伊波洋一さん(宜野湾市長)の講演
テーマ:普天間基地のグアム移転について


●会議名称 沖縄等米軍基地問題議員懇談会
●開催日  2010年2月18日(木)17:30〜
●開催場所 衆議院第1議員会館・第3会議室


(はじめに)
 沖縄等米軍基地問題議員懇談会では、宜野湾市長の伊波洋一さんを招いて講演会を開催しました。伊波さんの講演は、11月26日、12月11日に続いて3度目です。今回の公演では、米国が普天間基地所属部隊の移転先をグアムとしていること、また普天間基地の代替施設を辺野古沖合に建設してしまえば、一旦はグアムに移転した海兵隊が再び沖縄に戻ってきてしまう危険性があることを、米国政府の資料から解説してもらいました。以下は伊波さんの講演を要約したものです。



 宜野湾市長の伊波洋一です。
 お手元に資料をお配りしています。この資料の後半部分は、12月11日の議員懇談会で配布したものと同じです。ここでは「沖縄からグアム及び北マリアナ・テニアンへの海兵隊移転の環境影響評価/海外環境影響評価書ドラフト」を説明しています。本日はこのドラフトを基に話をさせていただきます。

 米国では2002年から、地球規模の基地見直しが行われています。米国政府内では、ラムズフェルド国務長官の下で、「沖縄の海兵隊はどこへ行くべきか」という議論が行われて、グアムが選ばれました。
 その理由の一つは、海兵隊の基地を予測不可能な状況がどこで起きても柔軟で迅速な対応が可能な場所に置く――という戦略があります。その点で沖縄には、日米安保条約の制約や憲法の制約があります。そもそも沖縄の海兵隊は、日米安保条約のためだけにいるわけではありません。西太平洋における5か国との安全保障条約、日本・韓国・フィリピン・タイ・オーストラリアとの安全保障条約を実践するためにいるわけです。沖縄の海兵隊の31MEU(第31海兵遠征隊)の一番大きな役割は、1年間に予定されているこれら各国との合同訓練です。31MEUは、長崎県の佐世保基地に配備されている揚陸艦エセックスに乗船して、フィリピンに行ったり、韓国に行ったり、タイに行ったり、オーストラリアに行ったりしているのです。1年のうち半年は、沖縄・日本にはいないのです。
 この時に、普天間基地所属のヘリコプターが24機、エセックスに乗り込みます。これらのヘリコプターは、出動直前の2〜3週間に、ものすごい訓練を普天間基地で行うのです。その訓練が、一番大きな住民への被害を作っているわけです。

 こういう部隊の機能がグアムに移転するということが、今回のアセスで明らかになっております。
 アセスメントの騒音評価では、グアムへの37機のヘリコプターの移転を前提にしています。このうち2個中隊・24機(1個中隊は12機)は、新型のオスプレーです。2個中隊のうち1個中隊は、現在は岩国基地に駐留しているCH−53大型ヘリコプターが機種変更して配備されると思われます。この部隊は輸送用です。
 さらにオスプレー1個中隊(12機)、UH−1汎用ヘリコプター・3機、AH−1攻撃ヘリコプター・6機、CH53E大型ヘリコプター・4機が移転対象として上げられています。これらのヘリコプターはMEU(海兵遠征隊)構成と呼ばれています。MEU構成では、中型ヘリ1個中隊と、UH−1・AH−1・CH53Eなどヘリコプターがセットになっているのです。
 MEUは沖縄や米本土のキャンプ・ペンドルトンをはじめとして、いくつかの基地に配備されています。そのMEUには必ずMEU構成のヘリコプター部隊が所属しています。そうしてグアムの環境影響評価書によれば、グアムに移転してくる部隊には、このMEU構成のヘリコプター部隊が入っていることが明らかなのです。
 環境影響評価書の中では、アンダーセン空軍基地周辺の環境影響評価として、MEU構成の24機を対象として、年間で19,000回の飛行を想定した評価が行われているのです。一方で、岩国から来ると思われるCH53Eの代替のオスプレーは、環境影響評価の対象にはなっていません。このオスプレーは輸送用ですから、アンダーセン空軍基地で集中的に訓練をする必要はないと考えられているのです。
 また環境影響評価書には、海軍基地のアプラ港に揚陸艦のエセックス(現在は佐世保基地配備)が来ること、そこで物資を搬入することなども書かれています。こうしたことも、海兵隊が沖縄からグアムへ移転することの裏づけになっています。今後はグアムをハブとして、韓国・フィリピン・タイ・オーストラリアなどに行くことが、ほぼ確定しているのです。
私の見解に対して、普天間基地のヘリコプターはグアムには行かないという意見があります。そうではなくて、普天間基地の部隊がグアムに行くのだということを、資料を使ってお話します。

