【解説】安倍内閣のもとで進む、日米安保と自衛隊の強化
第166国会(通常会)が7月5日、終了しました。政局は、7月29日投票の参議院選挙に向かって動き始めました。今回の選挙では、「年金問題」が大きな争点になっています。しかし、安倍内閣のもとで、憲法改正・日米軍事同盟強化・自衛隊強化が進んでいることも忘れてはいけません。ここでは安倍内閣成立以降の、日米安保と自衛隊に関する動きをまとめてみました。
1.安倍内閣で成立した法律
安倍晋三内閣は、小泉内閣の後を受けて06年9月26日に発足しました。安倍内閣のもとで行われた第165回国会(06年9月25日〜12月15日)と、第166国会(07年1月25日〜7月5日)では、自民・公明の両党によって、改正教育基本法、改憲手続法、教育関連3法など、戦後民主主義を根底から否定する法律が強行的に成立させられました。こうした中で、米軍・自衛隊に関しても、改正テロ特措法、改正防衛庁設置法、米軍再編特措法、改正イラク特措法が強行成立させられています。
@改正テロ特措法(165国会・10月27日成立)
アフガニスタンで対テロ戦争を戦う米軍と同盟軍の艦船に対して、海上自衛隊が無料で燃料補給を行う法律です。米軍によるアフガニスタン侵攻直後の2001年に2年間の時限立法として成立。その後、2003年に2年間、2005年に1年間の延長を行い、今回の改正で更に1年間延長します。この法律によって、海上自衛隊の補給艦1隻・護衛艦1隻が、常にペルシャ湾地域に展開しています。海上自衛隊が無料で提供した燃料は、米・英・仏など11カ国に対して約200億円(06年9月まで)です。
A改正防衛庁設置法(165国会・12月15日成立)
この法律によって防衛庁は07年1月9日から、防衛省に移行しました。また海外派兵が自衛隊の「付随的任務」から「本来任務」に格上げされました。久間章生衆議院議員は、初代の防衛大臣になりましたが、長崎への原爆投下は「しょうがない」発言によって、防衛大臣を辞任した初の議員になりました。
B米軍再編特措法(166国会・5月22日成立)
日米両国政府が合意した在日米軍再編にかかる費用のうち、沖縄に駐留する海兵隊とその家族が、グアムに移転するための費用7000億円と、米軍再編による基地強化を受け入れる自治体に対する交付金1000億円を支出するための法律です。米軍が米国領内のグアムに基地を作るのに、日本がお金を出す取り決めは、日米安保条約にも地位協定にもありません。また自治体への交付金交付に際して、基地受け入れを前提にするのは、地方自治に対する侵害です。また在日米軍再編に関して日本が支払う費用は、総額3兆円と言われていますが、細目が明らかになっているのは上述の7000億円と1000億円のみで、他の2兆2000億円については国会での審議すらされていません。
C改正イラク特措法(166国会・ 6月20日成立)
米軍のイラク戦争を支援するため、自衛隊を派遣する法律です。03年7月に4年間の時限立法として成立しました。今回の改正で2年間延長されます。派遣の主力であった陸上自衛隊6000人は、06年7月に完全撤退しました。現在は航空自衛隊のC130輸送機3機と隊員200人が、クウェート・イラク間で米同盟軍と国連関連の物資輸送を行っています。
2.市民への敵対
自衛隊が市民を守る組織ではなく、市民に敵対する組織であることが、2つの事件によって明らかになりました。
@海上自衛隊掃海母艦「ぶんご」を辺野古沖へ投入(5月18日)
沖縄県名護市辺野古沖では、新基地を建設しようとする防衛施設庁と、基地建設に反対する地域住民との対立が続いています。防衛施設庁は5月18日、基地建設の事前調査を委託した民間業者とともに、海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」と海上自衛隊の潜水士を投入しました。国と周辺住民の対立に、戦後初めて、自衛隊が投入されたのです。防衛施設庁は海上自衛隊を投入した法的根拠を、「国家行政組織法第2条第2項の精神を踏まえた、官庁間協力」としています。
A陸上自衛隊・情報保全隊による、平和運動監視活動が発覚 (6月6日)
陸上自衛隊・情報保全隊が、自衛隊のイラク派兵に反対する市民運動や平和運動を監視していたことが、明らかになりました。国家権力による市民の監視は、憲法で守られた基本的人権の侵害にあたります。しかし、平和運動・市民運動の抗議に対して、防衛省・自衛隊は、監視活動は法律の範囲内としています。
