「テロ特措法の廃止を求める10.29緊急集会」
2008年10月29日 東京都・社会文化会館
平和フォーラムは10月29日夜、社会文化会館で「テロ特措法の廃止を求める10.29緊急集会」を開催しました。1週間ほどの呼びかけ期間にもかかわらず、会場には労働組合・民主団体・市民団体の関係者など、約200人が集まりました。
最初に、平和フォーラム事務局長の福山真劫が主催者としてあいさつしました。続いて、民主党・衆議院議員の平岡秀夫さんと、社民党党首・参議院議員の福島みずほさんからは、国会情勢を報告してもらいました。また集会に参加していただいた4人の国会議員から、それぞれ短いあいさつをお受けしました。
続いてジャーナリストの前田哲男さんに、「テロ特措法・自衛隊派兵の問題点」というテーマで、講演していただきました。
その後、集会参加団体の中から、沖縄・一坪反戦地主会の吉田正司さん、ふぇみん婦人民主クラブの設楽ヨシ子さん、神奈川平和運動センター事務局長の加藤泉さんに、活動報告をしていただきました。また最後に、東京平和運動センター事務局長の関久さんの音頭で、「団結ガがんばろう」を行いました。
以下は集会での発言者の要旨です。吉田さん、設楽さん、加藤さんの活動報告は、省略させていただきました。ご容赦ください。
■主催者あいさつ
●福山真劫 (フォーラム平和・人権・事務局長)
私たちはいま、時代の大転換点ともいえる事態を通過しています。政治・経済・軍事の分野における、米国の世界一国支配が終わりつつあるということです。景気は1929年の大恐慌以来というほど激震し、世界に大きな迷惑を与えています。米国が主導してきた、カジノ資本主義・市場原理主義が、音を立てて崩れようとしています。私たちは、カジノ資本主義・市場原理主義と決別して、徹底した民主的な規制に基づく、新しい経済・金融システムを作り上げていく必要があると思います。
またアフガニスタンやイラクでの戦争が泥沼化し、米国はにっちもさっちも、いかなくなっています。そうした中で11月4日に、大統領選挙が行われます。米国では確実に、主役が交代しようとしています。私たちも主役交代に期待したいと思います。
日本では、米国の金融恐慌の影響を受け、格差社会が進行しています。市民生活の危機が、さらに深まろうとしています。私たちには基本的な路線として、軍事・経済における対米依存からの脱却、市場万能主義からの脱却が求められています。
いま野党は必死になって、自公政権を追い詰めています。新聞の世論調査では、自民党中心の政権を望む人が33%に対して、野党中心の政権を望む人が37%でした。国民の多くは、確実に政権交代を求めていると考えられます。
しかし政権交代は、敵失を待っているだけでは、絶対に勝ち取ることはできません。民主党・社民党を中心に、私たちの政策である、平和と社会民主主義を大きく掲げて、自公政権を解散に追い詰める、そうした迫力が絶対に必要です。
民主党と社民党は「話し合い解散」を期待するのではなく、野党の努力で自公政権を終わりに追い込むために、がんばってもらいたいと思います。私たちも野党を支持してがんばります。
さて新テロ特措法に関して話します。米国がアフガニスタンへの侵略戦争を開始して7年、イラクへの侵略戦争からは5年が経過しています。この間にアフガニスタンでは1000人を超える米同盟軍兵士が、イラクでは4500人を超える米同盟軍兵士が死亡しています。一方、民衆の犠牲者は、イラクでは10万人を超え、アフガニスタンでも1万人を超えようとしています。米国のブッシュ政権とネオコン勢力による、アフガニスタンやイラクへの侵略戦争を、私たちは絶対に許すことはできません。
同時に私たち日本が、イラク侵略やアフガニスタン侵略に加担している実態もあります。私たちは憲法9条を持っています。戦争への加担は、絶対に許されません。もう一度、鉢巻を締めなおして、日本政府に対して「新テロ特措法反対」を突きつけ包囲しましょう。
本日の集会を契機に、全国各地の仲間に、もう一度がんばってもらうことをお願いして、開会のあいさつとします。
■国会情勢報告
●平岡秀夫さん(民主党・衆議院議員)
