米兵の性暴力事件抗議、地位協定改正集会に300人が参加
2008年3月13日 東京・千代田区 星陵会館


 平和フォーラムは3月13日に東京・千代田区の星陵会館で、「沖縄での米兵による少女・女性性暴力事件に抗議し、地位協定の抜本改正を求める緊急集会」を開催しました。集会には、沖縄平和運動センター代表団10名をはじめとして、全国各地から、300人が参加しました。



■主催者あいさつ
●清水澄子さん(フォーラム平和・人権・環境 副代表)

 在日米軍再編が進行する中で、米軍兵士による性暴力事件や凶悪犯罪が後を絶ちません。平和フォーラムは事件のたびに、米国大使館に抗議に行っています。
2月10日に沖縄で起きた、米軍兵士による少女への性暴力事件に対しては、沖縄はもとより全国で抗議の声が上がっています。沖縄では「基地のある限り事件はなくならない」と言う声も上がっています。
 そうした中である週刊誌は、「米兵についていく少女に問題がある」と報じました。これに対して女性たちは抗議しました。もちろん、自分の行動には注意しなければなりません。しかし戦後の沖縄では、米軍基地とともに生活があるのです。少女に問題があるのではなく、そこにいる米軍が重大な人権侵害を犯したのです。
「被害を受けた女性に問題がある」。性暴力問題では、常に被害者の側が問題になります。米兵は性的な行為を目的にして、少女を誘い出しているのです。その行為そのものを、性暴力事件として、徹底的な根絶を図らなければなりません。
 少女は告訴を取り下げました。すると「少女をそっとしておこう」ということで、3月23日に予定されている「県民大会」を取りやめようという声が上がっています。私たちは少女が、なぜ告訴を取り下げたのかを考えなければなりません。性暴力事件は、被害者が告訴しなければ事件化されません。捜査に当たっては体液まで調べる。そのときの様子を、根掘り葉掘り聞く。それは女性にとって、精神的な屈辱です。社会的にも好奇心の目で見られます。精神的な被害・トラウマで、その人の人生が破壊されることもあります。少女は、性暴力を受けて怖かったし、精神的な被害を受けたでしょう。さらに社会的に好奇心の目にさらされて、二重の被害を受けることになるのです。
 1993年に国連で、性暴力撤廃宣言が行われました。各国に対して、性暴力被害者のケアと性暴力の根絶を求めたものです。しかし日本政府は、何も行っていません。さらに米兵による性暴力にさらされた被害者には、日米地位協定の壁があります。二重・三重の差別に苦しんでいるのです。
 日本政府はこうした問題を放置し、米軍基地を許容し、在日米軍再編を進めてようとしています。私たちは日本政府に対して、もっと大きな抗議の声をあげましょう。被害者の立場から、日米地位協定の改定を闘っていきましょう。今回の事件を、自分のこととして考えましょう。主権者は私たち市民だということを、一緒に考えましょう。


■国会報告
●近藤昭一さん(民主党・衆議院議員)

 民主党衆議院議員で、外務委員会の筆頭理事でもある近藤昭一さんは、「昨年末に岩国基地の米兵が広島で性暴力事件を起こしたときに、国会で『日米地位協定は改正するべき』と訴えた。しかし日本政府は「地位協定の改正ではなく、運用改善で」という姿勢を崩さなかった。いつまでこうしたことを続けるのか。弱い立場の人にしわ寄せが行く、がんばっている人が報われない、そんなことがあってはいけない。野党が一緒になって、地位協定を改定する」と発言しました。




●福島みずほさん(社民党党首・参議院議員)

 社民党党首で参議院議員の福島みずほさんは「米軍から綱紀粛正ということばを、何度聞いたことか。基地と女性の人権は両立しない。今国会でなんとしても地位協定の抜本改定にむけて、踏み出したい」と語りました。



■おはなし 米軍人・軍属による事件被害者の会
●服部良一さん
 隣にいるのは、日本に住んでいるオーストラリア人女性のジェーンさんです。2002年に横須賀で、空母キティーホークの乗組員の米兵から性暴力を受けました。しかしその米兵は不起訴になりました。そこでジェーンさんは民事裁判を起こして、事実認定と損害賠償判決を勝ち取りました。しかし米兵は逃げたままです。日米政府は、知らない振りをしています。判決がでて数年経ちますが、損害賠償の支払いはされていません。ジェーンさんの話を聞いてください。


