平和フォーラム資料
在沖海兵隊「定員」1万8000人の問題について
作成者:八木隆次
作成日:2010年4月12日
(はじめに)
沖縄等米軍基地問題議員懇談会の川内博史会長と近藤昭一事務局長は、4月5日に沖縄県の在沖海兵隊司令部を訪れ、第3海兵遠征軍司令官のロブリング中将ほかと意見交換し、在沖海兵隊の「定員」問題についての米側の見解を求めました。
また鈴木宗男衆議院議員は政府に対して質問趣意書を提出して、「定員」1万8000人」の根拠を質しました。
自民党政権下は、沖縄には「定員」1万8000人の海兵隊員が存在し、そこから8000人がグアムに移転して、1万人が沖縄に残る――と説明してきました。しかし上記2つの調査により、沖縄海兵隊の「定員」1万8000人というのは、日本政府の作った虚構であることが判明しました。
以下はこの問題に関する資料です。
(資料1)
●沖縄等米軍基地問題議員懇談会での川内博史会長の発言
日時 2010年4月7日(水)
場所 衆議院第1議員会館・第4会議室
沖縄等米軍基地問題議員懇談会会長の川内博史です。
月曜日に近藤昭一議員と私で、第3海兵遠征軍司令官・在日海兵隊基地司令官であるロブリング中将と、メルトン大佐(海兵隊バトラー基地、外交政策部長兼参謀長補佐)、外交政策部次長のエルドリッジさんと意見交換をしてきました。その報告をさせていただきます。
意見交換の論点は1点です。在日米軍再編に関連して、沖縄に駐留する海兵隊の人数は「定数」1万8000人と、私どもは説明を受けてきました。実は先日、鈴木宗男衆議院議員から政府に対して質問主意書が提出され、その中で「定数1万8000人の根拠は何ですか」と聞きました。その質問に対しての答弁書が確定しました。答弁書には「額賀防衛庁長官(当時)が1万8000人と言った」「これが1万8000人の根拠である」と、書かれていました。
私たちはロブリング中将に対して、「沖縄にいる海兵隊員の定数は1万8000人といわれているが、何に根拠があるのですか」とお聞きしました。ロブリング中将は沖縄海兵隊の責任者ですが、私たちの質問に直接はお答えになりませんでした。お隣にいたメルトン大佐が、「1万8000人という数字は、ロードマップに書いてある数字です」と答えました。
私からは、「そのような数字は記載されていません」というと、ロブリング中将から「あとで説明させます」といって、ロブリング中将からは海兵隊の責任者であるにもかかわらず、直接お答えいただくことはできませんでした。その後1時間半にわたり、メルトン大佐とエルドリッジさんとのやりとりを続けました。
エルドリッジさんは私に「1万8000人と言った主語は誰か」と私に聞くので、「日本政府である」と私は答えました。するとエルドリッジさんは、「そうである。私たちに責任はない」と答えたのです。
そこで私は、「あなた方に責任はないかもしれないが、あなた方は1万8000人という数字を利用してきたでしょう」と申し上げました。メルトン大佐とエルドリッジさんは、しばらく黙ったままでした。
結局1万8000人という数字は、旧政権下において、額賀防衛長官と守屋次官が作った数字ではないのか、ということが徐々にはっきりしてきたと思います。
こうしたことは言いたくはありませんが、道路官僚が立派な道路を欲しがるように、軍人は基地を欲しがる。グアムにも日本にお金を出してもらって基地を作ります。さらに辺野古にも日本にお金を出してもらって基地を作ります。これは米国の海兵隊にとっては、大歓迎をするべき事柄です。したがってその約束を違えて欲しくはない――という彼らの気持ちはよくわかります。
しかし日本の国民の皆さんの税金を使う事業として、この1万8000人の根拠がどこにもないことがはっきりしました。日本政府がグアムと辺野古に基地を作るために言った数字であることが、はっきりしたのです。
そうした段階において、旧政権下におけるこの合意を、もう一度レビュー(検証作業)する必要があるのではないでしょうか。
ロブリングさんと、私と近藤さんとで合意したことが一つあります。「日米関係は大事である、今後日米関係を強化・発展させていくためには、国民の皆さんに本当のことをきちんとはなさなければならないですね。本来、国民の皆さんが知るべき事実を、しっかりとお伝えしなければなりませんね」と、そうしたことをロブリングさんに申し上げたところ、ロブリングさんは「I agree」とおっしゃいました。ですからエルドリッジさんも、1万8000人という数字に、米国政府は責任を持ってはいないということを正直にお答えになられたのでしょう。