みなさん、こんばんは。民主党衆議院議員の平岡秀夫です。本日は集会にお招きいただき、ありがとうございます。
今の政府も含めて、これまでの自民党政権は、何かと口実をつけては自衛隊を海外に派遣することに、あまりにも力を入れすぎてきたのではないでしょうか。平和フォーラムの皆さんが主張しているような平和政策は、政府がその気になればいくらでもできることでしょう。しかしそうした道を選ばずに、自衛隊を海外に派遣しようとしています。
先日、衆議院のテロ対策特別委員会が開かれ、私は麻生首相に質問しました。質問の冒頭で「インド洋に自衛隊の艦船を派遣しているのは、自衛隊海外派兵の実績作りのためではないか」と聞きましたところ、「そうだ」とは答えませんでした。麻生総理は昨年6月に『自由と繁栄の弧』という本を書いています。その中で「(給油を)始めて5年半。思いますにNAVYをこれだけ長い間遠方に展開したことは、我が国の歴史始まっていらいのことです」と、自慢そうに書いているのです。NAVYとは、日本語では海軍のことです。それを自慢そうに書いている背景には、先ほど私が指摘したような考えがあるのだろうと思います。ですから、いくら議論しても、私たちの考えが通りません。
国会でも活動でも、私たちはしっかりとした理論構成を持つ必要があると思います。そこで私が指摘したいことは、「いま自衛隊は、どういう活動に対して協力しているのか」ということです。戦争は、米国の個別的自衛権としての武力行使、また英国の集団的自衛権の武力行使として始まりました。いま行われているOEF(不朽の自由作戦)は、自衛権の発動ではなく、アフガニスタンのカルザイ政権の要請に基づく、治安回復・治安維持活動と説明が変わっています。しかし実態が武力の行使であることに変わりはありません。
本日の新聞を読むと、米軍は無人飛行機をパキスタン側に飛ばして何人もの人を殺しています。犠牲者はこの2ヶ月で111人。そのうち民間人は65人です。そのような活動が「治安回復の活動」といえるでしょうか。そう言い張っている日本政府、あるいは各国政府に、その考えをもう一度問い直さなければいけません。
本来の自衛権行使であれば、それは国連の安全保障措置がとられるまでの間の措置です。安保理の措置を早急に決めることが、国連のあるべき姿です。
米国や英国のいう「自衛権の行使」は、国際的に認められるものでしょうか。自衛権の行使には、様々な要件があります。しかし、タリバン政権が、どういう理由で米国から攻撃を受けなければならないのか、その説明も十分にできていません。「必要最小限」という制限も逸脱している可能性があります。また、こうしたことが、自衛権の行使として認められるのかという問題があります。
米国がアフガニスタンを攻撃しました。その直後に、イスラエルがパレスチナ自治政府を攻撃しています。これについてはEU諸国も国連事務総長も非難しています。しかし米国の武力行使については、国際社会が黙っています。これはおかしなことです。
いま新テロ特措法によって、海上自衛隊が派遣されています。では自衛隊は何をしているのか。政府は「テロ対策・海上阻止活動に従事している艦船に給油している」と言い張っています。しかし実際には、海賊対策に相当量の給油が行われているようです。さらには、旧テロ対策特措法では、アフガニスタンやイラクを攻撃する艦船に給油をおこなっていたことが明らかになっています。
私は質問で、「補給先の艦船名称を明らかにせよ」と要求してきましたが、政府は2ヶ月以上明らかにしませんでした。国会審議が始まり、ようやく明らかにしたのです。この法律は、本来の目的通りに使用されることが難しいことを、しっかりと問題にしていかなければいけないと思います。
安倍総理の辞任理由は、テロ対策特措法の延長が難しくなったからでした。NGOの方から、その報道ではじめて「日本が給油活動をしている」ことを知ったアフガニスタン人が多いと聞いたことがあります。アフガニスタンの人々は、平和を愛する日本が米英軍を支援していると聞いて驚いたそうです。そうして日本に対する信頼を無くしたようです。
私たちが行うべきことは、給油活動をきっぱりとやめて、本来のアフガニスタンの平和とテロ撲滅のための貧困対策に重点をおくべきではないでしょうか。