 その前に、沖縄海兵隊の抑止力について説明します。31MEUが沖縄にいないと、抑止力が機能しないという意見があります。またある学者さんは、「31MEUを台湾に派遣する際に、沖縄からは1日でいけるが、富士演習場などにおいていては3日かかる、致命的になる」という話をしています。
しかし実際には、31MEUは1年のうち半分は沖縄にいません。日本にもいません。どこにいるかというと、オーストラリアやタイなどで、安全保障条約を担保するための演習・訓練に参加しているのです。2006年の資料では、1月から5月のうち3か月は海外での訓練に、また9月から11月はオーストラリアとフィリピンに出ていました。この他にも、人道支援・地震・災害の訓練や対処も行っています。とにかく、1年の半分はいないのです。

 さて、普天間基地のヘリ部隊がグアムに移転する論拠を示します。
 2006年5月のロードマップ合意は、8,000名の海兵隊員と9,000名の家族がグアムに行くとしています。しかし、具体的にどの部隊が移転するのかは不明といわれてきました。そこで私は、米軍作成の資料を検討しました。それによって普天間基地の部隊が、グアム移転の対象に入っていることが判明していると思います。
 2006年の7月に、『グアム統合軍事開発計画』が発表されました。これは米太平洋軍司令部が作ったものです。この中にはアンダーセン空軍基地に、最大67機の回転翼機(ヘリコプター)が入ってくると書かれています。
 2007年7月に、沖縄県中部の市町村長がグアム調査に行きました。その時にアンダーセン空軍基地の副司令官は、「65機から70機の海兵隊の航空機を受け入れることになっています」と話をしていました。さらに、「1,500名の海兵隊航空団の兵員を、アンダーセン空軍基地で受け入れる。家族を持っている人は、別の家族住宅地区で受け入れる」という話でした。
 2008年9月に発表された『国防総省グアム軍事計画報告書』には、グアムに移転する部隊のリストが掲載されています。これらは全て普天間基地の部隊です。この中に、「中型ヘリコプター中隊」(Marin Medium Helicopter Squadron)という記載があります。この中ヘリ中隊を、外務省や防衛省は、「岩国基地の部隊だ」といっていますが、おかしな話です。
 またこの調査では、グアム政府から資料をいただきました。その資料は米軍からグアム政府に提示されたものです。そこには、グアムに移転する部隊の名前として、31MEUが記載されているのです。揚陸艦のエセックスも書かれています。

 日米合意では家族9,000名が移転するとされています。しかし復帰から現在までの間で、沖縄にいる軍人の家族の数が9,000名を超えたことは、4回しかありません。平成6・7・12・13年ぐらいですね。家族の数は、もともとは少なかったのですが、日本の思いやり予算で基地の中に色んな施設が作られるようになりまして、大変住み心地のいい施設になりました。また海兵隊自体も同伴計画を作りました。家族を同伴させるとコストも安くなりますし、負担もなくなるのでどんどん増えたのですが、いまは少なくなっています。そこには戦争の影響もあります。海兵隊の隊員数ですが、過去最大の時には22,000名くらいまで行ったことがあります。しかしその後は減少して、現在は12,400名くらいです。普天間基地の中ヘリ部隊は常駐部隊で家族もいます。ですから家族に対しても、住宅を維持する、また家族が通勤などするための措置をしなければなりません。米軍が辺野古の周辺にどのような環境を作るのかはわかりません。しかし辺野古に移る部隊は、単身者の部隊をイメージしているでしょう。家族9,000人を移転させるのであれば、沖縄に家族を伴って駐留している常駐部隊は、すべてグアムに移転すると考えられます。

