MV-22オスプレイの沖縄配備に関する問題点
作成日 2012年5月24日
(2012年7月18日内容を一部更新)
1.はじめに
アメリカ政府は沖縄県に、MV-22オスプレイを配備する計画を進めています。配備先は宜野湾市にある海兵隊の普天間基地です。基地所属のヘリコプター約50機のうち、旧型のCH-46ヘリ24機を、オスプレイに転換する予定です。報道されているところによると、オスプレイの第1陣12機は、7月下旬に一旦は山口県の海兵隊岩国基地に搬入され、その後、普天間基地に移動し、10月から本格的な運用が開始されるようです。
オスプレイは、ヘリコプターとプロペラ機を合わせたような航空機です。左右の翼の先に可動式のエンジンとプロペラがあり、離着陸時にはプロペラを上に向け、飛行時には前に向けます。ヘリコプターと同じように垂直に離着陸し、飛行機と同じような速度と距離が出ることから、軍隊にとっては使い勝手の良い機体のようです。オスプレイには、空軍仕様のCV-22と、海兵隊仕様のMV-22の2種類がありますが、基本的な構造は同じようです。
オスプレイはこれまでに7度の墜落事故を起こし、36人の死亡者を出しました。アメリカの専門家は、トラブルでエンジンが停止した場合に安全に着陸する機能を持たないことを指摘しています。さらに離着陸時の騒音は、従来のヘリコプターよりも大きいことが明らかになりました。
配備先の普天間基地は、宜野湾市の中心にあり、基地周辺は住宅密集地です。昼夜を問わぬ騒音は、住民の生活を破壊しています。2004年8月には、基地に隣接する沖縄国際大学にヘリコプターが墜落する事故が起きました。危険な普天間基地に、危険なオスプレイを配備する計画に対して、沖縄では大きな反対が湧き上がっています。
2.オスプレイの危険性
(1)7度の墜落で36人が死亡
オスプレイは試作段階で、2度の墜落事故を起こしています。1991年に起きた最初の事故では死者は出ませんでしたが、1992年の事故では7人が死亡しました。さらに初期生産段階で2度の墜落事故を起こしました。2000年4月の事故では19人が、同年12月の事故では4人が死亡しています。墜落で多くの死者を出しましたが、アメリカ政府は機体の欠陥は改善されたとして、2007年から部隊配備を始めました。しかし2010年4月には空軍のCV-22がアフガニスタンでの作戦中に着地に失敗して4人が死亡し、2012年4月には海兵隊のMV-22がモロッコでの演習中に墜落して2人が死亡しています。また最近では6月13日にCV-22がフロリダ州で墜落事故を起こしました。
沖縄への配備を前に、日米両国政府は、オスプレイは安全だというキャンペーンを行っています。在日海兵隊の日本語のホームページには、「MV22オスプレイ」という資料が掲載されています。そこには「アメリカ海兵隊の過去10年間の戦闘回転翼航空機で、最も低いクラスA事故率」、「2002年5月〜現在:70,000を超える飛行時間―死亡事故0」と記載されています。
この資料には作成日が記載されていませんが、内容から2011年以降の作成であると思われます。そのため過去10年間の事故率には、1991年から2000年までの4度の事故が含まれていません。さらに2010年の死亡事故も、カウントされていません。またオスプレイのハワイ配備に際し行われた環境影響評価(アセスメント)の資料によると、オスプレイのクラスA事故率は、過去10年では従来機のCH-46より高くなっています。アメリカがオスプレイに関して発表しているデータは、国内向けと日本向けで大きな差があるようです。
(2)離着陸時の騒音は増大 低周波音は一部地域で基準値を超える
アメリカ政府は、オスプレイをカリフォルニアの海兵隊基地に配備する際にも、アセスメントを行いました。報告書では従来機のCH-46と比較すると、オスプレイは巡航時の騒音はやや小さく、離着陸時の騒音はやや大きいとしています。同様の報告は、やはりアメリカ政府が作成し日本政府が提供を受けた「MV-22の普天間飛行場配備及び日本での運用に関する環境レビュー最終版」にも掲載されています。
また日本政府は昨年末、沖縄県に対して、名護市辺野古での新基地建設に関するアセスメントの評価書を提出しました。この評価書の中には、オスプレイが飛行時に発生する低周波音について、一部の地域では心理的・生理的に影響を与える基準を上回ると記載されています。
2011年1月にはアメリカのアラバマ州で、住民の苦情によって空軍がオスプレイの訓練を中止する事態も起きています。
普天間基地周辺の住民は、離陸・周回・着陸を繰り返す訓練の騒音に悩まされています。騒音増大は、住民に多くの苦痛を与えるでしょう。
(3)離着陸時に強い風圧と排気
オスプレイが離着陸する際に、回転するプロペラが下方向に巻き起こす風圧は、相当に強いようです。アメリカのニューヨーク市では2010年5月に、展示飛行で飛来したオスプレイが会場の公園に着陸しょうとした際、風圧で周りの木を折り、10人が怪我する事故が起きました。
また沖縄県が入手したアメリカ海軍のレポートは、離着陸時にエンジンの排気によって火災を引き起こす可能性があることを明らかにしています。レポートによると米軍は、離着陸に際して茂みを避けることなどで火災は回避できるとしているようです。
