駐韓米軍基地における騒音被害の現状と課題
  ―群山(クンサン)空軍基地の事例を中心に―

具仲書 ク・ジュンソ (平和の風 群山美軍基地被害相談所)


1.駐韓米軍基地―飛行場、射撃場の現状
 100か所以上の基地、施設、訓練場があった駐韓米軍基地は、2002年と2004年に締結された基地移転協定に伴い再編されている。アメリカ国防省の資料によると2007年9月現在、米軍は韓国には87か所の施設を置き、33,596エーカの土地を利用している。
 騒音被害を招く飛行場と射撃場としては駐韓米空軍の重要な基地の一つである群山空軍基地(Kunsan Air Base)や平澤空軍基地(Osan Air Base)があり、陸軍基地の場合は平澤キャンプ・ハンプリ、京機道城南飛行場(K-16)がある。水原、C州、光州、?泉にある韓国空軍の基地内には米軍施設がある。
 射撃場は江原道影月必勝射撃場と群山市直島射撃場、京機道抱川ヨンピョウン射撃場があり、14か所の小型、直射砲・曲射砲射撃場がある。2005年閉鎖された梅香里射撃場(Kooni Range)は54年間米軍専用射撃場として利用され住民に騒音被害や訓練被害与え、今も住民は精神的苦痛、後遺症で苦しんでいる。

2.米軍基地から発生する騒音の形態と住民被害
1)米軍飛行場、射撃場の騒音形態

 軍用機と射撃場の騒音は衝撃音が強く、不規則的に発生する。戦闘機の場合騒音の持続時間や変化の程度は少ないが、広い範囲に渡って高周波数を発生させる特徴がある。また、ヘリコプターの騒音は羽の回転により発生する騒音であり戦闘機よりは騒音は少ないが、持続時間が長く、人体に及ぼす影響は大きいと報告されている。
 群山基地から発生する騒音の場合、騒音の原因である戦闘機の特性と軍事訓練の方法、時間などによってその程度が変わる。
 米軍飛行場の場合、住民が戦闘機の離・着陸、旋回、T&G(Touch&Go)などの訓練により発生する騒音に慢性的にさらされている。特に、米軍飛行場を利用する軍用機は時間とパターンが不規則的で、住民は昼夜を問わず発生する騒音にさらされている。このような軍用機の騒音が健康に及ぼす影響は一般的に発生する騒音被害とはその性格が異なる。
 射撃場の場合110dB以上の衝撃騒音が発生する。しかし、射撃場から発生する騒音の特徴は持続時間が1秒未満で短い低周波数である。低周波数は6〜200Hzの音域であり人の耳には聞こえないが、身体は振動や圧迫を感じられる。このような低周波騒音にさらされればストレスによりアドレナリンホルモンの分泌が増加し循環器に問題が発生する。低周波は高周波に比べ、建物や窓が揺れるほどの強い振動を引き起こす。

2)住民被害
 騒音は人間の感覚を通じて伝わり住民の生活環境に影響を及ぼす感覚公害として区分される。しかし、騒音による被害は目に見えないのが特徴であり、その被害を明確に証明するのは困難である。騒音は人間の身体的、精神的、財産上の被害だけでなく作業場における事故、作業効率の低下、学習権などに被害を与える。
 米軍基地の近くに住んでいる住民を対象にした健康実態調査が2002年に群山、大邱、春川地域を対象に、2006年には平澤、2008年には梅香里で行われた。2009年現在群山地域で調査が実施されている。これらの調査は民間団体や研究所、自治体により行われたもので政府が健康調査を行ったことはない。
 米軍基地返還運動連帯と人道主義実践医者協議会は2002年「群山、大邱、春川地域の米軍飛行場による地域住民健康被害の実態」という調査結果を発表し、基地周辺地域の住民10名の中3名が医者の診断が必要なほど深刻なストレスに苦しんでいることが明らかになった(表1参照)。

<表1.ストレス水準比較>


 聴力の場合、基地周辺地域に住む住民の聴力水準を対照地域に比べた結果、すべての周波数で10dB以上であった。また、不妊率も騒音に長時間露出しない地域にくらべ、5〜9倍高いことがあきらかになった。