 ラムズフェルド国防長官のイニシアチブのもとで、沖縄の海兵隊をグアムに移していく、グアムで迅速な対応が出来る部隊に変えていく――そういうのを掲げていると思います。2010年に発表された『QDR』(4年ごとの国防体制見直し)は、「グアムを西太平洋地域における安全保障に係わるハブにする」としています。こうした計画の一環として、グアムと同時にマリアナ諸島全体で、「レンジコンプレックス=複合演習場計画」が進んでいます。これによって、沖縄で実現できなかった演習環境を、テニアンなども含めたマリアナ地域で実現する計画が着々と進んでいるのです。

 次に、海兵隊司令官のジェームズ・コンウェイ大将の、09年6月に上院議会の軍事委員会で証言について説明します。その中で彼は、「日米再編合意の最大の成果が8,000名の部隊のグアムへの移転だ」といっています。それは「約8,000人の海兵隊員の沖縄からグアムへの移転は、沖縄の海兵隊が直面している民間地域の基地への侵害(インクローチメント)を解決するため」だというのです。実は「インクローチメント」というのは、住民による基地への侵害を言っているのです。住民が自分たちへ近づいてきている。基地との間に住民と摩擦が起こってくる。このことが、米国での基地問題と表現されています。普天間基地のような一番厳しいところ、他の所もそうですが、基地と住民がとにかく近づきすぎているところ。演習基地とですね。それを解決することが目的だときちんと書いてあるのですよね。そのあと、グアムへの移転というのは、演習場などを適切に配備して、見直されれば、最大限の効果を持ち、そして今後50年にわたって、西太平洋におけるアメリカの国益に貢献するというところまできちんと書いております。

  『グアム統合軍事開発計画』(2006年7月)では移転する海兵隊は9,700名でした。それが『国防総省グアム軍事開発計画報告書』(2008年9月)では、10,550名になりました。さらに『環境影響評価書』(2009年11月)では10,060名です。これが一番の現状の数値でないでしょうか。沖縄の海兵隊員は、08年9月末で12,402名です。このうち10,600名がグアムに移ります。ですから沖縄に残るのは1,800名くらいです。

 次に米国の資料に基づいて、宜野湾市が作成した図を説明します。この図は、沖縄に駐留している海兵隊の全体図です。黄色の枠がグアムへ移転する部隊です(第18海兵航空管制群司令部ならびに第36海兵航空群)。青の枠は岩国に移転する部隊です(大52空中給油中隊)。普天間基地の1個中ヘリ中隊には色が着いていないのですが、基地の管理部隊がグアムに移転することを考えれば、この部隊も当然、グアムに行くことになるでしょう。
 次の図は、沖縄周辺の米軍の訓練区域です。これだけの区域・海域・空域があるために、米軍は沖縄に来て訓練を行っています。いまマリアナで同じようなことが実現されようとしています。「マリアナ・アイランド・レンジ・コンプレックス(マリアナ諸島複合訓練場計画)」です。アセスが終わって、最後の評価書が出る段階です。この間のドキュメントで見る限り、海兵隊の最大の関心事は、グアムへ移る部隊の演習環境、演習訓練環境を如いかに整えるかなのです。
 海兵隊総司令官は09年6月4日の議会証言で、「訓練や施設の要求を調整し、適切に計画・実施されれば、グアムへの移転は即応能力のある前方態勢を備えた海兵隊戦力を実現し、今後50年にわたって、太平洋における米軍の国益に貢献する」としています。
要するにグアムを整備する。マリアナ諸島複合訓練場計などのよってテニアンもサイパンを整備し、グアムの中の演習場に含めてしまう。そういう計画が動いているってことです。