オスプレイが配備される普天間基地の滑走路はアスファルトで覆われています。しかし、オスプレイが飛んでいく先の一つである北部訓練場は、森林地帯の中にあります。またヘリコプター着陸帯(ヘリパット)の周辺には民家もあります。オスプレイの離着陸による事故が発生する危険性は大きいでしょう。
(4)オートローテーション機能がない
ヘリコプターが飛行中にエンジンが停止した場合、機体が落下を始めると、下からの風を受けてプロペラが回転し、その揚力で不時着の際の衝撃を弱めることができます。これをオートローテーションと言います。オスプレイは、離着陸時にはプロペラを上に向けて、ヘリコプターの様に飛行します。しかしオスプレイには、オートローテーション機能が無いようです。
『琉球新報』(2012年1月23日)は、「米国防総省付属機関・国防分析研究所(IDA)で1992年から17年間、オスプレイの技術評価を担当した元主任分析官レックス・リボロ氏が米下院の公聴会で『オートローテーション機能の欠如』を『重要な問題点』と明らかにし、『飛行中にエンジンが停止した場合の緊急着陸機能が欠如している。人命軽視の軍用機だ』と証言した」と報じました。
(5)飛行機モードでの不時着ではプロペラが飛散する
報道機関の取材によって、オスプレイがエンジン停止のトラブルを起こした場合には、プロペラを上に向けたヘリコプターモードではなく、プロペラを前に向けた飛行機モードで滑空して着陸することが明らかになりました。しかしオスプレイのプロペラは機体の高さよりも高いため、前に向けたまま着陸すればプロペラが地面に接触します。これでは安全に着陸することはできません。そのため飛行機モードでの緊急着陸時には、プロペラは機体にぶつからないように、外れる設計になっているようです。この場合、機体や搭乗者は安全かもしれませんが、高速で回転するプロペラが飛散することになり、周辺に大きな損害を与えることが想定されます。
3.日本政府は何も知らされていない
2011年6月13日に防衛省で開かれた記者会見で、オスプレイの危険性について問われた北澤俊美防衛大臣(当時)は、次のように答えました。
淡々と2007年以降の7万時間に及ぶ実績データを沖縄の皆様方に開示をして、ご理解をいただくと。科学的に判断をしていただければいいのではないかということで、今後も沖縄のご質問には米側からのデータを徴収しながら進めて参りたい。
それでは、防衛省の持っているデータとは、どのようなものでしようか。『琉球新報』(2011年6月9日)に、「オスプレイ 防衛省 ネットで安全情報収集 米が詳細提供せず」という記事が掲載されています。内容は以下の通りです。
普天間飛行場に2012年後半に配備が予定されている垂直離着陸輸送機MV22オスプレイをめぐり、米側が安全性に関する詳細な情報を提供せず、防衛省がインターネットで米国防総省のオスプレイに関する公表資料や米国内の環境影響評価(アセスメント)などで情報を収集をしていることが、8日分かった。複数の政府関係者が明らかにした。
同日行われた県選出国会議員の意見交換でも、オスプレイ配備について説明に訪れた防衛省の担当者が米側から資料提供を受けていないことを認めた。開発段階で事故が多発した同機の配備に対し地元の懸念が強まる中、両政府が詳細な情報を共有してこなかったことが問題となりそうだ。
政府関係者によると、日米防衛当局はオスプレイの配備について議論をしてきたが、米側が「軍事機密」などとして性能や安全性に関する詳細なデータを提供していないという。
民主党政府はオスプレイの安全性を強調しています。しかしアメリカから情報を得ることができず、沖縄県民に対して、インターネットで収集した内容をもとに「科学的に判断」することを求めているのです。これでどうして、安全だという政府の言い分を信用することができるでしょうか。
4.運動の焦点
以上、見てきたように、オスプレイは通常の飛行でも騒音が増大し、墜落の危険性が大きく、緊急着陸に対応できない可能性が高いことが明らかです。このオスプレイが、普天間基地を起点にして、嘉手納基地、キャンプ・ハンセン、キャンプ・シュワブ、北部訓練場、伊江島演習場などとの間を飛び交うことになるのです。沖縄本島の北部・中部の全域が危険にさらされます。
沖縄では今年の夏以降、米軍に関連する大きな動きが三つあります。一つはオスプレイの7月配備です。二つ目は辺野古新基地建設のための海の埋め立て申請です。政府は基地建設のアセスメント評価書を昨年末に沖縄県に送付し、沖縄県は知事意見を今年3月に政府に提出しました。政府は年末までの間にアセスメントの全手続きを終了させ、沖縄県に対して埋め立てを申請すると想定されます。三つ目は北部訓練場内の東村高江でのヘリパット建設の強行です。
オスプレイの配備と、辺野古新基地建設、東村高江のヘリパット建設は連動しています。オスプレイ配備を許せば、一方で普天間基地の暫定使用を長期化させ、他方で辺野古新基地建設の動きを強め、高江ヘリパット建設を進めさせることになるでしょう。しかしオスプレイの配備を阻止できれば、海兵隊は部隊の運用に支障をきたし、県外・国外への移転を進めることにつながります。
