半田滋さん(東京新聞・編集委員)の講演
テーマ:政権交代と安全保障政策の変化
●日時 2009年9月25日午後
●場所 総評会館会議室
(はじめに)
全国基地問題ネットワークは2009年9月25日、東京千代田区の総評会館で、第13回総会と全国交流集会を開催しました。以下の文書は、全国交流集会に講師としてお招きした、半田滋さんの講演を収録したものです。資料として活用してください。なお作成に当たって、半田さんの校正は受けていません。また文中の見出しは、半田さんが用意したレジュメをもとに挿入しました。文責は平和フォーラム事務局にあります。
1.安全保障政策はどう変わったのか
こんにちは。東京新聞の半田滋です。普段から防衛省におりますので、役所がどのように変わってきているのか、先週から驚きの連続で見ています。本日もジョン・V・ルース・駐日米国大使が、北沢俊美・防衛大臣と会談しました。今までであれば会談後の記者に対するブリーフィングは、官僚の国際参事官が出てきて説明します。しかし今日は、新しく就任した榛葉賀津也・副大臣がブリーフィングをしました。とても驚きました。
鳩山内閣の組閣が終了した後に、私たちマスコミが心配していたのは、今後は会見がどうなるかということです。他省庁には豪傑な事務次官がいて、政治を批判したり、とりわけ民主党の政策を批判したりしていました。一方、防衛省はシビリアンコントロールが効いていて、内閣や国会議員の決めたことに忠実に従ってきました。事務次官の会見も、例えば海外派遣の問題では、進捗状況や発生した事案を客観的に報告していました。ですから会見が無くなってしまうのは、私たちは困ってしまいます。また統合幕僚長や陸・海・空の幕僚長の会見など、シビリアンコントロールを受ける側の会見が無くなってしまうと、シビリアンコントロールを命じる側が、受ける側の説明まですることになります。これはいささか、おかしなことです。私たちは防衛省の内局を通して新大臣に、各種の会見を廃止しないように伝えてもらいました。そうすると何のことはなく、続けて行うことになりました。
官僚主導から脱却しているかどうかは、私たちも関心がありました。皇居での認証式がある日の午前中に、防衛事務次官が北沢議員に会う約束がありました。それが北沢さんの方から防衛省に連絡があって、キャンセルになりました。「これはすごいな、挨拶もうけないのか」と私たちはびっくりしていました。
認証式後に首相官邸で行われた各大臣の記者会見をご覧になってわかったと思いますが、選挙中に言っていたことをそのまま言っている人や、あまり煮詰めずに抽象的な物言いで終っていた人が多いですね。自公政権の時とは違って、官僚が用意した作文は出てきませんでした。「しばらくは暖かい目で見てやりたいな」と思うような会見でした。
防衛省では午後2時ころに北沢大臣が来て会見を行いました。他の大臣よりも会見が遅かったのですが、防衛省の官房長などが大臣のところでレクチャーをしていたようです。「これではいままでと同じではないか」とも思いましたが、インド洋への自衛隊派遣については来年1月に法律が切れた段階で終了だと、はっきりと言っていました。官僚主導からの脱却を行おうとしている様子は見て取れました。
昨日は珍しく、防衛省で三役会議が行われました。三役とは大臣・副大臣・政務官です。政務官は2人いますから、4人で話し合ったのです。官僚の中には、「知らないもの同士が話し合って、何が防衛政策だ」という声もありました。しかし官僚との関係については、事実関係の説明は求めるが政策決定は任せてほしいというスタンスで臨むことが確認できているようです。
三役会議の後に、沖縄選出の与党国会議員との懇談がありました。「うるの会」というのだそうです。与党国会議員と防衛大臣が会うというので、誰がくるのかと思ったら喜納昌吉さん、山内徳信さん、照屋寛徳さん、下地幹郎さんなどです。この人たちが与党なのですね。
@在日米軍再編
