在日米軍再編の進捗状況 09年4月〜6月
作成日:2009年7月9日
沖縄の動き
●海兵隊グアム移転協定
国会では、「海兵隊グアム移転協定」の承認に関する審議が行われました。衆議院は4月10日に委員会で承認、4月14日に本会議で承認しました。また参議院は5月12日に外交防衛委員会で否決、5月13日には本会議で否決しました。しかし憲法の規定で、条約は衆議院の議決が優先するため、同協定は承認されました。
同協定の審議に当たって、民主党や社民党の強い主張により、衆参両院の委員会による現地視察が行われました。また野党の追及によって、日米が約束した海兵隊員約8,000人の移転は「実数」ではなく「定数」であったこと、同協定を日本政府は「条約」として扱ったが米国政府は「行政協定」として扱ったこと、日本の支出がグアム海兵隊基地以外の空軍・海軍などの基地建設に使用されていることなど、数々の問題点が明らかになりました。
(詳細は5月11日作成の「海兵隊グアム移転協定 10の問題点」を参照してください。)
沖縄県民の頭越しに、日米政府が海兵隊グアム移転協定に署名したことに対して、沖縄県内では強い反発が起こりました。3月25日には県議会が「グアム移転協定に反対する意見書」を賛成多数で採択、4月6日・7日の両日には県議会の代表団が上京して政府や衆参両院に対する要請行動を行いました。4月6日の夜には社会文化会館で、沖縄上京団を激励し、同協定に反対する集会を開催しました。この集会は県議会議員団とともに上京した「基地の県内移設を許さない県民会議」(事務局・沖縄平和運動センター)の呼びかけに応えて、平和フォーラムと「辺野古への基地建設に反対する実行委員会」が準備したものです。集会には民主党・社民党・共産党の国会議員、平和フォーラム加盟組織をはじめ沖縄問題に取り組む労働組合、在京の市民運動団体など約250人が参加しました。
5月12日の琉球新報は、米下院・歳出委員会・軍事建設小委員会・公聴会(5月6日開催)で、米海兵隊のジェームス・コンウェー司令官が、在沖海兵隊のグアム移転に関連して@米側負担額の40億ドルでは移転費用としては不足すること、Aグアム施設の完成時期を2014年と定めるべきではないこと、B来年2月に行われる「4年ごとの国防戦略見直し(QDR)でグアム移転計画を再検討すること――と証言したと報じました。
この発言に対して、ケビン・メア在沖米総領事は6月8日に那覇市内で行った講演で、「日本政府に再交渉する提案はまったくないと強調したい」と述べました。また次期総領事に就任予定のレイモンド・グリーン現米大使館安全保障課長も琉球新報のインタビューに答えて、次の総選挙で民主党が政権を獲得した場合でも「普天間基地の県外移転、グアム移転協定の見直しについて協議する用意はない」と話しています。
在沖海兵隊のグアム移転に関しては、米国の新政権と現場の海兵隊の間で、意見の相違があるようです。
●辺野古新基地建設
防衛省は新基地建設のアセスメントのための調査を08年3月15日から開始し、09年3月14日に終了しました。防衛省は調査結果と基地建設の影響を予測した「準備書」を作成し県に提出、「準備書」の閲覧を4月2日から5月1日までの30日間実施し、5月15日まで住民意見を募集しました。沖縄平和運動センターは「準備書」に対する反対意見の送付を呼びかけました。沖縄防衛局は6月15日、環境アセス準備書への意見概要と事業者見解を、県・名護市・宜野座村に送付しました。
このアセス準備書に関しては、環境省の調査報告書やアセス方法書には記載されていた名護市辺野古沖でのジュゴン1頭の発見記録が記載されていないことが明らかになりました。沖縄の環境保護団体は、防衛省が意図的に除いたのではないかと指摘しています。
沖縄県は今後、「県環境影響評価審査会」を複数回開催し、8月に提出される名護市長の意見を踏まえ、10月ごろに県知事意見を提出するとのことです。
米下院軍事委員会が可決した「2010会計年度国防予算権限法」に、普天間基地の辺野古移設に関して「最低限の飛行安全要求を満たさない限り、国防長官は代替施設を認めてはならない」と明記されていたことが、6月24日に報道などで明らかになりました。記事によれば、同条項はハワイ1区選出・民主党の二―ル・アバクロンビー下院議員が提案したとのことです。同議員の事務所は@滑走路が短い、A近くに学校がある、飛行経路に電柱などの障害物が複数ある――などの点が「安全基準を満たさない」としているそうです。
●嘉手納基地へのF22暫定配備