<表2. 2006年平澤米軍基地周辺地域住民健康調査の児童人性評価基準>

 2006年に実施された平澤米軍基地周辺地域の住民健康調査では軍用機の騒音に露出された児童(小学進む4年から6年)を対象にした調査がはじめて実施された。ヘリを運用する陸軍基地(Camp Humphrey)と戦闘機を運用する空軍基地(Osan Air Base)が位置する両地域を対象に行われた調査では児童が成人より騒音によるストレスが深刻なことがわかった。また、児童には戦闘機よりヘリの騒音がより深刻な被害を与えることがわかった。
 梅香里射撃場は2005年閉鎖されるまで54年間米軍専用国際射撃場として使われた。韓国でははじめて米軍基地騒音訴訟を起こし、米軍訓練による騒音は違法であるという判決があった梅香里の場合、射撃場が閉鎖された後も住民が精神的ストレスに苦しんでいることがあきらかになった。閉鎖されて2年が過ぎた2007年から1年間民間研究所が住民の精神健康について調査した結果、射撃場に隣接する住民の自殺率は韓国の平均より2〜7倍高く、住民10名の中3名が医者との相談が必要な高度うつ病を患っていることがわかった。高度不安や外傷後ストレス障害症状を見せる住民は6.9%と15.8%であり、他の地域の住民とくらべ9倍以上多いことが明らかになった。梅香里住民は聴力異常や妊娠初期の流産、食欲不振、記憶力減退、集中力低下などの症状に苦しんでいる。

3.群山米空軍基地の戦略的変化と騒音
 群山米空軍基地は群山市から約10kmはなれたところにある。F−16戦闘機60台あまり(米空軍40台、韓国空軍20台)を運用している。基地から西へ40kmはなれた島である直島には米軍爆撃場が位置する。
 直島は面積103,540(3万1376坪)の小さい無人島であり、小直島と大直島に分かれる。この島には1971年から韓国空軍の射撃場として実弾爆撃訓練が実施され、米軍と共同で使用している。2005年に梅香里爆撃場が閉鎖された後、米軍は直島爆撃場に爆撃訓練が可能な自動採点装地(WISS)の設置を韓国軍に要求した。2006年から2007年までWISSが設置され、群山空軍基地には海外駐屯米空軍の戦闘機が循環配置され、訓練が行われている。
 2007年6月にはイタリア駐屯アビアノ空軍基地から飛んできたF−16戦闘機の4ヶ月循環配置訓練、2008年1月にはアメリカのサウスカロライナショウ空軍基地からのF−16戦闘機の4ヶ月循環は一訓練が実施されたことがあり、2008年6月16日から20日までは韓国と米空軍の「MAX THUNDER」という連合訓練が実施され、この訓練に参加した米空軍は群山基地だけでなく、沖縄、グアム、アメリカ本土のアイダホ州空軍基地からも参加した。2009年8月にはアメリカ本土アイダホ州マウンテン空軍基地からのF−16戦闘機が5カ月めぐる環配置訓練を行われる予定である。
 循環配置される戦闘機によって、群山米空軍基地の戦闘機の数は約60台から80台まで象加された。戦闘機の増加は訓練量の増加を伴い、住民の騒音被害に直結する。海外駐屯米軍は群山基地に入り地形熟知訓練を行うため、基地の周りは言うまでもなく郡山市中心部の上空を飛行し、その被害が深刻である。
 戦闘機の増加による騒音の増加は動物にも影響を与えている。群山米軍基地から1.5kmはなれたところにあるトキ射撃場では循環配置による訓練量が増え、2008年には5回にわたりウサ議400匹が倒れ死んだ。このような被害をうけた住民は環境紛争調整委員会に被害の救済を求めたが“駐韓米軍の問題なのでわれわれ(韓国側)が扱うことは不可能である”と住民被害を無視した。環境紛争調整委員会は韓国軍飛行場や射撃場騒音による家畜の被害についての救済申請のみ認め、被賠するように調整している。しかし、米軍訓練による騒音の被害は扱わないという。

<表3.郡山米空軍基地の年度別騒音>*環境部。2009年騒音測定値の1/4まで公開

<表4.郡山米空軍基地騒音測定網年間測定値> *環境部。2009年騒音測定値の1/4まで公開


4.駐韓米軍騒音被害解決のための提言
 2006年駐韓米軍は直島爆撃場にWISS接置する代わりに夜9時以降の夜間飛行だけでなく内陸飛行も避けると約束した。しかし、この約束は守られていない。2008年7月11日、平澤キャンプ・ハンプリ所属の第2戦闘航空旅団の旅団長は住民との懇談会でへりの離陸、着陸の時標高228mを維持すると約束した。しかし、2009年2月25日に平澤キャンプ・ハンプリにちかいソンワー2里の上空を飛行中であったチューヌクヘリ(CH-47)が12軒の家の壁を壊す事件があった。米軍が約束を違反したことである。
 米軍の約束は被害に我慢できない住民の請願に対応するための最低限の対策に過ぎない。しかも、こんな約束すら米軍はきちんと守らない状態であり、訓練強化計画は立てるがそれがもたらす住民被害を減ら計画は立てないままである。
 