北沢大臣は本日、沖縄に行っています。仲井真弘多・沖縄県知事と会談する予定です。八ッ場ダムの問題などもそうですが、地元と話をするスタンスです。その中から決めていくということです。普天間基地の移設問題では、民主党がマニフェストで言っていた県外移転からはトーンダウンしている印象があります。特に北沢大臣は、「理想は理想」、「現実的な対応をしなければならない」という趣旨で話をしています。これを聞くと、県外移転は無いのかもしれません。いま沖縄県知事や名護市長が要望しているのは、日米が合意したキャンプ・シュワブの基地の上に滑走路を作る計画を、少し沖合に出してくれというものです。
沖合に出すことの意味ですが、日米合意のまま作ると、滑走の端が大浦湾の中に出てしまいます。大浦湾のその部分が非常に深いので、ケーソンという土台を作るためのブロックをたくさん使わなければなりません。それも巨大なケーソンが必要ですから、マリコン(マリーン・コンストラクター、ゼネコンの中でも海洋土木や港湾施設建設を専門としている業者)でないとできないのです。そうすると、せっかくの公共事業なのに、沖縄県内の業者は受注できません。東京の業者に取られてしまいます。ところが、滑走路を沖合に出すと浅瀬にかかるので、沖縄県内の業者でも請け負うことができるのです。距離にして数十メートルです。本日の会談でも、知事は沖合への移動を求めてくるのではないでしょうか。それに対して、どういう判断をするのでしょうか。
普天間基地の移設に関しては、2年間にわたって環境アセスメントが続いてきました。この環境アセスメントに対して、沖縄県知事は何か意見があれば来月までに意見書を出すことができます。不満がなければ何もしなくていい。知事は沖合への移動が希望ですから、何らかの意見書を出すのでしょう。沖縄に駐留する海兵隊を2014年までにグアム島に移転することを考えると、逆算すれば来年には何らかの結論を出さなければなりません。
その中で注目されるのは、海の一部を埋め立てるために必要な公有水面の使用許可です。これは、県知事が出すことになります。使用許可をいつ出すのか、まだ決まっていません。国が求めて知事が回答する期限もはっきりしていません。
沖縄県では来年12月に県知事選挙が行われます。仲井真知事は今までは「一期でやめる」と言っていました。しかし最近は、再出馬すると内々に話しているようです。仲井真知事が続投するのか、革新系の候補が勝つのか。それは仲井真知事が、公有水面の使用許可を出すか出さないかにもかかっています。公有水面の使用許可がなければ、どのような政権も着工はできません。球は沖縄側に投げられています。沖縄がどう投げ返すのかが、非常に大切になってきます。
先日、外務省の人間と会った時に、沖縄県知事が公有水面の使用許可を出さなかった場合はどうなるのかを聞きました。米国は今年、グアム島移転の特別勘定を作りました。移転経費を特別会計として作って、そこに本予算からの出費があります。同時に日本からの米軍再編費用の真水部分28億円も入ってきます。日米の予算が合算されたグアム特別勘定で、移転のための工事を行うのです。もし沖縄県が公有水面の使用許可を出さなければ、米国側は特別勘定の支出を凍結するであろうと、外務省の幹部は見ています。
本年2月にヒラリー・クリントン・米国務長官と、中曽根弘文・外務大臣が締結した文書では、双方がお金を出し合うことを決めています。米国が出さなければ日本も出さない、日本が出さなければ米国も出さないという関係です。米国政府がグアム特別勘定を凍結すれば、日本政府は再来年度の予算に移転経費を積むことができないのです。そうするとグアム移転はそこで止まります。
ちなみに平成21年度予算では、グアム移転に346億円が積んであります。8月31日に決めた来年度予算の概算要求では、米軍再編費用として890億円が積まれています。こうした予算が執行されても、途中で止まってしまう可能性があります。1000億円近いお金が、無駄金になる可能性があるのです。そうなると民主党政権であっても、仲井真知事にGOサインを出してもらわないと話になりません。あるいは全てをやり直すのか。どちらかしか選択はないのです。その時に「現実的な対応」と言っている北沢大臣が、日米で米軍再編を一から議論しなおすと主張するでしょうか。