●ジェーンさん
 レイプは、セックスではありません。レイプは、パワーです。父親が子どもの頭を撫でれば、それは愛でしょう。しかし同じ手で、人を殴り、暴力をふるうこともできるのです。
 「お金を盗まれたことがある人はいますか」と聞かれたら、皆さんはどう答えますか。お金を盗むことは罪です。盗まれた人は被害者です。被害者は、恥ずかしくはありません。でも「レイプされたことはありますか」と聞かれたらどうでしょうか。「恥ずかしい」「なんという質問だ」と思うでしょう。でも私たちも、同じ被害者なのです。
 お金持ちがお金を盗まれたときに「お金持ちなのが丸見えよ」「お金を盗んでくださいと言っているようなものよ」と言われるでしょうか。ところが、「女性もセックスしてもらいたい人がいるのでは」「そういう格好をしている人が悪い」。そういう人がいるのです。

 レイプされた後に、助けを求めて警察に行きました。でも今から考えると、いかない方が良かった。下着も着けていないままで10時間以上、ゴミのように、加害者のように、売春婦のように扱われたのです。セカンド・レイプです。
 日本は「戦闘地帯」です。戦後ずっと、殺され・レイプされる女性がいるのです。日本には24時間のレイプ被害者センターがありません。これは、レイプの文化を作っているのと同じことです。なぜ被害者が沈黙しなければいけないのか。

 レイプ犯は、1回だけレイプするのではありません。捕まるまで、何回でもするのです。だからレイプされた女性が声を上げることは、とても大切で、外の人のためにもなるのです。私の裁判のときに、傍聴席には誰もいませんでした。でもそれを変えることはできるのです。

 目を閉じてください。ここにいるのがオーストラリア人ではなく、あなたの妹、あなたの母親、あなたの彼女だったら。日本の警察、日本の政府、米軍にどのような対応をしてもらいたかったのか。みな答えは分かっているはずです。日本は、いつまでこの状態を続けるのですか。米兵が次々とレイプし、犯罪し・・。私は、私をレイプした犯人を、日本に連れ戻します。皆さんも力を貸してください。


●服部良一さん
 2006年の米兵による事件・事故は、1549件です。これは防衛省に届けられた件数だけです。うち953件は沖縄です。米兵が事件・事故を起こした場合は、公務中と公務外で、対応が異なります。公務外の場合は、被害者は泣き寝入りの状態です。基地の外に出ての交通事故、また飲み屋で暴れたなど、80パーセント以上が公務外なのです。
 地位協定18条6項は、被害者が2年以内に防衛省に届ける。防衛省は報告書を作成し米国に渡す。米国は国内法に基づき慰謝料を払う。こうした制度になっています。しかし手続きを経て、米国から慰謝料が出たケースは1〜2パーセントです。06年では、1356件の公務外事件のうち21件です。日米安保条約によって基地を置いているにもかかわらず、日本政府はほったらかしです。
 ジェーンさんの事件では、相手の米兵は不起訴でした。不起訴の場合は、先ほどの数に入りません。ジェーンさんは裁判をし、事実認定を争っていたために、事件として認識されていませんでした。判決が出ても、米兵はアメリカに逃げ帰り、どこにいるのかもわかりません。では、被害者への補償は誰が払うのか。そうした大きな問題があるのです。
 今回の沖縄の事件。「補償とケアを」という声が上がっています。女性がレイプを受け、その後遺症を抱えて一生を送ることもあります。しかし日本政府のどこからも、お金は出ません。多くの被害者が泣いています。私たちは1996年に沖縄で13家族が集まって、被害者の会を作りました。
 公務外事件では、被害者の泣き寝入りが続いている。米兵を捕まえようとしても、基地に逃げ込まれたらつかまえられない。そうしたことを、皆さんに知ってもらいたいと思います。


■講演 沖縄と地位協定 〜米兵事件・基地負担の源流〜」
●松元 剛さん(琉球新報)


 琉球新報の松元です。米軍基地の担当を10年以上担ってきました。琉球新報は「日米地位協定の考え方」という外務省の機密文書をスクープしました。地位協定については沖縄の目線と、全国的な目線から記事を書いてきました。
 1998年に中部支社報道部から本社政経部にもどりました。大田県政の末期から、稲峰県政への交代。米軍基地を容認する初めての県政へ、沖縄が劇的に変化したころです。
 大田県政も稲峰県政も、日米地位協定の改正を、知事自らが日本政府や米国政府に要請してきました。沖縄は全国の74.3パーセントの米軍専有施設を抱えています。米軍は地位協定の3条3項によって、排他的管理権を認められている。そうした基地が集中しているのです。
 その現実のなかで、被害を受けているのは誰か。それは基地周辺の住民です。自分の生まれ育った所に住んでいる、住居を構えているだけなのに、何の罪もない住民が基地被害を受けています。米兵の事件もあれば、防ぎようの無い米軍機の騒音もある。そうした被害を少しでも解決していくとこが、沖縄の基地報道の軸足であると考えています。