参議院でもしっかり審議します。民主党や野党の闘いに、皆さんの支援をお願いいたします。ありがとうございました。
■国会情勢報告
●福島みずほさん(社民党党首・参議院議員)
みなさん、こんばんは。お疲れのところ、テロ特措法反対の集会に集まった皆さんに、連帯のあいさつを送ります。呼んでいただいて、ありがとうございます。
今現在の、国会の状況について、お話をします。参議院の外交防衛委員会には、民主党からは犬塚さんが、社民党からは山内徳信さんが出席しています。
衆議院は2日間の審議で、「チャッチャ」と天ぷらでも揚げるようにテロ特措法が可決しました。「チャッチャ」と揚げていい法律ではありませんから、参議院ではとことん議論したいと考えています。安倍首相・福田首相・麻生首相と、民意を経ずに3代も政権が続いています。「とっとと辞めろ、民意を問え」というのが、社民党の立場です。
本来は火曜日(28日)に、総理が出席して、採決を前提とした締めくくり総括質疑が行われることになっていました。7時間の審議です。しかし現場の皆さんががんばって、決はなくなりました。明日(30日)も採決はありません。来週に持ち越されたのです。野党が協力して、また現場・国対・幹事長・党首が協力して、参議院でがんばりたいと思います。
また社民党は、「参考人質疑をやるべきだ」と主張しています。カタログハウス社が「通販生活」という雑誌を出しています。その最新号の表紙に伊藤和也さんの写真と、「あなたは私たちの誇りです。」という言葉が掲載されています。アフガニスタンでボランティア活動をしていた日本人が殺されました。では、いまのアフガニスタンの状況はどうなのでしょうか。給油を続けることには、どういう意味があるのでしょうか。そうしたことを、「ペシャワール会」などから参考人質疑をするべきだと思います。それは、殺された青年に対する国会の礼儀だと、私は思っています。
ブッシュ大統領が任期満了で退陣する中、アフガニスタン攻撃・イラク攻撃とは何であったのでしょうか。そもそもの総括が必要ではないでしょうか。私たちは、平和フォーラムの皆さんといっしょに、「武力では解決しない」と7年間も訴えてきました。その立場からも総括の必要性を主張するべきです。
また日本と諸国とは、給油に当たって交換公文を結んでいます。では日本の自衛隊が給油した油を、他国の艦船がどのように使っているのでしょうか。「攻撃に使われていない」という保証はなにもありません。情報開示と給油の中止を求めていくべきです。
これまでに704億円のお金を使ってきました。燃料代だけで234億円です。どこから購入したのか、いくらで購入したのか、そうしたことも明らかになっていません。みなさんの税金は、人の命を生かすことに使われるべきです。人の命を殺すことに使われるべきではありません。
参議院は与野党逆転しています。永久に審議しろ、2か月審議しろ、といっているわけではありません。しかし問題点をあきらかにする、廃案に追い込むことは大切です。
安倍総理が在任中に強行した法案が、いま動き始めています。在日米軍再編特措法・原子力空母の横須賀母港化、教育基本法の改悪、国民投票法。だからこそ、がんばっていきます。
海上自衛隊の護衛艦「さわぎり」で起きた、いじめ自殺事件では、被害者遺族と一緒に7年間闘ってきました。福岡高裁は、国の責任を認める判決を出しました。先日、遺族のご両親と一緒に防衛省にいきました。人事教育局長が謝罪しました。私たちは自衛隊オンブズマンの設立を求めるなど、自衛隊内の人権侵害をなくす取り組みを続けます。
解散がいつか? わかりません。麻生総理は、総理大臣であることを楽しんでいます。「一日でも長く総理をやりたい」、そう思っているようです。このまま自民党政治が続いても、ろくなことはありません。自民党政治・利権政治との決別、小泉構造改革との決別、戦争に加担する政治との決別、きちっと決別して、皆さんと一緒に新しい政治を作って生きたいと思います。ともにがんばりましょう。
■参加国会議員の紹介
●犬塚直史さん(民主党・参議院議員)
参議院議員・長崎県選出の犬塚直史です。いま参議院の外交防衛委員会で「ミリタリーソリューション(軍事の解決)は無い」ということを主張しています。
