久間大臣が「99%」と具体的な数字を上げている以上、もとになった資料、あるいは計算式があるのかもしれません。そこで防衛省の広報課に電話で聞いてみました。対応してくれた方のお話では、「99%」というのは「高い確率」で迎撃できるという趣旨だそうです。実際の迎撃では、たえず条件が変化するために、正確な撃墜率を出すことはできないとのことでした。
次に、「高い確率」で迎撃できる根拠を尋ねました。SM−3はこれまで迎撃実験を11回行い10回成功、またPAC−3は03年のイラク戦争でイラクのミサイルの完全迎撃に成功したそうです。そこで、「1発の弾道ミサイルに対して、1発の迎撃ミサイルによる撃墜率が高いことはわかりました。
では、実戦で敵国から大量の弾道ミサイルが日本に向けて発射された場合は、どのくらいの確率で撃墜できるのですか」と聞いてみました。担当の方のお答えは「高い確率」でした。
仮に日本が迎撃率100%のミサイルを100発保有していても、敵国が150発の弾道ミサイルを撃ってきたら、50発は日本国内の標的に命中してしまいます。
しかし防衛大臣が「99%排除できる」と断言すれば、普通の市民は、敵国が何発ミサイルを撃とうがほとんど全部撃墜できると、受けとるのではないでしょうか。「高い確率」や「99%」の指す意味が、1対1の迎撃率なのか、多数対多数の迎撃なのか、何度も聞き返したのですが、明確な答えはいただけませんでした。担当の方も最後には「実際に相手が何発のミサイルを保有しているか、何発撃ってくるかなどわからないでしょ」と怒ってしまいました。何発撃ってくるかわからないのであれば、高い確率で撃墜することは不可能だと思うのですが。
防衛省として、日本が弾道ミサイル攻撃を受けるのは、どのような場合を想定しているのかもお聞きしましたが、答えをいただくことはできませんでした。
これ以上は自分で調べてみようと思い、SM−3の実験レポートやPAC−3の実戦データなどを、どこで見ることができるのか伺いました。すると、「正当な手段を使って、ご自分で入手してください」とのことでした。なお、防衛省が保有している資料については、大臣官房・文書課・情報公開室に依頼して入手できるそうです。
※この文書の作成中に、久間章生議員が防衛大臣を辞任しましたが、混乱をさけるために、文中では「久間章生防衛大臣」という表記をいたします。また他の人物の役職・肩書きも、発言当時のものです。