3.米軍再編の開始
日米が合意した在日米軍再編に基づく訓練移転や、基地強化が始まりました。
@米軍戦闘機の第1回移転訓練を実施 (3月6日)
日米政府は、米軍航空基地の騒音被害を軽減するために、米軍の訓練を自衛隊基地に移転することで合意しました。嘉手納基地・三沢基地・岩国基地の戦闘機の訓練が、年15回、全国6ヶ所の航空自衛隊基地に移転することになります。その第1回目の移転訓練が3月6日、嘉手納基地のF15戦闘機が、福岡県の築城基地に移転して行われました。しかし訓練移転中の嘉手納基地は、騒音が軽減されるどころか、F22が暫定配備されていたことにより、過去最悪水準を記録しました。
A航空自衛隊がミサイル防衛のためのPAC−3の配備開始 (3月29日)
日米政府は弾道ミサイル防衛(MD)を、協力して推進することで合意しています。自衛隊側のミサイル防衛の第1段として3月29日、埼玉県の航空自衛隊入間基地に、PAC−3ミサイルが配備されました。
4.自衛隊の内部からの崩壊
戦争する軍隊への準備が進む中で、自衛隊内部の崩壊が始まっています。最近では汚職とセクハラの2つの事件が明らかになりました。
@女性自衛官がセクハラで国を提訴 (5月8日)
北海道の自衛隊に勤務する女性自衛官が、男性自衛官からセクハラを受けました。上司に相談したところ、女性自衛官の側が退職を強要されたため、国を提訴し裁判になりました。またこの問題に関連して社民党の辻元議員が国会で質問したところ、99年から05年までの間に、自衛隊内ではセクハラに関する相談が380件もあったことが判明しました。
A陸上自衛隊1佐と防衛産業メーカーの贈収賄が発覚( 6月22日)
陸上自衛隊・装備品調達部門の幹部と防衛産業メーカーとの、装備品の納入をめぐる贈収賄が発覚しました。同幹部は現金・タクシー券・ゴルフや飲食接待を含めて、数百万円を受け取っていたとのことです。同幹部はパチンコ・パチスロなどのギャンブルで消費者金融に数百万円の借金があり、受け取った現金はギャンブルと借金返済に注ぎ込んでいたようです。
5.閣僚の不見識発言
自民・公明の与党による強行な国会運営とともに、外務大臣や防衛大臣の不見識な発言も飛び出しています。
@麻生太郎・外務大臣(10月18日・国会)
「隣の国が(核兵器を)持つことになった時に、(日本が核武装の是非を)検討するのもだめ、意見の交換もだめというのは一つの考え方とは思うが、議論しておくのも大事なことだ」
自民党の中川昭一・自民党政調会長が10月15日に民放のテレビ番組で、「選択肢として核(兵器の保有)ということも議論としてある。議論は大いにしないと」と発言。国会でそのことを問われての答弁でした。
A麻生太郎・外務大臣(6月5日・国会)
「沖縄が爆撃されたことに対し、沖縄の米軍基地から攻撃するというときにはあり得るのではないか」
在日米軍出撃などの際に求められている「事前協議制度」の適用例について問われ、他国軍による沖縄侵略を挙げました。日本が攻撃を受ける事例として簡単に沖縄を上げることに、沖縄の人々から強い批判を受けました。
B久間章生・防衛大臣(11月24日)
政府が非核3原則で禁じている核兵器を搭載した米軍艦船の日本の領海通過について、「緊急事態の場合はやむを得ない」と答弁。災害時などを例に上げて、事後報告でもかまわないとの見解を示しました。これまでに政府は、核搭載艦の領海通過は、核の国内持ち込みにあたるとして、事前協議で拒否するという立場をとっていました。
C久間章生・防衛大臣(6月6日・国会)
「(F22は)いい戦闘機」
2月から5月にかけて嘉手納基地に一時配備され、航空自衛隊の新規購入の選択対象にもなっているF22について性能を聞かれて、「いい戦闘機」と発言しました。しかしF22は、騒音が大きな問題になっていました。
D久間章生・防衛大臣 (6月7日)
「マスコミだって写真をパチパチ撮っている。取材が良くて、自衛隊だと駄目だという法的根拠はない」
陸上自衛隊情報保全隊による市民団体の写真撮影について、記者から問われての回答。最高裁の判決では、国家権力による個人の容ぼうが特定できる写真撮影を禁じています
E久間章生・防衛大臣(6月30日・講演会)
長崎への原爆投下は「しょうがない」と発言。
この発言が問題となって、防衛大臣を辞任しました