今週月曜日の沖縄での報告は以上ですが、そもそもの数字に疑念が生じている。沖縄等米軍基地問題議員懇談会の前会長である鳩山総理が苦悩されている。私たちはとこの問題を決着に向かわせるために、しっかりとサポートします。グアムには兵士8,600人と家族9,000人が移転するのですから、それで十分です。普天間基地の部隊もその中に含まれているのです。「とりあえずグアムにいってください」ということを、5月の合意にするべきです。月曜日の懇談で、そのことに確信をして、帰ってきました。
沖縄の皆さんの、日本の平和に対するこれまでの貢献を考えた時に、キャンプ・シュワブ陸上案や、勝連半島沖合案などの、リゾート開発のような案ではいけません。あれは決して「腹案」ではないと思います。「腹案」があの程度であれば、びっくりしますよ。総理にはこの1万8000人の問題をしっかりとご報告し、米国との交渉をしていただきたいと申し上げておきました。あと2か月、5月末が一つの区切りです。本日お集まりの議員の皆さんと、力を合わせて前進してまいりたいと思います。これで私の報告を終わらせていただきます。
(資料2)
●在日米軍再編における在沖縄海兵隊要員等のグアム移転に関する質問主意書
平成二十二年三月二十三日提出
質問第三〇一号
在日米軍再編における在沖縄海兵隊要員等のグアム移転に関する質問主意書
提出者 鈴木宗男
日米安全保障条約が改定されてから本年で五十周年となる。政治、経済、社会、文化等、あらゆる面で日米間の結びつきを今後更に深化させるためには、日米安全保障体制の信頼性を高めることが必要であり、そのためには、右について可能な限り国民への情報開示を図り、国民の理解を得ることが必要である。鳩山由紀夫内閣として、本年五月末までに普天間飛行場の移設先を決定するとし、現在様々な調整を進めているものと承知するが、そもそも二〇〇六年五月一日に日米両国政府が合意した「再編実施のための日米のロードマップ」(以下、「ロードマップ」という。)においても不明な点が多く存在すると思料する。例えばそのうちの一つに、約八千名の第三海兵機動展開部隊の要員並びにその家族約九千名が沖縄からグアムへ移転するとされていることについても、不可解な点がある。右を踏まえ、質問する。
一 政府として、在日米軍の再編に関連し、沖縄に駐留する海兵隊員の人数を約一万八千人であると説明していると承知するが、右の「約一万八千人」という数字の根拠を示されたい。右数字は、いつ、どこで、誰が誰から、どの様な形で確認したものであるのか、その根拠となる関連資料を具体的に示した上で説明されたい。
二 前文で触れた様に、「ロードマップ」では沖縄からグアムへ第三海兵機動展開部隊要員の家族約九千名が移転することとされていると承知するが、右が実施された場合、沖縄に右隊員の家族は何人残ることになるのか、政府として米国側に確認したことはあるか。あるのなら、その根拠となる関連資料を具体的に示した上で、沖縄に残ることとなる家族の人数を明らかにされたい。
三 グアムにおける米軍施設設備に関する環境影響評価書「Draft EIS Volume2 Marine Corps-Guam2-1」によると、「ロードマップ」に基づいて沖縄からグアムに移転する海兵隊要員の中に、「航空戦闘部隊(千八百五十六名)」及び「航空管制部隊(二百五十名)」が含まれているが、これらは在沖縄海兵隊のどの部隊に所属しているのか、中隊単位で明らかにされたい。また、右部隊には、普天間飛行場に駐留する部隊が含まれているのかについても、その根拠となる関連資料を具体的に示した上で明らかにされたい。
四 二〇〇八年九月十五日、米国防省から同国議会に対し、「グアムのための国防省による計画策定作業にかかる報告書」(以下、「報告書」という。)が提出されており、「報告書」によると、グアムへ移転する米海兵隊部隊の中には「海兵中型ヘリ部隊」が含まれているとされている。右の点につき、岡田克也外務大臣は、藤崎一郎駐米国日本国特命全権大使に公電を発出し、調査させた上で右公電に対する回答について説明させることを、沖縄等米軍基地問題議員懇談会の会長である川内博史衆議院議員に約束していると聞いているが、右約束は存在し、有効であるか。確認を求める。
五 四の件につき、岡田大臣は二〇〇九年十二月十一日に公電を発出していると承知するが、右公電に対する回答の内容につき、説明されたい。また、その内容を説明できない場合は、その理由を明確に示されたい。
右質問する。
(資料3)
●衆議院議員鈴木宗男君提出在日米軍再編における在沖縄海兵隊要員等のグアム移転に関する質問に対する答弁書