米軍再編は、本来は外務省がイニシアティブをとる課題です。それが防衛省に守屋武昌・事務次官がいて、彼が1人でこの課題を握って国防省と交渉しました。本来の形では、日本側は外務省と防衛省、米国側は国務省と国防省ですが、防衛省と国防省で決めてしまったのです。本来の形に戻すという考え方もありますが、恐らくそうはならないでしょう。
先日もキャンベル・米国務次官補が来日して、交渉に応じてもいいということを言いましたが、それでも2月にグアム移転協定を結んだ事実は動きません。基本的には、普天間の微修正があるかないかで、話は推移せざるを得ないと思います。そうすると自公政権と、そう変わらないことになります。
日本からの出費は、真水部分だけで890億円です。この他に来年からは、国際協力銀行(JBIC)が米国に融資します。融資分を含めると、日本の負担総額は60億9000万ドルです。防衛費の中から国際協力銀行にお金を出すことになります。そこからグアム特別勘定にお金が入ります。米国から国際協力銀行への返済期限は50年です。6000億円を投入して、グアムに基地を建設する流れは着々と進んでいきます。
米軍再編については、もう一つの問題があります。厚木基地に配備されている空母艦載機の岩国基地への移転です。岩国基地に隣接している愛宕山に、県が3分の2、岩国市が3分の1を負担して住宅地を造成しました。その愛宕山を国が買い取って、米軍住宅にする計画があります。自公政権時代には、米軍住宅賛成派と反対派の双方が防衛省に陳情に来ていました。これを、どのようにするのでしょうか。国の方針通りに進める流れが、少し変わってくるかもしれません。岩国基地の問題は、普天間基地ほどは東京では注目されていません。与党がどういうスタンスかは明確になっていませんが、来年以降はもめてくるのではないでしょうか。
また地位協定の問題もあります。民主党はマニフェストの中で、地位協定は見直しと言っています。これは本当にできるのでしょうか。一番難しいのは、この問題だと思います。地位協定がいい加減だから、米兵が犯罪を起こしても逃げてしまうということがあります。しかし米国側の言い分は、「日本では被疑者の人権が守られない」という事です。弁護士の接見や、外部への連絡などが制限されているからです。「被疑者の人権が守られない国に、米兵を渡すことはできない」というのは、ある意味もっともなことです。この問題を解決するためには、日本の司法制度を直さなければなりません。
米国は、米軍を置いているどの国とも地位協定を結んでいます。被疑者の段階で身柄を引き渡すことがあるのは、日本だけです。他国では米軍側に優位な運用をしています。これを変えていくのは、難しいでしょう。
A防衛省関連
次に防衛省関連の話をします。直近に控えているのは、防衛費の概算要求です。防衛費は自公政権時代でも、7年連続でマイナスでした。ところが8月31日に出た来年度予算の概算要求は、対前年度比3パーセント増です。まじめにやる気がないような数字です。本年の防衛費は4兆7000億円ですが、民主党が概算要求を認めれば来年度の防衛費は4兆8000億円になります。
その中には、びっくりするような目玉商品があります。1つ目はPAC‐3の追加配備です。これが944億円です。
2つ目は海上自衛隊のヘリコプター空母です。海上自衛隊はすでに、「ひゅうが」というヘリコプター空母を試験運用しています。全長が約200メートル、甲板は空母と同じように平で、ヘリコプター4機を同時に運用できます。「ジェーン年鑑」は、「ヘリコプター・キャリア」=ヘリ空母と記載しています。しかし海上自衛隊は、ヘリコプター搭載護衛艦と呼んでいます。
新たに概算要求に出されたヘリコプター空母は、ヘリコプター9機を同時運用できるのです。大きさも「ひゅうが」より一回り大きく、建造費は1100億円を超えます。非常に巨額な投資です。