オスプレイ配備を止めるために、沖縄平和運動センターや、基地の県内移設に反対する県民会議が、様々な行動を計画しています。こうした沖縄現地での行動に積極的に参加し、支援するとともに、各地で沖縄集会やデモを行うことで、オスプレイの配備を阻止するための全国的な運動を作っていきましょう。
オスプレイの写真(2枚ともウィキペディア・コモンズより転載)
●離着陸時には、プロペラを上に向ける。
もとのデータはここ
●飛行時には、プロペラを前に向ける。
もとのデータはここ
MV-22オスプレイの沖縄配備に関する問題点/資料
資料1. アメリカ側が主張するオスプレイの安全性について
●在日海兵隊の日本語ホームページ
http://www.kanji.okinawa.usmc.mil/
●上記内のオスプレイの資料(日本語)
http://www.kanji.okinawa.usmc.mil/Documents/MV22v4.pdf
●在ハワイ海兵隊のアセスメントに関するページ(英語)
http://www.mcbh.usmc.mil/mv22h1eis/documents.html
●ハワイでの環境影響評価(英語)
http://www.mcbh.usmc.mil/mv22h1eis/documents/Draft%20EIS/DEIS%20Chapter%203.pdf
*オスプレイのクラスA事故率については、105ページ。他の海兵隊航空機のA事故率については、106〜107ページ。
資料2. 住民の苦情で、オスプレイの訓練を中止になったことを伝える沖縄タイムスの記事
沖縄タイムス2011年1月27日 09時43分
●オスプレイ騒音 苦情殺到 米アラバマ州 住民訴えで訓練中止に
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-01-27_13990/
資料3. 2010年5月にニューヨーク市の公園で起きた事故に関連する映像(You Tubeより)
http://www.youtube.com/watch?v=PI9gWlM0QY8&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=6g8J4Q5ZytY&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=CwYF3E9pcXM&NR=1&feature=endscreen
資料4. オスプレイの安全性に対する照屋寛徳衆議院議員の質問主意書と政府の答弁書
●質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm
●答弁書
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm
琉球新報2011年6月9日
●オスプレイ 防衛省、ネットで安全情報収集 米が詳細提供せず
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-178041-storytopic-3.html
琉球新報2011年7月10日
●オスプレイ安全性「問題はクリア」 防衛相が見解
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-179166-storytopic-3.html
琉球新報2012年1月21日
●オスプレイ緊急着陸
固定翼のみ 米軍操縦士が説明
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-186500-storytopic-53.html
琉球新報2012年1月22日
●オスプレイ 緊急着陸時、回転翼飛散の恐れ
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-186542-storytopic-3.html
琉球新報2012年1月22日
●オスプレイエンジン停止時 滑空も軟着陸も困難
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-186542-storytopic-3.html
琉球新報2012年1月23日
●社説 オスプレイ 欠陥機容認は人命軽視だ
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-186572-storytopic-11.html
琉球新報2012年2月11日
●オスプレイ事故
10万時間当たり3.99件 海兵隊平均上回る
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-187317-storytopic-1.html
琉球新報2012年4月13日
●社説 オスプレイ墜落/県内配備 断固阻止を/県民全ての命の問題だ
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-189899-storytopic-11.html