日本は、憲法9条に基づき、過去60年以上にわたって積み上げてきた発言力を使って、いきづまってしまった国連の集団安全保障ではなく、国連の平和維持活動を機能する方向に持っていくようにする。これをやるのは日本しかありません。憲法9条から国連憲章6.5章へ。そうした流れを作れると思います。みなさんと一緒にやりたいと思います。お願いします。
●神本美恵子さん(民主党・参議院議員)
テロ特措法には、大変思い入れがあります。7年前に議員になったときの、最初の投票がテロ特措法でした。正式な法案名は覚えられないくらいながかったのです。120文字以上もありました。その中には、テロ根絶・復興支援など、いろいろな言葉が入っていました。
01年にアフガニスタンへの攻撃があって、翌年の02年4月に4日間、カブールに行きました。カルザイ暫定政権が発足したばかりでした。復興の息吹に燃えていました。「いまあの人たちはどうしているのだろう」と考えます。日本が「テロ根絶」という名目で、米国の武力行使を支援していることに怒りを感じます。なんとしても廃案にしなければなりません。ともにがんばりましょう。
●藤末健三さん(民主党・参議院議員)
参議院議員の藤末です。比例区です。私は犬塚議員と一緒に、民主党の対抗案を作りました。皆さんのご意見からすれば、完璧ではないでしょう。しかし私たちの思いは、憲法9条だけではなく、憲法前文の「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」を生かすことです。アフガニスタンの人々が、戦争の恐怖や、食事ができない・水が飲めない・病院にいけないという欠乏から免れて、平和に生存することができるようにしたいと思います。
別の問題になりますが、米国とインド、フランスとインドが原子力協定を結びました。これはNPTの崩壊につながります。2010年にNPTの見直しが行われます。その時までに政権を獲って、私たちがNPTを立て直したいのです。みなさん、力をかしてください。お願いします。
●重野安正(社民党幹事長・衆議院議員)
みなさん、こんばんは。大分から出ています、衆議院議員の重野です。10月23日に、民主党・社民党・国民新党の幹事長が集まりました。テロ特措法の審議が参議院に移るときです。私は、この法案に対する私たちの対応は十分とはいえないと思っていました。米国では大統領選挙があり、政権が変わり、アフガニスタン政策が変わるかもしれません。法案については両院でしっかり議論すべきと、常々思っておりました。そこで、参議院へ舞台が移るのに合わせて、2党に呼びかけまして、幹事長会談を開きました。
この話し合いで、参議院・外交防衛委員会での法案審議はしっかり行う、3党で景気対策関連の予算法案を出す努力をするということを確認しました。
また麻生内閣誕生後の国会では、麻生総理と中川財務大臣の所信表明演説だけは聞きました。しかし、内閣が変わった後の国会ですから、各委員会でも担当大臣を呼んで所信表明を聞き、一般質疑をする。そうした当たり前のことが、今国会では行われていません。自民党が悪乗りして様々な法案を出してくるならば、私たちはあたりまえの国会対応を結束して行う、そうした確認をしました。
国会は、当初の予定とは異なる形で展開しています。いずれにしても、私たちはこの法案の反対に、精一杯がんばらなければいけないと思っています。社民党は全力を挙げてがんばります。
前田哲男さんの講演
●「テロ特措法・自衛隊派兵の問題点」
前田哲男です。本来の予定であれば、新テロ特措法の改正案は10月28日に参議院で採決されることになっていました。しかし少し風が変わりました。民主党も2日間の審議ではなく、徹底審議を行うと態度を決めました。その結果、新テロ特措法の採決・成立は、来週以降に持ち越されました。従ってこの法案が成立するかどうか、わかりません。その前に衆議院が解散することになれば、1年前にインド洋での補給活動が、福田内閣のもとで3ヶ月間中断したように、法律が失効して部隊が撤収する事態も予測できます。そうした情勢のなかで、新テロ特措法が審議されています。この状況を歓迎し、活用しなければなりません。