5月30日から、米空軍F22戦闘機の嘉手納基地への一時配備が始まりました。配備部隊はバージニア州ラングレー空軍基地・第94戦闘中隊の12機で、配備期限は4か月です。
F22の一時配備は、07年2月〜5月、09年1月〜4月に続いて3回目。基地周辺の自治体や住民は、F22の恒久的な配備につながるのではと警戒しています。6月5日には北谷町議会が、15日には嘉手納町議会が、F22配備に反対する決議・意見書を採択しました。
F22の一時配備に加えて、岩国基地のFA18戦闘機、在韓米空軍のF16戦闘機など、外来機の飛来によって、嘉手納基地周辺の騒音が激化しています。6月22日には、嘉手納町が騒音測定用に設置している騒音測定器で、騒音発生回数(70デシベル以上)が1999年の測定開始以来3番目に多い324回を記録しました。また「慰霊の日」にあたる23日も、「慰霊の日」としては過去最高の267回を記録しました。
●米兵パラシュート区域外落下
6月11日に海兵隊がうるま市津堅島訓練場水域でパラシュート降下訓練を実施し、その際に1人が区域外に落下していました。しかし米軍側から県や市への報告はなく、漁師の苦情を受けたうるま市が12日に防衛局に照会し、15日に米側から防衛局に回答があったようです。在沖米海兵隊報道部は6月19日、「けが人もなく、民間人や財産に危険は一切なく、米軍が地元自治体に通知する必要はない」と回答しました。
昨年1月に米空軍が同じ海域で降下訓練を実施した際に、うるま市は「降下訓練中に、同水域を船舶等が通過することもあり、風向きによって訓練水域外に落下して重大な事故につながる可能性も否定できず、きわめて危険である」として、訓練の中止を求めた抗議決議を採択しています。
神奈川の動き
●相模総合補給廠で戦闘指揮訓練センターの着工式
神奈川県相模原市にある米陸軍・相模総合補給廠で4月2日、戦闘指揮訓練センターの着工式が行われました。これに対して、神奈川平和運動センター・県央共闘・米陸軍第1軍団の移駐を歓迎しない会の3団体と市民団体は共同で、抗議活動と米軍基地への申し入れを行いました。補給廠の第1ゲート前で行われた抗議活動には、約60人が参加しました。相模総合補給廠には、アジア太平洋地域での戦争を支えるための物資が貯蓄されています。在日米軍再編に関して日米政府は、@キャンプ座間に米陸軍第1軍団司令部を移転すること、Aキャンプ座間に陸上自衛隊中央即応集団司令部を設置すること、B相模総合補給廠に戦闘指揮訓練センターを建設すること――で合意しています。
また6月6日にも、神奈川平和運動センターや県央共闘などの主催で集会とデモ行進が行われて、約740人が参加しました。
●ジョージ・ワシントンから低レベル放射性廃棄物を搬出
ジョージ・ワシントンは09年1月から、横須賀で整備作業を行っていました。在日米海軍司令部は当初、「米海軍が原子力艦の安全性について記したファクトシート(説明文書)通り、原子炉の修理や燃料交換は横須賀で行われない」(神奈川新聞インターネット版 1月20日)としていました。ところが同司令部は報道各社の問い合わせに対して、整備の対象に原子炉の一次冷却水系の設備が含まれていること、また3月28日には整備作業で出た「低レベル放射性廃棄物」約1トンを貨物船に積み込み米国向けに搬出していたことを明らかにしました。
横須賀港での原子炉の整備や、放射性廃棄物を船から搬出することは、原子力艦船の日本寄港にあたって米海軍が約束した「エード・メモワール」(1964年)や、原子力空母の横須賀母港化にあたって米国が提出した「ファクトシート」で記載した内容に違反する行為です。
全国の動き
●米軍戦闘機の訓練移転
防衛省は09年度の米軍戦闘機の訓練移転について、タイプT訓練を12回程度、タイプU訓練を3回程度実施すると発表しています。この計画に基づき、本年度第1回目の移転訓練が、北海道の航空自衛隊千歳基地で実施されました。日程は4月20日から23日、参加機は山口県岩国基地に所属する米海兵隊第12飛行大隊所属のFA−18戦闘攻撃機5機です。千歳市では訓練移転に反対して「米軍戦闘機千歳基地訓練移転反対全道集会」が、連合北海道・連合石狩地協・連合胆振地協の主催、北海道平和運動フォーラム・千歳地区連合・苫小牧地区連合の共催で開催され、44団体・500人が参加しました。
●ミサイル防衛(MD)
防衛省は4月28日、PAC−3を、滋賀県高島市にある航空自衛隊・饗庭野分屯基地(第4高射群第12高射隊)に配備しました。