 沖縄県議会で県警本部長が、95年の少女暴行事件以降の、米兵によるレイプ事件の数を報告しました。95年から07年までで14件です。今年に入り2件立て続けにおきましたので、いまは16件です。1年に1人以上の女性の人権が、米兵によって踏みにじられているのです。
 00年の沖縄サミットの時に「平和の礎(いしじ)」を訪れたクリントン大統領は、米軍を減らしたいということと、米軍の存在が日本の平和につながっているという、二律背反の演説をしました。それから8年間、沖縄では米軍の犯罪がクローズ・アップされますが、兵員を減らすという米軍の努力は基本的にうかがえません。そうした点で、在沖米軍の大幅削減以外には米軍犯罪の再発防止策はない、という思いもあります。

 しかし地位協定の内容を厳しくすることで、米軍の自由な活動を制限し、米軍犯罪を起こす米兵を厳しく対処することも必要です。
 92年・93年と2年連続で、同じような事件が起きました。92年の春に、嘉手納基地の門前町の通りで、79歳の男性が1人で営んでいるバーがありました。そこに3人の兵士が、夜11時ごろにやってきて、他の客が帰った途端に強盗犯に豹変し、79歳のお年寄りを抱え上げてカウンターにたたきつけて、花の骨が折れるけがを負わせて、200ドルを奪って逃げたのです。2人は基地内に逃げ込み、1人は現場近くで逮捕されました。逃げ込んだ兵士は米軍の憲兵隊が身柄を押さえて、取調べのために毎日、沖縄署に送られました。しかし基地内では拘束施設に入れられたわけではなく、自分の部屋で禁足を科されただけです。2人は、米国と違って日本では強盗の罪が重く・懲役が長いことを知り、米軍機に乗って米国に逃げてしまいました。琉球新報は特ダネで書きましたが、本土メディアではベタ記事扱いでした。沖縄と本土での、基地問題の温度差を痛切に感じました。
 米軍側は、「犯罪を起こした米兵のずさんな管理を改める」としました。しかし1年半後に、またしてもレイプ犯の米兵が、本国に逃げてしまう事件が起きました。容疑者米兵は、自由に行動できます。取調べの合間にIDカードと司令官の休暇証明書を偽造しました。それで基地のゲートを抜け、那覇空港の入管を通り、逃げ帰ったのです。
 沖縄県議会や各市町村議会は、抗議決議をしました。しかしそれ以上の大きな動きにはなりませんでした。私たちも、この時に、もっと切り込んだ取材をすれば良かったと反省しています。
 そうした中で、95年に少女暴行事件が起きたのです。この事件で、沖縄が求める地位協定の改定が、全国的に認識されるようになりました。沖縄に凝縮された地位協定の問題を、いかにして全国に伝えていくのか。それが私たち沖縄の報道記者の課題であると考えています。

 地位協定は1960年に結ばれました。それは基本的には、旧行政協定です。戦勝国が敗戦国を占領する中で、特権的な地位を与えられたのもです。その行政協定が地位協定にかわり、温存されたのが1960年です。当時の社会党は、地位協定があまりにも不平等なために、国会を止めてその不平等性を認識させて、自民党政権と対峙する戦略を立てました。しかし抜き打ち的な強行採決によって、安保条約と地位協定は、同時に成立してしまいました。行政協定から温存された地位協定の不平等性は、当時の国会ではほとんど議論なく成立したのです。いまに至るまで、一度の改定もありません。