平成二十二年四月二日受領
答弁第三〇一号
内閣衆質一七四第三〇一号
平成二十二年四月二日
内閣総理大臣 鳩山由紀夫
衆議院議長 横路孝弘 殿
衆議院議員鈴木宗男君提出在日米軍再編における在沖縄海兵隊要員等のグアム移転に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
一について
外交上の個別のやり取りの詳細について明らかにすることは、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)との関係もあり差し控えたいが、沖縄に駐留する海兵隊(以下「在沖縄海兵隊」という。)の人数については、平成十八年五月一日の日米安全保障協議委員会の際に発表された「再編の実施のための日米ロードマップ」(以下「ロードマップ」という。)の作成に至るまでの在日米軍の兵力態勢の再編に係る日米間の協議の中で、米国から約一万八千名であるとの説明を受けたものであり、平成十八年五月三十日の参議院外交防衛委員会において、額賀防衛庁長官(当時)も、「我々が米国と交渉の過程で、米国側の返事は沖縄の海兵隊は一万八千人であるということを言っていることは間違いありません。」と答弁しているところである。
二について
外交上の個別のやり取りの詳細について明らかにすることは、米国との関係もあり差し控えたいが、いずれにせよ、お尋ねの「沖縄に残ることとなる家族の人数」については、ロードマップで示されているものではなく、在沖縄海兵隊のグアムへの移転がなされていない現時点において、お答えすることは困難である。
三について
グアムに移転する在沖縄海兵隊の部隊については、米国が今後移転に関する具体的な計画を作成する過程において更に検討することとされており、現時点では決定されていない。
四及び五について
政府としては、御指摘のような約束の存在については承知していない。在沖縄海兵隊のグアムへの移転については、米国と緊密に意見及び情報の交換をしてきているところであり、個別のやり取りの詳細について明らかにすることは、米国との関係もあり、差し控えたいが、米国からは、従来より、御指摘の「海兵中型ヘリ部隊」については、現在、岩国飛行場に所属しており、グアムに移転する予定であるとの説明を受けている。
(資料4)
●参議院外交防衛委員会の議事録(平成18年5月30日)
○喜納昌吉君 分かりました。そのことがうまく、ただ県知事選に対するサプライズに使われるんではないかと懸念をしてますので。
在沖海兵隊八千人がグアム島に出ていくというのは一見好ましいことのように思われますが、しかし、海兵隊は絶えず出入りしており、固定した実体がないのです。幽霊のような存在である八千人が出ていくために六十億ドルを超える血税、大金を課されるのは許せません。
一体この八千人は何という部隊で、どこに常駐しているのか、詳しい説明を求めます。長官、お願いします。
○国務大臣(額賀福志郎君) 今の喜納委員の御指摘についての八千人でございますけれども、合意文書の中にはこういうふうに書かれております。
移転する部隊は、第三海兵機動展開部隊の指揮部隊、第三海兵師団司令部、第三海兵後方群司令部、第一海兵航空団司令部及び第一二海兵連隊司令部を含むと、こういうふうに記載されているわけでございまして、今後、具体的にどの部隊が何人移転されるかについては、今後米国との間で具体的にその協議をし決めていきたいということでありますから、今の段階でしっかりとした形が見えているわけではありません。
また、米軍の実態がどういうふうになっているかということについて、まあ我々がああだこうだ言う立場ではないんでありますけれども、現在のところ、イラクに行っているとかフィリピンに行っているとか、そういう情報はあるけれども、そのために沖縄に何人いるかということについてしっかりとした数字、きちっとした数字を把握しているわけではありません。
○喜納昌吉君 はっきりした数字ができてない。分かりました。
私が今月十八日に提出した質問主意書で在沖海兵隊駐留要員の数について質問したところ、二十六日付けの答弁書で米国から約一万八千名であると説明を受けているとの回答を得ました。そのうちの八千名が家族九千名とともにグアム島へ移転することになるという回答もありました。ならば、政府は自ら人数を確認しないで、米国から受けた説明を信じて負担軽減とか六十一億ドルのグアム島移転費用を負担することになると口にしているのか。これは問題だと思いますが、防衛庁長官、どうですか。