ではなぜ、状況が変わったのか。いうまでもなく、米国発の世界的な経済危機です。それは福山さんがいうように、カジノ資本主義、市場万能主義の行き詰まりです。同時に、米国型軍産複合体の終焉の始まりにもなるでしょう。次の動きは、経済問題から国際政治の段階にいくでしょう。米国の世界戦略、アフガニスタン戦争、イラク戦争を含む世界戦略、さらには根底的で世界的な米軍基地のネットワーク、軍隊の配置をどうするか。そこにつながります。経済が政治を支えるものであるとすれば、今の経済危機は、必ず政治に転移します。その米国政治にはっきり現れているものは、戦争であり、軍隊の海外配置です。そうであれば、戦争をどのように収束するのか、どのように名誉ある撤退をはかるのかが、次期米国大統領の最初の仕事になるでしょう。
また25カ国以上に10万人以上の兵士を常時展開している軍隊の体質を、どのように改革していくのか、収縮していくのか、そのことも次の政権の宿題になるでしょう。第1にお金がない。イラク戦争とアフガニスタン戦争の戦費はすでに、6000億ドルです。復員した兵士の年金を含めれば3兆ドル、300兆円です。そうした戦争を続ける余力が米国にないことは、今回のウオール街の振動の影響から、即座に読み取ることができます。
またお金を垂れ流す、軍隊の前方展開戦略を、今後も続けていくことが可能かということも、大きな課題です。中長期的には米軍再編をどうするか、短期的にはイラク・アフガニスタンをどうするか。この問題について米国の態度は、明日・1年後・3年後という期間で、変化しています。麻生首相や閣僚は、「国際貢献」「信頼の証」「これからも、今後も続ける」といっていますが、単調で普遍的なものではありません。米国は変わらざるを得ないのです。そうした大きな流れの中で、私たちは対抗する構想、対抗する政策を持ち、自民党に代わる政権をどうするのかを考えていかなければなりません。
旧テロ特措法、新テロ特措法の7年間とは何であったのかを、綿密に検証し、批判し、それに代わる国際協力のありかたを示し、自民党に代わる政権を作る契機にしなければなりません。それには、そもそもテロ特措法とは何であったのか、麻生首相のいうように国際的な責務であり、国際社会が期待していることなのか。そうではないことを、皆さんは十分承知していると思います。事実を見るだけで、歴史を振り返るだけで明らかになります。
2001年の「9.11」の4日後に、柳井駐米日本大使は、アーミテージ国務次官補に呼ばれて、日本の協力を要請されました。その時の言葉が「show
the flag」、「旗を立てろ」です。米国が日本に、出兵を要請したのです。その2日後には小泉首相がブッシュ大統領に会って、全面的支援を約束しました。帰国して18日には、自衛隊を含む日本の対米支援6項目が、公明党の賛同を得て、与党の対策として打ち出されました。
国連は何も日本に要請していません。国際社会が要請したわけでもありません。国務次官補が大使に、旗を見せろといい、大統領が首相に協力を要請し、自民党と公明党が共同で提案したのです。テロ特措法のなりたちは、そういう形です。国際社会・国連というレベルではありません。
もとより「9.11」は衝撃的な出来事でした。同情したり、応援したりという国際的な動きはありました。しかしそれは、各国が国民の納得する範囲で、応分の協力をすればいいのです。それを名分として、やってはいけないことを、やっていい、ということにはなりません。憲法で禁じられていること、歴代政府がやらなかったことを、熱狂的な米国の世論を利用して法律に仕立て上げたのです。それが、テロ特措法の成り立ちです。
当時のアフガニスタンには、タリバン政権がありました。そのタリバン政権が、「9.11」の犯人を匿ったという米国の思い込みがありました。けれども、米軍の攻撃でタリバン政権は崩壊しました。いまアフガニスタンを代表しているのは、米国が支援しているカルザイ政権です。ということは、日本が01年9月18日に打ち出した対策、またテロ特措法成立時とは、国際的な法の枠組み、またアフガニスタンにおける法の枠組み、国際法におけるアフガニスタンの位置づけ、テロ特措法の有効性が、変わってきているのです。