海上自衛隊に、「空母を作りたいのでしょう?」と聞くと、否定しない人もいます。まあ、否定する人もいるのですが、海上自衛隊・幕僚部防衛部にヘリコプター空母に関する説明を聞くと、「対中国用」との事です。中国は、潜水艦の保有を増やしています。現在の保有数は63隻です。ちなみに海上自衛隊は16隻です。中国海軍はこの5年間で17隻の潜水艦を新造しました。それだけでも、自衛隊の潜水艦を上回ります。また63隻のうち、原子力潜水艦は5隻です。一番新しい「ジン級」は海南島に隠されていて、性能が明らかになっていません。それ以外にも、ロシアから購入した性能の高い潜水艦が、東シナ海にうようよいます。そうした潜水艦に対抗するためには、ヘリ空母が必要だという事です。
ではヘリ空母は何のために使うのでしょうか。ヘリコプターは、潜水艦を探知して攻撃するのに使用します。中国の海軍力の強化に対抗して、海上自衛隊も強化していくということです。そのシンボルがヘリ空母なのです。
3つ目は陸上自衛隊の新戦車です。「なぜ今の時代に戦車なのか」という疑問があります。防衛省・自衛隊は、「本格的な着上陸侵攻の脅威はない」と明快に言っています。それではなおさら戦車はいりません。ところが自衛隊によると、イラク戦争でも米軍のM‐1戦車が大活躍したように、ゲリラ・コマンド戦闘でも戦車が重要だとのことです。そちらに話を振るのですね。この新戦車は、4年間で58両生産する計画です。総額で581億円です。
PAC‐3、ヘリ空母、新戦車。この3つの総額は2000億円を超えます。概算要求は4兆8000億円ですが、この3つを全部切り捨てれば、見事にマイナスになります。そこで「これは削り白なのか」とも聞きましたが、それぞれの制服組の人たちは、まじめに購入を望んでいます。
北沢大臣は鳩山総理から、「きちんとやるように」と指示されたことが、2つあります。1つは米軍再編、もう1つは「防衛計画の大綱」(大綱)と「中期防衛力整備計画」(中期防)の策定です。大綱と中期防の策定は、自民党政府時代には首相の諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」(安防懇)が報告書をまとめて、その報告書をたたき台に防衛省がひな型を作り、閣議決定をするという流れでした。本来の予定では、本年12月に新しい大綱と中期防をまとめることになっていました。そこで安防懇が今年の7月に答申書を作成しました。
今回の安防懇の報告書が今までと違うところは、集団的自衛権の行使を容認したことです。さらに専守防衛の表現を見直すとしています。集団的自衛権の不行使と専守防衛をやめてしまおうというのです。これは、解釈改憲以外のなにものでもありません。そうした報告書が出てきました。
この報告書を、民主党は認めませんでした。反映させないことが確実になっています。それでは、安防懇の報告書を反映させないのであれば、どうやって大綱と中期防を作るのでしょうか。民主党は、役所で作るとしています。役所が作れば、官僚主導になってしまいます。おそらく、三役会議で方向性を出して、その枠の範囲内で作らせるのでしょう。北沢大臣は、「集団的自衛権行使の見直しはしない」ことを明言していますから、安防懇のようなトーンにはならないでしょう。同時に北沢大臣は自分のホームページに、「イラクへの自衛隊派遣は絶対反対」と書いています。海外派遣も、積極的には行わないでしょう。ただ鳩山さんが米国で、「PKOは積極的に行う」と言ってきました。ですからインド洋派遣やイラク派遣のような、日本独自の派遣はやめる。しかしPKOのような国連のフィルターを通した派遣は積極的に行う。そうした形に方向性を変える可能性はあります。現行の平成16年大綱では、「国際安全保障環境の改善」という名目が入っています。海外派遣によって国際的な平和を作っていこうという考えは、いまの大綱にも入っています。そこは踏襲されるのでしょう。単独派遣はしないということで、ブレーキをかけるのだと思います。
中期防は、5年間の武器の買い物計画です。大綱に沿って作られます。戦車や戦闘機のような戦争に使うものは減って、海外派遣や災害救助に使えるもの、輸送機や補給艦が増えていくのではないでしょうか。