 次に最近入手した、第3海兵遠征軍の資料について説明します。この資料は2009年の9月に『コマンドブリーフ』として作られました。おそらく第3海兵遠征軍の中で共有されている認識でしょう。
先ず現状です。現在、25,000人の海兵隊員と海軍兵士が第3海兵遠征軍に所属しています。展開している地域は、沖縄、キャンプ・フジ、韓国、ハワイです。そこに米軍再編計画の中で、グアムが入っていきます。
 最初に「合意実施計画」を見ると、沖縄には31MEU(司令部部隊)・第4海兵連隊・普天間基地の第36海兵航空群・戦闘兵站連隊・基地支援が残ることになっていました。一方のグアムには、HMH航空中隊と記載してあります。これは大型ヘリコプター中隊のことです。
 次は「合意実施計画」に「アセスメント」の内容を反映させて宜野湾市が作成した図です。31MEU・第36海兵航空群・歩兵大隊などがグアムに移転することになっています。ですからグアムに移転する人員は増えています。
 さらに次は「海兵隊に望ましい配置」です。これを見ると、一度はグアムに移転した第1海兵航空団の司令部も、航空団司令官の将軍も沖縄に戻ってくることになっています。
米軍再編合意では、沖縄からグアムへの海兵隊の移転は2014年です。しかし辺野古新基地の完成予定は、2014年ではありません。新基地の建設には時間がかかります。ですから部隊はグアムへ移っているわけです。グアムのアセスの評価では、移ってくる部隊をきちんと評価しているのです。ですから普天間基地に所属するヘリコプター部隊が、グアムに移転している状態で、しばらくはいけるのです。
 では辺野古を作ったらどうなるか。辺野古を作ったら、第1海兵航空団の司令部まで戻ってくる、将軍も戻ってくるのです。色んな部隊まで戻ってくるのですよ。これが、米国が考えている望ましい、あり方なのです。グアム住民に対しては、沖縄の海兵隊はグアムに行っているのだけど、戻すのですよって、言っているのですね。
日本政府は6,000億円もお金出して、基地負担の軽減をさせているわけです。それをもう一度、辺野古に基地を作ると、将軍も迎えて、海兵隊航空団司令部を作って、さまざまな部隊を受け入れるのです。も入れて。そういう構図で良いのか。

 辺野古新基地建設に関しては、基地を積極的に受け入れる自民党・公明党の政権があり、それを容認する沖縄県知事、名護市長がいて、それでも合意から12年間かけて、なにもできませんでした。なぜできないのか。沖縄県民にとっては、新しい基地を作るということは、抵抗感があることなのです。鳩山新政権には、新しい基地が建設できるかのような、錯覚があるようです。たとえ政権が変わっても、前からできないのですから、できないのですよ。
 キャンプ・シュワブの陸上案が出てきました。しかしキャンプ・シュワブの陸上地域にも基地を作ることはできません。一つだけ例をいいます。96年のSACO合意の中で、北部訓練場の一部が返還されることになりました。その場所には複数のヘリパットがあります。返還する地域にあるヘリパットと同数のヘリパットを、他の地域に建設することになったのです。その建設予定地で環境アセスメントの手続きに入ったところ、1,000種類以上の希少動植物が発見されたのです。そのために建設予定地を、住民が住んでいるところに近い場所に変更しました。キャンプ・シュワブの陸上地域でも、環境アセスメントを行えば次々と希少生物が見つかるでしょう。普天間基地の代替施設の予定地として海が選ばれたのは、海は希少生物の種類が少ないのです。

 共和党政権が続けば、ラムズフェルド国防長官によって、こうした計画が続くのであろうと考えていました。しかし民主党政権に変わった今は、日本が自分たちの主張を明確にすれば、米国側にも通せる環境があるのではないでしょうか。少なくても、グアム移転の段階で押しとどめるべきです。
 グアム移転が実施された後に沖縄に残るのは、中型ヘリ部隊が1個中隊・12機、攻撃ヘリが数機、
汎用ヘリが数機で、20機前後くらいではないでしょうか。そのヘリコプターの役割は、ジャングル戦闘訓練施設での訓練や、そのほかの演習で使われるのではないでしょうか。これらの部隊はMEU構成ではなく、輸送部隊ですから、それほど激しい訓練は行わないでしょう。
MEU構成の部分は、アンダーセン空軍基地を中心に、年間2万回の飛行訓練を重ねて、そしてそれぞれ任務に発つという、そういう部分ができあがろうとしていると思うのです。

 ここはやはり、米海兵隊に沖縄を諦めてもらう以外にないと思うのです。その代替を日本のどこかに置くというのなら、違う形でどっかに置くかということになるのでしょう。少なくとも、沖縄に戻すべきではないと思うのです。
しかし国内的にも、米国の内にも、海兵隊の中にも、沖縄に戻りたいという声は大きくあって、だからこうした計画が、米海兵隊の中で、第3海兵遠征軍の中で、自分たちの頭作りとして議論されていると思うのですね。
 確かに、10,000人の実戦部隊がいて、将軍がいないということは不思議な話です。将軍がいない沖縄に、10,000人が戻ることはないでしょう。しかし将軍も戻して、主要機能も戻していくという考え方が、基本的にあるようです。ですから、ここが踏ん張り所です。
私の話は以上です。


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