テロ特措法は2001年11月に成立して以降、期限延長のための改正が3度おこなわれました。3年・1年・1年の延長です。その後に、様々な問題が噴出して、一時はインド洋での活動を停止せざるを得ない国民的な反発と効力の停止という状況が起こりました。それを受けて、法律の内容を一部変えて新テロ特措法を成立させました。そして今国会では、その延長が行われようとしています。
こうした成立の経緯とその後の流れ、その間のアフガニスタンでの政権の性質の変化、派遣された軍隊の任務と役割の変化を考えてみますと、この法律が、いかにそのときどきで都合のいい理由を付けくわえながら、しかし一貫して米国の攻撃のために使われてきたかがお分かりいただけると思います。そのために7百数十億円が使われています。燃料費の高騰から、サンマ漁船が休漁するという事態もおきていますが、政府はなにもしません。さらに、朝鮮半島をめぐる6カ国協議の合意として、日本は北朝鮮に90万トンの重油を提供することになっています。日本も当然拘束されるのですが、日本は出さず、オーストラリアとニュージーランドに肩代わりしてもらっている。一方でインド洋では、無料で燃料が提供されています。その額は234億円。それをさらに続けるのが、この法案です。活動の内容は、ほとんど明らかにされていません。実は何もしていないから、明らかにできないのです。
海上自衛隊の補給艦から燃料を提供された各国の軍艦は、何をしていたのか。これは外国の報道によって明らかになっています。いまアフリカのソマリア沖で、海賊が跳梁しています。それに対してNATO軍をはじめ米国の海軍が、ソマリア沖の封鎖、海賊船の包囲を行っています。日本の提供した燃料は、そのために使われています。海賊が共通の敵であるにせよ、この法律を使って支援することは、法律の目的から外れてしまいます。
海賊対策を行うのであれば、そのための審議を行い、法律を作るべきです。しかしそれをせず、新テロ特措法で派遣された自衛隊からの燃料補給を黙認しています。そして公表しない。「海賊は日本のシーレーンにとって脅威である」といいながら、いま何をしているかは、明らかにしないのです。これほど不明朗な活動をしているのです。
ではその燃料を、どこから、いくらで購入したのでしょうか。そうしたことについては、山田洋行や秋山さんの防衛利権、構造的な汚職の世界がでてきます。来週、守屋元防衛事務次官の判決が行われますが、守屋元次官もそうしたことに関わっていました。守屋元次官の罪は、職務怠慢だけではなくて、日米安保条約の下での、構造的な安保利権にからんでいます。油は米国の業者から、かなり高い値段で購入しています。しかし防衛省は、業者の名称の公表を拒否しています。国際協力ではない世界が、そこから見えてきます。
米国の要請に基づく、自衛隊による軍事負担が、現地・アフガニスタンで歓迎されるはずはありません。そのことは、NGOペシャワール会の伊藤和也さんの殺害で、明らかになりました。
ソ連がアフガニスタンを占領していた1980年代に、私は何度かアフガニスタンを取材しました。当時とは雰囲気が全く違うことを、あの事件は教えてくれました。ペシャワール会の中村哲さんとは、何度かお会いしたことがあります。「だんだん、険悪になってきている」と言っていました。テロ特措法改正案の国会参考人質疑で、中村さんと一緒になったことがあります。その時にも「このような法律による支援は、アフガニスタンで働くNGOにとって、有害でこそあれ益などない。アフガニスタンでの日本の信用は、日々、悪くなっている」と力説していました。
アフガニスタンはイスラム教の国です。私たちは、分類上は仏教徒です。彼らからみると、異教徒です。しかし私たちは、邪教徒ではありませんでした。異教徒としての待遇の中で、公平に扱ってくれました。反ソゲリラとともに山に入って活動しますから、食事も水も彼らが面倒を見ないといえば、どうにもなりません。しかし日本から入ったジャーナリストは、みな受け入れられました。いまでは、考えられません。観光でさえ危険で行けません。そこで何年も活動して、信頼を得たNGOでさえ、敵意のまなざしで倒れました。これは偶然ではありません。個人の個性の問題でもありません。日本という国家のあり方、国家イメージが変わりつつある警告として、受け止めなければならないでしょう。その警告として伊藤さんの死を、私たちは受け止めなければなりません。香田さんがイラクで殺されたことも同じです。「自己責任」という言葉を、政府が自ら発するなど言語道断です。