それでは具体的に、自衛隊をPKOで派遣できる場所はどこかあるのでしょうか。いま自衛隊が派遣しているのは、ゴラン高原に43人です。他にはスーダンに司令部要員を出しています。トータルで50人ぐらい。世界各国のPKO派遣順位では80位です。自民党国防部会は、「それでは駄目だ」ということで、派遣の拡大を目指してきました。防衛省・自衛隊も、いろいろなところを探しています。しかし、安全な派遣先がないのです。スーダンなどは危険で出せません。しかし今、PKOが求められているのは、アフリカ各地です。中国はアフリカの8か所に、PKOを出しています。アフリカには資源があります。また日本が安保理常任理事国入りをしようとした時に、アフリカの票でつぶすことができます。一石二鳥なのです。これに対して、日本は何もできないできました。それを考えると、アフリカのPKOは多少危なくても、自衛隊が行くとこになるかもしれません。そうしないと派遣先が増えないのです。
また防衛省改革が続いています。防衛省には、官僚の内局と、制服組の幕僚監部があります。幕僚監部は、統合・陸・海・空の4つに分かれています。これまでは分かれていた官僚と制服組を混ぜてしまうのが、防衛省改革です。官僚と制服組の組織には、ダブっている部分があります。例えば統合幕僚監部と、内局の運用企画局は同じようなものです。これを統幕に取り込むことになります。制服組の牙城であった統幕に、官僚が入っていく。もう一つは、内局の防衛政策局に、制服組を入れていきます。かなり混在が進みます。
いままで防衛省・自衛隊は、政治家が防衛政策に関心を持たないので、内局が擬似シビリアンコントロールを行ってきました。これからはシビリアンコントロールを行う側に、制服組も入っていくことになります。そうした点で問題があります。しかし来年からの実施に向けて、計画が進んでいます。民主党政権はまだ何も言っていません。
B海外派遣
来年1月に期限が切れる海上自衛隊のインド洋派遣に関して、岡田克也・外務大臣は「単純延長はしない」という言い方をしています。やめるということでしょう。いま護衛艦1隻、補給艦1隻を派遣していますが、法律が切れれば帰ってくる。その代り「単純延長はしない」ということであれば、アフガニスタンに何らかの支援をすることになるかもしれません。いま民主党が言っているのは、文民による支援です。警察の派遣や学校を作るなどです。
陸上自衛隊の派遣を心配する人がいます。昨年春の段階で日本政府は米国から、陸上自衛隊の大型ヘリコプター・チヌークの派遣を求められました。また航空自衛隊のC‐130輸送機の派遣要請もありました。日本政府は、C−130についてはイラク空輸を終えたばかりであり出せないと断りました。また自衛隊はこれまで、ヘリコプター部隊を戦闘地域に派遣したことはありません。昨年5月に外務省と防衛省が10名の調査団をアフガニスタンに派遣して、チヌークの派遣が可能か調査しました。アフガニスタン現地で大型ヘリコプターを運用しているのはドイツ陸軍です。陸上自衛隊がヘリコプターを派遣すると、ドイツ陸軍と陸上自衛隊でローテーションを組んで運用することになります。現在、ドイツ陸軍が行っているのは、メディバックです。負傷した兵士をヘリコプターで輸送するのです。この場合、戦闘地域にヘリコプターを降ろして、攻撃を受けた場合は応戦しなければなりません。これは「駆けつけ警護」にあたり、憲法違反です。ですから派遣はできないという結論が出ました。昨年の洞爺湖サミットでは福田首相がブッシュ大統領に、憲法に違反するから陸上自衛隊は出せないと断っています。
そのことはオバマ政権にも引き継がれていて、日本に対しては陸上自衛隊の派遣は要請してきません。そうした流れが続いています。
ソマリア沖の海賊対処については、民主党は法案成立には反対していました。しかし北沢大臣は、自衛隊派遣の継続を認めてしまいました。3月31日の活動開始から昨日までに、62回の警護活動が行われています。海賊対処法に切り替わった7月24日からは、外国船舶も護衛しています。日本の船舶のみを対象にしていた時は、1回の警護で2〜3隻でしたが、今は6〜7隻で外国の船が大量に入ってきています。
中国・ロシア・インドなど、他の国も警護活動を実施しています。他の国は軍艦2隻で商船をはさむように護衛しています。日本の場合は、護衛艦2隻に加えてP−3C哨戒機が付いています。これが上空から、近づいてくる海賊船の監視を行っています。そのため各国の商船から大人気のようです。