 常に米軍に有利に働く地位協定の解釈を見たときに、「どこかに裏マニュアルがあるのではないか」ということは、ささやかれてきました。過去にも「日米地位協定の考え方」というマニュアルの存在が指摘され、何ページかが外部に流れました。しかし全文が表に出ることはありませんでした。
 私たちは、そこに狙いを定めて03年に全文を入手し、04年の元旦号で「米軍優位の解釈」という見出しをつけて報道しました。その後半年間に、40回を越える連載を行い、同時に社会面では様々な地位協定の問題を報じました。半年間で300本以上の地位協定関連の記事を書いたのです。
 外務省は「日米地位協定の考え方」に対して、「有るとも無いとも言わない」という反応を示しました。沖縄出身の国会議員が、国政調査権を盾に開示をせまっても、同じ反応でした。 私たちは、ある国の大使を経験した外務省OBが、地位協定のウラ解釈を書いた本人だと聞きつけました。取材を依頼しましたが、外務省に迷惑がかかるので応じないとのことでした。そこで、東京支社の記者が、元大使がいま勤めているある所を直接訪ねて、「あなたが書いたのでは」といて裏マニュアルを見せたのです。元大使は「ああ、なつかしい」という反応で、それを認めました。
  「元外務省職員が裏マニュアルを書いたことを認めた」と言う記事を1面トップで書きました。そこで外務省も、ようやく存在を認めます。しかし、国会議員にすら開示しませんでした。そのため琉球新報は、A4版・159ページの全文書を、新聞13面を使って掲載したのです。「永久機密文書・無期限マル秘」という刻印が押されています。外務省は神経をとがらせました。しかし県民、読者に全てを知らせるべきだと考え、全文掲載しました。外務省からは圧力がかかりました。
  「日米地位協定の考え方」は、1973年に作られました。これは沖縄返還によって、日米安保条約が想定していなかった大規模な基地返還が一気に行われる。そうした事態にそなえて、地位協定の解釈をきちんとするためとうのが、当事者たちの証言です。
 沖縄に作られた米軍基地を、日米安保条約と地位協定は想定していない。通常の解釈では、立ち行かない事態が起きることを想定して73年に作られたのです。
 形式的には、沖縄返還は日米地位協定の適用を受け、「本土並み」だと言われました。しかしそれは形式的な平等に過ぎず、実質的には基地の過重負担を解消する意味合いを、地位協定は果たさない。そうした構造が、72年の復帰以来続いているのです。

 ここで、05年に海兵隊のヘリコプターが、沖縄国際大学に墜落したときの映像を見てもらいます。
(映像開始) (映像終了)

 沖縄国際大学に海兵隊のヘリコプターが墜落したときに、沖縄の方言で「わじわじ」というのですが、いまでも怒りを覚えます。私が現場で取材をしているときにも、兵士5人が立ちはだかって現場を撮らせない。取材の途中で事故の原因が、後部の尾翼のローターが完全に脱落し、錐もみ状態になったヘリコプターが墜落したことがと分かりました。後部のローターがポッキリ折れてしまう、ヘリの事故でもめったに起こらないような事故でした。そのローターを写真に撮ろうとしたのですが、米兵が立ちはだかりました。私は飛んだり、はねたり、奇怪な行動をして、米兵はおそらく「この記者は頭がおかしくなったのでは」と思ったのでしょう。米兵がひるんだ隙に、数枚の写真を撮りました。
 この事故は、なにを意味しているのでしょうか。在沖米軍は、地域コミュニティーとの親近感を高める、そのためにも犯罪を起こさない、ボランティア活動に参加するなどの「良き隣人政策」を掲げています。
 しかし自らの軍隊が有事に陥ったとき、例えば「9.11」直後には、基地に近寄る者は銃で威嚇しました。今回は米軍の財産であり、軍事機密であるヘリが墜落し、その機密が外に漏れる恐れがある。軍事機密を、一般の日本人には絶対に触れさせないように現場を封鎖したのです。純然たる民間地です。自治の確立している大学構内です。そこに土足で踏み込んで現場を封鎖する。沖縄県警や消防にも、現場検証すらさせない。大学の職員や学生も強制的に排除する。そこに、有事や危機には、軍事優先の牙が、一瞬にして剥かれる。その姿が明らかになったのです。
 当時の外務省政務官であった荒井正吾・参議院議員(自民)が、状況を視察するために大学を訪れました。荒井外務省政務官は、沖縄県警の警察官が遠巻きに米軍の現場検証を見守っているのを見て、「ここはイラクではない」「主権はどうなっている」といいました。航空機事故の、もっとも重要な物証であるヘリコプターに、日本の警察が触れることもできないからです。しかし1週間後に外務省は、「日米地位協定上認められていないわけではない」と、意味の分からない理由をつけて、米軍の行為を正当化してしまいました。地位協定上は問題が有り、権限外のことを行った米軍の行為を、外務省は短期間で追認してしまったのです。