○国務大臣(額賀福志郎君) 我々が米国と交渉の過程で、米国側の返事は沖縄の海兵隊は一万八千人であるということを言っていることは間違いありません。それは委員のおっしゃるとおりであります。その中で、我々の要求で、沖縄の負担を軽減するために海兵隊の移転を要求しておったわけでありますけれども、最終的に海兵隊を八千人、家族を九千人グアムに移転するという回答があったわけであります。
これから、これは沖縄の軽減負担になることにつながっていきますので、我々は、それを一定の応分の負担をしながら、できるだけ早期に移転を成就したいと思っておりますので、具体的にどういう支援体制をつくるかについては、当然人数もしっかりと把握をし、そして、どういう住宅とか庁舎とか、そういう形で建設を応援するということにしておりますので、そういうものは具体的に実際に幾つどういうふうに造ればいいのかということはこれから精細に協議をしてまとめていく、そしてお金が幾ら掛かるかということを考えていくということでありますから、これから、この閣議決定もされたし、その上でしっかりと米国と協議をし、間違いがないように、しかもなおかつできるだけ日本の負担が少なくなるように努力をしたいというふうに思います。
(資料5)
●在日海兵隊部隊に所属するヘリコプター部隊について
日本に駐留している海兵隊部隊は、太平洋海兵隊司令部傘下の「第3海兵遠征軍」です。「第3海兵遠征軍」の下には、「司令部部隊」・「第3海兵師団」・「第1海兵航空団」・「第3海兵兵站群」の4つのユニットがあります。このうち航空機部隊が所属しているのは「第1海兵航空団」です。
「第1海兵航空団」には、航空管制・機体整備・補給などの部隊も所属していますが、航空機部隊は以下の通りです。
第12海兵航空群(山口県・岩国基地)
○第242海兵戦闘攻撃飛行隊 (常駐) F/A−18 13機
○海兵戦闘攻撃飛行隊 (UDP) F/A−18 12機
○海兵戦闘攻撃飛行隊 (UDP) F/A−18 12機
○海兵戦術電子戦飛行隊 (UDP) EA−6B 5機
○海兵攻撃飛行隊・分遣隊 (UDP) AV−8B 8機
○大型ヘリコプター飛行隊 (UDP) CH−53D 8機
第36海兵航空群(沖縄県・普天間基地)
○第262中型ヘリコプター飛行隊 (常駐) CH−46E 12機
○第265中型ヘリコプター飛行隊 (常駐) CH−46E 12機
○第152海兵空中給油飛行隊 (常駐) KC−130 12機
○軽/攻撃ヘリコプター飛行隊 (UDP) AH−1W UH−1N 17機
○大型ヘリコプター飛行隊 (UDP) CH−53E 15機
第24海兵航空群(ハワイ・カネオエ湾基地)
○第326大型ヘリコプター飛行隊 CH−53D
○第326大型ヘリコプター飛行隊 CH−53D
○第463大型ヘリコプター飛行隊 CH−53D
*UDPは米本土からのローテーション部隊
*大型ヘリコプター部隊の配備について
普天間基地には米本土の第16海兵航空群から、CH−53E・15機がUDP配備されていました。しかし04年以降は4機程度に変更されています。UDP配備ヘリコプターの減少は、イラク戦争開戦後、海兵隊のヘリコプター飛行隊がイラクに派遣され、普天間基地へのローテーション配備が間に合わなくなっているためと考えられます。
また岩国基地には02年以来、ハワイの第24海兵航空群から、CH−53D・8機がUDP配備されています。04年から05年にかけて、数機のCH−53Dが、岩国基地から普天間基地に移転しました。これは、本来は普天間基地に配備されているCH−53Eがイラクに派遣されたための代替措置であると考えられます。現在でも岩国基地から普天間基地に、CH−53Dを派遣しているようです。
*中型ヘリコプター飛行隊の問題について
米国政府が作成した「国防総省グアム軍事計画報告書」(08年9月15日)には、グアムに移転する部隊の一覧に「中型ヘリコプター飛行隊」(Marine Medium Helicopter Squadron)が記載されています。日本に駐留している海兵隊・航空部隊のうち、中型ヘリコプター飛行隊は、普天間基地に所属している2個飛行隊です。宜野湾市の伊波洋一市長は、この報告書を根拠に、普天間基地のヘリ部隊はグアムに移転すると主張してきました。
ところが日本政府は上記の質問主意書に対する答弁の通り、「米国からは、従来より、御指摘の「海兵中型ヘリ部隊」については、現在、岩国飛行場に所属しており、グアムに移転する予定であるとの説明を受けている」としています。
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