また「インド洋での補給活動が終了した後に、補給艦をソマリアへ回すのか」という質問に対して、北沢大臣は明確には答えていません。もしそうなれば、派遣している艦船の数は、変わらなくなってしまいます。
2.ミサイル防衛・宇宙の軍事利用はどうなるか。
@PAC‐3の追加配備
ミサイル防衛に関連して、概算要求には944億円が計上されています。現在、PAC‐3は埼玉・岐阜・福岡の3つの高射群に配備されています。これに追加して、いまは配備されていない千歳・青森・沖縄にもPAC‐3を置くことになります。現在は1つの高射群に4つの高射隊が配備されていましたが、これを1つの高射群に3つの高射隊を配備するように編成を変えて、さらに追加購入することになります。これまでPAC‐3は、政経中枢を守るとしていました。それが、全国を守ることに変わったのです。これが概算要求の目玉です。
民主党はミサイル防衛には賛成しています。日本政府は2003年12月に、ミサイル防衛システムの導入を閣議決定しました。秋山直紀という人物が、憲政記念館でミサイル防衛展を開いて米国のミサイルメーカーを集めていました。この集まりには毎回、民主党の前原誠司・衆議院議員が出席していました。前原さんはこの集まりで開かれたシンポジウムで、「総論賛成、各論反対」という主張をしていました。
民主党は「防御的兵器」という理由で、ミサイル防衛を前向きにとらえているようです。しかしミサイル防衛の歴史を考えてみると、そうとは言えません。
1960年代に、米ソが互いに大陸間弾道弾(ICBM)を撃ち合う形が確立しました。また撃たれてはかなわないからという理由で、ミサイルを迎撃するミサイル防衛システムが考えられました。しかし迎撃には、たくさんのミサイル防衛システムが必要です。またその迎撃システムをかわすためには、それ以上のICBMが必要です。これは盾と矛の関係で、無限の軍拡競争に陥ってしまいます。ですからミサイル防衛をやめるということで、迎撃ミサイルを禁止するための条約=ABM条約が成立しました。米ソは迎撃ミサイルの開発をやめるのです。それが1980年代に入ってレーガン政権下でスターウォーズ構想になって復活して、ほそぼそと開発が続きました。その後、ブッシュ政権になった2002年に、米国政府として正式な採用が決まります。また同時に日本でも導入を決めました。
迎撃ミサイルシステムは、本来は核ミサイルを保有する国が、相手のミサイルを無力化するためのものです。核兵器と「対」をなしているのです。守っているだけでは、いつかは破られてしまいます。ですから、ある程度までそろえたら必要はなくなります。その上で、米国が相手国を攻撃してくれなければ、意味がありません。ある程度で配備はやめるというのが、いままでのミサイル防衛構想です。そのために配備は3個高射群でした。
それが今回、なぜ6個高射群に増えたのでしょか。今年4月に北朝鮮が、テポドンUを発射しました。あの時、岩手県にPAC‐3を持っていきました。その時に他県出身の国会議員からも、自分の県にPAC‐3を配備するように要請がありました。民主党の議員からもあったのです。そこで防衛省は、「民主党政権でも配備を続けられる」と踏んだのでしょう。
これは、まったく無駄な投資です。核ミサイルを保有している国でなければ、効果がないのです。しかし日本は、米国に好意を示すためにたくさん購入しようとしています。非常にちぐはぐな計画です。新しい計画では、沖縄県にも1個高射群が配備される予定です。沖縄県にPAC‐3を1個高射群置いて、何を守るのでしょうか。米軍基地を守るしかありません。米軍の嘉手納基地には、すでに米軍がPAC‐3部隊を配備しています。しかし米軍がPAC‐3を撃つかどうかは、日本の判断とは異なる場合が出てきます。相手国が沖縄にミサイルを撃ってきた場合に、米軍が迎撃すれば、米国は相手国と交戦状態に入ってしまいます。その場合は、米軍は迎撃しないかもしれません。
例えば北朝鮮が沖縄にミサイルを撃ってきた時に、米軍が迎撃すれば、米国と北朝鮮は交戦状態になります。ですから米軍は迎撃しないかもしれません。その場合に、航空自衛隊の那覇基地に配備するPAC‐3で迎撃するのです。この辺は、きちんと整理しないといけない話です。