 1968年の九州大学での米軍機墜落、1977年の横浜緑区でのF4ファントムが墜落して母子3人が亡くなった事故のとき、89年に普天間基地のヘリコプターが愛媛県伊方原発から1キロの地点に墜落したとき。この3つの事故では、地元の消防・警察が入り、共同の現場検証が行われました。そうした前例がありながら、今回の沖縄の事故で外務省は、米軍の行動を最初から正当化しました。本土の3つの事故では認められた共同の現場検証が、なぜ沖縄では認められないのか。一切の言及はありませんでした。

 「日米地位協定の考え方」に見られる地位協定のウラ解釈。地位協定が想定していない行動を米軍がした場合に、外務省はそれを正当化する解釈を積み重ねてきた。国民の目からうかがい知れない解釈が積み重ねられた、その一つの結果が、ヘリ墜落の際の対応に現れていると思います。「日米地位協定の考え方」の中には、耳や目を疑うばかりの、さまざまな形の米軍追従の判断が、条文解釈上の様々な実例の中で示されています。

 一つの実例を紹介します。復帰から2年後の1974年に、伊江島の米軍射爆場で、Yさんという青年が草刈をしながら、迫撃砲の破片を拾っていました。スクラップを生活の糧にしていた時代です。草刈していたのは、基地内の黙認耕作地でした。そこに突然あらわれた米兵2人が乗ったジープがYさんを追い回し、米兵はYさんが逃げ回るのをあざけり笑いながら、最後には信号銃で撃ったのです。Yさんは腕の骨を折る重傷を負いました。
 公務外(勤務外)の米兵による発砲事件です。しかし当時の外務省は、米兵を日本が裁く第1次裁判権を放棄してしまったのです。裁判所・司法当局の判断が無いままに、日本政府の、日米関係が良好・穏便に進むことを最優先しての判断した。この件に関して「日米地位協定の考え方」は以下のように書いています。「行政府限りで裁判権不行使を決定し、それにより検察当局および裁判所を拘束しえるかという問題がある。この問題については、いまだ国会で取り上げられたことがなく、政府の考えを明らかにすることを、余儀なくされるに至っていない」。
 政府の判断だけで裁判権を米国に渡したことを問われた場合に、日本政府は答えるすべがないことを書いています。それでも米国との関係を優先して、第1次裁判権を放棄しているのです。この文書を読んだYさんは、「国は裁判権を放棄したから保証金もなくなると脅して、100万円の保証金での手打ちを強要した」「あれは何だったのか」「国会で徹底的に追及してほしい」と言っています。
 自国民が被害にあった殺人未遂事件の裁判権でさえ、米国との関係維持で放棄してしまう。これが、沖国大でのヘリ墜落を正当化する判断につながっていくと思います。米軍優位の解釈を積み重ねる体質が、いまも維持されているということは明確です。非常に大きな問題です。

 地位協定は米兵が事件を起こした際に、特に性暴力事件を起こした際に、クローズ・アップされます。しかし事件が無いときには問題がないのか。そうではありません。様々な形で、基地周辺に住む人々の人権や生活を蝕んでいるのです。

 今回の事件を受けて高村外務大臣は、凶悪事件を起こした兵士が、起訴前でも逮捕状が出れば日本側に身柄が引渡されることをあげて、「世界で最も進んだ協定」と国会で答弁しました。この措置は運用改善の一環であり、条文改正がともないません。米国側の好意的供与に基づく措置です。米国が裁量を握っている現状には、変わりありません。実際に、01年に海兵隊少佐がフィリピン人女性をレイプしようとした未遂事件では、未遂であること、本人が否認していることを理由に、逮捕状が出た後も米軍は沖縄県警に身柄を引渡しませんでした。
 いま各党から出されている改定案では、即時の身柄引き渡しが入っています。これは米兵事件を防ぐ観点からも、評価できる点です。