私たち日本人のイメージが、「9.11」以降の日本の行動によって、少しずつ低下している。自由に行動できる世界が小さくなっている。円が強くなっても、外国旅行が危険であれば、何の利益にもならないでしょう。そうした変化のあった7年間でした。
そうした法案を、さらに継続する。米国への支援を続けることが、麻生首相の態度です。麻生首相はまだ、この問題に関しての包括的な論戦を行っていません。昨日の参議院での質疑も、本格的な論戦にはなっていませんね。来週からの参議院の審議では、深く突っ込んだ議論を期待します。その中で、麻生首相の持つ反動性・反憲法性を、暴きだすことが大切でしょう。
民主党の平岡さんが、麻生首相が著書の中で「日本のNAVYが」と書いた問題について質問しました。わが国の憲法には、陸海空軍は保持しない、交戦権は認めないと書いてあります。この著書を書いた時には首相ではありませんでしたが、憲法を否定するようなことを著書に書いています。かつての社会党の石橋さんや岡田さんであれば、このNAVY問題に関して、かなり面白い論戦を挑んだでしょう。もっとも平岡さんの質問時間は30分でした。石橋さんは、2時間、3時間を1人で使いましたからね。民主党の質問時間は2時間30分ですから、平岡さんが1人で使えばそこまでやってくれたでしょう。そうした議論に、この問題で入ってもらいたかったです。NAVYで30分やり、それからテロ特措法に入っていく。それが、この問題にふさわしい論戦ではないでしょうか。2時間30分を5人で分けることは、民主的でいいことだと思いますが、論戦の深まりという点では、表面をなでるだけになってしまいます。この法律は、これからです。
法律を採決する前に解散があれば、選挙戦の中でアフガニスタンに対する、また国際社会に対する、どのような協力が可能か、憲法にふさわしいのか、述べていくことができます。またこの7年間がなにをもたらしたかを、はっきり示すことができます。来週からの法案審議を、そのような場にしてほしい。材料はたくさんあります。お金の使い方、目的などです。前の国会では目的外使用、アフガニスタンの治安維持のために派遣された自衛隊が、米軍の補給艦に補給し、その補給艦が米国の空母キティーホークに給油し、キティーホークはペルシャ湾の奥に入り、イラク攻撃に参加しました。こうしたことが航海日誌で明らかになりました。政府も認めざるを得なくなったのです。しかし、認めたはいいが、補給量は20万ガロンで、1日分にしかあたらず、イラク攻撃に使われたとは思わないと答弁しました。しかしNGOピースデポの調べで、補給されたのは20万ガロンではなく80万ガロンであることが明らかになりました。どうしようもなくなって、政府は訂正し、防衛省は把握していたが、福田総理には報告しなかった、ということになりました。こうした目的外使用、書類の改ざん、航海日誌の破棄・証拠隠滅が明らかになりました。
今回も、インド洋で給油するための燃料が、アフリカ東部のソマリアで作戦する各国海軍に提供されています。防衛省の説明では、それらの艦船はインド洋とアフリカ沖で行動する2重の任務を持っているため、区別することはできないということです。これは法律の趣旨に反しています。目的外使用が今も継続しているのです。