1)米軍飛行場、射撃場による騒音被害の予防と救済に関する政策の準備
 駐韓米軍と韓国政府は騒音低減対策と住民被害救済政策を作るべきである。少なくともアメリカ国内の基準を守るべきである。
 駐韓米軍の内部規定である環境管理基準(EGS)の騒音規定をみると米軍航空機や軍艦から発生する騒音に対する対策見つからない。アメリカ国内では軍騒音被害を最小化するために環境影響評価、航空施設適正使用地域プログラム、施設運用騒音管理計画、共同土地利用研究などを実施している。このような規定はアメリカにある軍基地周辺の住民の生活や環境を保護するためである。
 これらの基準は海外にある基地にも適用されるべきである。日本の場合、駐日米軍基地から発生する騒音問題については騒音低減対策米日合同委員会に設置されている「航空機騒音対策分課委員会」が協議することが可能であるである。また、日本政府は騒音低減対策を推進している。日本も韓国のように駐日米軍環境管理基準(JEGS)の騒音規定においては米軍航空機と軍艦は対象外であり、住民の被害が救済できるような制度はない。韓国政府も騒音対策について米軍との協議会を構成し、住民被害を救済し予防可能な制度をつくるべきである。従って、駐韓米軍地位協定(SOFA)に騒音条項を新設し騒音対策の実行や住民被害救済と責任などを明示する必要がある。

2)体系的な実態調査と積極的な騒音低減対策の必要性
 現在米軍基地周辺に居住する住民の騒音被害を減らすために、被害地域の住宅や学校、病院などの公共施設に防音施設を設置する作業が進んでいる。しかし、騒音を発生する原因についての対策はない。騒音の原因に関する対策も必要である。
 騒音の原因を効果的に統制するためには各基地の特性に合わせた体系的な実態調査が必要である。実態調査に基づいて騒音の原因になる軍用飛行場、射撃場についての具体的な騒音低減対策が必要である。
 軍用飛行場から発生する騒音を減らすためには、まず、運行方式の改善が必然である。飛行経路、飛行高度、飛行時間、離・着陸方式などを調整する必要がある。具体的には夜間飛行中断、内陸旋回・飛行訓練の中断、戦闘機運行時高度制限、離・着陸方式の改善である。他には戦闘機エンジン改造、戦闘機の移動方法の変更、エンジンテスト方式の変化は基地から発生する騒音を減らす方法である。整備庫、防音林、遮音壁を設置することなど、住居地が騒音にさらされないようにする必要がある。射撃場の場合、騒音の移動経路を効果的に遮断できるような訓練施設を整備することが必要である。

3)被害住民の 持続的な健康管理対策の必要性
 米軍基地周辺地域の住民の健康状態を調べた結果、深刻な水準であることが明らかになった。しかし、政府主導の調査はなく、民間や自治体の調査結果に基づいた対策もない。梅香里射撃場の事例から、軍飛行場や射撃場の騒音はその被害が深刻であり、基地が閉鎖されでも被害が続くことがわかった。住民の身体的、精神的被害を治癒せず放置すれば、住民の苦痛は一生続く。韓米の両政府は米軍飛行場と射撃場周辺に住む住民の健康管理対策を整えるべきであり、長期的なモニタリグを実施しなければなれない。また、身体的、精神的な病に苦しんでいる住民を対象に治癒プログラムを計画し、実行するべきである。

4)騒音の原因を提供した米軍の責任
 米軍は飛行場と射撃場による被害について責任がないと言う。このような米軍の態度は住民が起こした騒音被害の訴訟の結果を無視することである。住民は騒音被害があったことを認める訴訟を起こし、最高裁判所は米軍の訓練によって発生した騒音は違法であり米軍は住民に賠償する責任があると判決した。
 これまで米軍基地による住民の騒音被害が認められた判決は梅香里射撃場、群山米軍射撃場など5件があったが、賠償金は韓国政府が支払った。米軍はSOFA第5条第2項を挙げ、賠償の責任を忌避している。しかし、SOFA第23条は米軍駐屯による被害は米軍が報償する義務があり、裁判所の判決は最終的で確定的なものであり両国はこれに従わなければならないと定まれている。韓国政府は米軍に何度も騒音被害の賠償金の支払いを求めたが、米軍はまだ支払っていない状態である。アメリカ政府は海外駐屯米軍による被害に責任を移行し、賠償するべきである。


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