また6月23日には、同じくPAC−3を、三重県津市にある航空自衛隊・白山分屯基地((第4高射群第14高射隊)に配備しました。
防衛省によれば白山分屯基地への配備は、首都圏所在の第1高射群の各高射隊(入間、習志野、武山、霞ヶ浦)、高射教導隊・第2術科学校(浜松)並びに第4高射群第13高射隊(岐阜)及び第12高射隊(饗庭野)への配備に続くもので8か所目、本年夏頃までには、第15高射隊(岐阜)に対してペトリオットPAC−3を配備する予定――とのことです。
白山分屯基地への配備に対しては、フォーラム平和・三重によるさまざまな抗議行動が取り組まれました。2月から3月にかけては「パトリオット3の津市白山基地配備撤回を求める要請署名」が行われ、内閣・防衛大臣あては23,543筆が集まり4月21日に提出、津市市長あては23,825筆が集まり4月27日に提出しました。6月下旬には白山分屯基地への抗議打電行動が行われました。また配備直後の7月4日には、津市の県庁前公園で緊急抗議集会と津駅前までのデモ行進を行い、約100人が参加しました。集会ではフォーラム平和・三重の前嶌徳男議長が、「住民に説明もせず、秘密裏にPAC3が配備されたことに強い怒りを感じる。武力で平和は作れない。PAC3の撤収を強く訴えよう」と述べました。
●米軍艦の民間港湾への入港
3月23日、イージス艦「ステザム」(横須賀基地所属)が、青森県・青森港に入港しました。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が発射したロケット発射への対応と思われます。
4月3日には、掃海艦パトリオットとガーディアンの2隻(佐世保基地所属)が、沖縄県石垣市の石垣港に強行入港しました。石垣港の港湾管理者である大浜長照・石垣市長は、米軍艦の入港を拒否しました。ところが中曽根外務大臣は「米軍艦船の日本への寄港は、外交関係の処理にあたる国がその是非を判断すべきものだ。国の決定に地方公共団体が関与し、制約することは港湾管理者の権能を逸脱するものだと思う」と述べ、石垣市は寄港を認める国の判断に従うべきだとの見方を示しました。入港に際しては大浜市長や市議会議員、平和運動センターや市民が抗議行動を展開、港から市街地につながるゲートにピケットを張り、ケビン・メア在沖米総領事や米軍艦の艦長・乗組員の市内への立ち入りを5時間阻止しました。
4月23には、イージス艦「ジョン・S・マケイン」(横須賀基地所属)が、大阪市の大阪南港に入港しました。
●沖縄県道104号線越え実弾射撃訓練の本土移転
防衛省は本年度の第1回目の訓練を、6月上旬から7月上旬の日程で静岡県の東富士演習場で実施するとしていました。しかし4月30日に、「米海兵隊の運用上の都合により」実施しないと発表しました。
そのほか
●米軍関係者によるひき逃げ
4月4日には沖縄県那覇市の繁華街で、Yナンバーをつけた米軍兵士の所有する普通乗用車が、横断歩道を渡っていた市民3人を引いて逃走しました。県警は米兵に対して任意での事情聴取を進めるとともに、容疑が確定した場合に身柄の引き渡しを求めるか、書類送検にするかの検討を進めています。
●米陸軍第1軍団司令部のイラク派遣
「イラクの自由作戦」の公式サイトによれば、米陸軍第1軍団司令部がイラクに派遣されたようです。イラクでの第1軍団司令部の任務は、イラク多国籍軍団の司令部として多国籍軍団全体の指揮・命令を行うとのことです。イラク多国籍軍団の司令部機能は過去14か月間、米陸軍第18空挺軍団が担ってきましたが、09年4月9日に第1軍団への権限委譲式が行われました。
今回イラクに派遣された第1軍団司令部は、在日米軍再編に関する日米合意で、現在の駐留地である米本土ワシントン州フォートルイス基地から、神奈川県のキャンプ座間に移転することが決まった部隊です。しかしキャンプ座間への移転は基地周辺住民の強い反対運動を受け、司令部全体の移転を実施することができず、現在のところは米陸軍第1軍団・前方司令部が配備されているのみです。
第1軍団司令部は、太平洋統合軍に所属しています。太平洋統合軍の担当地域は、アメリカ大陸西岸からインド大陸西岸までの広範な地域です。隷下の第1軍団の担当地域も基本的には同じです。ところが今回のイラク派遣によって、第1軍団司令部は戦時には担当地域を越えて、中東にまで出動することが明らかになりました。そうなると第1軍団司令部がキャンプ座間に移転してくれば、戦時にはキャンプ座間から中東に派遣される可能性も出てきます。しかしそれは、日米安保条約に違反することになります。