こうした7年間が、人の心、つまり自衛隊員の肉体と精神に与えた影響も、見逃してはならないと思います。米国社会では、イラク帰還兵が様々な問題を引き起こしています。それと同じ事が、小さいですが日本でも出てきています。この7年間で、陸・海・空の3自衛隊全てが、海を渡りました。派遣された自衛官は、延べ5万人です。そのなかからすでに現われていることに、帰還した自衛官の自殺があります。自衛官の自殺は、ここ10年以上、自衛隊が抱えている問題です。ですから別の要因も介在しています。しかしそれ以上に、イラク帰還自衛官の自殺率が高いのです。おそらく、精神的なストレスを負っているのでしょう。長期派遣・休みがない。プライバシーがないという直接的な要因もあるでしょう。また自分たちがやっていることが、「間違っているのでは」という思いもあるのでしょうか。体験したことは「言ってはいけない」と上官から命令される。海上自衛隊では、帰還兵隊員の27人が死んでいます。自殺だけではありません。ある40歳の隊員は、現地で、くも膜下出血で死んでいます。犯罪も起きている。鹿児島では、タクシーの運転手が刺殺されました。動機のない衝動的な殺人です。犯人は無断離隊した陸上自衛隊員でした。また陸上自衛官が国会に侵入し、自殺しようとしました。理由はなにか、明らかにされていません。即応予備自衛官が、皇居のお堀に何かを投げ込んだ事件も起きています。
さらに隊内でのイジメがあります。格闘技訓練で死んだ自衛官の問題で、今日は社民党の調査団が、江田島での現地調査にいっています。旧軍にあったような精神主義、私的制裁が、60年たったいまでも自衛隊の中に残っているのです。自衛隊内部の腐敗、荒みにも、テロ特措法は影響していると思います。
ベトナム戦争後の米国社会にもたらされた問題を、私たちは知っています。これからの米国社会に、帰還兵問題があることを米国民は知っています。それが大統領選挙での、マケインかオバマかにも影響するのでしょう。私たちも自衛隊員を送ってしまいました。油代や法律を議論すると同時に、派遣された自衛官の問題も、きちんと議論しなければいけないでしょう。そういた問題を作らない道を選ぼうということが、テロ特措法を作らない側の論理でなければなりません。そのためには政権を変えるしかありません。ただ、単純に政権を代えるだけではだめです。自民党に似た政権ができても、しかたがありません。党名が自民党でないだけではなく、内実が自民党ではない政権をどのように作るのか、私たちはしっかり、見ていかなければいけません。
ケントカルダーという学者がいます。クリントン政権時の駐日大使の特別顧問です。彼が今年出した、『米軍再編の政治学』という本があります。米軍再編の経過、対日交渉を分析しています。その中で、米国の海外基地は時代遅れといっています。砂上の楼閣であり、米国が不穏な状況で中東への関与を強めるにおいて、いよいよその様相を呈しているといっています。彼の分析で興味深いのは、外国軍基地がなくなるのは、政権が交代する時が最も多い。米軍だけではありません。ソ連も入っています。49例中40例は、政権交代によって廃止されています。
そうであれば、いまの私たちは非常にいい場所、いい時期に立っています。そのためのマニフェスト・公約を持つ党を作りださなければなりません。そのことによって、テロ特措法を廃止し。自衛隊を呼び戻す。それに代わって、日本として何をするかを考える政府を作ればいいのです。
時間が来ました。ありがとうございました。
■参加団体からのアピール
●吉田正司さん(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)
吉田さんからは、一坪反戦地主会が呼びかけている、「7.18沖縄県議会決議を尊重し、辺野古新基地建設の断念を求める請願署名」への協力が要請されました。
■「沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック」のサイト
●設楽ヨシ子さん(ふぇみん婦人民主クラブ/11.3憲法集会実行委員会)
この間、「11.3憲法集会実行委員会」の呼びかけで、4回にわたり、新テロ特措法の改正に反対する国会前行動が行われました。
設楽さんからは、こうした市民団体の活動を紹介していただきました。
●加藤泉さん(神奈川平和運動センター・事務局長)
加藤さんからは、原子力空母横須賀母港化反対行動の報告と、今後の取り組みについて報告を受けました。
200人をこえる皆さんに参加していただきました。ありがとうございます。
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