1つ目は、そもそもミサイル防衛とは何かという問題です。2つ目は、6個高射群では、あちこちに穴が空いています。穴のあいた地域の人々には、どのように説明するのでしょうか。将来的には、あなたの県にも配備しますというのでしょうか。3つ目は、沖縄への配備は米軍を守るためですかという問題です。これらを民主党の中で、話し合ってもらいたいと思います。
A宇宙の軍事利用
次に宇宙の軍事利用の問題です。自民党が、防衛計画大綱の策定に関する報告書を出しました。この中で、宇宙の軍事利用を進めることを打ち出しました。来年度の概算要求の中には、宇宙利用の項目が入りました。通信衛星や気象衛星を防衛省も使っていくことが書いてあります。これまで日本は、宇宙の平和利用、非軍事をうたっていましたが、それを非侵略利用と読み変えようというのです。
特に現在は米国しか保有していない、早期警戒衛星の保有を検討するとしています。早期警戒衛星とは、相手国が弾道ミサイルを発射した場合に、その角度や熱や強さを探知して、目標地点を察知するものです。これを日本も保有するということを、自民党の報告書は提言しています。早期警戒衛星の保有は開発費用が莫大です。ミサイル防衛システムを組み立てる中に、それだけのお金をかけても意味があるでしょうか。宇宙の利用には疑問符がつきます。
また宇宙利用の中には、巡航ミサイルに対抗するという新しい流れが出てきています。巡航ミサイルは、弾道ミサイルとは異なり放物線を描いて落下するわけではありません。発射後は目標をめざして低空飛行をする、迎撃が難しいミサイルです。その迎撃のために宇宙利用が必要というのが、自民党の言い分です。民主党では、細野豪志・衆議院議員が積極的です。宇宙基本法の成立でも原動力の一人になりました。今年作成された宇宙基本計画も、民主党の立場からは大きな反対はでてこないでしょう。
必要のない早期警戒衛星や、巡航ミサイル探知衛星などを開発していけば、喜ぶのは防衛産業です。新たな資金源として活用されることが考えられます。いま防衛費が減額しています。また戦闘機の製造も終了します。戦闘機を作っていた三菱重工などは、今後はミサイルやロケットで資金を得ようとしています。H2ロケットを製造しているのも、三菱重工です。そこに民主党の若手議員も加わっています。来年度の防衛予算に入る宇宙の軍事利用を、おそらく民主党は切らないでしょう。
3.結語
まとめに入ります。安全保障政策に関しては、いまのところ劇的な変化はありません。しかしインド洋派遣の代替案として文民派遣が出てくるように、自衛隊の海外派遣は減っていくかもしれません。アフガン戦争やイラク戦争への支援のような形の、海外派遣は減ってくるでしょう。
それ以外の防衛政策、米軍再編・防衛省改革・地位協定などは曖昧模糊としています。普天間移設・ミサイル防衛・宇宙開発の3点では、民主党政権も自公政権と変わらないかもしれません。そうした懸念を持たなければならないでしょう。
もう一つ問題があります。鳩山総理自身は、改憲の考え方を持っています。民主党の中には他にも改憲派がいます。来年の参議院選挙で民主党が単独過半数を保持すれば、国民投票法をいつでも使える環境になります。憲法改正には大義名分が必要です。ですから集団的自衛権行使や専守防衛について変えないのであれば、憲法を変える必要はありません。
しかしPKO派遣を増やしていけば、場合によっては自衛官が死亡する事も出てくるでしょう。その時に、「自衛隊が憲法違反のままでいいのか」といった議論が出てくるかもしれません。そうしたことをきっかけに、憲法議論が起こることはあるでしょう。
民主党が参議院選挙に勝って、その勢いで4年間、政権を取ることになるとどうなるでしょうか。参議院選挙後には、内閣改造があるでしょう。その時に本来の民主党的な色合い、タカ派色が強調される危険性は大いにあります。長期政権化すれば、憲法改正に必ずつながると言えるでしょう。
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