 米軍の演習について話を移します。中国山地、特に広島県の山間で、戦闘機による低空飛行訓練が、施設間の移動という名目で行われています。03年・04年・05年には、街中の保育園から70メートルくらいの距離で、FA18ホーネットが低空飛行で通過しました。この時には、保育園の子どもたちが、泣き叫びながら逃げました。また戦闘機の衝撃波で、太陽熱温水器のガラス面が砕け飛びました。そうした訓練が日本では許されています。これは、訓練をともなった施設間移動を認める日本政府の地位協定解釈に問題があります。
 ドイツやイタリアの地位協定で異なります。ドイツは、1993年にNATOの地位協定を補足するボン協定を改定しました。米軍をはじめ外国人の基地に対して、ドイツの国内法を遵守させる、基地返還時の環境浄化責任を義務付ける、訓練の弊害や環境問題が見つかった場合には自治体基地内への立ち入り調査権を認める――などが特徴です。しかし日本では、排他的管理権の名目で、基地内の調査はおろか、環境浄化の義務さえありません。欧米とは歴然と差が有るのです。
 イタリアでは、米軍基地はイタリア軍司令官が管理しています。米軍の訓練・演習・飛行計画・年間スケジュールなど、すべてを米軍司令官からイタリア軍司令官に渡して、米軍の訓練情報を、イタリア軍が把握できるシステムになっています。日本政府は、いま飛んでいる米軍機が、訓練なのか任務なのか、まったく知りません。
 キャンプ・ハンセンという基地では、集落から200メートルくらいしか離れていない射撃場で撃たれるライフルや迫撃砲の音が、一日中鳴り響いています。しかしどの部隊が、どのような訓練をしているのか。日本側には通告されません。基地に接している住民にも分からない。地位協定の改定を考える場合には、日本の基準と、欧米の基準が、なぜこれほど異なるのか。そのことを徹底して考える必要があります。そこを追及し、正していく視点が大切です。

 米軍再編にともない、沖縄では様々な基地の返還が予定されています。沖縄側は、基地返還に備えていかなければなりません。ベトナム戦争・アフガン戦争・イラク戦争と、米軍の出撃拠点になった沖縄の米軍基地の中には、米軍しか使用しない様々な有害物質を大量に吐き出してきました。それが海に流れたり、地中に埋められたり、環境汚染は復帰後だけでも数百件です。基地内をカウントすれば1000件を超えるとの意見もあります。

 そうした中で基地が返還されたときに、土壌や地下水から、何が出てくるのか分からない。返還される米軍基地は、爆弾を抱えているのです。返還後に沖縄の自治体や日本政府が汚染を調査し、もし汚染されていれば除去に時間がかかり、跡地利用を進めるのが遅くなります。地主や自治体には、何の利益も生まない期間が続くことになります。基地返還を考える上で、環境問題は重大な課題として横たわっています。ドイツやイタリアは、先進的な環境協定を持っています。

 韓国はどうでしょうか。身柄の引き渡しでは、日本が進んでいる部分があります。しかし環境問題は別です。米軍再編の一環として、在韓米軍基地の54パーセントの返還が進んでいます。米韓の協定はSOFAですが、2001年・2002年に起きた様々な米兵犯罪の中で反米国民世論が盛り上がり、米国は改定に踏み切りました。韓国では、基地の返還後に汚染が見つかれば、米軍が浄化責任を負うとされたのです。その予算は、在韓米軍が毎年積み立てた基金から拠出することになっています。各国の地位協定の良い部分を集めて、日米の地位協定を改正するという視点が、重要ではないでしょうか。

地位協定の弊害は、沖縄だけが被っているわけでは有りません。日米の軍事融合が進む中で、自衛隊基地での米軍の訓練、米軍基地での自衛隊の訓練が進みます。日米の共同訓練が進めば、これまでは米軍と関係なかった地域にも、米軍が来て、様々な事件・事故が、全国的に拡散する可能性があります。
 いま地位協定の改正については、渉外知事会(基地所在自治体の知事のあつまり)が改定要求を出しています。また全国47都道府県のうち30近くでは地位協定改定の決議が採択されています。17くらいではまだですから、採択に向けて動きを作らなければなりません。04年・05年ころには自民党の中にもプロジェクトチームができて、見直しの動きがありました。しかしいまは、小さくなっています。事件が起きると、野党からの追及を受けるが、政府・外務省は「改正」というパンドラの箱を開けたくは無い。今回の事件を受けて、各党が、ハードルの高い改正要求を出しています。与野党を超えた、政治課題として押し上げていけるのかが問われています。
 連合も、地位協定改定に向けて、大きな大会を開く予定です。青年会議所の中でも、運動に取り組んでいます。
 一つ一つは小さくても、この課題を押し上げていくことができると思います。様々な団体が手をつなげて、地位協定の改正に向けたうねりを強めましょう。

※上記は録音テープをもとに、平和フォーラムが書き起こしたものです。文責は平和フォーラムにあります。



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